紙風船文様4 公演情報 カトリ企画UR「紙風船文様4」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    女性の感性と交わる岸田戯曲
    開場時から終演まで、奇を衒うことなく、実直に、
    でもしっかりとメリハリを紡ぎ描かれていく「紙風船文様」に
    しっかりと取り込まれました。

    そして、終わってみれば、これまでの同作品とは異なる、女性の想いの質感がしっかりと残っていました。

    役者の刹那ごとを緻密に作り出す力に加えて、演出の戯曲を取り込み描く力をしっかりと感じることができました。

    ネタバレBOX

    場内に入ると役者達や演出家がアップをしていて、それが終わると場の掃除や本番に向けての仕込みでコーヒーを沸かしたり・・・。
    よしんば客入れ中であっても、作業が終わっ会場の隅の方に佇む役者を観ていると、夫婦の常なる時間に感じられる。
    やがて、舞台が始まるとワイドショーのインタビューの態が作られ、それぞれの結婚観が語られ、それが結婚前の二人の時間のようにも思えて。
    そうして、おざなりに全てが一致というわけではない、実存感を持った男女の新居の風景が生まれ、そのまま岸田戯曲に描かれた時が組み上げられていきます。

    演出はダンサーでもあり振付家でもあるし、彼女が身体で紡ぐ極めて秀逸な作品を幾度となく観ているので、戯曲の本編がどのように捌かれこの空間を満たしていくのかと前のめりになって見つめる。でも、そこに現れたのはダンス的な動きではなく、作り手が役者達のロールを担い作り上げる力を信頼しまっすぐに引き出し組まれていく、会話で織り上げられた揺蕩うような夫婦の時間。
    ナチュラルな会話のテンポや間が役者達の呼吸とともに紡がれ、観る側をそのひとときごとに引き入れて。とても柔らかな質感を持った夫婦のあいだに生まれる感情がくっきりと観る側に伝わってくる。
    舞台が必ずしも息詰まるような密度で観る側を閉じ込めているわけではなく、むしろその空気に塗りこめられない個々の想いの中庸さが、役者達がつくる刹那ごとの距離や視線の方向裏打ちされた台詞と共に、良い意味であからさまに組み上がっていくような感じ。

    鎌倉を巡る二人の遊び心も、徒に尖って世界を踏み出したり身体で歌舞いたりすることはなく、でも丁寧な所作に裏打ちされ、会話の確かさが仮初の風景に質感を与えていく。だからこそ、その先に訪れる妻から突出するように溢れる感情や男のとてもしなやかにうすっぺらい当惑、さらには、キャラクターたちが同じふたたび同じ感情の満ち干に戻る滅失感などが、無理なく、観る側に違和感を与えることなく、必然をもち、日曜日に満ちる、常ならぬ、常なる時間の感覚として観る側を捉えていくのです。

    この戯曲は男性の書いたものだし、カトリ企画に留まらず他の機会に上演されたこの作品の舞台を思い出しても、妻や夫の感情は夢の膨らみと対比しての諦観や満たされなさという男性にも理解しうる概念に削ぎ出され伝わってきたのですが、この舞台にはその過程をすっと飛び越えて女性自身にも理屈ではつかみきれぬままに湧き上がってくるような感情があって。鎌倉の顛末ではなく、そこで踏み出し、戯曲の枠組みを超えて溢れ、観る側に染み入ってくるものがあって、圧倒される。

    終演後も、これまでに観た同じ戯曲の舞台とは異なる、ちょっと倦怠期ぎみという夫婦の切り取られた時間の座標とその中でのキャクターたちの日々の質感が、開演前や前段とともに作られた二人の日々の俯瞰と、女性に積もったものの肌触りや感情のこぼれ方の交わりから切り出されずっと残ったことでした。

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    2014/04/20 09:27

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