おけい@広島の観てきた!クチコミ一覧

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丘の上、ねむのき産婦人科

丘の上、ねむのき産婦人科

DULL-COLORED POP

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2021/09/01 (水) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/05 (日)

男優が女性の役を演じる〔B〕バージョンを観劇した。
男の役者が、お腹の大きい妊婦役を演じる。全然違和感を感じなかったのは私がかつて、だったら男が子どもを産めばいいじゃないと思った経験があるせいかも知れない。

スカートをはいてイヤリングもつけてる、これは妊婦を男の役者が演じているのだと気づくと、仕方がないと諦めていたあれこれが強烈に蘇えってくる。
大きなおなかで満員電車に乗って通勤した。つわりのしんどさをいくら説明しても不機嫌に黙るだけだった夫、子どもの名前は夫の両親が決めると言われた時のこと、義実家に行ったときに知らない親類にたくさん頭を下げたこと等など。

高卒で街に出て同棲しているアイが妊娠していたことが分かる一場が切ない。子どもが産れるということがどういうことか。お金のこと、生活のこと、二人の今後のこと。現実的にあれこれと思いめぐらす彼女。戸惑いながらも、俺、頑張るよと言いながら、ちっとも頼りにならないアキト。現実の生活では子育てどころか、出産費用の捻出さえ覚束ない。
真面目に考えた挙句、中絶を選ぶしかない若い二人がどれだけいるだろうか。その裏で不妊治療に数百万を掛ける夫婦もいるのが日本の現実だ。(三場)

夫に収入があり贅沢な専業主婦となったマキ(四場)、女性が憧れるほどには、現実は幸せじゃないかもと私は思う。何をするにも背景に、誰が稼いだ金だ、という男の思いが透けて見える。
夫の身体を気遣い、先回りして夫の思いを酌んで行動している自分。この私のことを少しでも分かって欲しいという女心はやっぱり身勝手なのだろうか。

管理職の激務をこなしながら、二人目を妊娠した妻は部下の失敗の後始末で睡眠時間もままならない。上の子の世話は夫が引き受けている。(六場)
「君の変わりはいくらでもいる。育休を取ってくれ」という上司の言葉はショックだろう。お腹の子どもを疎ましく思う瞬間もあるに違いない。赤ちゃん、無事で良かった。

舞台を観ていると、女優が演じていたせいか、相手の男は、総じて女を分かろうとし、相手のために頑張ろうと思っている様子が見えて、ハッとした。想定以上に男は不器用で、しかもそのことに当人が気づいていない。

田舎で、大勢のお腹の大きい浴衣姿の妊婦たちがお喋りをしている。(八場)
本当なら負担を減らす紙おむつや瓶詰の離乳食を敵視し、布おむつを使い手作りの離乳食にこだわる頑なさは女同士の中にもあった。帝王切開で産む女を軽んじる視線も。
女を縛り付けているのは男の無理解だけじゃないのでは?という指摘を劇作家の谷賢一から言われるとちょっとカチンとする。
確かに、大人世代だけではなく、若い人にもけなげな女性像にしがみ付くところがあるのだ。

帝王切開を躊躇うアサコに、君ひとりの子どもじゃない。二人の子どもだと言って、彼女をうながすアキオ。

オンナにしがみ付くのではなく、オトコにこだわるのでもなく、一人のニンゲンとして考えていきたい。

それにしても、本当に男が子どもを産んでくれるといいな。
どんなに自由に生きられるだろうか。夢を諦めずに生きられたろうかと。

一二人の怒れる男

一二人の怒れる男

東北えびす

広島市南区民文化センター ホール(広島県)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/12 (金)公演終了

満足度★★★★★

想定外の迫力、予想を上回る面白さ!
言わずと知れた法廷劇の名作。仙台座も出演の役者さんたちも初見だった。東京公演を含む各地の巡演で広島公演は唯一ワンステージのみ。実は、こんなに凄い芝居だとは予想していなかった。

ホール舞台上の上手側と下手側に向かい合うように観客席を設え、舞台中央に陪審室のテーブルとパイプ椅子。迫真の密室劇が目の前で繰り広げられる。
三谷幸喜の翻案「12人の優しい日本人」の映画も含めて、たくさんの「12人の怒れる男」を観た。結果は知っていてもハラハラさせられる。仙台座の舞台にはさらに新たな発見があった。

ひとりひとりの役者さんがすごくカッコいい。最初に無罪を唱えた陪審員8号(映画でヘンリーフォンダが演じた)の樋渡宏嗣、最後まで有罪を譲らなかった高圧的な陪審員3号の渡部ギュウ。周囲のメンバーを巻き込んだ彼の弁舌が、終幕で冷やかに拒絶される鮮やかな展開。
民主的なルールは、決して有能なリーダーによって実現されるものではなく、自分たちが悩みながら見つけ出していくものらしい。
圧倒的に優勢な有罪論に異が唱えられたとき、勇気をもって支持を表明するのが人生経験の豊かな老人の陪審員9号(渡辺貢)や社会の中の弱者であるユダヤ移民の陪審員11号(原西忠佑)やスラム出身の陪審員5号(横山真)あったことに、社会には多様な価値観が必要なのだと思った。自分に一番近いのは、口先ばかりで周りの言動に左右されやすく有罪・無罪・有罪とくるくる意見を変えた陪審員2号(西塔亜利夫)かも。男優ばかりの芝居だが、この芝居を束ねたのが女性演出家だというのも凄い。
進んでるなあ、仙台!

