MINoの観てきた!クチコミ一覧

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サド侯爵夫人

サド侯爵夫人

遊戯空間

銕仙会能楽研修所(東京都)

2022/11/05 (土) ~ 2022/11/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/11/05 (土) 13:00

三島由紀夫の「サド侯爵夫人」を本格的な能舞台で上演しようという意欲的な公演。しかもタイトルロールのサド侯爵夫人・ルネを演じる男優は能面(小面)をつけての演技だ。

上演時間は途中10分の休憩を2回含んで3時間半という長尺。

正面の白洲梯子前に着席。この階(きざはし)には緋毛氈が掛けられ、赤い花をつけた薔薇が枝を張ったように置かれている。この薔薇は柱や橋懸の欄干にも巻き付けられており、また切戸口の手前(上手奥)に二十五弦筝が置かれ、脇正面側の上部バルコニーにスポットライトが設置されているのが本格的な能との違いか。

各幕の冒頭と最後に黒い着物の多田彩子が切戸口から登場し、二十五弦筝を奏でるのだが、その調べが舞台に一層の緊張感を与え、見事である。それに際立って美人だ。当日パンフによれば多田は某都立高校の非常勤講師も勤めているというが、さぞかし人気があるだろうな(笑)。

登場人物は6人だが、全員が白一色の衣装。家政婦のシャルロット以外は幕口の揚幕があがり橋懸を通って舞台に進み出る。能舞台であるから全員がドレスの下に白足袋を履いており、足の運びは能の様式に沿ったすり足である。
台詞も能舞台では鏡板や床が反響板として働くために、通常の小劇場以上にビンビンと伝わってくる。

ルネ役の篠本賢一を含め全員が故観世榮夫の門下もしくは関わりがある俳優だということだが、それぞれがしっかりした演技力を持つだけに、長時間の舞台でも緊張感が途切れることがない。

観応えのある舞台だった。

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/04 (日) 14:00

『ガマ』
8月17日から2週間以上の期間、東京芸術劇場のシアターイーストとシアターウエストの両方を使って続けられてきた「生き残った子孫たちへ 戦争六篇」の最終作品であり、かつ唯一の新作。
この公演は[日本の戦争]に焦点を当て、過去にチョコレートケーキが発表してきた5作品に新作1篇を加えての6作品を一挙上演しようというもので、当然ながら全て観たかったのだが、いろいろと多忙のために、他の5作品は観たことがあるからと涙をのんで、結局は「ガマ」の、しかも千穐楽しか観れないということに。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

1945年の5月、首里から少し離れたガマ(自然洞窟)に女子学徒隊の少女と、生徒を鉄血勤皇隊に送り出した中学教師、米軍から逃れる際に崖から落ちて左足を骨折した少尉がやってくる。そこに2名の兵士(上等兵と二等兵だと言っていたが、実は中野学校出身の上官から護郷隊の少年たちへのゲリラ戦の指導のために北に向かう軍曹と伍長)とその案内人の老人が加わる。

男たちの会話には端々に日本が沖縄を見捨てたという事実が滲み出る(事実、現地の第32軍司令部は当時想定されていた本土決戦に向けた時間稼ぎの「捨石作戦」だった)。それに対して、沖縄は日本であり、天皇陛下のために立派な日本人として立派に死にたいと悲愴な決意の少女が、その思いが熱烈なだけに哀れだ。それぞれの思惑を持った5人の男たちは、やがてこの少女だけは生き延びさせねばならないと思い始める…この戦争の意味そして沖縄戦の意味を自ら考えその答を見つけさせるために。

ガマの中という設定だけに2時間超の舞台が暗い中で展開し、濃密な空気が支配する。

ラストは、年齢は異なるものの、あの白旗の少女(およびベトナム戦争で爆撃を受けて裸で逃げる9歳の少女の写真「戦争の恐怖」)を思わせる。

沖縄に上陸した米軍が、こうしたガマを片端から火炎放射器で焼き払ったというのは有名な話だが、考えてみるとなんと残虐な方法なのだろう。
スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

サルメカンパニー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/05/18 (木) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/20 (土) 18:00

題名から、ナチ占領下のチェコでアメリカからやってきたジャズに酔い痴れる若者たちの群像劇だろう程度の(不完全な)印象で劇場に足を運んだのだったが、久々にスゴイ舞台を観た。今年はこれで96本目の観劇となるが、現時点で今年のBEST1だ。

チケットにはEX列と記されていたので、通常の客席外に増設された席で見切れもあるかと思っていたのだが、2列目(A列とB列の間。B列から階段席)のセンターだった。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

