I元の観てきた!クチコミ一覧

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鐡の夢果て

鐡の夢果て

MEHEM

浄土宗應典院 本堂(大阪府)

2018/12/22 (土) ~ 2018/12/24 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/23 (日)

夢で繋がる2つの平行世界… 少し近未来感のある現代にいる「尊」と… 今とは異質なサイバーパンク世界にいる「タケル」。

ともに斬新な発想を形にする"ものづくり"に携わる裏に、夢で見た相手の「世界」がインスピレーションとなっているという背景があるのだが… ​その…一種の「夢の模倣」に依存し続けた結果として、寄り添いすぎた2つの世界が まるで歯車が噛み合うが如く繋がり… 干渉を始める展開が面白い。

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ネタバレBOX

【続き】

双方が寄り添い過ぎたその先に浮かび上がってくるシンクロニシティ… それによる歪みと苦悩は… 実は社会における本人のアイデンティティの問題にも重なって、事態が好転する過程においてさえ…尊が自世界に自分の存在を見失うシーンなどが印象的でした。

​ドラマ展開のテンポも良く、最初は尊とタケルだけの繋がりに見えたシンクロが、2世界の登場人物悉くに波及していき、行動にユニゾンを感じさせる演出が多発していくところに…不思議な高揚感があって良かった。役者2人で実質の1キャラを盛り上げる相乗効果も感じました。理(コトワリ)の違う世界の間でも、同じ人の営みとして共通の真理を身近に寄せてきた印象もありましたね。

さて…斯様に充分楽しんだことは評価・自覚した上で、この手の因果関係が込み入ったり、パラドックスを想起させるお話は思索を誘発して、観た後も楽しいので、色々語ります。決して難癖つけているわけではなく、マニアが解釈を楽しんでいるぐらいに思ってください。

まず、当初テーマかと思えた「 夢で見たものの真似はオリジナルと言えるのか」の部分について。
タケルは夢で尊側の世界を見て 飛行機やガジェット類の着想を得ていることが明確に語られているのに、尊の開発(サイバネスティックからの… AI、アンドロイド開発)はサイバーパンクの世界から何の着想を得ているのかが あまり汲み取れなかった。

これを前向きに解釈して… もし尊の「影響の受け方」が直接的でない…とするなら、その不整合さの中に「尊がオリジナリティを持つ者」として評価されるべき 何かが隠されれていると想像する余地があると思う。応用研究者みたいな感じで。

ただ… 人体と機械の電脳的な融合は、本当はサイバーパンクの典型的世界なので、既に当たり前の前提となっていて 単に状況表現が端折られていた…とも考えられる。サイバーパンク世界のタケルが逆に現代社会の物(飛行機やレトロな機関)の開発に入れ込んでいるので、いまいちその辺りがどうなのかは見えてこなかったけど。

おっと脱線した…

で、途中で「夢の模倣」を肯定する発言も出てきたので、そこのロジックに期待もしていたのですが、…最終的に尊は「夢の世界からの着想」への依存を断ち切る決断をする。それはそれでアイデンティティを保つ上での決断として受け入れられる展開なのだが、そこに至る過程が少しモヤモヤする。

「2つの世界の分離」が… 例えば「世界の存在自体を危うくする」とか… 何か根源的なものであるなら… 受け容れざるを得ないのだが、何となく「片方で起こる悪いことが… 他方でも起こるから…」という動機に基づいている様に見えるのが、しっくりこなかった。
リスク回避なら もっと別の次元の話ではないかな…という気がしたのだ。

因果律のロジックは如何様にも拡げられるので、そうも言い切れないことは自覚しているが、真壁の言い様じゃないけど、やり様があるんじゃないか…という印象が拭えない… 何となくオリジナリティに拘り過ぎな感じもあって、それは作り手志向ゆえかもしれませんね。…私も…シンプルに「運命から逃れるために…」的に受け取れれば、良かったかもしれないかな。

また、NINAと決別することで、夢の世界とも決別する選択をするのだが、それじゃ2つの世界のシンクロニシティが より増してないか?という印象も受けました。2つの世界で唯一「対応する者」がおらず、独立していたのがNINAだったので。

勿論 NINAの存在が「夢への依存」の具現なので消さねばならなかった…ということは理解できるのだけど…逆にNINAの「存在価値」の中にこそ、2つの世界を別つ鍵を見出して欲しかったかな… せっかく独立した存在だったのだし。まぁ、趣味的な話ではあります。(登場人物の中で 一番気に入ったのがNINAだったことの影響は否めない感想だ(笑)…)

もう一つ。

尊とタケルは相互に夢に着想を得ていた構成で、それ自体が売りな気もしますが、…精神的な依存関係としては、タケルは手段を夢に依存していない(様にみえる)。

だから、インタラクティブに話の構造や因果を考えると、かえって混乱しました。シンプルに「尊の夢⇒タケル」の一方向の構造でも良かったんじゃないかな… そんなことも考えました。

徒然感想にも程があるので そろそろオシマイ。

重ねて言うと… 面白かったからこその思索の振り返りです。ダメ出しじゃないので念のため。
ポストグラフ【大阪】

ポストグラフ【大阪】

彗星マジック

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2018/12/21 (金) ~ 2018/12/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/22 (土)

実在の印象派画家達を下敷きに、史実とフィクションが巧みに織り込まれて…あってもおかしくない実在感を醸す。私みたいなライトな美術愛好家ぐらいだとちょうど良い感じにIFの世界に惹き込まれる。スーラとシニャックの関係にはグッと来た。

