かずの観てきた!クチコミ一覧

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私はだれでしょう

私はだれでしょう

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/10/09 (金) ~ 2020/10/22 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/10/12 (月) 13:00

座席1階

終戦直後のNHKで、戦争の混乱などで行方がわからなくなった人を探すラジオ番組「尋ね人」の制作を舞台にした物語。戦争中は軍部が厳しい検閲をしたが、戦後はGHQが同様に厳しい検閲を強いた。占領政策を批判するようなものはご法度。当然、広島や長崎の原爆に触れるものも駄目だった。
舞台はピアノ演奏と共に進行する。ミュージカル仕立てでもある。長身の朝海ひかるが、ビシッと筋を通して検閲に楯を突く。枝元萌は軽快な動きで舞台を駆け回る。休憩を挟んで3時間を超えるが、長い会話劇も引き締まった空気で進んでいく。
日本学術会議のメンバー不承認など、事前検閲のようなことは今も行われている。こまつ座がこの演目を今、再演したのは非常にタイムリーなことだ。検閲は今でも行われている。そして、それに盾つこうという人たちはいる。こうしたことを考えさせられる舞台だった。

ブルーストッキングの女たち

ブルーストッキングの女たち

劇団青年座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/09/26 (土) ~ 2020/10/04 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/28 (月) 18:30

座席1階

演出の斎藤理恵子さんがパンフレットで書いているように、ここに登場する男も女もとんでもない奴らばかりなのだ。青鞜社をつくった平塚らいてうとその周囲の女たちの物語だ。大杉栄などは自分勝手な女たらしもいいところで、今の時代なら絶対に糾弾されている人生だった。そういう意味では、時代に抱かれて自由に生きられた男女であった。
でも、さすがに「とんでもない奴ら」と切り捨てた女性演出家だけあって、伊藤野枝に厳しいところが随所に出てきて興味深い。自分の印象では野枝はバリバリ働いて自由奔放好き勝手に時代に背いている女性、という感じなのだが、この演出家はまるで時代劇に出てくる力なき女のように、よよと泣かせる場面をつくったのだ。

群像劇だから例えば島村抱月とか松井須磨子とか荒畑寒村とか、それぞれの場面を描いている。だがやっぱり、もっと野枝に絞って展開したほうが面白かった気がする。いっそのこと伊藤野枝物語にして、史実にはでてこないような野枝の素顔を膨らませて客席を楽しませるという切り口はあるかな、と思った。

ネタバレBOX

上記ネタバレは、野枝が千葉の寒村に捨ててきた息子との対面場面。思わぬ対面に感激して「何かこれでお買いなさい」とお小遣いを渡そうとしたが、息子にじゃけんにされる、という場面だ。野枝の母親としての心理だが、「とんでもない奴ら」だけに、際立って印象に残る。
星をかすめる風

星をかすめる風

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/09/12 (土) ~ 2020/09/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/09/18 (金) 19:00

座席1階

若くして日本の刑務所で獄死した韓国の国民的詩人、ユン・ドンジュの物語。青年劇場に初登場となる温泉ドラゴンのシライケイタの脚本・演出ということで期待して出かけた。
福岡刑務所で鬼と恐れられていた暴力看守が殺害される。看守がきていた服からは一編の詩が書かれた紙が見つかる。所長に殺害犯の特定を頼まれた若い看守が収容されていた朝鮮半島出身の罪人たちの取り調べを始めた。「あんな暴力男に恨みを持っていないやつはいない」との供述が続出し、犯人は簡単に割り出せたと思われたのだが。

舞台は休憩をはさんだ後半に大きく動く。先の戦争中、朝鮮人たちを多く収容していた刑務所という極限的な舞台設定で、人間の優しさ、温かな心の動きなどが随所に顔を出すのがとてもいい演出だと思う。そのものは出てこないが、塀の外と中の凧揚げ合戦は、客席の想像力を膨らませる舞台設定だ。誰も見ていないのに、外で凧を揚げているのが小学生くらいの女の子という人物設定もすんなり受け入れられ、その心の交流に想像が膨らんでいく。シライ演出の妙だと言える。

青年劇場の演目では反戦劇が多く、今回もほぼ同じ方向性である。だが、シライケイタの劇作家としての、あるいは演出マインドがいつもの作品とは違うテイストに仕上げ、客席にこれまでとは違う風を吹かせたと思う。カーテンコールの拍手にそれを感じた。秀作だ。

