ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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円盤屋ジョニー

円盤屋ジョニー

ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン

上野ストアハウス(東京都)

2018/12/19 (水) ~ 2018/12/25 (火)公演終了

満足度★★★★★

 流石に多くの観客を動員することが出来るだけのことはある。(追記2018.12.26 8;55)

ネタバレBOX

 Zigzigの公演は2時間の1本ものと30分程の短編3本を隔年で上演する形態できた。今年は短編3本の年。上演順にタイトルを上げておくと1:晩秋に吠えろ2:円盤屋ジョニー3:父を叩くである。何れも全くテイストの異なる作品だ。
 1は、地方のテニスクラブで巻き起こる女子メンバーへの男子メンバーからのコクリや浮気騒動等。老いた男(戸塚さん)が若い弁当屋で働く娘にコクリ、彼女がまた店にお出で下さいと返す言葉に温かさを観、好む観客も多かろう。2話は若いカップルが出掛けた南のリゾート地は、観光客をカモにしようと虎視眈々と狙う悪党共の巣窟だった話。行方不明になった彼女(ナツキ)の姿を探す彼(イシカワ)は、怪しいバーに案内されるが、そこは島のギャング(檸檬屋)がマスター(ワタナベ)の借金(バカラで大損)の形に取り上げようとしている店でもあり、ボス(ネモト)のバシタ(アヤカ)は、マスターの色だった女だったが彼女も借金の形に取られていた。そこでワタナベは、ネモトをネモトの舎弟ツノと組んで殺し、アヤカとよりを戻すことを狙っていた。そんな中虫取り屋ホセに騙され檸檬屋の事務所に監禁されたものの一度は逃げ出したナツキが連れてこられ、イシカワがぼったくられた代金の支払いを求められるのだが、彼女は風俗嬢として働くことを肯じ、ギャングに脅されると唯々諾々と聞き入れる弱い彼氏をさっさと捨てて自分だけ助かろうとする姿が露骨に描かれて居て小気味よい。悪の何たるかを相当リアルに表現していると同時に、ネモト役は、良く威圧感を表現していたし、最後に生き残ったツノが新たなボス宣言をするシーンもグー。自分は最も気に入った作品。3父の容体を慮って役者をやっている弟(守)が久しブリの帰宅を果たすが、父(政男)の余命は1カ月、明日が初日。数十分の滞在で日帰りをし、場当たりをしなければならない状況であったが、大学卒業後自分が本当にやりたかったことも諦め家業を継いでいる兄(忠)、兄嫁(さつき)のかいがいしい而も常識的にはあり得ないような父の性的欲求に応える姿を観、弟の心が揺れ動くさまを、小劇場演劇に携わる役者たち総ての抱える本質的問題(親の死に目に会えない、一人前の社会人として食っていけないなど)として提示してみせた。ラストの父の科白「肩叩かせてやろうか」が心憎いまでに利いている。
凍結しても死なない

凍結しても死なない

千葉大学演劇部 劇団個人主義

studio wakuru(千葉県)

2018/12/22 (土) ~ 2018/12/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

 タイトルに惹かれて初めて拝見した劇団だが、公演回数といい、戯曲の描く世界の本質性といい、役者陣の演技といい、演出といい、金が無いなりに工夫された舞台美術や観客への心遣い、礼儀といい、実にしっかりした劇団である。(追記後送タイゼツおススメ!)出掛けなければならないので、ほんのちょっと。
 演劇だから、当然演じてはいるのだが、とても自然で“実体”を感じる。このような経験は初めてのことだ。上手いのだが、文学座的な上手さというより、良く自分を見つめた上で練習を重ねた自然体なのである。観るベシ!(最終追記12.27)

ネタバレBOX

会場は、今回カジュアルレストランの入った建物の微妙な位置から狭くおんぼろな階段を上り詰めた3階。階段途中には、踏板と直ぐ上の段の側板の間が空洞になっているような段さえあり、物語の内容と会場が実にしっくりと噛み合っているばかりでなく、余りにも立派で整然と組み立てられた建築物を一見した時はその素晴らしさに打たれるものの、東洋人の我々には直ぐその単調性が我慢できない代物に変わるような飽きは来ない。公演が始まると上って来た階段への入り口ドアは閉じられ、漫才コンビのライター・フルヤが原稿書きに用いる部屋になったり、或いはサイドストーリーが展開する場所、個的作業の行われる部屋として用いられる。
 物語のメインストリームは、この漫才コンビ、ニッタとフルヤの確執を中心に展開する。フルヤ、ニッタ共に高校時代の登山部メンバー。漫才好きの2人は寄ると触ると漫才談義に耽っていたのだが、遂にコンビを結成するに至った訳だ。以来10年、フルヤは矢張り登山部出身の彼女と同棲していながら、貧しさ故に殆ど何処にも彼女を連れていってやっていない。而も彼女は、彼が一所懸命己の道を追及し充実した生活を送っているので幸せであった。然し、何年もコンペに参加しては2回戦迄で敗退、ニッタは、創作の可能性を広げる為に新しいことにチャレンジさせようと様々な手を尽くすものの、フルヤは己の拘りを絶対化し聞く耳を持たない。後輩からも批判され、彼女にも愛想を尽かされて尚彼は創造の要諦を掴む為に、己を関係の坩堝に開いてゆくことができなかった。この為、ニッタは終に新たなネタ探しの為冬山に挑んで遭難、帰らぬ人となる。このメインストリームに絡んで劇団海賊団が、フルヤらが練習に使っているスペースの共同使用人となったり、後輩の漫才グループは解消した後、ボケはユーチューバーとなり、ツッコミは新たに彼女と組んで夫婦漫才を始めたりのサブストリームが絡んで展開する。サブストリームとの絡みもかなり自然で納得できる内容だ。遭難したニッタからのメッセージが伝えられるラスト部分に、希望が込められることによって決定的な悲劇になることを避けている点でも若者らしさが現れていて生命力を感じる。
カレシがふたりになっちゃった!