ドラマ的な部分のみならず、美術に関する理論的な語りや一種のスピリチュアルさが 絵画に対する深みを醸して、とても趣味に合った。

逢いにいくの、雨だけど

逢いにいくの、雨だけど

iaku

八尾市文化会館プリズムホール 小ホール(大阪府)

2018/12/21 (金) ~ 2018/12/22 (土)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/22 (土)

色んな考えと嗜好が人の数ほどある… 理屈では分かっていても、人が自分の価値観から逃れることは難しい。問題点が部外者のバイアスで逸れていく、物議があらぬ方向に肥大化していく… その様が印象に残る。

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『僕が不幸だと思っているのかな…』刺さる台詞だ。
サイパンの約束

サイパンの約束

燐光群

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2018/12/20 (木) ~ 2018/12/21 (金)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/20 (木)

記憶があやふやと思しき老女との冒頭のやり取りは、まるでミステリーの始まりを予感させて、好みの出だし。最初は「痴呆」がイメージに浮かんだのだが… 思い出したくない過去とも絡み合って、それに留まらない内心の複雑な感情が察せられる展開でした。

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結局、映画の撮影隊の物語であることが早々に明かされるのだが、映画制作に演劇の手法(ワークショップで演出を手探りしていく)を持ち込んだ印象の設定で(それを演劇上演しているのでややこしいが笑)、サイパンでの戦中戦後のドキュメンタリーの主役を、そのモデルとなっている当事者の「生き残りの老婆(渡辺美佐子さん)」が、当時の自分を演じる(のを演じる)のだが、その演技の過程で、彼女がまるで痴呆で退行したかのように見事に「少女」と化す様が圧巻、ホラーじみた印象すら残す味わい。

そして残留日本兵の潜伏やバンザイクリフの悲劇等を通じて、信じてた価値観の崩壊・反転の中で、意識の切替に対する拘泥・順応、内部での確執が様々に描かれる。今の価値観で当時の行為を安易に非難できるはずもなく、翻弄される人間模様を眺める他はなかった。

ただ 燐光群なので(?)、沖縄を絡めたり… 主義主張が絡んできたりすると、どうしても「説明劇」の様相が濃くなってしまって、むしろドラマ没入を阻んでいる印象は否めないのだが… そうと分かっていながら、名古屋公演が来ると観に行ってしまうのも事実だなぁ。
TRUCE

TRUCE

WWP 渡部将之(円盤ライダー)×渡辺一正(劇団スマイル・バケーション)のプロデュース企画

G/Pit(愛知県)

2018/12/14 (金) ~ 2018/12/25 (火)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/16 (日)

ミリタリー物だが、それ以外の異色さやボケが加わり硬軟入り混じる。その分、終盤のシビアさと男達の覚悟を決めた想いが深く染み入る。そして…八代さんの芝居がマジ凄いことになっていて、その変幻自在さは観ないと後悔するレベル。

グッドグッドグッドワールド

グッドグッドグッドワールド

ゲボゲボ

千種文化小劇場(愛知県)

2018/12/14 (金) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/16 (日)

前作「ふた街」から…更に磨き上げられたRPGゲーム感覚演劇。更に圧倒的な物量投入…14人パーティv.s. 魔王 という驚きの出だし。劇中の14人行進は見応えあったな。

あまりに大勢が登場して、個々のキャラの掘り下げに不安もあったが、パーティの内紛を展開の骨子に据えることで、人物描写を仲間に集中したのは上手かった。それでこそテーマの一つ「仲間」の肉付けにも結び付く。

またパーティのキャラ達も良い意味で統一感なく、バラエティに富んで異質な個性…というか世界観が林立していて、スピーディな展開も相まって、パーティ内の人物描写の豊かさも密度もしっかり濃かったと思う。

基本、人間関係でしか世界が語られないし、ほとんどダンジョン内の1シュチュエーションなのに、妙に世界の拡がりが感じられるのは巧妙だよなぁ。

また、本作品のノリをガッチリ支える常滑さんの音楽も健在。前作同様、何かのゲームで聴いた気がする…ぐらいの「微かな聞き覚え」を感じさせるアレンジが観客を盛り上げてくれる。戦闘エフェクトの映像効果も含め、ゲームに馴染んだ身体に自然に沁み込むノリだ。

…そんな…ノリで楽しむ部分はかなり強力でしたが、さて、お話の方。

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【続き】

今回の物語を深く味わうポイントとして以下の3つを挙げたい。

①「弱者」と「勇者の資質」

② 気遣いが強固さを生むチームビルディング

③ 罰という名の救済と…それを引き出した大局的判断


①「弱者」と「勇者の資質」
「弱者が勇者になる」 という構図自体さほど珍しくはない。弱いくせに他人の窮地を放っておけない。昨今だと「僕のヒーローアカデミア」の序盤等でも読者の心を打ったシチュエーションだが、… 本作にはそれとは大きく異なる点がある…本作の主人公・勇者タスクには… 物語展開における「ヒーロー的な主人公補正」が一切ない。

物語の展開の中で、都合よく「物理的な力」を獲得したりはしないのだ。あくまで弱者のまま、自分の居場所を見出していく。(予言の書の扱いは微妙なので横に置く。)

物理的な力を行使できる者が勇者・ヒーローという根強い価値観… バブルガムが揶揄した『弱い奴に何かを守る資格なんてないんだよ』という即物的な感覚に反して…
タスクの勇者としての資質、それは「他人の気持ちが分かる… 共感する力」にあるように思える。

