おけい@広島の観てきた!クチコミ一覧

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雉はじめて鳴く

雉はじめて鳴く

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2020/01/10 (金) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

演劇鑑賞会にて 2023.8.2

鋭い観察眼と綿密な取材を元に人間や題材を多面的にとらえる戯曲で数々の賞に輝く横山拓也(俳優座HPより)の作品ということで、かなり期待していた。
3年前の評判作とは思えない、拍子抜けの舞台だった。役者が、とても高校生には見えなくて戸惑う

健の父親が自分の母親の介護を選ぶのも息子として一つの選択かもしれない。だが、自分や家庭を捨てた夫に彼女はどれ程絶望し苦しんだろうか。母子家庭の生活苦から酒や薬に溺れた彼女を私は責められない。養育すべき我が子に依存してしまうケースも珍しくない筈だ。
彼女は果たしてモンスタークレーマーなのだろうか?

結婚願望がありながら、同僚の既婚教師戸倉と不倫をしていた教師の浦川に、これもまた「結婚の現実」であることを垣間見せたかったと思う。

わずかな間に劇的に変わっているジェンダー観の変化に舞台はついて来られたろうか。

ら抜きの殺意

ら抜きの殺意

演劇企画室ベクトル

広島市東区民文化センター スタジオ2(広島県)

2023/07/29 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

幕開け、巧い役者なら、最初から受けただろう芝居がなかなか弾まない。ら抜き言葉とそれを嫌う男の対立が、やがて後半、「女言葉じゃ、相手に気持ちは伝わらないよ」と八重子(油野昌子)に言われ、女言葉とヤンキー言葉を使い分けていた遠部(梅田麻衣)が伴(渡辺結人)に必死に自分の言葉で話そうとする場面がいい。伴に素気無くされても挫けない彼女はまるで別人のようだ。

新しいことばを見つけようとする女と、原点回帰のように昔のことばに還ろうとする男と。
その対比が、もともと永井愛の原作にあったものなのか、現代のお客が芝居で観て際立って見えたのかは、よく分からないが、今この戯曲を上演する社会性や批評性が見えて良かった。相原大樹と渡辺裕人の意外に達者な山形弁も心地よい。

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2023/06/29 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

監督の松村(岡本篤)の、「今の目の前の仕事に懸命になれなきゃ、本当に自分のやりたい仕事など永遠に来ないってことに…」って、台詞に虚を突かれた。
人一倍走り回り、人一倍憤慨していた藤原(清水緑)の芝居がいい。

共演者全員が手に手にこん棒や銃を持ち、異星人を追い詰める場面は、まるで関東大震災の朝鮮人の虐殺を思い起こさせる。それぞれが、家に帰れば家族を愛し、仕事にいそしむ普通の人々の常軌を逸した狂気と豹変した姿に心が凍った。

ROUND9.5『ベースブルース』

ROUND9.5『ベースブルース』

INAGO-DX

広島市南区民文化センター スタジオ(広島県)

2023/05/13 (土) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/14 (日) 11:00

イナゴDXは、10年以上の活動歴のある地元の社会人劇団である。

今回は、50年前の連合赤軍事件の舞台化に絡めて演劇界のパワハラを描いた、東京で上演されても不思議の無い野心的な作品。
意外に悪役の似合う久保幸路 を始め、役に合う俳優の起用も功を奏した。

弱さに寄り添う純粋な正義感が、なぜ人を傷つけて仕舞うのか? 
その後も数多の事件を引き起こした若者の正義感の独りよがりの危うさとその痛々しさに、胸を衝かれる。

終幕部、理由を伝えダメ出しする演出や役者が自由に思いを述べる稽古場シーンが清々しい。

シェアの法則

シェアの法則

劇団青年座

ザ・ポケット(東京都)

2021/01/22 (金) ~ 2021/01/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【鑑賞団体例会にて】2023.3.27

ひきこもりの男、わけあり技能実習生、キャバクラ勤めのシングルマザー、大家父子の借金問題、親に内緒で役者をやる青年まで。よく2時間の芝居に放り込んだものだ。お互いが微妙に影響し合い進行する舞台がとても自然でいい。

思い通りにならないことにイライラしていた自分に気づく。廻りと分け合う(シェアする)ことで、少しずつ大きくなる幸せの不思議さ。

そんな舞台に、肩の力がふわっと抜けたような気持ちだった。

ネタバレBOX

終幕、「イタリアンオムレツ🐣美味かったよ」父と息子が分かり合った台詞にグッときた。
私の戦争

私の戦争

寅卯演劇部|2022年末日解散しました

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2022/11/19 (土) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

