ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

181-200件 / 627件中
白眉濛濛

白眉濛濛

海ねこ症候群

王子小劇場(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

絵を描くことが大好きな主人公・坪田実澪(みれい) さん。売れることや評価されることは余り気にしていない。ある日、街なかで画商の河合陽花(はるか)さんに声を掛けられる。彼女の主催する絵画のオークションを見学することに。そこでは物凄い額で絵が取引されていた。発奮した主人公、画商の所有するシェアハウスに住み込んで絵の制作に打ち込むことに。

画商の河合陽花さんを『坊っちゃん嬢ちゃん』のマタハルさんだと誤解していた。どちらもイケメン女子。
主人公の坪田実澪さんはマリアのイーちゃんが物真似する小雪風味の愛嬌でチャーミング。

オークションのシーンがダンスでテンポよく面白い。シェアハウスの世話係・新里乃愛さんがまだ二十歳!「忙しい忙しい」とそこら中をはたきながら、雀を何羽も乗せる。かなり巧い役者だった。オレンジの家政婦・神尾りひとさんがキュート。劇団の主催であり、司会者役の作井茉紘さんも目立つ。
熊本や石川から大きな花束を持って駆け付けるファン達にRespect。

ネタバレBOX

物語のテイストが『 U-33project』っぽい。だが作品に哲学が足りない。高額で絵画が取引される様は価値観の本質の風刺だと思うのだが、もう一歩突き詰めたい。

好きなことを好きでいられる才能というものがあると思う。やっぱり人間、飽きてくる。昔、夢中だったものをふっと思い出した時に、ずっと好きのままだった奴等にRespect。人間の嗜好性なんて変わっていって当然。それでも螺旋のようにまた巡り逢うことも事実。

シリアスなシーンが退屈。観せ方が下手。画商と主人公の出会いも適当。シェアハウスのくだりも意味がない。悪人を描けないのだろう。エピソードはぬるい友人関係ばかり。あやふやな言葉とあやふやな感情、全てすり抜けてしまうだろう。

画商の本当の目的は才能がないのにやめられない人間を見付けて諦めさせること。オークションで全く相手にされなかった主人公は踏ん切りが付いてやめる。だがしばらくするとまた描き出す。何故か?人は意味や理由があって生きている訳ではないからだ。ただ生きる。ただ描く。

※3日目に扁桃炎で信國ひろみさんが降板、作井茉紘さんがその日の二公演の急遽代役に。
4日目に他の出演者のコロナ陽性が判明し、以降公演中止。
独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【Team葉】

篠田美沙子さん目当てでこちらにしたのだが、ちょっと違った。主演の花房里枝さんが美人過ぎて、元乃木坂か何かだと思って観ていた。(実際は声優ユニット、elfin'〈エルフィン〉のメンバー)。物語は孤独な35歳の中年女性が「何故こうなったのか?」を過去と未来を行き来しながら妄想するもの。今作は美人が性格の悪さで孤立する話になってしまった。とは言え彼女の魅力で舞台は華やかに。老婆まで熱演してRespect。やたらワイン風ドリンクをガブ飲み。
天竺鼠の瀬下を思わせる堀田怜央氏とカラテカ入江を思わせる親泊義朗(おやどまりよしあき)氏のコンビが大活躍。
救いの手となる紳士のバーテン、小久保隼(じゅん)氏は朝倉未来の上地雄輔風味。
上之薗(かみのその)理奈さんもモテモテ女子を好演。

滅茶苦茶、鬱な『ブリジット・ジョーンズの日記』。『不思議の国のアリス』とだぶらせない方が良かった。

ネタバレBOX

10歳の誕生日、母が失踪。12歳の誕生日、祖父が逝去。13歳の誕生日、父が去る。その後も好きになった人は皆いなくなる呪い。そんな心を閉ざした自分と関わった男性は、悪戯電話ハフハフ男(HIDE-ChangeTheWorld-氏)と満員のエレベーターで髪に背広のボタンが絡まった松崎貴浩氏のみ。他には誰一人いないという苛酷な現実。
友達がいない、恋愛相手がいない、家族がいない。孤独で外堀を埋められていく女性の断末魔。

だが自分的には面白くなかった。演出だけでなく、オリジナルの戯曲も好きじゃないと思う。キャラが大声で馬鹿笑いのシーンばかり。効果的でなくただただ不快。必要なのはレクター博士、狂った精神分析医だ。
舞踊詩劇「田園に死す」・幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」

舞踊詩劇「田園に死す」・幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」

吉野翼企画

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/21 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

滅茶苦茶面白かった。前から一度はこの劇団を観ようと思っていた。勝手な先入観として閉鎖的な内輪受けのつまらなそうなイメージ。だがそれは全くの偏見、もっと早くに観るべきだった。疾走感、リズム感、サービス精神が段違い。思い入れたっぷりにたらたら演るのは寺山修司っぽくない。訳も分からぬまま、捲し立てるひとときの騒乱。一瞬の積み重ねだけがこの世の全て。やはり演出(音楽性)のセンスなんだろう。寺山修司の書いた詩をノイズで掻き鳴らせ。
構成・脚色・演出の吉野翼(たすく)氏は会場の絵空箱の店主でもある。好き放題、会場も使って楽しませてくれる。正しい寺山修司の面白さの伝え方。筋肉少女帯、石井輝男、澁澤龍彦・・・。サブカル連想ゲームの脇にはいつも寺山修司が突っ立っていた。(『田園に死す』はジョージ秋山の『告白』が元ネタなのでは?)

ラストのまさにクライマックスで地震、凄いタイミング。虚構と現実の壁が崩壊するのかと思った。
全員(ほぼ)すっぴんで現実サイドから虚構サイドを眺めるラストの演出が効果的。女優のすっぴんはどんな化粧よりも美しい。
ギターのなすひろし氏とキーボードの秋桜子(あさこ)さんのユニット『みづうみ』が生演奏。LIVEに行きたい位良かった。

開場時から、からくり人形のように寺山スローモーションを奏でる5人の女優。芹澤あいさん、井口香さん、内海詩野さん、福田晴香さん、村田詩織さん。

①幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」
原作はポーリーヌ・レアージュ(ドミニク・オーリーではないらしい)の『ロワッシイへの帰還』。1981年、寺山修司の監督した映画『上海異人娼館 チャイナ・ドール』を岸田理生がのぐち和美さんの為に1990年に戯曲化したものだそうだ。

ヒロインの小寺絢(こてらあや)さんが娼館に自ら入る。自分の純愛を無数の見知らぬ男に抱かれることで証明しようと。そこで彼女が目撃し体験したものとは!?

②舞踊詩劇「田園に死す」
寺山修司が自身の少年時代を舞台化。母親の呪縛に嫌気が差し、隣家の若妻と東京へ駆け落ちする約束。だがそんなものは嘘っぱちでしかない。何一つ上手く行かない現実、惨めな自身を背負ってよろよろと歩くのみ。

寺門祐介氏(現在の寺山修司)
多賀名啓太氏(少年時代の寺山修司)
キンカナさん(富田靖子の「さびしんぼう」風味の空気女)
中島猛氏(ブロッケンJr風味の逆関節男)
篠原志奈さん(母親)
制作&場内誘導の神崎ゆいさんも出演シーンあり!

