りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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恋する小説家〜映画と舞台のW上演〜

恋する小説家〜映画と舞台のW上演〜

Moratorium Pants(モラパン)

OFF OFFシアター(東京都)

2014/07/30 (水) ~ 2014/08/04 (月)公演終了

満足度★★★★

重なることで惹きだされる演劇と映画それぞれの良さ
最初に映画を観て演劇を観ました。
映画がまず面白く、でも、演劇にはその世界を受け継ぎながらも、異なる面白さがあって。

多くの役者がかぶっていても、ベースは共有されていても、同じ物語を2回観たという感覚はほとんどなく、それぞれの味わいが相乗効果としてやってきました。

ネタバレBOX

最初に観た映画、ちょっととほほな感じで始まるのですが、仕組が次第に見えてくると、その妄想の世界のふくらみと小説とのリンクのさじ加減のうまさが実に良く、どんどん引き込まれていく。
最初に現れる女子高生に不思議な実存感があって、そこにテイストの被ることなく被害者という次のキャラクターが現れ、さらに被ることのないキャラクターが差し込まれ広がっていく感じが、小説が研がれていくグルーブ感とうまく重なって、惹き込まれてしまう。
その結末もとても映画的で、観ていて全く飽きることがありませんでした。

そして、その後に観た演劇は、最初こそ、映画の記憶をどこかひきづっていたけれど、やがて、同じ設定の中に異なる世界が浮かび上がっていくことに心を捉われる。多くの役者さんが同じロールを演じていくのですが、そこには映画の世界とは異なる空気感や魅力があり、また、その顛末も演劇としての歩みや密度を持って舞台を満たしでいく。

観終わって、よしんばタイトルやベースにあるアイデアが同じであっても、これらは異なる語り口によって編まれた別々の作品だと感じました。
映画の風景におかれたものと演劇の空間に編まれたもの、なにか観る側に入り込んでくるものが異なっていて、でも、それが互いの作品のテイストにもう一段の深さを与えているようにも感じられて・・・。

同じ役者たちが演じるものにも、映画だからくっきり見える感覚と同じ劇場空間だからこそ受け取りうるひとりずつの肌触りがあって.。
映画と演劇の異なりを受け取ることで、それぞれの良さを再認識したりも。

観る側にとっても、とても面白く得るものの多い試みであったと思います。
河童

河童

DULL-COLORED POP

吉祥寺シアター(東京都)

2014/07/18 (金) ~ 2014/07/27 (日)公演終了

満足度★★★★

枠組とスタンスをそのままに
観劇日の通勤時間と、劇場に向かう電車のなかで、青空文庫でx十年ぶりに原作を飛ばし読みしてから観劇。

原作の企みと、当時としての「ナウさ」の質感が、作り手によって、したたかに今の感覚に置き換えられ演じられていて、
ひとつずつのシーンがとても面白く、見入ってしまいました。

ネタバレBOX

思うに、この小説が世に出たとき、
描かれる世相についても、風潮についても
あまりにも当時を切り取り走っていたので、
だからこそ、それは狂気の態で描かれねばならなかったようにも思う。

でも、一方でその枠組み自体は、時代に阿るものではなく、
芥川先生が、シニカルに眺めていた、
人間というものの普遍に裏打ちされていたように思うのです。
で、その普遍の枠組みやシニカルな視点は
原作のままに残し、
時代によって色や形がかわったものを、
作り手は、21世紀の今様に置き換えてしまった・・・。

だから、芥川の世界でありながら、
古臭さも、陳腐さもなく、
でもどこか尖った、狂気をはらんだような世界観が
そのままに観る側に訪れる・・・。
アイドルしかり、役者達の身体の使い方しかり・・・。
舞台から今の芥川先生が描いたであろう河童の世界の肌触りに
時代を置き換えることなく、とても自然に捉われてしまう。

作り手の企みのしたたかさと
なによりもそれを成り立たせる役者たちの様々なベクトルの表現力に
舌を巻いたことでした。



小劇場!中高生!大往生!2

小劇場!中高生!大往生!2

花まる学習会王子小劇場

王子小劇場(東京都)

2014/07/25 (金) ~ 2014/07/27 (日)公演終了

満足度★★★★

なんてビビッド!
役者達ひとりずつの個性に惹かれ、それが引き出されていく歩みにぐいぐいと取り込まれました。

べたな言い方ですが、めっちゃ面白かったです。

ネタバレBOX

楽日ということもあったのでしょうか、
舞台に現れたときの硬さはたちまちにほどけ
最初の集団の形成にしても、
自己紹介→他己紹介(ちょっとぶっこみ)→戻って自己紹介というあたりの、
役者たちのあざとさのない解かれ方にぐいっと引きこまれました。

そこからの役者が自らを表現するための
やり方というか、いろんなシチュエーションの設定や枠の作り方も
とてもしたたかで洗練されていて・・・。
そして、その仕掛けから、さらに歩み出す役者たちの
柔らかな企みや創意がとてもナチュラルでビビッドに感じられて・・・。

即興的な部分も多くあったようで、
その分、戯曲や演技のメソッドに繋がれたり縛られたりしない良さが
随所に表れてくる。
2人~4人での、ある設定でのお芝居に対して、
そこに何らかの踏み出しがあったときの
他の役者たちの反応が、場に熱をつくり
やがては重ねられていくシーンの
ありようを客観的にみていた観客も、
舞台を満たす熱に引きこまれ、
刹那ごとの感情に前のめりにさせられている。
べただったり、シャイだったり、箍が外れたように大胆だったり、
不器用だったりもするのですが、
少しずつ、役者たちのキャラクターなども垣間見えてくると
それが観る側のドキドキ感や揺らぎをさらに醸成し、
役者たちに満ちる舞台上の感覚にしっかりと閉じ込められてしまう。

学校の先生と生徒というシチュエーションでは、
演ずることと、そこに生まれた空間に対する役者たちの感覚が
彼らの日常の先にしなやかに組みあがり
観客とも共有されていく。

終盤、やはり3~4人ずつで、
彼らが齢を重ねていく刹那が切り出されていくのですが
そこには、私のような歳を喰った観客とは視座の異なる、
でも、その視点にがあるからこそ
立体感やリアリティを持って共有しうる
人生の俯瞰があり、その先に現れる彼らの今の質感があって。
そこには、演出家が引きだし、役者たちが組み上げ、観る側が共振していく、
演劇的な空間が生まれておりました。

観終わって、アフタートークを聴いていても、
滅失しない舞台の感触が残っていて。
その一期一会の時間にすっかりと取り込まれていたことに
改めて気づいたことでした。

博多アシッド山笠

博多アシッド山笠

ハリケーンディスコ

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2014/07/03 (木) ~ 2014/07/06 (日)公演終了

