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ミュージカル版 『五色ロケットえんぴつ』〜気がつけば恋の話〜

ミュージカル版 『五色ロケットえんぴつ』〜気がつけば恋の話〜

劇団帰燕

高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)

2024/04/04 (木) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/04 (木) 19:30

4チームでの公演のうちのBチームを観劇。

初めての劇場。客席最前列にはソファが置かれている。
開場時から演技スペース面に5人の出演者全員が並び、客席と雑談を交わしている。客席を温める意味合いはあろうが、一方で声の大きな客との会話がうるさく感じられもする。一長一短だろう。

劇場版ポケモン等の脚本家・園田英樹が主宰し、旗揚げ公演に先立ってのプレ公演の第1弾という。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

スランプで落ち込んでいる少女漫画家マツリをアシスタントや幼馴染たちが盛り上げようと奮闘するというコメディだが、まずストーリーが安直。
コメディと謳いつつも、笑える場面は2つだけ。それも衣装の見た目で笑わせるといった手合いのもので、ギャグのセンスも古すぎる(例えば暗闇で女声の「ああ~ん、そこ」なんていう台詞が流れ、明転すると男が女の肩をもんでいる、といった具合だ。それって使い古された昭和のギャグだよ)。

歌も歌詞がメロディにのっておらず、そのためか、どの出演者も下手にしか聞こえないし、ダンスだって決して上手いというレベルでもない。演技力もイマイチ。

脚本・歌・ダンス・演技力のいずれをとっても客をよべるレベルにはない残念な公演だった。
長谷川圭一事件簿 ~Episode Zero~

長谷川圭一事件簿 ~Episode Zero~

劇団Cheminèe

エリア543(東京都)

2024/02/23 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2024/02/23 (金) 18:00

前夜の東久留米に引き続いて、この上井草駅も降りるのは初めて。当然この劇場も初めてなのだが、客席ひな段の前後が比較的高く作られていて、観やすい。

この劇団、主宰の西条萌が高校生の時に旗揚げし、コロナ禍で4年ぶりの公演だという。

セットはこの小さな空間にしてはきちんと造られている。

ただ、はっきり言って役者の演技レベルが低すぎる。
特に主人公の探偵・長谷川圭一を演じた役者がひどい。終始ヘラヘラ笑っているような表情で舞台の雰囲気をぶち壊しかねないひどさだが、他の役者陣も押しなべて低レベルなので、なんとかバランスがとれている状態。役者全員が学芸会レベルでしかない。

これで(上演時間1時間にも関わらず)3千円とろうなどとは烏滸がましいにも程がある。
準備期間が十分にとれず、これでは人様に観せるレベルに達しないとして、初日の数日前に公演中止を決めた団体も知っているだけに、尚更その感を強くする。

ストーリーも謎が謎を呼ぶといった手合いのものではなく、お手軽そのもの。このCoRichの作品説明には「初めから終わりまで一瞬も見逃せない」と書かれているが、羊頭狗肉も甚だしい。

ライブショー「ザ・アイドル-THE IDOL-」

ライブショー「ザ・アイドル-THE IDOL-」

WizArt

Cafe JINDO(東京都)

2024/02/22 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2024/02/22 (木) 19:30

団体名のWizArt はWizard(魔法使い)とWith Artをもじったものだろう。が、その舞台には魔法にかけられたように魅入られるものでも、芸術的に優れたものでもなかった。
ダブルキャストの空チームを鑑賞。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

舞台はとあるアイドルオーディションの最終選考に臨む6人の控室。女子大生・主婦・オネェ・トランスジェンダー・元人気アイドルの娘に元キャバ嬢のグラビアアイドルといった異色の面々…だが、こういう面々から選抜してどういうアイドルグループを作ろうというのか、その意図は全く説明されない。要するに物語設定を面白くするだけの顔ぶれであって、その必然性がないのだ。

前半は彼女(?)らの抱える複雑な事情が自己紹介の形で語られ、後半はその最終選考、そして結成されたアイドルグループのデビューのライブショーという構成なのだが、最終選考やライブショーでも彼女らが難関を勝ち抜いてきた実力の持ち主とは到底思えない。そもそも最終選考の場でもナツキ役のステルスにゃんこなんて口パクだし…。

最近はTV地上波でもアイドルのオーデションや女優のオーディション番組が放送されている。それを少し観るだけでも、この舞台がいかにお手軽に作られているかがよくわかる。

役者の演技レベルは、オネェのトオル役の清水忠とハル役の森藤拓海がかろうじて水準点といったところ。
サロメ

サロメ

獣の仕業

シアターバビロンの流れのほとりにて(東京都)

2024/02/23 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/25 (日) 18:00

オスカー・ワイルドの「サロメ」は昨年7月にすみだパークシアター倉で上演された無名塾の公演(演出:江間直子)も観ており、その舞台も素晴らしかったが、今回の獣の仕業による公演はそれを上回る濃密で、まさに一瞬も目を離せない、息を詰めて観入る舞台だった。

まず驚いたのが森鴎外の翻訳を使用していることだ。鴎外がこの作品を翻訳していたことなど全く知らなかったのだが、調べてみると鴎外のものが本邦初の翻訳なのだという。
そして劇場が〔シアターバビロンの流れのほとりにて〕だ。サロメの舞台となっている土地とも重なり、まさにうってつけだ。ただ、最寄駅からの距離が遠いのが難点だが、2,500円というチケット代を考えれば多少のことは…、と思いつつも冷たい雨が降っているとなればやはり辛い(笑)。