福島で被爆し広島に越してきた少女や南方諸島に沈んだ英霊の話、
赤ん坊を被爆で亡くした老女、孫を津波から逃がすため嘘で追いやる祖母、
本音を隠して偽の自分を頼りにされるアジア系2世の少女。

個人の戦争から本物の戦争まで、次々に演じられ、
被害者はヒロシマだけでないという視点がいい。

何役もこなす役者たちがそれぞれの役を巧みに演じ、
中岡久美子の世界観に彩りを添える。

岸田國士戦争劇集

岸田國士戦争劇集

DULL-COLORED POP

アトリエ春風舎(東京都)

2022/07/05 (火) ~ 2022/07/19 (火)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

「動員挿話」
戦前の戯曲なのに、これって分かる~というあるあるが岸田國士の芝居の面白さだ。
大概の男はたとえ最愛の妻がどう言おうと、世間体や仲間内の見栄からは逃れられないものらしい。
死んで見せたところで、無駄なのだ。

「かへらじと」
地区の原爆慰霊式で献花をしてきた。
国家のためだろうと、友情のためであろうと、戦争は人殺しに行くことだ。その先に何の仕合せがあるだろうか。
手柄を認めた将校役と息子の求婚に出向いた父親を同じ役者に演じさせた。そこに批判的な意図を感じる。

ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ダイニングテーブルと三脚のイス。登場人物が3人だけの80分のお芝居。

前半は、うだうだになるかな、と心配になったが、後半の意外な展開が目を瞠る。
パラダイムシフトと言うほどじゃないけど、発想の転換が、鮮やかだった。

シンプルな舞台美術と思ったら、衣装も小道具もコマメに変えてて、下手の寝室と、玄関のある上手と台所やふろ場の空間の雰囲気がさりげなく感じられ見事。

時間の流れと忘れられない記憶と。
こじらせ男の恋は、叶うのだろうか。
意外なところから、救いの神ってのが、いい。

同じ芝居を別々の役者で見せる趣向が面白い。ほかのチームを見られなかったのが残念だ。
白いゴンドラ鑑賞

友達

友達

シス・カンパニー

サンケイホールブリーゼ(大阪府)

2021/10/02 (土) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

鑑賞日2021/10/05 (火)

不条理劇らしいと聞いて、ちょっと嫌な予感がしたのを覚えている。一度も舞台を観たことがない演出家だった。

案の定、客席の私は最初から沈没した。
9人の闖入者があったら、私なら、過呼吸になるくらい驚愕するだろう。9人なのだ、衝撃は半端ない筈だ。あんなに安易に受け入れてしまうものだろうか。
この、リアル感のなさに思いっきり退いた。

もうダメね。ちっとも芝居に入り込めない。
かつていろいろ観た、別役さんの不条理劇。けっこう笑えちゃう部分もあって、面白かった覚えがある。

浅野和之(祖母)、キムラ緑子(母)、鷲尾真知子・・。
この豪華なキャストに期待しない演劇ファンはないだろう。その彼らが端役を演じたのだ。
この「無駄に豪華」な配役陣で1時間30分の舞台だった。

床に設置された、どこでもドアみたいなところから、男以外のいろいろな登場人物が出現する。男と闖入者9人以外の登場人物が、太い綱でつながれている。だから何だって訳じゃないけど。繋がれた奴のとこにはアイツらはこないってことのようだ。

少しずつ追い詰められていく男(鈴木浩介)がちっとも気の毒に思えない。
最後に男は、布で覆われた牢屋の中で毒入り葡萄酒を呑まされ、吐血して死ぬ。流れ出た血が徐々に広がっていく終幕部。
吐血ってあんなに血が出るものだろうかと思わずツッコミを入れたくなった。

サスペンスドラマだって2時間は楽しめる。1時間半の芝居に、私は何を期待して来たのだろうか。
そんな私が何よりも、不条理・・!

青年団「東京ノート」

青年団「東京ノート」

枚方市総合文化芸術センター指定管理者 アートシティひらかた共同事業体

枚方市総合文化芸術センター/関西医大・小ホール(大阪府)

2021/10/08 (金) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/10/08 (金)

青年団はレパートリーを一定期間ごとに再演してくれるので、地方に住む平田オリザが言うところの「ボクのお客さん」たちは、安心して、好きな芝居の再演を待つことができる。
何年ぶりの「東京ノート」だろうか。
こけら落としの劇場で、久々の「東京ノート」だった。一新された舞台美術がとてもオシャレ。

通常、芝居で台詞が重なることはほぼないが、同時多発演劇の舞台に最初は慣れるまでちょっと戸惑う。
聞いて欲しい会話は巧妙にクローズアップされるので焦ることはないのだけれど。

