エネミー×エネミー 公演情報 ノアノオモチャバコ「エネミー×エネミー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2018/11/23 (金)

    原作はイプセン作「民衆の敵」。その翻案作品として、現代…というよりは近未来的な産業の要素(観客には真偽が判断できないもの)を取り込んだところに、この作品のミソがあると思う。

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    ネタバレBOX

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    原作では、田舎町が町興しに活用した「温泉」を工場の廃液が汚染している事に気付いた医師が、職務上の倫理感と正義感から温泉の利用中止を進言するものの…町の重大な不利益になることから、遂には彼が救おうとした町民からも敵視されていく… という筋書きで、本作でも大雑把な骨子はそれに沿う。

    しかし、原作通りの「廃液汚染」であったなら、公害の歴史を知る身として容易にそのリスクが実感できるところを… 本作ではそれが「SUN」なる正体不明のエネルギーであり、しかも土壌から精製される…という訳の分からなさがポイントに思える。つまり、リスクの真偽がまったく実感できない。

    勿論、町の体制側の「SUNが安全であるロジック」が全く根拠レスで…如何にも悪役な作りではある。しかしその一方で、SUNの毒性を主張する研究者側(SUN開発者)もまた非常に胡散臭く描かれている。形だけ、レポートが出てくるものの具体的な内容は語られないし、何より…当のSUN開発者であるにも関わらず、何やら非常に楽しそうにみえる。…ここら辺は研究者の性(サガ)と感じても良いのだが、根拠を語らず… 町の産業の生命線である「ミサキトマト(SUNの毒性を含む産物)」の廃棄のみを代替なしで主張する姿には…一種 暴力的な感触もあって、言ってみれば拙速な風評加害の感じも否めない。しばしば揶揄される「似非科学」も想起しました。

    だから…原作に沿った展開の主流に対して…もしかしたら何か他に仕掛けがあるのでは???…と思わせる疑念が常に付きまとっていて、非常にモヤモヤしながら観れたのはミステリー的に面白かった。謎の心理学者タカナシの存在も…同様の不確定要素として、とても利いてたな。

    つまりは、… 現実の世界であれば… リスクの真偽なんて、そうそう分かりはしない。どんなに誠意のある動機に基づく主張だとしても、相応のプロセスを経なければ伝わらないし、逆に鵜呑みにするべきでもない。そういった「リアルな体験」の風味が原作と一味違う所と想像しました。(原作を読んでいないのであくまで想像。)

    当初、SUNの根幹としてミサキ町の土壌そのものの危険性を窺がわせていたところから、それに反して「他の土壌でもSUNは精製できる…」と言い出したところで、ちょっと真意が謎めいたが …(さすがに単なるSUN濃度の問題とは思えないのだが…)、最終的に自らも汚染されていた研究者カオルコの衝撃的な最期の演出で、理屈を捻じ伏せていった感覚がある。

    目の前に見えるリスクを受け容れろ…ってイメージの迫力のシーンなのだが、…しかし…やはりそこに至っても根拠は見えない。あくまで感情で押し通そう感じが… ちょっと一流の研究者のソレとは違うな…という後味を残しました。

    それとも… 研究者ゆえ、結論が出ていない主張は明かせない… という趣旨だったとすれば、…トラブルシューター足りえない研究者の悲哀…って感じもしますね。

    元が社会派原作なので解釈に偏った感想になりましたが、演出上の面白さも色々豊富。大勢のキャストがストップモーションで動き出すシーンは… なるほど絵画を思わせる流石の訴求力です。

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    2019/01/03 19:08

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