この公演の完成度の高さは、一にも二にもサロメを演じた雑賀玲衣の圧倒的な演技によることは誰も口を挟めないだろう。ただそれが素晴らしすぎるが故に作品全体としては多少の減点要素ともなるのだが…(それで★5つにできなかった。後述)

【後日、詳しく追記予定です】

夕暮れの旅人たち

夕暮れの旅人たち

表現集団蘭舞

シアター2+1(東京都)

2024/02/10 (土) ~ 2024/02/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/02/11 (日) 17:00

西荻窪の劇場といえば遊空間がざびぃしか行ったことがないと思っていたのだが、この劇場への最後の曲がり角であるT字路で突き当りにCOOPとスーパーが並び立つ風景には見覚えがある。いつ来たんだろうと考えに考えて、かなり以前にハグハグ共和国所属の役者が一時期にそれぞれ違った劇団に客演した際に、それらの各公演をスタンプラリーよろしくサインを集めながら観て回ると景品が出る企画があって、その時に来た劇場のひとつだったのを思い出した。多分劇場名は今と違っていたと思うが…。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

両親が離婚して以来会っていない父親に会うため、そして引っ越してしまった彼女に会うため、単身博多の地を訪れる中学3年生の少年・凪の物語だが、はっきり言って暗転が多すぎる。これまで暗転(場面転換)が多かった芝居と言えば上演時間2時間弱で64シーンというピープルシアターの作品があり、当時その主宰は「舞台で映画を創る」という趣旨のことを言っていたが、シーンを細切れにすれば映画になるというものじゃないだろうというのが正直な感想だった。この作品も場面転換が多すぎて、登場人物の心に寄り添いかけると転換という繰り返しでは、訴えかけるものが薄くならざるを得ない。もう少し考えた方がいいだろう。

あと、博多弁がいまひとつひどい。当日パンフによれば方言指導が居るようだが、字面だけ方言にしても(それだって満足に博多弁になりきっていない個所が散見される)イントネーションがまるで違う。そのために博多弁のシーンになると九州人の私としては白けてしまう。桟敷童子のレベルまでとは言わないものの、これまたもう少しトレーニングすべきだ。

凪の母親で刑事でもある清美が夫に向かって「こういう仕事で女性が出世するのは大変なんだから」という場面があるが、こういう会話でわざわざ「女性」と言うものだろうか。この人物のキャラクターからも、また警察社会に身を置く立場としては単に「女が」と言うのではないか。コンプライアンスを気にしすぎだ。もっとも清美を演じた小暮美幸はこの他にもおチャラけた役もこなして、存在感を十二分に発揮していた。
Musical  Collection 1 陽だまりに青

Musical Collection 1 陽だまりに青

Muse:Am

シアターシャイン(東京都)

2024/02/09 (金) ~ 2024/02/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/02/10 (土) 13:00

シアターシャインというごく小さな空間でミュージカルというのにまず驚いたものの、小さな空間だからこそ電子ピアノとマイクを用いないナマ歌でのミュージカルを味わえるのだともいえる。

渡辺七海は美人だし、スタイルも良く、歌声も美しい。
ただ難を言えば、物語が純粋な兄弟愛・崇高な人間愛を謳い上げて、あまりに素直すぎる。もっとドロドロとした葛藤だってあったはずだが、それがないのでそれぞれの人物が薄っぺらく感じられる。ゴッホが自身の耳を斬り落としたことについてもその心情を深く掘り下げることもない。綺麗事すぎて人間が描けていないともいえる。

そしてもうひとつ。開場されて客席に入った時からずっと、おそらく出演者の母親とそのご友人たちの一行がぺちゃくちゃと大きな声で世間話に花を咲かせている。折角舞台奥に「ゴッホの寝室(ゴッホの部屋)」の油絵(残念ながらこの絵はアルル移住の前に描かれているのだが)が投影されて、開演前から物語世界に浸ろうとしているのに、それができない。小さな空間だからこそ、そういう点にも配慮が必要だろう。

時代絵巻AsH 華ノ壱『葵姫〜あふひ〜』

時代絵巻AsH 華ノ壱『葵姫〜あふひ〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/02/08 (木) ~ 2024/02/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/10 (土) 18:30

前夜に続いて2回目の観劇。今回は幕見席で後ろから2列目のセンター。

舞台装置は1週前に上演された「暁月〜あかつき〜」のものとほぼ同じながら、この作品ではあの28人に及ぶ登場人物と彼女らの着物の数…そんなに広い楽屋でもなさそうだし、大変だっただろうなあ。

この作品はシアターグリーン3劇場で実施されている演劇祭「グリーンフェスタ」の審査対象作品ではないが、もしかしたら「暁月〜あかつき〜」ではなく「葵姫〜あふひ〜」を審査対象として参加した方が良かったやもしれぬ。

ところでこの公演が華ノ壱となっているからには、今後も女性だけの舞台も続けていくということか…

時代絵巻AsH 華ノ壱『葵姫〜あふひ〜』

時代絵巻AsH 華ノ壱『葵姫〜あふひ〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2024/02/08 (木) ~ 2024/02/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/09 (金) 18:30

大名席(2列目)のセンターブロック下手側通路脇で鑑賞。
3日に観た同団体の「暁月〜あかつき〜」と対をなす作品。「暁月〜あかつき〜」は幕末の日本で人斬り以蔵と恐れられた岡田以蔵を中心とした、従来のAsH作品同様に男だけが躍動する物語(時代劇で女性を登場させない作劇はかなりの困難がつきまとうと思われるのだが)。
そしてこの「葵姫〜あふひ〜」はAsHとしては初めての、女優だけで描かれる幕末の大奥の物語ゆえに期待が大きかった。
因みにAsHには男女混合作が2つだけある。それ以外に源平合戦の屋島の戦いの場で小舟に日輪の扇を立てて源氏に射てみよと誘う玉虫役で灰衣堂自身が後ろ姿のみで出たことはあるが…。