遺産の絵を相続する問題や高校時代の家庭教師との火遊びやら平和運動をしていてその後堅実な仕事に就いた学芸員の意外な前歴やら・・。まるで人の噂話を立ち聞きするような舞台に観客は耳をひそめる。同じ舞台を観ても、その時の自分の関心事やら経験でハッとする場面が違うのが面白い。観客ひとりひとりの「東京ノート」である。

<ネタバレへ>

私の場合、苦しい時に、女同士はこんなふうに助け合えるんだと、胸がキュンとした。舞台が、自分の生きてきた人生にスポットライトを当ててくれるようで、平田オリザの再演舞台は毎回楽しみにしている。

ネタバレBOX

義姉の由美(松田弘子)の美術館めぐりにつきあう次男の嫁の好恵(能島瑞穂)、あまり絵に詳しくない彼女は感心しきりなのだが、そのさりげない会話を重ねる中で、終演近く唐突に、夫に泣きながら「好きな女ができたから」と別れを切り出されたと打ち明ける。

どんなに親しく付き合っていても、離縁すると別れた妻は夫の親類とは通常付き合いが無くなる。
こっちが泣きたくなると白状した好恵に、由美が泣いた方が負けだという”逆にらめっこ”をする終幕部。
ヒッキー・カンクーントルネード

ヒッキー・カンクーントルネード

ハイバイ

山口情報芸術センター YCAM スタジオA(山口県)

2021/09/10 (金) ~ 2021/09/11 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

【Amazonプライムビデオ】岩井秀人特集
・『て』2018年上演 (1時間50分)
・『夫婦』2018年上演 (2時間2分)
・『ヒッキー・カンクーントルネード』2010年上演(1時間21分)
・『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2010年上演 (1時間57分)
・『投げられやすい石』2010年上演(1時間11分)

観に行く予定にしていた山口情報芸術センターの公演が急遽中止になり、ガックリしていたところだった。Amazonでまとめて観ることができてよかった。

まず最初に観た『て』は、浅野和之が出ると知って観に行こうとぎりぎりまで迷って諦めた公演。舞台に登場した浅野がカツラを付けながら、携帯電話の電源を切る等の諸注意をし、そのまま芝居がはじまる。女性(母親)の役を男優が演じるのはハイバイのお約束らしい。声もしゃべり方も特に変えないのに、違和感なく母親に見えるのは役者が巧いせいか・・?
田舎の実家に親類が集まってという経験があると、いちいちあるあるの感覚で、ちゃぶ台とその他すこしの小道具があるだけで、いろいろな場面を演じても全然ついていける自分に驚く。

次に見た『夫婦』が一番面白かった。おススメよ。
岩井秀人の芝居は、私小説ならぬ私演劇と呼ばれているらしい。本人役も登場するが、岩井が演じているのは問題!の父親役。あとから写真をみて衝撃だった。まるでロールプレイのカウンセリングみたいじゃん。子どものころから兄弟で殺害計画まで立てて憎んでいた父親を演じる心境ってどんなだろ。
母親役は髭面まま! 山内圭哉が演じている。
役者が舞台の上で衣装を着替えながら、何役も演じるのだが、見ている観客は全く戸惑うことはないと思う。
普通の青年だった男が、結婚したとたんにDV男に豹変する。運が悪いと多くの女がこんな目に遭う。それでも死因が納得できずに医療ミスを追及する家族、この不可解な心理を舞台は圧倒的な臨場感で演じ出してくる。
観客は、自分の中の苦しさを受け留めて貰ったような奇妙な安らぎを感じるのではなかろうか。まるで幼子のように。

次に、観劇の前にぜひ観てから来てほしいと岩井が言っていた『ヒッキー・カンクーントルネード』
そして、公演中止で観に行けなかった『ヒッキー・カンクーントルネード』、これは岩井の処女作で、一連の作品を発表後、もう新作は書かないのだという。
分かったようなつもりでいた自分が間違っていて、そういうことかとやっと分かろうとした挙句、再び突き放されるという、まるでジェットコースターのように私の心が揺さぶられる。

『投げられやすい石』は、演劇版人間失格って感じ。
みっともなさ、情けなさを、あんなふうに舞台の役者で見せられるのは、観客の精神衛生上すごくいいと思う。

丘の上、ねむのき産婦人科

丘の上、ねむのき産婦人科

DULL-COLORED POP

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2021/09/01 (水) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/05 (日)

男優が女性の役を演じる〔B〕バージョンを観劇した。
男の役者が、お腹の大きい妊婦役を演じる。全然違和感を感じなかったのは私がかつて、だったら男が子どもを産めばいいじゃないと思った経験があるせいかも知れない。