こういう作劇を全面的に支持。面白かった。

ネタバレBOX

②恐山のイタコの舞踏シーンが最高。亡者達が変顔をしながら刻むド迫力の舞踏。

ステージ背面のシャッターが上がり、街角からガラスのドア越しに舞台を覗き見る出演者達。現実世界からするとこれは異質なお芝居でしかない。演っている役者達もこんな虚構にいつまでも付き合っちゃいられない。「ビール持ってきて!」
M.O.S.ヤングタウン

M.O.S.ヤングタウン

かるがも団地

SPACE EDGE(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

M.O.S.とは南大沢の略なのだろう。地元の馬鹿中学に入った主人公。馴染めなかった親友は不登校に。財力のある家に生まれた生徒会長が好き放題で学校を牛耳る。それに楯突いた兄は生徒会長に立候補する。そんな日々の中、学校では夜の放火騒ぎが起きていく。

主演の瀧口さくらさんが上戸彩に見えた。
その親友、樋口双葉さんは有村架純に見えた。
トンパチの主人公の兄、奥山樹生(いつき)氏は菊野克紀を思わせる。
主人公の母親、ラーメン屋店主、無線部などのキツいキャラばかり兼任するのは長井健一氏。流石に上手い。
中嶋千歩さんはバドミントン部の女なのだが妙に印象に残る。キャラの書き込みが多いだけに勿体無くもある。
ヒールの生徒会長・浦田かもめさんは奥菜恵に見えた。
大学生の北川雅さんは蒼井優に見えた。
大学生や校長の小日向春平氏は宮台真司っぽい。

Oasisの『Half The World Away』が似合うと思う。

ネタバレBOX

コメディとしては面白くなかった。ネタは『東京にこにこちゃん』っぽいのだが笑わせるまで詰められず。一人、軸になるキャラが必要。そいつに観客を背負わせて笑わせるべき。主人公はシリアス路線で。キャストはルックスの良い娘が多くて豪華。一つ一つのエピソードは住民達の疎外感と孤独感が溢れて悲しい。生徒会がどうのこうのは削って主人公の心象風景に焦点を当てた方がいい。中島らもの『僕が踏まれた町と僕に踏まれた町』のような。『いなくなれ、群青』みたいな話に出来ると思う。
R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/06/09 (金) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ワンツーワークスを観るのは今回で9本目。印象に残るのは『グロリア』、『鯨を捕る』、『私は世界』。
宮部みゆきは初期は読んでいたが、何かぬるくてハマれなかった。大林宣彦が映画化したのを観た『理由』だけが好印象。

今回も掴みは面白い。二つの家庭で二重生活を送る男(長田典之氏)。妻(みょんふぁさん)と娘(東史子さん)と息子(安森尚氏)、もう一つの妻(小林桃子さん)と娘(川畑光瑠さん)。彼がある日惨殺される。警察は娘(川畑光瑠さん)を取調室の隣の小部屋に呼び、マジックミラー越しにもう一つの家族と面通しさせる。

自分はみょんふぁさんのファンであることに気が付いた。
綾城愛里奈(えりな)さんが不快な馬鹿女を好演。

ネタバレBOX

人が殺されるシーンの演出が見事。血痕をイメージした小さく千切った赤い花弁のようなものが天井からパラリと降り掛かる。

宮部みゆきとこの作家(古城十忍)の相性はよくない。もっと高村薫とか重苦しい話が適している。人間のダークサイドこそを抉るべき。
彼女は赤川次郎みたいな読み飛ばせる軽さが人気なのだが、それを敢えてやるなら主眼を別にずらさないといけない。役割分担ゲームをカリカチュアライズして、この世の全ては“ごっこ遊び”ぐらいに引いて見せないと。父親の“ごっこ遊び”が許せずに二人ぶち殺し、疑似家族の三人も狙うなんて最早サイコパス。娘の異常性しか感じ取れない。警察の計画も、娘を自供自首させる為に大芝居を打つなんて漫画。もっとどうしても解明したい謎がないと成立しない話。

もっと言うと、殺される男(長田典之氏)の設定が意味不明。(原作もそういう批判が多いらしい)。女にだらしなく、手当り次第に浮気を重ねる。それとは別に見知らぬ誰かとネットで擬似家族ごっこをして楽しんでいる。実生活での心の渇きをネットで癒していたのか?父親の行動を監視し続けていた娘(川畑光瑠さん)はその疑似家族に嫉妬し殺意を募らせる。男が何を求めていたのかが判明しなければただの動機当てゲーム。凄く面白いネタなのだが見せ方を間違えている気がした。(事件発生までの見せ方が絶妙なだけに)。

余談だが、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが提唱したバギズム(Bagism) 。バッグ(袋)の中に入れば人間を外見や性別、人種や年齢などで差別することが出来なくなる。この状態での遣り取りこそが真の人間同士のコミュニケーションであると。
それを現実化したのがインターネット、例えば匿名掲示板であろう。理想の人間の交流の場に成り得ているか?現実は見ての通り。結局性善説で物事を考えるからおかしくなる。性悪説で考えないと世の中は悪くなる一方。LGBT法案の混乱もそこにあるのでは。逆に同性愛者への偏見を強くしてどうするのか?
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【STAY Ver.】
どすけべ前説 「ホンバンの前に」 寺園七海さん 今井未定さん
①「THE WORLD IS YONCHAN's」 河西凜氏 森下凜央(りお)さん
②「噛痕と飛べ」 今井未定さん 秋山拓海氏 寺園七海さん
③「愛(がない)と平和 -Bagism by Love&Peace.-」 岡村梨加さん 藤本康平氏
〈5分休憩〉
④「スーパーアニマル」 金田一央紀氏 小練(こねり)ネコさん
⑤「最後の奇蹟 最終形」 環幸乃さん 坂本七秋氏

①チェリ男こと河西凜氏は全世界のもてない童貞男の象徴とも言うべきピープルズ・チャンピオン。この役をやる為にこの世に生を受けたのでは。ヨンちゃんこと森下凜央さんは凄かった。こりゃ人気ある訳だ。童貞男のパンパンに膨れ上がったエロ妄想が具現化したようなルックス。今作を世界中の(精神的)童貞男に捧ぐ。面白かった。
④最高傑作。金田一央紀氏が全作品の中の間違いなくMVP。この作家は天才だ。現代の“あしながおじさん”の織り成す街角のささやかなメルヘン。都会でささくれだった心を潤してくれるようなひとときの安らぎ。小練ネコさんがまた素晴らしい。客席がドッカンドッカン沸いてうねった。凄く文学性も高い。これが観れただけで何の文句もない。
⑤「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」ならぬ「さようなら、全てのシアター(ホテル)・ミラクル」。『シン・シアター(ホテル)・ミラクル』のようなラスト。環幸乃さん&坂本七秋氏のキャスティングこそ最期にふさわしい。

帰りには隣の「レイスケバブ」でケバブラップ中辛(500円)を噛じれば満腹。なかなかこれからは行くこともなくなる。

ネタバレBOX

前説の今井未定さんがエロエロ。

①高校時代の憧れの女の子(森下凜央さん)と飲みに行った冴えない童貞男(河西凜氏)、目覚めるとそこはラブホで二人共半裸。酔っ払って何の記憶もないまま、興奮してパニクる。
森下凜央さんの佇まいや受け答えの感じが巧い。後半、無理筋の展開が残念。

②女漫才師(今井未定さん)がネタを書く為にラブホに籠もり、後輩のピン芸人(秋山拓海氏)に自分が怠けないよう監視させる。
無理筋の設定を成立させる為の論法が強引、イマイチのれない。