【以下ネタバレBOXにて】

ネタバレBOX

奥向の万事を差配する大奥随一の権力者で、表向の老中に匹敵する役職であった将軍付御年寄の瀧山を軸に、薩摩藩から将軍家に嫁いだ篤姫、皇女でありながら十四代将軍・家茂に降嫁した和宮、十五代将軍慶喜の妻・一条美賀子らが公武合体、大政奉還、江戸城無血開城といった歴史の中でどのように動いていたのかが、濃密な空気感の中で華やかさを伴なって描かれていく。

AsHの看板役者・黒崎翔晴が頭中将役で客演した芸術集団れんこんきすたの源氏物語「雲隠れシンフォニエッタ」(19年3月)に出ていた女優が多く登場するのも、れんこんきすたが解散した今となっては懐かしくも楽しい。

殊に瀧山役の生粋万鈴が圧巻だ。将軍家と大奥のしきたりを絶やすまいとの強い意志をもって動く前半と、江戸城無血開城の後にその目標と頼るべきものを喪失して一人の女となり、叔母と共に死を選ぼうとする終盤の哀れさの表現が素晴らしい。また篤姫と和宮に代わって大奥の皆に向かい江戸城から退出せねばならぬことを告げる場面での説得せんとする必死さも秀逸だ。
その瀧山に仕える仲野役の泉川萌生も舞台は久しぶりながら、存在感を発揮する。殊に終盤で瀧山たちに向かって「ドーンと任せなさい!」と腕を突き上げる場面では、前述の「雲隠れシンフォニエッタ」でいきなり鰹を取り出す場面が思い出され、一人密かにニンマリとしたのだった。

吉水雪乃は描かれる時代と座組の年齢構成からみておそらく和宮役だろうと察してはいたものの、まさかその母親・観行院を実の母親である吉水恭子が演じるとは思いもしなかったのだが、この吉水母娘の共演は所属する風雷紡でも最近はみられなくなり、なんと18年8月の「ロンギヌスの槍」以来のことだ。和宮役の吉水雪乃は前半の婚約者を想っての夢見がちな少女と、帝と民のために降嫁する道を選んでからの強さをうまく演じ分けていたし、吉水恭子も実の母親だけに和宮への思いがより強く迫ってきたのだった。
兵卒タナカ

兵卒タナカ

オフィスコットーネ

吉祥寺シアター(東京都)

2024/02/03 (土) ~ 2024/02/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/02/13 (火) 19:00

反ファシズムのドイツ人作家ゲオルク・カイザーがナチスに弾圧され、スイスに亡命中の1940年に書いた戯曲だという。ナチスに弾圧されてスイスに亡命中だったということは、ナチス・ドイツと同盟を結んでいた日本に対しても好意的な感情を持っていた訳がない。
それは「戦場にかける橋」の原作者でもあるフランス人作家ピエール・ブールが日本軍の捕虜となり、その時の経験を基に「戦場にかける橋」を書いたのみならず、日本に占領された国を念頭において「猿の惑星」を書いた(当然ながら猿=日本人である)のを考えれば瞭然のことだ。
この「兵卒タナカ」も鋭く冷徹な眼でというよりも辛辣に皮肉たっぷりに描かれているといっていいだろう。搾取する側(天皇・国家)と搾取される側(国民)という図式も、当時のアジアにおいては白色人種が有色人種を搾取する側だったことを考えれば、ブーメランとして滑稽でさえある。

【以下、ネタバレBOXで…】

ネタバレBOX

途中10分間の休憩を2度挟み、3幕構成で上演時間は(休憩込み)2時間45分。第一幕はタナカの故郷の実家、第二幕は妓楼、第三幕が軍事法廷となっている。

冒頭、村人たちの体操まがいのダンスが展開されるのを見ると、この舞台が様式美を交えて演出されているのがよくわかる。
だが、この第一幕から違和感がつきまとう。帰省したタナカを家族はじめ村中が最大限の尊敬をもって迎えるのだが、家族が出征兵士の帰省を喜ぶというよりも「軍人さん」をこのボロ家に迎えるなど恐れ多いという態度なのだ。タナカは士官学校出身でも学徒出陣した訳でもなく、単に赤紙で招集された一兵卒、すなわち最下級の兵士であって、村から出征したのがたった一人だということはないはずだ。
また、村人たちとの会話で天皇陛下という言葉が何度もでてくるが、その単語に対して村人は感心するばかりで姿勢を正すこともない。当時の日本人の間で天皇陛下という言葉はもっともっと重みをもっていたはずだ。

妓楼の場でも遊女一人ひとりが客の前で踊りを披露するが、そんなもの無用だ。兵士が妓楼へ来る目的はただひとつ、踊りなんかどうでもいいはず。芸者遊びとは訳が違うのだ。
この幕ではタナカの妹・ヨシコの「飢えることと飢死することは違う。お腹が減るってことはまだ生きている証拠。」という言葉が胸に迫る。

第三幕の軍事法廷でも裁判官や弁護士があのような法服を纏っているはずもない。
そして天皇に詫びを求めるなどという発想は当時の日本人にはありえない。むしろ、己が思うままに飲み食いした宴が妹を女衒に売った金で賄われていたと知ったタナカは、己の無力さに打ちのめされ、妹とともに自身も銃剣で腹を斬るといった展開の方が普通だろう。