スカートをはいてイヤリングもつけてる、これは妊婦を男の役者が演じているのだと気づくと、仕方がないと諦めていたあれこれが強烈に蘇えってくる。
大きなおなかで満員電車に乗って通勤した。つわりのしんどさをいくら説明しても不機嫌に黙るだけだった夫、子どもの名前は夫の両親が決めると言われた時のこと、義実家に行ったときに知らない親類にたくさん頭を下げたこと等など。

高卒で街に出て同棲しているアイが妊娠していたことが分かる一場が切ない。子どもが産れるということがどういうことか。お金のこと、生活のこと、二人の今後のこと。現実的にあれこれと思いめぐらす彼女。戸惑いながらも、俺、頑張るよと言いながら、ちっとも頼りにならないアキト。現実の生活では子育てどころか、出産費用の捻出さえ覚束ない。
真面目に考えた挙句、中絶を選ぶしかない若い二人がどれだけいるだろうか。その裏で不妊治療に数百万を掛ける夫婦もいるのが日本の現実だ。(三場)

夫に収入があり贅沢な専業主婦となったマキ(四場)、女性が憧れるほどには、現実は幸せじゃないかもと私は思う。何をするにも背景に、誰が稼いだ金だ、という男の思いが透けて見える。
夫の身体を気遣い、先回りして夫の思いを酌んで行動している自分。この私のことを少しでも分かって欲しいという女心はやっぱり身勝手なのだろうか。

管理職の激務をこなしながら、二人目を妊娠した妻は部下の失敗の後始末で睡眠時間もままならない。上の子の世話は夫が引き受けている。(六場)
「君の変わりはいくらでもいる。育休を取ってくれ」という上司の言葉はショックだろう。お腹の子どもを疎ましく思う瞬間もあるに違いない。赤ちゃん、無事で良かった。

舞台を観ていると、女優が演じていたせいか、相手の男は、総じて女を分かろうとし、相手のために頑張ろうと思っている様子が見えて、ハッとした。想定以上に男は不器用で、しかもそのことに当人が気づいていない。

田舎で、大勢のお腹の大きい浴衣姿の妊婦たちがお喋りをしている。(八場)
本当なら負担を減らす紙おむつや瓶詰の離乳食を敵視し、布おむつを使い手作りの離乳食にこだわる頑なさは女同士の中にもあった。帝王切開で産む女を軽んじる視線も。
女を縛り付けているのは男の無理解だけじゃないのでは?という指摘を劇作家の谷賢一から言われるとちょっとカチンとする。
確かに、大人世代だけではなく、若い人にもけなげな女性像にしがみ付くところがあるのだ。

帝王切開を躊躇うアサコに、君ひとりの子どもじゃない。二人の子どもだと言って、彼女をうながすアキオ。

オンナにしがみ付くのではなく、オトコにこだわるのでもなく、一人のニンゲンとして考えていきたい。

それにしても、本当に男が子どもを産んでくれるといいな。
どんなに自由に生きられるだろうか。夢を諦めずに生きられたろうかと。

一九一一年

一九一一年

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2021/07/10 (土) ~ 2021/07/18 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

紅一点で登場する菅野寿賀子(号は幽月)がカッコいい。
自由とは、と問われて英語では「リバティ」と彼女は答えて説明する。

リバティって、「自由」はフリーダムじゃないの!そこでググってみた私は衝撃を受ける。
Freedom→最初からあるもの。何の制約もない状態。
liberty→自分で掴み取るもの。不自由な状態から抜け出して得た「自由」

彼女は、自由とは「自分の顔を持ち、自分の名前を持ち、自分の頭で考え、自分の口で語る」ことだという。

昂然と頭をあげ、周囲で脅したり賺したりする検察官、恋人の変節や同志たちの不公正な逮捕やらに動じることなく、自分の信じたことだけを申し立てていく。

忖度と保身で右往左往する官の側の男たちの中で、その彼女の姿勢が静かに輝いて見える。

出世がエサの命令を実行するか(平沼騏一郎)、どうせ誰かがやる仕事としてさっさと片づけるか(武富 済・小原 直)、命じられた以上従わなければ馘首になると恐れて実行するか(潮 恒太郎)、それぞれ忖度の相手は違っても、こうして不当な判決がでっち上げられていった。
権力側(横田国臣・鶴 丈一郎・末弘厳石)は、イザという時にトカゲの尻尾切りで現場の人間に責任取らせるように周到に準備までしている。

