KAEの観てきた!クチコミ一覧

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 アダムス・ファミリー

アダムス・ファミリー

パルコ・プロデュース

青山劇場(東京都)

2014/04/07 (月) ~ 2014/04/20 (日)公演終了

満足度★★★★

予想外に素敵なさとしゴメス
昔、映画を観た記憶はあるのですが、こんなにハートフルなストーリーだったっけ?というのが第一印象でした。

映画では、ちっとも素敵な記憶がないんですが、主役のゴメスが素敵過ぎ!

ダンディで、家族思いで、哀愁もあったりするパパで、見た目も、すこぶる素敵なので、相手役の真琴つばささんが、「さとしさんに、レッド・バトラーを是非やってほしい」なんてことまでおっしゃる程。

迷っていらっしゃる、さとしファンの方、今すぐ青山へ!(笑い)

昆さんのウェンズデーも、意外な適役!今井さんのフェスター叔父さんも、愛嬌あるし、鷲尾さんのおばあちゃんも可愛いし、執事ラーチも、弟パグスリーのキャラクターも魅力的。

モーティシアの真琴さんは、映画からそのまま抜け出して来たかのように、雰囲気がピッタリ!

ファミリーのご先祖様達のアンサンブルメンバーの八面六臂の活躍も楽しいし、視覚、聴覚共に、しばし、現実を忘れさせてくれる、憂さ晴らしに絶好の舞台でした。

今日の公演は、コスプレ企画だったそうで、客席の観客も、アダムスファミリーの一員として参加したのだと思いますが、きっと壮観だったでしょうね。

ネタバレBOX

ゴメスの歌がかなりあるので、橋本さとしさんの見せ場は、盛りだくさんでした。

特に、後半のソロナンバー、ファミリーのご先祖様達が、ボードを持って、ゴメスの歌唱に応じて、変幻自在に、バックを飾る演出は、エンタメの王道といった感じの、見た目にも楽しい場面でした。

友近さんは、この日は、舞台前に、テレビの生放送があったそうで、演技にやや心ここにあらずの雰囲気が感じられたのは残念でした。
アリスになりきった友近さんをもう一度拝見したいなと思います。

さとしさんは、ずっと素敵だっただけに、ラストで、真琴さんとタップを踊るシーンだけは、やはり、本職の真琴さんにお株を奪われていて、男性としてのリードが完璧にはならなかったのは、ちょっとばかり惜しい!と思わずにはいられませんでした。

アフタートークで、さとしさんのゴメスの心理分析を伺って、目から鱗。そういう解釈で観ると、この舞台、更に深い!
次回拝見する時は、ゴメスの孤独を感じながら、新たな視点で、観てみたいと思います。
ちぬの誓い

ちぬの誓い

TSミュージカルファンデーション

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2014/03/21 (金) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★★

TSらしさが復活
一時期、どうなっちゃったの!と観劇後のショックが大きいことも何度かあったTSミュージカル、今回の作品は、かなり満足度の高い仕上がりでした。

何より、驚いたのが、東山さんの役者力の進化。いつの間にか、座長格としての風格も、実力も備わり、益々、注目したい役者さんに成長されていました。

相葉さんの松王丸、良知さんの達若、藤岡さんの五郎丸、渡辺さんの常世丸等、若い男優さん達の、精悍な若さ漲る、和のダンスも、TSならではの、魅力的なシーン、満載でしたが、戸井さんの人情味ある渡来人今さんの小憎らしいまでの、陰陽師も、ベテランの安定感ある演技で、芝居に深みを増しました。

ストーリー、音楽、照明、舞台セット、ダンス…、どれを取っても、高水準で、見応えのある、素晴らしい作品で、心から、見逃さずに済んで良かったと、胸を撫で下ろした次第です。

