ラ・バヤデール
新国立劇場バレエ団
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2024/04/27 (土) ~ 2024/05/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
現在上演中の新国立劇場バレエ団の『ラ・バヤデール』4公演目を観た。
主要な配役の内重要な4役を挙げると、ニキヤを柴山紗帆、ソロルを速水渉悟、ガムザッティを木村優里、大僧正を中島駿野が演じていたが、個人的には久しぶりに観る木村優里のファンである。
バヤデールというのは寺院の舞姫を意味し、主役はそのバヤデールの中でも美貌の持ち主・ニキヤ。このニキヤに恋した高潔の戦士ソロルの悲劇を描いたのがこの作品で、悲劇を作り出したのはニキヤに横恋慕する大僧正とソロを愛するガムザッティの愛憎劇。結局、ガムザッティの侍女の渡した花かごから現れた毒蛇によってニキヤや絶命し、ニキヤへの愛を貫こうとしたソロルは大寺院崩壊の下敷きになって絶命する。いや、元々は絶命するものの、2人は天上で結ばれるというのがこの作品の原作で4幕ものであったのを、初演後に近年一時4幕目をカットして上演していたものを、4幕目の内容を3幕内に取り込んで上演するようになっていたのだ。ただ、新国立劇場で採用している牧阿佐美版は天上で2人が結ばれるというハッピーエンドで終わらせず、ソロルは寺院崩壊で死に、ニキヤは天上へ向かうという演出となっている。『白鳥の湖』の結末のように、ハッピーエンドで終わらせていないのが、観客に訴えかける何かがある。
そう言えば、この作品は『白鳥の湖』と並んで「ホワイトバレエ」の代表作の1つに数えられているそうだが、3幕冒頭のコール・ド・バレエのシーンでアラベスクを繰り返してジグザグに山をおりてくるところがホワイトの印象が強かったが、その他の場面ではむしろエキゾチックな場面が多いように思われた。
音楽はミンスク作曲。バレエのファンで無くてはミンスクという作曲家の名前を知る者はおそらく多くはおるまい。チャイコフスキーほど洗練されてはいないが、ダンサーにとっては踊りやすい音楽だろう。
さて、ソロル役の速水はこの役でのデビューとの事だったが、無難に乗り切った感じ。ニキヤとガムザッティに対する対応に、もう少し差があっても良いのでは無かったろうか。
柴山は、まぁ無難なところ。ソロルに対する表情が豊かであってほしかった気はする。
ガムザッティの木村、こう言う気の強い女性もしっかり踊れるのには感心した。こうなると、小野や米沢のニキヤを観てみたくなった。
空ヲ喰ラウ
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
12月3日午後、東京は墨田区にあるすみだパークシアター倉で上演された劇団桟敷童子新作公演『空ヲ喰ラウ』を観てきた。これは、知人の役者・もりちえが出演していた関係からである。
客席について目に付いたのが、丸太を組んで作り上げられた舞台装置。バックステージツアーの組まれた日もあるので、この舞台装置、いつものようにラストシーンで大転換をするであろう事が予想された。出演する役者は、劇団員15人に客演4人という桟敷童子としては大人数ではないだろうか。
今回、脚本のサジキドウジは話の骨格に空師という職業を据えた。当初自分はこの空師というものはサジキドウジが舞台のために作り上げた架空の職業と思ったのだが、開演前スマホで検索すると、この空師というのは実在の職業である事を知ってビックリ。ん~、ただ、舞台を観ていて空師達の発する「来々」(らいらい)や「ご安全に」というフレーズは過去の作品でも結構聞かされていたなぁという印象。何か新しいフレーズもあってほしかった。
さて、話はとある山村。この山々の木々を管理しているのが、中村組と梁瀬組という空師の組織というか会社。かつては中村組が幅をきかせていたのだったが、今は頭領が脚を痛めて妻にその座を譲り、梁瀬組が大きくのし上がってきている。過去の歴史もあり、梁瀬組も一応中村組の顔を立てているが、なにせ中村組は女性ばかり。まして、中村組の空師の一人・織本千尋は心臓に持病を抱え、空師の厳しい仕事を続けて行くには不安があった。そんな山地に紛れ込んできたのが、町で問題を起こし逃げてきた彦島春一。偶然中村組の人間に発見され、空師の仕事に向いている事が分かり千尋の元で空師の仕事を学び始める。そこに横やりを入れてきたのが中村組の元頭領、現頭領・中村歩生の夫で脚を痛めた中村成清。町で起こした事件を空師達に暴露すると春一を脅し鐘をせびるようになり、それがエスカレートして春一は死を覚悟して山に消える。中村組や梁瀬組の山師達が春一を探すが見つからず、どうやら春一は山で命を絶ったらしいことが知られる。
その後、中村組は梁瀬組の傘下となり、空師達は今日も仕事に死を出す。
劇のクライマックスは春一が死を覚悟をして山に入り、それを皆が探すシーン。舞台装置が左右に展開し、巨木が現れる場面であろう。
舞台を観ている瞬間は感動と衝撃を受けるのであるが、よくよく考えてみると春一の犯した町での罪は死を覚悟するほどのことだったのかという疑問。春一を死に向かわせる動機がやや弱かったのではなかろうか。
その春一を演じた吉田知生の演技が素晴らしかった。それに、中村組頭領役の板垣桃子、織本千尋役のもりちえと、中村組を演じた役者達の熱演が目立った。客演陣も頑張ったけれど、今回はこの3人に良いところを全て持って行かれたという感じ。