カレシがふたりになっちゃった!

JQ

AKIBAカルチャーズ劇場(東京都)

2018/12/22 (土) ~ 2018/12/23 (日)公演終了

満足度★★★

 2018年に結成されたグループのようだ。(今後の期待を込めて少しおまけ)

ネタバレBOX

戦闘服に登場する女優の名前を刺繍している客も来ていたので、アキバのアイドル路線を踏襲しているのかも知れにゃいが、自分はその辺りの事情には疎いので勘弁して頂こう。序盤、第1回の初日、初公演ということもあったのだろう。大分硬くなっていた様子だ。その為、普通の少女という印象の女の子達は、音程を外したり、踊りも硬かったりと、未だ自らの身体をコントロールするノウハウを充分に身に着けていなかったり、そのせいで舞台度胸と言われる身体コントロールが不十分な所も見られた。演出は、こういう点にも注意を払って演出して欲しい。終演後、役者さん達にも少し話したのだが、袖で深呼吸をして身体を落ち着かせることも有効だ。
 板上は、基本的にフラット。正面奥の壁がスクリーンになっており、物語の展開に合わせた映像が映される。舞台の客席側の縁に下手、上手双方から梯子を横倒しにしたような枠が設けられ、観客の雪崩れ込みを防いでいるかのようだ。尤も、中央部分だけは、空いている。出捌けは上下の袖と観客席側からの3方。ホタルという名の女の子は彼と一緒に住み始めて2年。或る朝、目覚めると、隣に居た彼が分裂でもしたように2人になっていた。2人は、ホタルを巡って侃々諤々の議論を展開するが。最初は全く同じ言行を示していた2人に齟齬が生じてゆく。その中で誤解も生じて来て、といった展開だが、神や天使、妖精達も登場して2人に分裂してしまったホタルの彼氏、ハルも徐々に成長してゆく。然し、と最後の展開はちょっと、グー。
 ホタルと2人に分裂してしまったハルを演じた3人が最も安定した芸を見せてくれる。この3人は更に上を、そして他のメンバーは歌、ダンス等をもう少し磨いて欲しい。
無銘の二人

無銘の二人

創像工房 in front of.

ザムザ阿佐谷(東京都)

2018/12/20 (木) ~ 2018/12/23 (日)公演終了

満足度★★★★

 自分は1968年~の数年間、

ネタバレBOX

革命家を目指す程世間知らずだった訳でもなくノンポリで居られる程鈍感でも無かった。70年に高校を卒業した所謂団塊の世代に属さぬ世代だ。先に挙げた数年間の間に、中学時代の親友が自殺し、多くの友人が傷を負い、自らも致命的な傷を負った。その後遺症は今も続いている。この傷を負ったが故に自分の人生設計は180度狂った。そんな自分に色々考えさせる作品であった。良い悪いという判断を或る距離を置いて下せないかも知れない。自分を剝いた視点で言うと、余りに自分の抱えていた問題とダブるからだ。今の若者にはまるっきり理解し得ないコンセプトかも知れないが、今作にはスターリニズムと当時それを支持していた世俗的左翼、それを最もラディカルに批判していたセクトであるブント、ブントには、共鳴し得たアナーキストの自分という位置づけ。だが、語るには未だ早いのかも知れぬ。そろそろ、総括すべき時期にはきているのだが。
GIFT~Love begets love~

GIFT~Love begets love~

劇団PEOPLE PURPLE

ザ・ポケット(東京都)