満足度★★★★

ドーパミンがどくどくと。
なにか、癖になるような魅力があって、ここの所欠かさず毎回観ています。

今回も、時間があっという間。もう、観ていてぐいぐいと嵌る。理屈を超越して、ほんと面白かったです。

ネタバレBOX

物語はある意味シンプル、
でも、登場人物たちの背景などはちゃんと綴られているし、
描かれるもの自体が唐突だったり奇異だったりする感じはまったくない。
最初こそ、裏山笠とはみたいな感じはあるのですが、
世界はたちまちに観る側をしっかりと抱いて疾走を始める。

鉄パイプと金属バットがガチでぶつかりあう音にぞくっとくる。
ドスにチャカに発破と舞台の上はやりたい放題、
でも、それらを暴走させても暴発させずに、
観る側が歩む階段としてしっかりと組み上げていくのは戯曲の力。
電動ドライバーの音ともに、
劇場の高さいっぱいに山笠を組み上げ歩み出す態は、
整然と演劇の約束の内にあって、
でも、そうして生まれ醸し出される演劇的グルーブ感だからこそ、
観る側をただ無秩序に引きこむのではなく、
ロードムービー的な手法もからめて
一歩ずつ空気に温度を与え、j物語を歩ませながら、
その理性を痺れさせ、ハリケーンディスコワールドともいうべき世界に
どっぷりと浸しこんでしまう。

冷静に考えれば、
とあるシーンでは別に上半身を晒さなくてもよいのかもしれないし、
別のシーンでは、体の一部として目をくりぬかなくても、
指でも髪の毛でも物語は通るのかもしれない・・・。
でも、ほら、そこまでにドーパミンが絞り出され
痺れちゃっている理性だと、
その一つずつのインパクトではないと
満たされないようなのめり方になってしまっていて。

観終わって、すごくベタな言い方だけれど、
血糊(それも鮮血ではなく、よりリアルな静脈血っぽいやつ)に顔を汚し、圧倒的に体を張り、声を枯らして役者たちが演じあげていく
登場人物のひとりずつがめちゃかっこよい。
ありえないというか、観る側の想定からさらに半歩踏み出した、
キャラクターの実存感にしっかりと取り込まれてしまう。

作り手と役者たちの体を張った、
でも数多くの細かい企てに紡ぎあげられた、
舞台の肌触りとその顛末に
今回もしっかり囚われてしまいました。        
星の結び目

星の結び目

青☆組

吉祥寺シアター(東京都)

2014/07/04 (金) ~ 2014/07/09 (水)公演終了

満足度★★★★

その歌の軽さに満ちるボリューム感
初日を拝見。

アゴラで観たときと、物語の構造が変わっているわけではないのですが、
舞台の広さに役者たちの力がさらに解き放たれていたように
感じました。

時代と、一人ずつの歩む時間が、
その想いと共にしっかりと観る側に置かれる舞台でした。
また、それらを紡ぐ役者たちの力を
ひとりずつ、がっつりと、味わうことができました。

ネタバレBOX

正直にいうと、
初日はまだ、役者たちが舞台の広さに対して
折り合いをつけきれていない部分もありました。
特に、いくつかの時間が平行して進む場面では
舞台全体のテンションにムラを感じ部分があったのも事実。
でも、それは、上演を重ね役者たちの舞台上での呼吸が馴染めば
きっと逆に膨らみに変わっていくような余白にも思えた。

役者達の一人ずつが、単に物語を紡ぐのではなく、
常に刹那毎のロールの息遣いで刹那を織り上げていて。
だから、時間の歩みを、その家の肌触りとして感じることができる。
もちろん、外を流れる時間も垣間見えるのですが、
観る側は、あくまでも、その家の出来事の質感として
その歩みを感じ続けていくことができる。

華やかな時代、やがて凋落していく感覚、それぞれの想いと矜持。
広さにぶれることなく、繊細さを滅失させることのない
役者たちのロールの貫きが、
一つずつの空間に実存感を与え、その歩みを混濁させることなく
淡々と、クリアで、どこか鈍色に染まった、
その時間の感触に観る側を閉じ込めてしまう。

始まりと終わり、物語の両端が結ばれたとき、
その時代を生き抜いた3人の歩みと
彼らとともにその日々を歩んだ登場人物たちの
不用意な重さのない、
どこか達観したボリューム感にしっかりと捉えられる。

それにしても、
冒頭に口ずさまれたこの歌が、
この舞台には本当に馴染むよなぁ・・・。
観る側に渡された物語の質量をしっかりと抱きつつ、
ちょっと下世話な歌が不思議に染まりあった舞台上の「今」の感慨が
終演後も霧散せず、ずっと残ったことでした。
許されざる者

許されざる者

シンクロ少女

アトリエヘリコプター(東京都)

2014/07/02 (水) ~ 2014/07/08 (火)公演終了

満足度★★★★★

バイアスの絶妙な力加減
これまでにも、作り手の、人間がコアに抱いているものの少し不器用な現れかたへの表現には、強く心を捉えられていましたが、
今回は、そこに更なる描き出しのしたたかさを感じる。

観終わって、単なる物語の顛末に留まらない、登場人物の根本を暴き出すようなその切っ先に深く捕えられました。

ネタバレBOX

冒頭のシーンこそ、どこか捉えきれない薄っぺらさを感じたのですが、
物語が歩み始めると、キャラクターたちに紡がれる絶妙にバイアスのかかった実存感にたちまちにとりこまれてしまう。
隣り合ったマンションの2組の夫婦、
どちらの夫婦もちょっと普通とはことなっていて、
それがちょっぴり奇異で滑稽で、
0でも次第に息のつまるロールたちの情景に鈍い感触を感じたりも。

でも、なんといっても、その先に作り手が仕掛ける、
そんな登場人物たちの互いの内なる想いを抑える箍の外し方目を瞠る。
役者たちが、物語の歩みと共に
丁寧にさじ加減を変えながら、
したたかに隠し、時に大胆に晒し、やがて当たり前の如く溢れさせるものが、表層の男女の態をそのままに、一歩ずつ互いからの縛めをほどき、
建前と本音の衝立をはずし、
それぞれのコアの表層をさらけ出していく。

やがて訪れる仮初の一体感には、
仮初のたおやかさが描き出す同床異夢の平安さがあって。
そして、御心のあるがごとくに(Let it be)のままに
留まることができず
さらに解けていくものへの凄しさに息を呑む。
女性の、そのDNAに紡ぎこまれているがごとくの欲望や
男性の理性の内に収めきれないような嫉妬心。
同床異夢のその先には、束ねられバラける男女の顛末が置かれて。

それを受け入れる男と、受け入れえなかった男。
べたな言い方をすれば男の度量が問われる踏絵の先で、
シーンは冒頭に繋がれる。
最初は、どうにも薄っぺらいと感じた同じシーンに編みあがる、
観る側を圧倒するような奥行きに深く取り込まれて。