ネタバレBOX

看守殺しの真犯人は、意外なところから判明する。当時の九州帝大が人体実験をしていたかどうかは知らないけれど、いかにもありそうという設定。最初に刑務所に帝大の教授と看護婦がやってきたときに「何かあるぞ」と感じなければならないのだが、その登場があまりに自然だったために、どんでん返しの伏線をつかめなかった。演出がすばらしいのか、自分が鈍感なのか(笑)

ラストシーンに近いところで出てくる詩の朗読には、心を揺さぶられる。泣きそうになる心を抑えるのに精いっぱいだった。ただ、字幕が舞台の凸凹の部分に当たって読みにくいのを再考してほしい。
拝啓、衆議院議長様

拝啓、衆議院議長様

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2020/09/17 (木) ~ 2020/09/21 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/09/18 (金) 14:00

価格5,500円

昨年に続く再演。注目の裁判も終わっているが、再演の舞台はどう変わったか。初演に続いて足を運んだ。
昨年よりも、結論が重く感じた。命の価値に差をつけることが、空気感としてより強まっているからではないか。新型コロナで全国に差別感情が広がったからか。死刑になることが決まったのだから、あの一人の男の問題だからもう忘れていい、そんな無言の世論を感じたからか。

命に差をつけられない。何回見ても、結論は同じなのだが、そこに至るまでのルートが違う。再演を見て発見した。

センポ・スギハァラ

センポ・スギハァラ

劇団銅鑼

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/09/17 (木) ~ 2020/09/22 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/09/17 (木) 18:30

カーテンコールで役者全員が揃った時の皆の笑顔が輝いた。客席はいつもの半分以下だが、芝居が始まったという満足感のようなものだと思う。拍手をしている自分たちも、芝居を見られる満足感に浸された。
劇団銅鑼の伝統の演目だが自分は見るのは初めてだ。命のビザ、杉原千畝の物語。解説は無用だ。何も考えずに舞台に没頭できた。
杉原氏の人柄がよくわかる演出だ。ビザ発行で助けられるユダヤ人家族の物語も対比させながら、本国の訓令に逆らってまでも通過ビザを出し続けた杉原氏と緊迫した当時の世の中を浮かび上がらせる。
途中休憩(10分間)はない方がよかったか。もう少し前半の会話劇を精選して、2時間ちょっとに抑えながら一気に駆け抜けた方がよかったと思う。

ネタバレBOX

独楽が重要なアイテムだ。演出の中で削られそうになったエピソードがパンフレットに書かれていたが、これがあるとないとではだいぶ違う。逆にもっと強調してもいいアイテムだったような気もする。
音楽劇「風まかせ 人まかせ」~続・百年 風の仲間たち~

音楽劇「風まかせ 人まかせ」~続・百年 風の仲間たち~

新宿梁山泊

ザ・スズナリ(東京都)

2020/08/06 (木) ~ 2020/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/08/14 (金) 14:00

座席1階

このどうしようもない国、でも、愛すべき仲間たちがいるこの国に捧げるこれからの100年の歌。梁山泊らしさあふれる期待通りの舞台だった。

物語は、本日をもって閉店するライブハウスが舞台。ライブハウスといえば新型コロナウイルス感染のクラスターが発生したりして世の中から目の敵にされている。消毒、ビニールやアクリルによる遮断、マスク着用。これらが舞台ではきっちりと守られ、今の世の中を映し出す。演劇を観るということも後ろ指をさされそうな空気の中で、マスク着用の客席(椅子はいつものスズナリの半分だ)とともに、生の舞台こそ最高なのにという思いが充満する。(アベノマスクが捨てられるところはおもしろい)
本当は、梁山泊の本拠地・満点星で繰り広げたい舞台だ。しかし、スズナリも悪くない。役者も観客もマスク姿ならば文句はないだろう。ここで見て驚いたのは、金守珍(ライブハウスのマスター役)の声が通ること、通ること。ほかのメンバーたちも含めて、マスク越しに「普通の舞台」を演じるパワーを感じられる。
主役級の存在感がある中山ラビのほか、日替わりで登場するゲストも見逃せない。ちなみに明日と明後日は六平直政や小室等が登場する。もう一回見に行こうかな。
終戦直後の流行歌から、時代を追って「あの曲」が楽しめる仕掛けもある。でも、インターナショナルを一緒に歌える人は、もう、高齢者の部類であろう。