次回は来年の新作。楽しみにしている。
空ヲ喰ラウ
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
今日観た劇団桟敷童子公演、よかったですよ。2時間あまりの舞台。丁寧な感想を書くとネタバレにも繋がるので、詳しい感想は千穐楽後。一言書き添えるなら、役者の中で、吉田知生、板垣桃子、もりちえの3人の熱演が光ったとだけ記しておこう。
老いた蛙は海を目指す
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
12月27午後、東京は墨田区のすみだパークシアター倉で上演された劇団桟敷童子『老いた蛙は海を目指す』の千穐楽を観に行った。これは、知り合いの役者もりちえが出演していた関係からである。今回の公演では、劇団員で常に重要な役をこなしている原口健太郎と大手忍が外部団体出演のためこの公演には参加していなかったため、その欠けた分をどう盛り返していくか心配なところだったが、どうして重量感あふれる素晴らしい舞台であった。
いつもなら粗筋を書くことで感想の一部にさせてもらっているが、今回は粗筋がやや込み入っているので省略させてもらい、役者の演技についてのみ書かせもらおう。
今回の舞台での最大の功労者は、その存在感で他の役者を圧倒した青木勝の存在であろう。さすが他の劇団を主宰しているだけあって、演技の深みが凄かった。それに負けず劣らず存在感を発揮したのが、藤吉久美子、鈴木めぐみ、佐藤誓、三村晃弘、そして板垣桃子であった。全編を青木が支配するかと思えた舞台の後半から存在感を増し、ラストシーンを締めくくった板垣の演技も青木に勝るものであった。全体的に出演者が多かったのだはあるが、おのおの特長を生かした役柄をこなしていたのはさすがである。
もりちえは何度目かの夫婦共演であったが、それぞれ 熱烈に役をこなしていて観ていて爽快であった。いや、この作品で爽快感を感じるのはちょっと違うのかも知れない。絶望の中の小さな光。それを誰が掴むことが出来るのか。結局は誰も掴めないのではないか。そんな絶望感に光があるとすれば、それは死というものなのかもしれない。
これななかなか根深いテーマであると思う。
次回はもう少しスッキリした気分の味わえる作品を観てみたい。次回公演『海の木馬』が楽しみである。
ドアー
ONE AND ONLY
ステージカフェ下北沢亭(東京都)
2022/11/17 (木) ~ 2022/11/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
11月20日午後、下北沢のステージカフェ下北沢亭で上演されたOAOの朗読ライブ『ドアー』を観てきた。これは、この作品の脚本が知人の加藤英雄が手がけたものであることと、このONOという団体がお気に入りだからである。
この作品は、加藤英雄の脚本の中で一番難解なものではないかと思う。
あらすじは、演劇情報サイト「コリッチ」掲載のものを参照して頂きたい。
いやぁ、この作品はこれまでも舞台形式で観てテーマが難解だなぁ、演出がむずかしそうだなぁと思っていたもの。それを朗読ライブという形で果敢に挑戦したONOにまず拍手を送りたい。
この作品の要となるのは、ドアーの門番である。誰も入れてはいけない。しかも自分もドアーの向こうがどうなっているのか分からない。そんな難解な役を担当したのが川崎卓也。彼がとても良い味を出していたのがこの舞台の成功の鍵かも知れない。そのほかでは、小松崎めぐみの歌唱、松木里江や上野梨佳子、それに山崎はん菜の演技が光っていた。登場人物を若干整理して、もう少し少人数で演じると、また違った味わいが出る作品のように思う。
次回のOAOの朗読ライブも期待したい。
まなつぼし
東京ノ温度
サンモールスタジオ(東京都)
2022/10/19 (水) ~ 2022/10/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
10月23日午後、新宿のサンモールスタジオで上演された東京ノ温度第十八回公演『まなつぼし』のうち「なつ」ぐみの千穐楽を観てきた。これは、知人の役者・水野以津美が出演してた関係からである。
この作品は5年ほど前に初演された作品で、その時水野以津美は主役の板東優子役だったそうだが、その公演を自分は観ていない。今回はその再演で、全役ダブルキャストでの上演と言うことで、水野以津美は今回豪華寝台列車「まなつぼし」のコンセルジュ鈴木くれあを演じていた。
舞台は、板東優子が乗った「まなつぼし」がどう言うわけか地球を離れ天空を走行し、自分の妹や高校の同級生をはじめとした死者達と一緒に星座間の旅をするというもの。しかし、その死者達はサザンクロス駅でみんな下車していく。というか、下車することで板東優子はその人達が実は現実には死んでいるということを理解する。やがて「まなつぼし」は何事も無かったように地上に戻ってくる。列車の車掌もコンセルジュも天空を走行していた記憶を持ち合わせていなかった。まるで板東優子だけが夢の中で体験したような出来事だった。
この舞台、何と言っても板東優子役が最も重要な役どころで、「なつ」ぐみでは辻美優が熱演。個人的に存在感を感じた役者は彩雪かも知れない。
コンセルジュ鈴木くれあを演じた水野以津美、さすがに2回目の出演だけ合ってしっかりとした演技団亜用に思う。
