ドードーが落下する 公演情報 劇団た組「ドードーが落下する」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    令和版『男女7人夏物語』、コミカライズなら根本敬御大に、主題歌はBJCの『ディズニーランドへ』。
    ラストが痛快。タランティーノ製作総指揮のオムニバス映画『フォー・ルームス』風味。ブライアン・デ・パルマの『ファム・ファタール』を観た後の昂揚に近い。こりゃ酷い、最高だ!

    売れない漫才コンビの片割れ、夏目(平原テツ氏)はファンの子と結婚しその実家に居候、ビストロでバイトの38歳。イベンターの信也(藤原季節氏)や他のお笑い芸人、ちょっと売れているアイドルなんかとワイワイ集まるのが憂さ晴らし。「いつか世間に見つかってやる」を合言葉に日々をやり過ごしている。そんな彼が突然失踪した3年前からの話。

    夏目役が平原テツ氏だと判らずに、浜野謙太?と思って観ていた。知ってびっくり。この役を演るのはキツイ。凄い俳優。今作が代表作になるのでは。
    安川まりさんが松岡茉優っぽくて可愛かった。
    秋乃ゆにさんのキャラもリアル。

    『ルージュの伝言』のカラオケシーンが美しい。松任谷由実の明るく躍動的なリズムとメロディーで賑やかにノリまくる面々、それとは裏腹のメランコリックな歌詞が遠く懐かしき記憶を刺激し鈍い痛みが走る。

    言葉一つ足りない位で全部壊れてしまうような
    か弱い絆ばかりじゃないだろう
    B'z 『HOME』

    友情なんて言葉では括れない、信也と夏目のギリギリの関係。「お前は俺の人生の登場人物であり、俺はお前の人生の登場人物なんだ。そう簡単にこの話を終わらせてなるものか!」涙ぐむ藤原季節氏、言語化出来ないエモーション。観ている誰もが今までに喪失した人間関係を想い起こしヒリヒリする。

    唇噛み締めて自分の無力さになす術もなく泣いた悔しさ
    身体半分持ってかれるような別れの痛みとその寂しさ
    amazarashi『奇跡』

    タイトルのドードーとは、モーリシャス島に生息していた鳥。天敵のいない楽園のような孤島で繁殖していた為、空も飛べず警戒心もない。人間の上陸によって乱獲され、83年で絶滅した。
    絶滅すべき種の前で為す術もなく、それでも必死に無意味に足掻く。

    間に合うかも知れない 駄目かも知れない
    約束した訳じゃない 会えないかも知れない
    橘いずみ『まにあうかもしれない』

    ネタバレBOX

    中学の頃から統合失調症を薬で抑えてきた夏目。薬を飲まなくなって幻聴が聴こえ出す。奇行を重ね、警察に捕まり強制入院。コンビも解散し、奥さんとも離婚。売れない病気持ちの芸人を相手にする人の方が珍しい。

    『アル中地獄(クライシス)』という実録本の中に、著者(邦山照彦氏)が精神病院に入院している時のエピソードがある。脳味噌が吹っ飛ぶ幻覚に襲われた著者、必死に床に這いつくばり泣きながら破片を拾い集める。他の二十数名もの患者が三時間近くそれに協力してくれる。他人の幻覚に親身になって付き合ってやる優しさ。

    「ちゃんとやらなきゃ、でしょ。」
    クライマックス、夏目と信也のお馴染み不毛な敬語の口論が開幕。普通なら途中でタメ口に変わり感情をぶつけ合う汚い言葉の怒鳴り合い、その展開をスレスレで回避。こういうセンスがずば抜けている。

    最後まで藤原季節氏が善人だったのでホッとした。久方振りに彼の役に好感を持てた。
    縁を切る側だったり切られる側だったり、必ず誰もの胸が痛み出す。

    欲を言えばキャスティングをオールスターで固めて欲しかった。演劇ファンが唸る豪華配役でこそこれをやるべき。キャスティングから作品だと言わんばかりに野田秀樹系の上客を集めに集めてやるべきネタ。広瀬すずとか無駄に使ってこれをやる狂気。

    無論、自分のような客層に受けても未来はない。次作は生真面目な女性客と真摯に向き合って欲しい。

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    2022/09/25 21:42

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