終わって、逃げようのない禍々しさと、行き場のなさと、それらをどうすることもできないことへの達観が手をつないで降りてきたことでした。

舞台の語り口は、実は、塗りこめるようではなく、
むしろ、どこか醒めて、淡々としているような部分もあって、意外に軽い。
でも、そのコンテンツの深さに観る側をしばりつけない軽質さが、
舞台にしたたかに仕掛けられた
男女のありようの剥ぎだしをしっかりと受け取らせているようにも思えて。

これまでも、人が生きることや男女のありようの生々しさを、
独特の質感で描き出してきた作り手が、
その表現の語り口をさらに研ぎ、
作劇の手練をさらに洗練させたように感じたことでした。
麗しき乙女達の肖像2014

麗しき乙女達の肖像2014

第6ボタン

埼京線十条駅もよりダイニング(東京都)

2014/06/18 (水) ~ 2014/06/22 (日)公演終了

満足度★★★★

作品を見せ、ノウハウで魅せる
わかりやすい物語なのですが、骨組みもしっかりしているし、メリハリも効いていて。

リズムもよく、気が付けばしっかりと物語に入り込んでいました。

ネタバレBOX

この劇団が初めての観客でも、
しっかり馴染める内容なのですが
従前の公演を観ていたものには、いろいろとご褒美もあって。
スピンオフというのとは少し違うのかもしれませんが、公演に共通したプラットフォームのようなものがあって、続けて観ることでのふくらみも感じられる。

劇団を今回の会場で初めて観たとき、
この環境でのお芝居としては、
大健闘みたいな印象だったのですが、
今回などをみていると、
戯曲自体が洗練され研がれているし、
クオリティもしっかりと作られていて、
舞台に物語を求めるのではなく、
舞台の物語にどんどんと取り込まれていく感じがする。

本作でも、
そのなかでロールの個性が一人ずつ端折ることなく描かれていて、
女性たちが毎日を生きることの質感がしっかりと観る側に残る。
入社して、それぞれに仕事を覚えて、生きる筋肉がついていく
女性たちの歩みにも心を惹かれて。
役者たちの個性も生かされ、シーン毎にウィットもあり、
作品として観る側が共感しうる部分も多い
舞台でありました。

3か月連続のシリーズはこれで終わりだそうですが、
作り手が、今回の公演で得たノウハウが、
どこかで生かされれば素敵だなと思ったり。
演劇を膨らませ、演劇に留まらない楽しさをもった、
やり方が、今後何らかの形でさらに歩みをすすめたら
良いなぁと思ったことでした。


時をかける稽古場

時をかける稽古場

Aga-risk Entertainment

サンモールスタジオ(東京都)

2014/06/07 (土) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

アイデアを更に広げる作劇力
入口は、かっこよくいえばバックステージものなのですが、そこからの展開が抜群に面白い。

設定のアイデアに加えて、それがへたれることなく、新たな展開へと組み上げられ、観ていてぐいぐいと引きこまれる。

ほんと、面白かったです。

ネタバレBOX

正直なところ、舞台で演じられるタイムスリップものって
これまであまりよい印象がなくて、
いろんな説明に舞台が勢いを失ったり、
明らかな矛盾や違和感に興ざめをしたり・・・。

その点、この舞台は本当によくできていました。
パラレルに動いている世界の人間をそのまま入れ替えるというやり方は、
これまでもあったのかもしれませんが、
少なくとも私にとってはコロンブスの卵的な発想で
しかも、そのことがホワイトボードで1分で説明できてしまうのはちょっとすごい。
その設定の工夫で、よしんば文系の人間であっても、事象に対するロジックなどに対する戸惑いなどもとてもうまく回避されていて、余分なことに過度に気を取られない分まっすぐに展開に生まれる面白さに満たされて。

それはね、あんなもので時間+人が入れ替わるというのもチープといえばチープなのですが、それがびっくりするほどチープだからこそ、すっと設定を受け入れられてしまう部分もあって。
そういうお手軽さでいえば衣装での演じるロールの区別の仕方なども
すごくシンプルでうまいなぁと思う。
公演2週間前の稽古着、本番当日の公演Tシャツ、さらにその先の大人の姿と、それぞれの衣装にちゃんと理があって、しかもそれらが役者が場ごとに背負うステイタスをとても端的に表現している。

また、そのアイデアからさらに広がりを作る台本にも感心。
ひとつの発明(?)自体でドヤ顔になることなく、
そこを足場に、二つの時間のはざまに様々なものがしなやかに紡ぎいれられていく。
事象として、2週間の間に彼女に振られていたとか、降板騒ぎになっていたとか、絶妙な力加減でじわじわとしっかり伏線を張っておいて挙句のはてにはインフルエンザ発生とか多彩な出来事の設定で観る側をしっかりと揺さぶり、
一方で2週間の稽古期間で、役者たちがどれだけのものを身につけ、それでもさらに上を目指そうとしているのかといった、日頃、観客には見えない演劇を為すことへの感触や矜持のようなものも織りこんで。

役者も、本当によくキャラクターを作りこんでいました。
けっこう人数をかけた芝居なのですが、それぞれの個性がしっかりと舞台にあり時間を跨いだ色を作り続けていて、だから、時間が前後仕様が異なる世界の人物が混じりあおうが世界がぶれない。

終盤、パラレルワールドがさらに一本増えて、物語がさらに膨らみつつ、見事に回収されていくことに目を瞠る。
観終わって、描かれたパラレルワールドたちが束ねられ、一つの世界観が観る側に残り、冒頭の世界での時間がとてもビビッドに感じられて。
名作「ナイゲン」の時もそうでしたが、シチュエーションがしっかりと歩み、描かれた顛末が、コメディのテイストでちゃんと充足感となり、観る側を満たしてくれる。その作劇力に今回もしっかりと捉われて・・・。
ほんとうにおもしろかったです。

あと、余談ですが、この舞台に描かれた劇団「第六十三小隊」、何年か前に惜しまれつつ解散した国道名を冠する某劇団の姿が紡ぎこまれているように思えて。いろんなエピソードが彼らの記憶と重なるにつれ、作品が作り手の彼らへのちょっとしたオマージュのようにも感じられたことでした。
DOKURITSU KOKKA FES.2014

DOKURITSU KOKKA FES.2014

劇団東京ペンギン

スタジオ空洞(東京都)

2014/06/03 (火) ~ 2014/06/08 (日)公演終了

満足度★★★★

半日かけて
自作自演のフェスティバルを観劇。
作品のテイストが全く異なる作品群なので飽きることがなく、
しかも、異なるテイストがクオリティのばらつきになることなく、
個々の作品で観ても、全体を通しても
しっかりとよく作りこまれていたように思います。

従前の゙公演に比べても、作り手も役者も、芝居を編む力は明確にアップしていて、劇団としてなにかを表現するために力を鍛え蓄える段階から、表現したいものに自らの力をどのように使えるのかを考えるステージへと1段ステップアップした感じ。