③金が媒介する男女の純愛。リアルを追求してボソボソ喋る二人。殆ど聞こえない、何とも言えない空間。地獄の底の御通夜みたいなムード。この退屈さの正体はナルシシズム。作家と役者が自分に酔っている。他人のナルシシズムを本能的に人間は嫌う。『出会って4秒で合体』ネタも空振り。
だが、この沈滞が次の作品の大爆発に繋がるという面白さ。

④援交に手を出して十年のベテランエロ紳士(金田一央紀氏)が一番のお気に入りのJK(小練ネコさん)に贈る人生応援歌。
言語への過剰な拘り、myルールに対する信仰にも似た敬虔な姿勢。快楽主義者だからこその理路整然と生きる男の哲学の揺れ。田山花袋の『蒲団』さえ思わせるラスト。昔、風俗に通いまくっていた知り合いのことを思い出した。自己分析的で理知的な駄目人間の詩。金田一央紀氏の乱雑に脱ぎ捨てられたセーラー服や靴下に対する愛情のこもった畳み方が美しい。フェティシズムへの畏敬。それに対する小練ネコさんの在り方が美しい。

⑤地球最期の日をラブホで過ごす見知らぬ二人。
ブルーハーツの『月の爆撃機』が主旋律。もっとレイ・ブラッドベリの『刺青の男』みたいにやらなきゃ駄目なネタ。設定がブレブレ。とは言え、「僕達を縛り付けて一人ぼっちにさせようとした、この世の全てに感謝します。2023年小劇場代表シアター・ミラクル!」みたいな気持ちにさせてくれた。
どうも有難うございました。
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【REST ver.】
どすけべ前説 「おし問答」 陽向さと子さん 渡邉晃氏
①シェヘラザード 環幸乃さん 今井未定さん 坂本七秋氏
②よるをこめて 陽向さと子さん 新井裕士氏 サラリーマン村松氏
〈5分休憩〉
③きゅうじっぷんさんまんえん 佐神寿歩(ひさほ)さん 木山りおさん
④クリーブランド 寺園七海さん 渡邉晃氏
⑤獣、あるいは、近付くのが早過ぎる 冨岡英香さん 後関貴大氏

シチュエーションがラブホ縛りの短編集。
③佐神寿歩さんと木山りおさんに尽きる。これだけで観る価値は充分ある。若き松坂慶子を思わせる佐神寿歩さんと自己肯定感ゼロのコミュ障・木山りおさんの対決は名勝負。どちらも光り輝きつつ、相手の存在を更に魅力的に高める理想的なプロレス。

寺園七海さんと岡村梨加さんの写真集2000円、ルームキーホルダー1200円、絶賛発売中。

寺園七海さんのTwitterからチケットを予約すると直筆のお手紙が頂けるのでお薦め。

ネタバレBOX

設定がラブホだからといって無理に下ネタを入れている感じ、イマイチ笑えないのが残念。逆に下ネタをタブーにする方がセンス。

摺りガラス状のバスルームから透けて見えるシルエット。

①代議士一族のお嬢様(環幸乃さん)が心を許せる女友達(今井未定さん)に昨夜の出来事を語る。
環幸乃さんのベッドシーンは衝撃的。見所は今井未定さんの様々な表情。座っているだけで存在感が凄い。

②インポの主任(サラリーマン村松氏)と女係長(陽向さと子さん)はラブホに部下(新井裕士氏)を呼びつけて相談する。
かなり下ネタで攻めた内容。新井裕士氏はラバーガールの大水洋介っぽいキャラ。陽向さと子さんは振り切っている。胸のしこりのくだりがよく聴き取れなかった。

③レズビアンの派遣型風俗嬢と客の遣り取り。
これは面白い。

④寺園七海さんが昔から好きだった男(渡邉晃氏)とラブホで過ごす最後の思い出。
映画『メジャーリーグ』の舞台でもあるクリーブランド。吉本ばななっぽい。

⑤巨大怪獣が東京を踏み荒らす夜、ずっと好きだった先輩(冨岡英香さん)を何とかラブホに連れ込んだ男(後関貴大氏)。
これは全く楽しめなかった。

男女の好きだとか好きじゃないとかだけでなく、ラブホで天下国家を論じるような狂った作家はいないのか?
風景

風景

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

なんだろ?そうでしょうよ。いいでしょうよ。

悔しくなる程の才能。演劇好きは早目にチェックしておいた方がいい。(まあ皆観てるだろう)。小説を書いても映画を撮っても賞は貰える筈。系譜としては小津安二郎なんだろうけれど、描き方が韓国映画っぽい。『ペパーミント・キャンディー』をホン・サンスが撮ったような。抑制の美学。暗転ごとに時間がかなり飛ぶ。これをやり切る力。

主演の安川まりさんが圧倒的。こんな女優がいたんだ!と驚いたが、結構『た組。』とかで観ていたようだ。彼女と母親(坂倉奈津子さん)、父親(用松〈もちまつ〉亮氏)のシーンが絶品。この遣り取りは永遠に観ていられる。
一歩間違えれば只々退屈の境界線上、断崖絶壁のギリギリの攻防を乗り切るのは役者陣の才覚のみ。
モルタル塗りされた灰色の壁が背後に無言で突っ立っている。

ある家族達が老いていく。子供を作るように親は諭す。

ネタバレBOX

祖父 亡くなる

長男 引きこもり
長女 離婚して不在
長女の元旦那 浅井浩介氏
次男 用松亮氏
次男の妻 坂倉奈津子さん
次女 不在

長女の息子 岡部ひろき氏
次男の息子 岩瀬亮氏
次男の息子の妻 鄭亜美(チョン・アミ)さん
次男の娘 安川まりさん
次女の娘・姉 鄭亜美(チョン・アミ)さん 二役
その旦那 早坂柊人氏
次女の娘・妹 青柳美希さん
その旦那 泉拓磨氏

多分こうじゃないか?との推測なので間違っているかも。

岡部ひろき氏の父親に対する丁寧な相槌が良かった。
鄭亜美さんは二役を区別させる為、次女の娘の時には胸元を開いた大胆な衣装のアイディア。

冒頭、兄のハンカチを意味有りげに見つめている安川まりさん。義兄への恋心なのか?と思ったがそういうわけでもなく、しかも実の兄。何だか気になる描写。

子供の頃、祖父に車に乗せられ祖父の兄の家へ一人連れて行かれたことを思い出す安川まりさん。養女にしたかったのか?とも思った。
​田園に死す

​田園に死す

劇団☆A・P・B-Tokyo

あうるすぽっと(東京都)

2023/06/01 (木) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

勿論、全く分からない。
主演の松本旭平氏は『ほおずきの家』で知ったが、かなり彼のファンが詰め掛けたようだ。
寺山修司は母親、寺山ハツとの母子関係をライフワークのように描き続けた。共依存と支配、“母地獄”とさえ称された歪な関係性。母殺し、駆け落ち、家出・・・、実際は47歳で死ぬ迄同居した。母親=自分自身、憎んで憎んでぶっ殺してやろうとしてもどうしても果たせない。自分との関係性。

話は自分の少年時代を美化して舞台化、その上演の途中で本人(浅野伸幸氏)がストップを掛ける。
「こんなのは本当じゃない。皆嘘だ。」
本当の少年時代を語る為に過去に遡行し、少年時代の自分(松本旭平氏)と向き合う。母殺しを果たして未来を変えることが出来るのか?

犬神サーカス団。空気女の元ネタは何なのか?寺山修司のオリジナルなのか?