…弱いからこそ… 役立たずだからこそ気づける… 拾い上げられる「弱き者、虐げられし者」の想いがある。

「共感」で仲間を増やす天賦の才、そして、だからこそ…護ってあげたくなる勇者! そんな異色の存在でした。


②気遣いが強固さを生むチームビルディング

(承前) ただし、その天賦の才は冒険1巡目の時点で既に備わっていたものだ。

なぜ1巡目のパーティは崩壊したのか。

表向きはタスクの自己顕示欲によるものになっていたが、その内実はそれに留まらない。パーティ内の歪みは、その前に既に拡がっていた。崩壊するべくして崩壊したと思える。
微熱ガーデン

微熱ガーデン

下鴨車窓

津あけぼの座(三重県)

2018/12/15 (土) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/15 (土)

田辺剛作品は… 元々 事件らしい事件を起こさず、「台詞以外」から発せられる…積み重なった心情や過去、背景を研ぎ澄まして想像させるスタイルの印象があるが、今までで最も狭いアクティングエリア、至近距離でこれを浴びて、より強く鬱屈感や怯えた感じ、… 必死の抗いが伝わってきた。

構成がさりげなく凝っていて、後から あぁ…そういうこと…ってなるのもいい。あそこで終わらせることも、返ってより落差と最終的な心情が際立つ。絶望の中に… でも一人じゃないっていいね… って思わせる後味。

冒頭の言葉に若干反するけど、今まで観た下鴨車窓作品の中では一番事件性があるから、結構取っ付きやすい作品になっていると思う。

観客の力強い拍手に、それが現れていたかもしれない。

真夜中の弥次さん喜多さん

真夜中の弥次さん喜多さん

KUDAN Project

あさけプラザ(三重県)

2018/12/15 (土) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/15 (土)

東海道中膝栗毛モチーフの弥次さん喜多さんが、増水で道中の渡河を阻まれ逗留中… その雨中の夜半に起こった不思議な出来事… いや、起こらない出来事と言うべきか。

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【続き】

​まるでスイッチが入るが如く、威勢良くドンと床を踏み鳴らす行為をキッカケに…今で言うタイムリープを繰り返し、話が先に進まない。

雨は降りだし、物語はフリダシ、様々な言葉遊びで「意味深」さを纏いつつ、同じ行為の意味合いが徐々に変わって見えてくる。

天野天街作品では「繰り返し」は定番であるが、…よりコミカルな風合いから展開していくそれは、ギャグの空気から…何やら次第に様相を変え、他愛ない会話が… 虚と実、現と幻、生と死、あの世とこの世… 交わらざるべき二極を綯い交ぜにしていく… そして、無の恐怖を掻き立てつつ… 遂には旅立った二人が… 戸がパタンと倒れるとともに、まるでマジックの様に虚空に搔き消える… 我々はいったい何を観ていたのか… そんな観後感に相応しい幕引きでした。

こんな漫画的な結末を舞台で実現してくれる仕掛けがオツでしたね。

映像プロジェクションの演出と、昔さながらの大道具・小道具による手品のような演出の融合も、観客の意識を不条理空間に引き摺り込む効果が極めて大でした、呑まれました、ほんと。手練れの役者の演技だけでも惹き込むものがあるのに、…あらゆる演出手段を惜しまない… 初演から17年経って今なお再演が続くというのも頷けます、さすが。

一つ…一番印象に残ったことを書き残す。

同じ行為の繰り返しの中で、うどんの「どんぶり」が現実に無いケースと在るケースがあって、…そこの演技から伝わるニュアンスが前後で変化したことにゾッとした。色んなところで虚実の曖昧さを匂わせていた作品でしたが、ここで…ここで実体験として遂に実感した。

自分の目に見えるものは…果たして本当に現実のモノなのか、…自分に見えない(感じ取れない)ものは… 本当に無いモノと切り捨て得るのか…。

自分に対する懐疑が実感で迫ってきて、自分の感覚…自分の認識を鵜呑みにすることの怖さを垣間見た気がしました。ちょっと怖かったよ。
転調少女

転調少女

fuzzy m. Arts

シアターココ(愛知県)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/09 (日)

祖母 蘭子と2人暮らしのJK 紅子。何故か別居の父 清治。そして、この家族?を取り巻く…一筋縄ではいかない奇人変人の登場人物たち。流れとしては…紅子がバイトして、蘭子と2人でディズニー旅行へ行くまでの顛末を軸に、割と淡々とした調子で家族3人の内面が掘り下げられていくのですが、挟み込まれる意図が読めない事件や… そもそも今もって現象の意味が掴めない謎エピソードも入ってくる…不思議なテイストのお話でした。

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パンフで語られている作品コンセプトにテーマとして謳われているのは「継承」で、確かに 紅子が…大好きな祖母・蘭子の存在を継いでいく感じで締めくくられますが、私に一番印象が残っているのは、この親子3人が長年の積み重ねで形成するに至った…悟りとしての「距離感」ですね。

​若き頃、蘭子にとことんまで追い詰められた清治。清治の窮地に…紅子を引き取り育てた蘭子。蘭子に理想の母像を重ねて慕う紅子。育ててもらえなかった蟠りを紅子にぶつけられる清治。…

しかしこの3人は… 縁を切ることはしなかった。相性の悪い人には近づきすぎない… 例え親族であっても無理はしない…でも決別はしない。悲劇の後の苦悶の果てに生まれた…「好きじゃないけど嫌いじゃないよ」という距離感が作り出す穏やかな関係性が、異なる価値観と共存する多様性の在り方を感じさせてくれました。

一つの失敗した関係性で自分を全否定することなく、清治の良い母ではいられなかったけど、紅子の良い祖母(養母)にはなれるかもしれない… という立ち直りとやり直し… できることをすれば良い… という自分自身の受け容れ方に、温かな眼差しを見た思いがします。

