吉良屋敷
遊戯空間
シアターX(東京都)
2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
日本三大仇討の一つである忠臣蔵を 敵役である吉良家の視点でとらえた野心作、と思っていたが現代に警鐘を鳴らすような秀作。当日パンフに美術・上演台本・演出の篠本賢一氏が「江戸幕府百年、当時は、物価の高騰、生類憐みの令によるしめつけで庶民の鬱憤はたまっていた」と、そして劇中で 自分(吉良上野介)が討たれることが鬱憤晴らしになると いった旨の台詞がある。失政を別の関心へ逸らし、町民はそれに乗っていたずらに風評を流してしまう。それは 現代においても同様で、視点を変えれば価値観が180度変わるかもしれない。例えば、インターネットで真偽があやふやな情報が拡散され、それによって選択や判断が大きく変(影響)わる。江戸 元禄時代と違って情報過多の中で真を見極めることの難しさ。
篠本氏は故観世榮夫の下で能を学んでおり、本公演は随所にその様式美(ある意味 時代物のような)ものが観てとれ 時代劇にはマッチしていた。また 物語(展開)としては拍子木を鳴らし場面転換、時の経過といった分かり易さ。伝統演劇と現代演劇を融合したような斬新であり新鮮さを覚えた。そして舞台美術は簡素にして機能的といった優れもの。勿論 討ち入りの場面も観せるが、視点が吉良屋敷にあることから一律に<赤穂浪士>というだけで個々の名は記さず、感情移入もさせない。そして<語り>と独特の<殺陣>は、舞台に釘付けするほどの魅力がある。役者陣の卓越した演技によって、骨太でありながら繊細な公演になっている。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 追記予定
ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023
GROUP THEATRE
浅草九劇(東京都)
2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
第二回浅草九劇賞特別賞受賞作。観劇日は満席。
三浦按針が故郷・家族、そして命をも捨てる覚悟で大航海を経て日本に漂着、その経緯をナレーションで説明するところから物語は始まる。勿論 コロナ禍という閉塞・混沌とした現代においての道しるべとして準えている。内容的には重苦しいものであるが、描き方は逆に多くの笑いを誘いながら元気づけるよう。端的に言えば、今を生きる人々の心を優しく描いた 希望への物語と言えよう。
説明にもあるが、舞台は大分県臼杵市の港町の海鮮居酒屋「魚屋按針」、そこで働く個性豊かな人々との ぶつかり合いを通して生きる希望を見出す。逆境や絶望の淵で、それぞれが生きるための模索や選択する姿を丁寧に描き、人と人の関わりが生きる希望へ繋がることを示唆する。厳しい現実から目を逸らさず、立ち向かう勇気こそが<生きる>ことと訴えているようだ。
全編 方言(臼杵弁)で紡がれるが、けっして一地方の出来事ではなく、日本の至るところで見聞きすること。東京の大学に通っていた小松翔太はコロナ禍によって就職先の内定を取り消され、アルバイトも解雇、学費も家賃の支払いも ままならず…。行き場のない翔太の苛立ちと鬱屈した気持を変える転機、それが故郷であり父 義一が経営する店での数日間の出来事として描く。良いとか悪いとかではなく、いろいろな意味で説得力に溢れた力作。
(上演時間2時間 途中休憩なし)
江古田駅をミナミへ
劇団二畳
FOYER ekoda(ホワイエ江古田)(東京都)
2023/10/27 (金) ~ 2023/11/03 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「B.深夜のラジオ」「D.事の顛末」を観劇。
「劇団二畳」の通り、タタミ二畳以上の空間、最小限の音響・照明効果のみで味わい深い内容(短編)を観せる。昨年も観劇し、その面白さにハマってしまい 今年も楽しみにしていた。その期待は裏切られることなく、あっという間の65分。
先に 少しネタバレしてしまうが、二作品はまったく違うテイストだが 繋がりがある。
「深夜のラジオ」はタイトル通り、深夜 午前3時に父と娘2人が語る たわいない話。秋の夜長ならぬ夜更けに1人 こそこそディスクジョッキーのまねごとをする娘(妹 高校1年)、それを覗いて揶揄う姉、そして仕事から帰った父を交えて…。昼公演、至近距離でビール(ノンアルコールだと思うが)を飲む父、カップラーメンを食べる娘たち。そのニオイが空腹感を刺激する。
「事の顛末」は、一転サスペンス ミステリー風で、どんな結末を迎えるのか興味を惹く。登場人物は 5人と少し多いが、緊張と迫真といった雰囲気を醸し出すが、階段(怪談?)あたりから ちょいちょい合いの手が入り笑いが…。
