タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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吉良屋敷

吉良屋敷

遊戯空間

シアターX(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
日本三大仇討の一つである忠臣蔵を 敵役である吉良家の視点でとらえた野心作、と思っていたが現代に警鐘を鳴らすような秀作。当日パンフに美術・上演台本・演出の篠本賢一氏が「江戸幕府百年、当時は、物価の高騰、生類憐みの令によるしめつけで庶民の鬱憤はたまっていた」と、そして劇中で 自分(吉良上野介)が討たれることが鬱憤晴らしになると いった旨の台詞がある。失政を別の関心へ逸らし、町民はそれに乗っていたずらに風評を流してしまう。それは 現代においても同様で、視点を変えれば価値観が180度変わるかもしれない。例えば、インターネットで真偽があやふやな情報が拡散され、それによって選択や判断が大きく変(影響)わる。江戸 元禄時代と違って情報過多の中で真を見極めることの難しさ。

篠本氏は故観世榮夫の下で能を学んでおり、本公演は随所にその様式美(ある意味 時代物のような)ものが観てとれ 時代劇にはマッチしていた。また 物語(展開)としては拍子木を鳴らし場面転換、時の経過といった分かり易さ。伝統演劇と現代演劇を融合したような斬新であり新鮮さを覚えた。そして舞台美術は簡素にして機能的といった優れもの。勿論 討ち入りの場面も観せるが、視点が吉良屋敷にあることから一律に<赤穂浪士>というだけで個々の名は記さず、感情移入もさせない。そして<語り>と独特の<殺陣>は、舞台に釘付けするほどの魅力がある。役者陣の卓越した演技によって、骨太でありながら繊細な公演になっている。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 追記予定

ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

GROUP THEATRE

浅草九劇(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
第二回浅草九劇賞特別賞受賞作。観劇日は満席。
三浦按針が故郷・家族、そして命をも捨てる覚悟で大航海を経て日本に漂着、その経緯をナレーションで説明するところから物語は始まる。勿論 コロナ禍という閉塞・混沌とした現代においての道しるべとして準えている。内容的には重苦しいものであるが、描き方は逆に多くの笑いを誘いながら元気づけるよう。端的に言えば、今を生きる人々の心を優しく描いた 希望への物語と言えよう。

説明にもあるが、舞台は大分県臼杵市の港町の海鮮居酒屋「魚屋按針」、そこで働く個性豊かな人々との ぶつかり合いを通して生きる希望を見出す。逆境や絶望の淵で、それぞれが生きるための模索や選択する姿を丁寧に描き、人と人の関わりが生きる希望へ繋がることを示唆する。厳しい現実から目を逸らさず、立ち向かう勇気こそが<生きる>ことと訴えているようだ。

全編 方言(臼杵弁)で紡がれるが、けっして一地方の出来事ではなく、日本の至るところで見聞きすること。東京の大学に通っていた小松翔太はコロナ禍によって就職先の内定を取り消され、アルバイトも解雇、学費も家賃の支払いも ままならず…。行き場のない翔太の苛立ちと鬱屈した気持を変える転機、それが故郷であり父 義一が経営する店での数日間の出来事として描く。良いとか悪いとかではなく、いろいろな意味で説得力に溢れた力作。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、海鮮居酒屋「魚屋按針」店内…下手が入り口、すぐカウンターがあり棚に酒瓶が並んでいる。中央奥に座敷、手前にテーブルと椅子代りのビールケース、上手奥がトイレ。壁には大漁旗、観光ポスター等が張(貼)られている。

物語は説明の通りであり、訳ありの人物と店主 小松義一(梶原涼晴サン)の関わりや背景(過去)は台詞でサラッと説明するだけ。どちらかと言えば、訳ありの人物と帰郷している息子 翔太(甲斐直人サン)との衝突を通して今の窮状、その深刻さを際立たせる。それがコロナ禍における状況で、日本の至る所で見られた光景であろう。しかし閉塞感ある状況下においても、明るく前向き いや開き直りといった店主の姿が逞しい。その諦めない姿にANJINの航行を重ねる。

訳ありな人々(性格等)…元ヤクザ(暴力)、アル中(怠惰)、引き籠り(泣き虫)、デリヘル(妊娠中)が店主に雇われ、その日暮らしの生活をしてきた。しかし、借金返済の目途が立たず 店が差し押さえという現実を突き付けられ、知恵を絞り打開策を考えるが…。今まで流されるようなダメ人生、初めて自分たちで何とかしようと努める、そんな成長譚であり応援謳でもある。この個性豊かな人々を演じた役者陣の熱演が、この公演を支えており、情感溢れる印象を与える。

上演前、揺れるような水色紗幕、波の音が港町の情景を想像させる。中央に物語の象徴でもある輝くコンパス(羅針盤)を置く。暴風雨の中、船を出航させた父の行方は…そんな周りの緊張と飄々とした店主であり父の態度、その対照的な描きの中に どんなことがあっても生き抜くといった力強さを表す、それが公演の肝であろう。
次回公演も楽しみにしております。
江古田駅をミナミへ

江古田駅をミナミへ

劇団二畳

FOYER ekoda(ホワイエ江古田)(東京都)

2023/10/27 (金) ~ 2023/11/03 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「B.深夜のラジオ」「D.事の顛末」を観劇。
「劇団二畳」の通り、タタミ二畳以上の空間、最小限の音響・照明効果のみで味わい深い内容(短編)を観せる。昨年も観劇し、その面白さにハマってしまい 今年も楽しみにしていた。その期待は裏切られることなく、あっという間の65分。

先に 少しネタバレしてしまうが、二作品はまったく違うテイストだが 繋がりがある。
「深夜のラジオ」はタイトル通り、深夜 午前3時に父と娘2人が語る たわいない話。秋の夜長ならぬ夜更けに1人 こそこそディスクジョッキーのまねごとをする娘(妹 高校1年)、それを覗いて揶揄う姉、そして仕事から帰った父を交えて…。昼公演、至近距離でビール(ノンアルコールだと思うが)を飲む父、カップラーメンを食べる娘たち。そのニオイが空腹感を刺激する。
「事の顛末」は、一転サスペンス ミステリー風で、どんな結末を迎えるのか興味を惹く。登場人物は 5人と少し多いが、緊張と迫真といった雰囲気を醸し出すが、階段(怪談?)あたりから ちょいちょい合いの手が入り笑いが…。
(上演時間1時間5分) 

ネタバレBOX

「B.深夜のラジオ」
ティシュボックスを使って、マイクやオーディオミキサーを作り、深夜DJの真似事をする相馬繭子(田中千絢サン)とその様子を覗いている姉 早苗(折河夏季サン)の たわいない会話。そこへ深夜勤務(鉄道保線員)の父孝三郎(鈴木恂也サン)が帰ってきて親子の とりとめのない会話へ。DJをして楽しんでいる様子から、将来 (職業)何になりたいかといった展開へ。父は鉄道運転手を夢見ていたようだが、今は鉄道に関わる仕事をしている。そして突然、学生時代に演劇部の手伝いをさせられた話を始めた。そして唐突に台詞の一部を諳んじるが、それがチェーホフの「かもめ」である。何とも まっつたりとした時間が流れる。

「D.事の顛末」
「深夜のラジオ」から約30年後の姉妹の話。ある別荘地に繭子(五十嵐ミナ サン)と夫 五十嵐裕史(和田彰サン)がやってきて、管理人に色々訊ねている。そこへ怪しげな男がやってきて…。その様子を階段下で見ている姉 早苗(たきざわちえ象 サン)、繭子曰くこの別荘で姉が殺され、といった衝撃的な言葉。と いうことは階段下にいるのは幽霊か。虚実が入り乱れ混沌とした様相へ、しかし映画で言えば「カッート」といった どんでん返しの結末へ。繭子の演劇公演の稽古という劇中劇、それを階段下で見ている姉。しかも姉 早苗が男に騙されたという実生活を舞台化するという強かさ。