まあ、マジメな話はここまでにして(笑)、
とりまく奇人変人たちの味が、如何にもfuzzyらしくて、良かったですね。

ダミさん演じるプエルトリコ育ちの純血日本人「田中ナッターシャルーンポリサワ」を一推しにしてきました。その可笑しみの深い口調と、言われたことを何でも善意に翻訳してしまうリアクションが好きでした。

次点は、矢島さん演じるキモカワ系の不思議少女 成瀬と、鞍本さん演じる…エキセントリックな価値観の持ち主 西園寺でしたね。

あと、校長先生の不思議なキャラメイクも魅力でした。
「生徒に耳を傾けることが全ての解決の始まりだと思っていた。」という真面目なくだりから… 「聞かないと分からないようじゃダメなこともある。話をすることすらできない子もいる。」→「聞かずに感じれる感受性が必要。」→ 「視覚の異常発達!」 という… 生物的進化を遂げた謎生物ぶり。

いずれ成瀬の研究対象になるのでは…という趣きでした。

ぶっちゃけ、お話の核になっても可笑しくない個性でしたね。
そういえば、しばたさんは、ズラで出てきた母4or5、もうちょっと見たかったなぁ(笑)

そして… そして… 、最後の最後まで「ポリサワ」は謎であり続けました。

未だに一切が謎(笑)、モチーフも謎ならば、意図することも謎。素敵な味わいでした。

そして、

『ハヤシテンキは、その辺によくウンコする』

何という風評被害か(笑) 

あ、最後に… 「どんなに無茶であっても、着々と手順を踏んで決められたルールは… 知らなかったでは済まされない」は、思いっきり…今の日本社会の暗喩で、実は近頃こういうシニカルさを差し込む芝居が多くて、こんなとこから世相への不安を実感させられますね。
ファッション

ファッション

劇団ラッキーキャッツ

ぎふメディアコスモス みんなのホール(岐阜県)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/12/08 (土)

ファションデザイナーの世界を舞台に…というのが新鮮な印象。颯爽とランウェイを闊歩する役者の姿はダンスともまた違った面白味。昨今の不穏な世相を想起させ、岐阜の歴史的背景とも絡めた作劇の切り口は興味深い。

つながせのひび

つながせのひび

ソノノチ

モノコト(愛知県)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/08 (土)

言葉に頼らない…空気と時間の作り込みが素敵… 大須モノコトの空間にとても相性が良く、似て非なる道を歩む夫婦の日常と… けっして甘いばかりではない関係性を緻密に…そしてゆっくりと描写する。諍いありながらも…何となく微笑ましく思えるのは歳のせいかな汗

バッカスは生きている!!

バッカスは生きている!!

劇団バッカスの水族館

ナンジャーレ(愛知県)

2018/12/07 (金) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/07 (金)

4本のコントオムニバス。既成2本、創作2本。

今年は名大祭コント公演が無くて残念だったので嬉しかったな、楽しかった。

1つ注文つけるとすれば、客演が多かったので、舞台でキャスト紹介して欲しかったな。

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「嘘とニ萬とDVD」

嘘と2万円とDVDが等価になって三竦みになる構図が面白みだけど、そこに辿り着いてからが面白いので、ちょっと前段が長すぎかな…もう一工夫欲しかったかも。冒頭の客弄りの現実感も何気に面白かった。…ところで 場所と状況でヒバカリを想起したの私だけ?


「イエロー会議」

名古屋各区のイエロー達の個性が楽しい。区ごとに時事ネタ的な隆盛やブランドがあったり、瑞穂区(親方)はやっぱりボスの存在感満点のTHE イエローだし、緑区は短髪なのにムダに髪を掻き上げて違和感を誘い、千種区は特に妙な仕草の積み重ねが面白い… 「拳で!」がなんか妙に気に入った。

ネタ的にやってることが単純なだけに、ちょっとした振る舞いの積み重ねで笑いのフックを増やしていくのは大事だなと実感しました。

そしてキャスト総力戦になるのも何か可笑しくって、特に舞監 蜷川さんまで引っ張り出してくるの楽しかったよ。

「3日会わざれば刮目して」

全く無関係の人々が…空気を読んだが故にまるで旧知のように集い 窮地に陥る構図は面白い。

出オチかと思われたマッチ棒君(誰?)の…飛び道具としての引き出しが思いのほか多彩で、全作通して最もぶっ飛んでいましたね。


「P3/4」

明らかに本来の目的を逸脱した非合理の極みなのに、なぜだか戦術は洗練されて見える不条理さが面白味。小気味良く勢力が二転三転する駆け引きの応酬が堪らない。1人残して3人が踵を返す切り返しの妙、舞台なのに電脳世界からの反撃…そこまでの既成概念をことごとく ひっくり返してみせる、やはりそこにこそ笑いが生まれる!と膝を打つ。争う対象がくだらないほど滑稽さが際立つねぇ。

アガリスクの台本が面白いのは勿論だか、テンポと間に負うところの大きいネタだから、しっかり活かしきった演出と役者に拍手を送りたい。佐藤さんのふてぶてしさが良い味。
仕方ないから働くか

仕方ないから働くか

試験管ベビー

千種文化小劇場(愛知県)

2018/11/30 (金) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/02 (日)

人は何故に働かねばならぬのか… 社会的モラトリアムの間に得られなかった「働く目的や動機」を模索する…切羽詰まった就活生2人のドタバタコメディー。この1年で怒涛の様に入団した新人の中で一番勢いのある山岡黛佳さんと中島風歌さんのイメージを… そっくりアテ書きした感じの対照的W主演。

生きる支えをどこに求めるか… 必ずしも仕事である必然性は無いけれど、どうせならやりがいある仕事であるにこしたことはない。就活そのものよりも…周りの人との関わりでそれを見つけた2人が微笑ましい。

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でも…動機は見つけたけど、結局 職は見つからなかったヒカリちゃんの顛末が妙にリアルでしたね〜。

さて、今回は小芝居がふんだんで、他の役者の見せ場もいっぱいでした、多役オンパレード!