(上演時間1時間5分)
サンタクロースが歌ってくれた
キャラメルボックス・ディスカバリーズ
新宿スターフィールド(東京都)
2023/10/26 (木) ~ 2023/10/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
キャラメルボックスの代表作…クリスマスイヴの物語ということもあり、上演前からクリスマスに係る曲が流れており まずは雰囲気作り。劇中劇ならぬ銀幕から上映中人物が飛び出してくるという突拍子もない設定が妙。現実(2人の女性)と虚構(映画「ハイカラ探偵物語」の人物)、現在と過去(大正5年)、実人物(芥川龍之介と後の江戸川乱歩)と 役 といった 時間と場所と人物を交錯させ、不思議な世界観へ誘う。表層的な面白可笑しさの中に 人間---特に文筆家としての才能、その嫉妬心が浮き彫りになる。ちなみに 江戸川乱歩は大正5年に早稲田大学を卒業するが、別意味で その卒論が「競争論」だったような。
公演の観どころは、脚本の面白さは勿論だが、演じる俳優陣の観(魅)せるといった意気込みが凄い。豊かな表情、躍動感ある動き、そして情感溢れる気持を表(体)現し、物語の世界へグイグイと引き込む。ディスカバリーズ…キャラメルボックスの若い劇団員たちによる公演。そして同俳優教室の生徒やゲストを加えた総勢14名(Yキャスト2名含め)が 夫々の役を生き生きと演じており、フレッシュで活力に満ちた劇になっている。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)【Xチーム】
ミラクルライフ歌舞伎町
亜細亜の骨
サンモールスタジオ(東京都)
2023/10/20 (金) ~ 2023/10/25 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
戦中・戦後と現代を往還させ、日本(内地)で生きる台湾人の艱難辛苦をエピソード…本「台湾人の歌舞伎町」にある章(年代 毎)?を参考にして綴った労作であり快作といった印象だ。夢や希望を見失った日本人、未来に夢見る台湾人といった気質の違いが鮮明だ。
戦後の焼け野原だった新宿 歌舞伎町の復興と活性化に尽力した台湾華僑の人々、そんなタイワニーズを6人のキャストが早変わりで複数の役を担って紡いでいく。また、歌(手話付)・ダンス(タップ・ジルバ等)・パフォーマンスで愉しませ飽きさせない。
公演の魅力は、戦後にも関わらず 明るく前向きな姿、それはコロナ禍で疲弊した現代だからこそ バイタリティ溢れる内容(虚実綯交ぜ)から元気と勇気がもらえる。描き方は、新宿歌舞伎町の老人介護ホーム「ミラクルライフ歌舞伎町」の老人たちの回顧録もしくは思い出話として懐かしむようだが、実は まだまだ恋バナをするほど明日を見つめている。
生きるといった生活臭や格調ある芸術の香、まったく違うエピソードを点描することで、時代というか世相が垣間見える面白さ。例えば 戦後闇市での取り締まりを掻い潜るシーン、小山内薫の自由劇場、無声映画「路上の霊魂」(ゴーゴリー原作 他)など幅広く取り上げる。勿論 現在ある問題ー高齢者に顕著な認知症ーから逃げることなく真摯に向き合う。しかし その描き方(説明)が、何となく栄養・医療の啓蒙のような気がして…。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし) 10.28追記
明日葉の庭
ことのはbox
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2023/10/19 (木) ~ 2023/10/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
中高年女性向けのシェアハウスで共同生活をすることになった女性の過去と今後、これからの生き方を見つめた人間ドラマ。入居にあたって過去は詮索しないといったルールはいつの間にか無くなり、それぞれの人生を語り出す。
公演は、説明にある「高齢化社会を生き抜くため、新しいコミュニティのあり方を模索する人々を描いたヒューマンコメディ」であるが、同時に今でも蔓延っているであろう男女の意識の違い 桎梏も描く。勿論 小さな島における地元住民とのトラブルもあるが、そこは あまり掘り下げない。あくまで明日葉に<明日を生きる>といった意を込めた思いを中心に描いている。人の温かさ優しさ、そして地元(島)の人たちの素朴さ、そんな人間愛に溢れた作品である。
ただ、少し気になったことが…。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)【team箱】10.23追記
DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!