力作であることは認めつつも、劇中のすべてに違和感が付きまとう舞台であり、テーマの普遍性などはこの違和感の中で霞んでしまった。

タナカの妹・ヨシコを演じた瀬戸さおりの可憐さが強く記憶に残った。
激流ノ果テ-再演-

激流ノ果テ-再演-

劇団東俳

あうるすぽっと(東京都)

2023/09/30 (土) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/10/01 (日) 15:00

昨年の池袋演劇祭大賞受賞作品。

セットの両端が切れているように見えるのは、昨年の劇場でのセットをそのままあうるすぽっとという大きな舞台に設置したためか。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

現代の女子高生・咲良が自死しようとしたが、その意識が終戦の年に米軍の空襲から逃げようとして高台から転げ落ちた妙子の身体の中に転移する。記憶喪失と見做された妙子として生きながら、戦災孤児となった武子と清子の幼い姉妹の面倒をみる中で生きることの意味を見出していく…。

登場人物が多いこともあって、圧巻の舞台ではある。

が、回天という兵器(というか人間魚雷)について何の説明もないままでただ「回天」と言うだけで、現代の観客に通じるのだろうか。
また、海軍兵士の敬礼が陸軍式のものだったのは残念。海軍の敬礼は(軍艦内の狭い通路ですれ違うため)脇を締め、肘を身体に寄せて行なうのだ。演出家にそういう知識が欠けていたのか。これだけの内容の作品を創ろうというのであれば、もっと詳しく調べるべきだったろう。

高い位置から妙子を見守る咲良役の中島明子の台詞がはっきりせず、時折聴き取り辛かったのも残念だった。
人生交換Ⅱ

人生交換Ⅱ

劇団たいしゅう小説家

萬劇場(東京都)

2023/09/13 (水) ~ 2023/09/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/09/17 (日) 12:00

CoRichで毎公演チケットプレゼントを行なっているものの、全くといっていいほど観劇後の「観てきた!」投稿が無いため、実際にはチケットプレゼントなどやっていないに違いないとユーザー間で疑惑が囁かれている劇団。
今回の私もチケットプレゼントに応募してみたが、やはりハズレた。

劇場に入ってまず感じたのは観客層がよくわからないこと。様々な年代の幅広い客層は小劇場というより商業演劇のそれに近いかもしれない。
舞台セットが照明の効果もあって美しく、かつSF的な感じもうまく出している。
5分遅れで開演、上演時間1時間45分。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

地球担当を押し付けられた宇宙人が狂言回し的な役柄。
ダンサーや格闘家、ブルジョアのお嬢様、県会議員、ホームレス、トーヨコキッズにおカマ…といった9人の男女が集められ、この宇宙人から人生交換を持ちかけられるのだが、それが地球の破滅を救うことになるかもしれないという設定がまず不可解。
このレベルの、しかも少人数の日本人のテストだけで地球全体の運命を決めるということへの、説得性のある説明がないのだ。

まあ作品として面白くはあるのだが、設定に加えて内容も表面的で掘りが浅く、かつ予定調和的な展開に終始する。

何かやりきれない感じで劇場を後にしたのだった。
MARIONNETTE(東京公演)

MARIONNETTE(東京公演)

劇団The Timeless Letter

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/09/28 (木) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/10/01 (日) 12:00

ダブルキャストのteam FAKEを観劇。

関西の劇団で、4年ぶりの池袋演劇祭参加だという。関西の劇団で池袋演劇祭といえば、2014年に池袋演劇祭初参加にして大賞を獲得した京都の劇団ショウダウンを思い出さずにはいられない。それもシアター風姿花伝という不利な立地の劇場での2時間に及ぶ一人芝居でだった。

The Timeless Letterという劇団は初見だが、シアターグリーンのBIG TREE THEATERでの公演というのにまず驚かされた。かなりの集客力がなければ赤字必至となるであろうからだ。この回は観客に指定されていたのはセンターブロックのみで、上手側と下手側の両サイドは使われていなかった。となると、6割程度の入りか。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

劇場に入ってまずそのセットの見事さにしばし見とれた。当日パンフの図解によれば正面の十字架と円形のステンドグラスはロザリー教会、上手はスコットランドヤード殺人捜査課の部屋、下手はローガン製薬の社長室だという。20世紀初頭という時代がかった雰囲気も良く出ている。
これらのセットについては3人の女優による前説でもギャグを交えながら説明が行なわれる。
ただ気になったのはローガン製薬社長室のデスクの上に蛍光灯スタンドのような形の卓上照明器具が置かれていたこと。20世紀初頭だとまだ白熱球の時代であり、デザイン的にああいう形のものはないはず。
時代的におかしいといえば、葉巻を吸う場面も同様。ジッポー型のライターで着火しているが、このタイプのポケットライターは米国のロンソンが1927年に、同じく米国のジッポーが1933年に発売したものがその始まりであり、20世紀初頭にはまだ生まれていないのだ。

序盤で黒いドレスの5人の女によるダンスがあり、それが終わると舞台中央に赤いドレスの女が倒れており、その傍に2本の薔薇が置かれている、という場面が秀逸だ。そして第二、第三の殺人が行なわれ、薔薇の本数も7本、13本と増えていく。物語はテンポよく進み、舞台への集中を途切れさせない。照明と音響がさらにその効果を強めている。