ネタバレBOX

ラスト、全員が私服に着替えて池袋の街並みを再現する場面が良い。見世物小屋の休演日みたいな感じ。ろう者のMiCHiさんが手話で口上を述べるシーンがカッコ良かった。
壊れた風景

壊れた風景

劇団かに座

スタジオ「HIKARI」(神奈川県)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

台風で大雨警報の中、びしょ濡れになりながら集う人達。しかも別役実の不条理劇。

鳴海悦子さんと浅川こころさんの母娘が山の散策の途中、道に迷う。地図と実際の風景がどうも合わない。自転車を置いて軽い口論。そこにはピクニック用のレジャーシートが広げられ、ピクニックテーブルの周りにはありとあらゆる食材が用意されている。ポータブルレコードプレイヤーからは掛けっ放しの明るいクラシックが流され、今にも楽しい食事が始まりそうな様子。だが、誰もいない。
そのうちレコードは針飛びを起こし、同じ部分を無限にリピートし始める。イライライライラする不快感。和服姿の鳴海悦子さんはそれが気になってしょうがない。
そこにトランク一つで通り掛かるのは薬売りの三上和之氏、駅に向かっている。何十年も通った道だから間違える訳がないと地図を手に取り、現在位置を教えようとするもどうもおかしい。更に大会途中で道に迷ったマラソンランナーの村上達哉氏も現れ、喧々諤々の会話が延々と続く。いや、そもそもその地図がおかしいんじゃないか?と思いつつ。

永遠に続くような何とも言えない不毛な遣り取りは、第二幕から登場する夫婦(馬場大希氏と大谷友子さん)によって更なる加速を見、狂乱の宴の果てへと。

ネタバレBOX

ラストは演出の馬場秀彦氏が刑事役で登場して幕を閉じる。
正直、何かが間違っていると思って観ていた。浅川こころさんと村上達哉氏はもっと強烈な個性を出した方がいい。人間関係のプロレスをやっているのだからキャラ立ちさせないと見ていて退屈。遣り取りに感情が見えた方がいい。「ああ、こういう奴いるな。」と観客に内面を覗かせていった方が。
第二幕から勝手に他人の物に手を出して食いまくる流れになる為、食べ物をもっと美味そうな見栄えにするべき。劇の始めから、観客も演者もそれが気になって仕方がない程。一家心中の最後の晩餐にしてはヴィジュアルがしょぼすぎる。とにかくキンキンに冷えた飲み物を呷り、御馳走にむしゃぶりつく妄想を刺激させる。『千と千尋の神隠し』の両親が豚化するシーン、一度食い物に手を出したら止まらなくなる感じで。
どんどん壊れていく人間模様は『家族ゲーム』っぽい。もっと酔っ払って暴力的でよかったのでは。堰を切ったように各々の人間性の醜さを決壊させて欲しかった。
ココノイエノシュジンハビョウキデス

ココノイエノシュジンハビョウキデス

日本のラジオ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

[犬組]
作家に何か見覚えがあったが『ザ・フラジャイル/ライト』の人だった。
日野あかりさんを久し振りに観たが、こんなに美人だったか?と驚く程綺麗だった。(役柄もあると思う)。
箱馬で作った書棚に並んだ古書、日本人の文学全集が多い。
神経質そうな店主(宮崎雄真氏)、その弟(神山慎太郎氏)、目の悪い妻(日野あかりさん)、訪れる客(澤原剛生〈ごうき〉氏)。江戸川乱歩のような美しい文体で紡がれる物語。

萩原朔太郎のオノマトペを効果的に使用。
例えば、『猫』という短い詩。

『おわあ、こんばんは』
『おわあ、こんばんは』
『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』
『おわああ、ここの家の主人は病気です』

深夜の屋根の上、二匹の猫の会話の内容が自分のことを話しているように聴こえてくる萩原朔太郎。強迫性障害とアンビバレンス(両価感情)に長い間苦しめられた。

のをあある とをあある のをあある やわああ (犬の遠吠え)

とをてくう、とをるもう、とをるもう。 (鶏)

文学的な上品な会話の中に突如組み込まれるオノマトペの不安感。

澤原剛生氏は岡崎体育に似て、発達障害っぽい不自然さ。
何か増村保造っぽいな。日野あかりさんが若尾文子に見えてきた。
好きな人には堪らなく好きな世界。

ネタバレBOX

[鶏組]の方が、妹と女性客なのでオリジナル通り。弟と男性客だと設定に違和感がある。ひとさらいは女性のみを狙うべき。
大正から昭和初期の設定で構築し直したら、物凄い傑作が生まれそう。

エドワード・ゴーリーの『うろんな客』を友人の子供の誕生祝いにプレゼントしようとするパン屋で働く男。それもどうかと思うが。店主からプレゼントされた本は『甘い蜜の部屋』。森鴎外の娘、森茉莉の本。

日野あかりさんの最後の台詞、口の動きだけで何も聴こえない。果たして何と言ったのか?やはり、「ここの家の主人は病気です。」だろうか。

モデルはペーター・キュルテン。ドイツのシリアル・キラーでフリッツ・ラングの『M』という映画のモデルともされている。最終的に逮捕された原因は森で強姦した少女を生かして帰したこと。「俺の家を覚えているか?」「覚えていない」。
最後はギロチンで首を斬り落とされた。

多重人格の部分は『サイコ』のノーマン・ベイツからだろう。(そのモデルはエド・ゲイン)。

※備忘録。
シアターアルファ東京主催『ショート・シアター・フェス2023』でのトラブル。
『なかないで、毒きのこちゃん』が4月13日に劇場入り。きっかけ稽古の最中、オーナー兼舞台監督の飛野悟志氏からハラスメント被害を受ける。罵声、恫喝、侮辱、暴言、高圧的な態度、屈辱的な処遇。起きたことをレコーダーの録音を示して(?)、他の出演団体『日本のラジオ』と『Mrs.fictions』に相談。異常な状況に不安を感じた『日本のラジオ』と『Mrs.fictions』は参加辞退を表明。(それぞれ4/16と4/20。『なかないで、毒きのこちゃん』は忸怩たる思いで4/14、4/15の公演を遂行した)。その後4月21日、『トツゲキ倶楽部』は参加辞退も含めて検討中と表明。(プロデューサーからの説明、体質の改善の姿勢を受けて参加することに)。
5月2日、フェスの終了を待って、『なかないで、毒きのこちゃん』が本件を公表。
海の木馬

海の木馬

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/05/30 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

号泣した。ほぼチケット完売らしいので、観客にとってこの劇団の評価はもう間違いないのだろう。それでも何とか観て欲しい。
主演の小野武彦氏(80歳!)の物凄さ。何かしらの賞を設けないと申し訳ない程の存在感。このキャスティングで今作の重厚感は保証済み。
戦後78年、気持ち悪くなる位現在の空気感とリンクしていく昔話。何度も何度も嫌になる程聞かされてきた太平洋戦争の話なのにそれでも涙した。岡本喜八に『肉弾』のように撮らせたいネタ。小野武彦氏が現在の姿そのまま、青年時代の回想に混じる演出は大林宣彦風味。これが効いている。吉田知生(ともき)氏、前澤亮氏、藤澤壮嗣(そうし)氏と共に一瞬の光芒をまたたかせてみせる。高知県の静かで美しい海辺の旅館にお世話になる特攻隊員達と住民の仄かな交流。

