実演鑑賞
満足度★★★★
凄まじい作品。マジで死にたくなった。今、何を置いてもこの名取事務所のセレクトする作品は可能な限り観ておく必要がある。間違いなく本物。脚本のレヴェルが段違い。
昔、黒沢清が言っていたことを思い出す。「自主映画だろうが何だろうが表現という土俵に立った以上は対等。予算がどうのとか所詮は言い訳。やるんならハリウッドの超大作と競い合うつもりで創って欲しい。」
伝えたいことがあるのなら、あとは才能で勝負。どんな媒体であっても凄い作品は必ず伝わる。本物であるならば必ず。
何故なら今作にこうして打ちのめされているからだ。
韓国映画の超傑作、『1987、ある闘いの真実』と重なる作品。韓国ドキュメンタリー映画、『スパイネーション 自白』での「在日留学生捏造スパイ事件」の恐怖。徹底した暴力と拷問で無実の人間に自白を強要させていく手法。人間は弱い。簡単に蹂躙される。すぐに痛みと不安と恐怖とに支配される。惨めで醜い自分を受け入れざるを得ない葛藤。あっという間に苦痛に跪く尊厳。何故なら人間は動物だからだ。動物はとても弱い。すぐに死んでしまう。
①1975年、韓国現代建築の巨匠である金壽根(キム・スグン)に、ある建物の設計を依頼しに来た政府の高官(山口眞司氏)。彼が多忙な為、アシスタント(西山聖了〈きよあき〉氏)が応対するのだが。
②1986年、学生運動を齧っていた大学生(松本征樹〈まさき〉氏)は恋人との待ち合わせの場所で拉致される。目隠しされて連れて行かれたのは「対共分室」と呼ばれる黒レンガ造りの迷宮のような建物だった。
③2020年、ドキュメンタリー番組の監督(森尾舞さん)はかつて「対共分室」だった「民主人権記念館」を取材する。案内してくれる解説員(鬼頭典子さん)。
ソウル最大の繁華街、南営洞(ナミョンドン)に建てられた黒レンガ造り5階建てのビル。(後に7階建てに改築)。表向きは「国際海洋研究所」と偽装された。実際は体制側が不穏分子と見做した人間を拉致監禁、拷問虐殺する屠殺場だった。「人間の恐怖を最大化する構造に設計」された天才建築家による緻密な計算。採光抑制、脱出防止を意図した細長い異形の窓が不快感を煽る。簡素なプロジェクションマッピングが効果的で素晴らしい。これだけで全てが伝わる。
3つの異なった時代が同時進行していく。設計する者、拷問される者、それを調査する者。
MVPは山口眞司氏だろう。この人は一体何なんだ?
是非観に行って頂きたい。