ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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一軒の家・一本の樹・一人の息子

一軒の家・一本の樹・一人の息子

ぷらんぷらん

こった創作空間(東京都)

2016/11/17 (木) ~ 2016/11/23 (水)公演終了

満足度★★★

更に精進を
 第2回公演とあって、未だ演劇の創り方に余り習熟していないという印象を受けた。

ネタバレBOX

真面目そうで、インセンティブもあるので、余り星印を低くは付けないが、これは、これからに期待してのおまけである。
 先ずシナリオに関してだが、係長になり立ての33歳の既婚男性が一戸建ての家を購入した。これが発端である。一介のサラリーマンにとって一戸建てを購入するということは、人生最大の大事であろう。だが、下見などを一切行わずに頭金を支払い、ローンを組んだ後で不動産屋を訊ねるが、その不動産屋はもぬけの空。
 つまり詐欺にあって、今まで住んで居た社員寮を追い出されるという結果が待っていた。という流れで書かれたのならまだしも。
最終部分を先頭に持ってきて、そうなった経緯を演じるという形なのだ。人生の大事にドジを踏んだエクスキューズを、こんな間抜けがいくら嘆いた所で同情する者などあるまい。この辺り、リアリティーに欠けていることがこのシナリオ最大の欠点だろう。
 而も、演出が構成をひっくり返すような効果的な施策を取っていない。この話は順接で持っていった方が、ドラマチックになる。

Birthdays

Birthdays

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2016/11/16 (水) ~ 2016/11/20 (日)公演終了

満足度★★★★

Bチームを拝見 花四つ星

 各作品55分。観客の投票で得票数が多い作品を作った側が次のコンペに進めるという企画。

ネタバレBOX

「HAL」は、キューブリックの「2001年宇宙の旅」に登場するメインコンピュータの名であるが、当然のことながら、今作もAIの発達する近未来を念頭に作られている。世の中には、我々の住み、暮らす世の中が、高度な知的生物によって創られたのみならず、彼らによって改変されたり、管理・観察されているという説があって、今作はそういう前提に立って、もし自分自身がそのような立場に立ったなら? を描くことで命の意味する所をSF的に描いている。このような高次の生き物が、一種の実験を行っているという説がどのようにして生まれたのか? についての知見は様々なレベルで回答があるであろうが、面白いのは、銀河系の構造と我らの脳内のdendro‐dendritic synapseの構造が良く似ているということにある、ということだ。まあ、こういった仮説に立っての物語の展開である。
 シナリオの理論構築面、すっきりしたセンスについては、こちらに軍配を上げたい所だが、そんなに演劇は単純ではない。即ち人間存在の深みを表すには、更に工夫が必要という側面があるからである。
 自分の評価では、もう1本の「ららら」が人間性の深みを描いた点では、こちらに分がある。総合で互角。甲乙つけがたかった。どうしても、というのであれば自分の好みでつけるしかない厳しい選択であった。
 因みに「ららら」の概要は、旧華族の独り息子に嫁いだ庶民の娘は、プライドの高い義母からは、恰も奴隷のように扱われているが、夫は幼児、何かというと蔵に閉じ込められた経験がトラウマとなっていて母の言いつけに背くことができず、結果妊娠9か月になる妻を庇うことすらできない。ところでこの親子3人が旅行をして泊まったホテルで、嵐の夜、妊婦が階段から落ちてお腹の子も本人も命の危機に晒される。現在このホテルの支配人をしている女性は元看護士。近くに医者もおらず、緊急事態の中で彼女が産婆役を務めることになった。(彼女が看護師を止めたのは医療行為を行って免許をはく奪された為だが、やむにやまれぬ状況下でそうしたのであろうことは、作品の中で描かれる彼女のキャラから明白である。)幸い、母子共に助けることができたが、今作にはサブストーリーがある。商事会社でトップの成績を誇るエリート商社マンと旧同僚の女との妊娠騒動である。妊娠6か月で流産の憂き目に追いやられたのみならず、商社を退職させられた女が、その復讐をしようと彼が泊まっているホテルを訊ねて来たのである。当初、自分の責任を認めたがらなかった商社マンが、上記の顛末に接し、自らの罪を認めて、女に心から侘び、彼女の汚名挽回に動こうと決意するまでが描かれる。更に、このホテルで働く者や出入り業者たちの過去を示唆し、支配人が如何なる人物であるかを示唆することで、作品に一本筋を通した。



vol.18<DADDY WHO?>

vol.18<DADDY WHO?>

天才劇団バカバッカ

サンモールスタジオ(東京都)