美術の塵芥(東憲司)氏の流石の舞台美術。会場に入れば水色の紐やビニールが中空に無数に張り巡らされている。幾何学模様の青いラインアート、海底から見上げた空のような鮮烈な美しさ。そして天井から砂時計のように一筋に降り積もる砂。

すぐ舞台上に出演する役者達がギリギリまで普通にチケットを受け付け、場内を案内している物凄さ。オンオフの切り替えがプロフェッショナル。衝撃のラスト、カーテンコールが終わるとすぐにスタッフに戻る姿に震えた。化け物か。

増田薫さんが印象的。いろんな年代の人達でバラエティに富んでいた方が共同体の厚みが出る。
ヒロインは大手忍さん。特高に拷問され、足をちんばにされてびっこを引く少女。
勤労奉仕隊隊長に任命された石村みかさんも映える。
何と言っても焼酎おばちゃんのもりちえさんは強キャラ。常に自家醸造した強烈な焼酎を飲ませたがる。

子供の頃、戦争についての教育を延々受けて、悪いのは指導者だ、軍部だ、無知な民衆だ、なんて思っていたがどうやら違うらしい。誰にもどうにも出来ない時代の流れ。訳が分からぬまま放り込まれて、訳が分からぬまま死んでいく。(周囲に合わせて必死に分かった振りはするが)。生き延びた今も、本当に訳が分からぬままの小野武彦氏。死んだ奴等が亡霊となって纏わりつく。只々訳が分からない、それこそが人生。

ネタバレBOX

玉音放送の翌日、1945年8月16日午後7時、高知県香南市夜須町で第128震洋隊は出撃準備に入る。震洋とは、ベニヤ製の小型ボートにトラックのエンジンを搭載、250kg爆弾を艇首部に積んで敵艦に体当たりをする一人乗りの特攻兵器。ラジエーターやファンがなく海水で冷却する仕様であった為、爆発事故が頻発。この時の事故で160人の隊員中、111名が亡くなった。

ヒロインと主人公の仄かな恋物語なんかをもっと描き込んでも良かったかも。こういう役は天野はなさんがよく似合う。

神坂次郎の『今日われ生きてあり』に収録されている「背中の静(しい)ちゃん」、大石清伍長のエピソードを思い出す。
ブレーメンの音楽隊

ブレーメンの音楽隊

公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター

吉祥寺シアター(東京都)

2023/05/27 (土) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

何で今作のチケットを買ったのか思い出せなかった。開演前、舞台上で子供を楽しませる猫の扮装の女優が百花亜希さんであることに気が付いて腑に落ちた。百花亜希さんが元気そうで良かった。
メインの曲がイマイチで残念。演奏・作曲の岡町ぶうぶう氏の力不足か?
そもそもグリム童話の原作も訳が分からない作品。更に元の話があるのか?
ナレーターとメンドリ(原作では雄鶏)の平佐喜子さんが奮闘。
イヌは小林至氏。車だん吉っぽい。
ロバは松村武氏。悪党面。
ネコは百花亜希さん。子供向けじゃないキャラ設定。
皆何役も兼ねる為、所々フラフープを配した透けるパイプ状の4つの更衣所で早着替え。跳箱やケンケンパリングなど小学校から借りてきたものを小道具に。

老いぼれて処分される動物達が生きる為に逃げ出してブレーメンへと向かう。ブレーメンに行けば音楽隊として食べていけるという妄想。結局、ブレーメンまで辿り着けないのだが、泥棒のアジトを占拠してそこで暮らすことに。脅かす場面は影絵を使うべきだった。

ネタバレBOX

終演後、百花亜希さんが子宮体癌を公表。来月に子宮、卵巣の全摘、リンパも一部切除、『今のわたしの身体でできる最後の舞台』とのこと。観に行けて良かった。
人魂を届けに

人魂を届けに

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2023/05/16 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

正直、自分はこの作家を過小評価していた。今作でやっと思い知る。こんな脚本、他に一体誰が書ける?とんでもない才能に興奮。ラストの着地点なんかに不満は湧くが、それにしても参った。この令和のふざけた時代、安居酒屋で膝詰めでドストエフスキー本人から語り掛けられるような夜。ベロンベロンに酔わされた帰り道。とにかく上手く言い表せないが、こんな作品を世界は欲している。

今作に一番近い作品は黒沢清の『カリスマ』だろう。“カリスマ”と呼ばれる一本の樹を巡る顛末で天皇制と日本社会を戯画化してみせた。もし今作を黒沢清が撮ることがあるならばモノクロでやって欲しい。役所広司の一人芝居でも良い。出来ればタルコフスキーに巨額な資金を提供して、『ストーカー』のように撮って貰いたい。一切の説明を排して。全く訳が分からないが皆平伏すような映画になる筈。

この世界のルールは人の数だけそれぞれに存在する。他人の解決法を幾ら熱心に学んでも、実は何にもならない。自分の世界の解決法を見付けることができるのは自分自身だけなのだから。

皆の“お母さん”である森のキャッチャー〈捕える人〉、山鳥さんこと篠井(ささい)英介氏が満場一致のMVP。美輪明宏のヴォイス、草笛光子のような表情、加藤登紀子のような強さ。彼を観る為だけに足を運ぶ価値はある。必見。

開演してすぐ地震があったのが残念、そこは集中できなかった。

「寒い、寂しい、お母さん・・・。」

ネタバレBOX

冒頭、浜田信也氏が山小屋の中で話を始める。床で毛布を被り寝そべった男達がそれを聞く。「ビルとビルの狭い路地裏で男が一方的に暴力を振るっている。酷い暴力だ。それを目撃した者、例えば君が警察に通報しようとする。気付いた男がやって来て、『友人同士の喧嘩なんだがちょっとやり過ぎちゃったようだ』と一万円札を無理矢理握らせて去っていく。目撃した君は金を返すことも出来ず、通報することも出来ない。ぼんやりとした嫌な感覚、胸の奥の収まりのつかない空白。」「その金の分、君は魂を売り渡してしまったって事だ。」
この会話から今作における“魂”についての定義がおおよそ伝わってくる。自分が自分のものだと認識している領域。

死刑執行された政治犯、絞首台の床が抜けて吊られる。その瞬間、汚物のようなナマコのような黒い物体が落下する。ゴミとして捨てられたそれを拾った刑務官・安井順平氏。何となく箱に入れて保存する。夜が更けるとその物体は人の頭にテレパシーで訴え掛ける。
「寒い、寂しい、お母さん・・・。」
この死刑囚の謎の遺留品を届けに行くことになった安井順平氏。生前、死刑囚が“お母さん”と慕っていた山鳥さんの住む山奥の深い森へと。

「人の世の旅路の半ば、ふと気がつくと、俺は真っ直ぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた。」
ダンテ『神曲−地獄篇−』

物語が進むにつれ、この山奥の森とは精神的な比喩であることが分かってくる。社会不適合者、脱落者、落伍者、犯罪者予備軍、自殺志願者・・・、精神の森で行き詰まった遭難者を温かく受け入れてくれる山小屋、“お母さん”。そこに至った者達は現実社会に復帰するも、社会を不安に陥れる“事件”を多発。到頭、公安が介入する事態に。“お母さん”の目的は何なのか?