2018/12/19 (水) ~ 2018/12/23 (日)公演終了

満足度★★★

 写真家志望の女の子が彼との結婚式当日、12月25日に個展を開く。

ネタバレBOX

彼は彼女の最も良き理解者。彼女の対象は日常を一所懸命に生きる庶民である。その中にはホームレスや職人、街中で偶々出会った恋人たちなどがいる。良い写真というものは(何も写真に限らないが)対象の本質をキチンと掴んだ上で、作者の生き様が籠っていなければならない。写真は被写体との関係があるから、被写体の本質を写真に写し込む為には、被写体のnuditeを寫し込まねばならないのは、当然のことだから被写体との信頼関係を構築する所から始めるのはプロを目指す者の必然だ。序盤この辺りのことは軽く触れられるのだが、リアリティーに乏しい。対象が座っているのに、写真家が立ったまま撮ったり、見下ろすような角度から撮影するなど通常あり得ない。更にワンカットしか撮らないとおいうこともあり得ない。用意できる機材のレンタル料もあるであろうが、連射できない機材なら少なくとも2~3カットの撮影は望みたい。親方だけは、状況から1カットのみでも可だ。そうすることによって作品の膨らみが増す。時間的に尺がそう伸びる訳でもあるまい。戦場カメラマンも出てくるが、彼らは、カメラを構えたら震えが止まるような人種である。自分の周りにも何人も戦場カメラマンが居るが、生き残っている彼らに共通する能力がある。それは、瞬時に多数の音声を聞き分ける能力である。この能力故に彼らは生き残って来たと自分は信じている。命懸けの取材とはそういうものだ。脚本家、演出家は、プロの基本をもう少しキチンと調べておくべきだ。いくらクリスマス向けの作品であっても、この程度の認識ではキチンとした仕事をするプロに対して礼を失することになろう。役者達もかわいそうである。ストーリー展開もペーパーテストでそこそこの成績を取る連中の、大きな失敗も無いがユニークさは微塵もない答案のようだ。
 自らを創作する者と位置付けるだけの自負を持ち、そのような人物を描きたいなら、創作者の抱える本質的な地獄と孤独、孤立を通した普遍性が描かれて居なければならない。それができて初めて創作の入り口に立つのである。自分が、観たいで書いた知り合いの女性カメラマンは、真の創作者である。それが初めて彼女の作品に出会った時、即座に分かったから彼女の高い才能を認めたのである。今作を観る観客の中にも本質を見抜く観客は居るだろう。そのような観客の目を意識して作品作りをして欲しい。求められるのは、そして残るのは、量にアピールするだけの作品ではなく、質で唸らせる作品だけである。
 キャラで気に入ったのは、職人の親方と奥さん、留学生の李くん、癌を患う母の面倒を見るお姉ちゃん。
ホリデーワーク

ホリデーワーク

演劇商店 若櫻

しもきたDAWN(東京都)

2018/12/18 (火) ~ 2018/12/23 (日)公演終了

満足度★★★★

 Aチームを拝見。

ネタバレBOX


 形式的に言うと、1幕3場、と言えなくもない作り。1場~3場迄関連があるからだ。内実的には、1場、2場を別作品ととっても可能という印象を持つちょっと不思議な作りである。板上レイアウトは下手側中程に白い仕切を設け、その前後を出捌けに用いている他、上手は幕で仕切り出捌けは1か所。上手側はバーカウンター位の高さの調度、下手は1場では机と椅子。2場ではソファーセットに変わる。
 1場では、サッカーの花形選手に淡い恋心を抱く6人の女子高生が、サッカー部の練習風景を見る為に、演劇部の部室に集まっては恋に纏わるあれこれを談じ合う物語だが、演劇部に属する1人がオーディションを受ける練習にロミジュリの練習をしているのと重ね合わされているので、互いの話がコレスポンダンスを起こして響き合うのが良い。ただ、高1の女子のハズがいつの間にか高3になったりしていたようだ。その時、憧れの選手は卒業しているハズなのに同学年になってしまっている。
 2場は、教師を目指していた6人のうちの1人がファンであったが、どういう訳か新作を発表しなくなってしまった推理小説家の事情を描いた作品。これは、思いがけない展開があって肝を抜かれた。だから余り詳しいことは此処に書かない。
 3場は、件の女子が大学卒業後、念願通り教師になり、母校に赴任したのだが、居残り生徒の宿題が仕上がるのを待っている。課題は読書感想文だ。その生徒が読んだ作品は、何と彼女がファンだった作家の新作であった。(幕)
あゆみ

あゆみ

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2018/12/15 (土) ~ 2018/12/26 (水)公演終了

満足度★★★★

 タイトル通り、女人が生まれてから死ぬまでを、最初の1歩から始め最後の1歩迄の一生として描く。(華4つ☆)

ネタバレBOX

つまり、タイトルは主人公の名前であると同時に我ら全員が生きている道程である。演じるのは8人の女優、彼女らが板中央に設えられた真四角の1段高い平台横に据えられた椅子から立ち上がると、あゆみ、母、父、クラスメイト、先輩、前田、犬等々の登場人物達等を演じてゆくが、役者が立ち上がったり座ったりで役を受け渡してゆくので、通常の舞台のようにどの役者が何役を演じると固定的に決められることを拒んでいる。
 その理由は恐らく、女性のフレキシビリティーを描いているからである。女性は、その生涯に男性より遥かに多くの身体的変化を遂げる。そしてその変化を通じて精神的にもより豊かなフレキシビリティーを確立する。お年寄りを見ていて体験的に感じるのは“女性の方が上手に年をとる”ということだが、それは彼女らの精神がお爺さん方の精神よりもフレキシビリティーに富んでいると思うからである。
 だが、今作はその女性の長所を決して特別な才能を持つ個々人としてではなく、ごくありきたりの女性の乳児~認知症を経て死に至るまで、這い這いから摑まり立ちした始めの1歩、小学校時代の悪戯な男子との通学時、クラスメイト女子相互の仲間、苛め問題を経て高校の先輩への憧れ、大学進学、就職、結婚、出産、子育て、娘の成長、母子の関係とその変化、人生を振り返る時期を経てあの世へ旅立つまでの取り立てて特殊なことはないものの、普遍的で誰しもが思い当たる人と人との極めて微妙なメンタリティーの機微を甦らせてくれる作品だ。この微妙な人の心の機微を活写する為に、舞台美術は極めてシンプル。
 冒頭、少し舞台美術の説明を入れてあるが、真四角の平台の外側を2重に取り囲んで色違いのマットが一辺につき各7枚用いられている。客席はその外側の各辺に対応して設けられているが、出捌け口のある1ッ個所だけ、客整数が少ない。
紛争地域から生まれた演劇シリーズ10