『どんとゆけ』

『どんとゆけ』

渡辺源四郎商店

四国学院大学ノトススタジオ(香川県)

2020/02/08 (土) ~ 2020/02/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/02/09 (日) 15:00

はるばる観に来たのは、2009年の広島公演以来。覚えていたのはオムライスのくだりだけ、初めてみるような衝撃だった。

社会がどんなに変わって行っても、このような短絡的な凶悪犯罪を犯す人間を一掃することは出来ないであろう。であれば、何の罪もなく殺されてしまう側の家族の恨みも続く。
深い、深い、取り返しのつかない恨みを、どうしていけばよいのだろう。

裁判員制度の発足を契機に創作されたこの芝居、昨今の凶悪犯罪の加害者のニュースを見るたびに考えるもやもやを、改めて考え直させられる。
日本には死刑制度はあるが終身刑というのはないという。

ネタバレBOX

刑務官につれてこられた犯人青木和也の死刑囚オーラがハンパない。恐れと絶望が彼の周りの空気を凍らせるよう。
息子と二人の孫を殺された父親、夫と二人の幼い息子を殺された妻の前で、刑務官が死刑囚の人権を守るための規則を申し渡していく。

侮辱してはならない、死刑に際して苦しみを与えてはならない。そして最後に食べたいもの・・オムライス。オムライスは殺された夫と息子たちの大好物だったと反対する妻。
義父になだめられ、死刑囚の青木は舞台上で本物のオムライスを貪るように食べる。ケチャップの匂いが客席まで漂う。

最後にやりたいこと・・トランプゲームの「ゴニンカン」。(コメント欄参照)これは青森地方だけでよく遊ばれるゲームだという。このゲームから先に思いついたんじゃないかと思うくらい巧い設定だ。
オムライスが好きで、家族でゲームをした時に姉ちゃんに助けてもらったという青木。子どもを含めて3人を強盗殺人で殺したというこの若い男がなんだか可哀そうになってくる。

それに反して、徐々にいらだちを募らせるのが被害者の妻。家族のその後を知らないという青木に、彼の起こした事件のために、なかよくゲームをした家族は急死や自殺に追い込まれ、可愛がってくれた姉は、結納まで交わした結婚が破談になり、市役所勤めもできなくなって、いまは川崎のソープで働いていると。犯罪者家族の悲劇は近隣では知らないものが無いと吐き捨てるように告げる。

「そんなに偉いんですかね、被害者さまというものは」という青木しの台詞に衝撃をうける。家族を殺された者には、絶対の正義があるのだろうかなどと、考えてみたことも無かったからである。

しのと二人きりになった時に「逃がしてくれ、一緒に暮らそう」とすがる青木和也(二人は獄中結婚している)。
大丈夫だから安心してと、死刑執行をうけるように諭す彼女。しのは、青木を優しく抱き寄せる。(上演時間78分)
一九一一年

一九一一年

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2021/07/10 (土) ~ 2021/07/18 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

紅一点で登場する菅野寿賀子(号は幽月)がカッコいい。
自由とは、と問われて英語では「リバティ」と彼女は答えて説明する。

リバティって、「自由」はフリーダムじゃないの!そこでググってみた私は衝撃を受ける。
Freedom→最初からあるもの。何の制約もない状態。
liberty→自分で掴み取るもの。不自由な状態から抜け出して得た「自由」

彼女は、自由とは「自分の顔を持ち、自分の名前を持ち、自分の頭で考え、自分の口で語る」ことだという。

昂然と頭をあげ、周囲で脅したり賺したりする検察官、恋人の変節や同志たちの不公正な逮捕やらに動じることなく、自分の信じたことだけを申し立てていく。

忖度と保身で右往左往する官の側の男たちの中で、その彼女の姿勢が静かに輝いて見える。

出世がエサの命令を実行するか(平沼騏一郎)、どうせ誰かがやる仕事としてさっさと片づけるか(武富 済・小原 直)、命じられた以上従わなければ馘首になると恐れて実行するか(潮 恒太郎)、それぞれ忖度の相手は違っても、こうして不当な判決がでっち上げられていった。
権力側(横田国臣・鶴 丈一郎・末弘厳石)は、イザという時にトカゲの尻尾切りで現場の人間に責任取らせるように周到に準備までしている。

