おけい@広島の観てきた!クチコミ一覧

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vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★


三好十郎『廃墟』。戦後の混沌を描いたはずの芝居なのに、私の心が揺さぶられたのは何故だろう。
明日食べる物もない中、色恋も絡み、家族が「負け戦」をめぐって互いを罵り合う。誰の言葉にも「そうかも」と思ってしまう私は、まるで正しさを見失っていくようだった。
パン泥棒が、疲れ果てた家族と客席に向けて静かに頭を下げる。その姿に怒りも反感も感じない自分はいったい何なのだろう。

三好十郎の芝居は、もっと観念的で、非現実 的な台詞劇だろうと身構えていた。目の前で繰り広げられたのは〈感情のぶつかり合い〉だった。思想を武器に家族とぶつかる姿に、自分がどこかで避けてきた“古い情熱”の膿が引き出されたようで、終演後は付き物が落ちたような気がした。

俳優陣も鮮烈だった。 長男・誠(長谷川景)は、生真面目すぎて怖い。共産党的な理想論が、なぜか目の前の現実よりも切実に感じられた。
次男・欣二(倉貫匡弘)は、舞台でもロビーでも昭和のイケメンそのまま。
せい子(川崎初夏)は、DV男と甲斐性なしの間で揺れる哀しみが胸を打つ。

「理想なんて捨てて生きろ」と言われても、簡単には捨てられない人がいる。
そんな人こそ、いま、時代に一番必要なのかもと思った。

—終演後の私は肺の中のモヤモヤが晴れたようで、「明日からのことを考えよう」と思った。
観に来てよかったと思う。

りすん 2025 edition

りすん 2025 edition

ナビロフト

岡山芸術創造劇場「ハレノワ」小劇場(岡山県)

2025/07/19 (土) ~ 2025/07/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

岡山公演を観劇。
きっかけは、アステールプラザの舞台技術講座で出会った舞台監督・山中秀一さん。
この「りすん2025」ツアーに関わると聞いて、面白そうだと思った。

観客席三方に囲まれた小さな空間。
2時間の芝居は、私を予想もせぬ世界に連れて行く。
簡素な舞台美術に、音と光、役者たちの緊張感が加わることで、空間は広がり、鋭く変化していく。

観劇後、ハレノワ1階の喫茶室での「劇場デ読ム会」に参加。
原作を読んだファンの熱量に圧倒されつつ、私が思わず漏らした本音——

「自分が感激したいばかりに、つくづく観客や読者というのは、残酷なものだ。登場人物に人格があったら逃げ出したいだろう心境もよく解かる。」

役者陣も印象的だった。
朝子(加藤玲奈)の利発さと脆さ、隆志(菅沼翔也)の優しさ。
そして祖母役・宮璃アリの、予想のつかない登場にワクワクした。

舞台監督・山中秀一、舞台美術・田岡一遠ほか、多くのプロフェッショナルが「寄ってたかって」作り上げている舞台の贅沢さに、私は目眩がしそうだった。

ネタバレBOX

この作品では、ある瞬間から“物語が変調する”ような構造に驚いた。
時間が巻き戻り、眼の前で起こる突然の断絶。
その緊張感のあるやり取りの中で、観客も次第に「何が本当なのか」を問われていく。
そして、終幕の朝子の科白——

「出られた!」

そのとき舞台に取り残されていたのは、私(観客)のほうだった。
“作り物の世界”に取り込まれたまま、唖然とするしかなかったあの瞬間を、私は忘れない。
はぐらかしたり、もてなしたり

はぐらかしたり、もてなしたり

iaku

吹田市文化会館 メイシアター・中ホール(大阪府)

2025/07/12 (土) ~ 2025/07/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

客席は八分の入り。東京公演で評判だった、期待のほろ苦いラブコメディは、どうにもごちゃごちゃした舞台に私には見えた。

人物の背景が次々に明かされるのに、なぜか心に沁みる暇がない。笑いを取るために用意されたキャラクター造形には、面白くても「こんなヤツ、本当にいる?」という、どこか現実感のなさが引っかかる。 人生は、そんなに安直なコメディじゃないはずだ。