ほんと、一つずつの作品が、切っ先をもっていて
面白かったです。

ネタバレBOX

・THEEMPERROR

ツイッターを舞台で表現すること自体は目新しいことではないと思うのですが、ボールが作る質感や貴き方を引っ張り出しての物語の展開には、これまでに感じたことのない洗練がありました。
事象を観る側に想起させ、それを支えるように役者の身体が世界を編んでいく。

フォロー/フォロワーの感覚やカリスマにフォロワーが集まる感覚、さらには物語の展開なども、創意豊かに表現されていました。

また、物語も単純にツイッターの世界を語ることからさらに踏み出しがあり、役者もよく切れていたように思います。

・ケチャップホイップクリーム

観客が一緒に解いていく鉄道パズルに破たんがあるかどうかは正直なところわからなかったのですが、それでも物語を追うことが楽しいと思わせるリズムが舞台にあって。
よしんば、お芝居に若干不安定な部分があったとしても、トーンが崩れていないので、いったん取り込まれたその展開の歩みから外れることがない。メリハリを作りつつそれを重さにせず、物語を歩ませる役者たちの力を感じる。

映像やプラレールの使い方なども、うまく物語と寄り添っていて、ポップなテイストや男女の想いのどこか表層的な部分と謎解きへの興味への重さのさじ加減も良く出来ていたと思います。


・鬼怒裏龍

戯曲として道徳が入試の中心科目になるという設定も面白いし、東京へのあこがれやどこか歪んだ性的な欲望も旨く織りこまれていたように思う。

そして、なによりもその雰囲気を立ち上げ、アイデア倒れにすることなく更なる展開へと歩ませる役者たちの力に目を瞠る。しかも、キャラクターたちの雰囲気や表層の展開から訪れるものが、役者たちの体を張ったお芝居と共に戯曲に埋め込まれたものをさらに晒しあからさまにしていくような感覚があって。

この作品だけ囲み舞台での上演でしたが、その意図もしっかりと伝わってくる。冒頭に漂うコミカルさから踵を返した、抜身の表現の切っ先にしっかりと捉えられてしまいました。

・barber911

開演前の休憩時間には「公式トイレタイム」とか「緩め」などと謙遜しておられましたが、どうしてどうして、仕掛けはきっちり作りこまれていて、緩い感じはまったくありませんでした。

床屋に客がやってきて、なにかがあって、帰っていくという幹になにをひっかけるかの面白さだとおもうのですが、それがたとえば「ゴドー待ち」を垣間見せたり、コーラの一気飲みの披露の場になったり、客に合わせて片手で髪を切る床屋のウィットと心優しさだったり・・・。

そうして、一つずつのアイデアを受け取っているうちに、次第に二人の役者たちの語り口が醸す空気やリズムにならされていくのが、なにか心地よくなってくる。あからさまに何かが語られるわけではないのですが、すっと見えてくるものがあって・・・。
ちょっと無声映画のようなテイストも舞台にはあって(セリフはしっかりあるけれど)面白かったです。


・東京ペンギン

今回の「フェス」のメインディッシュでもあり、多分、今回作り手が一番やりたい作品だったのではと思う。

他の4編が、スタイルというか「xx風」というテイストを持った作品であったのに対して、この作品は作り手が自らの一番馴染む語り口で紡ぎあげていて。
牛丼がパスタであると称される不条理から、グローバルなネットワークを介して供される食べ物のありようが浮かんでくることに驚愕。

もう少しあからさまな寓意や描かれるもの間のかかりがあったほうが、現れる巨大なUFOの姿を観る側がしっかり受け取ることができたかなぁという感じはしましたが、そうであっても後半作り手の意図に思い当たった瞬間、積みあがったものが姿を現わし、冒頭の、店員と客のかみ合わない会話もすっとほどける。
シーン毎に込められているものに、ほんのすこしずつですが饒舌になりすぎたり足りないものがあり、更に洗練しうる部分を感じつつ、でも作品の切り口にはしっかりと捉われました。

270分の長丁場でしたが、一つずつの舞台の色が全く異なっていたので、観ている分にはまったく飽きないし、それほど疲れを感じることもありませんでした。
それぞれにきちんと観る側を手放さない作劇の力量を感じる。
役者さんにも地力がついてきたように思うし、きっとここまでいろいろな舞台を作りうるということは、作り手にも、やりたいことを思うとおりに編むまでの力が生まれてきたのだと思う。

次にこの劇団が、どんなテイストで何を描くのか、とてもたのしみになりました。










『鱈。』の(ら)

『鱈。』の(ら)

Hula-Hooper

渋谷gee-ge.(東京都)

2014/05/15 (木) ~ 2014/05/18 (日)公演終了

満足度★★★★

要所の材質が変わって
従前の「鱈。」は、役者たちが参加する楽しさニ、観る側も「態」で受け取り、想像力で補って巻き込まれていたような感じがあったのですが、今回は観る側の想像力を凌駕して、ダンスや歌や演技で引き込む部分がたくさんあって。

これまでの作品作りからのぞくっとくるような進化に取り込まれてしまいました。

ネタバレBOX

とてもお気楽に観に行ったのですが、その歌やダンスのクオリティは観る側をしっかりと舞台に引き込む力に満ちていて、

グタグタな部分がほとんどなくなり、観る側が委ねうるのびやかな歌としっかり身体を使ったガチなダンスが、会場全体をしなやかな高揚で包んでくれる。

なんだろ、ここ一番がまがい物の面白さではなく、ちゃんとミュージカルの持つグルーブ感やキャッチーな部分とともに作られている感じ。
物語は気持ちよく薄っぺらいのですが、舞台がそこに収まらず、むしろその薄っぺらさを利用して様々なものを解き放っている感じもよい。
まあ、演劇や音楽の舞台に立てば、がっつり舞台を支え切れてしまう「部員」達ばかりな訳で、初日とは思えぬ偶然の産物ではない安定感もしっかりと残って。

今回の「鱈。」、これまでに加えて新たな魅力が加味されていて、私的にはますます嵌りものになってしまいました。

おはなし

おはなし

tamagoPLIN

小劇場B1(東京都)

2014/05/01 (木) ~ 2014/05/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

さりげなくとんでもなく高い表現のクオリティ
若手演出家協会の最終審査を観て、作り手の公演をぜひ見たいと思い足を運び、一つずつのシーンに満ちるもののクオリティの高さに驚く。

ジャンルを言い表せないような(ジャンル分けをすること自体あまり意味のないことかとも思うのですが)、これまでにあまり体験したことのない質感と様々な表現の切っ先を持った舞台でした。