黒田和宏の演じるただしと井上涼賀の演じるカオルのカップルは、昭和20年頃の雰囲気を上手く醸し出していた。
そのほかの出演者もなかなかの熱演。
ちなみに、この作品の題材は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だそうだ。
バリカンとダイヤ
劇団道学先生
ザ・ポケット(東京都)
2022/10/15 (土) ~ 2022/10/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
10月18日午後、中野のザ・ポケットで上演された劇団道学先生旗揚げ二十五周年記念公演公演『バリカンとダイヤ』を観てきた。これは、知人の役者もりちぇが出演していた関係からである。劇団道学先生の公演を観るのは今回で2回目、中島淳彦の作品を観るのは初めて、フライヤーによると、出演者の中に他の公演で観て実力のある役者だなぁと感じていた関根麻帆、かんのひとみもいて、大変な期待を持って出かけたのであるが、その期待に十分応える充実した舞台であった。
登場するのは10人の女性達。その中心となる主人公は、夫を亡くして間もない石田智恵子(かんのひとみ)である。その智恵子の元を頻繁に訪れて世話を焼くと共に、智恵子の今後の生活のことを心配する3人の娘達。彼女たちも長女智子(もりちえ)は離婚直後で娘の智美(輝蕗)を抱えて別れた夫と新しい恋人の間で揺れ動いており、会社経営の次女恵子(関根麻帆)は会社の経営が上手くいかず豪勢なマンションに引っ越したと嘘を言い実は安アパート暮らしで亡くなった父親から多額の援助を受けていた。その援助金が後にちょっとした騒動の元にもなっている。そして三女の潤子(山崎薫)は演劇関係の男性とマンションで同棲しているが、その男性が亡くなった父親と年齢的に近いという周りから観ると交際を素直に喜んでもらえない状態にあった。更に、夫の死後がなくこれ幸いと嫁ぎ先の九州から妹の智恵子の元に転がり込んできた姉の多恵子(村中玲子)。こうした身内のドタバタに加えて、夫がアメリカ人のご近所の友人フジ子(柿丸美智恵)や彼女が連れてきた化粧品のセールスウーマン島原レイ(佐々木明子)、新興宗教の信者勧誘担当者江木俊子(高橋星音)に加え、智恵子の夫が通っていたマッサージ店のマッサージ師林文琴(横田美優)といった面々が登場。
舞台中央に智恵子の住まいの台所とベランダ、下手に智子の家のベランダと、恵子の住む安アパート、上手には潤子が男性と同棲している一軒家が配置されていた。
タイトルにあるバリカンは、智恵子が夫の頭を刈るときに使っていたもの、ダイヤは夫からの唯一高価なプレゼント。退職金やら葬儀の経費やらから始まった智恵子に残された現金と自宅の遺産相続を巡るゴタゴタが一段落した最後に、夫の遺書のような手紙と智恵子だけに残すと高額の通帳がバリカンを入れてあった箱の底から見つかったときの「いやっほう」という一声が、この舞台の締めくくりにピッタリだったのが印象的だった。
役者達は皆演技達者で見応えのある人物像を演じっ切っていたのはさすが。キャスティングの上手さを誉めるべきなのだろう。道学先生という劇団からも目が離せなくなってしまった。
青ひげ公の城
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2022/09/08 (木) ~ 2022/09/19 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
9月13日午後、東京・下北沢のザ・スズナリで上演されたProject Nyx(以後、ニクスと称す) 第24回公演、寺山修司『青ひげ公の城』を観に行った。これは、知人のマルチ・パーフォーマー若林美保が出演していた関係からである。
この『青ひげ公の城』という作品は、シャルル・ペロー原作、バラーシュ・ベーラ台本によるバルトークのオペラとして有名な作品であるが、寺山はこのペローの原作を元に新たに脚本として書き下ろしたのがこの作品で、寺山演劇の集大成のような性格を持ったものである。新劇の劇団で上演される機会も多々あり、自分は数年前に非シス人という劇団が上演した際に観ているので今回が2回目。前回も、今回同様に若林美保が出演しているので出かけた次第であった。
さて、有名な作品であるので改めて粗筋を書くのは止めておこう。
見所は、ニクス率いる水嶋カンナがどんな実力派あるいは異彩を放つ役者を集めてきたか、そして演出の金がどんな大胆な演出を見せてくれるかという点であった。
舞台全体を通しての流れを作る役目を担っていたのが、公の7人目の妻候補ユディット。演じたのは、「大人の麦茶」所属の今川宇宙。彼女のことは以前別の舞台で観て注目していた役者だった。今回ニクスという舞台でその魅力が十分発揮されたのでは無いかと思う。そのほかでは、第2の妻役ののぐち和美の存在感、第3の妻の浜田えり子の歌唱、エアリアルパーフォーマンスで魅せた第4の妻の若林美保など、どの妻達も独特も持ち味でその舞台空間を支配していた。そして、その個々の舞台空間の狭間を繋いでいたのが渋谷駿のマジックと、黒色すみれの音楽。毎回未知の役者の中からこれはという人物を見つけるのが楽しみな自分に取って、今回はコブラ役の一人を演じた染谷知里の名前を挙げておこう。そういえば、黒色すみれというデュオの存在を初めて知ったのもニクスの公演だった。新宿梁山泊とニクスは、魅力ある出演者の宝庫であるように思う次第である。
迷想タクシー、行き先はどっちだ?