舞台最先端に、きちんと折りたたまれた衣服が一人分ずつ横に並んでいる。開演すると客席上手側前方の扉から白いランニングシャツにブリーフだけ身につけた7人の若い男たちが入場してくる。軍隊の制服姿の男から舞台上に並べられたそれらの衣服が全てチェコスロヴァキア製のものだと説明されて着用し、チェコスロヴァキア製の小物(タバコなど)や偽造身分証などを手にする場面を観て、これはチャーチル拉致という特殊任務を受けたナチス・ドイツ落下傘部隊を描いた映画「鷲は舞いおりた」のようにチェコにスパイとして潜入するナチスの物語か、それでチェコ国内でジャズに熱狂する若者たちと交わることで変化していくという展開か、と勝手に想像したのだったが、実は彼らはチェコ人で、英国とチェコスロバキア駐英亡命政府の指令を受けて、ヒトラー・ヒムラーに次ぐナチスナンバー3で、ベーメン・メーレン保護領(ドイツに編入されたチェコ領土)の実質的な総督でもあったラインハルト・ハイドリヒ暗殺のためにチェコに潜入するパルチザンだったのだ。
「鷲は舞いおりた」とは真逆の設定だが、チェコでは類人猿作戦(エンスラポイド作戦)として有名な史実らしい。

7人の内の2人は落下傘降下(この場面の表現が上手い!)の最中にドイツ軍の機銃掃射により死亡。ストーリーは先に降下した2名(ヨゼフとヤン)を軸に展開していく。二人はチェコ国内の抵抗運動グループのハイスキーとラジスコフの助けを借りて、暗殺作戦を練り上げるが、その過程でヨゼフはローナと、ヤンはアンナという女性と知り合い、好意を抱くようになる。
やがて落下傘降下で生き残った3人も合流し、暗殺作戦は実行に移されるが、ヨゼフの短機関銃が不発で、やっとのことでその場から逃亡する…。

ここまでが第一幕(95分)。10分の休憩(この時間にジャズの生演奏あり)を置いて第2幕が60分と、合計するとかなりの長尺だが、まさに息つく暇も与えずという言葉通りの展開が続いていく。舞台上の張り詰めた空気は瞬時も緩むことなく、通常だとこれだけ緊迫した演技が続くと観ている方も疲れるものだが、この作品ではそれを全く感じることがない。

ハイドリヒは襲撃された時に負った傷から感染症を発症し8日後に死亡するのだが、ナチス・ドイツは報復としてひとつの村を虐殺で消し去り、襲撃犯が見つからなければさらに3万人のチェコ人を処刑すると声明を出す。落下傘降下班で、襲撃に加わらなかったチュルダの裏切りにより、パルチザンは次第に追いつめられ、最終的に全員が玉砕する。ヨゼフは死の瞬間にダンスホールで仲間たちがジャズを楽しんでいる幻想を見る…。

類人猿作戦について帰宅後調べたところ、一連の経過は劇中で描かれていた通りだった。その点ではドキュメンタリー劇ということになるのだろうが、昨年1月に観たtroupe▲antLion「革命前夜」(1980年代、共産党政権が崩壊するビロード革命勃発直前のプラハでの演劇人の苦悩を描いた奥村千里の作品)をも思い起こして、チェコスロヴァキアという国の激動の歴史に思いを馳せたのだった。

残念だったのがジャズに夢中になる若者たちの姿が前半のほんの1シーン(ダンスホールで興じている時にナチ親衛隊によって制圧される)だけで、それもあってラストの幻想に自由への憧れが反映されないことだ。純真なアンナ(西村優子)と妖艶さも漂わせるローナ(松田佳央理)という対比はうまく活きていたが…。
松田は3月のハツビロコウ「レプリカ」に続いて存在感を示した。男優ではハイスキー役の今里真がいい味を出していた。
「カレル・チャペック〜水の足音〜」

「カレル・チャペック〜水の足音〜」

劇団印象-indian elephant-

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/10/09 (日) 18:00

中国によるチベットやウイグルでの弾圧や香港や台湾に対する姿勢が舞台上の物語に重なってくる。
国語の重要性を再認識させる内容だった。

獄中蛮歌

獄中蛮歌

生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した

四谷OUTBREAK!(東京都)

2022/12/28 (水) ~ 2022/12/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/28 (水) 19:00

このライブハウスに来るのは初めて、というかそもそもライブハウスに行くこと自体がほとんどない。
“生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した”(生き逃げ)という長い名の団体、「生き逃げ」と略すようだが、もはや正式劇団名は思い出せない「熱ら。」(主宰は夢麻呂といったっけか)みたいだ。第5回公演とのことだったが、中に入ると客のほとんどは若い女性。私も含めてちらほらと浮いて見える高齢者の男はCoRichのチケプレで来場したものか。場違いさを覚えながらも、下手側前方に座って開演を待つ。

演劇とハード・ロックライブの中間ともいえる内容だったが、この種のステージでこれほど大きな満足感と感動を覚えたのは初めて。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