2016/11/16 (水) ~ 2016/11/27 (日)公演終了

満足度★★★★

白倉バージョンを拝見
 或る家の居間。

ネタバレBOX

下手に入口があり、下手奥正面には二連の棚。棚には様々な飾り物や本が並べられている。その上手、舞台ほぼ中央の奥の壁には幼稚園児か小学生が描いたようなDaddyの絵が1枚掛けられており、その右手は、庭に面した窓。その上手にはスツール型の椅子に載せられた小型のトーテムポールが見える。更に上手壁際にも棚、書籍が並べられている。
 オープニング、庭に面した窓が内側から光が溢れるような感触でライトアップされる。同時にDaddyの絵もピンポイントで浮かび上がる。実に情景豊かなオープニングである。
 下手入口から、先ず入ってきたのは、喪主。続いて喪服姿の女がマイク片手に歌いながら入ってくる。この辺りから、シュールな雰囲気が漂うが、次々に入ってくる男も女も殆どがどこか怪しい。例えばおれおれ詐欺のような会話をしながら蟹股で入ってきた男。肩で風を切り、何かと言えば突っかかる。チンピラそのものといった感じの男であるが、皆ビビって引いている。他にもギャンギャン騒ぎながら飛び回るジャリ娘。彼女はズカガールだ、とノタマウ。他にも音楽を聴きながら時々ポーズを決め、かたっぱしから女をナンパしようとるる男。唯一、まともに見えるのがちょっと年配の男である。教師をしているという彼は矢張り、落ち着いているように見える。何れにせよ、一癖二癖ある輩ばかりという感じなのだが、かれらは殆どの人物がほぼ初対面であり、何の為にこの場所に今集められているのか見当をつけかねていた。そこで自己紹介しようということになり、互いに自己紹介を始めるが、ここでも一悶着。まるで、でこぼこコンビのスラップスティックという感じである。
 アドリブの多い餡子部分がふんだんに演じられるが、では、この会議が収束に向かわないか? というと見事に収束する。而も可也良いオチである。
風車〜かざぐるま〜

風車〜かざぐるま〜

ものづくり計画

萬劇場(東京都)

2016/11/16 (水) ~ 2016/11/27 (日)公演終了

満足度★★★★

分断から
 三部作の最終章ということのようだが、自分は第一部、二部とも拝見していない。無論、それでも独立性は保たれているので、観劇に問題は全然なかった。

ネタバレBOX

 舞台は瀬戸内海に浮かぶ小島の物語である。どの地方も過疎化と高齢化に悩み、具体的な成功手法を見出せず、その多くは原発関連の交付金や国からの交付金目当てで、本当に地元に必要なことでなくとも、目先の便利さや豊かさに目を晦まされて真の問題に目を向けようとする力に結集し得ていない。このことが、子供をこれから作り育てて行こうとする世代の、核汚染に纏わる嘘や見識などまるでない政治屋共への不信感を背景に対立を育ててゆく。無論、先行世代の中にも若者と似た危機感を持つ者達が居る。多くの場合、それは自然を深く知っていると同時に世界との関係を知る者達である。そういう民衆の代表に漁師などが位置するであろう。実際、今作でも原発に反対している知恵ある爺さんは、漁師である。漁師は、仮に今は瀬戸内海の漁師であっても、若い頃には鮪漁船に乗ってマーシャル海域で仕事をしていた者も居るであろうし、地球表面積の7割を占める海で生きる以上、外界との接触可能性の中で物を見、考える。ここが、その原住地に縛られる百姓との決定的違いである。どちらが優れているとか居ないとかの話ではなく、職業差は意識的に克服してゆくべきなのである。そのパースペクティブを持てるか持てないかの違いでもある。若者にとって、可能性が大である方が無論選択肢の上位を占める。生きてゆかねばならぬのであるから。自分達の子供を産み・育てることを含めて。今作はこのような対立を主軸としつつも、現実に起こる具体的な事例をつぶさに展開している点で評価できよう。島へ新たに定住したいという希望者獲得の為に非常識にも、対立の一方の旗頭であった人物が死んだ、というデマを流して島を離れた人々の結集を図るなどという悲惨で滑稽な話が具体化している点に過疎の深刻な有様が見て取れる。
 面白く感じたのは、舞台奥に描かれた漫画チックでダサイ絵が、終盤いい絵に見えてくる点である。分裂していた島民たちに再び融和とパースペクティブが戻って来た証として、笑顔に溢れたこの絵が未来を指し示すものとして見えてくる。
サスライ7 Part3-転 シンジツ-

サスライ7 Part3-転 シンジツ-

東京アンテナコンテナ

ザ・ポケット(東京都)

2016/11/15 (火) ~ 2016/11/20 (日)公演終了

満足度★★★★

Bチームを拝見
イジリーさん飛ばし過ぎ!

ネタバレBOX

 幼馴染の勇次とみゆきは、歌でビッグになることを夢見、東京に出て一旗揚げようと頑張っている。一方入退院を繰り返す体の弱い弟を持つ務は、両親を早く失くしている為、勇次と互いに助け合って仕事を紹介しあったりしていた。ところでこの街が最近活性化したのは、地元の若手政治家が海外から企業を誘致したからであった。だが、彼の秘書は、企業誘致の際、関わり合ってきたチャイニーズマフィアと組み、精巧なブランド品を日本で作らせ、帰りの船には、干し海鼠や干し鮑を積んで巨利を貪っていた。而もこの偽ブランド製造工場では、脛に傷を持つ者を多く雇用し、契約の半分ほどしか給料を支払わぬという搾取を行っていた。この秘密に気付いた勇次と務は、彼らの悪行を暴く為に資料を盗む。然し、これがマフィアにバレ務は事故死に見せかけて消され、勇次は、パクられてしまった。だが、この事実を勇次は証言しなかった。務の弟、学と大切なみゆきを守る為である。唯一人の例外、信頼した刑務官を除いて。
 ところで、この街では受刑者が監獄を出たがらないという奇妙な現象が起こっていた。何でも出ると、復讐される恐れがあると刑務所に寧ろ保護機能を認めているのである。この謎に、今回もサスライ7+1が挑む。宿敵ミスターKとは誰か? そして神の仕業と恐れられるものとは? 事件の顛末、相変わらずハイテンションのイジリー氏のアドリブとそのレスポンスは?
 更に、通常の処罰では罰しきれない本当の悪(例えば黒幕とか、東電幹部、経産省・文科省官僚、政治屋)を処罰することは悪いことなのか? という本質的な問いかけが含まれていることも重要である。
 
水晶の虹・・REPRISE

水晶の虹・・REPRISE

DANCETERIA-ANNEX

初台DOORS(東京都)