ネタバレBOX

昨日、沖ノ鳥島の海難事故があったり、一昨日、福島の原発作業員の方の事故死などがあったばかりなので、余計に、この芝居の登場人物達の、生きざまに、胸が熱くなる思いがありました。

いつの時代も、庶民は、権力者や政治の犠牲になりながら、それでも、時代を動かし、根底で、国を支えて生きているのだという、悠久の歴史の本質を、改めて、噛み締めるきっかけになるような、深いテーマ性のある作品でした。

今さんは、TSでは、敵役のスタンスの役が定着しつつあるように感じますが、最初、誰だかわからないくらい、不敵な佇まいがあって、役作りに凄味さえ感じました。陰陽師として、指を翳す仕草が、恐ろしくもあり、魅惑的な雰囲気でもあり、数日、夢に見そうでした。(笑い)

月が、場面によって、様々に色を変え、その幽玄美のあるセットや照明にも感動しました。

不動丸と、若い見習い武士や水軍のメンバーが、全員で船を漕ぐシーンは圧巻でした。

今さんが、カテコの挨拶で、1日早いエイプリルフールと、「再演決定」なんて冗談を言われていましたが、本気で、是非、近い将来、再演してほしい作品でした。
9days Queen ~九日間の女王~

9days Queen ~九日間の女王~

TBS

赤坂ACTシアター(東京都)

2014/02/26 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

素晴らしいの一言に尽きる!
そもそも、世界史に疎い人間故、これまで、ジェーン・グレイというたった9日間の女王の存在すら知らずにいたのですが、白井さんの演出と、上川さん、堀北さんの共演、題材に興味を惹かれて、観に行きました。

エリザベス1世の映画は観たことあるけど、同じような名前がたくさん出て来るし、系図とか、人間関係がわかるだろうかと不安でしたが、杞憂でした。

配布された、イギリス王室関連略系図も、世界史に疎い私には、絶好の教科書になり、ストーリーの理解に役立ちました。観客へのご配慮に感謝!

歴史に詳しくない人にも、わかりやすく整理された脚本で、すぐに、登場人物の関係性もわかるし、歴史の流れも理解できました。(この脚本、青木豪さんだということにも、ビックリ、感動!)

近年のヨーロッパ歴史劇の中でも、群を抜いた素晴らしさ!ストーリー構成が巧みで、しっかりとした人間描写もなされ、観ていて、どんどん主人公への共感度が増して行きます。

エリザベスの登場シーンは、それほど多くありませんが、後年、彼女が、偉大な女王に君臨する布石も、この芝居から、見えて来ました。

堀北さんは、初舞台のジャンヌ・ダルクを拝見した時も、ビックリしましたが、凛とした主人公を、見事に体現され、その実力を再認識させられました。

上川さん、ソンハさん、他の、共演者の顔ぶれも素晴らしく、久しぶりに、心震える名舞台でした。

大千秋楽の、鳴りやまない拍手の嵐に、心底納得できます。

本当に、素敵な素敵な舞台、見逃した方のために、再演、熱望します。

ネタバレBOX

ジェーンの家庭教師になるロジャー・アスカムが、彼女との出会いから、別れまでの日々を、追憶する形で、舞台が進行します。

つまり、ロジャー役の上川さんの、ナレーションから開幕するのですが、その第一声の朗々と響き渡る美声に、すぐさま、舞台の世界に魅了される実感がありました。

ジェーンの生きざまを見守っていた、ブラックバードの、美しい歌声が、舞台に、透明感ある奥行きを感じさせます。青葉さんの鳥の声には、本当に癒されました。

若くして、政略結婚を強いられ、最初は反発していた夫との夫婦関係が、徐々に、心の通い合いに結実する過程は、ちょうど、何年か前に、堀北さんが、大河ドラマで演じた、皇女和宮の姿とダブり、涙を誘われました。
父親の出世の道具に利用される、ジェーンの夫役のソンハさんも、相変わらずの名演でした。