秀でた表現がさりげなく惜しげもなく織りこまれていくので、一瞬たりとも舞台から目が離せず。

最後に姿を現した主人公の想いの肌触りにも心を捉われました。

ネタバレBOX

開演前は、舞台の中央に棺桶がおかれただけのシンプルな舞台。
そこが花いっぱいの世界へとひろがるなんて予想もしなかった。

その花たちの登場のシーンに目を瞠る。最初は家族でやっていた花札の記憶をちょっとオーバーにデフォルメしただけかと思いきや、一つずつの花が舞台にランダムに舞台に現れ、やがてそれらが静かに舞台を巡り、返事をし、お相撲の懸賞の如く名前を提示し、さまざまに開き自らを主張していくという舞台の広がり方にぐいっと惹き込まれる
ちょっと震えが来るくらい、広がりの勢いをもった圧倒的な表現だった。

そこから主人公と花たちのさまざまなベクトルでの関係性が生まれていきます。
役者たちが時に全体の中で献身的に、あるいは個人の力をふるって作り上げる、空間のメリハリにどんどん引き込まれる。
舞台全体のミザンスの作り方やフォーメーションの組み方、言葉遊びにも刹那の遊びにとどめず、つながりの意外性や物語のコアへとつながっていくような寓意がしたたかに込められていて。また伝言ゲームのような言葉の伝達なども、描かれるべきニュアンスを良く引き上手いなぁと思う。

主宰のダンスのしなやかさに目を奪われ、役者たちの歌唱力にも心惹かれ、そしてなにより、その世界が母の死を受容していく主人公の心風景として観る側に伝わってくることに感心。

衣装や役者たちのメークにも描かれるべきものをしっかりと表す力があり、棺桶の模様をちょっとしたプロジェクトマッピング的な手法で描くのも効果的。

初日ということもあってか、ラストシーンの前の集団での時間の作り方などには精度を作りこめなかった感はありましたが、よしんばそうであっても、全体を通してその表現のしなやかさと創意の踏み出しにずっと捉われっぱなし。
主人公が母親の葬儀であいさつする態での最後の台詞もしたたかだなぁと思う。舞台が紡いだ、主人公がその想いに至るまでの道程も心に残りつつ、一つずつの表現のクオリティからやってくる、作品の印象とは異なる、作り手がこれまでになかったエンジンで紡ぎ出す作品の質・量それぞれへのわくわく感が終演後も止まりませんでした。

紙風船文様4

紙風船文様4

カトリ企画UR

新宿眼科画廊(東京都)

2014/04/11 (金) ~ 2014/04/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

女性の感性と交わる岸田戯曲
開場時から終演まで、奇を衒うことなく、実直に、
でもしっかりとメリハリを紡ぎ描かれていく「紙風船文様」に
しっかりと取り込まれました。

そして、終わってみれば、これまでの同作品とは異なる、女性の想いの質感がしっかりと残っていました。

役者の刹那ごとを緻密に作り出す力に加えて、演出の戯曲を取り込み描く力をしっかりと感じることができました。

ネタバレBOX

場内に入ると役者達や演出家がアップをしていて、それが終わると場の掃除や本番に向けての仕込みでコーヒーを沸かしたり・・・。
よしんば客入れ中であっても、作業が終わっ会場の隅の方に佇む役者を観ていると、夫婦の常なる時間に感じられる。
やがて、舞台が始まるとワイドショーのインタビューの態が作られ、それぞれの結婚観が語られ、それが結婚前の二人の時間のようにも思えて。
そうして、おざなりに全てが一致というわけではない、実存感を持った男女の新居の風景が生まれ、そのまま岸田戯曲に描かれた時が組み上げられていきます。

演出はダンサーでもあり振付家でもあるし、彼女が身体で紡ぐ極めて秀逸な作品を幾度となく観ているので、戯曲の本編がどのように捌かれこの空間を満たしていくのかと前のめりになって見つめる。でも、そこに現れたのはダンス的な動きではなく、作り手が役者達のロールを担い作り上げる力を信頼しまっすぐに引き出し組まれていく、会話で織り上げられた揺蕩うような夫婦の時間。
ナチュラルな会話のテンポや間が役者達の呼吸とともに紡がれ、観る側をそのひとときごとに引き入れて。とても柔らかな質感を持った夫婦のあいだに生まれる感情がくっきりと観る側に伝わってくる。
舞台が必ずしも息詰まるような密度で観る側を閉じ込めているわけではなく、むしろその空気に塗りこめられない個々の想いの中庸さが、役者達がつくる刹那ごとの距離や視線の方向裏打ちされた台詞と共に、良い意味であからさまに組み上がっていくような感じ。

鎌倉を巡る二人の遊び心も、徒に尖って世界を踏み出したり身体で歌舞いたりすることはなく、でも丁寧な所作に裏打ちされ、会話の確かさが仮初の風景に質感を与えていく。だからこそ、その先に訪れる妻から突出するように溢れる感情や男のとてもしなやかにうすっぺらい当惑、さらには、キャラクターたちが同じふたたび同じ感情の満ち干に戻る滅失感などが、無理なく、観る側に違和感を与えることなく、必然をもち、日曜日に満ちる、常ならぬ、常なる時間の感覚として観る側を捉えていくのです。

この戯曲は男性の書いたものだし、カトリ企画に留まらず他の機会に上演されたこの作品の舞台を思い出しても、妻や夫の感情は夢の膨らみと対比しての諦観や満たされなさという男性にも理解しうる概念に削ぎ出され伝わってきたのですが、この舞台にはその過程をすっと飛び越えて女性自身にも理屈ではつかみきれぬままに湧き上がってくるような感情があって。鎌倉の顛末ではなく、そこで踏み出し、戯曲の枠組みを超えて溢れ、観る側に染み入ってくるものがあって、圧倒される。

終演後も、これまでに観た同じ戯曲の舞台とは異なる、ちょっと倦怠期ぎみという夫婦の切り取られた時間の座標とその中でのキャクターたちの日々の質感が、開演前や前段とともに作られた二人の日々の俯瞰と、女性に積もったものの肌触りや感情のこぼれ方の交わりから切り出されずっと残ったことでした。
ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇

シアターオルト Theatre Ort

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/04/03 (木) ~ 2014/04/13 (日)公演終了

満足度★★★★

広がる世界のメリハリに引き込まれる
プログラムA( 『想稿・銀河鉄道の夜』とD(4 リーディング『銀河鉄道の夜』 )を観ました。

どちらも役者たちを楽しんでいるうちに気が付けば宮沢賢治の世界にどっぷりと浸されていて。

それぞれの作品が描き出す世界の余韻がしっかりと残りました。

ネタバレBOX

A:4月6日

観終わって、なんというか滋養豊かな舞台だなぁと思う。
テイストの異なる役者達それぞれのお芝居の確かさが、
織り込まれた遊び心で場の空気を解き、束ねていく。
役者達が幾つもの色で織り上げる刹那が本当にふくよかで楽しいのですよ。
でもそのことが、人が直面し、想い、やがて受容する死のありようとそれを抱きながら生きることに瑞々しい感覚を織り込んでいきます。
舞台が密度をもっても物語の広がりを縛ることなく、
密度が解けても戯曲の世界をあいまいにすることなく、
物語に戯曲への新たな実感に導き作り手の世界に血を通わせていく。
気が付けば大きな机は宇宙となり、Nケージの汽車の動きが
そこに流れる時間や人のの美術や照明もそれらにしなやかな座標と俯瞰を与えている。

