伯爵のおるすばん 公演情報 Mrs.fictions「伯爵のおるすばん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2022/08/26 (金) 19:00

    主人公はサンジェルマン伯爵。不死の秘薬を持ち、12ヶ国語を流暢に操り、テレパシーで人の心を読み、あらゆる学問についての膨大な知識を持ち(作曲家兼ヴァイオリン奏者として活躍していた時代もあったという)、時代を超えて時の権力者の前に現れる謎の人物だ。レオナルド・ダ・ヴィンチですらサンジェルマン伯爵の仮の姿だったのではないかという説すらある。半村良の「石の血脈」や髙橋克彦の「総門谷」などの伝奇SF大長編にも登場しているが、何にせよ時を超えて歴史の裏側で暗躍する怪人なのだ。

    そんなサンジェルマン伯爵を主人公としたこの公演には「Mrs.fictionsが2020年のお約束を果たす公演」と銘打たれているが、前説で登場した中嶋康太が「2年前のお約束」と繰り返していたのも、2年前の4月にこの作品を劇団4ドル50セントとのコラボ公演として上演予定だったのをコロナ感染拡大という当時の社会情勢を鑑みて延期したままになっていたのが余程気がかりだったのだろう。

    (以下、ネタバレBOXへ続く)

    ネタバレBOX

    5列目のほぼ中央で観劇。
    舞台上には洋館の一室と思しきセットが組まれている。中央にベッドが置かれ、上手と下手に2階へと続く広い階段が設えてある。

    定刻に開演し、短い暗転が明けるとベッドは無く、小さな丸テーブルを囲んで3人の貴婦人がお茶を嗜んでいる。ベッドの両脇の壁に取り付けてあった棚の上の置物も変わっている。あの短い時間でどうやって、と驚いたのだったが、次の場面で謎が解けた。階段に挟まれた部分が回転舞台となっていたのだ。

    物語の発端は1722年。サンジェルマン橋の下で永年暮らし「サンジェルマン橋の主」と呼ばれていた少年が奴隷商人に捕えられ、ブルボン夫人に売り渡される。このブルボン夫人は奇特な人物で、奴隷にも教養を持たせようと、学問を教え、舞踏会やオペラなどに連れて行ったりしていた。
    夫人が少年に文字を教えようと読んで聞かせるのがエリック・カールの「はらぺこあおむし」だというのがなんとも面白い。無論絵本ではなく、文学書のような体裁になってはいるのだが。

    さて教養を身に着けた少年がいよいよ暗躍を始めるのかと思いきや、次のエピソードは1995年の日本の高校の保険室に「伯爵」と呼ばれる保険の先生をめぐる恋バナと、途端にストーリーがチープになる。

    こうして伯爵が56億年生きた末に宇宙最期の日(拡大を続ける宇宙の端が壁にぶつかった瞬間に折りたたまれてビッグバン以前の状態に戻ってしまうのだという)を迎えるというところまでの5つのエピソードが語られるのだが、サンジェルマン伯爵を冒頭書いたような怪人物としてではなく、56憶年生きたといってもその大半は世界の片隅でずっと寝ていたような状態で、愛した人も5人だけという、実に平凡な一人の人間として描く視点は実に新鮮に感じられた。また各エピソードで伯爵以外の役はそれぞれがそれまでと違ったキャラクターで演じ分けているのも楽しい。

    惜しむらくは(これは個人的な趣味だが)地球最期の日に愛した5人の人物をはじめとした人々が現われ、談笑しながらその時を待つといった明るいラストではなく、独りぼっちで数奇な人生に感慨を感じながら寂しく終わるといった形の方が、不老不死というテーマを際立たせる上からも良かったのではないか。

    上演時間2時間15分。

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    2022/08/29 12:14

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