2016/11/15 (火) ~ 2016/11/16 (水)公演終了

満足度★★★★

Gohくんの美声
 純化が、Annexの追い求めてきた世界ではある。それが一種のクリスタリザシオンというレベルに達したということであろう。

ネタバレBOX

だが、一方で純化だけでは、先細りになってしまう。一旦、結晶化した宝石は、また人々の欲望の泥と渦、運命や宿命との血みどろな闘争へ身を沈めなければならない。
 ロチルド婦人とは無論、英語読みすればロスチャイルド夫人である。主人公のIrisは無論虹。Célestinは空だという。そして彼らが邂逅するのは、青空の岸辺を意味する Côte d’Azur 近辺。片やその腫瘍の為、余命僅かな天性の美声Irisと若い頃に殴られた後遺症で失明の危機にある画家Célestin。ロチルド婦人は、かつて画家が唯一愛した彼のミューズ!無論、彼女の方でも生涯ただ一度の本物の恋。二人の天才は、ロチルド婦人の尽力によって一つの体で二人を生きることになる。画家の目を生き延びさせる唯一の道は角膜移植。そしてIrisの死後も彼のDNAを受け継ぐのは、Célestinに移植される彼の角膜という訳である。
 物語の本線は以上である。惜しかったのは、主人公を除いて脇や重要な役を演じた役者に噛むシーンが多かったことだ。役者達が若いので、科白は入るハズ。更に修練を積んで欲しい。 
 
多和田葉子+高瀬アキ『絵師 葛飾北斎』

多和田葉子+高瀬アキ『絵師 葛飾北斎』

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2016/11/16 (水) ~ 2016/11/16 (水)公演終了

満足度★★★★★

シアターX晩秋のカパレット
 今回で15回を迎える

ネタバレBOX

シアターX晩秋のカパレットだが、出演者お二人が二人ともベルリン在住である為、年1回ワンステージのみの公演である。今年のテーマは絵師、葛飾 北斎。謂わずと知れた天才浮世絵師であるが、彼の絵や日本の絵師たちの絵が印象派の画家に多大な影響を与えたことは余りにも有名だが、実は同時代に活躍したドビッシーなどにも大きな影響を与えていた。
 アーティストは、実に面白い存在である。多和田 葉子さんと高瀬 アキさん二人共に優れた表現者であるが、お二人とも肩肘を張らず、淡々と現実に向き合い乍ら、実は素で勝負しているように感じる。そこが、このお二人の魅力である。お二人の演じている舞台奥には、北斎の作品がプロジェクターで映し出されているという趣向だ。
 今回の演目は以下の通り。
1あばん/アヴァン
2傘をさす/雨のブルース
3きつね奇譚/氷青
4登山と下山/うねうね
5カナガワ/無題
6命の根/お栄
7Sakura/(ピアノソロ)
8あばた(朗読)
9桶作り/プレリュード
10春画/R.シューマン
11こだま/煙のたま
12ほかほか北斎/Goldfish
以上の演目終了後、シアターX特有のトークセッションで観客との質疑応答を通して自由闊達な意見交換、質疑応答が行われた。

つややかに焦げてゆく

つややかに焦げてゆく

Antikame?

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2016/11/10 (木) ~ 2016/11/14 (月)公演終了

満足度★★★★

繊細、微妙な作品
 開演前、女の子(女優)が紙を折って紙飛行機を作って飛ばした。

ネタバレBOX

この間にテープで前説が流れた。女の子は出来上がった紙飛行機を飛ばす。何でもギネス世界記録を作った折り方だという。女優の不器用云々のエクスキューズは謙遜なのか、それとも折り方が良いのか良く飛ぶ。さて、頃合いになると、紙飛行機を作っていた女優が前説を担当してくれたが、切れ目なしに開演。尺は結構長くて140分。無論、休憩はない。
 全編を拝見して、自分はカゲロウを意識した。周知の如くカゲロウは成虫になって息絶える迄僅かの時間しか生きることができない。その透き透った翅と薄黄緑色の体全体が光に透けてしまいそうな儚さを感じさせるが、成虫になる前の姿はアリジゴク。獰猛で禍々しい形態で、成虫とは真逆の印象を受ける。
ところで本作の本質は、DNAの乗り物としての我らの生と解釈した。片や生命現象のプロトタイプとしての産む性、それに関与する性としての♂。これら二様の性の在り様にヴェールを掛けてお洒落に作られた作品と言えよう。
具体的には、♀と♂とのヘテロセクシュアルな関係をベースに、以下説明する如く、冒険する少女を介在させて狂言回しで膨らませると共に、自信喪失女と自立独立系女を対話させることで、自信喪失女の身の上話を何気に語らせ、彼女の成長を極めて自然に漂泊させているなどである。
付き合いの形式としては女店長と年上の男部下、家庭教師だった男と女子高生であった教え子、自信のない女と自首独立系キャリアウーマン、今まで勤めていた会社を辞めてチャレンジする若い女などの挿話が、入れ子構造を為し、通常なら出会わなかったであろう関係を築いてゆく。
無論、♂の♀に対する関係に於いては、生命のプロトタイプである♀がメインで、♂は謂わば鉄砲玉のようなもの。だが、その鉄砲玉の哀しさ、不如意が持つ、生命力そのものに対する懼れ、戦きが恋に失敗した経験を示すことによって重さを増し、その重力から抜けられなくなった結果、♂は優柔不断になり、♀に対するアプローチが増々遠ざかってゆくのみならず、不断に遠のく姿を描いている点で興味深い。同時にこれら♂の弱点を励起し得なかった♀の包容力喪失、自意識ばかりで母性的な物を欠く嘆きをも描いている点で、この作家の喜劇的作品を書く才能の片鱗も見せている。何れにせよ、男女関係の微妙、綾が巧みに織りなされた繊細な作品を頗る静かなタッチで描いていた。
だが偶々、自分の隣に座っていたバカ女が、スマホの電源を落とさずにいるばかりでなく、何度もチラチラ蛍光画面を見る。暗転で店長が長科白を言う間中ぺカぺカ点滅させているので、流石に「電源を切れ」と言ったら、次に出掛ける所があるので途中退場しなければならない、それで電源を切らないと居直っている。初めから分かっていることなら、腕時計をしてくるなり、100円ショップで目覚まし時計の小さいのを買ってくるなり、いくらでも方法はあるハズ。それをしてこなかったのならぺカぺカ点滅している液晶を掌で覆えばいいだけのこと。そんなことすらせずに他の観劇者に迷惑を掛ける権利等ないのである。こんな馬鹿に観劇の資格はない。
酔いどれシューベルト