観終わってその舞台の楽しさの先に、やわらかく深い切なさが心に満ちいつまでも残りました。

D:4月11日

なにか即興的な側面も随所に垣間見える舞台で、始まってしばらくは役者たちが互いに自らのトーンを探り、間を取り合い、時にちょ、っとはみ出しながら物語を編み上げる感じがなんとも面白かったです。
時にお芝居が脱線してしまうような部分もあったのですが、
でもその解け方の強さが、そのまま作品のメリハリになり、
やがてロールたちの色が定まり、リズムや息遣いが束ねらると、それまでの良い意味でのぐだぐださが、振り子のように整えされた世界を際立たせ、役者たちひとりずつの力量が舞台の柔らかさを次第に戯曲の世界の広がりに変化させていくことに舌を巻く。

Aと同じ舞台が使われていて、気が付けば汽車の動きが時間と宇宙をめぐり、物語がその上に刻まれみるがわに置かれていて。

そのテイストがとてもキャッチーで面白かったです。
マームと誰かさん・ごにんめ 名久井直子 さん(ブックデザイナー)とジプシー

マームと誰かさん・ごにんめ 名久井直子 さん(ブックデザイナー)とジプシー

マームとジプシー

VACANT(東京都)

2014/03/29 (土) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★★

装丁を為すこと、演劇を為すこと
役者によってしなやかに語られる装丁者の言葉や想いに、「本」に対する新たな感覚が生まれる。翻ってその作業が照らし出す演劇の新たな側面にも息を呑みました。

ネタバレBOX

場内に入ると、たくさんの書籍や雑誌が展示されていて。
会場の中央には四角の囲み舞台、奥にはスクリーン。席をとって、ドリンクを引きかえて、「ご自由に手にとってご覧ください」との表示に甘えて、展示されている本たちをとりあげ、そのさわりを読んだりしながら開演を待ちます。
やがて役者が水を張ったボゥルを手に持って現れる。後で香りの元だと知れる何かをビンから注ぎいれて開演の準備。
舞台面の奥にはパソコンが置かれたテーブルがあり、そこに今回の誰かさん、ブックデザイナーの名久井直子さんが座って・・。一瞬の静寂から踏み出して舞台が始まります。

素の態での語りから、リーディングが始まる。
光や音が呼吸を始め、映像がその世界に重なり、役者の所作のひとつずつを映えさせ、語られる言葉を際立たせて、観る側を作品に取り込んでいく。
そうして、空間に観る側を閉じ込めると、役者は、素のトーンに戻り、名久井さんの言葉を自らのことの如くに綴り始めていきます。装丁の作業のこと、一冊ずつの本に対しての装丁者のこだわりや、苦労話。
役者のさりげなくでもよく研がれた身体の動き、リーディングとおなじように光や音、映像が、彼女が語った仕事の内容や、それを為す感覚や想いや、感じるたことが、演劇の語り口とともに編み上げる。
栃の香りを注ぎいれられたボウルの水から微かに漂ってくる香りは、名久井さんが幼いころ近くにあった製紙工場の香りを思い出させるものだというエピソードも、観る側に彼女が抱く感覚の一部を垣間見せてくれる。

変わらずにパソコンに見入る名久井さんがいて、役者が演じる名久井さんの言葉があって。
「自らの言葉をもたない」名久井さんが、本のコンテンツに、演劇のメソッドで表された世界とともに新たな彩りを加えていくことが、とても自然なテイストで伝わってきます。
そして、、同じく「自らの言葉を持たない」役者が和久井さん自身の世界を切り取り、際立たせ演劇の世界として組み上げることが、役者が演じるもの、もっと言えば戯曲と演じ手の関係や演劇を為すことに新たな視座を与えてくれる。
ブックデザインと演劇の「表現すること」が重なり、
複眼的に、装丁を施すことと演じることの創意のありようを浮かび上がらせ、映えさせ、観る側に伝えていくのです。

終わりに再び掌編が演劇の創意とともにいくつか舞台に編まれる。
女優が紡ぎたすその刹那には
冒頭とは異なる、新たなベクトルが加わった印象が生まれていていて。
また、終演後、再び展示されている本を手に取ると、
よしんばかつて読んだ作品であっても、小説やエッセイのコンテンツだけではない、本の肌触りやそのデザインが新たに語りかけるものがあって。

そのどちらの感覚にも、深く心を惹かれたことでした。
さらに/ハイ・クオリティー

さらに/ハイ・クオリティー

ナカゴー

王子小劇場(東京都)

2014/03/25 (火) ~ 2014/04/03 (木)公演終了

満足度★★★★

ここまで貫いていただければ
2日に分けて両作品を観劇。
いろいろと突き抜けていたなぁ。でも、どちらの作品にもその設定のナンセンスさや下世話さが人間が原点にもつ何かを温度や高揚感とともに組み上げていくことに瞠目。
ナカゴーワールドにどっぷりと浸されてしまいました。

ネタバレBOX

☆ハイ・クオリティ

以前阿佐ヶ谷の公演などでも登場した掃除機ペットが更に進化して再登場。実はこの設定、個人的には結構ファンだっりもして。

それが、フンをしたり、交尾したり子供ができたりという展開も、なかなかに楽しいのですが、それを維持する掃除をする側がロボになっていて、メモリーの容量がギガからテラへと進化してことでの展開が、次第に観る側を惹きつけ、進化の禍々しさにも強かに捉われて。

舞台の熱というか表現の執拗さが、ロボと人の乗っ取りあいにボリューム感を作り、その貫きが観る側をさらに舞台にがっつりと閉じ込めて。
冷静に考えると、素敵に薄っぺらい話なのですが、役者たちの豊かな力をさらに解き放ち物語に充足感を与える作り手の作劇に舌を巻きました。

☆さらに
まあ、ひどい話ではあるのです。戯画的であってもしっかり猥雑だし、あからさまだし、露骨だし。阿部定の如くあれを切り取ってしまうあたりの血の色も妙にリアルだし・・。
でも、その設定の中で、役者たちがキャラクターの個性を献身的に編み上げていて、物語がペラペラにならず、ちゃんとその奥への階段を作り出していく。

気が付けば置かれた劣情や不快感が、人間のコアにある欲望のありようを引き出し、仮初の連帯感や高揚感に観る側を取り込んでいく燃料になっていて。終盤の舞台全体の熱にもろに取り込まれてしまいました。