白塗りの上にメイクをした顔に横縞の囚人服姿の30代と思しき7人の男たち(他にバンド3人)によって繰り広げられるのだが、ステージに賭ける真剣さと意気込み、熱量の強さが並大抵のものではない。
「脱獄するためにはしっかりと手を握り合い、前を向いて進んでいこう」ということが何度も繰り返されるのだが、やがてこの脱獄というのが物理的ないわゆる監獄からの脱走ではなく、自分自身で作り上げ自身を閉じ込めている(心理的な)監獄だということもわかってくる。テーマ性もしっかりと打ち出しているのだ。

佐世保出身の私には駆逐艦・時雨(「呉の雪風、佐世保の時雨」と賞された駆逐艦だったが、現在は2つに分断された状態でマレー半島沖に沈んだまま)のモノローグと続く戦闘シーンでは、(声を大にして「戦争反対!」と叫ぶよりもはるかに強く)戦争の悲しさ・虚しさが胸に響いた。
ピアフ【4月9日公演中止】

ピアフ【4月9日公演中止】

東宝

シアタークリエ(東京都)

2022/02/24 (木) ~ 2022/03/18 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/03/13 (日) 13:00

前回この作品を観た時(2018年11月)は、最後列のそのまた後ろの壁際に1列並べられたパイプ椅子であったので、舞台を充分に味わうといった感じとはほど遠く、ただ大竹しのぶの歌声を堪能したといった感じだったのだが、今回は7列目下手側とまずまずの位置。

上演時間は途中休憩25分を含んで2時間55分。

圧倒された-端的に言えばその一言につきる。

笑顔の砦

笑顔の砦

庭劇団ペニノ

吉祥寺シアター(東京都)

2022/09/10 (土) ~ 2022/09/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/09/13 (火) 19:00

この作品は2019年にKAAT神奈川芸術劇場で観ているが、昨年の海外公演を経て、今回が国内最終公演だという。最終公演となるのは、2015年初演の岸田國士賞受賞作品「地獄谷温泉 無明ノ宿」(私は17年の冬にやはりKAATで観て打ちのめされた)が18年のフランス公演の後に老朽化したセットを焼却して封印されたのと同じく、セットの老朽化が理由らしい。

全自由席だが、最前列のセンターに座ることができ、実に幸運。

開演前は舞台前面に黒幕が下りているが、そこには北斎の「神奈川沖浪裏」のような波が描かれ、入場時から客席にはかもめの鳴き声が流されている。

(ネタバレBOXに続く)

ネタバレBOX

きっつい仕事をした後は、たらふく食って呑み、笑って寝るというそれなりに充実した生活を送っている漁師たちが住み込む壁の薄い平屋の小汚いアパートの隣室に、ほぼ寝たきりで認知症の老婆を介護する家族が引っ越してくる。生活の時間帯も異なり、接点がある訳でもなかったこの2つの部屋の日常がやがて…。

藤田家が隣室に越してきたのは、海の傍で暮らしたいと言う85歳の母・瀧子の最後になるであろう望みを叶えるためだったのだが、孫のさくらは専門学校に通う傍らバイトも忙しく、瀧子の世話も投げやりで面倒さを隠そうともしない。

何らかの大きい事件が起こる訳でもないが、役になりきった役者陣の的確な演技も含めて、対照的な2つの部屋の生活がこれ以上はない人間ドラマとして迫ってくる。
庭から盗み見た介護の実態が船長・蘆田剛史の中に染み入っていく場面が胸を打つ。
介護する55歳の息子・勉の姿は同年代で同じ経験をした私にとって他人事ではない。

冒頭の漁師たちの朝食のシーンで、缶ビールのプルタブを引くとプシュッと飛沫が飛ぶなど、細かい点が実にリアルだ。
室内の場面ばかりなのに、舞台外から照明を当てているとも思えない場面も多く、どうやっているのだろうと不思議だったのだが…。

終演後は作・演出のタニノクロウ氏の案内によるバックステージツアー(今回が最終公演ということもあって企画されたのだろうが、要予約)で、私が劇団桟敷童子のものと並んでスゴイと感じているペニノならではの知恵が詰まった舞台美術をじっくり目に焼き付けたのだった。
※吉祥寺シアターの舞台にはセットが入りきらず、両側(押入やトイレの扉の内側となる部分)を切断したとのことだった。缶ビールの開栓時の飛沫はビール空缶の内側に高炭酸の缶を入れていたのだという。
老いた蛙は海を目指す

老いた蛙は海を目指す

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/15 (木) 19:00

初日を観劇。

桟敷童子の公演は決して期待外れにはならない安定感があるが、【桟敷童子版「どん底」】と銘打たれた今回は、原口健太郎と大手忍がこまつ座「イヌの仇討」九州巡演のために不在(大手は本公演を休むのは入団以来初めてとか)にも関わらず、従来にも増して深みのあるどっしりとした人間ドラマを観せてくれた。

舞台となるのは昭和大不況下のスラム長屋。貧乏のどん底の住人たちと強欲な家主夫婦、流れてきた医者と時として哲学的な言葉を発する珍妙な婆さん、そして追われて逃げこんだ3人の労働運動家がもつれた人間関係を繰り広げる。