それなりに地位も権力もある男たちが寄ってたかって無実の人間を絞首刑にしてしまう。このような明治時代の国家権力は終戦で消滅したのだろうか。

まるで喉に詰まっていたものをぬるりと飲み込むような感じを観ている側の私は味わった。
・・・どこかで聞いたことのある、お馴染みの報道やニュース。

それを一方的に責めることは私にはできない。私の中にも忖度や不正に目をつぶろうとする芽が・・確かにあるからだ。

生きるということは、何かに絡めとられることだと、気づく。

幽月さん、戦後生まれの私でさえ、まだ自分の頭で考え、自分の言葉を持つことは難しい。
忖度する自分を跳ね返す力はどこにあるのだろうか。

日本文学盛衰史

日本文学盛衰史

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2018/06/07 (木) ~ 2018/07/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

珍しく(!)大評判の新作本公演、楽日にぎりぎり間に合った。高橋源一郎の原作は、それぞれ四場の葬儀シーンで上演される。障子を開け放すと日本庭園が望める。葬儀場へ続く廊下の手間に弔問客のための膳が並ぶ広々とした大広間といった奥行きのある舞台。
一場は明治27年5月の北村透谷の葬儀、
二場は同35年9月の正岡子規の葬儀、
三場は同42年6月の二葉亭四迷の葬儀、
四場は大正五年12月の夏目漱石の葬儀、
終始舞台上に出ずっぱりの島崎藤村(大竹直)と田山花袋(島田耀蔵、女性弔問客の座布団に突っ伏す)が狂言回しで、場面が数年後の葬儀へと転換されていく。
森鴎外(山内健司)と夏目漱石(兵頭久美、付け髭!)以外は、役者が何役もの作家や女中、それぞれの喪主を演じている。これが楽しい。
錚々たる大御所の作家の若き時代、デビュー当時の衝撃なども面白い。作家の人間像を描くというより、当時の「心で思ったことをそのまま文章で描く」ための悪戦苦労振りがユーモラスに描かれ、近代文学史に疎くても、詩を捨てた藤村や、華やかな一葉、晶子の逞しさ、啄木や賢治の清新さなど、身近に思い浮かべることができ興味深い。綺羅星のごとく文壇の有名人ばかりがお喋りを交わす様子は、文学好きには堪らないかも。弔問客には近所の人も加わり、二葉亭四迷を噺家?なんて聞いている。
島村抱月や坪内逍遥(志賀廣太郎)が自由劇場で上演される翻訳劇の訳のことで揉めたり、女中たちが楽しげにカチューシャを合唱したり。
四場では一挙に戦後活躍する作家たちが登場、それぞれ胸に坂口、太宰、芥川、康成などの名札をつけている。一気にお芝居ごっこめいた雰囲気、スマホで集合写真をとる高橋源一郎も登場する。
職工でも小説を読む時代を望んだ作家たちの苦闘の果てに、小説家が長者番付に並ぶ時代を経て、読者はやがて細分化され自分だけの小説を書き始める。芝居はその先の、ロボットが書いた小説をロボットが読む近未来へ。私たちが獲得した日本語はやがてどこへ行くのだろう。
自分たちの「言葉」をもっと大事にしなければと思った。

オイル

オイル

天辺塔

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2018/07/27 (金) ~ 2018/07/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/07/27 (金)

初日を観た。客席のオジサン率が高い、観客席でお疲れさまコールを交わす若い観客の多い地元劇団の公演とは、さすがに雰囲気が違う。前回の天辺塔の公演の「オイル」は文字を組み合わせるシーンと大国教授役の恵南牧さんくらいしか記憶にない。今回の舞台は、広島人による広島のための『オイル』だった。

大地に噴き上がるオイルに古代出雲と戦後の島根との二つの世界を交差する気の遠くなるような膨大な台詞が飛び交う。追いかけるだけで精一杯で頭の中が大混乱。野田秀樹の芝居はいつもそうなのだ。負けを認めようとしない腹切りをする古代人が怖かった。
ところが、その内に私の脳ミソは台詞を必死に解釈しようとするのを止め、特定の台詞だけ、貪るように吸い込み始める。
広島に原爆が落ちた時、電話線からのヤマトの声が、ふっと途切れる。投下の瞬間である。
劇の進行につれて、舞台の背景に白い描線で描かれるのは地獄絵か、あの世にあるという天国なのか。
こんな舞台が観られれば、よそにわざわざ野田の芝居を観に行く必要性を感じない、そんな舞台だった。

シアターコクーンの舞台では巨大なゼロ戦が舞い降りたが、天辺塔はハシゴ状の小道具で舞い上がる双発機をイメージした。シンプルさが魅力。動き易そうな古代人の衣装もチャーミングだった。
ヤマト役(恋塚祐子)とヤミイチ役(恵南牧)がカッコいい、富士の母ノンキダネ役(中原榮子)のお袋像も目を惹いた。