それなりに地位も権力もある男たちが寄ってたかって無実の人間を絞首刑にしてしまう。このような明治時代の国家権力は終戦で消滅したのだろうか。

まるで喉に詰まっていたものをぬるりと飲み込むような感じを観ている側の私は味わった。
・・・どこかで聞いたことのある、お馴染みの報道やニュース。

それを一方的に責めることは私にはできない。私の中にも忖度や不正に目をつぶろうとする芽が・・確かにあるからだ。

生きるということは、何かに絡めとられることだと、気づく。

幽月さん、戦後生まれの私でさえ、まだ自分の頭で考え、自分の言葉を持つことは難しい。
忖度する自分を跳ね返す力はどこにあるのだろうか。

フェイクスピア

フェイクスピア

NODA・MAP

大阪新歌舞伎座(大阪府)

2021/07/15 (木) ~ 2021/07/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

評判はいいらしく、観に行く人はネタバレ感想は読むな!とあちこちに書かれていた。まったく予備知識なく出かけた。7月25日が楽日である。コロナ禍の中、奇跡的に東京・大阪公演とも一日も中止にはなかった。

大好きな橋爪功や白石加代子も出ていて、野田さんはシェイクスピア役、肖像画通りのハゲでブルマーみたいな衣装で出てくる。
芸達者ぞろいの少数精鋭の役者と大勢のコロスたち。
互いに神様から授かった言葉の箱を取り合うドタバタごっこ。
シェイクスピアのリア王とオセローとマクベス・ハムレットの父王の亡霊シーン、女役を高橋一生が演じ、主役は橋爪さんがさらりと演じてみせるシーンはオイシかったが、いつもの難解な言葉遊びはなくて、ちっとも野田秀樹を観に来たという感じがしない。
こりゃ、駄作かなと思った。

<ネタバレへ>

30数年前に気が付いていれば、こんな状況になならなかった環境問題。「永遠プラス36年前」という謎の言葉に、私はそんなふうに合点がいった。ノンフィクションにしてはいけない!

もし地球が気候変動により元の地球に戻れない、引き返せなくなったとき、自分の命を顧みず必死で生き残る可能性のために戦う人間がいるに違いない。だが多くの乗客が助からなかったように大多数の人類は滅びてしまうであろう。

神様の言葉の箱を奪い合ったドタバタぶりは、私たちの姿だったのだと。

ネタバレBOX

ところが終盤、箱の中身がボイスレコーダーの声であることが分かって、ぼんやり観ていた私の目が一瞬で冴えた。
機長に扮した高橋一生と副操縦士伊原剛志のカッコいいこと!

御巣鷹山の日航機墜落事故が再現され、コロスが扮した乗客が冷静なスチュワーデスの指示に従う機内の様子は、キャスター付の椅子と互いを繋ぐポールの動きと巧みな演技で演じてみせる。
迷走する航空機内の緊迫した様子に観客席の私も息が苦しくなる。

墜落までの30分間、この絶体絶命のピンチの中、必死に操縦するパイロットの姿、「アタマを、頭を上げろ!」と叫ぶボイスレコーダーの声。事故後、何度も何度もテレビ等で放送された声が鮮やかに蘇える。「永遠プラス36年前」である。
日本人のへそ

日本人のへそ

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2021/03/06 (土) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

チケット代が1万円になりすっかりご無沙汰のこまつ座であるが、評判だという「日本人のへそ」。この舞台写真をみて、俄然、観たくなった。ミュージカル界のプリンスと言われている井上芳雄がチンピラやくざの役を演じるって? 見たいじゃん、やっぱり。

どもりの矯正のための芝居と称して、劇中劇中劇という入り組んだ構造、どんでん返しの連続で舞台は進行する。

井上芳雄が、どもりのサラリーマンから岩手の貧しい出稼ぎ百姓、やくざの若頭?アメリカの大学教授と、ふり幅の大きい何役もをこなすだけでなく、出演者全員がおなじようにふり幅の大きい何役もの役を早変わりで演じて見せてくれるのだ。

芸達者な役者たちで、お得意のお芝居だけでなく歌や踊りも巧みに見せてくれてる。役者の歌はプロの歌手より上手く、踊りはプロのダンサーより上手くないと舞台では通用しないと聞いたことがある。まさにこのエンターテイメントはプロの実力のある役者だからこそと思う。

演じられるのは、社交界の恋物語などというロマンティックな話ではない。農村の貧困・女性差別・ジェンダー・非正規労働の格差・政治の不正などをなんとも楽し気に歌って踊ってみせるのだ。嘘とペテンの浅草を人間世界はもとよりこんなものだというように生き生きと描いている。
圧巻は、職人の親方からやくざ、右翼の親玉、政治家と延々とつながる男のホモセクシャルな関係で世の中が動いている様子をこの和製ミュージカルは実に楽し気に演じ上げていく。
児童合唱団に扮した役者たちが、世の中の不正や残酷さをエロい歌詞ときれいな合唱で歌い上げていくシーンは舞台の毒がたっぷりと味わえた。笑いのめしてしまう痛快さの中にチクリと風刺。