酔いどれシューベルト

劇団東京イボンヌ

ムーブ町屋・ムーブホール(東京都)

2016/11/15 (火) ~ 2016/11/18 (金)公演終了

満足度★★★★★

初日を観劇、初演とは随分異なる
 再演である。

ネタバレBOX

初演時より、音楽的要素が強くなっている分、劇団の経営事情もあるのであろう、中盤まではかなりおちゃらけた展開になっているが、無論、その辺りの事情(即ちポピュラリズムが何処に至りつくか)は演出家も充分分かっていることであるから、2日目以降は改善されてゆくであろう。何れにせよ、終盤の集中は凄い。この辺り、Baudelaireの名言“集中と拡散の中に総てがある”を想起させて興味深い。
 物語は31歳で夭折したシューベルトの名曲、「セレナーデ」は如何にして生まれたか? への東京イボンヌの解である。音楽ファンには申し訳ないが、ここでシューベルトについて少しだけ解説! にゃんちって。歌曲の王と称される彼は、その短い生涯の間に歌曲だけで600曲を作曲、そのほか交響曲や「セレナーデ」をはじめとする数々の名曲千曲を残している。その背景にあった渇きが何であったのかはこの演劇を観て想像して貰いたいが、自分には、何度も歌われる「アベマリア」と彼が本当に愛した唯一の女性、クラウディアとの悲恋に其の解があると考える。いずれにせよ、今作のラスト、途中のおちゃらけがチャラになるほど素晴らしい。また、声楽家たちの歌の素晴らしさ、殊に魔王を演じた声楽家の(テノールだろうか)音声には聞き惚れた。キャストについては初演と殆どが異なる。演出も随分と違うので初演を観た方々にも充分楽しめる内容だ。
原作・谷川俊太郎    『部屋  in my room』

原作・谷川俊太郎 『部屋 in my room』

花鳥風月

中野Vスタジオ(東京都)

2016/11/13 (日) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★

男と女 棲家
 金属製パレットを1間半ほどの幅に広げた舞台上には、縦横45㎝高さ60㎝ほどの直方体が一つ置かれているが、これは3本足の椅子という設定だ。

ネタバレBOX

3本足なのだが、以外に安定性は良い。窓一つない部屋には、ドアが一か所。但し、ドアの外には何もない。虚空に浮かんだようなこの部屋には、若い女と若い男が一人ずつ居り、彼らはここに来た時の記憶を無くしている。然し、不思議なことに、男が寝ている時に夢を見ると、夢に見た林檎の木が一本生えてき、その木には実が一つ実っていた。男は、林檎の木を確たる実体にする為、女のサジェスチョンに従って実を捥ぎ、二人で食べた。そして逃げ出し得る先としての実空間を床下に求めた。そして折角生え、実体化した木を根こそぎ引き抜いてしまう。然し、床下にも何もなかった。結局、抜けでることは不可能だと悟った男は、女の愛を受け入れ、彼女の口紅を借りて、壁と言わす、床と言わず、窓を書き、実体化する。さて、愛の語らいをしている二人を襲ったのは演出家のダメ出しであった。
 谷川 俊太郎によるシナリオであるが、物語の流れは可也早い段階で解析できてしまう。然し、閉じられた時空を演劇空間として処理し、外界との繋がりを取り戻すのが、演出家のダメ出しというのは、それまで散々閉じ込められた空間が演じられた舞台に引きずり込まれている観客にとっては不意打ち。鮮やかな逆転であった。
 未だ、演出的に荒い点があったりもするが、このような作品を見付け出し、上演に持ち込むセンスと頑張りは評価したい。
Midsummer Nightmare

Midsummer Nightmare

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)

2016/11/11 (金) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

超学生演劇 花五つ星
 W.シェイクスピア「夏の夜の夢」と「二人の貴公子」の休憩を挟んだ二本立て。二人の貴公子については、作者論争が続いていたが、現在では、シェイクスピアとJ・フレッチャーの合作という説が支持されている。大本のネタはチョーサーのカンタベリー物語の中の騎士の話である。今公演今回で13回目だが、自分は初見。翻訳からプロデュース、演出、役者など総てを学生がこなすと聞いていたので、小演劇界では横綱クラスの明治大学のアカデミック部門はどれほどの力を発揮するのかと興味深々で出掛けたが、期待は裏切られなかった。それどころか受付から誘導、会場内の案内に至る迄、頗る手際の良い合理的な連携とチームワークに感心したのみならず、観客への配慮も充分で驚かされた。

