受付/六月の電話 公演情報 演劇ユニット茶話会「受付/六月の電話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。
    別役実の2作品、発表された年が違うにも関わらず 関連しているような印象を受ける。作品の選択とそう思わせる演出(宮田清香サン)が妙。「受付」(1980年)と「六月の電話」(1995年)では15年の間隔があるが、それぞれの時代背景を感じさせる。別役作品は、日常生活の中に人間の寂寥や空虚といった表現し難い思いを さり気なく描くといった印象だ。しかし 本公演、前者は不条理喜劇で、後者は不条理ミステリーといった違う作風が面白い。それでもリアリズムといった共通点は見い出せる。

    別役作品の象徴的ともいえる小道具ー電信柱、本作ではこれをポールハンガーに置き換えて印象的/効果的に使っている。また電話だけで姿を現さない人物、それによって今いる空間だけではなく外の世界ー世相と繋がっていることを表す。そして2作品が繋がっているような錯覚、そこに演出の巧さを感じる。もちろん役者陣の演技は確かで見応えがあった。
    (上演時間1時間50分 途中ブレイクタイム2分ほど) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、上手に衝立、その横にテーブルや置台。テーブルの上には黒電話。下手にベンチ、その後ろにポールハンガー。「受付」の時は山高帽、「六月の電話」の時はウエディングドレスが掛かっている。両作品とも 始まり方や終わり方は暗転ではなく、客電にしており、さぁ舞台が始まるぞ といった合図(気負い)はなく、さり気なく日常が描かれていく。

    ●「受付」男:森岡正次郎サン、女:田口朋佳サン
    精神科の受付にきた男は、先生に相談があると…。受付の女から取次の前に 様々な質問を受ける。男は本来の用件を後回しにされ、女の話に引きずり込まれてしまう。女は男に対して、募金、アイバンク登録、献体への同意など 次々と要求してくる。その都度 女はこれら団体の受付へ電話をかける。男はこれらの要求を理不尽だと思いながら、抗うことが出来ず 受け入れてしまう。人間の意思(決定)の曖昧さ、理屈では説明が難しい人の心理を可笑しみを交えつつ鋭く描く。

    「受付」では、何故ここに来たのか、そのうえで住所/氏名を訊かれたりする。「受付」は、その人の概略を知るため質問し、訪問者は「受付」の求めるモノを自ら曝け出す。そうして初めて「受け付けられる」。もちろん強制ではない。(劇中の女もそう言う)。しかしルールは守り、話は最後まで聞き、尋ねられたことには正直に答える──そうした当たり前が、自らを縛り不自由にしている。そこに男の「相談」そのものが浮かび上がる。会計事務所に勤め、仕事も人間関係にも気をつかう といった逃げ場のない精神状態。女の不条理な勧誘と男の優柔不断さがしっかり立ち上がる面白さ。

    ●「六月の電話」女:大橋繭子サン、男:大森崚矢サン
    或る雨の昼時、雑居(寿)ビルの4階7号室。女は近くのコンビニで昼食を買い 戻ってきたところ。誰もいない部屋、習慣で「ただいま」と独り言。女は そこで電話の取次業をしている。毎日決まった時間に食事をして寝る といった変哲もない生活をしている。その日常を壊すかのようにアリバイ屋を名乗る男が現れる。或る人の依頼で13時から17時迄ここに居て、ここにいたすべての人のアリバイを証明する という。その間、何度も電話が鳴り、女が「今日は多いわね」と呟く。これが「受付」のシーンと繋がっているような。また頻繁に喫煙シーンがあるが、煙はたちどころに消えてしまう。まさに人生は泡沫で無常。

    アリバイ屋とは何なのか、男は誰のアリバイを証明しようとしているのか。二人のかみ合わない会話から女の過去が次第に明らかになっていく。男と女の会話や行動から、女は潔癖であり癇癖といった性癖のよう。その融通の利かなさが、別れた男をひたすら待っている。結婚式当日、彼は来なかった。彼は過激派の内ゲバ騒動で…。それから20年経っている。アリバイ屋がいた僅かな時間、それが女の長い空白の時を埋めるかのよう。女(自分)の不在証明(この間の無為な日々)ならぬ、今を生きている存在証明(認識)になったようだ。少し気になったのは、女 役が大橋さんでは若すぎるのではないか ということ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/09/19 17:57

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