この劇団の代表作である炭鉱三部作(初演の順でいえば「泥花」「オバケの太陽」「泳ぐ機関車」)に匹敵する、というか、それらを凌駕したやもしれぬと思える密度のドラマが展開された。

畳屋のあけび

畳屋のあけび

CROWNS

シアター代官山(東京都)

2022/07/06 (水) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

おぼんろの末原拓馬が出演しているので観たのだが、予想外に素晴らしい作品だった。

老いた蛙は海を目指す

老いた蛙は海を目指す

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/20 (火) 14:00

初日に続いて2度目の観劇。

圧倒されっ放しの2時間。
「(スラムという)地獄を出ると不幸になる」アイロニーが悲痛なまでに描かれる。

ところで、青山勝が演じた箕輪惣兵衛はメイクといい、役柄といい、原田大二郎へのアテ書きだったんじゃないんだろうか。

青春の殺人者 令和版

青春の殺人者 令和版

アクターズ・ヴィジョン

梅ヶ丘BOX(東京都)

2022/12/22 (木) ~ 2022/12/30 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/29 (木) 13:00

観劇数がちょうど240本(他にコンサートは43回)となった2022年の観劇納め。

梅ヶ丘BOXに来たのは何年ぶりになるだろう。梅ヶ丘BOXといえば今年盗作問題(無断引用、原著者の意向を無視した改変)で名前が挙がった坂手洋二が主宰する燐光群の本拠地だ。そういえば今年は谷賢一がセクハラ・パワハラで告発され、主宰するDULL-COLORED POPからはこれまで耐えていたという劇団員の退団が相次ぐなど、演劇界で高位にランクされる作家・演出家にまでモラハラ・セクハラ・パワハラの嵐が吹きまくった年だった。

この「青春の殺人者 令和版」は76年に長谷川和彦の初監督作品として公開された映画を松枝佳紀が翻案・演出したものだが、以前アロッタファジャイナを主宰していた松枝がここ数年は俳優育成に注力していたため、松枝の演出作品を観るのは「かもめ~21世紀になり全面化しつつある中二病は何によって癒されるのか、あるいはついに癒しえないのか、に関する一考察~」以来だけにほぼ9年ぶり(松枝脚本だとその半年後の「安部公房の冒険」以来)。
アロッタファジャイナでは意欲的な公演を続けていただけに、「青春の殺人者」の舞台化に挑んだというのも松枝らしく、理由なき両親殺害という内容から令和の青春像を描き出していた。

トリプルキャストのAチームを鑑賞。上演時間90分。

白いシートが敷かれた舞台の上手に3台、下手に1台のスチールラックが置かれ、それぞれに段ボール箱などが積まれている。正面奥には白布を被せた長机が2台。開演するとそれらのものの位置を変えて場面のセットと見做される。下手手前にやはり白布を被せた死体のようなものが2体置かれているが、開演時に外に運び出される。

5人の役者と3人のト書き読みの内、ケイ子役の女優が赤い(台詞だと「血の色の」)ワンピースである以外は全員が白色の衣装。だが、終盤にはその白も血で赤く染まる(次第に本当の血痕のように茶色っぽく変色する)のだが、物語が続く中で不自然ではあっても役者はそれを着替えることなく、その血染めの服のままで演じる。また順が母親を殺した時の床の血だまりがラストまで照明に赤く映えていて、それらのものが衝動的で理由なき殺人を観客の目に強く意識づける。

ただ、順の母親は映画での市原悦子の印象が強すぎるだけに、この舞台での女優は若すぎるだけでなく、激すればするほど台詞を叫んでいるという印象を拭いきれない。衝撃的な記憶が強い映画を舞台化するのに避けられないことだろうが…。あと3人の語り手の内の女性がどうにも棒読み調で、舞台への集中を途切れさせてしまう。
さらに言えば、令和の現在にこの作品を上演する意味づけをもう少し明瞭に出すべきでもあったろう。

だが、それらを含めても、今年の観劇納めにこの作品を選んで良かったと思いつつ劇場を後にしたのだった。

追憶ベイベー!

追憶ベイベー!

TOMOIKEプロデュース

駅前劇場(東京都)

2022/07/27 (水) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/07/29 (金) 19:00

6年半前にシアター711で初演した作品(当時の団体名はチーム進火RONといったらしい)のリメイクだという。
全席が自由席だが、最後列の下手端に着座。
中央にイーゼルに立てられたキャンバスが置かれた舞台で、開演10分前から友池さん(主宰・友池一彦の役者としての名前)と根岸可蓮、えなえ、岡田竜二の4人によるプレトークが始まる。この中でえなえは降板した大森つばさの代役を急遽務めることとなって、1日で台詞を入れたのだという。