ネタバレBOX


 本編は、標記作品二本を休憩を挟んで上演するのだが、完全に別れた作品として上演するのではなく、両作品の本質を崩さず、自然に繋いでトータルとしてバランスも良く、作品のオリジナリティーも崩さぬまま、淀みなく再構成している。シェイクスピア作品のような高度に完成された作品をこのように再構成する為には、原作に対する高い知的認識と深い理解が欠かせない。その両方をキチンと積み上げている知的レベルの高さにも敬意を表したいし、演技、演出、翻訳、照明、音響、舞台美術等の総合点で超学生級。
殺陣のシーンも何か所かあるのだが、これも基本を弁えた鮮やかなものであった。歌や踊りにも作品内容に即した必然性があり納得がいった。
また、これはシナリオレベルの話であるが、テーバイの若者二人が決闘の前に、ギリシャの神々に祈りを捧げるシーンがあるが、片や軍神マルスに片や愛の神ヴィーナスに戦勝の祈りを捧げるが、マルスに祈った者が戦いに勝ち、ヴィーナスに祈った者が、生涯の伴侶としての姫を手に入れた。尚、この二人以外にもギリシャの神に祈りを捧げていた者が居た。妃である。彼女はダイアナに祈ったのだ。ダイアナは、ゼウスに訴えたであろう。何れにせよ、此処には神々の摂理という形で弁証法が用いられている。そして、デュアリズムではなく、弁証法的思考こそが、人間の闘争本能を超えて我らに平和的解決手段を齎す方法であることを示唆していると読み込めるのではないだろうか? 安倍のみならず、先進国及び世界の強国の指導者の殆ど総てがデュアリズムの弊害に陥る程度のアホである現在、このことは頗る示唆的である。
灯トモシコロ

灯トモシコロ

Fallen Angels

シアターシャイン(東京都)

2016/11/10 (木) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★

呪術
的な作品である。

ネタバレBOX

舞台は神奈川の山奥の辺鄙な集落。10年前に起こった不可解な事件を巡って起こる新たな因縁話の体裁を取る。だが実際は、我々人間存在の光に寄り添う影のように必然的に齎される不条理の影を形象化しているか、或いは消化されなかった鬱憤や憤り、昇華されなかったアンビヴァレンツの底に蠢く得体の知れない影やパトスが形象化された作品と観た。
 形式的には刑事物、即ちサスペンスに近い形を採っているが、扱われているのは、極めて呪術的な世界であり、神話というよりはその影、サスペンスというよりは因縁話であり、人智の及ばぬ呪術的な世界が描かれている。凄惨極まる挿話が、この呪術性によってどこか神秘化され、様々な不合理を含めて受け入れ易いものにしている。
 噛みそうになったシーンが見受けられたが、これは、努力で改善して欲しい。亡くなった蜷川氏の舞台では、初日に完璧に科白が入っているのは当たり前という話であった。プロである以上は、この辺りのことは実現して欲しい。
 兎に角、現実にはあり得ない話であるから、その形なきものを形象化して見せた点は評価したい。シナリオ、演出、演技共に、この方向でまとまった。今後の発展を期待する。
俺んちに神様!? 2016

俺んちに神様!? 2016

タッタタ探検組合

ザ・ポケット(東京都)

2016/11/09 (水) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

初演を観た方にもお勧め
 シナリオ、キャスト、演出、出てくる神様も可也変わっているので、初演を観た方々にもお勧めである。

ネタバレBOX


 初演では、カラッとした笑いに主眼が置かれていて、この作品も抜群に面白かったのだが、今作では笑いの要素に深い哲学の要素が加わった。無論、表現の仕方は極めて自然で、哲学的専門用語などは使われていないし、ストーリー展開と密接に絡んで日常的な言葉でしみじみ語られている。つまり、言葉の意味するものの深さに哲学を感じるような作りなのだ。
 無論、タッタタお得意の空中殺法は今回も健在。主人公がうだつの上がらない二ツ目の落語家の設定なので、導入部とラストには、一言の主という落語家に身をやつした神様が出てきて、今作をサンドイッチしている。
 一般的に喜劇作品は、極めて知的な創造行為だが、その知的行為が観ていて気にならないほど自然に描かれて寧ろ、人情に訴えかける作りになっている点で高く評価されてしかるべき作品である。
 初日が終わったばかりなので、内容は観てのお楽しみ!
66号線

66号線

早稲田大学演劇研究会

早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ(東京都)