「深夜のラジオ」と「事の顛末」は、高校時代から約30年後の姉妹という繋がりがある。しかも[「深夜のラジオ」で父が話していたチェーホフの「かもめ」、それを いずれ上演しようか といった台詞が…。実に巧い組み合わせの短編だろうか。
次回公演も楽しみにしております。
サンタクロースが歌ってくれた

サンタクロースが歌ってくれた

キャラメルボックス・ディスカバリーズ

新宿スターフィールド(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
キャラメルボックスの代表作…クリスマスイヴの物語ということもあり、上演前からクリスマスに係る曲が流れており まずは雰囲気作り。劇中劇ならぬ銀幕から上映中人物が飛び出してくるという突拍子もない設定が妙。現実(2人の女性)と虚構(映画「ハイカラ探偵物語」の人物)、現在と過去(大正5年)、実人物(芥川龍之介と後の江戸川乱歩)と 役 といった 時間と場所と人物を交錯させ、不思議な世界観へ誘う。表層的な面白可笑しさの中に 人間---特に文筆家としての才能、その嫉妬心が浮き彫りになる。ちなみに 江戸川乱歩は大正5年に早稲田大学を卒業するが、別意味で その卒論が「競争論」だったような。

公演の観どころは、脚本の面白さは勿論だが、演じる俳優陣の観(魅)せるといった意気込みが凄い。豊かな表情、躍動感ある動き、そして情感溢れる気持を表(体)現し、物語の世界へグイグイと引き込む。ディスカバリーズ…キャラメルボックスの若い劇団員たちによる公演。そして同俳優教室の生徒やゲストを加えた総勢14名(Yキャスト2名含め)が 夫々の役を生き生きと演じており、フレッシュで活力に満ちた劇になっている。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)【Xチーム】 

ネタバレBOX

舞台セットは額縁のようで 左右の上辺に赤い幕、それは映画スクリーンに見立てているようだ。シンプルな舞台だが、スクリーンを飛び出し 都内を巡るシーンを演じるためのスペースを確保する。

梗概…現代-ゆきみはクリスマス・イブに友人のすずこに電話をかけ、映画『ハイカラ探偵物語』を観に行こうと誘う。以降、彼氏がいない女性2人の妄想のような…。
映画の中-「ハイカラ探偵物語」の舞台は、大正5年のクリスマス・イブ。華族の有川家に怪盗黒蜥蜴から宝石を盗みに来ると予告状が届く。警察(警部)が来るが何となく頼りない。そこで有川家の令嬢サヨが友人フミに、フィアンセである小説家芥川に探偵役を依頼できないか相談する。依頼を受けた芥川は友人の太郎(後の江戸川乱歩)と共に有川家を訪れ、黒蜥蜴と対峙する。そして映画は序盤のクライマックスシーンへ、そして芥川は犯人の名前を言おうとするが…。本来ならその場に居るはずの黒蜥蜴が、忽然と居なくなった。突然、芥川は黒蜥蜴が「銀幕の外」に逃げたと言いだす。そこで芥川・太郎・警部の三人は銀幕から飛び出し、ゆきみと共に黒蜥蜴を追いかける事に。

犯人・黒蜥蜴の名は江戸川乱歩の代表的な探偵小説。その謎解きに芥川龍之介の短編小説「藪の中」を連想させる。証言と告白という手法、しかもそれが曖昧で信憑性に欠ける、いわば途中経過の不完全さが次シーンへの興味に繋がり最後までストーリーに集中させる。犯人は推理小説らしく意外と言えば意外かもしれないが、それでも何となく想像が及ぶ範囲ゆえ少し新鮮味がない。犯人の犯行動機は、芸術家らしい才能への嫉妬心というところに品性を感じる。架空の存在の銀幕の人々、現実世界の女性2人が交流するファンタジー。まさしくクリスマス・イヴらしい物語。
ちなみに先の映画も、結末は予想がつきそうな展開で独創性や目新しさみたいなものはなかった。しかし、この嘘くさい世界観にはまって幸福感を味わうのも事実だった。
次回公演も楽しみにしております。
ミラクルライフ歌舞伎町

ミラクルライフ歌舞伎町

亜細亜の骨

サンモールスタジオ(東京都)

2023/10/20 (金) ~ 2023/10/25 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
戦中・戦後と現代を往還させ、日本(内地)で生きる台湾人の艱難辛苦をエピソード…本「台湾人の歌舞伎町」にある章(年代 毎)?を参考にして綴った労作であり快作といった印象だ。夢や希望を見失った日本人、未来に夢見る台湾人といった気質の違いが鮮明だ。

戦後の焼け野原だった新宿 歌舞伎町の復興と活性化に尽力した台湾華僑の人々、そんなタイワニーズを6人のキャストが早変わりで複数の役を担って紡いでいく。また、歌(手話付)・ダンス(タップ・ジルバ等)・パフォーマンスで愉しませ飽きさせない。

公演の魅力は、戦後にも関わらず 明るく前向きな姿、それはコロナ禍で疲弊した現代だからこそ バイタリティ溢れる内容(虚実綯交ぜ)から元気と勇気がもらえる。描き方は、新宿歌舞伎町の老人介護ホーム「ミラクルライフ歌舞伎町」の老人たちの回顧録もしくは思い出話として懐かしむようだが、実は まだまだ恋バナをするほど明日を見つめている。

生きるといった生活臭や格調ある芸術の香、まったく違うエピソードを点描することで、時代というか世相が垣間見える面白さ。例えば 戦後闇市での取り締まりを掻い潜るシーン、小山内薫の自由劇場、無声映画「路上の霊魂」(ゴーゴリー原作 他)など幅広く取り上げる。勿論 現在ある問題ー高齢者に顕著な認知症ーから逃げることなく真摯に向き合う。しかし その描き方(説明)が、何となく栄養・医療の啓蒙のような気がして…。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし) 10.28追記

ネタバレBOX

舞台セットは、正面上部にモニター、上演前は 収納付きBOX型椅子が横に5つ並んでいるだけの ほぼ素舞台。上演前からモニターにキャスト名をスクロールし映す。俳優6人が早変わりで多くの登場人物を演じるため、混乱しないよう モニターや当日パンフ(人物相関図)で説明するなど丁寧な対応。

物語は、戦後 引揚船の中で将来を語り合う台湾人の姿から始まる。そして焼け野原になった新宿の復興へ、といった関りを時代毎のエピソードを絡め点描していく。昭和20(1945)年から平成27(2015)年頃までの約70年という時を縦軸とし、年代ごとの出来事、例えば 新宿ムーランルージの再興などを横軸として描き 物語をリアルに立ち上げていく。

現実には、長い時間とそこで暮らす人々の喜怒哀楽があるはずだが、それを舞台化することで凝縮して紡ぐ。しかも 生きた人々の記憶を歴史資料で裏付けするような感じにだ。公演は、台湾人をメインにしている。戦前は"日本人"として暮らしていた多くの台湾人、朝鮮半島出身者が、サンフランシスコ講和条約によって日本国籍を喪失したが、それでも”外国人”として活躍している、そんな人々を生き生きと描いている。

公演は、「ミラクルライフ歌舞伎町」にいる人々の 回想もしくは回顧するような展開。時間軸を自在に変化させ、年代ごとに過去と現在を往還させ、歌舞伎町の時々の歩みを観せる。「台湾人の歌舞伎町」によれば、<虚脱から再起へ><理想と停滞><焦燥から光明へ><胎動から興隆へ>そして<爛熟、そして変容>といった単語で歌舞伎町の歴史を表す。そこには ヤサグレ者をも迎え入れる度量の広さや面倒見の良さ、多種多様な人々によって成り立つ街であることが協調(強調)されているようだ。

演劇的には歌(ロシア民謡・ウクライナ民謡・台湾軍の歌など)に手話を交え、ダンスで観(魅)せる。そこには 楽しませることは勿論だが、物語の底流にある生きる喜び、バイタリティ といったことを感じさせる巧さ。
次回公演も楽しみにしております。
明日葉の庭