KUROGOKU
王子小劇場(東京都)
2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
観たいと思っていた未見の演目「DOLL」、今後 本公演が基準になるがレベルは高い。高校1年生の5人の少女の不安・孤独・善悪・嫉妬等といった捉えどころのない心の揺れを瑞々しく、そして繊細に描いた珠玉作。上演前から波の音が響き、海辺の街にある高校が舞台であることを連想させる。勿論、説明にもある「何故、少女たちは水になったのか」に繋がるわけだが、それに至る少女たちの心の変化と友情が公演の観どころ。
それぞれ性格や情況が違う女子高生を表(体)現した女優陣の好演が、物語を味わい深いものにしている。1年間の高校 それも寄宿舎での共同生活はいつも仲良しというわけではなく、時に 性格や考え方の違いで ぶつかり合うこともある。むしろ その衝突が彼女たちの友情を深めていく<力>になっている。四季折々に、彼女たち一人ひとりの心に寄り添った出来事(事件)を描くことによって、友情という側面を通して 性格や情況を鮮明にさせる。5人という仲間が居ても、心の中は掴みどころのない不安と孤独が支配している。その何となくが…。
5人の女子高生以外に右眼・右耳・左眼といった語り部が登場するが、少女たちを俯瞰するような立ち位置で時代状況や世相風潮を表す激声、そして鼓舞するような。その容姿・衣裳は女子高生たちとは違う、その意味では社会なり常識といった確固たる<大人>を表している。それは 同時に少女たちの不安な足場という恐怖の対置として登場させているかのよう。
また女子高生の兄や思いを寄せる男子高校生が登場するが、彼女たちの純真さに たじろぐ様子、そこにも言葉では言い表せない<女子高生ならではの心>が垣間見えてくる。語彙力がない悲しさ、ぜひ劇場で…。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 【team Ⅼ】10.21追記
ちょんまげ手まり歌
劇団演奏舞台
演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)
2023/10/13 (金) ~ 2023/10/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
観た回は満席、小さい会場に鳴り響く万雷の拍手が、公演の素晴らしさを表している。
劇団創立50周年記念Ⅲ、それを旗揚げ公演「ちょんまげ手まり歌」の5回目の再演で締めくくる。時代劇でありながら現代に通じる人間の愚かさを痛烈に批判した物語。原作は上野瞭 氏の童話で、小見出しがついた いくつかの話(章)で構成されていた と記憶している。
少しネタバレするが、冒頭の歌は、童話の始めに書かれている文で、その歌詞が物語のすべてを語っている。人は<考え>だすと迷い 疑いだす。言われたまま実行していればよい。いたずらに色々なことを知ることは、視野が広がるが それだけ苦悩することも…。
やさしい殿様がいる藩…閉鎖された(封建)時代と情報過多により真偽が見定めにくい現代、時代を越えて、或る<こわさ>を描き出した秀作。その怖さこそが 物語の肝。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 追記予定
ずれ
m sel.プロデュース
シアターシャイン(東京都)
2023/10/12 (木) ~ 2023/10/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
東京のはずれ街にあるシェアハウスが舞台。そこで様々な事情を持った者の過去と現在を交錯させ、色々な<思い>を描いた群像劇。或る日、シェアハウスに1人の女が戻っ(現れ)たことによって不協和が…。その女の目的というか存在が肝で、それによって話の捉え方、解釈が違ってくるようだ。まさしく観る者にとっては感覚的な<ずれ>を思わせる内容だ。
繊細な演技で愁いを表し、口遊む歌(故郷<ふるさと>)と相まって郷愁ー抒情的な紡ぎ方をしているかと思えば、嫉妬や嫌味といった激情的な描きという メリハリある観せ方。登場人物の性格や思い、そして今の状況が炙り出されるような展開…ここで先に記した女の関りをどう捉えるか、なかなか手強い公演だ。
当初、シェアハウスの家族と共同生活をする人々、その二組の話を交差させた展開かと思っていたが、いつの間にか交錯し不気味な様相を呈していく。その意味ではミステリーといった雰囲気をもつ不思議な公演。出来れば人物相関図がほしいところだが、それを示すとネタバレしそうで難しいのかも。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定
Strangerーよそ者ー