【ネタバレboxに続く】

ネタバレBOX

父親の葬儀の日、キャンバスに向かって一心に絵筆を動かすヒサオに弟・シンジが喪主の務めを果たせと責めたてる場面から物語が始まる。
一言でいえば隕石が落ちたことで生じた時空の歪みによってタイムスリップできるようになった男女によって引き起こされる大騒動の一日といったところ。
隕石の欠片を1個ずつ両手に持ってカチカチと打ち合わせればイメージした時間にタイムスリップできる、但し空間的には隕石が落下した近くにしか行けないという仕掛けだが、ただそうすると20年後からやってきたヒサオの娘はやはり20年後に同じ場所で隕石の落下に立ち会ったということになるのだろうか。
また落下したことで時空が歪むほどの隕石ならば相当に大きな密度であるはずだが、それだと簡単に割れはしないし、掌ほどの大きさの欠片でもかなり重いはず。
まぁそんなカタイことは抜きにすれば、タイム・パラドックスの問題も多少「?」な個所もあるものの、それほど気にならず、楽しめる内容になっている。スライドするパネルと照明とでタイムスリップを見せる仕組みもまずまず。タイムスリップが身体に与える負荷のために、移動直後には吐きそうになるということで生じる勘違いが面白い。
結局は劇中でも触れていたように「過去はそう簡単には変えることができない」ということだが、それでなお、うまく結末に持っていく手際は見事。

役者陣はいずれも上手い。AUBE GIRL'S STAGEのように舞台経験もないような人間を集めて公演を打ち、可愛いコ目当ての観客動員とグッズ売上げを図る団体があるから、受付近くでブロマイドなどを販売している公演では観劇前の期待感が萎えてしまうのだが、このTOMOIKEプロデュースに関しては女優陣がいずれも可愛いだけでなくてきちんと演技のできる人間を使っているのに好感が持てた。

上演時間110分。
伯爵のおるすばん

伯爵のおるすばん

Mrs.fictions

吉祥寺シアター(東京都)

2022/08/24 (水) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/08/26 (金) 19:00

主人公はサンジェルマン伯爵。不死の秘薬を持ち、12ヶ国語を流暢に操り、テレパシーで人の心を読み、あらゆる学問についての膨大な知識を持ち(作曲家兼ヴァイオリン奏者として活躍していた時代もあったという)、時代を超えて時の権力者の前に現れる謎の人物だ。レオナルド・ダ・ヴィンチですらサンジェルマン伯爵の仮の姿だったのではないかという説すらある。半村良の「石の血脈」や髙橋克彦の「総門谷」などの伝奇SF大長編にも登場しているが、何にせよ時を超えて歴史の裏側で暗躍する怪人なのだ。

そんなサンジェルマン伯爵を主人公としたこの公演には「Mrs.fictionsが2020年のお約束を果たす公演」と銘打たれているが、前説で登場した中嶋康太が「2年前のお約束」と繰り返していたのも、2年前の4月にこの作品を劇団4ドル50セントとのコラボ公演として上演予定だったのをコロナ感染拡大という当時の社会情勢を鑑みて延期したままになっていたのが余程気がかりだったのだろう。

(以下、ネタバレBOXへ続く)

ネタバレBOX

5列目のほぼ中央で観劇。
舞台上には洋館の一室と思しきセットが組まれている。中央にベッドが置かれ、上手と下手に2階へと続く広い階段が設えてある。

定刻に開演し、短い暗転が明けるとベッドは無く、小さな丸テーブルを囲んで3人の貴婦人がお茶を嗜んでいる。ベッドの両脇の壁に取り付けてあった棚の上の置物も変わっている。あの短い時間でどうやって、と驚いたのだったが、次の場面で謎が解けた。階段に挟まれた部分が回転舞台となっていたのだ。

物語の発端は1722年。サンジェルマン橋の下で永年暮らし「サンジェルマン橋の主」と呼ばれていた少年が奴隷商人に捕えられ、ブルボン夫人に売り渡される。このブルボン夫人は奇特な人物で、奴隷にも教養を持たせようと、学問を教え、舞踏会やオペラなどに連れて行ったりしていた。
夫人が少年に文字を教えようと読んで聞かせるのがエリック・カールの「はらぺこあおむし」だというのがなんとも面白い。無論絵本ではなく、文学書のような体裁になってはいるのだが。

さて教養を身に着けた少年がいよいよ暗躍を始めるのかと思いきや、次のエピソードは1995年の日本の高校の保険室に「伯爵」と呼ばれる保険の先生をめぐる恋バナと、途端にストーリーがチープになる。

こうして伯爵が56億年生きた末に宇宙最期の日(拡大を続ける宇宙の端が壁にぶつかった瞬間に折りたたまれてビッグバン以前の状態に戻ってしまうのだという)を迎えるというところまでの5つのエピソードが語られるのだが、サンジェルマン伯爵を冒頭書いたような怪人物としてではなく、56憶年生きたといってもその大半は世界の片隅でずっと寝ていたような状態で、愛した人も5人だけという、実に平凡な一人の人間として描く視点は実に新鮮に感じられた。また各エピソードで伯爵以外の役はそれぞれがそれまでと違ったキャラクターで演じ分けているのも楽しい。