紛争地域から生まれた演劇シリーズ10

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

東京芸術劇場アトリエウエスト(東京都)

2018/12/13 (木) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

 「これが戦争だ」を拝見。今まで数回拝見して来て、今回初めてゲストのトークがまともなものであった。このレベルのゲストを毎回招請して欲しいものだ。追記後送

ネタバレBOX

 カナダ演劇界で今最も注目されている才能、ハナ・モスコヴィッチの作品。タリバン政権崩壊後混乱の続くアフガニスタンに赴任したカナダ兵士たちの目から見えた戦争が、帰還兵へのメディアインタビューという形で作品化されている。従ってかなり戦場での体験から精神を壊された言語表現が多用されるし、その用語法によってリアルな感じが増すことも事実である。だからと言って決して所謂ドキュメンタリーでは無いこともまた事実なのだが。この一見矛盾と謂われかねない錯乱・混乱こそが戦争という不条理の一面でもあるのだ。無論、この戦争も戦争をやっていないと経済が回らないアメリカが主導していることは言を俟たない。而もその狙いは、石油パイプラインルートに関わるものであることは、多少状況を理解している人々には自明の理であろう。因みにタリバーンとは、(神)学生達という意味である。タリーブが学生を表す単数名詞でその複数形がタリバーンなのだ。ムスリムの相互扶助はミッションであるから、戦争で親を亡くした子供達の多くがモスク内の施設で育ち、その施設内の学校で教育を受けることが多い。因みに“塩の行進”として知られるガンジーとその支持者による世界史の中でも特筆すべき抗議運動では、非暴力抗議行動に対するイギリスの暴力的弾圧に対し最も危険な位置に就いて他の者を庇うことを任されたのが未婚のパシュトウン族だったと言われている。何故ガンジーが、彼らをそこまで信頼したのか? 彼らは義や誇りの為に身命を擲つ者達として他の種族から信頼と評価を得ていたからである。そしてソ連に攻撃されるずっと前にイギリスから戦争を仕掛けられ勝利していた。絶頂期のイギリスが負けたのである。この辺りのことは、シャーロックホームズとワトソンの出会いにもその一端が描かれている。話が逸れた。追記は後送する。
群盗

群盗

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2018/12/12 (水) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

 舞台美術が面白い。

ネタバレBOX

通常の板の上に大掛かりな板が載っているのだが、上手壁に平行する1辺のみが真っ直ぐで他の3辺は各々斜めになっている。おまけに上下共右肩下がりの上辺と下辺は右下がりの角度が異なり、幅も下辺がかなり長いのだ。更にこの下辺の下手角から上辺へ向かって伸びる辺も右に傾いているので、まるで反逆者達のエネルギーの塊が観客席目掛けて雪崩込んでくるような錯覚を覚えさせる。更にこの部分は焦げ茶色か黒に近い色なのだが、通常の板部分からクリームイエローのような三画形がこの大きく不安定な四角形に楔でも打ち込むように対向しているのだ。このセンスが素晴らしい。下手奥の傾斜脇には、3段の階段様の構築物、その下手の空間にピアノと演奏者が居て生演奏をしており、下手壁には額入りの絵などが飾られているのは、呑み屋をイメージした作りがベースになっているからだが、3X6尺程度のテーブル3つと背凭れ付の木製の椅子が、物語の進展に応じて特設変形平台の上に置かれたり、最深部が牧場納屋の2階部分のようになった場所へ上ろうとする時重ねた机から恰も登れそうな足場となったりして活用される様は小気味良ささえ感じる。
 無論、脚本は古典的名作だから普遍的な名科白が随所に鏤められその巧みで的確な表現を聴いているだけで飽きないが、叛旗を翻す者としては極めてプリミティブな方法論しか持たぬ主人公達のアナーキーでシンプルな「正義感」や幼さの持つ放埓は、事態の展開はどうあれ一つの典型ではあろう。そのような意味で人間という生き物の哀れをも描いている作品と言えよう。役者陣の熱演、群像劇としてしっかり纏めた演出、自由を求めて戦い卑怯な真似はしなかった義賊的盗賊団の意を矢張り我らは受け取るべきであろう。少なくとも熱く純なその変革への意だけは!
菜ノ獣

菜ノ獣

尾米タケル之一座

ウッディシアター中目黒(東京都)

2018/12/12 (水) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

 ドイスル!!(華5つ☆必見にゃ!)