劇団 Rainbow Jam
シアター711(東京都)
2023/10/11 (水) ~ 2023/10/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
フランチャイズ契約スーパー・サンエー府中東店のバックヤードが舞台。説明にもあるが、コロナ禍、そして近くに大型商業施設がオープンしたことで経営は危機的状況。何とか乗り越えようと店長の息子とパート達が奮闘するが…。正社員ではなくパートという立場が妙。
公演では、コロナ禍やパワハラによって既にあった問題、すなわち経済格差(貧困)や労働問題などを揶揄する。パート(非正規雇用)が職を失ったりセクハラを糾弾した社員を経営不振の店に送り込んで といった理不尽さ。社会的弱者に対する社会の歪を面白可笑しく皮肉る。けっして挫けない、そして明るく元気に明日を迎えようとする、そんな勇気がもらえる好公演。
危機的状況を打開しようと皆で知恵を絞る。今まで言われたまま仕事をしており、<全力>で何かをしたことがない。色々な事情や葛藤を抱えたパート達、そんな彼女達が一致団結して困難に立ち向かう。その意味では登場人物の成長譚とも言える。それをミュージカル風に歌や踊りを盛り込み、現代社会の再生エンターテイメントとして観(魅)せる。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし) 【J】
或る夜の
劇団芝居屋かいとうらんま
OFF OFFシアター(東京都)
2023/10/06 (金) ~ 2023/10/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
説明や当日パンフにも記されているが、地下鉄の最終電車を待つホームでの不思議な出来事。地上からは見えない地下鉄のホームに閉じ込められた人々の、その外見から伺えない心の「ひっかかり」が交差するシュールな物語。役者陣は、見えない心を上手く体(表)現する好演。
謎の男が一人ひとりの心に語り掛ける。人生の歩みや目標に疑問や迷いを抱き、前に進めない人々へ 厳しくそして優しく寄り添うような描き方。閉じ込められた地下鉄ホームという密室(空間)状態、そして終電から翌朝の始発迄という数時間に紡がれる濃密な会話。と いうか心内の彷徨といった内容だ。
登場人物(職業)の設定が妙。一人ひとりの心情吐露がリアルで 共感してしまう。地上から見えない地下鉄、それに準えて 外見から何を思い考えているか解らない人間の本心を炙り出す。当日パンフに敢えて 回収しない伏線もあると。すべて答え合わせをするような舞台ではなく、「楽しく思考を巡らして」ほしいとある。そう言えば、物語でも その時々で自分で考え選択をしてきている、といった旨の台詞があったなぁ。
(上演時間1時間20分 途中休憩なし) 10.9追記
とのまわり
山田ジャパン
シアター・アルファ東京(東京都)
2023/10/04 (水) ~ 2023/10/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
余命宣告された女と男、残された時間をどのように過ごすか といった重厚テーマ。しかし 観せ方は軽妙で笑わせながら考えさせる。公演は、死と どう向き合うかといった普遍的なことを取り上げており、それを当事者だけではなく周りの人々ーー家族や病院関係者(医師・看護師・患者同士)の目も通して描く。人は誰も一人で生きているわけではない、そんな思いが込められたタイトル「(~)とのまわり」であろうか。
余命宣告されたことで家を出る決心をした女 菊池加奈子、どうして幸せな家庭を捨てて姿を消そうとしたのか。男 守屋栄一も離婚し1人になって…余命宣告された者同士の思いは共通し、幸せだったがゆえに苦悩する。その理由が物語の肝。
終末医療、緩和ケアという内容は観応えあるが、それを巧みな舞台技術で支え印象付ける。勿論 余韻も残す。死という悲しみよりは、残り少ない人生(時間)をどう納得いくように過ごすか、といった前向きな描き方だ。テーマの重たさに反して、演出も演技も明るくカラッとしている。気が滅入ることなく、人間観察として観ることが出来る。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 10.9追記
A.R.P festival ~2023~
A.R.P
小劇場B1(東京都)
2023/09/29 (金) ~ 2023/10/02 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めて「A.R.P festival」を観たが 面白可笑しく笑った。コメディのオムニバス6作品で 全て喫茶店が舞台になっている。ちなみにテーマは「ノーメッセージ」で、ただただ楽しんでほしいと。