以下、雑感。

・ウスイサチコの大型犬トラウマ… そもそもの着ぐるみのデカさも半端なかったけど、襲った大型犬の退治シーンが試験管ベビーには意外にグロくて、手品の様に引き摺りだされる犬の臓腑が鮮烈。あの犬、客出しに居て欲しかったな(笑)

・ブラック職業あるある は全般として…エモい展開から一転 闇をみせる演出が多くてツボにハマる。

例えば…

・保育士の優しさから一転の…女社会の恐ろしさ。更にはDV彼氏、その和解から更に妊娠破綻に落ちていく…という繰り返す緩急がすごい。…→

・良いお婆ちゃんを装って、新人介護士の心の闇を引き摺り出したサイコパス感。えっらく長い尺を使って恐怖を煽った演出が好き。最後に「気持ちイー」で終わるの怖い。

・看護師の集団優しさ暴力が…見た目はメッチャカッコいいドラマ風なの笑う。→

・試験管ベビーのオーディションを受けるとあんなんじゃないかと想像させる かこさんのバイオレンス面接(笑)

・今回は開場時から仕込まれていた Itsuki Jobs Kondo! らしからぬスタイリッシュさに胡散臭さの味付けは… やはり…のオチでしたね。…→

お客様参加システムは… お客様洗脳システムに(笑)
近藤さんの演技がいかにもで笑う。

・夏の新栄トワイライト以来の真野凛さんが、怪しげなセミナーの洗脳師?(驚きの衣装)や、声が怖かった(た~かはしさ~ん⤴︎)ボス保育士、ホストに癒しを求める姉御肌看護師等…驚きの多彩な役での活躍が楽しい。

・三芳さんの店長、怖い… 黙祷!のパワハラぶりに笑う

みんな、小芝居が終わると無表情で出ていくの…可笑しみが深いね。
『ソウル市民』『ソウル市民1919』

『ソウル市民』『ソウル市民1919』

青年団

三重県文化会館(三重県)

2018/12/01 (土) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/12/01 (土)

舞台は日本植民地下のソウル…文具店を経営する裕福そうな「篠崎一家」宅。

物語があるでなく… 登場人物が発する主張があるでなく… とりとめもない会話と出来事がひたすら流れていく。しかし… 人々の日常を温かく描写してほっこり…って…感じではない不穏さが潜むのだ。いや、篠崎一家にとっては紛れもなく何のこともない穏やかな日常なのだが… その「普通」が寄って立つ常識… 価値観が決して不変なモノではないことが透けて見える感じかする。

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簡単に言ってしまえは、… 善良な(つもりの)支配者意識。

確かに篠崎一家の朝鮮人への振る舞いは…当時としては先進的で善意に溢れているのだが… やはり随所に滲み出るのが優越意識、上から目線、保護者的な自負。

一方で欧米人に対して「自分達を猿だと思っている」… と差別に不平を漏らす二律背反ぶりなのだ。

これが…結果を知っている歴史的背景、現代の意識の元でならハッキリと分る差別・支配の構図も… 果たして当事者だったとしても、胸を張ってその問題点を指摘できるだろうか。…そして翻って、今の社会を… 自らの今の在りようにすら疑問を抱かせる。事は国家間の関係に留まらない… 一社会における格差、夫婦・親子・家族内における支配の構図等も…また然りだと思える。ドラマチックで無いが故にとても強度のある「偽りを感じさせない日常描写」で本質に迫ってきた気がした。

この2作の展開・構成はとても酷似していて、世代や人が入れ替わっても まるで一日千秋の如くなのだが、「ソウル市民1919」では…家の外で高まる三・一運動を重ね合わせることで …より明確に支配者意識を浮き立たせている。それが返って、穏やかだった…先の「ソウル市民」での同じ意識をモヤモヤと炙り出す。穏やかな状況の中に潜み、育まれている危険で差別的な思想を思い返せる仕組みで、通しで観られる機会は貴重でした。
カモナマイハウス

カモナマイハウス

てんぷくプロ

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2018/11/29 (木) ~ 2018/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/29 (木)

とある家で… とある兄弟を取り巻く奇妙な住人達。彼らは一日千秋の如く同じ芝居の稽古(?)を繰り返す… そんな不条理な世界の背景が徐々に明かされ、有機的に繋がって… 遂には兄弟の半生の内面まで克明に映し出していく。それが面白可笑しく演出される。

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幼少時から物語を作って遊んできた空想癖のある兄弟。生み出されたキャラ達は、兄弟の想像力ゆえか… なんとこの家で具現化され… しかもボツになって作品として世に出れないと…この家に留まり未完の物語を紡ぎ続ける… 弟が作家になった今もなお。

一種の無間地獄地獄だが、当の本人達はとても楽しげ。
まるで地縛霊のように姿を現し、舞台の人口過密甚だしいのに… 兄弟には見えても来訪者には見えないという設定も楽しい。目の前にあるものに反応しない芝居って、結構、難しいんじゃないかな。…謎の金星人、妖怪爺、自由奔放な母と奇妙な愛人達、厳格な叔母、等々 … そして新入りの花嫁と仲の悪いその妹… 様々なキャラ達は実在の人物をモデルにしたようでいて、どこかぶっ飛んでいて、古参のキャラほどマンガ染みているのも後々意味を成す。