ネタバレBOX


 板上はちょっと変わった作りだ。奥に上手から下手迄延びる大きな平台を置いて一段高くし、最深部には、可動式のパネルを4枚配してある。パネルはレールで移動できる模様。無論1枚ずつ独立で移動可。これが袖にもなれば、出捌けの際の目隠しにもなる気の利いたモノ。中程に上下対象に少し板上に迫り出した部分があり、その前後に出捌けがあるので、通常の出捌けはこの4か所から行われる。この小屋の特徴である下手客席側に延びたスペースは用いられない。然し、用いない方が、通常の舞台のように前面に集中して観劇でき、今作の演出としては効果的な使い方と言って良い。
 物語は、遺伝子工学が増々発展し食糧難回避策として食べ物ともなれば、臓器提供者ともなれるスーパー野菜が完成し、ベジタブルちゃんとか、ベジタブルマンと呼ばれて人々の生活にはなくてはならぬ必需品として流通している未来の話だ。SF映画に詳しい方は、この話を聞いて「ソイレントグリーン」をイメージするかも知れない。自分もそんなイメージを持ったが、今作はあの映画程単純ではない。F1人災ほど大きくない原発事故が起こると、不審死を遂げる人が良く出ていたことを注意深く世の中を見ている人は気付いているかも知れない。他のことでも政府や大企業が癒着している場合には、このようなことが起きやすい。無論、亡くなる人は、現場の統括をするようなポジションの人物だから亡くなってしまえば現実に核心に迫ることが頗る困難になる。敵はそれを狙っているのだ。公安やマッポもツルンデいる。それにこの国では既に秘密保護法とやらの、為政者をガードし、追及者をテロ犯罪者扱いして葬る為の悪法がトックの昔に成立してしまっている。共謀罪もだっけ? もうとっくに成立しているさね、()内は東京新聞(2018/06/16 - 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法が成立して一年となった十五日、同法の廃止を求める集会が東京・永田町の星陵会館で開かれた。人権問題に詳しい有識者らから「監視社会につながる」といった問題点 .)まあ、じわじわくるね! 間違いなく。その為の「マイナンバー」だしにゃ。このネーミングも極めて作為的なのは、どんなに鈍感でも気付くことであろう。問題は、気付かないフリをし続け廃案への動きも起こさなければ、そのように動いている人々を誹謗中傷することで己のガス抜きが為されていると気付かない欺瞞である。今作は、その手の国家犯罪をSFとして仕立てた作品だ。極めて鋭い。お勧めの作品である。
 
時代絵巻AsH 其ノ拾参『紫雲〜しののめ〜』

時代絵巻AsH 其ノ拾参『紫雲〜しののめ〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2018/12/12 (水) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

 先週に引き続き、異なる物語に挑んでいる役者さん達の疲れは大変なものであろうが、怪我に気をつけて楽迄走って頂ければ。ご健勝、ご健闘を祈る。(以上を勘案して☆5つ)

ネタバレBOX

 奥州藤原氏、義経、弁慶らに対し、兄頼朝、側近・梶原景時、和田義盛らと梁塵秘抄に現れる“遊びせむとや生まれけむ”や“舞え舞えかたつむり”の文句と共にに頼朝をして恐るべき人物と評させた院・後白河が謂わば陰の為政者として回した鎌倉幕府成立間近、平家滅亡の時代の英雄、豪傑、智者、陰謀家、孤独な為政者らの紡ぐ人間模様。
 人の情けは、非情な歴史の仮借なき必然の中で如何に身悶え、而も無惨に費えるのみであるのか、この理が最も良く分かっているのが、凋落する者の最後の精神的輝きを放とうとした日本版ダンディー&ニヒリストたる後白河であったと観た。その意味で院が画策した通り、頼朝も義経もそして奥州藤原氏も動かされたとみて良かろう。無論、歴史の教えるところでは1192年には、頼朝が鎌倉幕府を開き長い武家政権の礎を築いたのであるが、この趨勢を読み切り己を天皇制に纏わる最後の王として振る舞った院の孤独もまた、隠れた今作の主題であろう。
 物語のメンタルな部分に関しては他のコリッチメンバーが書くであろうから、自分は以上の観点から書いておく。
IBUKI

IBUKI

Y’s ExP.

上野ストアハウス(東京都)

2018/11/30 (金) ~ 2018/12/04 (火)公演終了

満足度★★★★★

 ファッションデザイナーの話だ。トップが変わった。

ネタバレBOX

新たなトップは業界屈指の女性デザイナーでもミロク。切れ者としての評価も頗る高い新上司は、これまでの2者ブランド路線を刷新、新体制を組む。早速スタッフ全員を集めて会議が持たれた。そこで打ち出されたのはブランドによる顧客獲得では無く1社によるブランド相互の嵌入だった。そのコンセプトは一時的にブランドの売り上げを落とす可能性があったが長期的には更なる顧客拡大が見込まれた。上司ミロクに対するは、業界同期で2年早くチーフになったエリートとはいえ、マヒルには一目置くだけの審美眼を持ったリーコ。何度企画デザインを出してもダメ出しされるライバル・マヒルの三つ巴に、マヒルの精神的危機に優しく接するモデリスト・ミヤビの心遣い。MD担当のソウスケの合理性がセンチメンタルに流れるのを食い止める。脚本のこの構造と物語として展開される企業戦略は、表現する者に必要な創造の常識をキチンと織り込んでいる。そのことを観客に客観的に理解させるだけの演技をミロクを演じた女優・加藤 真由美さんは演技・歌・ダンス、これら総てからくる存在感で表現しており、マヒル、ミヤビ、ソウスケの好演、リーコとの関係がメインプロットを骨太でしっかりしたものにしている。
ベッドトークバトル プレミアム

ベッドトークバトル プレミアム

ショーGEKI

小劇場B1(東京都)

2018/12/07 (金) ~ 2018/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

 Cチームを拝見。公演はA~Cの3チームで、各チーム演目は総て異なる。何れのチームも5作品。拝見したCチームの作品は何れも大人の内容をドライな笑いで処理、実力派の役者陣で楽しませてくれた。内容は、ネタバレで。但し、ネタバレは観劇後に見ることをお勧めしたい。(華5つ☆)