セーラー服からストリップ嬢、政治家の東京夫人へのなりあがっていく役を演じた小池栄子の脱ぎっぷりの良さと着物姿の貫禄に、驚いた。

演劇の舞台で井上芳雄を初めて見たのは、2013/1/29 広島市文化交流会館での「組曲虐殺」の広島公演である。ミュージカル界のスターも芝居は今一つだなと思った印象がある。ところが、いまやもう堂々たる役者っぷりではないか!やっぱり生で観に行きたいよ~と思った私。

全国巡演はまだ公演中です。悩ましい限りだ。

帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

劇団チョコレートケーキ

AI・HALL(兵庫県)

2021/03/13 (土) ~ 2021/03/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

昭和16年4月より各官庁・陸海軍・民間から選抜された若手エリートの研究生たちに総力戦体制に向けた教育と訓練が行われた。同年7月から8月にかけて、第一期生による模擬内閣演習(シュミレーション)が予測した結果は、日本必敗だったという。その年の12月8日、真珠湾攻撃により太平洋戦争が勃発した。
事前にシュミレーションし結果も分かっていたのに、なぜ?と思う。

ネタバレBOX

その第一期生たちが戦後、メンバーの一人の死をきっかけに未亡人の飲み屋で追悼の集まりをすることになった。未亡人に聞かせるようにして、彼らは劇中劇で戦時中の実際の閣僚や軍人たちを演じて見せるという趣向で舞台は進行する。

歴史の授業では明治の富国強兵までしか習っておらず、その後の特になぜ太平洋戦争が起こったのかは、私にはずっと謎だった。
軍部の暴走だったとか、マスコミ(新聞)が国民を煽動したとか、石油を止められてやむを得なかったとか、・・。

今回の劇団チョコレートケーキの芝居は、文官の暴走を描いている。もちろん悪役は総理大臣近衛文麿と外務大臣松岡洋右である。
近衛は対米戦に大きく舵を切ることになる政策決断をした首相であるが、国民の熱狂的な支持と人気を誇っていた。
松岡外相は国際連盟脱退の時の写真が教科書にも載っていた。日独伊三国同盟の立役者である。

戦後数年、各界の若手エリートたちは結局さほど出世コースには乗らず職を辞した者もいた。その彼らが久しぶりに集まって開戦前の閣僚と軍人たちの野心と、思惑が外れて日米開戦に追い込まれていくまでを生々しく演じて見せる。
日米の軍事力の格差をよく知っていたのは軍人のほうで、文官である首相や外相が分不相応なユーラシア大陸の覇権を夢見ていたことに驚く。
フィクションとはいえ、教科書では教えない内容だ。
その小気味よさが歴史オタクの私には興味深く納得できることが多かった。

「お開き」の前に岡田(岡本篤)が死んだメンバーの一人は戦後の悲惨な状況の中で自分を悔いて病に倒れたことを告げる。そして岡田自身が偶然仕事で広島に出張しそこで原爆に遭った話をする。膨大な数の死人を見たと。自分たちは負けることを知っていた。日米開戦がなければ、この大勢の人たちは死ぬことはなかったと自分を悔いたと吐露する。

ほかのメンバーたちは、アメリカと戦えば必ず負けることを知っていたのは自分たちだけではなかったと文句を言った。それにあれ以上当時の内閣に対米戦に反対と主張することは省庁や軍に戻ってからの自分の立場が危うくなると口を噤んでしまったのである。

納得をしない岡田に急かされるようにして、やがて彼らは本気で当時の内閣に対して対米戦を阻止するための計画を立て始めるところで・・舞台は終幕となる。

気候変動危機、政治の不正、格差の助長への動き・・・、それがよくない動きであることは、自分だって知っているのだ。
でも動かない。突然何かの行動を起こして、うまくいくとは思えないし周囲から浮き上がってしまうことも怖いのだ。

歴史オタクで戦争時の政治の動きの真相を知りたいと思って芝居を観に行ったのに、いつの間にか舞台は、そんな私自身に何かを静かに問うてくる芝居になっていた。舞台を見て流したのは、悔し涙だった。

観客として立ち会ってしまった以上、自分が考え何らかの行動を起こすことを舞台は求めているのだと思う。

*帰還不能点は、航空用語。
ニンゲン畜生奇譚

ニンゲン畜生奇譚

グンジョーブタイ

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2020/11/13 (金) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★