伏線も見事に回収され、かつ「悪魔のくちづけ」というサブタイトルもきちんと活かされている。

2時間ちょうどで終演となり、カーテンコール。事前に上演時間は2時間10分と説明されていたのだが…と思っていると、カーテンコールの最後に中央奥からハケようとした新人巡査のハンナが(千穐楽のカーテンコールということで直前まで涙を流していたのだが)十字架のところで立ち止まり、いきなり笑い出す。そして明かされる驚愕の秘密…これが更なる伏線の回収となっており、それが終わったのは開演から2時間10分後、思わずは~っという感嘆の溜息が出た。
役者陣の演技も含め(殊にハンナ役の愛恵―“まなえ”と読むらしい―が印象的)、素晴らしい舞台だった。

が、いまひとつ残念だったのはロープにダニエルの指紋が付いていたという個所。スコットランドヤードでも1901年から指紋が犯罪捜査に用いられるようになってはいたが、21世紀の現在でも布地から指紋を採取することはほとんど不可能なのだ。ましてやロープからなど…。
同棲時間

同棲時間

亜細亜の骨

新宿シアターモリエール(東京都)

2018/08/02 (木) ~ 2018/08/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2018/08/03 (金) 19:00

日本では上演される機会がほとんどない台湾の戯曲である。台湾人3人で演じられ、時折日本語で会話がなされるが、概ねは台湾語で日本語の字幕が出る。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

台湾のボロアパートの一室。ここで一人暮らしの末に死んだ父親の遺品を片づける弟。そこに日本人の母を持ち、日本でサラリーマンをしている兄がスーツ姿でやってくる。実はこの2人、以前兄が出張で台湾に来た時に興味本位でマッサージパーラーに行き、そこで彼を見染めた弟に誘われ、兄弟と知らずに同性愛にはまりこんでしまっていたのだ。
そこにこのアパートの家主で、これも同性愛者のサルサが現れ、三人三様の生き方が交錯していく…。

同性愛の濃密な描写といい、行儀のいい日本人の何気ない異国人差別の問題を根幹に置いた設定といい、かなりショッキングな内容ながら、惹きつけられ、目が離せない。
台湾演劇の力をみせつけられた舞台だった。
燦燦SUN讃讃讃讃

燦燦SUN讃讃讃讃

かまどキッチン

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/08/03 (木) ~ 2023/08/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2023/08/04 (金) 19:00

初見の団体だが、正直言ってがっかりした。
衣替えから始まるクローゼットの中で衣類たちが巻き起こすてんやわんやのドタバタ活劇……とのことだったのだが、全くハジケない。頭で考えただけの会話劇といった感じで、迫ってくるものも注目させるようなシーンもまるでなく、途中で飽きてしまった。
なお念のために言うが、これはあくまで高齢者の一人としての繰り言である。今の若い人はこういう舞台が面白いと感じるのかもしれないし、それを否定するものではない。

(以下、ネタバレBOXにて)

ネタバレBOX

開演前に演技スペースと客席の仕切りとして並べてある白い三角コーンを開演時に下手奥に4個、3個、2個、1個と順に重ねて仕舞うことや、全員がA4サイズの紙を何枚も重ねたものを首から下げていて、それを順に引きちぎることでそれぞれの服の種類や状況説明にするということなど面白い表現も散見されはしたのだが。しかし終演後に床に散らばった紙を見ると膨大な数である。あれを毎ステージ、重ねる順序を間違えずに作るのって大変だろうなあ。
ロリコンのすべて

ロリコンのすべて

NICE STALKER

王子小劇場(東京都)

2015/12/24 (木) ~ 2015/12/28 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2015/12/27 (日)

2015年観劇納めという日という日にこんな芝居を(笑)。劇団名だって“ナイス・ストーカー”だなんて、相当アヤシイ(笑)。主宰のイトウシンタロウなんて、“個性的な女の子が大好きで自分がモテる芝居を演じ書くために旗揚げした”と公言しているほどナノダ。
大体CoRichではチラシの大部分が黒く塗りつぶされているが、実際のチラシは露天風呂の縁に腰かけている少女の胸と股間の部分にうっすらと湯気が漂っているだけというかなりヤバイ代物。しかも劇場の物販コーナーではその湯気すらないプリントがこっそりと販売されているのダ(さすがに買うのには相当勇気がいる。イヤ、勿論買いませんよ、ワタシは…)。
で、舞台の方はというと、これが結構面白いのダ。純愛ものと言ってもいいだろうけど、何よりもセリフが活き活きとしていて、テンポもいい。初見の劇団でこういうのがあるから、固定観念にとらわれてはイケナイと痛感させられる(固くなって痛みを感じる、ってことじゃないよ。爆)

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

サルメカンパニー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/05/18 (木) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/20 (土) 18:00

題名から、ナチ占領下のチェコでアメリカからやってきたジャズに酔い痴れる若者たちの群像劇だろう程度の(不完全な)印象で劇場に足を運んだのだったが、久々にスゴイ舞台を観た。今年はこれで96本目の観劇となるが、現時点で今年のBEST1だ。

チケットにはEX列と記されていたので、通常の客席外に増設された席で見切れもあるかと思っていたのだが、2列目(A列とB列の間。B列から階段席)のセンターだった。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