2016/11/04 (金) ~ 2016/11/08 (火)公演終了

満足度★★★★

匿名の苛め 陰湿そのもの 花四つ星
 高校卒業3年の橋本は交通事故に遭ったショックでタイムスリップしてしまう。

ネタバレBOX

事故ったのは66号線。だが、彼は夢現のような死との狭間で高校の同級生に出会う。同級生は言った、お前の選ぶ道はここだ! と。橋本がタイムスリップしたのは、3年前。文化祭間近のクラス。丁度、クラスメイトの財布が失くなった事件現場である。この事件で、真犯人をAとしよう。そして何の根拠もなく疑われたのがBとしよう。そして盗難被害者をCとし、Cに同情して真犯人探しをしようとした成績優秀者をDとし、Dの親友をEとする。この事件が明るみに出たのはCの申告による。担任教師は、手際も悪く無責任で、何の根拠も証拠証明もなくBを被疑者と断定する。匿名性をベースにして飛び交うSNSやラインの影響もあり、事件は当事者たちの手を離れて肥大してゆき、遂には死者を出してしまった。
 序盤、上記の事柄をおちゃらけた表現方法で演じているのは無論、匿名性による真の悪の特定し難さを克服し切れなかった自分達へのアイロニーであると共に、何だかんだ言っても未だ権威の象徴ではある教師(為政者)の嘘に対する声なき声へと身を隠した批難であることは明らかである。
 だが、この後に続く内容が凄い。陰湿極まる苛め。即ち今作のテーマである。苛めの凄まじさについては、近年ニュースで報じられることも多い。その多くは苛めを受けた生徒が自殺した後に、アリバイ作りをする同級生、PTA、学校、加害者らのエクスキューズである。
 今作は、そうした茶番に斬り込んでいる点で着目すべき作品である。苛められているのはDである。苛めの中心はA、悪知恵の働くAは、濡れ衣を着せられたBを言いくるめて苛め実行の主体に仕立て上げ、尚且つ、体の大きいFにお前も疑われていると嘘を吹き込んで苛め仲間に加え、女子生徒も巻き込んで、Dをトイレに連れ込んで便器に顔を浸ける、打擲を繰り返す、言葉の暴力を浴びせる等々を繰り返す。Dは苛めの後やその最中に出会ったEに何度も助けを求めるがEは自分も苛めに遇うのが怖くて、Dとは関わりたくないと宣言する。こんなことの結果、DはAによって撲殺されてしまった。一方、教師がこの事件に関われなかったのには理由がある。彼は生徒の母と不倫関係にあり、その現場をAに撮影されていたのである。自分が教職を失うことを恐れて、この教師は真実に最初から目を向けなかったのである。正義感を発揮して、このいじめグループに抗議した勇気ある生徒も居たのだが、彼は殴りつけられ、初期の目的を果たすことができなかった。これが、実際に起こった事件であった。而も、Cは真犯人を知っていた。だが、彼の暴力性や悪知恵を恐れて真実を言えなかったのである。
 さて、タイムスリップした橋本は、同じクラブに属していたBと共にロックバンドで一旗揚げることを夢見ていたのだが、この事件を思い出すと、何とかしたくなって歴史の改竄に挑む。然し、矢張りDは死んでしまう。飛び降り自殺という形ではあるが。そして、Dを救えなかった無惨を抱きかかえたまま、 Bと共に部室に立ち、ガソリンを撒いて火をつける。これで完なのだが、このシーン、照明を使って燃える部屋を見せて欲しかった。BGMはジャニス・ジョップリンのCry Baby辺りで如何だろうか?
舞台と映像で俳優に求められること

舞台と映像で俳優に求められること

pafe.GWC2017

学習院女子大学 やわらぎホール(東京都)

2016/11/06 (日) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

企画力
 内容はタイトル通りと言ってひとまずかまうまい。

ネタバレBOX

舞台については「アイアムエイリアン」の上演。映像については、アイアムエイリアンに出演していた役者が、再度登場、監督の注文に応じた演技をし、それをカメラが写し、編集したものを映像として時間内に流すという形を採った。
 同じシナリオから創られた作品の印象がこうも違う、という事に実際驚かされる。表現方法や表現媒体の差が此処まで観た印象を変えることに対する驚きである。同時に、共通項も多い舞台の演技と映画の演技で、パンやアップ、監督が持っている作品に対するイメージをカメラを通して表現する媒体としての映画が、どのようなセンスで作られるのか? といった創造方法の根っこにあるような問題をも実に良く見せてくれた。イマージュとリアルな身体との差異を実感させてくれる好企画であると同時に、舞台演出家の手法と映画監督の手法で、もちろん、演出家も個々の演出家によって差はあるものの、舞台演出家の仕事が、役者との合議で成立してゆくとすれば、映画監督の手法は、絵コンテによって表現された最初のイマジネーションの完成度と撮影現場でのカット指示、そして上がってきたカットの編集にあるということもよく分かった。
 この時期、学習院女子大で継続的に行われている企画だが、企画内容の素晴らしさ、実験的な試みへのチャレンジ、学生さんたちの企画への向き合い方の好ましさ。観客への配慮も有り難い。
震えた声はそこに落ちて

震えた声はそこに落ちて

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★

Aチームを拝見
 舞台は町中の大衆食堂のたかまつ。この店にはラジオ番組で人気のパーソナリティー、岬が良く来る。

ネタバレBOX

岬の人気の秘密は、聴者からの悩み事に親身になって応える姿勢とその適確なアドバイスだ。また、たかまつ食堂の女将・百合は、岬の学校時代の後輩に当たる。在る時、岬の下に気に掛かる便りが届いた。無論、番組宛であったから、岬はその手紙を読み上げた。その内容は特異なものだった。何でも友達のできなかった投稿者は、中学時代に初めて声を掛けられたクラスメイトと仲良くなったというのだった。だが、その後、彼からある依頼が来た。それは、他人の人生を壊す依頼であったが、友人を失うことを恐怖した彼は、その頼まれごとを引き受けてしまった。結果、被害者は精神的ダメージから口をきけない状態が続いている。何とか償いたいが、どのように償えば良いかが分からないという相談だった。岬は、生涯を掛けてその人の為に尽くすという案を提示する。ある日、たかまつ食堂に偽名を使ってやって来た男佐藤は、アルバイトとして採用され、この食堂で働きだした。声を失った琴子は彼の余りにもぎこちない言動が可笑しくて笑いを取り戻した。
ところで、主犯の孝道は少年院を出て侘びに来たが、自分が何故、謝らなければならないかに納得ができていない。というのも、彼の家は、琴子らの父の経営する会社の子会社で、仕事を切られて破産、父も失っていたからである。自分の家族をめちゃくちゃにした連中がどんな暮らしをしているのかを観に彼は時々たかまつ食堂に来ていた。そして彼らの温かい家庭や笑える暮らしを心底羨んだ。そこで、琴子を誘拐し自室に監禁したのであった。然し、事件を負うことが恐ろしくなって琴子のバッグをたかまつ食堂からは遠く離れた地元の友人である佐藤に送り、佐藤は、それを愛知県内に捨てて捜査をかく乱したのであった。
当初、主犯が誰であるかは分かっていたのだが、従犯が誰であるのかは分かっていなかった。たかまつ食堂で働き始めた佐藤を謝りに来た孝道が見つけ総てが明らかになったのである。然し、被害者である琴子は、佐藤も許すことができなかった。結果的に彼女の声を取り戻させたのが佐藤であっても、彼女は佐藤にさよならを言わなければならなかった。
それなりに、筋の通ったシナリオだが、現実はもっとシビアだろうと思う。また、孝道は非常に人間的な感情を持っていて、未成年で若い女性を誘拐する事件を起こしながらレイプもしていない、というのは余りにも不自然だ。彼がLGBTという設定なり何なりを入れた方が良いように思う。犯罪が社会を映す鏡であるのは、その犯罪者の持っている歪が時代そのものだからであろう。その辺りで孝道には歪が余りない。犯罪を犯すにはちょっと情緒的に過ぎると感じるのである。取材をもっとしっかりやって欲しい。