名古屋の人気劇作家佃典彦の新作、劇団にアテ書きしてくれたらしい。この舞台だったら、よそからわざわざ観に来てもらっても地元のファンとして鼻が高い。
しっかり作りこまれた舞台セットにほぉ~っと思った。
奇抜な題名と洒落たフライヤーに驚くが、芝居は(おそらくコロナ禍以降に)山奥の過疎の村で自給自足の生活を始めた夫婦と村役場の担当者、毎年訪れるゼミの大学生、それを取材に来たテレビ局員、謎のJTT協会の人たち、その一晩を描いたリアルな近未来世界の舞台だ。
荒唐無稽にならない現実感がいい。ぶっきら棒な物言いの向こうにその人物の思いが見えた時、ジーンとくるプロセスが実に巧い。
誰か客演なの?と訝るくらい、こんなに上手い若い役者が地元にいたのかと目を瞠った。
ホントは、コンビニとネットとゲーム三昧の超便利な生活が大好きなのに行きがかり上、この自給自足の生活を始めることになったと言う、ららら村長のスズキの述懐がツーカイだ。
ゼミで訪れた3人の大学生の其々の思いがちっとも伝わらなず行き違いのままなのも、現実はこんなものよねと気持ちが楽になる。人間は思い通りに生きられなくっても、それなりにしあわせに生きられるものだ。
みんなが一緒に朝ごはんを食べ始めるラストシーンがいい。原始時代からニンゲンにとって、しあわせって結局このささやかな営みのことなのかもしれない。
中国劇王の独善的な辛口批評の佃さんの中には、こんな優しさが隠れている。佃典彦の他の作品舞台も観に行きたくなる。

白石加代子「百物語」

白石加代子「百物語」

メジャーリーグ

倉敷市芸文館 ホール(岡山県)

2020/11/17 (火) ~ 2020/11/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

白石加代子の「百物語」はYouTubeでも一部見られるが、観客席の私だけのために目の前で演じてくれる生の白石加代子が観たかった。
一旦終了した「百物語」だが、大事に取ってあるという、びっしりと書き込みをした上演台本を観ているうちに再開したくなったという。

白石加代子の百物語アンコール公演は夢枕獏「ちょうちんが割れた話」筒井康隆「如菩薩団」半村良「箪笥」和田誠「おさる日記」の4本立て。少年から老婆まで見事に憑依する白石加代子を堪能した。

最後に舞台の中央で白石が、「このような状況の中で舞台にお越し下さった・・・」と述べた後に口ごもったように一瞬黙り込み、「ありがとうございました」と挨拶した。
舞台は一期一会だ。来てよかったと思う。

ネタバレBOX

「ちょうちんが割れた話」は、暗転の舞台の上を白石が動きながら語っていくのがわかる。姿が見えないのがもどかしい。
そして、圧巻はやはり「如菩薩団」、上品でインテリだがつましい生活を強いられる団地の主婦たちによる悪逆非道な強盗団のお話。役に合わせて、高価ではないだろうが橙黄色のカラフルなドレスを上品に纏った白石がうっとりするほど素敵だ。強盗に襲われても育ちのいい人間はあんなふうに覚悟して死ぬのだろうか。これはもう敵わないなと苦笑い。
幕間休憩20分をはさみ「箪笥」、行燈の明かりが設えられ、一段高く設けた席に座った白石が演目を読み上げた、ぺたんと体勢を崩すと次の瞬間に奇妙な老婆の話が始まる。聞きなれない方言のせいで話の筋が朧にしかわからないのだが、コミカルさの中にじわじわと怖さがくる風変わりな怪奇譚だ。
高座から降りて舞台中央にたった白石はそのままの姿で、たどたどしい少年の声で「おさる日記」を読み上げる。登場する母親と父親の見下すようにも感じる落ち着いた声音の意味は、ラストで分かる。
The last night recipe

The last night recipe

iaku

AI・HALL(兵庫県)