舞台最先端に、きちんと折りたたまれた衣服が一人分ずつ横に並んでいる。開演すると客席上手側前方の扉から白いランニングシャツにブリーフだけ身につけた7人の若い男たちが入場してくる。軍隊の制服姿の男から舞台上に並べられたそれらの衣服が全てチェコスロヴァキア製のものだと説明されて着用し、チェコスロヴァキア製の小物(タバコなど)や偽造身分証などを手にする場面を観て、これはチャーチル拉致という特殊任務を受けたナチス・ドイツ落下傘部隊を描いた映画「鷲は舞いおりた」のようにチェコにスパイとして潜入するナチスの物語か、それでチェコ国内でジャズに熱狂する若者たちと交わることで変化していくという展開か、と勝手に想像したのだったが、実は彼らはチェコ人で、英国とチェコスロバキア駐英亡命政府の指令を受けて、ヒトラー・ヒムラーに次ぐナチスナンバー3で、ベーメン・メーレン保護領(ドイツに編入されたチェコ領土)の実質的な総督でもあったラインハルト・ハイドリヒ暗殺のためにチェコに潜入するパルチザンだったのだ。
「鷲は舞いおりた」とは真逆の設定だが、チェコでは類人猿作戦(エンスラポイド作戦)として有名な史実らしい。

7人の内の2人は落下傘降下(この場面の表現が上手い!)の最中にドイツ軍の機銃掃射により死亡。ストーリーは先に降下した2名(ヨゼフとヤン)を軸に展開していく。二人はチェコ国内の抵抗運動グループのハイスキーとラジスコフの助けを借りて、暗殺作戦を練り上げるが、その過程でヨゼフはローナと、ヤンはアンナという女性と知り合い、好意を抱くようになる。
やがて落下傘降下で生き残った3人も合流し、暗殺作戦は実行に移されるが、ヨゼフの短機関銃が不発で、やっとのことでその場から逃亡する…。

ここまでが第一幕(95分)。10分の休憩(この時間にジャズの生演奏あり)を置いて第2幕が60分と、合計するとかなりの長尺だが、まさに息つく暇も与えずという言葉通りの展開が続いていく。舞台上の張り詰めた空気は瞬時も緩むことなく、通常だとこれだけ緊迫した演技が続くと観ている方も疲れるものだが、この作品ではそれを全く感じることがない。

ハイドリヒは襲撃された時に負った傷から感染症を発症し8日後に死亡するのだが、ナチス・ドイツは報復としてひとつの村を虐殺で消し去り、襲撃犯が見つからなければさらに3万人のチェコ人を処刑すると声明を出す。落下傘降下班で、襲撃に加わらなかったチュルダの裏切りにより、パルチザンは次第に追いつめられ、最終的に全員が玉砕する。ヨゼフは死の瞬間にダンスホールで仲間たちがジャズを楽しんでいる幻想を見る…。

類人猿作戦について帰宅後調べたところ、一連の経過は劇中で描かれていた通りだった。その点ではドキュメンタリー劇ということになるのだろうが、昨年1月に観たtroupe▲antLion「革命前夜」(1980年代、共産党政権が崩壊するビロード革命勃発直前のプラハでの演劇人の苦悩を描いた奥村千里の作品)をも思い起こして、チェコスロヴァキアという国の激動の歴史に思いを馳せたのだった。

残念だったのがジャズに夢中になる若者たちの姿が前半のほんの1シーン(ダンスホールで興じている時にナチ親衛隊によって制圧される)だけで、それもあってラストの幻想に自由への憧れが反映されないことだ。純真なアンナ(西村優子)と妖艶さも漂わせるローナ(松田佳央理)という対比はうまく活きていたが…。
松田は3月のハツビロコウ「レプリカ」に続いて存在感を示した。男優ではハイスキー役の今里真がいい味を出していた。
劇団壱 CE A WEEK

劇団壱 CE A WEEK

壱劇屋

萬劇場(東京都)

2023/05/15 (月) ~ 2023/05/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

鑑賞日2023/05/15 (月)

「壱ce a week」は「ワンス・ア・ウイーク」と読ませるらしい。
劇団壱劇屋東京支部にて作演出を務める竹村晋太朗によるワークショップで、稽古は週に一度だけの9回の稽古を経た14名が、竹村晋太朗完全書き下ろしの短編殺陣芝居を演じるのだという。

あの壱劇屋のワークショップだからと多少期待はしていたのだが、あまりのレベルの低さに唖然とした。説明には14名(全員が女性)を劇団員と書かれているが、これで劇団とは烏滸がましい。無料カンパ制だったので金銭的な損失は劇場までの交通費だけとはいえど、はっきり言って時間の無駄だった。

素舞台の中央奥に平台が13枚積み上げられているのみ。
上演時間は本編35分。

壱劇屋の男優による説明の他は一切台詞なし。35分のほとんどが、ただただ殺陣である。なぜ戦っているのか、これらの登場人物にどういう背景があるのか、一切わからない。
なのに、その要である殺陣がまるでなっていない。一部の者にはアクションシーンでもその表情に真剣さがうかがえない。次の動作がどうだったか、それしか考えていないようにもみえる。だから、殺陣にスピードや迫力が全く感じられず、相手とのタイミングがズレているのも散見される。

殺陣といっても、刀を大振りに振り回しているだけだが、基本がなっておらず、腰が入っている者は皆無で、あれでは人を斬ったりはできない。
抜身の刀を鞘に入っていると見立てているのだが、その刀を抜く身振りでまず鯉口を切っている者もいない。日本刀はまず鯉口を切らなければ容易に抜けはしないのだ。
それに真剣は竹刀や木刀と違って重いのだ。ああも大振りを続けていてはすぐに疲れてしまうし、第一、あんなに派手に打ち合っていては、余程の名刀ででもない限り、すぐに刃毀れして斬れなくなるか、折れてしまう。映画「七人の侍」での野武士との雨中での乱闘シーンで、何本もの刀を土に突き刺しておいて取っ換え引ッ換えしているのはそういう理由からだ。