舞台セットもシンプルで、カウンターと丸テーブル・椅子のセットが2組あるだけ。カウンターの配置や テーブルに座るキャストが変わるだけで、物語がガラリと違って観える。この劇場、いつもはL字型の座席であるが、本作では一方向から観るため キャストの動きや表情を見逃すことなく楽しめる。実に表情が豊かで、時々 台本なのかアドリブなのか判らないような動作や台詞があり、笑わせ愉しませることに徹した作品群。まさに festivalである。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし) 【team B】
「HATTORI半蔵‐零‐」
SPIRAL CHARIOTS
シアターサンモール(東京都)
2023/09/27 (水) ~ 2023/10/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
㊗20周年記念公演、物語は勿論面白いが、何といっても 見どころは殺陣・アクションのスピードと迫力。そして その緊張感を支える音響と照明、特にプロジェクションマッピングの効果的な使い方は見事。少しネタバレするが、物語に登場する忍者は〈赤目の里〉という集落で育った仲間。その仲間がアズチモモヤマ時代に群雄割拠した将ー織田・徳川・伊達・毛利・上杉・武田に夫々仕え、相見えるという。後景に里の風景を映すが、昼間は長閑な茅葺屋根の家々、夜は家の灯が美しい、そんな安らぎが感じられる。それが戦場ともなれば、一転 忍術を駆使する戦いが…。戦争と平和ならぬ蹂躙と情愛が交差する戦国絵巻といった壮大な物語。
説明にある「赤目の里で育った【忌み子】『伴左衛門(サエモン)』と、零代『ハットリ半蔵葛(カズラ)』 2人も其々大名に召し仕えられる。 「天下泰平」徳川イエヤスに仕えるカズラ。 そして「非道鬼人」織田ノブナガに仕えるサエモン」、その表裏の奥に隠された〈思い〉と〈思惑〉が肝。
公演は、途中休憩(10分)を挟み2時間45分を怒濤のように駆け抜ける といった展開である。緊張したシーンだけではなく、時々 笑いや遊び心あるシーンを挿入し、息抜きをさせるよう。そんな心遣いもあり飽きることなく観ることが出来る。また衣裳や得物といった観(魅)せ方にも工夫があり楽しませる。見た目の面白さだけではなく、登場人物のキャラクターを立ち上げ、人間いや忍者の<業>のようなものを描く。ちなみに 人間であるまえに忍者だ、という台詞に<業>の深さと哀しさが隠されており、ここも見どころの1つ。
(上演時間2時間45分 途中休憩10分) 【Bチーム】 10.9追記
雨の終わりかけに怒鳴りたて
劇団東京座
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2023/09/28 (木) ~ 2023/10/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
舞台美術とおどろおどろしい雰囲気といった見た目は良かった。しかし、物語の構成が 有名なそして話題作となった邦画の組み合わせのようで、新鮮味が感じられなかったのが憾み。
少しネタバレするが、物語の枠組みとラストの高笑いしながら金を渡すシーンは TV・映画の話題作、話の中心になる女郎屋の遊女と若侍の件は、某映画賞受賞(江戸・深川の岡場所が舞台)した 夫々の映画を組み合わせて紡いでいるといった印象だ。それを傀儡子といった妖しげな要素を取り入れて観せる。
音響や照明といった舞台技術で観(魅)せている。また衣裳は勿論、舞台美術が時代や状況をうまく醸し出し、見た目の妖しさで物語の世界へ誘う。演出は巧く、また遊女----女の情念、人間の業を描き 掘り下げようとしているだけに、既視感ある脚本が惜しい。
第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。⇒★3つ
(上演時間2時間30分 途中休憩なし)
Letter2023
FREE(S)
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)
2023/09/28 (木) ~ 2023/09/30 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
内容的には反戦物語であるが、<感情>を揺さぶるというよりは当時(昭和)の若者と現代(令和)からタイムスリップした若者の心情と状況の違いを<情報>として描いた、といった印象だ。何度も再演しており、戦争という最悪の不条理を語り継ぎ 忘れさせないといった思いは伝わる。