ほんと、癖になるなにかをもった2作品でありました。




痒み

痒み

On7

シアター711(東京都)

2014/03/25 (火) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

強かな人生の切り出し方
初日を拝見。

物語の仕掛けが見えるまで観る側をしっかりと捉えて離さない役者たちの力に捉えられ、その仕掛けに気づくと、こんどはシーンや 登場人物の描き出す刹那のひとりずつに編み込まれた作り手の寓意にも深く惹きこまれて。

舞台に放たれ、束ねられ、やがて踵を返して浮かび上がる女性たちの生きていく感覚や想いやその歩みには、この作り手と役者たちだからこその切っ先があって。
その力量の重なりから訪れるものに、がっつりとつかまってしまいました

ネタバレBOX

久しぶりに集まった女性たちがそれぞれに抱く感情や想いの話かなぁと思って観ていたら、物語の思いもよらない展開にびっくり。

共に乗った飛行機の墜落で女性たちは辿りついた場所での時間に放り出される。そこで暮らす日々の情景に女性たちの人生にかかわる様々な寓意が織り込まれていきます。
最初は彼女たちが環境の中で生きていく姿を追っていたのですが、やがて、物語の寓意がほどけていくと、彼女たちがその場所で変容していく姿の向こうに現れるものに、深く取り込まれていく。
分かれ、時に交わりあるいは離れていく女性のグループ内の関係。
憧れや嫌悪。
妊娠・出産、子供、離婚や再婚、
家事、食べること、帰ることや帰らないこと、家庭を守ること、そうして自分の世界を貫くこと・・・、
異世界の設定や彼女たち自身の衣装・風貌の変化とともに表現されるものが、解けて生身の女性たちのありようとなり、それぞれの個性となり際立っていくのはかなり凄い。
たとえば虫は世間とか噂とか風聞のようなものだろうか。
では、おかしな形をした果実やシェルターに紡ぎこまれたものは?
森や砂漠の空気の肌触り、戻ることと戻らないこと、
そもそも旅行券に込められた寓意とは・・・。
舞台に置かれたものの一つずつが、いろんな速度や重さや質感と共に女性たちの歩みや彼女たちの想いを纏っていく。
それらが、やがて垣間見える女性たちの人生にリアリティをあたえていくのです。

様々なシーンの意図を切り出し映えさせる美術や照明にも創意があり、原点となる記憶の差し込み方や、心情を伝える映像もダイレクトにロールに訪れる色を観る側に注ぎ込む力があって。
そして、なによりも、一つずつのキャラクターのコアを作りこみ、様々な語り口をしなやかに重ね、変化にぶれることなく貫いていく女優たちの役者筋が、一見奇異にも感じる物語のシーン一つずつに異なる密度をつくり、バラけさせることなく積み上げ、やがて表に翻って女性たちの歩んだ半生の肌触りや質量を観る側に伝えていくことに感嘆。

終盤、寓意に満ちた物語が老婆となったサークルのメンバーが集い語るそれぞれの人生へとほどけるなかで訪れる、一人ずつの異なった、決して奇異ではない、でも凡庸ではない歩みの重なりに心捉われる。しかも、そのシーンが彼女たちの終焉ではなく、更なる時間を歩むための通過点のようにも感じられて。

またウィットもいろいろに織りこまれ、物語に織り入れられた企みも、すぐにほどけるもの、ゆっくりと姿をあらわすもの、作品がすべて晒され劇場からの帰り道にふっと気づくものなど、様々な深さや広がりを観る側が受け取ることができるように仕掛けられていて、作り手のセンスに加えて豊かな創意と企てのしたたかさに感心。

観終わって、単に女性たちの人生のありようを観たというだけではない、もっと広がりや奥行きを伴った感覚に深く浸されたことでした。
OLと課長さん

OLと課長さん

関村俊介と川村紗也と浅野千鶴の三人芝居

スタジオ空洞(東京都)

2014/03/21 (金) ~ 2014/03/23 (日)公演終了

満足度★★★★

緩急のしたたかさに驚愕
おもしろかったなぁ。
役者たちのいろんな緩急が導き出すものに、
どっぷりと引き入れられました。

ネタバレBOX

比較的少人数での運営をされているみたいで、
開演前から、OL役のおふたりが庶務を行う如く、制作的な動きもされていて。
そのふたりを、課長が集めて、さあ仕事という感じで舞台を始めるのも
手作り感満載でとてもおもしろい。

で、舞台がはじまると、作り手ならではの空気感がじわっと会場を浸し
観る側をとりこんでいきます。
先輩・後輩の二人の会話がとてもナチュラルなトーンで
どこか軌道を外れていくのがじわっとおかしく、
でも、その一方で二人の女優が貫くキャラクターがしっかりと組まれぶれがないので、観る側がするっとその世界に閉じ込められてしまう。

そこに現れた課長が二人に突っ込みをいれていくのですが、
作り手のいつもの作品にくらべて、その切っ先がちょいと弱い感じがして。
最初は、あれっとおもったのですが、
次第に、その弱さの向こうにOL二人の扱いづらさというか、食えなさが、
醸し出されていくことに驚嘆。
内々ではどこか噛み合わない二人なのに、課長に対して、ひなが親鳥をみるように見つめる姿の可憐さなども織り込まれ、さらに中間管理職の悲哀さえ感じさせたりも。

45分ほどの短い尺の、いわゆる駄弁芝居だとは思うのですが、
気が付けば、ベンチだけの舞台に、
公園のありふれた風景が浮かび、
3人の距離や昼休みの時間の肌触りや、キャラクターの実存感やそれぞれに抱く刹那の感覚すらくっきりと残って。

作り手があひるなんちゃらで描き出すものとは、また一味異なる繊細な太さにしたたかに捉えられました。



キャンディー

キャンディー

フルリールスタジオ

フルリールスタジオ(東京都)

2014/03/14 (金) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★

実質初舞台ではあっても
役者が描き出すものが、
ぶれなく、まっすぐで、
だからこそ、その年代の女性というか女の子の肌触りが生まれていて。

作り手ならではの語り口がしっかりと生きた舞台でありました。

ネタバレBOX

初舞台の役者さんがいらっしゃっても、
テンションとか感情とか、抱く思いの機微なども
要所がうまくコントロールされていて、
観る側にあるがごとくに伝わってくる。

いろんな要素を多面的に組み上げて
キャラクターたちの内面を細微に描き出すのではなく、
むしろ、刹那の気持ちや思いつきやテンションの
大人になりきれていない部分をそのままに舞台に置いていく感じも効果的。

ありのままに伝わってくるものの、
その足りない部分というか至らない部分が
そのままに、うまく切り出されていて、
十代後半の女性のリアリティにつながっていたように思います。