明日葉の庭

ことのはbox

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

中高年女性向けのシェアハウスで共同生活をすることになった女性の過去と今後、これからの生き方を見つめた人間ドラマ。入居にあたって過去は詮索しないといったルールはいつの間にか無くなり、それぞれの人生を語り出す。

公演は、説明にある「高齢化社会を生き抜くため、新しいコミュニティのあり方を模索する人々を描いたヒューマンコメディ」であるが、同時に今でも蔓延っているであろう男女の意識の違い 桎梏も描く。勿論 小さな島における地元住民とのトラブルもあるが、そこは あまり掘り下げない。あくまで明日葉に<明日を生きる>といった意を込めた思いを中心に描いている。人の温かさ優しさ、そして地元(島)の人たちの素朴さ、そんな人間愛に溢れた作品である。
ただ、少し気になったことが…。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)【team箱】10.23追記

ネタバレBOX

舞台美術は、明日葉ハウスの共同スペース(ダイニング)、中央にテーブルとイス、上手は玄関・中央に暖簾 奥はキッチン・下手は階段 へ通じる出ハケ口がある。柱や梁があり簡素な造りだが、物語を紡ぐには十分。

卑小…先に 気になったことを記すが、それは時の経過が はっきりしないこと。たしかに 暗転させシェアハウスに集まってきた女性達が暮らしに馴染んでいく様子、会話の変化、さらに島の人々とのトラブル等、ドラマは展開していく。しかし「明日葉ハウス」の経営者(管理人)である清野日菜子の衣裳がほとんど同じ・・いつも黄色薄手の上着とパンツルック。主役であるため多くの場面に登場するが、見かけの変化がない。またハウスで暮らす女性達の衣裳も同じようで、時季の移ろいが感じられないのが惜しい。伊豆諸島、都心に比べ過ごしやすいといった(気候)台詞はあるが…。

物語は、明日葉ハウスに入居した個性豊かで色々な事情を抱えた中高年女性とハウス経営者(管理人)や島の人々との触れ合いや摩擦を通して、新たなコミュニティを形成していく過程を面白可笑しく描く。
観どころは、入居した女性たちの性格・生き様を語り合うところ。沢木京子(阿部由美恵サン)は、独身で下訳をしていたがペットロスで孤独を感じ、大曽根真紀(荒井ぶんサン)は、有名なインド俳優との叶わぬ恋に破れ、西久保 綾(瀧山貴美子サン)は、酒好きで 離婚3回という男依存症のよう、古谷良美(浅見恵子サン)は、ずっと専業主婦で、夫が亡くなり 息子と同居したが嫁姑の問題、出口久江(秋元和子サン)は、島内巡り・写真撮影・ブログとマイペースな行動、そして樫山智恵子(上村正子サン)も専業主婦だったが…。どこかで見聞きしたような性格や事情を点描し、多様な人生を連想させる。

最初は距離を置いた関係が少しずつ自己表現する。縁もゆかりもない土地で新たな生活を築くのは、相当な勇気がいるだろう。一人では寂しい、しかし他人との煩わしい関係は避けたいといった心持が透けて見える。敢えて小さな島での共同生活、時にぶつかり合うが、穏やかに過ごしたい。そして台風によって半壊になったハウスを<家>と実感する迄が本筋。

別に、樫山智恵子は偽名で、夫へ離婚届を置き家出するように行方を晦ませた。その夫がやってきて、口論が始まる。「誰のおかげで食えるんだ」と怒る夫に対し、仕事一辺倒で愛情のかけらも感じられない夫に嫌気がさして…。女らしさ男らしさといったジェンダー問題(ギャップ)もあるが、自分らしさ といった<存在>と向き合うことの大切さが滲み出る。キャリアを目指す女性もいれば、専業主婦として生き甲斐を見出している人もいる。そんな多様な生き方(他の登場人物も含め)を思わせる。例えば、主婦として生きてきた古谷良美を肯としている。本作ではラスト、夫の豹変ぶりに驚かされるが、それでもハッピーエンドとして 上手くまとめている。
次回公演も楽しみにしております。
DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

KUROGOKU

王子小劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
観たいと思っていた未見の演目「DOLL」、今後 本公演が基準になるがレベルは高い。高校1年生の5人の少女の不安・孤独・善悪・嫉妬等といった捉えどころのない心の揺れを瑞々しく、そして繊細に描いた珠玉作。上演前から波の音が響き、海辺の街にある高校が舞台であることを連想させる。勿論、説明にもある「何故、少女たちは水になったのか」に繋がるわけだが、それに至る少女たちの心の変化と友情が公演の観どころ。

それぞれ性格や情況が違う女子高生を表(体)現した女優陣の好演が、物語を味わい深いものにしている。1年間の高校 それも寄宿舎での共同生活はいつも仲良しというわけではなく、時に 性格や考え方の違いで ぶつかり合うこともある。むしろ その衝突が彼女たちの友情を深めていく<力>になっている。四季折々に、彼女たち一人ひとりの心に寄り添った出来事(事件)を描くことによって、友情という側面を通して 性格や情況を鮮明にさせる。5人という仲間が居ても、心の中は掴みどころのない不安と孤独が支配している。その何となくが…。

5人の女子高生以外に右眼・右耳・左眼といった語り部が登場するが、少女たちを俯瞰するような立ち位置で時代状況や世相風潮を表す激声、そして鼓舞するような。その容姿・衣裳は女子高生たちとは違う、その意味では社会なり常識といった確固たる<大人>を表している。それは 同時に少女たちの不安な足場という恐怖の対置として登場させているかのよう。
また女子高生の兄や思いを寄せる男子高校生が登場するが、彼女たちの純真さに たじろぐ様子、そこにも言葉では言い表せない<女子高生ならではの心>が垣間見えてくる。語彙力がない悲しさ、ぜひ劇場で…。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 【team Ⅼ】10.21追記

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に壁 その左側は出ハケ口、右側に箱馬。上手 下手は非対称に階段が設えてある。二階部(地下劇場であるから地上部)があり、所々に薄布が巻き付いている。その浮遊感は彼女たちの心中であり海といった漠然とした光景を表しているよう。

物語は、5人の性格や家庭環境を学校行事や季節を背景に丁寧に紡いでいく。まず、佐藤いづみ(元山日菜子サン)は、生徒会の役員になるなど面倒見がよいが、何でも引き受けてしまう八方美人的タイプ。周りから独善的と非難され落ち込む。岡本麻里(藤山ももこサン)は成績優秀で、家族の期待を担っている。夏休みも仲間の誘いを断り夏期講習へ。そして兄と<生きること>について問答をする真面目タイプ。吉川京子(柊みさ都サン)は 両親が離婚し孤独を背負っており、虚勢を張るように煙草を吸い、無断外泊もする不良タイプ。停学処分になる際、教師との校則議論は圧巻。高田みどり(石田梨乃サン)は、入学式に枕を抱え ママに度々電話をかけて助けを求める幼児性タイプ。自分からあまり主張できない。最後に星野恵子(松井愛民サン)は、ラブレターをもらいデートをするが、正直 自分の気持が分かっていない。無意識に、本心ではなく 偽りの自己 あるいは役割としての自己を演じてしまう虚飾タイプ。女優陣はその性格等を情緒豊かに表現している。

初演は約40年前だが、今でも色褪せず観応えがあるのは、観客の多くが経験したであろう高校時代の思い、そして5人(性格)の誰かに共感してしまうからではないか。色々な出来事を一人ひとりの性格に準えて描き、それを他の4人(仲間)の観点で客観化させることで、一層 <普通の女子高生>の姿が浮き彫りになる。その年代の あやふやで、時に鋭く突き刺さる感性が見事に描かれている。