自分たちは離婚しても子どもには幸せを、元夫に裏切られても新たな恋には軽やかに進みたい。多くの人が感じる希望だと思う。
けれど、それを舞台でさらりと描かれても、ほっと安心するほどに観客の心は単純ではない。人生のつらさやしんどさは、もっと複雑で繊細なものではなかろうか。

上下に分かれた舞台セットは、そんな人生の紆余曲折を象徴していたのかもしれない。役者の動きにはハラハラさせられたが、動線の変化そのものは楽しく、やや深みに欠ける演出を新鮮に見せていたようでもある。

目に見える工夫と、内面の説得力。 その両輪がそろってこそ、人の心に深く届く、味わい深い舞台になると私は思う。

ネタバレBOX

関係を持った教え子の妊娠が分かり、妻と別れて、彼女の卒業を待ち結婚した筈。なのに高卒で就職した彼女が、就職後間もなく妊娠が発覚したため、職場で居づらくなったというのが時系列。
高卒で妊娠を隠して、就職をするだろうか?
彼女の妊娠発覚のタイミングは、高校在学中と就職後と2回あるのだ。変ではなかろうか?
にんげんたち ~労働運動社始末記

にんげんたち ~労働運動社始末記

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2025/02/21 (金) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

マキノノゾミの新作、文化座『にんげんたち〜労働運動社始末記』(初演)を観た。

去年観た映画『風よ あらしよ』のおかげで、大杉栄が虐殺されるまでは何とか筋を追えたが、その後は、状況説明が全くないまま、場面展開が目まぐるしく、頭の中で漢字に変換できない台詞には、着いていくのが難しかった。

今回の『にんげんたち』では、大杉は決して主人公ではなく、どこか可愛げはあるものの、人間的な迫力には欠ける人物として描かれていた。彼の死に対して、和田や村木が命をかけて「仇を討とう」とまで思った動機が、舞台からはよく分からない。

大杉栄の唱えた無政府主義とは、いったいどんな思想だったのだろうか?
あの時代に若者たちが命を賭けるに足るほどの何かが確かにあったはずだ。けれど、その「何か」が、今の観客には見えづらいまま、舞台は進んでいく。

その中で、唯一、台詞が胸にストンと入ってきたのが、関西弁の和田久太郎(白幡大介)の言葉だった。登場のたびに、場の空気が柔らかくなり、芝居の温度が変わる。
この作品を他人に薦めるかどうかは別として――
白幡大介が、実に楽しげに和田久太郎を演じている姿は、一見の価値ありでした。

観劇後、気になって瀬戸内晴美の『諧調は偽りなり』を買ってきた。舞台では見えなかったあの頃の輪郭が少しでも見えるだろうか。

煮えきらない幽霊たち

煮えきらない幽霊たち

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/05/10 (土) ~ 2025/05/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

劇団民藝『煮え切らない幽霊たち』(再演)を観劇。

30年以上前の戯曲を、なぜこのタイミングで再び上演するのか。観劇後、ずっとその問いが頭を離れなかった。

幽霊たちは次々と登場するが、セリフも存在感も薄く、舞台上でもまさに“煮えきらない”印象。 破天荒な人物として知られる平賀源内にこそ期待したが、鋭さは感じられず、どこか拍子抜けしてしまった。

特に気になったのは、全体のトーンに緊張感が乏しかったこと。 劇団内だけで配役を固めたことで、舞台に意外性や緊張感が生まれにくかったのではないかと思った。

ただ一つ、心に残った場面がある。 お藤を口説く杉田玄白(塩田泰久)と、枕元に座る姉・お仙(中地美佐子)のやりとり。 ここだけは民藝らしい呼吸の合ったアンサンブルで、しみじみと心に残った。

そして終盤。 死者たちと“翻訳の続きを”語る玄白のラストシーン。 「生き残った者は何をどう生きればよいのか」。 何を伝えたかったのか曖昧なまま幕が下りたように思えた。