ONE AND ONLY
cafe&bar 木星劇場(東京都)
2022/07/29 (金) ~ 2022/07/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
朗読ライブを中心に活動をしている、お気に入りの劇団ONE AND ONLYの24回公演『迷想タクシー、行き先はどっちだ?』の千穐楽を観てきた。劇場は、池袋の木星劇場。
タクシー運転手のシンジは、出産間近の妻アヤカと2人暮らし。そんなシンジが仕事中に衝突事故。本当は死んでいるのに、シンジ本人は事故は駐車中に見た夢だと思い仕事に復帰。ところが、拾う客がみんはシンジの知り合いで既に亡くなっている人ばかり。ようやく、シンジは自分が死んでしまっていることを自覚する。が、アヤカの産んだ子が霊感が強く、子供を介してシンジとアヤカの夫婦はその後も仲良く過ごしていく?
フルートとギターの生演奏あり、出演者全員でのダンスありと、しんみりする場面もあるが基本はコメディー。笑える箇所は大いに笑った。
作品の原案と演出、音楽監督はOAO代表の松永潤。
脚本は森山大輔。
役者陣で目立っていたのは、当然のことながら主人公シンジを演じた神成健太郎。そして、妻役の掛布彩衣。いつもは主演的な位置にいる中野聡や松木里江、上野梨佳子、山崎はん菜が助演的な役柄で脇を固めていたのが成功のポイントの一つ。石川順や可知将雄の存在感も光っていた。
生演奏の音楽も、場面にあった選曲で感心。
次回は11月だとか。楽しみにしている。
なお、松木里江は今回が劇団の卒業公演だとか。今後の活躍に期待したい。
ことし、さいあくだった人
藤原たまえプロデュース
シアター711(東京都)
2022/07/14 (木) ~ 2022/07/18 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
18日午後、下北沢のシアター711で上演された、藤原たまえプロデュースVol.10『ことし、さいあくだった人』の千穐楽を観た。このところ下北沢で観劇というと、今回の舞台も合わせて藤原たまえプロデュースの公演を3連続で観たことになる。劇場は、いずれもシアター711。これについては、藤原珠恵もプログラムに自虐的に触れている。まぁ、全てはコロナが元凶なのだろう。
さて、今回の舞台はとあるカウンターバー。とは言ってもテーブル席も1卓ある。小説を書き上げようと、そのネタ探しのためにバーでアルバイトを始めた柴田(西野優希)。マスターの松坂(桑山こうたろう)の手を焼かせながらネタ探しに励んでいるそのバーで繰り広げられる、2組というか2グループの客の恋愛がらみのドタバタ悲喜劇。グループ内の揉め事は、最後にもう一つのグループに飛び火する。結構笑えるシーンもあるし、「あ、それあるある」と思えるシーンもあり、80分ほどの上演時間をフルに生かした作品・演出に、大満足。倒叙人物は全部で8人。つまり、バーの2人以外は、三角関係の縺れをを演じる男女3人と、会社の上司と部下のこれまた同性愛まで飛び出す男性3人。それぞれの役者が持ち味を生かして大変面白い。大抵その中で誰か印象深い役者がいるものなのだが、今回に限っては全員がある意味同じくらい目立っていた。こういう作品も有りなんだろうね。内容的に、その後みんなどうしているのか気になる展開。続編も出来そうな感じ。いやぁ、楽しめました。
次回のプロデュース公演も期待して良さそうだ。
ほおずきの実る夜に
藤原たまえプロデュース
シアター711(東京都)
2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
26日午後、東京・下北沢にあるシアター711で上演された藤原たまえプロデュースVol.7『ほおずきの実る夜に』を観てきた。いつもなら知人である役者・古川奈苗が出演していれば観に行っていた藤原たまえプロデュース公演であるが、今回は藤原珠恵自身も脚本・演出に専念し、古川奈苗も宣伝美術担当と言うことでお目当ての役者が出演しないという状況ではあったが、藤原珠恵ワールドが展開されるであろう舞台と言うことで、他の予定をキャンセルして出かけたのであった。
舞台はコロナ渦の最中の都会と田舎。都会に出て有名女優二成ることを目指していた佐藤博美(モリマリコ)が主人公。女優を目指しながらも劇団を主宰し演出も手がけていた博美。しかし、コロナの影響で予定していた公演は次々中止となり、今回は何とか上演できると頑張っていた舞台も出演者の一人がコロナになってしまい結局公演中止に。心身共に疲れた博美は、半ば諦めの気持ちを抱きつつ故郷の島に帰ってくる。久しぶりに会う旧友達。しかし、故郷もコロナに翻弄されているのだった。毎年行われていた島の祭りがこの数年コロナのため中止に。今年こそ開催と、有志が集まって阿波踊りを披露することにしていたのだが、それも直前で中止と言うことに。劇団で演出も手がけていた経験を買われて阿波踊りの演出を頼まれていた博美は、故郷でも挫折感を味わう。しかし、有志たちの熱意もあって、非公式に阿波踊りを披露することが出来、博美はその熱意を土産に再び舞台を目指し都会へと向かっていく。
日本、いや世界がコロナに翻弄される中、ささやかな熱意とやる気が芽生えるという希望のある話だ。
上演時間は90分。
役者では、やはり主人公を演じたモリマリコの存在が大きかった。
また、とぼけた感じを持ちつつ肝心なところはビシッと決める劇団だるま座の剣持直明も活躍していた。
気になったのは、故郷の祭での阿波踊り。今、日本全国で祭と言えばヨサコイか阿波踊りかサンバといった風潮がある。劇中でも触れられていたが、東京では阿佐ヶ谷の阿波踊りは有名だ。ただ、阿佐ヶ谷の阿波踊りの中心は、本来の阿波踊りにある女踊りと男踊りのうちの男踊りを基本としてアレンジされたもの。この舞台で展開された阿波踊りもその系統だ。役者陣の構成などから考えて、祭→阿波踊りという発想なのだろうが、個人的に阿波踊りは女踊りと男踊りの対比で楽しみたいと思っているので、安易に阿波踊りが取り上げられていたのにはちょっとガッカリ。