公安の盛隆二氏は松重豊の有田哲平風味。物語の進行を担う。ゴッホゴホ咳き込む。
大窪人衛(ひとえ)氏の発する違和感は唯一無二。
藤原季節氏を「た組。」以外の舞台で初めて観た。普通に良い俳優。
主人公、刑務官の安井順平氏の歩き方が気になった。右膝を痛めている筈が、右から歩き出したり左から歩き出したり。記憶のシーンでは普通にスタスタ歩く。思い出すのは青山真治のデビュー作、『Helpless』。1989年の日本を数々の隠喩で表現。右腕を失ったヤクザは昭和天皇の崩御を示していたり、蓮實重彦一派のメタファー大会。(当時はこういう作品が大嫌いだった)。変に勘繰ると右脚、左脚、意味があるのかも知れない。若しくは全くないのかも。

森友学園問題で自殺に追い込まれた財務局職員・赤木俊夫氏を連想させるエピソードがある。今作では、彼の恋人は男性だった為に社会的には無視された。その怨念。

安井順平氏の息子は旅行先で行方不明に。妻は精神を病み手帳に詩を書き殴る。その詩に興味を持った安井順平氏、盗み読むとその悲しみの旋律に震える程の感動を覚える。地域のコンクールに勝手に応募。優秀賞と商品券3万円分が送られてくる。喜ぶかと思った妻は荷物をまとめて出て行った。「返して、私の魂を返して。」

奇跡とは何なのか?偶然と必然の境目は何処にあるのか?因果律を果たして素直に受け取っていいものか?他人が押し付けてくるものは全て根拠のない嘘だ。自分の世界のルールは自分にしか解読出来ない。きっと良い答えが導き出せるように願っている。そんな話。
マミーブルー

マミーブルー

劇団Q+

萬劇場(東京都)

2023/05/24 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前SEはデヴィッド・ボウイのラスト・アルバム『ブラックスター』。この時点で観客の気分はかなり出来上がっていく。客席中央通路を大胆に使う構成。萬劇場はとても観易い。
小さな白い和傘を差した真白な衣服の主人公、柳本璃音さんが静かに海から現れる。衣装・ヘアメイクデザインも彼女。これがずば抜けたセンスで圧倒される。
「水に全ての記憶は溶けていく。まるで海は過去も未来も全ての想いが溶け込んだスープのよう。想い出せ。かつてか、遥か未来にか、己が刻んだ情念の記憶を。決して忘れることはない、と深く刻み付けたあの日の思いを。」(意訳)
オープニングは寺山修司の散文詩の感覚、凄くお洒落でポップなアングラ。
現れた人魚達の幻妖的な美しさ。顔の一部に鱗のようなメイクや模様。

雨が降り続く海辺の村、子供達は人魚の目撃談を聞いて集まる。これがまた琉装(ウチナースガイ)を思わせる色きらびやかな出で立ち。すると防波堤の先から本当に人魚達が現れる。逃げ出す子供達。一人、逃げ遅れた凪(柳本璃音さん)が目にしたのは遠い昔に海で亡くなった母(小夜子さん)の姿。人魚の尼御前(あまごぜ)〈中村容子さん〉は、とある警告を発す。

凪の友人役の佳乃香澄さんが印象に残る。友人役の宮越虹海(ななみ)さんのインパクトのある化粧。同じく友人役の加村啓(ひろ)氏は関東連合の柴田大輔を思わせる凶悪な風貌。

寂れた村に転機が訪れる。山高帽に襟無しの白いチャイナ服の上下、赤い長靴にヒヨコ色のフェザー・コート、虹色のパラソルというふざけた格好の男が突然現れる。小日向文世の志村けん風味、イエロー山口(史歩〈ふみ〉氏)だ。彼が持ち掛けるある提案。

この劇団、独特のオリジナリティの妙味。ステレオタイプな物語をイメージしていると、そうはいかない。凄い好きなセンス。ヴィジュアル・イメージが斬新で突き刺さる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

モデルは幕末、1863~64年の下関戦争(馬関戦争)の彦島。攘夷親征策を執る長州藩は海峡を封鎖し、航行する諸外国の艦船に無差別攻撃。イギリス、フランス、オランダ、アメリカは連合艦隊を組んで徹底的に報復した。
天子を太子と言い換えていたり、よく似た世界線の異世界という趣き。小さな黒い和傘、顔に幾何学模様のペイントを入れた役人達。黒装束姿に顔にワンポイント、白の絵の具を塗るウォーペイント。

人魚の御告げ、「黒い雲に気を付けろ」。
イエロー山口の邪悪な出で立ちが不安を掻き立てる。水木しげる『悪魔くん』で最後に呼び出された最終形態の悪魔は普通の何処にでもいるサラリーマン。だが彼が資本主義社会を完成させていくことによってこの世は本当の地獄になっていく。全然見当違いだったがそんなふうに勘繰って観ていた。(『外道忍法帖』のように原爆投下まで話が行くのか?とも思った)。

脚本が未完成な感じ。主人公の死が唐突で勿体無い。善人が国家権力や軍隊などの強大な悪に蹂躪されていく話では弱い。もっと人間の宿業のような無常感、哀しみを奏でて欲しい。人間の魂(DNA)が何度も何度も生まれ変わって、在るべき場所に辿り着こうとする壮大な物語の一片として。

『忍者武芸帳 影丸伝』の最終回、土一揆を扇動し続けた民衆のリーダー・影丸は五頭の牛に五体を引き千切られる処刑に。その直前の辞世の言葉が「われらは遠くからきた。そして、遠くまでいくのだ・・・。」(夏目房之介氏によると、実はゴーギャンの絵画の作品タイトルからイメージした、白土三平の全くの創作らしい)。人類は長い旅のまだ途中であることを告げる。遠くからやっとここまで来て、そして理想の世界を築く為に更に遠くまで向かって行かなければならない道中にあることを。
宇宙の旅、セミが鳴いて

宇宙の旅、セミが鳴いて

劇団道学先生

新宿シアタートップス(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/24 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白さは保証付き。演劇好きなら一度は観ておきたい演目。役者の厚みが凄い。只々感心。

未来、地球は食糧難に喘ぎ、宇宙ステーションで栽培した野菜を宇宙船で運搬している。日本の民間企業が運営しているその船内が舞台。もうすぐ地球に到着する頃合い、微妙なトラブルが頻発する。
船長(佐藤正和氏)は調理師(稲葉佳那子さん)にキツく当たる。味の濃さ、メニューのマンネリ、野菜の量・・・、延々と因縁をつけては便所掃除の罰。不条理なハラスメントに船内クルーも呆れる始末。
クルーの数名にアトピーや水虫が発生。チャラい医師(速水映人氏)は「大丈夫大丈夫、気の持ちよう。」と意に介さない。納得がいかない潔癖症の女医(鈴木結里さん)。
野菜生産技術者の三人姉妹(尾身美詞〈みのり〉さん、浅野千鶴さん、月海舞由〈つきみまゆ〉さん)とその弟(川合耀祐〈ようすけ〉氏)。父親に愛されたかった心の空洞を抱えるアダルト・チルドレン、弟への過剰な干渉に繋がるようだ。弟は野菜以外にも隠れて花を育てている。
ナルシシストの操縦士(青木友哉氏)は美形の会計・庶務職員(中村中さん)をひたすら口説き続けている。
エンジニア(本間剛〈つよし〉氏)は神父の資格を持っており、個人的にミサを行ない、心の平安を説こうと努める。

日本人版『インターステラー』の趣き。萩尾望都なのか竹宮惠子なのか少女漫画家目線からの本格SFのよう。何故、蝉はあんなに激しく鳴くのか?木の枝に産み付けられた卵は1年掛けて脱皮し幼虫となり地中に潜る。5年程地中に籠もり、木の根の汁を吸ってじっと生き延びる。夏のある日、樹に上りゆっくりと羽化する。成虫、蝉として数週間飛び回り繁殖行動を遂行。激しく鳴いて死んでいく。本能の赴くままに、DNAのプログラミング通りに。