一番小さい女性は斬りかかってくる相手の刀を両前腕部で受けることを何度もやっていたが、手首から肘までは素肌で何の防具も付けていなかった。だったら刀を受け止めるどころか切断されてしまうだろう。

それから両手を振って歩く者が何人もいたが、武士というのは両手を振って歩いたりしない。なぜなら振った右腕が後ろにある時にいきなり斬りかかられたら刀を抜くのが遅れてしまう。だから武士は平時でも普段から手を振って歩かないように心がけていたのだ。竹村晋太朗は殺陣のみならずそういう基礎的なことも教えられないのか。であれば時代劇のワークショップなど止めるべきだろう。いかに参加者がズブの素人だろうと、「壱劇屋がやって(教えて)いるのだから、これでいいのだろう」などと演者(参加者)や客が思うようになったら、きちんとした時代劇の伝承にとって疎外要因でしかない。時代劇を上演するというのは、そういう責任も負っているのだ。時代絵巻 AsHなどの上演姿勢を学ぶべきだろう。

本編が終わってすぐに参加者個々人の感想や感謝の言葉が述べられ、修了(卒団)証書の授与があるのだが、これが本編とほぼ同じ時間かかるのに、本編だけ観て退出はできないようにされていた。本編だけでウンザリしていた身としては全く関心が持てず苦痛でしかない。通常の公演なら本編とアフターイベントの間には興味ない人間が退出できるように時間が設けられているのに、WS参加者の家族や友人でもないのに、そういったものに無理やり付き合わされてはかなわない。

昨年、劇団チョコレートケーキ初のワークショップは無料で半年間実施され、その参加者のみによる上演を含めた公演が読売演劇大賞の大賞と最優秀作品賞を受賞したし、仲代達矢は主宰する無名塾に一旦採用したとしても3ケ月経っても見込みのない者は辞めさせたという。それが本人にとっても演劇界にとってもいいのだという信念なのだそうだ。
WSでも見込みのない者は板の上に立たせない、そういう厳しさも必要だろう。壱劇屋のWS公演からはそういった「演劇人を育てよう」という気持ちなど微塵も感じ取れなかった。むしろズブの素人相手にきちんとした時代劇を指導できなかったという点では一層罪は重い。「型破り」というのはまず「型」を学んでそれを身につけた者がやることだ。

毛皮のマリー【2023年上演/B機関】

毛皮のマリー【2023年上演/B機関】

B機関

座・高円寺1(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/16 (日) 18:30

舞踏メソッドを演劇に応用することを目的に2016年11月に「毛皮のマリー」で旗揚げしたB機関が、映像をも加える次なるステップのために、この公演をもって解散するという第一期ファイナル公演である。
因みに私が主宰の点滅を舞台で初めて観たのはB機関の旗揚げと同じ年のリオフェス(岸田理生アバンギャルドフェスティバル)での「詩稿・血を、噛(は)む。 ―吸血鬼、男色大鑑より―」であった。そこでの圧倒的な存在感は今もありありと思い出すことができる。

この「毛皮のマリー」は劇団天井棧敷により1967年にアートシアター新宿文化で初演され、その時にはスタッフにも著名な人物を配していたものの、さまざまな理由でトラブルに見舞われたようだ。その後何度も上演され、マリーは「黒蜥蜴」と並んで美輪明宏の当たり役となっている。94年のPARCO劇場での上演時には欣也役としていしだ壱成が舞台デビューしており、下男役は麿赤児だったが、その関係でか点滅もこの時に演劇の舞台にデビューしている。

座・高円寺1の広い舞台いっぱいに広がる岩窟の廃墟のようなセットがまず目を惹く。下手の階段をのぼった高見には十字架が聳え立つ。舞台中央奥の小高い場所に木製のボートらしきものが置かれている。

開場時から舞台上で4人の女性が極めてゆるやかに動いており、これもきちんと振付された舞踏なのだろうが、残念ながら観客はあまりこれを見ていない。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

「鏡よ、鏡よ、鏡さん。この世で一番の美人はだれかしら?」―ボート型の浴槽からそう問いかけて、鏡の答えに「よかった、白雪姫はまだ生まれていないのね」と安堵しながら下男にすね毛を剃らせる40歳の男娼がマリーだ。B機関旗揚げ時には観ていなかったのだが、この冒頭で驚いたのはマリー役の葛たか喜代がその裸体を曝したこと。カミングアウトして女優に換わったのだということは知っていたものの、てっきり豊胸手術しているのだとばかり思い込んでいたのだ。マリーに育てられながらも部屋の外に出してもらえない美少年の欣也が「マリーさん」と呼びかけると「マリーさんじゃないよ、お母さんだって言ったろ!」と厳しく叱責する姿とともに、男娼マリーの鬱屈したした心理が見事に表現されている。
マリーが客の水夫に語ったところによれば、マリーは大衆食堂の子として生まれ、女ばかりの店員のあいだで店を手伝っているうちに、女装に目覚めたのだという。店員のひとり金城かつ子と、女の子としての魅力をあらそう仲になるが、嫉妬にかられたかつ子がマリーに迫り嘲笑するとマリーは男を雇いかつ子を襲わせる。かつ子は男の子を生むが難産で死んでしまう。マリーはこの子を引き取って女の子として育てているのだ。
そんな欣也の前に、美少女・紋白が現われ、部屋の外にある人生の新しい世界を教えようとする……。