さて、次回藤原たまえプロデュース公演から、藤原は本格的にプロデュースに専念するらしい。とりあえず、どんな舞台を作り上げていくのか、見届けてみたい。
夏至の侍
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2022/06/07 (火) ~ 2022/06/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
19日午後、東京・錦糸町にあるすみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子公演『夏至の侍』千穐楽を観た。これは、知人の役者・もりちえが出演していた関係からである。
プログラムに書かれているように、今回の舞台は九州のとある町にある老舗金魚問屋・鍋嶋養魚の衰退を描いた作品である。かつては名声を誇った名店・鍋嶋養魚も度重なる台風の被害と女社長(音無美紀子)の長男で跡取りのはずだった繁の死によって、その嫁である菜緒(板垣桃子)と女社長の二人の頑張りでは経営は成り立たなくなりつつあり、新興の金魚問屋・丸尾養魚への身売り話が進みつつある。この話は鍋嶋養魚の本家でもある鍋嶋興業も後押ししており、身売り話は後戻りできないような状況であった。そんなところに、家出同然で飛び出した女社長の長女・みちる(長嶺安奈)と次女・わたる(大手忍)が訳ありで戻ってきて、鍋嶋養魚に一波乱を起こす。そんな中、繁の亡き後を支えてきた菜緒にも好きな人が出来、心は揺れ動く。女社長・ふみゑは堀に通じる水車を復活させ、なんとか鍋嶋養魚を立て直そうと古い馴染み客や繁の同級生等を頼りに水車の復活工事に乗り出すが、再び大きな台風に襲えあれ万事休す。復活の芽は完全に摘み取られてしまう。二人の娘は再び家を後にし、菜緒も去って行き、ふみゑは一人堀の水に古の栄光に思いをはせて幕が下りる。
題目の『夏至の侍』とは、濁った堀の水に生きる金魚の事で、それが見つかれば養魚業に勢いが付くと言われているもの。しかし、結局鍋嶋養魚の堀に夏至の侍はいなかった。
場面の要所要所で歌われる「金魚の唄」(作曲:もりちえ)のフレーズが、観る者の心に染み入ってくる。残念ではあるが悲しい物語であった。
さて、いつもなら存在感が群を抜いている板垣桃子と大手忍以上に存在感を感じさせたのが、やはりベテランの味が生きる音無美紀子と、その長女役の長嶺安奈の二人。もちろん、板垣桃子と大手忍の活躍も生きていた。ただ、板垣演じる菜緒が新たな恋に揺れ動く心を演じる場面が若干希薄だったような気がしたのは残念。
わがもりちえは、丸尾養魚の社長夫人と劇中歌作曲で見せ場を作っていた。考えれば、丸尾の社長役・瀬戸純哉はもりの旦那さんでもあるわけで、公私合体の演技か! 瀬戸純哉も桟敷童子常連として欠かせない存在となってきたのは嬉しい。
それと、相変わらず凄いとしか言いようのない舞台転換には参った。特にラストシーンの水車。その水と戯れる音無美紀子の姿は絵になるなぁ。
さて、次回は12月。楽しみにしている。
「明日もう君に会えない」/「短編公演〜PAST ROMANCE〜」
制作「山口ちはる」プロデュース
下北沢 スターダスト(東京都)
2022/06/28 (火) ~ 2022/07/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
山口ちはるプロデュース作品は、過去に何度か観たことがあるが、どれも心に残っている作品。今回もきっと心に染み入る作品だろう。是非、観てみたい。
GIRLS TALK TO THE END-vol.3-
藤原たまえプロデュース
シアター711(東京都)
2022/06/01 (水) ~ 2022/06/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
役者・藤原珠恵のセルフプロデュースである藤原たまえプロデュースのコロナにより延期されていた『GIRLS TALK TO THE END』を5日下北沢のシアター711で観た。これは、藤原珠恵も所属する兎座というユニットから、知人でもある古川奈苗が出演していた関係からである。
とある高校のダンス部の顧問タベ先生が、生徒達に一言も無く突然辞めた。ダンス部の部員6人は、タベ先生が辞めた原因をあれこれ推測するうち、先生が生徒と付き合っているというたれ込み電話があったことを突き止める。そうなると、一体だれと付き合っていたのか。ダンス部の6人はそれぞれを疑い始める。実際に付き合っていることを薄々気づかれていたり、交際を迫っていたところを聴かれたり、たれ込み電話をかけたのが誰なのか。真相は分からないまま・・・・
時は十数年経ち、情報通として部で知られていたマイコの提案で、元部室で同窓会を開く事になる。驚きは、部員の一人だったチエが母校の教師になっていたこと。いや、驚きは、タベ先生の思い出話が意外な方向に。実は部員の一人がタベ先生と結婚し離婚していたこと。そんなタベ先生をストーカーしていた者もいるかと思えばタベ先生の子供を妊娠している者がいたり。
その同窓会を開いたのはマイコで、実は余命短い病気なので生きているウチにみんなに会いたかったからだと言うのだが、その告白を聞いたときの残りのメンバーの衝撃の軽さに?と思っていたのだが、最後の最後に今タベ先生と付き合っている者が誰なのかを突き止めたあたり、余命短いというのは情報通のマイコの作り話だったのかも。これは観る者の解釈次第だろう。
それにしても、タベ先生の現在の相手が、高校時代でも現在でも仲間からタベ先生との仲を全く勘ぐられなかった唯一の存在・ジュリであったとは。
注意深く観ていると、色々な伏線が仕組まれている話で75分はあっという間に過ぎていった。
わが古川奈苗はそのマイコを巧みに演じていて感服。というより、出演者6人みんなが個性の生きた役どこ演じていて観ていて面白かった。笑えるシーンやダンスシーンもしっかりあって、楽しい時間だったと言える。藤原たまえプロデュース、恐ろしや!!