若い頃の栄光も、老いと孤独の前では虚しい。 そんな皮肉がじんわりと残り、かえってつらさが募った。

観劇後に一番残ったのは、やはり「なぜ、この芝居を今上演するのか?」という強い疑問だった。

母

劇団文化座

JMSアステールプラザ 中ホール(広島県)

2025/06/11 (水) ~ 2025/06/13 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

文化座の『母』を観た。
多喜二の母・セキの姿に涙が止まらなかった。

ただ、その涙は、「無学でも立派な母」の姿に感動しただけではありません。
思ったのです。 どんな家族の選択も受け入れるような“献身的な母親像”が、 どれだけ多くの女性を縛ってきただろう、と。

自由な生き方を選び、求婚を断った“タミ”のような女性を、 真正面から受けとめる男性は、舞台にも現実にも、未だなかなか現れない。
涙を流した私は、その旧来の理想像に「負け」を認めたのかもしれない―― そんな複雑な気持ちが、観劇後もずっと残りました。

それともう一つ。 特に女性観客に対して、演出が甘く見ていないか?と感じたことです。
今は、女性の主体性や選択にとても敏感な時代です。 それなのに、あれだけ丁寧に描かれた“母”に比べて、 “タミ”は説明もなく姿を消し、受け身で言葉少なく生きる存在として描かれていた。
観客として、不可解だと思うのは、自然な反応ではないだろうか。

演劇は、時代の変化に応えているのか―― そんな思いが、私の中に強く残った作品でした。

ネタバレBOX

―― 多喜二の前から姿を消したタミについて――  

彼女は身体を売ったり水商売に落ちることなく、身寄りもいないこの時代にしっかり“まっとう”な仕事に就いている。にもかかわらず、彼女は「特高に詰問されても、何を話していいのかも分からない」と言い、不安げに求婚を断る。

① 時代背景とのズレ
戦前の女性にとって、身寄りがなく一人で堅気に生活するのは並大抵の苦労ではないはず。なのにタミはなんとか自立していて、しっかりとした女性だと想像できる。

② 人物造形の心理的不整合
特高に対し「何を話せばいいか分からない」と混乱しながら、自分のことになると、明確な意思で求婚を断る。説明も動機もないまま決断だけが唐突に示されるため、不自然さと説得力の欠如を感じた。

③ 結果としての「曖昧さ」
彼女の選択が“自覚的な行動”とは見えず、まるで不安定さや無力さの果ての偶然の選択のようにも見える。これは「戦前に生きる“最初の自覚的な女性”像」としては、あまりに不自然ではないだろうか。
雉はじめて鳴く

雉はじめて鳴く

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2020/01/10 (金) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

演劇鑑賞会にて 2023.8.2

鋭い観察眼と綿密な取材を元に人間や題材を多面的にとらえる戯曲で数々の賞に輝く横山拓也(俳優座HPより)の作品ということで、かなり期待していた。
3年前の評判作とは思えない、拍子抜けの舞台だった。役者が、とても高校生には見えなくて戸惑う

健の父親が自分の母親の介護を選ぶのも息子として一つの選択かもしれない。だが、自分や家庭を捨てた夫に彼女はどれ程絶望し苦しんだろうか。母子家庭の生活苦から酒や薬に溺れた彼女を私は責められない。養育すべき我が子に依存してしまうケースも珍しくない筈だ。
彼女は果たしてモンスタークレーマーなのだろうか?

結婚願望がありながら、同僚の既婚教師戸倉と不倫をしていた教師の浦川に、これもまた「結婚の現実」であることを垣間見せたかったと思う。

わずかな間に劇的に変わっているジェンダー観の変化に舞台はついて来られたろうか。

ら抜きの殺意

ら抜きの殺意

演劇企画室ベクトル

広島市東区民文化センター スタジオ2(広島県)