多様性が当たり前の国になるのはいつのことだろう。次の100年で実現するのだろうか。国の成り立ちからメルティングポットと自称したアメリカも分断するくらいの嫌な世の中だ。舞台中で金守珍が叫ぶ「韓国系日本人が認められるようになったら」という言葉に、強く共感する。

ネタバレBOX

梁山泊の舞台を支える水嶋カンナは今回、丸眼鏡を掛けた田舎っぽい感じの、ライブハウスのバイトの女性役。何だかよくわからない方言連発で異彩を放っているが、やっぱりこの人、マスクとメガネをとってビシッとせりふを決めるところがいい。そういう場面はこの舞台で、一度だけ訪れる。
フライ,ダディ,フライ

フライ,ダディ,フライ

劇団文化座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/08/06 (木) ~ 2020/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/08/06 (木) 19:00

座席1階

新型コロナウイルスの感染拡大でながらくできなかった公演。劇団員たちの意気込みを感じる舞台だった。やはり、舞台人は舞台でこそ輝く。話しに聞くと、休館していた池袋の芸術劇場最初の演劇公演だそうだ。

三好十郎など文化座のアトリエ公演に「慣れて」いた身としては、久しぶりの文化座が席の間隔を広く取ったシアターウエストで、しかもこの演目というのは少し、驚いた。文化座としては、異色の演目と言っていいと思う。

話はテンポよく進んでとても分かりやすい。でも、ちょっとどうかな。ギャグがちりばめられていて面白いのだが、お笑いの切れが今ひとつ。一番面白かったのは、突如登場するおばあちゃんを演じる佐々木愛さんのコメディエンヌぶりだ。
物語の突拍子のない設定は仕方がない。あんな事件があったらまず、警察に通報だよなあ、と突っ込みを入れたくなるが、そんなことはどうでもいい話。やっぱり、舞台はおもしろい。ネット中継では味わえない空気感を久しぶりに味わった。

天神さまのほそみち

天神さまのほそみち

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2020/07/03 (金) ~ 2020/07/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/07/08 (水) 19:00

座席1階

たまたまのタイミングということだが、別役実追悼舞台となったこの演目。別役不条理劇の中でも「最も不条理」といわれているそうだが、その面白さは抜群だ。「あなたの家の前を虎が通りましたか」を軸に進む壮絶な会話劇が展開され、恐ろしい結末へと突き進む。思わず食い入るように見てしまった。
シンプルな舞台装置。交錯する会話でも役者同士の方向性を崩さない演出が、分かりやすさを助けている。坂手演出の妙なのだろう。
何を言ってもオウム返しという、問答無用の「問答」は、何か反論を許さず決定事項には従えというような時代の空気を反映しているような気もする。

劇場は下北沢スズナリ。ギチギチの座席配置が当たり前だったのに、今回は左右に空間があり、足も伸ばせる。お客にはぜいたくともいえるゆったりの配置だが、こうなってみると、ギチギチで熱気むんむんのスズナリが懐かしい。

人間合格

人間合格

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/07/06 (月) ~ 2020/07/23 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/07/08 (水) 13:00

座席1階

久しぶりに、舞台芸術の鑑賞。その皮切りがこまつ座だ。井上ひさしが描いた太宰治だが、太宰を通じて井上が客席に訴えかけているように感じる。
自分を追い込まないと書けない、という太宰。精神病院に入れられてしまうところなどがユーモアたっぷりに描かれる。1人何役もこなす脇役たちの演技が秀逸だ。見どころの一つである。
サザンシアターの座席を1人おきにゆったりとったコロナ対策の客席。見ている方は快適だが、劇団の興行としては苦しいはずだ。満席の客席が一体感を醸し出す。そんな演劇の日常が早く戻ってほしい。

新雪之丞変化

新雪之丞変化

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2020/03/19 (木) ~ 2020/03/29 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/25 (水) 14:00