おしり筋肉痛 リノベーテッド
大人の麦茶
ザ・スズナリ(東京都)
2022/04/06 (水) ~ 2022/04/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
4月17日午後、東京・下北沢のザ・スズナリで上演された大人の麦茶第29杯目公演『おしり筋肉痛リノベーテッド』を観てきた。これは知人のマルチ・パーフォーマーである若林美保が出演していた関係からである。加えて、大人の麦茶という劇団は、自分のお気に入りの劇団の一つだったから。
大人の麦茶では過去も『おしり筋肉痛』と言う作品を何回か上演していたが、その際は副題として「めっちゃまわるよ運動した後だし」とあり、今回は「リノベーテッド」なので、過去と同じ作品の改訂上演か全くの新作かということが気になっていた。前説に登場した主人公役の宮原奨伍が「新作」と断言したのでそうなのかと思い観ていたら、細かい設定には違いがあったものの要となる重要な台詞などは過去の作品と同じなので、実質改訂上演と観た方が良いだろう。ちなみに、上演時間は約2時間10分。過去の作品に関しては、小劇場演劇動画サイトの観劇三昧で観ることができる。
物語に関しては、HPやフライヤーに的確な粗筋が載っているのでそれを引用させていただく。
その男、趣味は酒。「酔っぱらった時に決めたことを本当の人生と思って」生きて来たが、飲酒厳禁の身となり、宿泊施設へとリノベーションされた母校の小学校を訪れた。潮風の吹く地元の町には「インチキ科学者」と罵倒され世間から抹殺された初恋の女、忘れられない初体験の女、人工知能AIのフリをする女子高生が現れて……時の物置に眠っていた秘密の蓋が開く。もしかして、あの子は、俺の娘なのではないか……失われゆくものと明日へ続く坂道。男の止まっていた時計が動き始める。
リノベーションとは、既存の住まいを新築の状態よりも良くするための大工事のこと。劇団『大人の麦茶』も築年数が経ち、酒の空き瓶や壁の画鋲の跡も増えました。でも新築物件には移りません。不都合は不満はなるべく少なく。そんな2020年代の私たちの未来、いっしょに探してくださいませんか?
と言う訳で、個性豊かな登場人物の中で重要なのは、やはり主人公・猿橋敏也を演じた劇団の看板役者である宮原奨伍。以前は現在休団中の池田稔が演じていた役どころをエネルギッシュに演じていたのが良かった。まぁ、ときおりエネルギッシュ過ぎる部分があって、心情の明暗の付け方にもう一歩進化が欲しい部分もあるに亜あったけれど。
それと、このリノベーションして宿泊施設になってからは「ファミリオーネかつやま」と言う名称になっている元小学校の支配人・稲葉温子を演じた浅田光の演技も素晴らしかった。
我が若林美保は宿泊施設の厨房担当ながら、得意のポールダンスの片鱗も魅せてくれて舞台に明るさを提供していたのが良かった。
それと、インチキ科学者・宿泊施設の保健室担当・傍嶋佳音を演じた鈴木ゆかもなかなかの演技。
演技はともかく、外見から印象深かったのが通販会社代表の木田の付き人・半藤知剛を演じた奥山ばらば。
今後も更なる進化を期待したい舞台であった。
七日目の朝に
ONE AND ONLY
ステージカフェ下北沢亭(東京都)
2022/02/25 (金) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2月27日午後、下北沢にあるステージカフェ下北沢で上演されたONE AND ONLY朗読ライブVo.23を観てきた。これは、上演されたのが交流のある脚本家・加藤英雄の作品『七日目の朝』と言う関係からである。この団体の公演では、朗読の途中や合間に楽器の生演奏が加わるが、今回はギターとフルート。出演者9人にミュージシャン2人に対して、コロナ渦の影響からか観客は自分を入れて6人という大変贅沢な環境で鑑賞することとなった。
舞台は、長い遺恨を持つ川を挟んだ二つの町「東町」と「あざやか町」の商店街。川の埋め立てを機に商店街を合併しようという区の構想に乗り気な「東町」とそれに反対の「あざやか町」。その話し合いが行われている会場に、両商店街を股にかけた、まるで「ロミオとジュリエット」のような恋愛騒動が持ち込まれたり、埋め立てられる川の精や住んでいる魚達が人間の姿になって乗り込んできて合併ではなくもう一つ新しい商店街を作ったら良いのではと言う提案を投げかけたりとドタバタの大騒動に発展。その結果は・・・
という話で、事前情報では80分の上映時間であったはずが前説では90分、実際には100分という長さの作品となっていた。100分というと朗読ライブのスタイルだと長く感じられるのだが、今回は中盤からの進行がスピーディーだったり、オリジナルの歌とダンスがあったりと長さを苦痛に感じさせない面白さがあった。話の中心である二つの商店街の会長役を務めた中野聡と神成健太郎、そして区の職員約の山崎はん菜の熱演が成功の鍵と言えるだろう。