舞踏メソッドを演劇に応用することを目的としているだけに、開演前のみならず、何か所もの場面で舞踏が登場する。が、もともと舞踏は情念の踊りであり、倒錯した美を追求する前衛的な踊りなだけに、こうした作品世界とのマッチングに違和感はないのだが、いかんせんその分上演時間が長くなる。おそらくオリジナル版より1時間近く長いのではないか。わかりづらいストーリーが更にわかりづらくなり、はっきり言って疲れる。
舞踏と演劇を融合させる中で、上演時間をどう短くしていくかが課題ともなろう。
TOP HAT

TOP HAT

お茶の水女子大学ミュージカルカンパニーMMG

お茶の水女子大学徽音堂(東京都)

2023/04/30 (日) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/04/30 (日) 15:00

以前はほぼ毎公演観ていたMMGだったが、コロナ禍で在学生と大学関係者のみ観覧可となったこともあり、19年4月の「Je Chante -終わりなき喝采-」以来4年ぶりにお茶女の徽音堂に入った。
前述のような事情もあってか、以前は開演1時間以上前でも長蛇の列ができていたのだったが、今回は40分前でもほとんど並んでいる人がなく、2列目(最前列は使用不可)のセンターに席を取れた。

以前から場内アナウンスも宝塚劇場の開演前のそれと似せていて微笑ましかったのだが、今回は聴いていてかなり無理をしているなあとしか感じず、ちょっと不安に。
その不安は定刻に開演して、最初の曲で現実のものに。4年の間に歌もダンスも以前の公演とは比ぶべくもないほどにレベルが落ちている。冒頭の曲ではほぼ全員がステッキを扱いきれていないし、映画版でフレッド・アステアが帽子掛けを相手に伝説的なダンスを披露した場面では帽子掛けを持て余している様がありあり。全く心が弾んでこない。

演技力も低レベルで、溜息しか出ない。
緞帳の故障で急遽幕を使用しない演出に変更したとのことだったが、短いシーンを繋ぐのに長い暗転を繰り返し、その装置替えも極めて手際が悪い。幕を使わずとも装置替えを上手くやる方法はいくらでもあるのに、演出のひかり(31期)の経験不足でそういった工夫に頭が回らなかったようだ。

デイルやマッジといった主要な女役のスタイルが悪く、欧米の上流階級の女性にはみえない。外見でものを言うと今の時代はハラスメントだと批難されてしまうが、舞台上での見栄えというのは作品の出来に大きく影響する。
見栄えといえば、最もひどかったのはウェイターを演じていた時のこはる。立ち姿が悪いし、ヒールの高い靴に慣れていないのかダンスでフラつくし、そもそも振付を覚えていない。笑顔も全くみられないし、舞台にあがるレベルにはほど遠い。

この公演を観たら宝塚関係者は怒りだして、もう二度と宝塚作品のコピー上演は許さないと言い出すのではないか。

白夜

白夜

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/04/14 (金) 19:00

まずチラシの美しさに惹かれた。
九段下GEKIBAというこの劇場は初めてなのだが、エレベーターがなく、5階までの階段もやや急で、腰痛持ちの身としてはたどり着くのに一苦労(笑)。ザムザ阿佐谷のように靴を脱いで入場。

舞台下手にYAMAHAのシンセサイザーとギターが置かれていて、ここが生演奏の奏者席となるらしい。
舞台上手の壁に沿ってベッドが置かれ、その上に小さな窓。中央の奥にドア、手前に小さな木製テーブルと椅子。奥のドアの横に強いタッチの裸婦像の額が掛けてある。このセット、いかにも寂れた宿屋の一室という感じが良くでている。

怪しげな宿屋に怪しげな登場人物たちが蠢くこの戯曲は寺山修司がO.ヘンリーの「すべて備えつけられた部屋」(「家具つきの貸間」)から着想を得た戯曲だということで、構成や展開、台詞の一部さえほぼ同じ中で、寺山らしさが随所に顔を出す。因みに宿の女主人が部屋について説明する際の、「ガスコンロはベッドの脇にある」という何気ない一言がラストの重大な伏線となっているのも原典通りだ。

まず言っておく。私にとってこの舞台を観た最大の収穫は女中役の池田純美だった。女中役のハジけた演技も面白いが、むしろ劇の出番外で下手の奏者席でギターを抱えている風情も実に良かった。

開場時から客席には波の音が流れているが、5分ちょっと遅れて開演。2つのギターによるオープニングの曲が素晴らしく印象的だ。

が、そこまでだった。
「芝居じみた」という言葉は、芝居における演出のように言動が大げさに感じられたり不自然に感じられたりする様を指すが、今時これほど古典的な、まさに「芝居じみた」という言葉そのままの表現方法をとる劇団があるとは思ってもいなかった(まあ、それを体験できたことはある意味貴重ではあったが)。冒頭からこの小さな空間でどうしてこんなに声を張り上げる必要があるのかと思ったのだが、それが全ての役者に共通して、大声でもってわざとらしい台詞回しと大仰な動作に終始するのだ。二人で会話する場面で、互いを見ずに二人とも客席側を向いて言葉を発することも散見される。リアリティのないこと甚だしい。猛男の独白に哀愁といった風情を感じ取ることなど出来はしない。

ただ、役者が下手という訳ではない。4ケ月もの間戯曲に取り組み、ひとつひとつの台詞や動作を突き詰めた結果の舞台だというから、これはもう劇団の作劇姿勢自体がそうなのだろうが、見方を変えれば役者の身体の内から湧き上がってくる言葉や動作ではなく、頭で考えた台詞廻しや動作であって、ひとつ間違うと段取り芝居にもなりかねない。この表現方法だと、いくら役者に力があっても現在の他の劇団では使えないだろうなあ。

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