惜しむらくは(これは個人的な趣味だが)地球最期の日に愛した5人の人物をはじめとした人々が現われ、談笑しながらその時を待つといった明るいラストではなく、独りぼっちで数奇な人生に感慨を感じながら寂しく終わるといった形の方が、不老不死というテーマを際立たせる上からも良かったのではないか。

上演時間2時間15分。
第388回IMA寄席

第388回IMA寄席

光が丘IMAホール

光が丘IMAホール(東京都)

2024/01/07 (日) ~ 2024/01/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/01/07 (土) 14:00

今年の舞台鑑賞初めはまず落語から。光が丘IMAホールの第388回IMA寄席 にて春風亭いっ休、一蔵、正朝を聴く。
このIMA寄席、毎月1回平日の夜に開催されているが、年始だけは休日に、大抽選会をオマケに行なわれる。毎回木戸銭は「100円以上のお気持ち」というのもスゴイが、その木戸銭は全額社会福祉協議会に寄付されるのだという。

前座のいっ休は春風亭一之輔の三番弟子だというが、頭をユル・ブリンナーのように剃り上げている。なんと京都大学卒とか。流れるような口調の「子ほめ」。
一蔵は2ツ目として選ばれたのだろうが、昨年9月に真打に昇進したという。老けてみえるが、まだ41歳とか。八代将軍をめぐる尾張藩主の思惑と鍛冶屋をからめた「紀州」。最後まで羽織を脱がなかったのは何か理由があってのことか。
主任(トリ)の正朝は昨年末にコロナになりかかったという枕に続いて、準古典の「宗論」を。「宗論」の中で触れられたのだが、正朝は明治大学仏文科卒で、キリスト教徒なのだとか。来週70歳になるという。

3席で1時間10分。その後15分の休憩をおいて、寄席グッズ等が当たる大抽選会。当選数は46本なので確率は8分の1ほどだったろうが、当たらず。

なまえ(仮)

なまえ(仮)

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2023/01/06 (金) ~ 2023/01/09 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/01/07 (土) 19:00

今年の観劇初め。

この劇団はこのところチェーホフ作の一人芝居「タバコの害について」の上演が多かったが、今回の新春公演は名前にまつわる7編のアンソロジー短編集。それぞれのタイトルには全て末尾に(仮)と付いており、観客がそれぞれのタイトル案を書き込むスタイルとなっている。

冒頭は手術の名手といわれる医師の名前が「藪」だということではじまるボヤキ。医師を演じる益田喜晴とナース役の田中陽の息のあった掛け合いが見事で面白い。ただ細かなことを言えば「執刀医を担当する藪です」という自己紹介はちょっと変だ。「執刀を担当する藪です」だろう。

ともあれ、この芸達者な益田と小悪魔的な魅力を湛えた田中は出演するエピソード全てで私を魅了した。
一方で池田志乃は硬さがとれていない。

ラストは益田が「あんたのお名前、何てえの?」と拍子木を叩きながら、出演者が自己紹介。そう、チラシにもトニー谷とそろばんが描かれており、トニー谷といえばそろばんと思い込んでいる人も多いだろうが、トニー谷が「アベック歌合戦」で「あんたのお名前、何てえの?」と軽快に司会していた時は拍子木を使っていたのダ。

7編それぞれに面白く、下ネタも散りばめられているが、「私のおじさん(仮)」では「ワーニャ伯父さん」と「桜の園」を思わせる一節があり、「市民土木課の一日」のラストの銃声は「かもめ」と、チェーホフの四大喜劇への拘りを感じさせた。ん、「三人姉妹」は? ああ、そういえば出演していた女優が三人だったなあ。

銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

東京演劇アンサンブル

池袋西口公園野外劇場 グローバルリング シアター(東京都)

2022/08/26 (金) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/08/28 (日) 19:00

この劇団の持ち劇場として以前武蔵関にあったブレヒトの芝居小屋で観た時とは別物と思えるほど印象が異なり、素晴らしい一夜の夢を見た。
新宿の夏の風物詩のひとつに椿組が行なう花園神社野外公演があるように、この「銀河鉄道の夜」の野外公演も池袋の夏の風物詩となればいいなあ。

初演以来40年というこの作品は初の劇化というのみならず、この劇団としての財産的な演目であり、毎年クリスマス期に上演されてきた。劇中音楽の作曲はオペラシアターこんにゃく座の座付き音楽監督・作曲家を務め、新藤兼人監督の映画音楽のほとんども担当した林光である。

その「銀河鉄道の夜」は野外劇として上演されるのは20年ぶりだという。東京芸術劇場の前にある西口公園に野外劇場グローバルリングシアターが設置されて3年近くなるが、杮落とし公演は雨で断念したし、ここで演劇を観るのは初めての経験。
ただ雨天でも傘を使用することはできないので雨合羽を持参せねばならず、前夜半から時折激しさを増す雨にどうしようか考えていたのだが、午後から雨もあがって雲量も50%程度に。池袋駅で降りて公演へ向かうと風が心地よく、数日前までの猛暑続きが嘘のように肌寒さすら感じさせる。