説明にある「太平洋戦争時代末期、特攻で散った青年たちの実際の手記をもとに描くヒューマンドラマ」といった謳い文句であるが、現代からタイムスリップした青年がいつの間にか同調圧力のように当時(特攻隊員たち)の風潮に流されていく怖さ。今から考えればバカげたことだが、その時代に生きていれば<抗う>ことの困難さも…。1945年から2023年へ届いた一通の手紙に込められた<思い>、その真が十分に伝えきれていないため、印象と余韻が弱くなったのが憾み。
戦時中と現代の違いは、タイムスリップした当初こそ感じられたが、だんだんと現代と変わらない暮らしぶりーー食事や酒などの配給不足が感じられず、表面的な衣裳等で判らせる。また特攻隊員が不自由なく家族等と会える。当時を知らないが、そのような自由な空気があったのだろうか。
特攻隊員と現代青年の意識がいつの間にか同化している。それゆえ 戦時と今の心情が同じになり、肝になる<実際の手記>の伝えたい事が鮮明にならない。もう少し状況と心情の違いを際立たせることによって、戦争と平和という世界観を描き出してほしいところ。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 追記予定
最悪の場合は
トツゲキ倶楽部
「劇」小劇場(東京都)
2023/09/27 (水) ~ 2023/10/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
タイトル「最悪の場合は」は、説明の世間と宇宙、本音と建前、不正と隠蔽、そして希望と現実を表している。そして前作「星の果てまで7人で」と繋がるような物語。少しネタバレするが、日本宇宙開発機構-JSA(ジェイサ)が舞台というのが妙。表層の面白さ、その奥には職場愛と人間愛が詰まった人間関係・仕事群像活劇、観応え十分。
そこで起きたであろう不祥事にどう対処するか。初演(2018年)時は日大アメフト部が不祥事を起こしていたが、再び日大アメフト部が不祥事を起こした時期に再演する偶然。またジャニーズ事務所の性加害問題を始め不祥事に係る記者会見が開かれている。なんとタイムリーな内容(公演)であろうか。公演では、宇宙という夢と希望を担う職場における悪夢と現実(最悪)を上手く繋ぎ、勤め人(組織人)の共感を誘う。立ち位置の違いによって不祥事への対処方針が異なる、その濃密な激論が見どころの1つであろう。
前作が宇宙での出来事(地球への思い)を描いているとすれば、本作は地球(地上)において宇宙への思いを馳せる。しかし現実に目を向ければ危機回避に追われる姿。そこには不祥事をどのように収拾するかといったドタバタの裏に 生活という のっぴきならない事情を垣間見せる凄(惨)さ。
会見をする組織の内幕だけではなく、それを報道する機関の在り方にも 一石を投じる幅広さ。冒頭、社外から招聘したリスクマネージメント・コンサルタントが謝罪会見の目的などの蘊蓄を語るが、実際 謝罪会見を行うのは人であるから思惑通りにならない可笑しみが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)
AIRSWIMMING -エアスイミング-
WItching Banquet
アトリエ第Q藝術(東京都)
2023/09/26 (火) ~ 2023/09/27 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、少し観念的で理解、解釈が難しい面もあるが…。
1920年代から70年代迄の約50年間、精神病院に収容された女性2人の不撓不屈の物語。
説明では、上流階級育ちのペルセポネー・ベイカーは、妻帯者の男性と恋に落ち 妊娠して婚外子を産み、父親に精神病院に入れられてしまう。そして社会の性規範に囚われず、「女らしい」ふるまいをしないことを理由に2年前に収容されたドーラ・キットソンに出会う。この2人が 空想・想像力を交え、励まし合い、笑わせ合いながら 権力の象徴とも言える精神病院内で紡ぐ会話劇。
精神異常者として身体の管理と拘束をする、その理不尽な対象を女性に絞って描いている。それは外国(イギリス)の しかも過去のことではなく、現代日本に通じる問題・課題でもあろう。それが「100年後の今… 私たちは彼女たちの声が聞こえているのか?」という問いかけに繋がる。
当時における触法精神障碍者の実話を基に、現代を生きる女性の「痛み」「苦しみ」「患う」の声をすくい上げるアウトリーチの公演になっている。それゆえ 理不尽・不平等が生じている状況を打開、端的に言えば ジェンダー格差による不利益の克服といった意も込められている。しかし、無条件(表面)に受け止めることが出来ない難しさがある。