私は広島生まれでもなく、ここに越してくるまではヒロシマはイメージの地名だった。広島の苦しみは想像するしかない。さらに「平和への願い」を強いられる悲痛さも・・。

「ムイカ」再び

「ムイカ」再び

コンブリ団

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2018/07/28 (土) ~ 2018/07/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/07/28 (土) 19:30

作・演出のはしぐちしんは青春時代をここ広島で過ごしたのだそうだ。広島に対する思い入れも強い。
車椅子で登場したはしぐちが前説から路面電車の駅を伝って広島の街を紹介しながらいつの間にか舞台が始まる。

終演後のアフタートークのゲストはライターの大場久美子さん。東京の観客はいやですねえ、こう、ちょっと反り身になって、どんな芝居をみせてくれるんだいと、斜に構えた感じでと言うと、はしぐちさんは同意するでもなく、大人の反応。地方の観客はもっと純朴に見てくれるということらしい。
だが、私には7月8月と目ぼしい芝居は大概が原爆がらみのお芝居で、まるで広島の観客はリトマス紙かと気が滅入るのであった。
コンブリ団、ぜひまた広島に公演に来てほしいな。次は別の作品で。

ネタバレBOX

登場した役者たちが同じセリフを会社や電車の中という設定でエチュードのように演じ、外から眺めていた観客はスルリと芝居の中に 誘われる。(導入部の独創性)
原爆で生き残ったおばあちゃんのベットの傍らに集まる家族たち、原爆の投下時に赤ん坊だった彼女の当時の家族たち。二役を同じ役者が演じる戦前と戦後の家族のやりとり。エチュードの台詞が実際の芝居の中にさり気なく挟みこまれる。(洒落た演出)
時計の針のように動く扇形の舞台は、役者が手で押すとぐるりと回転する。ベットになったり、家族が佇む廊下になったり。時の流れと場所の移動を簡素な舞台で表現。(シンプルで効果的な舞台装置)
戦前の広島には家族がそろって朝焼けの美しさに見とれるような静かな朝の風景があったのだろうか。そのせいで寝ていた赤ん坊以外の家族全員が原爆投下で亡くなってしまったのだが。(状況設定の巧みさと叙情性)
その瞬間からも、時は一瞬も止まることなく現代へと続いている。舞台を観ている観客は、嫌でもその現実に向き合うことになるのだ。
三島由紀夫「近代能楽集」より4作まとめて上演!『葵上』『班女』『熊野』『綾の鼓』

三島由紀夫「近代能楽集」より4作まとめて上演!『葵上』『班女』『熊野』『綾の鼓』

鳥の劇場

鳥の劇場(鳥取県)

2019/02/22 (金) ~ 2019/03/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

三島由紀夫「近代能楽集」より『葵上』
もし私だったら「捨てないで」の一言だけは、惚れた年下の男には最後まで言えないだろうな。恋しい男を奪った若い女から、最後の最後に男を奪い返すラストシーン。心の中で密かに乾杯!これだから女はやめられないと思う。
舞台に流れる歌謡曲とその違和感の無さ、男優が演じる康子(生霊)に女の愛おしさと怖さが凝縮され、中島諒人の演出に喝采。三島由紀夫連続4作品上演の中で、最高に面白かった舞台である。(上演50分)

ネタバレBOX

舞台の上手半分に葵の入院先の病室。出張先から駆けつけた光は、看護婦から、夜ごとに訪れる謎の見舞客の話とそのときに葵が酷くうなされることを告げられる。
下手は六条康子のマンション。康子が眠りにつくと、背後に豪奢な重ね袿に衣の被り物をした康子の生霊が登場する。傍らに伴った黒子が中空に捧げ持つカゴを揺すると紙吹雪の雪が深々と舞い落ちる。背後に流れるのは都はるみの「北の宿から」。
舞台の背後をゆっくりと回り込み、葵の病室に向かう康子。
被り物をとると男の顔のままの阿部一徳が演じる康子(生霊)が現れる。まるでオカマバーのママのようだが、光に「捨てないで」と告白する台詞は年上の女の思いが溢れる。
あなたから別れを告げたのではないかとなじる光を、愛し合っていた頃の彼らの思い出に誘い込もうとする康子。
背後にブルーの紗幕が降りてくると葵のいる病室はすっかり隠れてしまう。
ヨットで湖畔の彼女の別荘に向かう二人。松田聖子の「赤いスイートピー」の曲が流れ、風を受けて帆柱の傍らに光と寄り添う康子。光の優しい言葉に、思わずくらっとよろめく康子。若々しい野望としなやかな好奇心は年若い男の魅力だ。背後で幽かに聞こえる葵のうめき声、帆柱の軋む音だと誤魔化そうとする康子だが、我に返った光は葵の許に戻ってしまう。
諦めて帰ろうとする康子が、自分が片方ぬぎ捨てた長手袋を取ってくれと光に頼む。これが最後だと言うばかりに、黒レースの手袋を康子に手渡しに行く光。ところが彼女の手は光の手を離さない。やがて憑かれたように康子に手を導かれて、舞台の奥に消えていく光。
激しく悶え苦しみながら、絶命する葵。そして幕。
帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