公演の観どころは、少女達の(純粋)感性と友情の育み、同時に大人 いや社会との対峙が根底、その繊細かつ骨太なところ。例えば、京子が停学になる際 教師と校則について激論を交わす。今では無意味な校則は削除するなど、やっと時代が追い付いてきたといった感じだ。語り部は大人であり社会を象徴しているのだろう。黒ずくめの洋服でスキのない格好だ。社会という枠と常識に囚われ、俯瞰した立ち位置で見下ろすといった演出は巧み。それに抗い 純粋でありたいとの思いがラストシーン(写真で思い出を語り 上を見上げる姿1983.3.26未明 入水)であろう。
つかみどころのない少女たちの気持を描きつつ、それを社会(大人たち)と絡め、力強い普遍性を表した見事な作品。
次回公演も楽しみにしております。
ちょんまげ手まり歌

ちょんまげ手まり歌

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2023/10/13 (金) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
観た回は満席、小さい会場に鳴り響く万雷の拍手が、公演の素晴らしさを表している。
劇団創立50周年記念Ⅲ、それを旗揚げ公演「ちょんまげ手まり歌」の5回目の再演で締めくくる。時代劇でありながら現代に通じる人間の愚かさを痛烈に批判した物語。原作は上野瞭 氏の童話で、小見出しがついた いくつかの話(章)で構成されていた と記憶している。

少しネタバレするが、冒頭の歌は、童話の始めに書かれている文で、その歌詞が物語のすべてを語っている。人は<考え>だすと迷い 疑いだす。言われたまま実行していればよい。いたずらに色々なことを知ることは、視野が広がるが それだけ苦悩することも…。
やさしい殿様がいる藩…閉鎖された(封建)時代と情報過多により真偽が見定めにくい現代、時代を越えて、或る<こわさ>を描き出した秀作。その怖さこそが 物語の肝。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 追記予定

ずれ

ずれ

m sel.プロデュース

シアターシャイン(東京都)

2023/10/12 (木) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

東京のはずれ街にあるシェアハウスが舞台。そこで様々な事情を持った者の過去と現在を交錯させ、色々な<思い>を描いた群像劇。或る日、シェアハウスに1人の女が戻っ(現れ)たことによって不協和が…。その女の目的というか存在が肝で、それによって話の捉え方、解釈が違ってくるようだ。まさしく観る者にとっては感覚的な<ずれ>を思わせる内容だ。

繊細な演技で愁いを表し、口遊む歌(故郷<ふるさと>)と相まって郷愁ー抒情的な紡ぎ方をしているかと思えば、嫉妬や嫌味といった激情的な描きという メリハリある観せ方。登場人物の性格や思い、そして今の状況が炙り出されるような展開…ここで先に記した女の関りをどう捉えるか、なかなか手強い公演だ。

当初、シェアハウスの家族と共同生活をする人々、その二組の話を交差させた展開かと思っていたが、いつの間にか交錯し不気味な様相を呈していく。その意味ではミステリーといった雰囲気をもつ不思議な公演。出来れば人物相関図がほしいところだが、それを示すとネタバレしそうで難しいのかも。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

ネタバレBOX

舞台美術…上手はオブジェの木(金木犀)とテーブル・椅子、下手は階段といくつかの棚板が無造作に立ててある。全体的に白と黒といった色彩で何となくスタイリッシュな印象。ここはシェアハウスのリビング、又は ある公園になる。

冒頭、公園のベンチで1人物思いに耽っている女性、この公園の名は…思い出せない そんな謎めいたシーンから始まる。
Strangerーよそ者ー

Strangerーよそ者ー

劇団 Rainbow Jam

シアター711(東京都)

2023/10/11 (水) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

フランチャイズ契約スーパー・サンエー府中東店のバックヤードが舞台。説明にもあるが、コロナ禍、そして近くに大型商業施設がオープンしたことで経営は危機的状況。何とか乗り越えようと店長の息子とパート達が奮闘するが…。正社員ではなくパートという立場が妙。

公演では、コロナ禍やパワハラによって既にあった問題、すなわち経済格差(貧困)や労働問題などを揶揄する。パート(非正規雇用)が職を失ったりセクハラを糾弾した社員を経営不振の店に送り込んで といった理不尽さ。社会的弱者に対する社会の歪を面白可笑しく皮肉る。けっして挫けない、そして明るく元気に明日を迎えようとする、そんな勇気がもらえる好公演。

危機的状況を打開しようと皆で知恵を絞る。今まで言われたまま仕事をしており、<全力>で何かをしたことがない。色々な事情や葛藤を抱えたパート達、そんな彼女達が一致団結して困難に立ち向かう。その意味では登場人物の成長譚とも言える。それをミュージカル風に歌や踊りを盛り込み、現代社会の再生エンターテイメントとして観(魅)せる。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし) 【J】

ネタバレBOX

舞台セットは、中央にテーブルと丸イス、上手下手にドア 通路そしてミニ棚があるだけ。サンエー府中東店の休憩室といったところ。

物語は、この店の社長(実質は店長)が書置きを残し 突然出奔したところから動き出す。それまでは いつものように屈託のない談笑で日々を過ごしている。開店前の無駄話のような中に 各人が置かれている状況や悩みが分かってくる。将来への(老後)不安、障がい児を抱えた苦労、夫婦不仲などを盛り込み、身近にある問題を点描していく。一方社長の息子(愛称 坊ちゃん)はパートに慕われる存在だが、どこか頼りない。

サンエー本部から府中東店へ店長代理として派遣されてきた清水(Jチーム 涼花美雨サン)、勿論 タイトルにある<よそ者>である。今迄 家族のように和気藹々とした中に他人が入り込んで、波風立てるのではないかと疑心暗鬼になる坊ちゃんやパート達。一方 彼女は本部でセクハラを訴えたことで、敢えて昇格させて経営不振の店舗の立て直しを命ぜられる。体のいい厄介払い パワハラに悩んでいた。

働くとは、生きるとはといった根源的な問題、しかし それを大上段に構えず また深堀もしない。ただ夫々が<出来ること>をする、そこにはパートとか正社員といった区分を超えた関係を築く。他人がいつの間にか家族のような、そんな温かく優しい展開へ。敢えて表層的な描き方にしているようだが、それは謳い文句にある「日本の現代社会の再生エンターテイメントSDGSミュージカル」として愉しませることを優先したからか。

店再生へ色々なアイデアを出すが、株の(資産運用)相談や夜はカラオケスナックにするアイデアなど、突っ込みどころも多々ある。それでも今日・明日を頑張る人々の姿は凛々しい。50歳のパートリーダ 斎藤菊(福島宏実サン)の力強く説得力のある言葉=まだまだこれから…。
次回公演も楽しみにしております。
或る夜の

或る夜の

劇団芝居屋かいとうらんま

OFF OFFシアター(東京都)

2023/10/06 (金) ~ 2023/10/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

説明や当日パンフにも記されているが、地下鉄の最終電車を待つホームでの不思議な出来事。地上からは見えない地下鉄のホームに閉じ込められた人々の、その外見から伺えない心の「ひっかかり」が交差するシュールな物語。役者陣は、見えない心を上手く体(表)現する好演。

謎の男が一人ひとりの心に語り掛ける。人生の歩みや目標に疑問や迷いを抱き、前に進めない人々へ 厳しくそして優しく寄り添うような描き方。閉じ込められた地下鉄ホームという密室(空間)状態、そして終電から翌朝の始発迄という数時間に紡がれる濃密な会話。と いうか心内の彷徨といった内容だ。

登場人物(職業)の設定が妙。一人ひとりの心情吐露がリアルで 共感してしまう。地上から見えない地下鉄、それに準えて 外見から何を思い考えているか解らない人間の本心を炙り出す。当日パンフに敢えて 回収しない伏線もあると。すべて答え合わせをするような舞台ではなく、「楽しく思考を巡らして」ほしいとある。そう言えば、物語でも その時々で自分で考え選択をしてきている、といった旨の台詞があったなぁ。
(上演時間1時間20分 途中休憩なし) 10.9追記

ネタバレBOX

舞台美術は、地下鉄ホームを思わせる大理石風の円柱と点字(視覚障害者誘導用)ブロックというシンプルなものであるが、状況設定には十分。客席側が線路ということで、ホームに閉じ込められた人々を俯瞰するような。冒頭 薄暗い中で謎の男を中心に、それぞれの人の顔をスマホのライトで色々な角度から照らし出す。勿論 怪しげな雰囲気を漂わすこと、登場人物の心を 色々な角度から覗き見るといった比喩を重ねたよう。まさに演出の妙。

