俺は、君のためにこそ死ににいく2022 公演情報 劇団夜想会「俺は、君のためにこそ死ににいく2022」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    第一幕90分休憩15分第二幕45分。
    〈月組〉
    2007年当時、現役都知事である石原慎太郎が製作総指揮と脚本を兼ねて話題となった映画の舞台化。映画の内容はイマイチだった記憶。
    “特攻の母”と呼ばれる鳥濱トメさんを題材にした作品は多い。『帰って来た蛍』シリーズ、『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』、高倉健主演映画の『ホタル』。
    宮川三郎少尉「俺、心残りなんて何にもないけれど、死んだらまたおばちゃんのところに戻って来たい。そうだ、蛍になって帰って来るからね。」
    光山文博少尉(卓庚鉉〈タク・キョンヒョン〉)「おばちゃんのような良い人は見たことがない。自分にも分け隔てなく接してくれた。ここにいると朝鮮人であることを忘れてしまう。長い間、親身に世話をしてくれて本当に有難う。実の親も及ばない程だった。」
    勝又勝雄少尉「おばちゃん、人生50年と言うけれど俺の余した30年分の寿命はおばちゃんにあげる。おばちゃんは人より30年余計に生きてくれよ、きっとだよ。」

    冒頭、“特攻の生みの親”大西瀧治郎海軍中将(名高達男氏)の司令部での決断が描かれる。「一刻も早く講和を結んで戦争を終わらせないといけない。少しでも良い条件で講和を結ぶ為には、一度でも敵に勝利し追い落とす必要があるのだ。最早、手段は選べない。」(一撃講和論)。
    こうして始まった「神風(しんぷう)特別攻撃隊」、250キロ爆弾を搭載した戦闘機で連合国の艦船に体当りする自爆攻撃、十死零生。
    しかし戦局は一向に好転せず、時間稼ぎの捨て石としてのみ特攻は続いた。死者数約4000名。
    「コンコルドの誤謬」と云う言葉がある。それまでに費やした資金や労力が勿体無いと無益なシステムにしがみつき、かえって損失が拡大していくこと。「一億総特攻の魁となって頂きたい」との言葉で出撃させられた戦艦大和の水上特攻などその最たるもの。沖縄に出発した翌日に撃沈され、乗組員3332人の内、生還したのは276人のみ。

    歴史学者の有馬学氏の文章を引用させて頂く。『・・・特攻はもはや戦術ではなく、崇高な行為を続ける儀礼的なものへと変わっていった。犠牲的な行為が日本人の精神性の高さを示すという考え方が支配的になり・・・』。
    まさに宗教儀式のように若者達を機械的に殺していくシステム。
    上原良司大尉「自由は人間性なるが故に、自由主義国家群の勝利は明白である。日本は思想的に既に敗れているのだ。何で勝つを得んや。」
    「権力主義、全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。」

    鳥濱トメ役の石村とも子さんが好演。歩き辛い大きな下駄を履いて舞台を駆ける。
    その娘、鳥濱礼子役の山木コハルさんが綺麗だった。

    自分は光山少尉のエピソードに思い入れがあり、毎回考えさせられる。

    ネタバレBOX

    のりピーはチョイ役だった。まだ若き特攻隊員の妻を演じられる可愛らしさ。
    名高達男氏もまさに特別出演といった感じで、冒頭とラストだけ。

    国の為に家族の為に愛する人の為に、自分の命を犠牲にしてもいいと陶酔するヒロイズム。人間は常に何かに酔っ払っていたい生き物。戦争、宗教、政治運動、恋愛、自己実現、芸術etc...。「死んでもいい」とまで思い詰めることのできる陶酔に本能的な憧れをもつ。そこまで純粋にのめり込めたら清々しいだろうな、と。逆にその酔いから醒めると、余りに非論理的で幼稚なシステムに洗脳され支配されていた自己に恥ずかしさと怒りを覚える。
    特攻隊への畏敬の念と同時に、愚かな軍部の狂気に玩具にされた彼等を英雄視してはいけないとも思う。そんな複雑な相反する感情を併せ持っている日本人。『七人の侍』でさえ公開当時、旧日米安全保障条約の締結の最中、非難を浴びに浴びた。(侍=米軍)。二度と戦争を起こさない国にする為に一体何をするべきか?家父長制を否定し国家を敬愛することを否定、否定に否定を重ね合わせた挙げ句、反動として反日教組の風潮が出来上がっていく。結局人心のコントロールなど出来ないのだ。
    「死ぬことが運命ならば、生き残ることも運命ではなかろうか?」

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    2022/09/18 09:48

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