帰還不能点【3/13・14@AI・HALL】

劇団チョコレートケーキ

AI・HALL(兵庫県)

2021/03/13 (土) ~ 2021/03/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

昭和16年4月より各官庁・陸海軍・民間から選抜された若手エリートの研究生たちに総力戦体制に向けた教育と訓練が行われた。同年7月から8月にかけて、第一期生による模擬内閣演習(シュミレーション)が予測した結果は、日本必敗だったという。その年の12月8日、真珠湾攻撃により太平洋戦争が勃発した。
事前にシュミレーションし結果も分かっていたのに、なぜ?と思う。

ネタバレBOX

その第一期生たちが戦後、メンバーの一人の死をきっかけに未亡人の飲み屋で追悼の集まりをすることになった。未亡人に聞かせるようにして、彼らは劇中劇で戦時中の実際の閣僚や軍人たちを演じて見せるという趣向で舞台は進行する。

歴史の授業では明治の富国強兵までしか習っておらず、その後の特になぜ太平洋戦争が起こったのかは、私にはずっと謎だった。
軍部の暴走だったとか、マスコミ(新聞)が国民を煽動したとか、石油を止められてやむを得なかったとか、・・。

今回の劇団チョコレートケーキの芝居は、文官の暴走を描いている。もちろん悪役は総理大臣近衛文麿と外務大臣松岡洋右である。
近衛は対米戦に大きく舵を切ることになる政策決断をした首相であるが、国民の熱狂的な支持と人気を誇っていた。
松岡外相は国際連盟脱退の時の写真が教科書にも載っていた。日独伊三国同盟の立役者である。

戦後数年、各界の若手エリートたちは結局さほど出世コースには乗らず職を辞した者もいた。その彼らが久しぶりに集まって開戦前の閣僚と軍人たちの野心と、思惑が外れて日米開戦に追い込まれていくまでを生々しく演じて見せる。
日米の軍事力の格差をよく知っていたのは軍人のほうで、文官である首相や外相が分不相応なユーラシア大陸の覇権を夢見ていたことに驚く。
フィクションとはいえ、教科書では教えない内容だ。
その小気味よさが歴史オタクの私には興味深く納得できることが多かった。

「お開き」の前に岡田(岡本篤)が死んだメンバーの一人は戦後の悲惨な状況の中で自分を悔いて病に倒れたことを告げる。そして岡田自身が偶然仕事で広島に出張しそこで原爆に遭った話をする。膨大な数の死人を見たと。自分たちは負けることを知っていた。日米開戦がなければ、この大勢の人たちは死ぬことはなかったと自分を悔いたと吐露する。

ほかのメンバーたちは、アメリカと戦えば必ず負けることを知っていたのは自分たちだけではなかったと文句を言った。それにあれ以上当時の内閣に対米戦に反対と主張することは省庁や軍に戻ってからの自分の立場が危うくなると口を噤んでしまったのである。

納得をしない岡田に急かされるようにして、やがて彼らは本気で当時の内閣に対して対米戦を阻止するための計画を立て始めるところで・・舞台は終幕となる。

気候変動危機、政治の不正、格差の助長への動き・・・、それがよくない動きであることは、自分だって知っているのだ。
でも動かない。突然何かの行動を起こして、うまくいくとは思えないし周囲から浮き上がってしまうことも怖いのだ。

歴史オタクで戦争時の政治の動きの真相を知りたいと思って芝居を観に行ったのに、いつの間にか舞台は、そんな私自身に何かを静かに問うてくる芝居になっていた。舞台を見て流したのは、悔し涙だった。

観客として立ち会ってしまった以上、自分が考え何らかの行動を起こすことを舞台は求めているのだと思う。

*帰還不能点は、航空用語。
日本人のへそ

日本人のへそ

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2021/03/06 (土) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

チケット代が1万円になりすっかりご無沙汰のこまつ座であるが、評判だという「日本人のへそ」。この舞台写真をみて、俄然、観たくなった。ミュージカル界のプリンスと言われている井上芳雄がチンピラやくざの役を演じるって? 見たいじゃん、やっぱり。

どもりの矯正のための芝居と称して、劇中劇中劇という入り組んだ構造、どんでん返しの連続で舞台は進行する。

井上芳雄が、どもりのサラリーマンから岩手の貧しい出稼ぎ百姓、やくざの若頭?アメリカの大学教授と、ふり幅の大きい何役もをこなすだけでなく、出演者全員がおなじようにふり幅の大きい何役もの役を早変わりで演じて見せてくれるのだ。