結局、各々のキャラの成り立ち… その性格の演出のロジックに、同一人物に対する「兄弟の異なる視点と想い」が隠されているのが面白く、キャラの謎が一人一人解き明かされるごとに、兄弟の半生が肉付けされていくというシナリオがとても味わいがある。そして、とても恵まれているとは言えない「兄弟の生い立ち」を…複雑に組み合わせて具現化した異形の者達が、いつしか互いを「家族」と呼ぶのがとても心地良い。

弟の押し掛け婚約者の若い娘に… その異形の姿が見えるようになる瞬間が大好きです。娘が率直な気持ちを表し、兄弟が娘の気持ちを受け容れた瞬間… 彼女は「家族」となった。
その感動から一転、家を埋め尽くすキャラ達を目の当たりにして…滑稽に狼狽しながらも…娘が一人一人着実に受け容れていく過程が可笑しいやら心を打つやら。

そして最後…弟が娘を受け容れて吹っ切れたのか…娘がモデルのキャラ「花嫁」が、作品となってこの家を旅立つ(嫁ぐ?)ことになる。
その最後の最後… 別れの演出が、七ツ寺屈指の大仕掛けで、大団円を醸す。切なさの中に幸せを感じさせました… くうっ。

本作 家族が主題ゆえ、全ての登場人物に魅力が満載。特に…

押し掛け女房ハルミ…普段なら男前を演じる きくちまや さんが、気丈さの中にえらい可愛いさを内包させるギャップ萌え。パジャマと巨大ヌイグルミな。えっ? 私物?

金星人ミズシオさんも、超異質な出で立ちに…あざといぐらいの幼児的な愛らしさ…そして万事がやけにそそっかしいなぁ…と訝しんでいたら、役が「5才児がモデル」と話の中で明かされて、納得のはっちゃけぶりでした。くワズのあの役と同じ人とは思えん。

おにぎりばくばく丸さん、変わらずの存在感も外せない。
シンガーなのに歌おうとすると止められる前半が楽しかった。てっきり、歌うと「ボェ〜〜ェ」ってなるのかと思ってた(笑)
芝居中でも…一際豪快にカルボナーラを啜る音が流石でした。

役者お久し振りの花嫁 原みなほさんも1年分堪能。お姿、眩しかったよ〜。お得意の小道具達も第2の役者と言える至宝。あのカルボナーラは七ツ寺にまた新たな伝説を生んだ。帰り道、腹減ってしょうがなかった、勘弁してほしい(笑)
INDEPENDENT:18

INDEPENDENT:18

INDEPENDENT

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2018/11/22 (木) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/11/25 (日)

今年も充実の時間でした。好みでいうと、「穴」が最推し、次点が「仕事の流儀」 、その後は「引くな、引くなよ」、「貝独楽行進曲」、「母とおかあさん」、「薔薇の手紙」… と続いていく感じかな。勿論、それ以外も芝居のレベルの高さは存分に楽しませて貰いました。

一部の作品の感想をネタバレBOXへ

ネタバレBOX

【続き】

[e] 穴

くたびれたおっさんの回想が紡ぐ…無駄にエネルギッシュな青春の発露が面白おかしく語られる。
懐かしい… でも甘酸っぱい高校時代の破天荒な大土木事業…それだけでも面白味が深いトンデモ事変ですが、その続きの「今」が…また神秘的ですらあって、全地球規模を感じさせる拡がりになっていく… SF感すら漂うのが、… おっさんには堪らなく響くのだ。

「穴」と呼ばれた彼は…いったい何者だったのか、もしかしたら…故郷を求める地底人ではないのか?、そんな妄想まで掻き立ててくれた。…そして、不意に現実に引き戻すギャップのあるオチの見事さよ。しかも全ての妄想を否定しない粋な計らい。


[f] 仕事の流儀

遂にINDEPENDENTに創作落語が登場。落語風味にDネタということで、名古屋の人は稲垣僚祐さんの「夢と魔法の国」を思い浮かべたかもしれない。もちろん切り口は異なるが… 後味は同じ心地良さを感じさせてくれる。現代的な職種に組み合わせた「古風な職人気質」とのギャップの面白み、強面の父が娘には弱いという定番のアンバランスは観ていて微笑ましい。
一方でタイトル通りのパロディを使ってこなかったのは意外でしたが、大人の事情でしょうか、それとも囮だったのか。そして、ある意味予定調和だが、スパッと切れ味の良い落語ならではのオチ。これは察することが出来たとしても思わずニンマリだ。

そして最後の最後に仕込まれたINDEPENDENT出品作品に相応しい舞台の仕掛け、思わず歓声が漏れる。どこまでも心憎い幕切れでした。


[d] 引くな、引くなよ

冒頭は…状況がまったく読めない… 最初は「補導員」が「万引きした少年」を尋問している?… って想像を思い浮かべながら観始めましたが、やはりそこは安易な想像の枠にはハマらない。

前半の会話自体は…まったく他愛もなく 微笑ましくすらあったのですが… 徐々に透けて見えてくる背景、色濃くなっていく犯罪行為の疑い。微笑ましかった筈の空間が… 一皮剥くごとにシリアスの度を深め、彼女の一人ボケツッコミが可笑しげに響くほどに、更にその影に潜む彼女の心の傷が浮き彫りになっていく。どうしようもなく傷ついているのに、ふざけ半分に癒しを求めて、もっと傷つく。本来なら歓迎すべからざる訪問者に…オ~イと手を振って応える姿が、人にとって何が一番辛いのかを感じさせて、泣き笑いするしかない。