同年代、フーコーの「監獄の誕生─監視と処罰」といった 権力を主題にした学術的な書もある。しかし、本作は 実話を基に しかも女性に対象を絞っているため、一層 問題を具体的に捉えることが出来る。ただし、演劇的には ベイカーやキットソンが精神病院に収監された事情・理由は後から描かれるため、その背景を知らないと理解が追い付かないかも…。それでも 2人の女性が励まし助け合いながら<生きようとする>その姿に心魂が揺さぶられる。公演は 主にリーディング、そして 彼女たちの思いを 色々な工夫を凝らした演出…歌やピアノ演奏等で観(魅)せ印象付ける。
閉じられた世界の2人を キャスト5人が組み合わせや役柄を入れ替えて語る。そうすることで状況の変化や時間の経過を表す。その演劇的手法を すんなりと受け入れて楽しめるか否かによって評価が異なるかも知れない。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし) 9.29追記
しあわせ色の青い空
7どろっぷす
小劇場 てあとるらぽう(東京都)
2023/09/21 (木) ~ 2023/09/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
前作は「ムッちゃんの詩」という演目だったようだが、未見。本作は「しあわせ色の青い空」~東日本大震災とムッちゃんに捧ぐ~となっており、生きる希望が見いだせない被災者 優香がタイムスリップして 戦時中のムッちゃんの懸命に生きようとする姿を見て 再生・再起していくというヒューマンドラマ。
テーマは「生きる」。”当たり前”のように生きている、その大切さ重要さを語り継ぐような物語。多くの小学生が観劇していたが、集中して観るには1時間45分の上演時間は長かったようで、真意が伝わったかどうか。
戦争と大震災という悲しみを繋いで、それでも人は生きていくという<希望>を綴っているが、少し無理があるような。
人は慣れてしまう。どんなに悲しく惨い経験も 生きていくうちに感情がマヒしていく。そして記憶さえも薄れていく怖さ。戦後78年、戦争を知らない世代に 最悪の不条理を語り継ぐことの大切さ、その意味で このような公演を続ける意義がある。ただ、戦争と震災を同一視点で見ることは出来ない。
そして優香の前に現れた<海の精>によって被災者の心は救われるが、一方 「ムッちゃんの詩」はどのようなラストだったのだろうか。この公演は 描き切ったようで 観客に問い掛け 考えさせていない。勿論、当時 小学6年生のムッちゃんと小学1年生の町子ちゃんの悲しい出来事は分かる。しかし、戦争と災害という異質とも言える物語を繋ぐことによって「反戦」と「再生」という訴えが中途半端になったようで残念。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 【B班】 9.28追記
天召し -テンメシ-
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2023/09/21 (木) ~ 2023/09/24 (日)公演終了
実演鑑賞
面白い、お薦め。
当日パンフにも記されているが、「天召し」は三回目の上演で 全てを観させてもらった。「将棋」の孤独で厳しい世界観、一方 井保三兎氏が演じる田島(棋士 森信雄)の仄々と和ませる雰囲気が重苦しく感じさせない。その絶妙なバランス感覚が良い。そして この作品にはモデルが沢山いると。賭け将棋で生計を立てた池田(新宿の殺し屋・プロ殺しなどの異名がある小池重明)、智(棋士 村山聖 追贈九段)を義理の親子として繋ぎドラマ化する。池田の破天荒・破滅型の生活、智のネフローゼ症候群に悩まされながらも、直向きにプロ棋士を目指すという二人の男の生き様ー将棋という勝負(真剣)に魅入らされた人生劇場。
モデルになった人たちはネット情報にあり、その人物像を彷彿させるような描き方だが、それらの人物をいかに関係付けて舞台化するか。自分の記憶では、この作品は「将棋シリーズ」の第1作で、以降数々の将棋を題材にした秀作を上演している。上演前から孤独で厳しい世界であることを強調したような雰囲気が漂う。他の将棋を題材にした作品は、上演前には将棋初心者向けの大盤解説をしていたが…。シリーズ第1作には色々な思いや要素が込められており 特別なのかもしれない。
時代や状況の変化は、小説家 木下(団 鬼六)がナレーションのように説明するが、それでも明確にならない。物語として時代(時間)の流れを大切にしているようだが、違和感なく展開出来ていれば木下の状況説明は省略しても良いような。
そして智だけではなく 他の弟子育成、さらに女性にも将棋を指導(女流棋士に)する田島の姿。また台詞にもあったが、将来コンピューターによって絶対負けないプログラム将棋云々、を通して時代を超越した現代性をも垣間見せる。
第35回池袋演劇祭参加作品(★評価は演劇祭授賞式後)。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定