芸達者な役者たちで、お得意のお芝居だけでなく歌や踊りも巧みに見せてくれてる。役者の歌はプロの歌手より上手く、踊りはプロのダンサーより上手くないと舞台では通用しないと聞いたことがある。まさにこのエンターテイメントはプロの実力のある役者だからこそと思う。

演じられるのは、社交界の恋物語などというロマンティックな話ではない。農村の貧困・女性差別・ジェンダー・非正規労働の格差・政治の不正などをなんとも楽し気に歌って踊ってみせるのだ。嘘とペテンの浅草を人間世界はもとよりこんなものだというように生き生きと描いている。
圧巻は、職人の親方からやくざ、右翼の親玉、政治家と延々とつながる男のホモセクシャルな関係で世の中が動いている様子をこの和製ミュージカルは実に楽し気に演じ上げていく。
児童合唱団に扮した役者たちが、世の中の不正や残酷さをエロい歌詞ときれいな合唱で歌い上げていくシーンは舞台の毒がたっぷりと味わえた。笑いのめしてしまう痛快さの中にチクリと風刺。

セーラー服からストリップ嬢、政治家の東京夫人へのなりあがっていく役を演じた小池栄子の脱ぎっぷりの良さと着物姿の貫禄に、驚いた。

演劇の舞台で井上芳雄を初めて見たのは、2013/1/29 広島市文化交流会館での「組曲虐殺」の広島公演である。ミュージカル界のスターも芝居は今一つだなと思った印象がある。ところが、いまやもう堂々たる役者っぷりではないか!やっぱり生で観に行きたいよ~と思った私。

全国巡演はまだ公演中です。悩ましい限りだ。

ワンピース

ワンピース

松竹

新橋演舞場(東京都)

2017/10/06 (金) ~ 2017/11/25 (土)公演終了

満足度★★★★★

歌舞伎座の前を通って、新橋演舞場へ。骨折した猿之助に変わり尾上右近が主役のルフィを演じることになったので、劇場入口でチケットの一部返金サービスをしている。3階席の私は500円の払い戻し。
演出は横内謙介、3幕で幕間休憩を挿んで5時間近い上演時間。1幕より2幕、2幕より3幕の上演時間の方が長くなっているのに、後半に従ってこれでもかこれでもかと面白くなっていく。せりと回り舞台を使ったダイナミックな場面転換で、特に本水を使った滝の流れを背景にした戦いの場面では、流れてくる水を飛び散らしながらの派手なアクションに度肝を抜かれる。私の席は、花道が真下で全く見えない3階席だったが、おかげで宙乗りでルフィたちを目の前で見られて大感激。3幕のエース決戦シーンは圧巻で、クルクルとトンボを切って動き回る炎役の役者の動き、流れるように美しい壮絶な対決シーンだった。
歌舞伎の役者さんと小劇場の俳優の共演でこんなに面白い芝居が観られるとは正直思っていなかったので、3000円のチケットでこれだけ楽しめれば、文句はない。又ぜひ観に来たい。

青空カラー

青空カラー

劇団こふく劇場

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2014/09/10 (水) ~ 2014/09/11 (木)公演終了

満足度★★★★★

こんな芝居が観たかった!
場の転換、役者の出捌け、台詞と演技・・きっと慎重で巧妙な仕掛けが施されているに違いない。ただ、そんなことを意識しなくても、観客は芝居を観ているだけで、演劇空間に易々と入り込んでしまう。
時系と場面がくるくると転換しているのに、観客席の自分自身が、まったく混乱しないことに驚く。大事件も驚愕の展開もない淡々とした芝居だ。これほど釘付けにさせたのは何だろう?
芸達者の役者が障がい者を演じるのではなく、障がいを持った役者が芝居を演じるという小さな衝撃!
こういう芝居を観たかったことに、観客の私自身が気が付いていなかった。これから、私たちが大事にしなきゃならないもの(新しい価値観)の萌芽、それを演劇は的確に捉える。観に行って大正解だった。

広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

広島アクターズラボ

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2017/06/09 (金) ~ 2017/06/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

演劇とは他者の世界観を見に行くものだと言った人がいる。
まさにそんな演劇に出合えた。
それぞれの演者にとって世界がどう見えているのか。それが生き生きと伝わってくる。役者は、自分に見えたその世界観を演じるために、演技以外のさまざまの勉強をしたそうだ。その集合知の重さが舞台にある。切り取った世界のコラージュの巧みさと、センスの良さで、見る者を飽きさせない。
悪戦苦闘の手探りの中、やっと試演にこぎつけたというが、観客席の私には、演劇にはこんな描き方もできるのだと、まさに目からウロコであった。
台詞と役者の本音が交錯した舞台のように見えながら、実はアドリブは全くないとアフタートークで聞き、更に驚かされた。
残すところ2ステージです、観ておいて損はないと思う。

白石加代子「百物語」

白石加代子「百物語」

メジャーリーグ

倉敷市芸文館 ホール(岡山県)