座席1階

「アングラ女優トーク」と題するアフタートーク付きのマチネを見た。その中で、水嶋カンナともりちえが梁山泊の同期だと知った。梁山泊の舞台に出続け、ニクスを引っ張る水嶋はアングラ女優というイメージだが、桟敷童子で底力を発揮するもりちえはアングラ、という感じはしないなあ(笑)

さて、そのもりちえと水嶋カンナの化学反応を楽しみに見に行ったスズナリ。新型コロナで劇場はどこもすいているのだが、この日のスズナリはほぼ満員だった。やはり、もりちえの存在感はすごい。結構な悪役で、しかも大店・広海屋という男性の役だが、超早口のせりふの切れもよく、もりちえここにあり、という感じだった。

「女歌舞伎」と銘打って和ものに取り組むのはニクスでも珍しい。歌舞伎らしい演出もあったが、何よりラストシーンのどんでん返しがやっぱり梁山泊テイスト。今回も大いに期待に応えた。

「長崎の仇を江戸でうつ」雪之丞役の寺田結美は、一昨年の「星の王子様」にも出演している。今回は大抜擢という感じだが、「日本髪のかつらは重い」(アフタートーク)と言いながら、迫力ある舞台に仕上げて見せた。水嶋は「私は顔でスカウトしました。背が高いのもいい」と語っていたが、これから大きく羽ばたいて次世代アングラを背負う「アングラ女優」になってほしい。

きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

きらめく星座【公演中止3月5日(木)~8日(日)】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/03/05 (木) ~ 2020/03/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/03/11 (水) 13:00

座席1階

日本は先の戦争で、庶民の音楽にまで「敵性言語」を排除し、「非国民だ、銃後の守りとしてふさわしくない」などと摘発した。この物語は、どんな暗い時代にも流行歌を楽しむ庶民がいたことを、風刺の効いた舞台で表現した名作だ。

2幕もので休憩を挟んで3時間を超えるが、笑いあり涙ありで十分に楽しめる。オデオン座という横文字の店名のレコード店の娘が、バリバリの帝国陸軍傷痍軍人と結婚する、という設定だ。
市川春代の「青空」。この曲は、他劇団もキーポイントとなる設定・背景で使ったりして、流行した当時を知らない私なのだが、すっかりおなじみになってしまった。
パンフレットやチラシの図柄にも使われている防毒マスクの冒頭、ラストの演出がいい。防毒マスクで何を防ぐのか。焼夷弾の火や煙だけでなく、これまであった文化との隔絶を意味している、のだろう。舞台自体はとても楽しくて一緒に歌いたくなるような感じなのだが、この冒頭とラストに井上ひさしの鋭いメッセージが込められている。

新型コロナの関係で上演期間が短くなったこの舞台。終了後はスタンディングオベーションも起きた。「青空」のメロディーで、今が新たな「戦前」にならないようにと歌いたい。

京河原町四条上ル近江屋二階 ー夢、幕末青年の。

京河原町四条上ル近江屋二階 ー夢、幕末青年の。

Pカンパニー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/03/04 (水) ~ 2020/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/05 (木) 19:00

幕末の、坂本龍馬暗殺の近江屋事件をテーマにした物語。舞台には案内役の女性と男性が登場し、竜馬と、同時に殺害された中岡慎太郎の夢が語られていく。
NHKの大河ドラマ「風と雲と虹と」の脚本を書いた福田善之氏の作・演出。パンフレットによると、もう88歳という大御所だ。近江屋事件に興味を持って半世紀、というが、事件のなぞ解きをやろうとしたわけではないという。描かれているのは竜馬と慎太郎に語らせている当時の志士たちの夢。それは妄想かもしれないが、休憩をはさんで2時間の舞台は、生のドラムやギターによる効果音とともに、なんだか懐かしいような青春ドラマのような香りで進んでいく。

ネタバレBOX

新型コロナ騒ぎの中で、堂々たる上演。入場時、観客全員に手指のアルコール消毒をお願いし、後日感染が起きた時の対応策として席番号と連絡先を記入するよう求めた。
延期や中止の判断をする劇団も多いが、このような形で上演をしているというのは、立派だと思う。
グロリア

グロリア

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2020/02/27 (木) ~ 2020/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/03/04 (水) 14:00