凄くふざけたコメディで有りつつ、人間という種の本質を語らんともする。どうにも上手く言語化出来ない、否が応にも死を突き付けられないと直視出来ない“生”がある。もしかしたら皆早く死にたかったのかも知れない。

佐藤正和氏は『父と暮せば』の印象が強かったが今回もまた素晴らしい。妙に赤ら顔なのは演出なのか?
稲葉佳那子さんは中村玉緒の若い頃と高橋尚子を足したような和風美人。今作のキャラでは藤田紀子っぽさも思わせる。全く内面が読み取れない。
月海舞由さんは『カムカムバイバイ』のイメージが強烈だった。ラストに泣かせる。

衣装(担当は石川俊一氏)の制服が秀逸。水兵の襟にネクタイの付いたジャージ。黒のスキニーパンツで女性陣の美脚を強調。脚で選んだのか?と思う程皆細かった。スニーカーは韓国のfashionのハイカット、白黒ツートーン。

ネタバレBOX

黒澤明のデビュー作、『姿三四郎』。柔道家・矢野正五郎の弟子になり、最強の名を売る為に町で喧嘩を重ねる姿三四郎。その高慢さに我慢がならなくなった師匠は破門を言い渡す。師匠の名を高める為にしたことなのに、ショックを受けた三四郎は庭の池に飛び込んで意地でも出て行かない。満月が輝く真夜中の池に浸かりガタガタ震える三四郎。ゆっくりと長い夜が明けていく。それと共に泥の池から蓮の花が咲く様を目の当たりに。その余りにも筆舌に尽くし難い美しさに涙する三四郎。強さには美しさが求められ、己にはそれが欠けていたこと。この理屈ではない、本能的にインプットされている美しさとは一体何なんだ?

『インターステラー』は滅びんとする人類をどうにか救おうとする話。その根幹にあるのは人が人に想う愛情。その気持ちは時空を超えて目に見えぬ力となって働き、必ず相手に伝わっていく。理屈を超えた、それこそが人類の最大の力だと語る映画。

稲葉佳那子さんが船長の歪んだ愛情表現に気付き、それを受け止める為に航路の軌道を変え、通信機を破壊。地球に帰還したら、この愛が終わってしまうから。全くの狂気。
船長は故意か過失か、燃料を全て宇宙に捨ててしまう。愛を成立させる為の心中なのか?

この辺の描写が自然ではなく、違和感を感じる観客も多いことだろう。テロ的に道連れにされる他のクルーが怒り狂わないのもおかしい。皆、すんなりと死を受け入れる。まるで初めから死にたかったように。
いろいろと文句はあるが、それでも魅力的な作品。一人だけ死にたくなくて泣き叫ぶ奴が欲しかった。
インバル・ピント『リビングルーム』

インバル・ピント『リビングルーム』

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/05/19 (金) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

かつてロザムンド・パイク主演の『エンテベ空港の7日間』という映画を観て、イスラエルのコンテンポラリー・ダンスに興味が湧いた。映画では椅子を使ったオハッド・ナハリン氏振付の作品が挿入される。これが妙に記憶に残るもので、映画の内容は忘れてもそのシーンのインパクトだけは未だに残る。十数人の男女がパイプ椅子に腰掛けては立ち上がり繰り返しては踊り続ける。何の意味があるのかないのか、随分面白い世界があることを知った。

イスラエルのインバル・ピントさんの新作公演。サイレント映画の古典的な喜劇を思わせるクラウン・パントマイムからのスタート。過剰な動作の繰り返しからその意図、意味を投げ掛け、観客は個々に妄想して読み解いていく。物凄く単純な動作を使って観客のイマジネーションを刺激してはいざない、いつのまにかに気が付いてみれば随分遠くの見知らぬ地平まで連れて行ってみせる手腕。

主演のモラン・ミュラーさんは人間と人形のハイブリッドのよう。ヨガの行者みたいに鍛え抜かれ研ぎ澄まされた肉体。腕を背中に回す動作はホイラー・グレイシーを思わせる。これ以上削げない程砥いだパーツはブルース・リー。『人間凶器』が真樹日佐夫なら、彼女は『人体表現機械』。本来、人体のパーツはそもそも何の為に備わっているのかを考えさせられる。

居間の壁紙に描かれた樹々のスケッチ、クロッキー画。ミュラーさんの服にも同様の樹々が描かれている。ミュラーさんは爪先と踵を交差する動作だけで壁沿いにスライドしムーヴしてみせる。部屋への違和感、服を脱ぎこの空間に慣れようとするも自分の意思ではどうにも自分の肉体を動かせない。まるで誰かの操り人形のような不具合。ポルターガイストのように椅子は動き出し壁の上部に備え付けられた照明はぐるぐる回転、蚊が飛び回り、ポットは壁に吸い付いて踊り出す。ロマン・ポランスキーの『反撥』のような離人症と強迫神経症のダンス。ワードローブを開くと流れる様々なミュージック。まるで精神は音楽に支配されているよう。

もう一人のダンサーはイタマール・セルッシ氏。コンパクトなワードローブからランプの魔神の如く這い出てくる。その軟体動物のような動きは『ロシアン・ラスト・エンペラー』、エメリヤーエンコ・ヒョードルを思わせる。サンボや獣の回転体の運動、受け身を繰り返す。スキンヘッドに鬚を生やした顔の下半分の印象でストーン・コールド・スティーブ・オースチンっぽくもある。酔った魔神がぐるぐる回転し続けながら重力に馴染もうとしている。舞踏というよりも格闘技だ。

使用される音楽のセンスが良い。マヤ・ベルシツマン氏や阿部海太郎氏。ポスト・トークに登場した阿部海太郎氏は今回初めて知ったが本物っぽい。

ネタバレBOX

振付、衣裳、舞台美術まで手掛けた演出のインバル・ピントさん。エルトン・ジョンっぽいチャーミングさで親近感が湧く。ポスト・トークでいろんな謎が解けた。
壁紙が何か気に入らないと思っている主人公。違和感と離人症。まるで自分が誰かの人形になったみたいな、自由になれず操られている感覚。どうしてこんなに自分の肉体は扱いにくいのか。明晰夢の感覚で自分の意思が通用しない世界。強烈な重力に押さえ付けられて不確定な物理法則。椅子や照明器具は自由に踊り、蚊が飛び廻る。コンパクトなワードローブから這い出てくる見知らぬ男。恐怖と不安から次第に信頼と安心へと。デュエットで踊り出す。男は去り、残された主人公は部屋の角の隙間から壁の中へと吸い込まれる。気が付くとそこは壁紙の世界。(壁に投影されたアニメと実写で表現)。そこでは椅子は愛らしい犬のように懐いてくる。穏やかな樹々と家と池。気に入らなかった壁紙が至極の楽園に変わる。『不思議の国のアリス』のような趣き。ほんの少しの想像力でこの世界は劇的に変わること。

インバル・ピントさんはモラン・ミュラーさんとの遣り取りから沢山刺激され作品を創造していったそう。元々は子供に読んでいた絵本からの発想。もう一人、ダンサーがいると思い立ち、18の頃からの古い友人を捜した。イタマール・セルッシ氏は現在44歳、29でインバル・ピントさんとは離れた。仕事がなくプールの監視員をしていたが、土曜の朝の突然の電話のオファーに飛び付いたそうだ。
綿子はもつれる

