実演鑑賞
満足度★★★★
死ぬ程面白い。本当に才気が実体化して見える位に圧倒された。チェコの国民的作家であり、SFの礎(日本だと手塚治虫だろう)、カレル・チャペックの18年間の物語。これが何の前知識も必要ない位、面白いドラマに。天才的なシナリオ。
第二次大戦前夜、ナチス・ドイツに併合される前のチェコスロバキア共和国が舞台。誰もがウクライナとロシアを連想せずにはいられない。
シリアスとコミカルのバランスが絶妙で、あれよあれよと言う間に彼等の織り成す人間模様に夢中。
役者陣の配役はズバリ。一人ひとりの内面まで投影したかのよう。
身体の弱い劇作家カレル・チャペック役は二條正士氏。加瀬亮似で格好好くコミカル。
カレルの永遠のマドンナ、野心に燃える女優・オルガ役は今泉舞さん。今回もまた素晴らしい。この人一人である女性の半生の抒情詩を謳い上げてくれる。
同居しているカレルの兄、画家のヨゼフ役は根本大介氏。天才で世界中に名を馳せていく弟への嫉妬心に苛まれる。後にアンネ・フランクと同じナチスの強制収容所で獄死。
ヨゼフの妻、翻訳家のヤルミラ役は岡崎さつきさん。これがまた巧い。複雑な内面を顔の細かな表情で客席に伝える。
その娘、アレナ役は山村茉梨乃さん。赤ん坊から少女まで時の経過を感じさせる。
カレルの親友、軍医で作家のランゲル役は岡田篤弥氏。ハナコの菊田竜大(たつひろ)似。銃を取らざるを得ないユダヤ人の葛藤。
チェコスロバキア共和国の初代大統領で現在も紙幣になる程の国民的英雄・トマーシュ・マサリク役は井上一馬氏。一際重厚で作品の格調を高める。
その息子の外交官、ヤン役は柳内(やない)佑介氏。オルガの恋人でもある。
そして作品の鍵を握る謎のドイツ系女教師ギルベアタ・ゼリガー役は勝田智子さん。彼女の登場で作品世界は不安と妄想と幻影と恐怖に蝕まれていく。
クローネンバーグやテリー・ギリアム、ティム・バートン作品を思わせる不安神経症のヴィジュアル化。カレル・チャペック自身が己の作品内に引きずり込まれていくような不安。何処からともなくピタピタと迫り来る“水の足音“。
絶対に観ておいた方が良い作品。