(以下、ネタバレBOXに続く)

ネタバレBOX

メインとなる正面のステージから広場中央に設けられた円形ステージまで花道が繋がり、それだけでなく櫓等も機能的に使用され、映像・照明・噴水(もともと公園に設置されている噴水)をはじめ、公園両サイドの櫓から中央の円形ステージ上の役者(鳥捕り)めがけて鳥(鷺)が羽ばたきながら次々に飛んでくるといった仕掛けなど、宮沢賢治の世界を視覚を通して存分に楽しませる。

役者陣は語り手・ジョバンニ・カンパルネラの3人以外は全員が額から鼻までを覆うマスクを着けている。そうすることでジョバンニとカンパルネラ2人の旅であることが強調されて伝わってくる。
正面ステージ以外に目を向けると、周りのビル群の明かりやネオンが飛び込むし、都会の喧騒も耳に入ってくる。しかしそれが却って非日常の空間世界を際立たせる。ネオンにために星空は望めないものの、これはもうすっかり銀河を走る軽便鉄道の窓から見る外世界とも思える。
ダイバシティーファミリー

ダイバシティーファミリー

A.R.P

小劇場B1(東京都)

2022/08/03 (水) ~ 2022/08/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/08/03 (水) 19:00

初めに誤解を解いておきたい。「観たい!」への書き込みを拝見していると幾人かの人が青木ヶ原の樹海を迷い込んだら二度と出てこれない場所と思っておられるようだが、現在では青木ヶ原は観光スポットなのだ。遊歩道があり、遊歩道から外れない限りは一度入ったら出られないような恐ろしい場所ではないし、樹海の中でキャンプする人たちさえいる。近年はそうした観光者によるゴミのポイ捨てに加え、外部から持ち込まれた粗大ゴミや産業廃棄物の不法投棄も多く、これらのゴミは地元住民が定期的に始末しているのだという。従ってそういう際に遺書が発見されることもあるし、遊歩道の傍で自殺する人さえいるそうだ。しかも後述するが、この作品の中では遺書がどうして発見されたかの説明もなされている。

開場して奇異に感じたのは、この劇場だと通常はL字形に客席が設置されているのだが、入口側の客席がなかったこと。が、開演時間になって遅れてきた客の席がなく、慌てて入口側にも客席を作り始め、かと思えば客が着席した後で最前列を外すために移動してもらったりとバタバタ。入口側に新設した客席もほとんど埋まってしまったのだが、予約数と客席数のチェックもしていなかったとは制作スタッフの不手際が甚だしい。で、開演時間に5分遅れで長男・カズヤ役のタカギマコトの前説が始まるが、これまた(場を和ませるためであろうが)不必要なことまで喋るので、結局10分以上遅れて開演。

【ネタバレBOXに続く】

ネタバレBOX

冒頭は激しい雨の中で戸惑う男女の短い場面から暗転し、住職の読経へとつながる。ギャンブルにはまっての借金を苦に失踪し、青木ヶ原で遺言書が見つかったものの(携帯電話のGPSデータをもとに捜したのだという)遺体は発見されず終いの父親・拓郎の七回忌ということで、自宅に家族全員が集まっているのだ。この場面で、三女・みかの恋人・滋に対する多少の怒気を含んだまま住職が帰るのだが、お布施を渡す気配さえないのはちょっと演出上の手抜かりだろう。この前後に集まっている家族たちの状況が手際よく説明されることで、その後の展開がわかりやすい。母親・さちこがこの七回忌を機に新しい人生を始めたいとマッチングアプリで出会った小浜を紹介したところで、親類のかえでから当の父親が生きているようだとの電話が入る。
探偵を使って探してみれば、その父親らしき男はショーパブで郷ひろみのモノマネをして人気のレッツゴーひろみであり、口数が少なく寡黙だった拓郎とは全く別人格のような男だった。

この拓郎を演じるHiBiKiはこれが初舞台だそうだが、ショーの場面ではだんだん郷ひろみに見えてくるから大したものだ。そこと家族と対する場面での無表情さのギャップも上手い。

笑いとしんみりさとのバランスが良く、楽しめる一作となっている。上演時間1時間45分。

余談ながら、開場4時間前から稼働させていたとのことで、前説やカーテンコールで度々触れられていたマッハガードという安定化二酸化塩素を噴霧して除菌する70万円の機械がヤケに気になった(笑)。
高島嘉右衛門列伝4 アンコール

高島嘉右衛門列伝4 アンコール

THE REDFACE

横浜関内ホール(神奈川県)

2023/01/08 (日) ~ 2023/01/09 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/01/08 (日) 17:00