ネタバレBOX


 拝見したCチームの演目を上演順に挙げておくと、Round.1 「W張り込み」かつて報道に携わっていた女性記者とその後輩の男が、今は私立探偵をやっている先輩が見つけた互いの取材に最も適したラブホの同じ部屋で、先輩は芸能人のスキャンダルネタを後輩は政界の大物同士の密会スクープを物にしようと取材中。だが、場所が場所、而も壁が薄くて隣の部屋の音が丸聞こえ、となれば。
Round.2 「血は酒よりも」20歳以上の年の差カップルが彼の部屋に。無論、若いツバメの部屋では無い。レッキとした大人の男の部屋へ妙齢の女性が来ているのである。目の前には大きなWベッド。女は男に気があるようだ。始めはそれなりによそ行きの会話だったが、酒が入ると、それらしく内容も色めいて・・・。
 やがて、彼女はホントの父を知らないことが判明、それは母が、だらしのない彼女の実父を捨てて他の男と結婚したからであり、血の繋がらない父の下に嫁いだ母は既に妊娠していたことが明らかになってくる。男は、そのだらしない男が自分のことではないか? と自問し始める。
Round.3 「純情と欲情」Wベッドには女が2人! 一瞬レズの話!! と思う間もなく、何故女同士がWベッドに入っているのかが示される。来たるべき初体験に備えて学習しようとしていたのだ! だが、微妙な問題にはテレもある。互いに生まれ育った地域が違うので、禁忌に触れる部分は、互いの方言の違いを有効活用し、その単語を取り換えて対話しようということになった。その単語が出てくる度に、照れながらもはしゃいでいる女性という性の恋に生きる姿が活写される。
Round.4 {「もう無理」は無理じゃない}夫婦のベッド。夫は明日から1週間、撮影旅行で不在だ。無論、モデルと一緒である。妻がせがむ。次のラウンドを。だが、夫は既に今夜3回済ませて、もうダメ! と音を上げているのだが。妻の反撃にあった。それは、かつての浮気の実証でもあった。夫は、その確かな審美眼によって女性のプロポーションやなまめかしさに異様なまでの反応を示すのであった。妻は熟知している。そして・・・。
Round.5 「忙しすぎるベッド」売れっ子芸能人の夫とパリコレデザイナーの妻。互いの仕事の関係で行き違いが多すぎることが、離婚危機! か? と噂になっていた。それでも何とか時間をやりくりして漸く2日間だけ、2人だけの時を過ごすことができると出向いて来たハワイだったが。いざ楽しもうという時になって、ホテルからシャンパンの差し入れ、カーテンが締まっていなかったことから来るドタバタをはじめ、アクシデンタルな、局所に纏わる珍事件等々が2人の大切な逢瀬を笑物にする。
白い鯨

白い鯨

劇団夜光鯨

スタジオ空洞(東京都)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

 大坂で上演して来た劇団の東京初公演。初めて拝見したが、新たな才能の発見であった。極めて面白い。

ネタバレBOX

板上はフラット。但しパイプ椅子が2脚並べて置かれている。そこからやや離れてもう1脚置かれているのが目に留まる。脚本の発想が良い。物語は、新入社員入社面接の会場での話だ。男女1人ずつが、本日面接を受ける新卒である。男は余りパッとしない。決断力、判断力の劣るダメ系。女は、Uチューバーを目指し就職する気が無かったため出遅れで就活を始めたものの、積極的で優れた判断力を有する。如何にも現代日本の男女事情を正確に表したキャラ設定だ。彼らの受ける会社は情報系。広告代理店がベースになっているが、業務内容は更に進化した形態になっている。
 この面接現場を再現する形で上演される今作、3つの相が相まって展開する。第1の相は、通常のストレートプレイ、第2の相は、上手壁に移される映像によるプレイ、そして第3の相は、上手客席側のスペースでギターによって演じられる曲目、効果音の相。態々このセクションを第3の相としたのは、作品の内容を見事に捉え、とてもよくマッチした音作りをしてくれたからである。而もこの3つの相が実に上手く絡み合わされている演出がグー。脚本もしっかりしているのみならず、現実世界より半歩から0.75歩程進んでいる点で丁度良い。
 因みにタイトルの「白い鯨」とは「オンラインゲーム」名である。面接に来た彼らは先ず、会社のプロモーションビデオを見せられるのだが、この中に「白い鯨」が出て来、1つの質問が為される。「あなたは鯨になりますか?」と、利用規約と共に。無論、殆どの人が利用規約など読まずに「ゲーム」に参加する。すると、鯨からのミッションが1日1回届く。ユーザーは、このミッションにどのように対応したかをネット上にアップ、他のメンバーとの比較競合がゲーム内容になると言う訳だ。30回ミッションをクリアすると愈々鯨になる訳だが、当初誰でもクリアできるミッションが与えられるものの、鯨になる前のミッションは、非常に難易度が高い。例えば体に描いた鯨を刃物で切って下さい、が届くのだ。無論、その前に体に鯨の絵をかいて下さい、とのミッションが届いていた。さて、この自傷行為をクリアすると、猫を殺せだの、電車に飛び込めだのとトンデモないミッションが続くことになる。
 会社は広告代理店がベースになっていたから、個人情報をたくさん入手している。この個人情報を用いて様々に他人を操ることもできる。この事実を実践する場面等も映像表現で描かれるのだが、映像で示される白い鯨の内実がストレートプレイによって実践されるように描かれた脚本はまた個人情報を握られた人物が会社に利用され1つの駒として、劇に関与する形も描くのである。この緊迫した状況を生のギター演奏が実に効果的にサポートするのだ。
 東京に拠を移した模様だから注目しておいて良い劇団だ。役者陣も若いし、伸びシロは大きい。今回もかなりいい演技をしているし。
魔女の夜