ただ、一つ気になったのがフルートの音量。実はこの楽器、思っているより音量が大きいので1人台詞の時に音が重なると台詞がやや聞き取りにくくなったのが残念。
それと、個人的に気になっている役者、松木里江と内海里依の演技もなかなかの出来映えであった。
加藤英雄ワールドの楽しく不思議な世界を堪能させてもらった。次回も楽しみだ。
ころぬのことは
東京ノ温度
nakano f(東京都)
2021/12/17 (金) ~ 2021/12/21 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
19日午後、東京・中野のNakano fで上演された東京ノ温度第十六回公演『ころぬのことは』を観た。これは、知人の役者・水野以津美が出演していた関係からである。なんだかんだ言いつつ、この東京ノ温度の公演は結構観ている方だと思うのだが、最初に今回の公演の感想を一言で言ってしまうと「これまで上演した作品の中で一番深みがあって役者の演技も充実していた」と思われた。
舞台はとあるフェリー。冬になり、太平洋に浮かぶ離島への一人旅を計画して乗船したフリーターの細川千華(中尾茅珠)ではあったが、船内には雑誌記者やら小選挙区で落選したものの比例区で当選した国会議員・吉田五郎丸(本田一生)とその秘書、仕事に自信をなくして退職した元教師など、おかしな人ばかりが乗船していた。しかも、乗船したフェリーはその日に限って死者の霊に会えると言い伝えのある海域というか岩場を巡るという。そして、その岩場で元教師は亡くなった教え子に、議員も昨年急死した夫人に会うことが出来た。それぞれが死者の霊から激励というか伝えたかったことを聞かされて、話した霊も聞かされた側も気持ちのわだかまりを吐き出し納得したところでフェリーは元も航路に戻る。
何をして良いか分からず一人旅をしようとしていた千華は、この船で起こったことを基に小説を書くというなすべき目的が見つかったのだった。
話全体は千華の体験という形となってはいるが、話の中心はだらしのない議員・吉田五郎丸。もとはと言えば彼の死んだ妻が夫のことが心配でフェリーで自分に会いに来るように仕向けたという物。その妻・吉田弥生を演じたのが水野以津美で、彼女が五郎丸に切々と説教する議員たる者のなすべき事というのがなかなか奥深い内容で、聴いていて納得してしまった。
他の登場人物も、個性的でかつ演技力のある役者が揃っていて、これから何が始まるのか、どう話が展開するのかと言う期待に十分に答えてくれた。
上演時間1時間30分が短く感じられた。この作品、舞台セットを使った本格的な形での上演を観たくなった。と言うのも、東京ノ温度の舞台は、朗読ライブと本格的な舞台上演の中間的な上演形態だからである。まぁ、今回は役者がマスクを外して演技していたのが前回とは違っていた点。やはり表情が分かると言うことはなかなか重要な事なのだ。
飛ぶ太陽
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2021/11/26 (金) ~ 2021/12/08 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
5日午後、東京・錦糸町にあるすみだパークシアター倉で上演された劇団桟敷童子公演『飛ぶ太陽』を観た。これは、知人の役者・もりちえが出演していた関係からであるし、この劇団の出し物に毎回強い衝撃を受けるからである。
今回の新作は、戦後昭和20年に作者・東憲司の故郷である九州・福岡県で起きた147人が犠牲となった二又トンネル爆発事故をもとにしたフィクションであり、上演時間は約2時間。このところ原田大二郎や村井國夫を客演に呼んでいた劇団は、今回は宮地真緒と斎藤とも子という女優二人を招聘。
舞台は、爆発事故の起きる前の町の賑わいと、爆発事故後の悲惨さを、復員兵・松尾与市を軸に、地元の農作物行商人や炭鉱附属病院の医師らの生活から浮き彫りにしている。特に行商人で与市の母であるトワ(鈴木めぐみ)と行商人・澤西典子(板垣桃子)との関係や、典子と典子の妹で国民学校の教員・文子(宮地真緒)とのやりとりが重きをなしていて、多くの作品で重要な役を任されている大手忍が後半にややさらっとした感じで登場してくる関係からか、鈴木、板垣、宮地の3人の存在感が大きかった。特に板垣と鈴木の活躍には目を見張る物があった。劇団生え抜きの役者らしい演技だった。
客演の2人もなかなかの活躍で、特に宮地の病弱で精神を病んでいる文子の事故との関わり方とその責任感に悩む姿はさすがという印象。斎藤とも子の客演は今回で2回目だと思うが、医師として事故によって忙殺される様子が緊迫感に包まれて、これまた唸らせられた。
知人・もりちえは、元従軍看護婦として事故後に斎藤演じる医師と治療活動で活躍。最近共演が増えた夫君の瀬戸純哉も劇団の雰囲気に慣れてなかなかの演技をみせていた。
次回公演は来年六月。楽しみである。
1/4の楽園
劇団だるま座
小劇場B1(東京都)