座席1階

物語はまず、雑誌の編集部を舞台にスタート。アメリカでは珍しくないと思うのだが、対人関係や職場に不満を募らせてしまったおとなしい社員が突然切れて、乱射事件を引き起こす。問題はここからスタートする。
事件に巻き込まれ、すんでのところで生き永らえた同僚、事件の直前にスタバにさぼりにいってしまい、巻き込まれなかったものの遺体が次々と運び出される現場を目撃した同僚、そして、別の部屋にいてまったく事件を見ていない上司。この3人がいずれも、その事件をネタに本を出そうとする。これもアメリカではよくあることかもしれない。版権争いに加わっていくのだ。
あまりにもあざといというか、人の不幸をネタに一儲けするという「マスゴミ」と言ってしまえばそれまでだ。だが、大事件をどう伝えていくかはジャーナリズムの本質であり、まっとうな仕事である。それではそのやり方に問題があったかといえば、事件現場を目撃した人に直接あたって話を聞くかどうかは取材のイロハのイである。
メディアのおぞましさを描いてはいるが、この舞台がそれだけかというとそれは短絡的だ。
書かれる人の立場を考えながらきちんと仁義を切って取材をし、どこまで踏み込んで書くのかは、ジャーナリストとしての矜持であり、事件記者それぞれのありようにかかわってくる。だから答えは一つではない。ただ一つ、現場も見ていないのにさも見ていたように書くのは捏造に等しい、とは言わなければならない。

答えは一つではないのだから、ラストシーンを見ると演出の古城十忍さんもかなり迷ったのだろうと推察する。事件を消費して生きていくメディア、そしてそれを見る人たちの前では、事件の関係者が事件の影響を拭い去って人生の新しい一歩をどう踏み出すかということに焦点が当たらず終わってしまう。グロリアの原作は読んだことはないが、もっと事件関係者のもがきみたいなものが前面に出ていたら、この舞台の印象はかなり違ったものになるだろう、と思った。

ネタバレBOX

新型コロナ関連で上演の延期や中止を決める劇団がある中で、ワンツーワークスは予定通り実施。だが午後2時開演のステージは、本来ならもっと満員であろうと思われるのだが、空席が目立った。劇団側の配慮か、一席置きに座らせてくれて、快適な観劇ではあったが。
それは秘密です。

それは秘密です。

劇団チャリT企画

座・高円寺1(東京都)

2020/01/23 (木) ~ 2020/01/30 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/01/28 (火) 19:00

座席1階

チャリTの芝居は見たことがあるが、この演目は初めて。秘密保護法成立前後が初演だったというが、当時は国会デモなどで盛り上がっていた時期。あれからすっかり国会周辺は静かになり、もはや安倍政権はやりたい放題だ。桜を見る会の名簿も「機密扱い」みたいにやばくなったら破棄してしまうという、もはや民主主義国家とは信じられないありさまだ。演劇人たちよ、黙っていていいのか。そんな思いで劇場に出かけた。もちろん、初演をそのまま再演するのではく、桜を見る会とか、「調査研究」で自衛隊を中東地域に派遣してしまうとか。そういったところもじゃんじゃん盛り込まれると思っていた。

それじゃあ「再演」じゃなくなってしまうと言われるかもしれないが、そんな思いで座・高円寺に足を運んだ人は多かったのではないか。コントの切れの悪さには文句は言わない。やはり、チャリTならではの鋭い舞台を期待した人たちには、物足りない内容ではなかったか。

翻って、秘密保護法の危険性を一から学ぶ、みんなすっかり忘れてしまっているこの法律の恐ろしさを思い出させるという点では十分に効果があると思う。舞台は、「後方支援」として安全な場所に派遣されていたはずの自衛隊に関する情報に触れたために、なんとお笑い芸人が逮捕されるという筋立てだ。どうして逮捕されたかも「秘密」というわけで、二人の刑事も「身に覚えがない」と訴える芸人に「なぜ逮捕されたか」も言わない。一見荒唐無稽かもしれないが、秘密保護法が通ってしまった今ではありえない話ではない。軍事機密とはそういうものなんだろう。

内情を知った新聞記者が、このネタをがっちり紙面で伝えられるかどうかも触れてほしかった。

ネタバレBOX

自衛隊に戦死者が出る、というのは今、本当にあり得る話だ。だが、それを遺族にまで隠しおおせるものだとは思えない。旧日本軍はお国のために戦死した人を賛美したが、それを後ろ暗いもののように覆い隠そうとすれば、軍隊としての自衛隊の規律はもはや保てない。そうなると自衛隊は崩壊する。もはやこのバカバカしい政府のために命を懸けるなんて誰も思わないから。
Butterflies in my stomach