2020/11/17 (火) ~ 2020/11/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

白石加代子の「百物語」はYouTubeでも一部見られるが、観客席の私だけのために目の前で演じてくれる生の白石加代子が観たかった。
一旦終了した「百物語」だが、大事に取ってあるという、びっしりと書き込みをした上演台本を観ているうちに再開したくなったという。

白石加代子の百物語アンコール公演は夢枕獏「ちょうちんが割れた話」筒井康隆「如菩薩団」半村良「箪笥」和田誠「おさる日記」の4本立て。少年から老婆まで見事に憑依する白石加代子を堪能した。

最後に舞台の中央で白石が、「このような状況の中で舞台にお越し下さった・・・」と述べた後に口ごもったように一瞬黙り込み、「ありがとうございました」と挨拶した。
舞台は一期一会だ。来てよかったと思う。

ネタバレBOX

「ちょうちんが割れた話」は、暗転の舞台の上を白石が動きながら語っていくのがわかる。姿が見えないのがもどかしい。
そして、圧巻はやはり「如菩薩団」、上品でインテリだがつましい生活を強いられる団地の主婦たちによる悪逆非道な強盗団のお話。役に合わせて、高価ではないだろうが橙黄色のカラフルなドレスを上品に纏った白石がうっとりするほど素敵だ。強盗に襲われても育ちのいい人間はあんなふうに覚悟して死ぬのだろうか。これはもう敵わないなと苦笑い。
幕間休憩20分をはさみ「箪笥」、行燈の明かりが設えられ、一段高く設けた席に座った白石が演目を読み上げた、ぺたんと体勢を崩すと次の瞬間に奇妙な老婆の話が始まる。聞きなれない方言のせいで話の筋が朧にしかわからないのだが、コミカルさの中にじわじわと怖さがくる風変わりな怪奇譚だ。
高座から降りて舞台中央にたった白石はそのままの姿で、たどたどしい少年の声で「おさる日記」を読み上げる。登場する母親と父親の見下すようにも感じる落ち着いた声音の意味は、ラストで分かる。
境目

境目

劇団HIT!STAGE

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2017/11/07 (火) ~ 2017/11/08 (水)公演終了

満足度★★★★★

今までこふく劇場にハズレは無かったので、予約だけはしておいたのだが東京から帰った日の夜の遅い公演は、気が重かった。
ところが平日の夜公演の二日間が前売り完売だという。
熊本地震をテーマにした作品らしく、佐世保在住の劇団と宮崎在住のこふく劇場の合同公演。演出は永山智行。
中央の舞台を挟んで両サイドに観客席がある。テーブルや椅子らしき舞台セットは自然の木を直線で組み合わせた象徴的な設えだ。
震災や人の死を扱った作品らしからぬコミカルなシーンが続く。独特の佐世保弁の会話のやり取りのせいだ。日本語のやり取りなのに感情的にならないのが不思議。
役者が動作でリュックを背負ったり、スマホを扱ったりするシーンが多いのにどこか寓話めいた感じもあり、いろいろ考えさせられた。
ロビーでアフタートークが催された。役者も創り手も多くの思いで悩みながらの上演だったという。だが、それが観客の心の中に具体的に見えない何かをありありと映し出したのは確かだ。乗り越えていく勇気を貰った気がする。

粛々と運針 ツアー

粛々と運針 ツアー

iaku

ぽんプラザホール(福岡県)

2018/06/15 (金) ~ 2018/06/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

演劇は、愛や勇気や希望を与えてくれる華やかなものだと誤解されているのではないか。実は、私たちの人生にもっと必要で実用的なものなのだと気づく。

ネタバレBOX

舞台には、高さの違う3種類のイスが置かれ、舞台左右の一番高い木のイスに若い女と年配の女が座り、針に糸を通して、床まで届く反物のような白い布をひたすらチクチクと縫っている。
子どもを持たないと決めた夫婦、妻が妊娠したらしいと判り産むか産まないかで揉めている。母が倒れて病院に見舞いに行った帰り、母の希望の尊厳死について話す兄弟、結婚して別居している弟と、母と同居で独身、定職につかずコンビニでアルバイトをしている兄の二人。この二組が入れ替わりながら、舞台中ほどのイスに移動し会話を続ける。
課長昇進まじかで、いい母親になど、なりたくない妻、仕事をする自分に自信がないからせめて父親になってみたい、仕事を辞めて主夫になってもいいという夫。
お母ちゃんには手術をうけて元気になって欲しいという兄、お袋を母親役から解放させてあげたらどうかという弟。
彼らの会話が、行きつ戻りつしながら、繰り返される。その二組の会話が、時に絡みあったりするところがあったりして面白い。
だんだんと激高してくる二人を眺めていて、ふいに、産まれてくる子どもと死んでいく母親が実は、無関係と思っていた両サイドの二人の女優で、子どもと母親であると分かる、巧みな展開。
人は結局、長い時間を掛けて、時にはチクチクと心を刺すような思いをしながらでないと相手のことが理解できない。回りくどくても、無駄なような長い時間がかかっても、それが生きていくことだと、しんみりと心に沁みてくる。
いつの間にか、彼女たちが縫っていた長い布が6人の周りをゆるく囲んで繋がっている。
客席からは、若い観客だろうか、鼻をすする気配が聞こえた。
南島俘虜記