魔女の夜

劇団キタラヅカ

本所松坂亭(東京都)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

 板上は上手に大き目のテーブル、椅子数脚。下手奥にはレコードプレーヤーが1台、下手袖がキッチンという設定だ。

ネタバレBOX

女の部屋と思われるが家具らしいものは一切ない。深夜2時に、つい先頃問題を起こした若手女優(友紀)が転がり込んでくる。マネージャー(さゆり)がいぶかるが、友紀は傲慢で我儘な態度を取り続け、ずっと年上のさゆりに横柄な態度で接している。然し、彼女は腕に怪我をしており、酔ってもいるが、原因を訊いてものらりくらりとはぐらかしたり、階段で転んだなどとミエミエの嘘で切り抜けようとする。勝手にさゆりのハンドバッグを開けたり、キッチンの冷蔵庫から酒やダイエット食品を持ち出したりと好き放題だ。持って来たボトルをかなり飲んだ後、友紀は先日スキャンダル騒ぎを起こした男とチェロキーに乗っていて事故り、血だらけの彼を車内に残してやって来たと言い出す。そして運転していたのは、彼女だったと。さゆりは、自分を試す為に友紀が嘘をついているのではないか? との疑いを抱きながらも事実ならば、救急車の手配をしなければならぬと考えるが、本当に事故ったのか否かを確認しようとする。然し友紀は運転していたのは小百合だったことにして欲しい、と提案する。何故ならかつてさゆりが友紀に「あなたが、私の総てだ」と言ったからだと言うのである。友紀を救えば、さゆりが事故の責任を負い友紀はそのキャリアを潰さずに済むかも知れない、という訳だ。もし友紀がさゆりに事故のことを言わず警察沙汰になった場合には、さゆりが後で知った暁には「知らせてくれれば私があなたの身代わりになったのに」と言うに決まっているとしてさゆりに罪を背負わせようとしたのだが、さゆりは、これを断る。そして明らかになるのは、男はさゆりとも出来ており、この部屋は難破な男の為に彼の事務所が目立たぬような場所にそれ様の部屋として借りている物件だった、という事実だった。つまりさゆりは、今夜も彼の帰りをこの部屋で待っていたという訳だった。だが、友紀も反撃する。彼は血だらけと何度も繰り返していたのだが、命に別状があるような怪我ではなく、男も芸能界の人間なので表沙汰になるのがヤバイと現場から自力で医療施設へ向かったことを隠していたのだ。女同士の闘いは新たな局面を迎えた訳だが、この新たな地獄をボレロの中で踊り狂う様で表し、幕。
「関係」

「関係」

有機事務所 / 劇団有機座

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2018/12/05 (水) ~ 2018/12/06 (木)公演終了

満足度★★★

 演目は大きく分けて3つ。

ネタバレBOX

「関係」が最も通常の芝居概念に近い。不条理劇風の作品で初演は10年前。再演ということに成る訳だが、所謂「洗う」と言う行為は余り為されて居ないのではないかと感じた。物語の大筋としては、初対面の挨拶すら出来ないような者が、社会の暗黙の了解等に気付き、徐々にアイデンティファイすることによって社会人としても成長し、己の位置関係も意識できるようになって様々なアプローチの仕方も見えるようになってゆくという成長物語という側面と其処に至りつくまでの過程を各登場人物との齟齬や齟齬を齎す原因として措定される新参者の不如意に対するアタックとの攻防、順化を通して社会化されてゆく有様を描いていると言えそうだ。だが、本当に10年前と同じようであろうか? その変容を“洗う”ことによって何処まで出すかが、本来再演する意味・目的ではないのだろうか? 
 アフロは、単調で自分は楽しめなかった。ポピュリズムに流れていた点では、次のショートショートにも通じた。S.Sは、ラストの啖呵売の口上が、実際の香具師の口上と様々な売りの口上、更に都々逸迄入っていて、自分には頗る面白く懐かしかった。
二人の女の家

二人の女の家

THEATRE ATMAN

東京アポロシアター(東京都)

2018/12/07 (金) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

 原作は韓国の作家・李 哉尚さん。

ネタバレBOX

戯曲の三分の二位まで、無駄な科白が一切ない、と日本人の自分にも捉えられた。こんなことを言うのは、入管法「改正」と騒いでいる現政権の茶番が頭にあるからであり、この糞共の目論見があからさまに見え透いているからでもある。今作の原作者は、1910年の日韓併合によって植民地とされた後、土地を奪われ、主権を奪われ更に創氏改名を強要されることによって人間のアイデンティティの基盤さえ日本に奪われた半島の人々の恨みつらみを代弁している訳ではない。然しながら大日本帝国の兵士としても徴用された作家の先達達の経験を含む戦争の悲惨を生き抜いた民族の辛く深く昏い地獄が今作のベースには在る。そんな訳で様々な要素はあるにしても、朝鮮半島が分断化され4.3事件など半島と直接的な関係が無い島嶼部を含め、日韓併合後多くの悲劇が齎された彼らの悲痛な歴史の一部は我が民族のせいであろうと考えている訳だ。かつて、文化的にも我々の兄貴分であることを知っていた日本のアーティストは、龍を描く時、決して爪の数を四本だとか、五本に描いていない。現代の作品を見ると、この程度の予備知識も持ってか持たずか爪の数を増やしている作家がいるので、見る自分としては嗤っているのだが。話が脇に逸れた。
 何れにせよ、日本人が書いたなら、医師を懲らしめた辺りで作家は筆を置いたであろう。然し、それでは、未だにこの民族が抱えている根本的問題を描いたことにならないし、地獄も描けないということになったであろう。その先を在り得るリアリティーと共に描いている点に今作の真骨頂があろう。作家の豊かな才能も感じる作品である。
悪食娘コンチータ