2023/07/29 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

幕開け、巧い役者なら、最初から受けただろう芝居がなかなか弾まない。ら抜き言葉とそれを嫌う男の対立が、やがて後半、「女言葉じゃ、相手に気持ちは伝わらないよ」と八重子(油野昌子)に言われ、女言葉とヤンキー言葉を使い分けていた遠部(梅田麻衣)が伴(渡辺結人)に必死に自分の言葉で話そうとする場面がいい。伴に素気無くされても挫けない彼女はまるで別人のようだ。

新しいことばを見つけようとする女と、原点回帰のように昔のことばに還ろうとする男と。
その対比が、もともと永井愛の原作にあったものなのか、現代のお客が芝居で観て際立って見えたのかは、よく分からないが、今この戯曲を上演する社会性や批評性が見えて良かった。相原大樹と渡辺裕人の意外に達者な山形弁も心地よい。

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2023/06/29 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

監督の松村(岡本篤)の、「今の目の前の仕事に懸命になれなきゃ、本当に自分のやりたい仕事など永遠に来ないってことに…」って、台詞に虚を突かれた。
人一倍走り回り、人一倍憤慨していた藤原(清水緑)の芝居がいい。

共演者全員が手に手にこん棒や銃を持ち、異星人を追い詰める場面は、まるで関東大震災の朝鮮人の虐殺を思い起こさせる。それぞれが、家に帰れば家族を愛し、仕事にいそしむ普通の人々の常軌を逸した狂気と豹変した姿に心が凍った。

ROUND9.5『ベースブルース』

ROUND9.5『ベースブルース』

INAGO-DX

広島市南区民文化センター スタジオ(広島県)

2023/05/13 (土) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/14 (日) 11:00

イナゴDXは、10年以上の活動歴のある地元の社会人劇団である。

今回は、50年前の連合赤軍事件の舞台化に絡めて演劇界のパワハラを描いた、東京で上演されても不思議の無い野心的な作品。
意外に悪役の似合う久保幸路 を始め、役に合う俳優の起用も功を奏した。

弱さに寄り添う純粋な正義感が、なぜ人を傷つけて仕舞うのか? 
その後も数多の事件を引き起こした若者の正義感の独りよがりの危うさとその痛々しさに、胸を衝かれる。

終幕部、理由を伝えダメ出しする演出や役者が自由に思いを述べる稽古場シーンが清々しい。

シェアの法則

シェアの法則

劇団青年座

ザ・ポケット(東京都)

2021/01/22 (金) ~ 2021/01/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【鑑賞団体例会にて】2023.3.27

ひきこもりの男、わけあり技能実習生、キャバクラ勤めのシングルマザー、大家父子の借金問題、親に内緒で役者をやる青年まで。よく2時間の芝居に放り込んだものだ。お互いが微妙に影響し合い進行する舞台がとても自然でいい。

思い通りにならないことにイライラしていた自分に気づく。廻りと分け合う(シェアする)ことで、少しずつ大きくなる幸せの不思議さ。

そんな舞台に、肩の力がふわっと抜けたような気持ちだった。

ネタバレBOX

終幕、「イタリアンオムレツ🐣美味かったよ」父と息子が分かり合った台詞にグッときた。
私の戦争

私の戦争

寅卯演劇部|2022年末日解散しました

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2022/11/19 (土) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

福島で被爆し広島に越してきた少女や南方諸島に沈んだ英霊の話、
赤ん坊を被爆で亡くした老女、孫を津波から逃がすため嘘で追いやる祖母、
本音を隠して偽の自分を頼りにされるアジア系2世の少女。

個人の戦争から本物の戦争まで、次々に演じられ、
被害者はヒロシマだけでないという視点がいい。

何役もこなす役者たちがそれぞれの役を巧みに演じ、
中岡久美子の世界観に彩りを添える。

岸田國士戦争劇集

岸田國士戦争劇集

DULL-COLORED POP

アトリエ春風舎(東京都)

2022/07/05 (火) ~ 2022/07/19 (火)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

「動員挿話」
戦前の戯曲なのに、これって分かる~というあるあるが岸田國士の芝居の面白さだ。
大概の男はたとえ最愛の妻がどう言おうと、世間体や仲間内の見栄からは逃れられないものらしい。
死んで見せたところで、無駄なのだ。