終電を待つ人々、突然システムダウンでホームに閉じ込められてしまう。外部と連絡が取れず 不安になり右往左往する。1人の駅員が駅事務所へ連絡しているが…。人々は、週刊誌の記者2人(先輩男と後輩女)、会社員、フリーター、主婦、女経営者、劇団員、そして会社員(日替わりゲスト)と 職業も年齢も違う。

謎の男が現れ、夫々が抱える希望・諦念・悔悟や性格について話し出す。いや 謎の男の姿を借りた自分(幻影)と向き合う。謎の男は、向き合った人と関わり…例えば 会社員の学生時代の教師、女経営者のパートナー、主婦が苛めた同級生になり、思いを吐露させていく。そして時には厳しい指摘をする。週刊誌の男記者は、社会記者を目指していたが、今ではゴシップネタの記者に甘んじている。時事ネタをメモし、いつもカメラを持ち歩いている。

謎の男が凶悪犯に仕立て上げられ、縄で縛りあげられる。その様子をカメラに収めようとするがシャッターが切れない。今の仕事に甘んじ新たなスタート(シャッター)が切れないよう。他にも会社員のカフェ経営の諦め、女経営者と不適切なパートナーとの関係、虐めと悔悟、といった呪縛に囚われている。謎の男が縄から抜ける=呪縛からの解放といった描き。人は 必ずしも思い描いた通りには生きられない。また、夜中にバイトしているフリーター。時間通りに出勤しなければ という責任感(呪縛)、その柔軟性に欠けた息苦しさからの解放も…。人は いろんな思いに囚われ、それでも生きている。

SFのような雰囲気もあるが、もっと人の心の中を冷徹に見つめた心象劇といった印象だ。そして始発電車で新たなスタート(希望)が、そんな優しさが感じられる。
ちなみに 伏線回収について、システムダウンの原因は何だろう。そんな目にあったら怖い。もう1つ、日替わりゲストの会社員は、どんな役割を担っていたのだろうか。
次回公演も楽しみにしております。
とのまわり

とのまわり

山田ジャパン

シアター・アルファ東京(東京都)

2023/10/04 (水) ~ 2023/10/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
余命宣告された女と男、残された時間をどのように過ごすか といった重厚テーマ。しかし 観せ方は軽妙で笑わせながら考えさせる。公演は、死と どう向き合うかといった普遍的なことを取り上げており、それを当事者だけではなく周りの人々ーー家族や病院関係者(医師・看護師・患者同士)の目も通して描く。人は誰も一人で生きているわけではない、そんな思いが込められたタイトル「(~)とのまわり」であろうか。

余命宣告されたことで家を出る決心をした女 菊池加奈子、どうして幸せな家庭を捨てて姿を消そうとしたのか。男 守屋栄一も離婚し1人になって…余命宣告された者同士の思いは共通し、幸せだったがゆえに苦悩する。その理由が物語の肝。

終末医療、緩和ケアという内容は観応えあるが、それを巧みな舞台技術で支え印象付ける。勿論 余韻も残す。死という悲しみよりは、残り少ない人生(時間)をどう納得いくように過ごすか、といった前向きな描き方だ。テーマの重たさに反して、演出も演技も明るくカラッとしている。気が滅入ることなく、人間観察として観ることが出来る。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 10.9追記

ネタバレBOX

舞台美術は上手にベット2つ、下手に遠近法を用いた衝立に窓、その傍にソファと丸テーブルと椅子。客席側に別スペースのソファ。上部には電車の つり革とランプ。窓外の景色は青空に雲。全体的にスタイリッシュな作りといった印象。
冒頭、電車内のつり革につかまり、人間観察をしている従兄弟2人。

説明…余命宣告された女 菊池加奈子が、その3日後に「彼氏をつくる」と言葉を残して忽然と姿を消してしまう。長いあいだ苦楽をともにした夫や子どもとの時間を選ばず、人が変わったように最期を謳歌する加奈子。
偶然 家族に居場所が知れるが、最期を家族と過ごすことはないと頑な。勿論 守屋栄一も…。加奈子も栄一も幸せな家庭を築いてきたが、その幸せ(思い出)を持ったまま死ぬのは怖い。その<思い>を捨てるためには別人になって世捨て人のようになりたい?

病院(病室)内では、やりたい放題の加奈子と栄一。医師や看護師はその行動に翻弄され、また加奈子と同室の女性患者 沢田との揉め事にも頭を悩ませる。加奈子と栄一は夜な夜な密会しラヴ、沢田はエロ本を朗読し始める。死の恐怖と戦うような 飄々とした振る舞いは怖いもの知らず。ラヴとエロ本で笑わせるが、実は本音を探り合う強かなシーンでもある。

冒頭 つり革を持っているは、幸せを掴んでいるを表し、同時に人の心ー本音は知ることが出来ない、それが車内の人間観察に繋がるようだ。死=思い出の消滅ではないと思う。この物語は、余命宣告された人の観点を中心に描いているが、残された家族の<思い>はどうなるのだろう。最期に思わぬ行動をされたら、幸せだった家庭、それは幻影だったのか という疑心暗鬼になるのでは?その違和感に納得がいかないのだが。

舞台技術の巧さによって 印象的な情況と状況を浮かび上がらせる。例えば、エロ本を朗読する際には ピンク照明によって妖しさを煽り、沈痛・思考するシーンでは黄昏を連想させる橙色照明など、その効果的な演出は見事。またピアノによって落ち着きと安らぎ、その音響効果もよい。ラスト、第九交響曲第四楽章(喜びの歌)が流れる中、つり革を離(放)す加奈子と栄一の姿ーーそこに持つことが無(亡)くなるといった意を込める。見事な余韻!
次回公演も楽しみにしております。
A.R.P festival ~2023~

A.R.P festival ~2023~

A.R.P

小劇場B1(東京都)

2023/09/29 (金) ~ 2023/10/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初めて「A.R.P festival」を観たが 面白可笑しく笑った。コメディのオムニバス6作品で 全て喫茶店が舞台になっている。ちなみにテーマは「ノーメッセージ」で、ただただ楽しんでほしいと。

舞台セットもシンプルで、カウンターと丸テーブル・椅子のセットが2組あるだけ。カウンターの配置や テーブルに座るキャストが変わるだけで、物語がガラリと違って観える。この劇場、いつもはL字型の座席であるが、本作では一方向から観るため キャストの動きや表情を見逃すことなく楽しめる。実に表情が豊かで、時々 台本なのかアドリブなのか判らないような動作や台詞があり、笑わせ愉しませることに徹した作品群。まさに festivalである。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし) 【team B】

ネタバレBOX

6作品は次の通り。
①「アキバの中心で愛を叫ぶ」
非モテの大学時代の男友達が 婚活アプリで知り合った女性と結婚する。コスプレ研究会に所属していたこともあり、面白キャラ…中年のラムちゃん・コナン・ケンシロウ(北斗の拳)へ変身。人の優しさを笑いに込めたインパクト作。

②財布の拾い主
財布を拾った女性と落とした女性の二人芝居。善意のような拾い主だが、財布の中身を確認し、落とした女性の暮らしを詮索する。そして友人になって欲しいと。シュールで狂気じみた内容を笑い話へ。

③父親の苦悩
父46歳、娘17歳(高校生)の二人芝居。始めは娘に彼氏ができたという戸惑い。そのうち自分より年上、しかも職場の上司(部長)という驚き。父の昇進(課長)のため母と娘が仕組んだミッション。成功したら、次は役員と付合い、部長を目指すと。

④心の声、激しめ
この作品だけが内容を忘れるほど笑った。どんな内容だったかなぁ~。

⑤出来心
女友達の持ち物を拝借し、いつの間にか自分のモノにしている。それに気が付かない鈍感女の二人芝居。洋服や小物だけではなく、部屋のソファや自転車を盗られても気が付かないし 怒らない。大らかなのか寛容なのか、呆れてしまう。