Rock'n will~石の意志~

Rock'n will~石の意志~

super Actors team The funny face of a pirate ship 快賊船

ブディストホール(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 どれだけの下忍が歴史の闇に沈んでいることか? 

ネタバレBOX

 かつて大和の地には多くの忍軍があった。江戸時代にも生き残った伊賀、甲賀は無論のこと、真田忍軍、鈴鹿衆、風魔、武田忍軍、雑賀衆、戸隠忍軍等々。今作にも出てくる伊賀三大上忍は、総て実在した人物と考えられており、百地三太夫は実際二つの派閥の領袖であったとの説も残されている。何れにせよ、忍びとは、情報収集を最も基本的な仕事とし、無論、組織の食い扶持の為に暗殺、謀殺、プロパガンダ、城取り、隠密行動等を行った。戦国の世が終わり、太平の世となってからは盗賊に身を落とす者も居たという。だが、長子相続によりヤクザになるしかなかった農家の二男、三男と同様為政者からは冷遇されていたのは事実であろう。まして情報戦に関わる忍軍の下忍の位置は、今作に出てくる以下のような意味の科白「捕まったら己の顔を剥ぎ自決すべし」というのが、その心得であっただろう。
ところで、この科白にはベースがある。映画「忍びの者」である。信長暗殺に失敗した下忍が、捉えられ拷問を受ける。問われても白状しなかった下忍は、その場に現れた信長に「聞く耳を持たぬならいるまい」と耳を削がれるという凄まじい拷問に遇うのであるが、隙を見て縄抜けで自由になって逃げる。押し寄せる敵をなぎ倒すが、多勢に無勢、終には追い詰められ、城の屋根の上で自ら手裏剣で顔を八つ裂きにして飛び降り落命する。このシーンが背景にあるのである。この下忍の無念! 何を措いてもこのような無念だけは晴らさずばなるまい。今作の深い部分には、このような言うに言われぬ地を這う者達の怨念が込められていると言えよう。草莽が自らの志の根本に持つものと言い換えても良いかも知れない。同時に特殊技能者である己の生き様を守り抜く自由を、自らの責任に於いて実践し得ることに対する矜りもまた、認めねばなるまい。更に注目すべきは、五右衛門のみが、これら総てを達観していることである。このキャラクター設定が、物語に奥行を与えている。
さはさりながらこのような草莽の人間らしさ、心根の優しさ、温かさに対峙するように、上忍をはじめ支配する者達のえげつなさ、酷薄、打算、支配力を維持する為だけに用いられる策略・謀略そして為政者最大の武器、嘘を対置し、ワクワクするような物語に仕立てている。殺陣も中々スピーディーで、演技も迫力がある。舞台美術もこれらの所作を表現するに説得力のあるものだ。ラストがあっさりし過ぎたという感じが無いではないが、複雑なシナリオの面白さ、わざとらしさを感じさせない演出の良さ、作品を盛り上げる照明と音響にも拍手を送りたい。

フィーリアル

フィーリアル

発条ロールシアター

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2016/11/03 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

中心にもっと収斂させた方が芝居としてのシナリオはよくなる
 常打ち小屋であったタイニイアリスが閉めてしまったので、久しぶりの公演になった発条ロールシアターだが、演劇的にテンションを高める糾合的なシナリオは書かれていない。

ネタバレBOX

寧ろ、傾向としてこの劇団のシナリオは、或る時空に様々な要素を散らし、その相互関係は観客の想像力に任せるというものが多いのかも知れない。ただ、このような書き方だと、よほど各要素が必然的に収斂する関係にないと中々物語自体のテンションを高めることは難しい。
 さはさりながら、鴎外の「高瀬舟」をベースにしている点があったり、リーフレットで21世紀の「泥棒日記」! と記しているように、サルトルの警句迄飛び出してくる。無論、泥棒日記を書いたのはジャン・ジュネであるが、サルトルが彼を大変高く評価した為に、仏文壇でジャン・ジュネは名声を得たといっても過言ではないほどサルトルの影響力は大きなものである。日本は本当の哲学者は殆ど居ない「国」なので、一時の流行が去ればどんなに偉大な人物も忘れ去られる傾向にあるが、現代フランスに於いても尚サルトルは結構読まれている。
 閑話休題。話は、前世とも関わる因縁話である。従って解決策は無い。揺蕩う我ら生命の不可思議な行動の底に蠢く因縁を、女性用下着が繋ぐのだ。それは、母的なものへの思慕かも知れないし、我々一人一人が生まれ出るまでに経験した系統発生を繰り返した体験への狂おしく激しい、眩暈を伴った誕生へのレクイエムかも知れない。今、我々は地球生命の黄昏時に居るのだから。
最終回のそのあと