「かへらじと」
地区の原爆慰霊式で献花をしてきた。
国家のためだろうと、友情のためであろうと、戦争は人殺しに行くことだ。その先に何の仕合せがあるだろうか。
手柄を認めた将校役と息子の求婚に出向いた父親を同じ役者に演じさせた。そこに批判的な意図を感じる。

ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ダイニングテーブルと三脚のイス。登場人物が3人だけの80分のお芝居。

前半は、うだうだになるかな、と心配になったが、後半の意外な展開が目を瞠る。
パラダイムシフトと言うほどじゃないけど、発想の転換が、鮮やかだった。

シンプルな舞台美術と思ったら、衣装も小道具もコマメに変えてて、下手の寝室と、玄関のある上手と台所やふろ場の空間の雰囲気がさりげなく感じられ見事。

時間の流れと忘れられない記憶と。
こじらせ男の恋は、叶うのだろうか。
意外なところから、救いの神ってのが、いい。

同じ芝居を別々の役者で見せる趣向が面白い。ほかのチームを見られなかったのが残念だ。
白いゴンドラ鑑賞

友達

友達

シス・カンパニー

サンケイホールブリーゼ(大阪府)

2021/10/02 (土) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

鑑賞日2021/10/05 (火)

不条理劇らしいと聞いて、ちょっと嫌な予感がしたのを覚えている。一度も舞台を観たことがない演出家だった。

案の定、客席の私は最初から沈没した。
9人の闖入者があったら、私なら、過呼吸になるくらい驚愕するだろう。9人なのだ、衝撃は半端ない筈だ。あんなに安易に受け入れてしまうものだろうか。
この、リアル感のなさに思いっきり退いた。

もうダメね。ちっとも芝居に入り込めない。
かつていろいろ観た、別役さんの不条理劇。けっこう笑えちゃう部分もあって、面白かった覚えがある。

浅野和之(祖母)、キムラ緑子(母)、鷲尾真知子・・。
この豪華なキャストに期待しない演劇ファンはないだろう。その彼らが端役を演じたのだ。
この「無駄に豪華」な配役陣で1時間30分の舞台だった。

床に設置された、どこでもドアみたいなところから、男以外のいろいろな登場人物が出現する。男と闖入者9人以外の登場人物が、太い綱でつながれている。だから何だって訳じゃないけど。繋がれた奴のとこにはアイツらはこないってことのようだ。

少しずつ追い詰められていく男(鈴木浩介)がちっとも気の毒に思えない。
最後に男は、布で覆われた牢屋の中で毒入り葡萄酒を呑まされ、吐血して死ぬ。流れ出た血が徐々に広がっていく終幕部。
吐血ってあんなに血が出るものだろうかと思わずツッコミを入れたくなった。

サスペンスドラマだって2時間は楽しめる。1時間半の芝居に、私は何を期待して来たのだろうか。
そんな私が何よりも、不条理・・!

青年団「東京ノート」

青年団「東京ノート」

枚方市総合文化芸術センター指定管理者 アートシティひらかた共同事業体

枚方市総合文化芸術センター/関西医大・小ホール(大阪府)

2021/10/08 (金) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/10/08 (金)

青年団はレパートリーを一定期間ごとに再演してくれるので、地方に住む平田オリザが言うところの「ボクのお客さん」たちは、安心して、好きな芝居の再演を待つことができる。
何年ぶりの「東京ノート」だろうか。
こけら落としの劇場で、久々の「東京ノート」だった。一新された舞台美術がとてもオシャレ。

通常、芝居で台詞が重なることはほぼないが、同時多発演劇の舞台に最初は慣れるまでちょっと戸惑う。
聞いて欲しい会話は巧妙にクローズアップされるので焦ることはないのだけれど。

遺産の絵を相続する問題や高校時代の家庭教師との火遊びやら平和運動をしていてその後堅実な仕事に就いた学芸員の意外な前歴やら・・。まるで人の噂話を立ち聞きするような舞台に観客は耳をひそめる。同じ舞台を観ても、その時の自分の関心事やら経験でハッとする場面が違うのが面白い。観客ひとりひとりの「東京ノート」である。