横浜の劇場はKAAT以外はほとんど来たことがなく、この関内ホールも初めて。外観が立派だが、小ホールに入ってみると、10列目までは床面がフラットで、前列に座高の高い人が居ると、舞台が観辛そう。と思っていたら、前列に見るからに怖そうなガタイのいい一団が並んで座り、結構声高に喋りまくっている。話の様子だと、あまり観劇の経験がなさそうな一団だが、どういう関係での観劇なのだろうか。「キャバクラ1時間分(のお金)で社会勉強だ」という会話には笑ってしまったが……。

定刻に開演。幕が上がると、流木をメインにした大きな生け花が舞台中央に置かれ、その周りに椅子がある。

事前に把握していなかったのだが、リーディング劇である。男優はスーツを主体にした現代の服装、2人の女優は着物姿である。上演時間は途中休憩20分を含んで2時間。

まず驚いたのは吉田松陰があまりに豪放磊落で、大胆な人物として描かれていること。学者然とした松陰の印象が大きく変わってしまった。坂本龍馬は榊原利彦が高島嘉右衛門と二役を演じている。

高島嘉右衛門列伝となっているが、高島嘉右衛門は冒頭とラストに顔を出すだけで、あとはひたすらに幕末の志士たちの話である(江戸の材木商の嫡子であった高島嘉右衛門は幕末の激動期をほとんど獄中で過ごした)。
3回分の公演の総集編という位置づけなのでやむをえないとは思うものの、高島易断の開祖としてしか認知していなかった高島嘉右衛門について知りたいと思っていた身には多少の物足りなさも。

男優陣はいずれも基礎のしっかりした演技(と朗読)である。鈴木杏樹が艶やかで美しく、AKB48だった飯野雅が可愛い。

自亡自記

自亡自記

セツコの豪遊

新宿眼科画廊(東京都)

2022/07/29 (金) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/07/31 (日) 16:00

このセツコの豪遊は劇団員が宮村だけという一人劇団だとのことだが、観るのは19年5月に代々木上原のIto・M・Studioで上演された「つぎとまります」に続いて2度目。
今回はコロナ禍再燃中ということもあって、一人だけでも公演ができるようにとスタッフワークも一人でやることにしたとのことで、開演前の挨拶の後、客席後方の場内照明のスイッチを切りに一旦ハケてから再度登場し、サンダルを脱いで開演。衣装はといえば、紺のTシャツとジャージーパンツ。

【ネタバレBOXに続く】

ネタバレBOX

開口一番の台詞は「どんな気持ちかわかりますか?」。実はこれは前回公演「I s」(19年8月)の中の台詞。いろいろと工夫した上で発した台詞だったのだが、アンケートに書かれていた「彼女は恋をしていない」という一文に衝撃を受け、今年のゴールデンウイークの初日からパソコンに向かって綴った「私の恋愛履歴、もとい黒歴史」が今回の作品となったのだという。

全編を通して割と早口なのだが、活舌と口跡が良く、聴きとりやすい。またその間の動作も考え尽くされたと思しき最小限のものだが、笑えてしまう。「青春真っ盛り」の反対語として自身が造ったという「茶秋どん底」という言葉が面白い。
上演時間35分強の作品だが、ずっと惹きつけておく力量はたいしたもの。

投げ銭方式の入場料で公演をうつ心意気には頭が下がるが、ただ、「黒歴史」というには大事な(?)一点が抜けている。中学生の時から飛び飛びにではあったものの自身の人生の半分の期間付き合ってきたジャニくんとイタしたのか、それともイタしていないのか、演劇教習所の卒業公演の時は役作りのために愛無きSEXをしたのか、もししたのだったらその時どういう心情が沸き上がったのか、である。まあそれとなく察しはできるのだが、それなくしては「黒歴史」たりえまい。
欲望という名の電車

欲望という名の電車

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/10/29 (土) ~ 2022/11/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/11/01 (火) 18:30

いうまでもなくテネシー・ウィリアムズの代表作のひとつだが、この作品を日本で最初に上演したのが文学座でありヒロインのブランチ役は同座の杉村春子の当たり役ともなった。
後年高齢となった杉村自身を始め、文学座の多くの関係者が「ブランチ役を杉村から太地喜和子にバトンタッチしたい」と熱望していたというが、その矢先太地が事故死したというエピソードも残っている。
映画版のスタンリー役は舞台で演じていたマーロン・ブランドが起用されたが、これが彼の映画デビュー作になり、妹・ステラ役も映画では同じく舞台初演時のキム・ハンターが演じたのだが、彼女は後年オリジナル版の「猿の惑星」シリーズのチンパンジー・ジーラ役の方が有名になってしまった。

閑話休題。今回は2019年に「ガラスの動物園」を新訳した小田島恒志と演出を担当した高橋正徳が新キャスト・スタッフとともに創造した新たな「欲望という名の電車」だ。

ブランチ役の山本郁子も良かったが、何と言ってもステラ役の渋谷はるかが素晴らしかった。

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