2021/11/17 (水) ~ 2021/11/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
21日の日曜の午後、下北沢の小劇場B1で上演された劇団だるま座公演『1/4の楽園 1999ー或るキャバレーの唄』千穐楽を観てきた。この舞台は創立25周年を迎えた同劇団による周年記念作品で、一部配役がダブルキャストとなっていて、それぞれを「お湯割り」「水割り」と名付けて上演されたもので、自分が観たのは全体の千穐楽で「水割り」チームの公演。もっとも、お目当てはシングルキャストとして出演していた知人の役者・古川奈苗を観るためである。
ストーリーは、1999年に映像作家・玉夫が出会った創業25周年を迎えるキャバレー「夢幻」(ムーランルージュと読ませる)を舞台に、オーナーの喜八や幼なじみの地回りヤクザの勘助、地元銀行の融資課課長の神取や男性常連客と、ムーランルージュの従業員達が繰り広げる人間模様。その中心は、喜八&勘助とホステスの百恵&アグネス。時代はキャバレーを置き去りにし、ムーランルージュの先行きが不安定なところで巻き起こるてんやわんや。そんな中に現れる父親探しの少女がアグネスの娘である事が分かり・・・・。喜八は、店をそのアグネスの娘・アキラに譲り、街を去る。幼なじみのヤクザ・勘助も百恵と共に同じく街を去る。そうした一連の騒動をカメラに収めた玉夫は、アキラと次の世代を生きていく。唄あり踊りありギター生演奏あり(常連客役すだあきらの演奏が心を打つ)の2時間。
1999年ごろのキャバレーを知る自分としては、懐かしさあり、キャバレー衰退の悲しさあり、アキラの今後の活躍に期待ありと言ったところか。そうそう、お目当ての古川奈苗はシングルキャストとしてアキラを好演。百恵役の板東七笑やオーナー喜八役の剣持直明も存在感があった。
アッという間の2時間の舞台。帰りがけに、物販コーナーで上演台本が掲載されているプログラムを購入。喜八役の剣持直明が劇団だるま座の主宰者。彼の演技は、前回の兎座で初めて見た。小劇場系劇団で25周年というのは凄い事だ。今後の活動に期待したい。
にんげん日記
トム・プロジェクト
紀伊國屋ホール(東京都)
2021/10/27 (水) ~ 2021/10/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
10月31日午後、東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演されたトム・プロジェクト プロデュース『にんげん日記』公演千穐楽感を観てきた。これはこの作品の作・演出が大好きな劇団の一つである劇団桟敷童子の主宰者・東憲司によるもので、出演者の一人にこれまた同劇団の大手忍が出演していたからである。
舞台は昭和24年の九州。コリッチに掲載された解説によると、
老朽化で休業中の銭湯...
男はその銭湯で戦争に行った孫の復員を心待ちにしている。
或る日、男の幼馴染が2人転がり込み大騒ぎに...、
そして同じ日に孫の許嫁だという娘とその母親が現れて...。
昭和24年の戦後混乱期を生きた3人の男と2人の女、
「にんげん」達の笑いと涙の日記が...
とあった。出演者は5人。銭湯「月乃湯」の主人で舞台となる日記を書いている勝浦文ノ輔(小野武彦)、幼なじみで絵も上手い煙突掃除の名人・松尾善太(高橋長英)、同じく幼なじみで建築会社の元社長で闇市に顔の利く浪瀨常幸(村井國夫)。この3人は俳優座養成所第15期の同窓生でベテラン俳優として活躍している。それに、文ノ輔の孫でまだ戦地から復員していない福太郎の許嫁と称する能嶋桜(大手忍)とその母親・三智枝(賀来千香子)。実はこの親子は実の親子ではなく、戦後の世の中を生き抜く爲に騙り屋となって月乃湯に入り込んできただが、なんと三智枝が文ノ輔の東京での教員時代の教え子である事が判明し、騙り屋である事を途中で白状する。しかし、かつての教え子でもあり、わずかな日々とは言え一緒に暮らし、孫のことを思い出させてくれた二人を、男3人は快く受け入れていく。そして桜の一時失踪事件を機に桜と三智枝は月乃湯を去って行く。
物語の核には月乃湯再開という彼らにしてみれば大事業が有り、男女5人がそれぞれ出来る範囲で協力していくことで連帯感が生まれてくる過程が描かれている。
九州が舞台と言えば、作・演出の東憲司の得意分野であり、彼の世界が舞台上に展開していくのがわかる。それを支えていたのは、5人の達者な芸。最もインパクトのあった役者は、大手忍だったように思う。
開幕早々は男性陣の台詞がややボソボソと聞き取りにくい箇所があったが、女優陣が登場してからは会話のメリハリが明確になって観るものを引きつけていった。
観終わって、どことなくほのぼのとした感じが心に染みついていたのは、日記を書いた文ノ輔を演じた小野武彦の好演だったと言えるだろう。ドボルザークのユーモレスクや金魚の絵も印象深いものだった。どことなく劇団桟敷童子公演を観たような感覚に陥ったのは自分だけではあるまい。