<ネタバレへ>

私の場合、苦しい時に、女同士はこんなふうに助け合えるんだと、胸がキュンとした。舞台が、自分の生きてきた人生にスポットライトを当ててくれるようで、平田オリザの再演舞台は毎回楽しみにしている。

ネタバレBOX

義姉の由美(松田弘子)の美術館めぐりにつきあう次男の嫁の好恵(能島瑞穂)、あまり絵に詳しくない彼女は感心しきりなのだが、そのさりげない会話を重ねる中で、終演近く唐突に、夫に泣きながら「好きな女ができたから」と別れを切り出されたと打ち明ける。

どんなに親しく付き合っていても、離縁すると別れた妻は夫の親類とは通常付き合いが無くなる。
こっちが泣きたくなると白状した好恵に、由美が泣いた方が負けだという”逆にらめっこ”をする終幕部。
ヒッキー・カンクーントルネード

ヒッキー・カンクーントルネード

ハイバイ

山口情報芸術センター YCAM スタジオA(山口県)

2021/09/10 (金) ~ 2021/09/11 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

【Amazonプライムビデオ】岩井秀人特集
・『て』2018年上演 (1時間50分)
・『夫婦』2018年上演 (2時間2分)
・『ヒッキー・カンクーントルネード』2010年上演(1時間21分)
・『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2010年上演 (1時間57分)
・『投げられやすい石』2010年上演(1時間11分)

観に行く予定にしていた山口情報芸術センターの公演が急遽中止になり、ガックリしていたところだった。Amazonでまとめて観ることができてよかった。

まず最初に観た『て』は、浅野和之が出ると知って観に行こうとぎりぎりまで迷って諦めた公演。舞台に登場した浅野がカツラを付けながら、携帯電話の電源を切る等の諸注意をし、そのまま芝居がはじまる。女性(母親)の役を男優が演じるのはハイバイのお約束らしい。声もしゃべり方も特に変えないのに、違和感なく母親に見えるのは役者が巧いせいか・・?
田舎の実家に親類が集まってという経験があると、いちいちあるあるの感覚で、ちゃぶ台とその他すこしの小道具があるだけで、いろいろな場面を演じても全然ついていける自分に驚く。

次に見た『夫婦』が一番面白かった。おススメよ。
岩井秀人の芝居は、私小説ならぬ私演劇と呼ばれているらしい。本人役も登場するが、岩井が演じているのは問題!の父親役。あとから写真をみて衝撃だった。まるでロールプレイのカウンセリングみたいじゃん。子どものころから兄弟で殺害計画まで立てて憎んでいた父親を演じる心境ってどんなだろ。
母親役は髭面まま! 山内圭哉が演じている。
役者が舞台の上で衣装を着替えながら、何役も演じるのだが、見ている観客は全く戸惑うことはないと思う。
普通の青年だった男が、結婚したとたんにDV男に豹変する。運が悪いと多くの女がこんな目に遭う。それでも死因が納得できずに医療ミスを追及する家族、この不可解な心理を舞台は圧倒的な臨場感で演じ出してくる。
観客は、自分の中の苦しさを受け留めて貰ったような奇妙な安らぎを感じるのではなかろうか。まるで幼子のように。

次に、観劇の前にぜひ観てから来てほしいと岩井が言っていた『ヒッキー・カンクーントルネード』
そして、公演中止で観に行けなかった『ヒッキー・カンクーントルネード』、これは岩井の処女作で、一連の作品を発表後、もう新作は書かないのだという。
分かったようなつもりでいた自分が間違っていて、そういうことかとやっと分かろうとした挙句、再び突き放されるという、まるでジェットコースターのように私の心が揺さぶられる。

『投げられやすい石』は、演劇版人間失格って感じ。
みっともなさ、情けなさを、あんなふうに舞台の役者で見せられるのは、観客の精神衛生上すごくいいと思う。

丘の上、ねむのき産婦人科

丘の上、ねむのき産婦人科

DULL-COLORED POP

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2021/09/01 (水) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/05 (日)