⑥浮気をした夫と意趣返しで浮気をした妻を元の鞘に収めさせようとする友人たち。キャスト全員で笑いの渦へ、その手段としてタロット占いで物事を決めようとする。魔が差し 嘘と欺きの夫婦関係 、それでも愛しい人と一緒にいたい。

笑いネタを次々に繰り出すが、描かれているのは何をするにも不器用な市井の人々。その優しさと同時に 人間関係も不得意なといった孤立と孤独が垣間見えるよう。まさに人生悲喜劇だ。
次回公演も楽しみにしております。
「HATTORI半蔵‐零‐」

「HATTORI半蔵‐零‐」

SPIRAL CHARIOTS

シアターサンモール(東京都)

2023/09/27 (水) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
㊗20周年記念公演、物語は勿論面白いが、何といっても 見どころは殺陣・アクションのスピードと迫力。そして その緊張感を支える音響と照明、特にプロジェクションマッピングの効果的な使い方は見事。少しネタバレするが、物語に登場する忍者は〈赤目の里〉という集落で育った仲間。その仲間がアズチモモヤマ時代に群雄割拠した将ー織田・徳川・伊達・毛利・上杉・武田に夫々仕え、相見えるという。後景に里の風景を映すが、昼間は長閑な茅葺屋根の家々、夜は家の灯が美しい、そんな安らぎが感じられる。それが戦場ともなれば、一転 忍術を駆使する戦いが…。戦争と平和ならぬ蹂躙と情愛が交差する戦国絵巻といった壮大な物語。

説明にある「赤目の里で育った【忌み子】『伴左衛門(サエモン)』と、零代『ハットリ半蔵葛(カズラ)』 2人も其々大名に召し仕えられる。 「天下泰平」徳川イエヤスに仕えるカズラ。 そして「非道鬼人」織田ノブナガに仕えるサエモン」、その表裏の奥に隠された〈思い〉と〈思惑〉が肝。

公演は、途中休憩(10分)を挟み2時間45分を怒濤のように駆け抜ける といった展開である。緊張したシーンだけではなく、時々 笑いや遊び心あるシーンを挿入し、息抜きをさせるよう。そんな心遣いもあり飽きることなく観ることが出来る。また衣裳や得物といった観(魅)せ方にも工夫があり楽しませる。見た目の面白さだけではなく、登場人物のキャラクターを立ち上げ、人間いや忍者の<業>のようなものを描く。ちなみに 人間であるまえに忍者だ、という台詞に<業>の深さと哀しさが隠されており、ここも見どころの1つ。
(上演時間2時間45分 途中休憩10分) 【Bチーム】 10.9追記

ネタバレBOX

舞台美術は高さがある疑似対象、上手 下手に階段を設えているが、その向きが 真横か斜めといった違いがある。中央にも階段があり、上部は左右の引き戸(襖)になっている。正面壁は舎の字型のようで、そこにプロジェクションマッピングすることで、色々な情景を映し出す。

史実に擬えた架空の戦国時代ー倭の国 ジパングのアズチモモヤマー、群雄割拠した織田・徳川・伊達・毛利・上杉・武田に「赤目の里」で育った忍者が袂を分かって仕え、敵対することになる。しかし、副題に「己が不要になる世を夢見た零」とあることから、深読みすれば反戦ドラマのような。

見所は、史実とは異なり、織田と毛利(女将)が同盟したり、上杉(女将)と武田そして伊達が手を組むなど奇想天外な展開。そして最後は非道鬼人と恐れられた織田と天下泰平を掲げる徳川による戦(いくさ)。また赤目の里で育った【忌み子】伴左衛門(サエモン)が織田に仕え、零代 ハットリ半蔵葛(カズラ)が徳川へ、そして夫々の秘術の限りを尽くす。といっても伴左衛門(サエモン)は <恋>させることしか出来ない。

織田と徳川、サエモンとカズラは表裏の関係にある。織田は敢えて悪役を買い、自分を葬ることで徳川の天下泰平を叶える。また忌の子はカズラで サエモンは身代わりとなって、虐められないよう守っていた。人の表面(言葉や行動)だけでは、本心は解らず誤った判断をする。
また忍者の業(ごう)のような所業ー赤目の里に代々伝わる秘伝(巻物)を奪う。同じ里の忍者でありながら、仲間より強くありたいという欲望。戦国の世と忍者という、いずれも己が一番でありたいと…。特に赤目の里人は ”人間である前に忍者” という哀れ。

公演の魅力は 先にも記したが、演技ー殺陣・アクションのスピードと圧倒的な迫力。衣裳や得物でビジュアル的に観(魅)せ楽しませる。勿論 照明(プロジェクションマッピング)や音響(羽音)など臨場感溢れる舞台技術も効果的だ。そして所々に挿入する笑いの数々によって飽きさせることなく舞台に集中させる上手さ。
次回公演も楽しみにしております。
雨の終わりかけに怒鳴りたて

雨の終わりかけに怒鳴りたて

劇団東京座

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/28 (木) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台美術とおどろおどろしい雰囲気といった見た目は良かった。しかし、物語の構成が 有名なそして話題作となった邦画の組み合わせのようで、新鮮味が感じられなかったのが憾み。

少しネタバレするが、物語の枠組みとラストの高笑いしながら金を渡すシーンは TV・映画の話題作、話の中心になる女郎屋の遊女と若侍の件は、某映画賞受賞(江戸・深川の岡場所が舞台)した 夫々の映画を組み合わせて紡いでいるといった印象だ。それを傀儡子といった妖しげな要素を取り入れて観せる。

音響や照明といった舞台技術で観(魅)せている。また衣裳は勿論、舞台美術が時代や状況をうまく醸し出し、見た目の妖しさで物語の世界へ誘う。演出は巧く、また遊女----女の情念、人間の業を描き 掘り下げようとしているだけに、既視感ある脚本が惜しい。
第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。⇒★3つ
(上演時間2時間30分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は和風で、中央奥に段差のある障子扉、上手は床の間に掛け軸、そして主舞台になる女郎屋の和室ー箪笥・衣桁に派手な着物等、下手は別場所で赤い毛氈が。お面等の飾り物が怪しい雰囲気を漂わす。

冒頭 怪しい呪術師風の人物による傀儡によって幻想(術)的な世界観へ誘なわれる。しかし ラストに明かされるのは、物語全体が 仕込み詐欺という偽(幻)の世界。これが話題作になった映画「コンフィデンスマンJP」シリーズの仕込詐欺のよう。そして物語の中心ー女郎屋の遊女と若侍の件は、映画「海が見ていた」(山路ふみ子新人女優賞 遠野凪子)のようだ。もっとも映画脚本の黒澤明は 山本周五郎の小説をいくつか参考にしているから、同じような設定になったのかも知れない。この全体の構成とメインシーンに既視感があり 新鮮味を欠いた。

公演の魅力は、妖艶な雰囲気を醸し出す女郎屋、そこで働かされる遊女の色香。その対となるような怪しげな呪術師風の台詞「ひとつの理でございます」と傀儡の動作。その女優・男優の観(魅)せる演技が良い。また妖しげさを助長する舞台技術ーー照明は色彩だけではなく その明暗といった諧調、音響は雷鳴を轟かす不気味さーーによって ふわふわとした中に激しい情念を感じる。

油揚げ、お面といった狐を思わせる場面があり、それが一層 怪しさを助長する。しかし、エレキテルや女将・遊女が金平糖・かりんとう を食べるなど 冗長に思えるシーンも少なくない。構成におけるシーンの意味と必要の有無について、が課題ではないだろうか。
次回公演も楽しみにしております。
Letter2023

Letter2023

FREE(S)

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2023/09/28 (木) ~ 2023/09/30 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

内容的には反戦物語であるが、<感情>を揺さぶるというよりは当時(昭和)の若者と現代(令和)からタイムスリップした若者の心情と状況の違いを<情報>として描いた、といった印象だ。何度も再演しており、戦争という最悪の不条理を語り継ぎ 忘れさせないといった思いは伝わる。