脇の役者たちも、それぞれのお芝居で
必ずしも大人と少女という対比や同世代という置かれ方ではなく
彼らの年代としての未熟さやずるさや薄っぺらさを織り上げつつ
主人公たちが醸す肌触りを映えさせていて。
物語のプロットも、決して複雑ではないけれど、
彼女たちが生きる時間をうまく開示する仕掛けが
作られていたように感じました。




東 京<reprise>

東 京<reprise>

THE TRICKTOPS

王子小劇場(東京都)

2014/03/07 (金) ~ 2014/03/10 (月)公演終了

満足度★★★★

良く組み立てられてはいるけれど
置かれたいくつかの物語がぼやけずにくっきりと描き出されているし、
その顛末もよく束ねられていたと思います。

一方で、もっと膨らんでもよいかなぁという余白を感じる部分もありました。

ネタバレBOX

エピソードたちの一つずつが、丁寧に回収されていくなかで、
駅の風情も良く描かれていて、
駅の日常の肌触りと、そこに交わっていく人々の時間も
実感として感じられる。

駅の裏側というか、そこに働くスタッフたちが
それぞれにウィットと実存感をうまく作りあげていて、
駅の枠組みを作り、物語を支え、歩ませ、ウィットを差し込み、映えさせる。
置かれるエピソードの一つずつは、ある意味ディテールが希薄なのですが
そこに駅の風景が置かれると、
その一つずつの刹那にすっと血がかようような感じがやってくる。

そして、場に置かれた関係たちは、太陽と月の関係に
束ねられていきます。
紡がれたキャラクターたちの想いに新たな視座が生まれる。
良くまとめられてはいるのです。
ただ・・・、その「太陽と月の関係」ということが
すこし物語の前に出過ぎているというか、
その関係から舞台に描かれていくものが広がっていくというよりは
その関係に物語が束ねられ収束していくように感じられる。
駅に編まれた時間と、そこに置かれた様々な関係が
観る側に広がり共振するのではなく、
一つの箱に納められてしまったように訪れて。、
そこまでに描かれた駅の雰囲気と、そこに浮かぶ「太陽と月」の関係が
もっと広がる描き方のベクトルがあるのではとも思いました。









若手演出家コンクー2013 最終審会 

若手演出家コンクー2013 最終審会 

一般社団法人 日本演出者協会

「劇」小劇場(東京都)

2014/03/04 (火) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★

個性満載での面白さ
たまたま、決勝進出のある芝居を、従前に観たものの再演として観にいったのですが、その空間や空気が面白く、チケットシステム(通常の1公演分の料金で4公演すべてを観ることができる)にも乗っかって、全部を拝見しました。

ほんと、個性の被らない4団体、たっぷりと楽しむことができました。

ネタバレBOX

観た順に・・・

1.山下 由 『ハミング イン ウォーター』

Pitymanの公演としてこりっちに登録があるので、少し詳しめの感想をそちらに書きました。
多分、戯曲を読んだだけでは伝わりえないであろう空気が、しっかりと舞台に紡ぎ出されていて心を奪われました。

2.スズキ拓朗 『FRIEND~踊る戯曲~』

評判は従前からきいていて、一度観たいと思っていた劇団主宰の作品ということで、わくわくと足を運びました。
安部公房の戯曲はとても昔にですが読んだこともあり、また、他劇団で観たこともあり。
舞台が始まると、忽ち美術にも舞台のミザンスの作り方や役者たちの動きに目を奪われる。ダンスなどにはそれ自体のメソッドで語るのではなく、物語にしっかりと紡ぎこまれて観る側を捕まえていく感じがあって。
だから、戯曲に対して舞台が浮くことなく、着実に戯曲の世界を観る側に歩ませてくれる。そこには、演じることの洗練があり、戯曲のシーンが、作り手の
表現と共に鮮やかに研がれ、切り出されているように感じました。

ただ、観終わって、戯曲の世界を戯曲どおりの枠のなかでがっつり楽しみはしたし、役者やダンサー、さらにアコーディオンと歌の醸し出す雰囲気にも心惹かれたのですが、なんだろ、これだけの表現力を駆使しているにも関わらず、戯曲の印象への忠実さがとても強くのこり、戯曲をこのメソッドで表現するからこその新たな広がりというか、表現だけではなく、その表現を手段として戯曲を踏み越えて訪れるなにかが、今一つ実感できませんでした。
秀逸な舞台であったようには思うのですが、既存の戯曲に縛られることなく、作り手の創意に裏打ちされた作品を観たい気持ちの方が強く残りました。

3.シライケイタ 『山の声ーある登山者の追想ー』

骨組がとてもしっかりと作られた作品で、記録を読み上げるような外枠の説明にもあざとさがなく、観る側としてすっと世界に入っていける。
シーンごとの緩急も強かに作られていて、その語り口にも、解けていく物語の時間軸に観る側を戸惑わせない端正さを感じる。
中盤までは、観る側をしっかりと委ねさせる密度や緩急があって、その厚みにぐっと取り込まれる。
また、描かれるものの視座を最後まで隠し通す力量も役者たちにはあって。

ただ、惜しむらくは、後半の猛吹雪のシーンの映像というか効果が生む舞台上の質感がそれまでの語り口の密度とやや乖離しており、その部分だけが舞台の流れと異なったトーンに感じられる。
そこまでのシーンは、終わって初めてわかることとはいえ、素舞台に近い中で役者たちが、光と音を纏いつつしっかりと主人公の視座から見えるものを立体的に紡ぎ出していたのですが、さらに加わるイメージが役者たちの描くもの
をもっと広く浅く薄めてしまったようにも思われて。
それでも、主人公の今を語るラストシーンには、そこまで積み上げてきたものから生まれる物語の新たな視野に捉えられたのですが、もし今回のような段取りで物語を描くのであれば、シーンの重さの作り方などにも更なる工夫の余地があるように感じました。

4.澤野正樹 『FESTIVAL/ONOBORI ートーホクをヌぐー』

男優のみの舞台。入場時からの劇場全体の雰囲気づくりもしっかりとできていて、観る側をうまく彼らの世界に導いていたように思います。
ネタなどは鉄割アルバトロスケットなどのやり方を思い出すものもあったのですが、そこから表現しようとするものには、作り手としてのフォーカスを感じることができる。

下世話であっても、基本的にハレのノリがそこにはあって、
観客をしっかりと楽しませつつ、その奥にキャラクターたちの心情を
描き出していたように思います。

但し、舞台として観たときに、しっかりと作りこまれている部分と、細かい雑さが混在しているのが少々気になる。
ダンスなどにしても、もしもその雑さで恣意的に勢いやウマ下手を表現しようとしているのであれば、必ずしも機能していない気がするし、逆にところどころに観られるしっかりと圧力をもった表現がふらつかなければ、もっと多くのニュアンスを作品に作りこめる感じがする。

単にベタというのとは少し異なる奥行きも垣間見え、作り手が今後どのような歩みをするのかを気にさせる力は十分にありました。





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