男優が女性の役を演じる〔B〕バージョンを観劇した。
男の役者が、お腹の大きい妊婦役を演じる。全然違和感を感じなかったのは私がかつて、だったら男が子どもを産めばいいじゃないと思った経験があるせいかも知れない。

スカートをはいてイヤリングもつけてる、これは妊婦を男の役者が演じているのだと気づくと、仕方がないと諦めていたあれこれが強烈に蘇えってくる。
大きなおなかで満員電車に乗って通勤した。つわりのしんどさをいくら説明しても不機嫌に黙るだけだった夫、子どもの名前は夫の両親が決めると言われた時のこと、義実家に行ったときに知らない親類にたくさん頭を下げたこと等など。

高卒で街に出て同棲しているアイが妊娠していたことが分かる一場が切ない。子どもが産れるということがどういうことか。お金のこと、生活のこと、二人の今後のこと。現実的にあれこれと思いめぐらす彼女。戸惑いながらも、俺、頑張るよと言いながら、ちっとも頼りにならないアキト。現実の生活では子育てどころか、出産費用の捻出さえ覚束ない。
真面目に考えた挙句、中絶を選ぶしかない若い二人がどれだけいるだろうか。その裏で不妊治療に数百万を掛ける夫婦もいるのが日本の現実だ。(三場)

夫に収入があり贅沢な専業主婦となったマキ(四場)、女性が憧れるほどには、現実は幸せじゃないかもと私は思う。何をするにも背景に、誰が稼いだ金だ、という男の思いが透けて見える。
夫の身体を気遣い、先回りして夫の思いを酌んで行動している自分。この私のことを少しでも分かって欲しいという女心はやっぱり身勝手なのだろうか。

管理職の激務をこなしながら、二人目を妊娠した妻は部下の失敗の後始末で睡眠時間もままならない。上の子の世話は夫が引き受けている。(六場)
「君の変わりはいくらでもいる。育休を取ってくれ」という上司の言葉はショックだろう。お腹の子どもを疎ましく思う瞬間もあるに違いない。赤ちゃん、無事で良かった。

舞台を観ていると、女優が演じていたせいか、相手の男は、総じて女を分かろうとし、相手のために頑張ろうと思っている様子が見えて、ハッとした。想定以上に男は不器用で、しかもそのことに当人が気づいていない。

田舎で、大勢のお腹の大きい浴衣姿の妊婦たちがお喋りをしている。(八場)
本当なら負担を減らす紙おむつや瓶詰の離乳食を敵視し、布おむつを使い手作りの離乳食にこだわる頑なさは女同士の中にもあった。帝王切開で産む女を軽んじる視線も。
女を縛り付けているのは男の無理解だけじゃないのでは?という指摘を劇作家の谷賢一から言われるとちょっとカチンとする。
確かに、大人世代だけではなく、若い人にもけなげな女性像にしがみ付くところがあるのだ。

帝王切開を躊躇うアサコに、君ひとりの子どもじゃない。二人の子どもだと言って、彼女をうながすアキオ。

オンナにしがみ付くのではなく、オトコにこだわるのでもなく、一人のニンゲンとして考えていきたい。

それにしても、本当に男が子どもを産んでくれるといいな。
どんなに自由に生きられるだろうか。夢を諦めずに生きられたろうかと。

一九一一年

一九一一年

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2021/07/10 (土) ~ 2021/07/18 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

紅一点で登場する菅野寿賀子(号は幽月)がカッコいい。
自由とは、と問われて英語では「リバティ」と彼女は答えて説明する。

リバティって、「自由」はフリーダムじゃないの!そこでググってみた私は衝撃を受ける。
Freedom→最初からあるもの。何の制約もない状態。
liberty→自分で掴み取るもの。不自由な状態から抜け出して得た「自由」