Butterflies in my stomach

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2019/12/08 (日) ~ 2019/12/17 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/12/16 (月) 19:30

座席1階

On7の「その頬、熱戦に焼かれ」という見事な舞台を見てから、On7には注目をしていた。今回、On7の旗揚げ公演の演目ということで楽しみにして見に行った。とてもシンプルで美しい舞台だったが、パンチは欠けていたか。
7歳から77歳まで10歳間隔で切り取った女性の人生を7人の女優たちが夫や恋人、家族も含めた多彩な登場人物を複数、うまく演じきった。時には効果音も「うたったり」して、小劇場らしい人間味のある舞台だった。
しかし、今一つ何かが欠けている。役者たちの情熱は熱いし、7人はみんな若くてきれいだし、男性の声色もうまく出ていたし、何も文句をつけられる場面はないのに。それはきっと、この女性の人生のとらえ方があまりにも普通だったためではないのか。普通の人の普通の人生でも、客席の心をわしづかみにするような、心が震えるような、何かそんな場面があったのではないか。「熱線」の舞台にはそれがあったから、On7の舞台はすごいという印象があったのだ。
「ななこ」の命が消えていく場面は美しいが、77歳の人生はそれだけではなかったはず。これは自分の想像だが、77歳を超えたななこが認知症になり、自分の人生の断片を脈絡もなく語りだす。介護する家族はこれに振り回されるが、ななこの気持ちを真正面から受け止めた介護ヘルパーが、ななこの最後の友人となる。ここまでくると妄想か。

ネタバレBOX

キャンドルライトが消えて人生も消え、終幕というのは美しいが驚きはなかった。波の音、風の音など効果音を役者の口から出させたのはいいアイデアかもしれないが、ちょっと無理があったような気もする。
泰山木の木の下で

泰山木の木の下で

劇団民藝

三越劇場(東京都)

2019/12/06 (金) ~ 2019/12/18 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/12/14 (土) 13:30

座席1階

瀬戸内の島々を望み、一人で暮らすハナばあさんの家に、木下刑事が逮捕状をもってやってくる。堕胎容疑。産めない理由がある女たちを、「人助け」した疑いだ。ハナばあさんは9人もの子を産んで東條首相らお歴々から表彰された経歴があるが、その子たちは戦死や広島原爆で全員が死亡していた。署に連行する木下刑事にも、物語が進むにつれ、隠していた秘密があらわになってくる。
被爆による被害で健康な子を産めないと恐る夫婦も多かった。ハナばあさんの堕胎は人助けかもしれないが、障害を持った家族へのいわれなき差別や偏見もあった。淡々と進む物語に、戦争被害に苦しむ人たちの思いがにじみ出るように描かれる。あの時代を想像力を目一杯働かせて感じたい。
看板女優日色ともゑは今回も貫禄十分。劇中ずっと続く長台詞を淀みなくこなしていく。この女優のすごさには、いつ見ても圧倒されるばかり。

THE CHILDREN'S HOUR  子供の時間

THE CHILDREN'S HOUR 子供の時間

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2019/12/12 (木) ~ 2019/12/24 (火)公演終了

満足度★★★★★

座席1階

青年劇場でたびたび演出している藤井ごうさんが劇団側にやってみようと提案した演目という。アメリカ近代戯曲の代表的作品とか。青年劇場としては異色の作品だと思うが、見事な出来栄えだった。
舞台は二人の女性がつくった寄宿舎学校。ある女子生徒がついた他愛もないウソがきっかけになり、二人の女性の人生を狂わせていく。ちょっとしたうそ、フェイクニュースをきちんとただすこと。インチキばかりあふれる日本社会への警鐘となる舞台でもあった。
ダブルキャストでマチネとソワレを敢行するハードスケジュールだが、その女性の二人のうち一人、マーサ役とうそをつき続けるメアリー役はシングルキャストだ。この重要な役どころの二人の演技が出色だった。特に、メアリー役の片平貴緑さん。こうした若い役者が躍動する劇団には力がある。もっとこうした俳優が出てくるといい。
登場人物のほとんどが女性というこの舞台。それぞれがきっちり仕事をこなしたという感じだ。学校という設定で、壁のデザインが黒板にチョークで描かれ、それを役者が消してまた描くという演出も見事だった。
物語は、救いようのない結末である。だが、アトリエを出た瞬間、「おもしろかったぞ、これは」という満足感に浸ることができる。2019年ももう終わるが、これを見ずには終われないそ。