2020/11/05 (木) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

題名の『The last night recipe』は最後の晩餐という意味だという。舞台は、結婚して1年後に、妻のヨリが夕食を食べた晩に急死するところから始まる。その日、彼女はコロナのワクチンを受けていた。接種体験込みの体当たり取材を担当していたのだ。
周囲の達者な役者たちのせいで、ずいぶんとリアルな近未来劇(2021年)になっていた。相変わらず役者の出捌けが巧みで舞台転換が上手い。
コロナ禍のせいで常連客が減り店を閉めたラーメン屋の店主(緒方晋)はリョウヘイの父、会社を早期退職したヨリの父親(福本伸一)は娘が可愛いばかりでちょっと頼りない。リモートワークで経理の仕事をしながら大黒柱になるヨリの母親(竹内都子)の本音トークが小気味よい。ヨリの相談に乗ってくれている先輩ライターの綾(伊藤えりこ)、ヨリが猛アタックして恋人になった得意先のハヤタさん(小松勇司)。
中卒でずっとラーメン屋の下働きをさせられていたリョウヘイに興味を持ち、この取材対象と突如結婚してしまったヨリ。彼女は30歳を前にフリーライターの正念場で少し焦っていた。
何を考えているのか解らないこの二人の、突拍子もない行動、あるいは何も行動しない、そのことに観ている方はまるで感情移入できず、困った。
コロナワクチンの薬害か、取材のために結婚させられた夫による殺人か、舞台はサスペンスタッチで進むかに見えたが、ユリの急死の前の出来事とその後が行きつ戻りつしながら物語は新たな様相を見せ始める。
ヨリは結婚生活での二人の夕食を last night recipeとしてブログにアップしていた。この同じメニューをもう一度食べてみて、リョウヘイはラーメン屋の父の許に帰る決意をする。
もう以前のように、人と会い、喋り、食事を共にしても、コロナ禍の後では、そのことの意味は全然変わってしまっているんだと、私は感じた。
人気劇団の新作舞台、観て戸惑った観客が多かったようだ。

『だけど涙が出ちゃう』

『だけど涙が出ちゃう』

渡辺源四郎商店

四国学院大学ノトススタジオ(香川県)

2020/02/08 (土) ~ 2020/02/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/02/09 (日) 12:00

こちらは「どんとゆけ」の前日譚として書かれた工藤千夏の新作。題名はスポ根アニメの「アタックNo.1」から取ったもの。ほぼ同じ舞台装置、被害者家族に死刑を執行させるという設定も同じである。どんとゆけに登場する青木しの、彼女の生い立ちと思春期に遭遇したある事件が描かれる。畑澤によると「どんとゆけ」のエピソードワンだそうだ。

アフタートークで、作者の千夏さんは、「とんとゆけ」と真逆の殺人犯を描きたかったと話した。果たして神原医師は、青木しのの実の父親であろうかと聞かれ、どうぞ、その謎は観劇後までお持ち帰り下さいと答えた。

ネタバレBOX

死刑囚は余命いくばくもない患者4人を鎮静剤を使って安楽死させた神原医師。3人の被害者家族が執行を辞退したために、4人目の被害者の家族、姉の百田正美宅のある青森に連れてこられた。
正美は妹の乳がんを知り、有名な専門医である神原医師を青森に呼び寄せた。彼は、看護師をしていた正美を捨てたかつての恋人で、いつの間にか又妹にかつての恋人を奪われた経緯がある。
未練がある彼女は、どうしても神原を救いたい。
残された娘(青木しの)を男で一つで育てている妹の夫。たくさんの患者を救ったであろう乳がんの名医である彼を一旦は許しかけたものの、その後の週刊誌の記事で、「愛していたから苦しむ姿を見られなかった」という神原の告白に逆上、妻を奪った男への憎しみが消えないでいた。
前日までの正美の必死の説得で、翻意しかけていた。

ところがこの日、事件当初から家族同然に可愛がっていたペットの犬(名前は妻の愛称と同じ「カズチャン」)が死んだ。治療の施しようがなくかかりつけ医により安楽死させられたのだ。家族同然に可愛がっていた愛犬の安楽死が、15年前、愛する妻を理不尽に殺された事件への怒りを思い起こさせたに違いない。

刑務官と高校生の青木しのと3人になった時に、神原が娘に学校はどうかと聞く、クラブ活動はと。医者になりたかったけど成績が悪いから諦めたというしのに、大丈夫だよ僕だってなれたんだからと話す場面、まるで久しぶりに再会した娘のように。

何としても元の恋人を救いたい正美は、事件の前日に妹から託された手紙を嫉妬に駆られて焼き捨ててしまったと告白する。きっと手紙には安楽死の願いを書かれていたに違いない。患者の意向ならば、神原医師の行為は罪を減ぜられるのではないかと、刑務官に願い出る。

焼き捨てられた手紙がもしあったとしても、死刑の罪が減ぜられることはないでしょうと言われ泣き崩れる。正美は絞首刑ではなく、鎮静剤による薬物死への変更を願い出る。

神原は二階の刑場に向かう前に、手紙の内容は、「ごめんなさい、しのは、あなたの娘じゃないの」と書かれていたと明かす。しのに向い、きみの身体には殺人者の血は混じってないんだよと言い残して。

執行される死刑囚は最後に讃美歌で送られる規則だ。しのの澄んだ歌声の讃美歌の中、まるで教会の階段を登るように、2階に設えられた死刑場に向かう神原医師。(上演時間75分)

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