実演鑑賞
満足度★★★
凄く面白い。東憲司氏の作劇論、作家としての苦悩がダイレクトに描かれる。現実の暴力(戦争、生活、権力etc.)の前では人は無力だ。只々無力さを思い知らされる。それでも妄想(想像)し続けなければばならない。何度も馬鹿馬鹿しくなって投げ捨てたところからやり直し、妄想し直さなければいけない。こんな妄想に何の価値があるのか?只の現実逃避じゃないか?嫌な現実から目を背けているだけだ。そう、全くその通り。そんな最低な惨めな気分で、また妄想し始める。物語は続く。もっとふさわしいラストに辿り着くまで。想像力が人間の最後の武器だ。さあ、もう一度ピークォド号に乗り込んで、白鯨“モビィ・ディック”を捜しに海に出るのだ。
『白鯨』の世界を糸あやつり人形にしたことが功を奏している。妄想の世界の中で白鯨と共に去った親友の行方を捜す主人公オヨグ(松本紀保〈きお〉さん)。目を覚ました現実の世界では病院に入院している。(こちらでは全員人間の役者が演じている)。優しい医師に原田大二郎氏、終わってからも彼だとは気付かなかった程の扮装。看護婦の中に稲葉能敬氏、不思議と違和感がない。「さあ、思い出して。その話の続きを。」
主人公オヨグは幾度となくこの台詞を繰返す。
「親愛なる孤独よ···君は沈黙を産み、挫折と絶望の剣で僕を八つ裂きにする···闘争の果てに昇る朝陽···それは、崩壊···。」
江戸伝内氏は東憲司氏に「崩壊と生成の芝居」を依頼。それに見事に応えた作品になっている。
是非観に行って頂きたい。