説明にある「太平洋戦争時代末期、特攻で散った青年たちの実際の手記をもとに描くヒューマンドラマ」といった謳い文句であるが、現代からタイムスリップした青年がいつの間にか同調圧力のように当時(特攻隊員たち)の風潮に流されていく怖さ。今から考えればバカげたことだが、その時代に生きていれば<抗う>ことの困難さも…。1945年から2023年へ届いた一通の手紙に込められた<思い>、その真が十分に伝えきれていないため、印象と余韻が弱くなったのが憾み。

戦時中と現代の違いは、タイムスリップした当初こそ感じられたが、だんだんと現代と変わらない暮らしぶりーー食事や酒などの配給不足が感じられず、表面的な衣裳等で判らせる。また特攻隊員が不自由なく家族等と会える。当時を知らないが、そのような自由な空気があったのだろうか。
特攻隊員と現代青年の意識がいつの間にか同化している。それゆえ 戦時と今の心情が同じになり、肝になる<実際の手記>の伝えたい事が鮮明にならない。もう少し状況と心情の違いを際立たせることによって、戦争と平和という世界観を描き出してほしいところ。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 追記予定

最悪の場合は

最悪の場合は

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2023/09/27 (水) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
タイトル「最悪の場合は」は、説明の世間と宇宙、本音と建前、不正と隠蔽、そして希望と現実を表している。そして前作「星の果てまで7人で」と繋がるような物語。少しネタバレするが、日本宇宙開発機構-JSA(ジェイサ)が舞台というのが妙。表層の面白さ、その奥には職場愛と人間愛が詰まった人間関係・仕事群像活劇、観応え十分。

そこで起きたであろう不祥事にどう対処するか。初演(2018年)時は日大アメフト部が不祥事を起こしていたが、再び日大アメフト部が不祥事を起こした時期に再演する偶然。またジャニーズ事務所の性加害問題を始め不祥事に係る記者会見が開かれている。なんとタイムリーな内容(公演)であろうか。公演では、宇宙という夢と希望を担う職場における悪夢と現実(最悪)を上手く繋ぎ、勤め人(組織人)の共感を誘う。立ち位置の違いによって不祥事への対処方針が異なる、その濃密な激論が見どころの1つであろう。

前作が宇宙での出来事(地球への思い)を描いているとすれば、本作は地球(地上)において宇宙への思いを馳せる。しかし現実に目を向ければ危機回避に追われる姿。そこには不祥事をどのように収拾するかといったドタバタの裏に 生活という のっぴきならない事情を垣間見せる凄(惨)さ。

会見をする組織の内幕だけではなく、それを報道する機関の在り方にも 一石を投じる幅広さ。冒頭、社外から招聘したリスクマネージメント・コンサルタントが謝罪会見の目的などの蘊蓄を語るが、実際 謝罪会見を行うのは人であるから思惑通りにならない可笑しみが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に横長テーブルと椅子があるだけ。舞台(職場)は日本宇宙開発機構という政府関係機関。そこの理事が接待 賄賂を受け取ったという疑惑がもたれ、それの釈明会見をする準備(リハーサル)をしているシーンから始まる。その担当が広報部第二課で、いかに上手く釈明会見ができるか、リスク・マネージメント・コンサルタントからアドバイスを受ける。一方、第一課は もうすぐ地球に帰還する衛星探査機マリナの記者会見準備をしている。同じ広報部でも役割分担によって陰・陽のように地味か華々しい会見内容になる。

二課の釈明会見は理事が開き直り、釈明どころか賄賂を受け取ったことを認め紛糾する。その際、内々にしていたマリナ帰還を口走ってしまう。慌てる一課と二課の騒動を通してセクト意識が顕わになり、同時に責任の擦り合いが始まる。そん時、マリナの異常(故障)が分かり、地球への帰還が危ぶまれる。いや 地球へ帰還する場合は都市部へ墜落する危険が…。広報課として、どのように情報提供するか喧々諤々の論争が始まる。そして どちらの課が担当するのか。

一課の課長は JSAのプロパー職員、一方 二課の課長は中央官庁からの出向職員という立ち位置が、その発言に表れる。一課長は、宇宙事業に携わっている自負、危機管理の観点から地球(地上)墜落を周知する、対して 二課長は、不確かな情報で国民を混乱させないため周知しない、それぞれの主張で激論する。この誰のため 何のため、その方法と効果はといった深みある議論が見所。そして 出向者という事勿れ主義、責任を負いたくないという立場が露呈する。

JSAで宇宙事業に携わっているとはいえ、生活の糧を得る職場であることに変わりはない。マリナが墜落するかも知れないという 不確実な情報で国民からのバッシング、その結果 職を失うかも そんな不安もよぎる。出向者(二課長)は、出向元の官庁へ戻り安泰という構図が<立場と責任>に重なる。そしてJSA内に東西TVディレクターが出入りしており、内部情報を独占的に得ている。その内々(秘密)情報の公開 有無の判断も気になるところ。

舞台技術、特に照明の諧調によって情況や状況を表す巧さ。壁際に 等間隔に立っている衝立への照射角度によっては鯨幕に観える。その意味ではシンプルな舞台セットながら実に効果的な造作になっている。その衝立を職場の壁に見立て、覗き 聞き耳を立てといった身近で現実味のある光景が…。
次回公演も楽しみにしております。
AIRSWIMMING  -エアスイミング-

AIRSWIMMING -エアスイミング-

WItching Banquet

アトリエ第Q藝術(東京都)

2023/09/26 (火) ~ 2023/09/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、少し観念的で理解、解釈が難しい面もあるが…。
1920年代から70年代迄の約50年間、精神病院に収容された女性2人の不撓不屈の物語。
説明では、上流階級育ちのペルセポネー・ベイカーは、妻帯者の男性と恋に落ち 妊娠して婚外子を産み、父親に精神病院に入れられてしまう。そして社会の性規範に囚われず、「女らしい」ふるまいをしないことを理由に2年前に収容されたドーラ・キットソンに出会う。この2人が 空想・想像力を交え、励まし合い、笑わせ合いながら 権力の象徴とも言える精神病院内で紡ぐ会話劇。

精神異常者として身体の管理と拘束をする、その理不尽な対象を女性に絞って描いている。それは外国(イギリス)の しかも過去のことではなく、現代日本に通じる問題・課題でもあろう。それが「100年後の今… 私たちは彼女たちの声が聞こえているのか?」という問いかけに繋がる。
当時における触法精神障碍者の実話を基に、現代を生きる女性の「痛み」「苦しみ」「患う」の声をすくい上げるアウトリーチの公演になっている。それゆえ 理不尽・不平等が生じている状況を打開、端的に言えば ジェンダー格差による不利益の克服といった意も込められている。しかし、無条件(表面)に受け止めることが出来ない難しさがある。

同年代、フーコーの「監獄の誕生─監視と処罰」といった 権力を主題にした学術的な書もある。しかし、本作は 実話を基に しかも女性に対象を絞っているため、一層 問題を具体的に捉えることが出来る。ただし、演劇的には ベイカーやキットソンが精神病院に収監された事情・理由は後から描かれるため、その背景を知らないと理解が追い付かないかも…。それでも 2人の女性が励まし助け合いながら<生きようとする>その姿に心魂が揺さぶられる。公演は 主にリーディング、そして 彼女たちの思いを 色々な工夫を凝らした演出…歌やピアノ演奏等で観(魅)せ印象付ける。

閉じられた世界の2人を キャスト5人が組み合わせや役柄を入れ替えて語る。そうすることで状況の変化や時間の経過を表す。その演劇的手法を すんなりと受け入れて楽しめるか否かによって評価が異なるかも知れない。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし) 9.29追記

ネタバレBOX

舞台セットは、上手奥にピアノ、中央に外側を向くよう(背中合わせ)に五角形のように椅子を配置し、ピアノが置かれている隅以外に椅子が1つづ置かれている。物語の登場人物は2人だが、それを5人の女優が赤い台本を持ってのリーディング。中央に集まったり、隅に座ったりすることで人物の組み合わせや役柄を変える。そうすることで約50年間という時の流れと情況の変化を表す。