[j] 貝独楽行進曲

ほぼ全編で絶え間なく続く緊迫感は全作中随一。そして ひたすら深い相愛に包まれる男女の…決定的なところで噛み合わない今生の別れの証言。冒頭の男の言葉が観客の脳裏にずっと影を差しながら、女のあまりにも切ない嘆きと…男への思慕を見続ける展開。非の打ち所がないその愛の言葉の連なりに…1つだけあった何となく違和感のあった…ある生理現象を指す言葉が…やはり最後の最後であり得ない勘違いを生む元となっていたことが分かる。

正直、お互いの愛の言葉が輝けば輝くほど、その誤解の落差は凄まじく… これが舞台でなくTVだったら、「マジか~」と声に出してしまったに違いない。

傍から見れば…すれ違いとか勘違いとかで済む次元には思えないものの、一瞬のアイコンタクトの難しさ…と呑み込むべきなのだろうか。…ただ、往々にして、人は対象物から望むモノを読み取ろうとするという。男が女に感じていた深層心理、男に根差す自己否定感… とか背景の妄想も湧く。

それにしても…不謹慎極まりない発言になるが…、悲劇って美しい…と思わせる凄みのある舞台だった。


[a] 母とおかあさん

1人芝居の「ルール」から自分で作り出してしまう高い独創性。役の切り替わり… 普通の1人芝居なら切り替わる空気を察する感触を味にするところを、ゲーム性の高いルールに仕立てて意外性を楽しませる。そして…自分で作っておいて…それをヒョイッと飛び越える柔軟性が痛快。

そして笑い優先のお話かと思いきや、イマジナリー・フレンドならぬイマジナリー・マザーを患う病んだ背景描写や、他愛もない出来事をドラマチックな最後に繋げるさり気ない仕掛けが、劇作としても貪欲でした。…見た目に反して(?)、中身ギッシリ。

さて最後に私は謝らねばなりませぬ…
日曜にクシャミしたの私です<(_ _)>

まさか…まさか…それを咄嗟に…しかもあんなに絶妙に拾うなんて正直驚きを隠せないし、やらかした私もまさしく救(掬?)って貰えた気分です。…そして他の観客の皆さんは「川久保伝説を目の当たりに出来てラッキーだった」ということでご容赦ください<(_ _)>

それにしても臨機応変さが凄いね。途中で「お姉ちゃんの紙」が2枚飛んだのが気になっていたら、案の定、最後に紙が無くなって一瞬止まる間。…これが本当にトラブルだったかは分からないけど、むしろ思わせぶりに過ぎる時間が別の解釈を想像させて面白かった。
即興劇もこなしそうなお人。作品というより、この方を観に来るコトそのものが娯楽になりそうな逸材でした。
SDN2018 『ハマったら出られなくなりまして』

SDN2018 『ハマったら出られなくなりまして』

無名劇団

浄土宗應典院 本堂(大阪府)

2018/11/22 (木) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/11/25 (日)

姉 由紀の葬儀の為に帰郷した妹 幸子。姉と違って何でもできる優等生…人も羨む人気者だった筈の幸子が抱える意外な自己喪失…心の闇。避けてきた過去の記憶に曝され、危うくなっていく過程が… 面白い演出と… えっ?となる結末で彩られる。

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ネタバレBOX

【続き】

思っていたより鬱展開で、興味深い精神性が描かれていた。
全体の雰囲気として一番興味深かったのは小学生時代の演出。由紀の造形作品からそのまま抜け出して現れた…生き物をモチーフにした姿。しかも極彩色だったり、蜘蛛とかミミズとかキモイ系も混じって彩られているのが印象的で、単なる過去の事実ではなく… モヤモヤした感情を纏った"記憶"って感じで、鬱な世界に落ち込んでいく作品世界にとても合っていましたね。

そして核心の「ハマる」という部分なんだけど、本作、実は8月ぐらいに大阪観劇した際に入手した仮チラシで興味を惹かれたモノだったのですが… この時のあらすじはちょっと本番と趣きが違ってて、オタクの臓腑を抉るような空気があった。

だから、「ハマる」って、てっきりオタク趣味のことだと想像していたのだが、これが何とも意外性がある面白い方向に裏切られた。

母の愛情のほとんどが…「出来ない子・姉」に注がれる中、欠乏した母の愛情を埋めるように…周りの評価に貪欲になる幸子。頑張れば頑張るほど「あなたは一人で出来るから大丈夫…」と母に放置される悪循環。

更には…一転、姉が芸術面で世間に圧倒的な評価を受けるに至っては、ただでさえ無意味だった「出来る子」のプライドすら下落する不幸の連鎖。いやぁ、この子の名が「幸子」というのが、また皮肉だよ。

結果として自分に貼り続けざるを得なかったレッテルの数々にどんどんハマっていき… 「分相応」を一切許容することができなくなってしまった精神性… 見栄の空虚さが何とも憐れ。…まさしく自ら墓穴を掘って沈んでいく演出が強烈だった。最後の最後まで…母に自分を曝け出せなかった業の深さも辛い。

そして、そして… ソレだけで終わらないところ… もっとハマってたヤツがいたというのが本作の秀逸なところで、…実は幸子の最大の理解者・信奉者が、幸子の暗部を増長させていた… 幸子の数々の不幸な事件の鍵を握っていた… そして今回が特に… という歪んだ愛情のサイコホラー感…その切れ味が鋭かった。自慢気な語りが非常に効いてたなぁ、怖いっ。…なお、有料パンフ(ノート凝ってる!)の方で… 「仮チラ時の話」から「本番仕様の最終稿」に変遷していく過程が克明に書かれていたのが興味深かったです。こういうの晒してくれるのって珍しい。
さよなら鹿ハウス