綿子はもつれる

劇団た組

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

舞台は四分円。豪華なアコーディオン・カーテンが寝室と客間を仕切る。爆竹花火のような、ビニールに叩き付ける豪雨のような効果音の炸裂と共に時空間が切り替わる。

ある壊れた家庭の人間模様、様々な感情に揺れ動くコップの水。自分でもどうしたらいいか誰にも判らないまま、ただ揺れ続けている。

ホテルでは永遠の美少女、安達祐実さんと不倫相手の鈴木勝大(かつひろ)氏。自宅では夫の平原テツ氏、継子の高校生の息子、田村健太郎氏。息子の友達、秋元龍太朗氏と天野はなさん。鈴木勝大氏の妻、佐藤ケイさんも登場。

表現が不器用な平原テツ氏が安達祐実さんのふくらはぎをマッサージするシーンが秀逸。韓国映画っぽい。
二人のイライラする掛け合いは流石。もう定番。

田村健太郎氏の両親とのシーンにおけるチック症が見事。そして対比しての同級生とのシーンの開放感。食ってるものがやたら美味そう。

個人的MVPは天野はなさん。すっぴんの彼女の魅力に溢れている。加藤拓也氏は良い仕事をした。誰もが昔好きだったあの娘のことを胸の鈍い痛みと共に想い出すようなキャラ。第十一回公演『百瀬、こっちを向いて。/小梅が通る』の2本立てのテイスト。こういうものの描き方がずば抜けている。大林宣彦だったかが石田ひかりと吉岡秀隆で綴った初体験の鈍い記憶のシーンを想起。(付き合えずに妄想で終わった方が、らしかった)。

上手く説明出来ないけれど人に勧めたくなる作品。

ネタバレBOX

平原テツ氏は私立大学の講師。別れた前妻との間に連れ子の息子がいる。後妻の安達祐実さんは前妻との息子に気兼ねして子作りを諦めた。しかし平原テツ氏が別れた前妻と浮気をしていたことが発覚。夫婦仲は冷え切り、家庭内別居の暮らし。安達祐実さんはかつてパーティーで知り合った既婚の男とW不倫。しかし、その男はホテルから出た所で事故に遭い亡くなる。平原テツ氏は夫婦仲の再生に力を注ぐが、安達祐実さんの財布に大切に仕舞ってあった指輪を見付けて激昂。不倫を認める安達祐実さんだったが、既に相手は亡くなっている。彼のことを想い出し泣きじゃくり過呼吸に。やり場のない怒りの拳をどうしたらいいのか判らないまま、安達祐実さんの介抱をする平原テツ氏。「別れたいわけじゃないんだ」。

平原テツ氏の「その変な泣き方をやめろ!」が名台詞。トッド・ソロンズの『ハピネス』を連想させる、一体これ何の話なのか?が炸裂。いや、まだ話は何も始まっちゃいないんだよ。
虹む街の果て

虹む街の果て

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2023/05/13 (土) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演前からずっと廻り続ける2つの乾燥機。役者達が登場して挨拶。マイクを持つのは中華街の有名店『馬さんの店 龍仙』の女主人・馬双喜(マー・ソウキ)さん。北京語で全員を紹介。ステージに吊るされた4つのモニターに日本語字幕が流れる。「彼(彼女)の笑顔に何度も救われました。」と一人ひとりに。パーカッショニストの渡辺庸介氏と小人症の俳優、赤星満氏以外はプロではないようだ。かなり多国籍な陣容。紹介が終わると、皆緑色のツナギの作業着に着替えてそれぞれの立ち位置に着く。
どうやらここはシェアハウスのような建物。
1つの乾燥機が止まり、段ボールのロボット姿の小澤りかさんがストッキングを取り出して干していく。そしてもう1つが止まると、小柄な段ボールのロボット姿の赤星満氏が現れる。これらのロボットのデザインが『猿の軍団』に出てくるチップ(ポップ)と同じレトロ・チープな魅力で凄い好き。
話は有って無いようなもので、皆チルっている。それぞれに見せ場が用意されているが面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らない。皆それぞれの言語で好きに喋る。(字幕がフォロー)。

二階で寝ている(?)脚だけ見えた人間が気になった。死体か?

これは観客も皆回して気怠く浸った方が良い。

ネタバレBOX

ジョセフィン森さんが唐突に歌うマドンナの名曲、『マテリアル・ガール』が見事。アリソン・オパオン氏のギターが冴え渡る。彼が電話ボックス越しに妻に歌う『ストッキング愛のテーマ』なんか良かった。傘を差して狭いダンスルームで皆で踊るEDM。チープなTVゲーム。二階の部屋から靴を釣り竿で釣り続けるビルラ・スニル氏。ダンゴムシになりたい無限ループの老人、阿字一郎氏。スマイリーの子供の癇癪。ラストは『ルーディー』の合唱。

今作はドラッグ・ムービーならぬドラッグ・プレイ。作家はかつてそっち系にかなり嵌っていたのでは?昔の知り合いにやり過ぎて刑務所で実刑まで喰らった奴がいて、彼が話したエピソードに感覚やディティールが似ている。多幸感からくる壮大なメッセージなんかはもろ。(全くの見当違いなら申し訳ありません)。
糸地獄

糸地獄

劇団うつり座

上野ストアハウス(東京都)

2023/05/11 (木) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

滅茶苦茶面白い。押井守『イノセンス』とか、りんたろう『迷宮物語』の感覚。合法ドラッグを決めて集合的無意識、そして自らの深層心理にダイヴ。そこは日本人が共有する戦前田舎の紡績工場のイメージ。親に売られた娘達は昼は糸を紡ぎ、夜は自身の色を紡ぐ。
亀戸にある工場、月のない夜、海から上がって来たずぶ濡れの繭(青木恵さん)は東京湾から上陸して来たようだ。記憶を失くした繭は本能だけで『家』を探す。

天井から垂れ下がった何本もの赤い太縄。糸屋主人の縄(柘植英樹氏)はSMの緊縛師を思わせる佇まい。その太縄と淫靡に絡み合う女達のエロスが噎せ返るように立ち込める。女達が寝話に語るそれぞれの身の上話。梅の花の入墨を入れる梅(yokoさん)が印象に残った。

「さやりひゅう」。淫らな秋風が体を駆け抜けてゆくとき、老いさらばえた皺くちゃの女は自らの肉体に涙ぐむ。「さやりひゅう」。
女性のカルマをリアルに女優達が顕現。この布陣でないと表現出来なかったであろう世界観。

見事な演出、見事な美術、篠本賢一氏にリスペクト。

ネタバレBOX

「吹いてよ、風!」
風とは『希望』であり、生命を突き動かす奔流のこと。その風を細胞中に感じて、人間は自身を闇から解放する。時にはそれは悪い方向にも行くだろう。歳を取るとそんな風をふっと逃がす方法も身に付けるそうだ。必ず希望はある。きっと良いことがある。全ては上手くいく。

岸田理生(りお)と言えば『1999年の夏休み』、深津絵里デビュー作の傑作の脚本。未だに衝撃を憶えている。

後半、からくり人形めいた身の上話辺りから自分的には失速。家とか父とか母とかのテーマになっていくと何かしっくり来ない。『身毒丸』を初めて観た時もそんな感じになった。皮膚感覚として自分には欠けているのかも知れない。血の糸で紡がれた家系図に宙吊りにされた自分。

このページのQRコードです。

拡大