ベイカーとキットソンの2人の女性は、100年前のイギリスでは社会不適合者ー性規範や道徳を逸脱ーとして収容施設に収監された。社会から孤絶した彼女たちの空想の世界が中央のサークル状(五角形)で紡がれる。女優のドリス・デイを引き合いに出しながら、夢と希望を語り<生きよう>とする姿は、どんな状況においても諦めないことを訴える。これは女性だけではなく、男性や最近ではLGBTQにおいても生きづらい世を少しずつでも変える運動へ、を連想させる。

公演で興味を惹いたのは、社会的な観点と人間的な観点とでも言うのだろうか。ベイカーは妻帯者の男性と恋に落ち婚外子を産んだ。現代の日本においても、かつて<不倫は文化>と言った俳優がいたが、今でも不倫は世間から非難を浴びるし、興味本位で騒ぎ立てられる。社会的な観点からみれば精神病院へ収監するという問題、一方 不倫された妻の人としての感情(憤り)はどうか。端的な構図はベイカーの行為は同性への裏切りのようで…。この公演は、あくまで社会体制(規範)からの自由 解放という<声>のようだ。

もう1つ。女性が貞操であらねばならない時代。今でも女らしさ男らしさ、そして<あらねばならない>という曖昧な固定観念に囚われる。しかし現代においても その不自由な観念を払拭したと言い切れるだろうか。ラスト、中央の椅子に5人が上がり泳ぐように手を横に広げる。演劇的に見れば、奈落の底から抜け出すように泳ぐーまさに空を目指したエアスイミングだ。

舞台技術が見事。ピアノの生演奏や歌は勿論、照明効果によって状況が浮かび上がる。例えば 5人が場内には入ってくる時は格子状の照明だが、これは施設の格子であり台詞にある風呂(タイル)の磨きを、また水滴の音と水玉模様の照明によって孤絶やスイミングを夫々 連想させる。そして 地味(グレー系)な色彩の衣裳で統一し、照明の角度によって人影、それは2人だけではなく多くの女性の姿・声を表す。そして赤い台本を赤子を抱くような愛しさをもって…。
次回公演も楽しみにしております。
しあわせ色の青い空

しあわせ色の青い空

7どろっぷす

小劇場 てあとるらぽう(東京都)

2023/09/21 (木) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

前作は「ムッちゃんの詩」という演目だったようだが、未見。本作は「しあわせ色の青い空」~東日本大震災とムッちゃんに捧ぐ~となっており、生きる希望が見いだせない被災者 優香がタイムスリップして 戦時中のムッちゃんの懸命に生きようとする姿を見て 再生・再起していくというヒューマンドラマ。

テーマは「生きる」。”当たり前”のように生きている、その大切さ重要さを語り継ぐような物語。多くの小学生が観劇していたが、集中して観るには1時間45分の上演時間は長かったようで、真意が伝わったかどうか。
戦争と大震災という悲しみを繋いで、それでも人は生きていくという<希望>を綴っているが、少し無理があるような。

人は慣れてしまう。どんなに悲しく惨い経験も 生きていくうちに感情がマヒしていく。そして記憶さえも薄れていく怖さ。戦後78年、戦争を知らない世代に 最悪の不条理を語り継ぐことの大切さ、その意味で このような公演を続ける意義がある。ただ、戦争と震災を同一視点で見ることは出来ない。
そして優香の前に現れた<海の精>によって被災者の心は救われるが、一方 「ムッちゃんの詩」はどのようなラストだったのだろうか。この公演は 描き切ったようで 観客に問い掛け 考えさせていない。勿論、当時 小学6年生のムッちゃんと小学1年生の町子ちゃんの悲しい出来事は分かる。しかし、戦争と災害という異質とも言える物語を繋ぐことによって「反戦」と「再生」という訴えが中途半端になったようで残念。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 【B班】 9.28追記

ネタバレBOX

段差があるだけの素舞台。海を眺めている女性 優香に声をかけたのが、海の精たち。優香は東日本大震災で両親と妹を亡くし、生きる気力もなくボーっとした日々を送っていた。海の精は、そんな彼女を戦時中(1945年)の大分県へタイムスリップさせる。

そこにはムッちゃんという小学6年生の少女がいた。彼女は横浜で暮らしていたが、戦災で母と弟を亡くし大分県の親戚の家へ、という事情が語られる。優香が、ムッちゃんが生きていた時代や当時の人々の状況を俯瞰しているように描く。直接 当時へ入り込んでいないため客観的でリアリティが感じられないのが残念。前作は「ムッちゃんの詩」ということで、当時(戦時中)の悲劇として紡いでいたのではないだろうか。今作は総じて若いキャストが演じており、若さゆえか戦時の悲惨さが演じ切れ(滲み出)ていない。

防空壕の中で結核に罹ったムッちゃんと親しくなった小学1年生 町子ちゃんとの交流。喉が渇いた町子ちゃんへ水筒を渡したムッちゃん、食料もなく水だけで命を支えていたが、その大切な水をあげる。しかし 2人の親交は長く続かない。結核は治らない病で、人に感染するため隔離されていた。防空壕の中でも一層劣悪な場所に幽閉されていた。やがて終戦を迎えるが、その時 ムッちゃんは…。嗚咽しそうな場面であるが、自分も優香と同じように眺めるといった感覚、それでは感情移入できない。

その様子を優香は見ているがどうすることもできない。戦時中の悲惨な状況を知ることで、優香は生きることを、といった思いを強くする。繰り返しになるが、予定調和で 俯瞰=醒めているような感じで、感情が揺さぶられない。勿論、戦争の悲惨さ、反戦の思いは伝わるが。

優香がタイムスリップした時代、大勢の若者が戦時中にも関わらず生き生きと暮らしている様子、その青春群像劇でもある。歌を手話を交えて歌い、踊る姿はいつの時代でも平和でありたいことを思わせる。それだけに、戦争と被災を交錯させたような描き方では、その思いは中途半端にしか伝わらないような。
次回公演も楽しみにしております。
天召し -テンメシ-

天召し -テンメシ-

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/21 (木) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

面白い、お薦め。
当日パンフにも記されているが、「天召し」は三回目の上演で 全てを観させてもらった。「将棋」の孤独で厳しい世界観、一方 井保三兎氏が演じる田島(棋士 森信雄)の仄々と和ませる雰囲気が重苦しく感じさせない。その絶妙なバランス感覚が良い。そして この作品にはモデルが沢山いると。賭け将棋で生計を立てた池田(新宿の殺し屋・プロ殺しなどの異名がある小池重明)、智(棋士 村山聖 追贈九段)を義理の親子として繋ぎドラマ化する。池田の破天荒・破滅型の生活、智のネフローゼ症候群に悩まされながらも、直向きにプロ棋士を目指すという二人の男の生き様ー将棋という勝負(真剣)に魅入らされた人生劇場。

モデルになった人たちはネット情報にあり、その人物像を彷彿させるような描き方だが、それらの人物をいかに関係付けて舞台化するか。自分の記憶では、この作品は「将棋シリーズ」の第1作で、以降数々の将棋を題材にした秀作を上演している。上演前から孤独で厳しい世界であることを強調したような雰囲気が漂う。他の将棋を題材にした作品は、上演前には将棋初心者向けの大盤解説をしていたが…。シリーズ第1作には色々な思いや要素が込められており 特別なのかもしれない。

時代や状況の変化は、小説家 木下(団 鬼六)がナレーションのように説明するが、それでも明確にならない。物語として時代(時間)の流れを大切にしているようだが、違和感なく展開出来ていれば木下の状況説明は省略しても良いような。
そして智だけではなく 他の弟子育成、さらに女性にも将棋を指導(女流棋士に)する田島の姿。また台詞にもあったが、将来コンピューターによって絶対負けないプログラム将棋云々、を通して時代を超越した現代性をも垣間見せる。
第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

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