さよなら鹿ハウス

OFFICE SHIKA

HEP HALL(大阪府)

2018/11/22 (木) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/24 (土)

OPのハイエースで既に感傷の絶頂、モーションの一体感も良く、喜怒哀楽が濃縮されていきなりエンディングかと見紛う。そこからゆっくりとその意味を噛みしめてゆく青春ロードムービーの味わい。

『超速!大陸横断鉄道!』

『超速!大陸横断鉄道!』

劇団FUKKEN(腹筋善之介演劇研究会、略して「腹研」改め)

in→dependent theatre 1st(大阪府)

2018/11/23 (金) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/24 (土)

「昔懐かし鉄道暴走モノ」の態で、様々なパロディ的なお遊びがぎゅっと満載。所々、これまた懐かしさ溢れる空想科学的なトンデモ設定が舞台を賑わす。

一方で日本の貧困問題を揶揄したり、少女の奇行に…貧困層の生きる手段を投影したりと…社会派のピースも散りばめられているが、シナリオの本筋は割とストレート… 本作の醍醐味はむしろ演出にあった… というかそもそもの発想に!

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【続き】

カメラ(観客視点)が動けないなら、役者達をそっくり動かしてしまえ…と言わんばかりのマスゲーム感溢れるパフォーマンスが生み出す360°全方位立体感。

平面空間だけじゃないからね、驚くべきことに上下にも回ったからね(笑)

アクションが感じさせてくれる「G」から… 素舞台にも関わらず、列車が浮かび上がって見えてくるのが分かる。
あとね、音楽が何やら映画を見ている様な空気にしてくれて、音楽の空間支配力も感じさてくれました。

総じて…3Dアトラクション演劇、そんな空気の濃い作品でした。

なお、異様な死体操作(傀儡?) がちょっと唐突でイメージ湧きにくかったかな。
エネミー×エネミー

エネミー×エネミー

ノアノオモチャバコ

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2018/11/23 (金) ~ 2018/11/25 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2018/11/23 (金)

原作はイプセン作「民衆の敵」。その翻案作品として、現代…というよりは近未来的な産業の要素(観客には真偽が判断できないもの)を取り込んだところに、この作品のミソがあると思う。

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【続き】

原作では、田舎町が町興しに活用した「温泉」を工場の廃液が汚染している事に気付いた医師が、職務上の倫理感と正義感から温泉の利用中止を進言するものの…町の重大な不利益になることから、遂には彼が救おうとした町民からも敵視されていく… という筋書きで、本作でも大雑把な骨子はそれに沿う。

しかし、原作通りの「廃液汚染」であったなら、公害の歴史を知る身として容易にそのリスクが実感できるところを… 本作ではそれが「SUN」なる正体不明のエネルギーであり、しかも土壌から精製される…という訳の分からなさがポイントに思える。つまり、リスクの真偽がまったく実感できない。

勿論、町の体制側の「SUNが安全であるロジック」が全く根拠レスで…如何にも悪役な作りではある。しかしその一方で、SUNの毒性を主張する研究者側(SUN開発者)もまた非常に胡散臭く描かれている。形だけ、レポートが出てくるものの具体的な内容は語られないし、何より…当のSUN開発者であるにも関わらず、何やら非常に楽しそうにみえる。…ここら辺は研究者の性(サガ)と感じても良いのだが、根拠を語らず… 町の産業の生命線である「ミサキトマト(SUNの毒性を含む産物)」の廃棄のみを代替なしで主張する姿には…一種 暴力的な感触もあって、言ってみれば拙速な風評加害の感じも否めない。しばしば揶揄される「似非科学」も想起しました。

だから…原作に沿った展開の主流に対して…もしかしたら何か他に仕掛けがあるのでは???…と思わせる疑念が常に付きまとっていて、非常にモヤモヤしながら観れたのはミステリー的に面白かった。謎の心理学者タカナシの存在も…同様の不確定要素として、とても利いてたな。

つまりは、… 現実の世界であれば… リスクの真偽なんて、そうそう分かりはしない。どんなに誠意のある動機に基づく主張だとしても、相応のプロセスを経なければ伝わらないし、逆に鵜呑みにするべきでもない。そういった「リアルな体験」の風味が原作と一味違う所と想像しました。(原作を読んでいないのであくまで想像。)

当初、SUNの根幹としてミサキ町の土壌そのものの危険性を窺がわせていたところから、それに反して「他の土壌でもSUNは精製できる…」と言い出したところで、ちょっと真意が謎めいたが …(さすがに単なるSUN濃度の問題とは思えないのだが…)、最終的に自らも汚染されていた研究者カオルコの衝撃的な最期の演出で、理屈を捻じ伏せていった感覚がある。

目の前に見えるリスクを受け容れろ…ってイメージの迫力のシーンなのだが、…しかし…やはりそこに至っても根拠は見えない。あくまで感情で押し通そう感じが… ちょっと一流の研究者のソレとは違うな…という後味を残しました。

それとも… 研究者ゆえ、結論が出ていない主張は明かせない… という趣旨だったとすれば、…トラブルシューター足りえない研究者の悲哀…って感じもしますね。

元が社会派原作なので解釈に偏った感想になりましたが、演出上の面白さも色々豊富。大勢のキャストがストップモーションで動き出すシーンは… なるほど絵画を思わせる流石の訴求力です。

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