マライア・マーティンの物語 公演情報 On7「マライア・マーティンの物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/05/21 (水) 14:00

    1日の間を空けて2度目の鑑賞。この回も好評につき最前列にミニ椅子を増席とのことで、やや腰痛に不安を抱きつつも最前列へ。

    On7というのは5つの老舗劇団(青年座・文学座・俳優座・演劇集団円・テアトル・エコー)に所属する7人の同年代の中堅女優により「自分たちがいま演りたい芝居をやろう」と2013年に結成されたユニットで、私はその第0回公演(プレ旗揚げ公演)「Butterflies in my stomach」からずっと観続けている。受け身ではなく能動的に、情熱的に、胸が高鳴るような舞台を創造するというコンセプトだけに、シリアスなものからコメディ、屋外パフォーマンスとさまざまな形で密度の濃い上演を続けている。たださすがに結成12年ともなると自劇団への出演や家庭の事情等で全員が揃うことが難しくなったこともあり、今回は7人中5人に客演2人を迎えて(しかも1人は初の男優)の公演となっている。
    が、今公演は正直に言って、役者陣は紛れもなく熱演であるものの、(「観たい」に書いている危惧が現実のものとなっており)寺十吾の演出のまずさから、第1回公演「痒み」に次いで残念な作品となっていた。

    (以下、ネタバレBOXにて…)

    ネタバレBOX

    舞台中央に2段となったステージが組まれ、その後ろの壁には赤い屋根の納屋が描かれた幕が下がっている。

    開演すると暗い中で、その幕とステージの間から一人の女(マライア・マーティン)が立ちあがり、ステージにのぼって「私が死んでからもう1年になりますが、まだ誰も私を見つけていません」と語りだす。そして舞台は彼女が10歳の時にこの村の4人の少女たちの「チャレンジ・クラブ」の加わるよう誘われるところに遡り、彼女の人生と友人たちとの関わりが描かれ、やがて3人目の恋人に騙されてピストルで撃たれ、チャレンジ・クラブの友達からもらったハンカチで首を絞められ、最後にはスコップで頭を叩き割られる。

    さて、演出のまずさといったのは、まず5人の女優たちにほとんどのべつまくなしに大声で叫ばせているためにストーリーのメリハリに欠ける。例えばさくらんぼ祭りの楽しい思い出などは日常の生活の苦しさと好対照に描けるはずなのに、不十分でその対照の中から醸し出される厳しさが迫ってこない。

    レディ・クックなどの上流階級の様子なども、底辺の庶民の暮らしの厳しさとの対照を狙ったのかもしれないが、カリカチュアされすぎて、作り物めいた偽物臭さしか感じさせない。同じく上流階級の生活を戯画的に描いたスタンリー・キューブリック監督の「バリー・リンドン」を観てみるがいい(因みにこの映画はスタンリー・キューブリックが自作の中で唯一撮り直す必要性を感じないと言った作品だ)。

    もうひとつ例をあげれば、キリスト教の教義におびえるテリーザ以外の女性は性的にある程度の奔放さを感じさせるが、その対比もうまくいっていない。

    これらのことは脚本が悪いのではなく、演出次第でくっきりさせれるものだ。女性たちの心の奥にある懊悩や苦悩といったものが(女優たちの熱演にも関わらず)胸に迫ってこないのだ。女性が書いた戯曲でもあり、むしろ女性に演出を依頼した方がよかったのではないか。実名をあげて申し訳ないが、劇団チョコレートケーキのメンバーから「吉水姉さん」と呼ばれる吉水恭子(風雷紡)や元・れんこんきすたの奥村千里あたりだともっと女性の心情に分け入り、心の襞を含めてこの悲劇を描き出せたのではないか。

    余談ながら(「観たい」にも書いているが)つい最近も英国の博物館で人間の皮で装丁された本が見つかったとBBCが報じている。この博物館には同じ人間の皮で全面的に装丁された人皮装丁本があったが、今回はその余った皮を背表紙などに用いたものが見つかったのだという。これらの本の装丁に使用されているのが「赤い納屋殺人事件」の犯人ウィリアム・コーダーから採取された皮膚だという。今作品に描かれているように、ウィリアムは恋人だったマリア(マライア)・マーティンを殺害し、遺体を赤い屋根の納屋の下に埋めて、マリアと駆け落ちしたと見せかけて逃亡したという。翌年逮捕されたウィリアムに下された判決は死刑とその後の解剖だった。当時の犯罪者にとって解剖は死刑より恐ろしいことだったという。200年間も身の毛もよだつ恐ろしい話として語り継がれるようになった事件の顛末をまとめた本の装丁にその皮膚を使った訳だ。

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    2025/05/27 15:08

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