実演鑑賞
満足度★★★★
19日午後、東京・錦糸町にあるすみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子公演『夏至の侍』千穐楽を観た。これは、知人の役者・もりちえが出演していた関係からである。
プログラムに書かれているように、今回の舞台は九州のとある町にある老舗金魚問屋・鍋嶋養魚の衰退を描いた作品である。かつては名声を誇った名店・鍋嶋養魚も度重なる台風の被害と女社長(音無美紀子)の長男で跡取りのはずだった繁の死によって、その嫁である菜緒(板垣桃子)と女社長の二人の頑張りでは経営は成り立たなくなりつつあり、新興の金魚問屋・丸尾養魚への身売り話が進みつつある。この話は鍋嶋養魚の本家でもある鍋嶋興業も後押ししており、身売り話は後戻りできないような状況であった。そんなところに、家出同然で飛び出した女社長の長女・みちる(長嶺安奈)と次女・わたる(大手忍)が訳ありで戻ってきて、鍋嶋養魚に一波乱を起こす。そんな中、繁の亡き後を支えてきた菜緒にも好きな人が出来、心は揺れ動く。女社長・ふみゑは堀に通じる水車を復活させ、なんとか鍋嶋養魚を立て直そうと古い馴染み客や繁の同級生等を頼りに水車の復活工事に乗り出すが、再び大きな台風に襲えあれ万事休す。復活の芽は完全に摘み取られてしまう。二人の娘は再び家を後にし、菜緒も去って行き、ふみゑは一人堀の水に古の栄光に思いをはせて幕が下りる。
題目の『夏至の侍』とは、濁った堀の水に生きる金魚の事で、それが見つかれば養魚業に勢いが付くと言われているもの。しかし、結局鍋嶋養魚の堀に夏至の侍はいなかった。
場面の要所要所で歌われる「金魚の唄」(作曲:もりちえ)のフレーズが、観る者の心に染み入ってくる。残念ではあるが悲しい物語であった。
さて、いつもなら存在感が群を抜いている板垣桃子と大手忍以上に存在感を感じさせたのが、やはりベテランの味が生きる音無美紀子と、その長女役の長嶺安奈の二人。もちろん、板垣桃子と大手忍の活躍も生きていた。ただ、板垣演じる菜緒が新たな恋に揺れ動く心を演じる場面が若干希薄だったような気がしたのは残念。
わがもりちえは、丸尾養魚の社長夫人と劇中歌作曲で見せ場を作っていた。考えれば、丸尾の社長役・瀬戸純哉はもりの旦那さんでもあるわけで、公私合体の演技か! 瀬戸純哉も桟敷童子常連として欠かせない存在となってきたのは嬉しい。
それと、相変わらず凄いとしか言いようのない舞台転換には参った。特にラストシーンの水車。その水と戯れる音無美紀子の姿は絵になるなぁ。
さて、次回は12月。楽しみにしている。