彼女は、自由とは「自分の顔を持ち、自分の名前を持ち、自分の頭で考え、自分の口で語る」ことだという。

昂然と頭をあげ、周囲で脅したり賺したりする検察官、恋人の変節や同志たちの不公正な逮捕やらに動じることなく、自分の信じたことだけを申し立てていく。

忖度と保身で右往左往する官の側の男たちの中で、その彼女の姿勢が静かに輝いて見える。

出世がエサの命令を実行するか(平沼騏一郎)、どうせ誰かがやる仕事としてさっさと片づけるか(武富 済・小原 直)、命じられた以上従わなければ馘首になると恐れて実行するか(潮 恒太郎)、それぞれ忖度の相手は違っても、こうして不当な判決がでっち上げられていった。
権力側(横田国臣・鶴 丈一郎・末弘厳石)は、イザという時にトカゲの尻尾切りで現場の人間に責任取らせるように周到に準備までしている。

それなりに地位も権力もある男たちが寄ってたかって無実の人間を絞首刑にしてしまう。このような明治時代の国家権力は終戦で消滅したのだろうか。

まるで喉に詰まっていたものをぬるりと飲み込むような感じを観ている側の私は味わった。
・・・どこかで聞いたことのある、お馴染みの報道やニュース。

それを一方的に責めることは私にはできない。私の中にも忖度や不正に目をつぶろうとする芽が・・確かにあるからだ。

生きるということは、何かに絡めとられることだと、気づく。

幽月さん、戦後生まれの私でさえ、まだ自分の頭で考え、自分の言葉を持つことは難しい。
忖度する自分を跳ね返す力はどこにあるのだろうか。

フェイクスピア

フェイクスピア

NODA・MAP

大阪新歌舞伎座(大阪府)

2021/07/15 (木) ~ 2021/07/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

評判はいいらしく、観に行く人はネタバレ感想は読むな!とあちこちに書かれていた。まったく予備知識なく出かけた。7月25日が楽日である。コロナ禍の中、奇跡的に東京・大阪公演とも一日も中止にはなかった。

大好きな橋爪功や白石加代子も出ていて、野田さんはシェイクスピア役、肖像画通りのハゲでブルマーみたいな衣装で出てくる。
芸達者ぞろいの少数精鋭の役者と大勢のコロスたち。
互いに神様から授かった言葉の箱を取り合うドタバタごっこ。
シェイクスピアのリア王とオセローとマクベス・ハムレットの父王の亡霊シーン、女役を高橋一生が演じ、主役は橋爪さんがさらりと演じてみせるシーンはオイシかったが、いつもの難解な言葉遊びはなくて、ちっとも野田秀樹を観に来たという感じがしない。
こりゃ、駄作かなと思った。

<ネタバレへ>

30数年前に気が付いていれば、こんな状況になならなかった環境問題。「永遠プラス36年前」という謎の言葉に、私はそんなふうに合点がいった。ノンフィクションにしてはいけない!

もし地球が気候変動により元の地球に戻れない、引き返せなくなったとき、自分の命を顧みず必死で生き残る可能性のために戦う人間がいるに違いない。だが多くの乗客が助からなかったように大多数の人類は滅びてしまうであろう。

神様の言葉の箱を奪い合ったドタバタぶりは、私たちの姿だったのだと。

ネタバレBOX

ところが終盤、箱の中身がボイスレコーダーの声であることが分かって、ぼんやり観ていた私の目が一瞬で冴えた。
機長に扮した高橋一生と副操縦士伊原剛志のカッコいいこと!

御巣鷹山の日航機墜落事故が再現され、コロスが扮した乗客が冷静なスチュワーデスの指示に従う機内の様子は、キャスター付の椅子と互いを繋ぐポールの動きと巧みな演技で演じてみせる。
迷走する航空機内の緊迫した様子に観客席の私も息が苦しくなる。

墜落までの30分間、この絶体絶命のピンチの中、必死に操縦するパイロットの姿、「アタマを、頭を上げろ!」と叫ぶボイスレコーダーの声。事故後、何度も何度もテレビ等で放送された声が鮮やかに蘇える。「永遠プラス36年前」である。

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