最終回のそのあと

獏天

Geki地下Liberty(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/09 (水)公演終了

満足度★★★★

アメリカという金魚の糞たる近未来
 憲法記念日に観劇。

ネタバレBOX

が、沖縄は、憲法の精神を守ろうとする人々が、公権力・国家の暴力装置によって日々、蹂躙されている。これは、自民党が国会に招致した憲法学者ら3人が3人とも安保法制は違憲であると表明したにも関わらず、日本会議の面々との共謀で解釈改憲、強行採決を断行した安倍政権の”良識”ある措置なのであろう。イスラエルと並び世界最悪のテロ国家の一つであるアメリカとの集団的自衛権をコアに含む安保法制にせよ、憲法改悪や、国民の自由と権利を情報レベルで簒奪する柱の一つである秘密保護法にせよ、虎視眈眈と狙っている共謀罪にせよ、アメリカのパシリとして機能するアホそのものの安倍の無責任極まる暴走が、我々を何処に連れてゆくのかを想起させるような形にして、ウルトラマン(劇中ではウルターマン以下同)最終話の後の世界を獏天初の喜劇として描いている。
 南スーダンでのPKO駆けつけ警護の危険性については、自分は去年秋にコリッチに書いておいたので、興味のある向きはご覧頂きたい。何より今作の優れている点は、怪獣、ウルトラマンを含めて、巨大な生命体の格闘によって実際避難民となった当事者の視点で物語総ての構想が進められている点である。この当事者性なしに、危機を具体的に感じることはあり得ないし、その深刻さを具体的に想像することもできないからである。まあ、アメリカの大統領選がどう転ぶか、土壇場になって混迷を極めているが、日本には、周りに友達と呼べる国家が一つもない。トランプが大統領に就任して米軍が日本から引き揚げることになったら・・・。
 喜劇だからウルトラマン(劇中ではウルターマン)や怪獣が出てくるが、これらの圧倒的脅威は、F1人災の原発、即ち核と考えることもできる。つまり喩と捉えるのである。実際、現在動いている原発の数は少ないとはいえ、廃炉が決まっていない原発が殆どであり、20基程度は再稼働へ向けて審査請求途上にあるではないか!? 気狂い沙汰とはこういうことだ。それに引き替え、ドイツは賢明である。原発全廃に舵を切ったからだけではない。第2次世界大戦の戦後処理をキチンとやったからである。その結果、現在EUの動輪であり、敗戦国としてのドイツを敵国条項で訴追しようなどという連中はいまい。それに引き替え日本はどうだ。アメリカの東アジア植民地として、またアメリカの覇権をアジアで確保する為の拠点として、アメリカ人は軍務と言えば出入り自由。日本の何処に国家主権なるものが存在しているのだ? それに引き替え日本人は人質、植民地住民である。おまけに周りの国々から白眼視され、当のアメリカには馬鹿にされているにも関わらず、安保理入りだの戯けたことばかり抜かしている。何と恥ずかしい「国」であることか! そんな戯け共が牛耳るこの植民地で、日本政府は日本国民のことなど考える訳もない。面白いのは、安倍のような独裁狂人だったらという想定が見え隠れすることである。このような射程の中でPKOも絡んでくるのであるし、喩として表現されているウルターマンが、核を超える武器として日本の覇権を担保するのである。無論、現実には現在日本がふんだんに所有しているプルトニウムが、その代替である。無論、これは観客である自分自身の想像力の産物であるが。
パートタイムチィーチャー

パートタイムチィーチャー

遊々団★ヴェール

TACCS1179(東京都)

2016/11/02 (水) ~ 2016/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★

教師とは 教育とは何ぞや
 教職試験に2度落ちた武田 海未は、産休で休暇に入った定時制高校の教師の代わりに臨時雇いで教職に就くことになった。

ネタバレBOX

然し生徒たちの年齢も経歴も様々な定時制で新米の海未にまともな生徒指導ができるのか? との当然の不安があるというのに、クラスには転校、転籍などで一度に4人も生徒が増えたのである。
 而も、この学校の校長は、少子化の波を乗り切る為に、受験校として生き残るべく定時制潰しを画策していた。偶々苛めに遇っていた全日制の生徒が暴発して傷害事件を起こすと、事件を揉み消す一方、この少年をスパイとして定時制に転入させ定時制のクラスで門題を起こさせ、それを事件化したうえでPTAや教育委員会を利用して定時制廃止をもくろんでいたのである。海未を雇用したのは、以上のようなパースペクティブの下で担任として彼女に責任を取らせる為であった。着任直後に教育委員会からの査察が入るよう仕向け、実際に委員会から派遣された人物が授業参観をすることになったが。
 無論、様々な人間関係が錯綜している。新米教師、海未はこのピンチを脱することができるか? がお楽しみの一つ。また、この作品の展開の中で、教育とは、産業ではなく教師と生徒が共に考え、共に成長してゆく過程を描いている点で温かく、展望のある作品になった。また、様々な噂やイメージによって実態を知らずに無責任に判断を下し冷酷な選択をしてゆく世間の弊害にも目を向けている点が良い。
 まだこの先の公演回数が多いので余り個別のエピソードについては書かないが、親方役の役者さんの演技は流石に年期の入った良い物だ。
 序盤、新任の不慣れを出す為か、やや全体にぎこちない感じがあったが、中盤以降は様々な事件や、人間関係の展開でぐいぐい引きずり込んでくれる。楽しめる。

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