8月のオーセージ

8月のオーセージ

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2019/12/05 (木) ~ 2019/12/18 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/11 (水) 19:00

座席1階

アメリカの田舎町。老人がお手伝いさんを雇う。妻は薬漬けとなっていて、毒を吐きまくる。ある日。老人が姿を消し、湖で遺体で発見される。保安官は「自殺」との推定。別に暮らす3人の娘や孫娘、妻の妹との人間関係をめぐる物語。
3人娘のそれぞれが自分のことばかり主張し、父の葬儀の後の食事でももめごとばかり。急激に崩壊していく家族を、お手伝いさんは冷静に見つめている。
まるで「家政婦は見た」というような舞台だが、息を抜く間もないせりふ回しにくぎ付けとなる。わずか70人くらいしか入らない小劇場の舞台は、客席が変則的に分割して設けられ、細長く設定された舞台を上下左右一杯に使って役者たちが迫真の演技を見せる。登場してくる全員の強烈な迫力が舞台に力を与え、休憩をはさんで3時間もの演劇に没頭することができる。
終幕後、外に出て冷気を浴びると、自分の体が熱くなっていることが分かる。原作の魅力もさることながら、それをいかんなく客席に伝えた役者たちの熱演に拍手を送りたい。
長いのは大変かもしれないが、小劇場演劇でこれだけ本格的な舞台はなかなかないと思う。コストパフォーマンスは高い。見ないと損するかも。

THE CHILDREN'S HOUR  子供の時間

THE CHILDREN'S HOUR 子供の時間

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2019/12/12 (木) ~ 2019/12/24 (火)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/13 (金) 19:00

座席1階

後で入力します

獣唄

獣唄

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/05 (木) 14:00

座席1階

桟敷童子旗揚げ20年の集大成ということで、いやがおうにも期待は高まる。今回も期待を裏切らない、見事な舞台を見せてくれた。
客演の村井国夫もよかったが、村井演じるハナト(急峻な岩場で花を取る人)の三人娘も非常によかった。板垣桃子、増田薫、大手忍の三人だ。
物語は戦争の足音が九州の山村部にも届き始めている戦前の時代設定。山奥の村にランの花を取る職人がいるのだが、この村にその花を買い付ける会社の一団がやってくる。幻の花を取れば大金持ちに。ハナトの父親は三人娘を放置していて嫌われているのだが、長女のトキワが父に弟子入りを願い出る。狙いは、急峻な山奥の崖に咲く、幻のランだ。
「獣唄」というタイトルはこの花にまつわるものなのでネタバレを防ぐため控えるが、三人娘は結束して幻の花を追う。しかし、その一人一人をとてつもない悲劇が襲う。
今回、主役とも言える3人娘が客席に感動を巻き起こした。鬼気迫る表情と演技、胸に突き刺さるせりふ回し。村井国夫を凌駕する出来栄えだ。この劇団が得意としている光と影の演出が今回も威力を発揮した。
私がこの劇団でイチオシのもりちえは今回、花買い会社の社長の奥さん。世間知らずの娘とのシーンがしっかりしていて、脇をがっちり固めた。
恒例のラストシーンについてはネタバレBoxに。
桟敷童子。今回も見ないと損するぞ。

ネタバレBOX

桟敷童子の舞台は、ラストシーンの大展開が魅力なのだが、「オバケの太陽」がオレンジ色の嵐なら、「獣唄」ではアナと雪の女王も顔負けの青と白の乱舞で締めた。人間の存在を激しく拒絶する吹雪。これを見るだけでも価値がある。

もりちえの娘役の羽田野沙耶香さん。開幕前の口上「携帯電話は電源からお切り下さい」の中で、「携帯電話の充電は大丈夫でしょうか」と想定外の注意事項が登場し、しっかり笑いをとった。客席への誘導でもりちえと沙耶香さんはしっかり働いていて、この母娘。舞台外でもきわだっていた。

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