南島俘虜記

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2017/04/05 (水) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★

Bチーム
竹と木の葉で編んだ南の島らしい簡易づくりの医務室にのんびりとだらしなく寝転ぶ捕虜たち、熱帯の木々に囲まれた舞台美術は客席も覆い尽くすばかりで、まるで南の島にワープしたようだ。
近未来の日本は戦争中で、だが捕虜としてとらえられた日本兵たちの収容所は、平和そのもの。努めて緊張感を持たせないような演出で、捕虜たちの怠惰な日々が描かれる。
若い役者の卵たちはさすがに演技も台詞も達者だが、舞台に登場しない部分の奥行と言うか演技の深みが乏しい気がする。きっと、もっと面白い芝居になったろうな。

フェードル

フェードル

パソナグループ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

大竹しのぶの舞台をやっと見ることができた。ギリシャを舞台とする堂々とした台詞劇だ。シンプルな舞台装置。ギリシャ劇の耳慣れない台詞回しは、さすがにしっかり耳から心に届く。時おり客席には吐息のような笑い声が広がる。
何といっても、大竹しのぶがステキ。愛おしく、狂おしく、憎らしくと緩急自在な台詞の蠱惑的なこと。

プライムたちの夜

プライムたちの夜

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2017/11/07 (火) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★

リーズナブルなサイドの2階席が取れた。多少観にくいが舞台がとても近い。久々に浅丘ルリ子も観ておきたかった。ご高齢なので、これが最後かもしれないなどと失礼な(!)思惑もあり。
平田オリザのロボット芝居もある中で、役者がアンドロイドを演じるのは興ざめかもしれないと危惧したのだけれど。これがなかなか良かったです。
亡くなった人とそっくりのアンドロイドが開発された近未来。
浅丘ルリ子の80歳過ぎの老女の芝居は、さすがに真に迫った感じがあり、見事だった。ところが次の場面でアンドロイド役で登場した時には、ひややかにシャキッとしたアンドロイド振りで感心した。女優というは凄いものだ。
娘が老いた母のために頼んだのがアンドロイドである彼女の夫(しかも若い頃)、その娘が死んだ後に娘の夫が頼んだ妻のアンドロイドと、役者が本人役とアンドロイド役の二役を演じるのだが、その演じ分けがスゴイ。「それは記録されていません」という台詞が笑える。
そして最後のアンドロイドたちの会話、これが衝撃だった。
アンドロイドたちは、あとからインプットされた情報しか持っていない。ロボットにない、一番の人間らしさは、弱さであり狡さなのであろうかと考えさせられた。

Equal-イコール-

Equal-イコール-

赤星マサノリ×坂口修一

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2015/03/07 (土) ~ 2015/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★

その手があったか!
台詞っぽい会話のやり取りの胡散臭さ、いかにも芝居っぽい演技。
なのにこの面白さは、何としたことだろう!

平田オリザに傾倒していた私はどこへ行ったやら。
観客席で自分の演劇観(大げさやん)がガラガラと崩れ落ちる。

初めて観に行ったお客にも楽しめて、芝居好きも唸らせる芝居ってのは、あんまりないと思う。 ヘタウマ演技の巧妙さにも、舌を巻く。
えっ、何?と引っかかった部分が、劇後半部で次々に解明されていく快感。
出来ることなら、もう一度見直して、うん、うんと再確認したい誘惑にかられる。

人は内心の思いは、案外口にしないものだ。
であるならば超リアルな芝居といっていい。本心はどこに?

徐々に解明されるそのプロセスで味わう奇妙な浮遊感。
そして、衝撃のどんでん返し!

ビデオなんかで観ても面白いかもしれないけれど、この空気感は生で見なきゃ。

ネタバレBOX

ヨーロッパ中世の古典劇かと思っていたら、クローン人間が登場する近未来劇だった。

もし、自分のクローンと対峙することになったら、やっぱりちょっと怖い。

おんなじ役を、二人の役者が交互に演じていく芝居ってのが、とにかく面白い。しかも、趣向だけじゃなく、観ていて面白く作るのは、創り手側は意外と手が込んでいる。ちゃんと芸術は細部に宿っているのだ。

アフタートークの話によると、ラストシーンではふたりの演者のどちらが死ぬ役かは、決めてないそうだ。偶然選んだナイフの印で決まるらしい。
演じる側の心臓のドキドキが伝わってくるような、対決シーンである。

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