悪食娘コンチータ

劇団ブリオッシュ

カメリアホール(東京都)

2018/12/08 (土) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★

 もっとゴシックロマンの香りがする作品かと思っていたのだが、大分外れた。寧ろ漫画的発想の作品だ。

ネタバレBOX

コンチータの悩みやトラウマの深さが全然伝わってこないのは、彼女の生まれや育ちの中に起こった悲劇が、ちっとも宿命としての必然性を具えていないからだ。魔法だとか、悪魔という呪文を持って来るだけで何でも可能になってしまうような安直な発想では、人の心を撃つこともカタルシスを与えることもできない。そこに真の葛藤が無いからである。演劇の何たるかを根本から学び直すべきであろう。
 役者の力量にも大きな差があり、科白が聞き取れないような役者は序盤何人も居たのだが、1人は聞き取れなかった役者全体の60%位を占めていた。これでは話にならない。こんな役者を大事な役につけるとは、演出家何を考えているのだろう? 声が届かないことは稽古中に分かるハズ。せめて観客の方を向かせて喋らせる程度のことは、最低限必要であろう。学芸会ではないのだから。
時代絵巻AsH 特別公演『水沫〜うたかた〜』

時代絵巻AsH 特別公演『水沫〜うたかた〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2018/12/05 (水) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

 特別公演の第三弾。舞台レイアウトは、この劇団の基本形。客席からの出捌けもあるので、ちょっとダイナミックだ。(華5つ☆)観るベシ!

ネタバレBOX

 Ashを率いる灰衣堂 愛彩さんの脚本は元々光っていたが、鬼や将門を描いた辺りから、殊に人口に膾炙した人物像よりは、様々な下調べに基づく独自に解釈された人物造形や歴史観が強く息づくものになったような気がしていたのだが、今作はこれらが更に円熟味を持つレベル迄深化・進化しているようだ。
 というのも源平合戦に至る時代の過酷な精神状況を描き、日本を代表する叙事文学「平家物語」を産んだ悲哀の歴史の酷いまでに仮借の無い姿が、人間というちっぽけな存在に襲い掛かる様を俯瞰と仰視双方から観て対置させ、自然で躍動的なドラマツルギーを成立させているからだ。
 また、リーダーを描くにはリーダーとして持たねばならぬ資質をキチンと描き、敵対する者らへの対応や、保護すべき者らへの悠揚迫らぬ態度を描くことによってその器の大きさ、温かさなども自然に納得させるのだが、この手際が素晴らしい。
 演者達も、作家の意図を良く汲み的確な役作りをしているが、この劇団の良さは厳しい状況の中にある登場人物達が、それでも前を向こうとし、友情や信義を重んじて人間として生きようとする根源的な姿を描いているからであろう。今作の直ぐ後に描かれる次回作も楽しみだ。
隠れ家の人々

隠れ家の人々

劇団龍門

シアターシャイン(東京都)

2018/12/05 (水) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

 誰が、何故、隠れているのか? 先ずはその謎解きから。(追記2018.12.7)

ネタバレBOX


 M.フーコーの定義によれば、“狂気とは純粋な錯誤”である。自分はこの定義に同意している。だからその前提で話を進める。この定義に従えば、狂気に陥って居ない人々には、狂気の内実は、通常理解できないということになろう。それ故に狂人は差別されて来たのであり、特殊な存在とも見られてきたのである。精神科の医者にした所でカウンセリングによってアプローチし、これまでの知見や、症例研究を通じて考えられた理論と付き合わせながら個々の事例を判断するのが基本となろう。
これまでの知見や、症例研究を通じて考えられた理論と付き合わせながら個々の事例を判断するのが基本となろう。だが、如何に臨床データがあり、それらをベースに導き出された理論があるとはいえ純粋な錯誤であるならば、病者個々人の症例は矢張り独自なものであるハズだ。而も極めて感受性が高いことも原因となって発症したとするなら、フィットするケアは極めて難しいと言わねばなるまい。
 一方、傷ついた人々を癒す力を表す概念とは、一般に何かを考えなければそもそもケア事態を実行することができまい。それは基本的には愛であるが、タダ無暗に愛するだけでは不足である。対応するこちらも人間であるから発症した者達の反応如何では、腹を立てたり、気分を害して判断を誤ることは充分にあり得るのだ。これを極力避ける為には、赦すことが必要である。こういった人生の機微を流石に座長の村手さんは良く分かっていらっしゃるから、彼が登場すると、若い人々の演じていた舞台が引き締まるのは流石である。こんな効果が出るのは、言葉だけでは表現しきれない微妙なニュアンスを体全体から滲みださせるだけの人生経験と生き様があってこそだろう。若手でも無論、上手い役者が何人かいるし、一所懸命に演じている役者達の姿にも好感を持てる。

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