エリザベスの役は、「名もなき毒」で、行ってしまっている怖い女性を好演されたのが、記憶に新しい、江口のりこさんでしたが、ここでも、異彩を放っていらっしゃいました。
「相棒」でお馴染みの神保さんも、舞台映えのする役者さんだなあと、再認識。
エドワードの浅利さん、キャサリンの朴さん、トマスの姜さん、エレンの銀粉蝶さん…、枚挙に暇がないくらいに、それぞれの役者さんが、分を得て好演されていました。

青木さんの脚本は、以前から、人物造型が巧みで、感心するのですが、イギリス留学を経験されたとかで、更に、脚本力に、磨きが掛かった気がしました。まさか、日本人の脚本とは、思いもしませんでした。

たぶん、大方の観客が、この芝居を観るまで、ジェーンの存在すら知らなかったのではと思います。でも、この芝居の進行と共に、彼女の、短い、運命に翻弄された悲劇を追体験しながら、最後には、彼女の死を涙して、受け入れていました。

これこそが、演劇の醍醐味なのだと痛感して、胸がいっぱいになってしまいました。

この舞台の制作に関わって下さった全てのスタッフ、キャストに、心から、お礼申し上げます。
眠らない男・ナポレオン ―愛と栄光の涯(はて)に― 

眠らない男・ナポレオン ―愛と栄光の涯(はて)に― 

宝塚歌劇団

東京宝塚劇場(東京都)

2014/02/14 (金) ~ 2014/03/29 (土)公演終了

満足度★★★★★

宝塚不滅感!
ずいぶん久々の宝塚。それもあまり星組にはご縁がないので、どなたも存じ上げない中での観劇でした。

題材に惹かれて観に行ったので、楽しめるかしら?と幾分半信半疑でした。

でも、わあ、宝塚ってやっぱり凄いわ!と、改めて感じ入ってしまいました。

主役のお二人がとても素敵で、久々に、ラブシーンで、うっとりする感覚がありました。

100周年記念ということもあるのでしょうが、宝塚ファンばかりの客席には、最初、アウエイ感も正直ありましたが、最近、何を観るのか、誰が出ているかも知らない観客に占拠されている劇場で観劇している身にとっては、こうして、楽しみに劇場に参集している観客に取り囲まれて観る芝居は、ある意味、新鮮な喜びでもありました。
聖地だなあ!という感慨。

小池修一郎さんによるオリジナル作品のようですが、芝居の流れとしては、「エリザベート」を彷彿とする作りでした。
もちろん、ナポレオンとジョセフィーヌの恋愛事情に主軸が置かれてはいますが、ナポレオンの足跡も、スピーディに辿り、芝居運びが安定していて、さすが小池さんのお仕事!だなと感心しました。

キャストの演技力、歌唱力共に、及第点の方が多く、宝塚、しばらく低迷しているように感じていましたが、復活した感が、自分の中ではありました。

時々は、宝塚もいいものだなと思いました。

ネタバレBOX

ナポレオンの息子が、士官学校時代からのナポレオンの腹心の部下である老マルモンに、父親の足跡を語らせる形で、芝居が進行して行きます。

マルモンの回想が、士官学校での雪合戦から始まるのは、斬新でした。
計略を練って、ナポレオン達下級生が、上級生に圧勝するという筋立てが、面白く、導入として成功していました。

そこから発して、ジョフィーヌとの出会い、恋愛、家族との軋轢などが、ナポレオンの世間的な活躍や出世物語と並行して、テンポよく語られて行きます。

幾つか、耳馴染みのよい楽曲がリフレインされて、初めて聴く曲にも関わらず、幕間や帰路に自然と口ずさんでいたりしました。

ナポレオン失脚の後で、老マルモンが歌う曲には、ちょっと涙を誘われました。演じている英真なおきさんの歌唱は心に沁みました。

ただ、若いマルモンを演じる紅ゆずるさんと、あまりにも体型が違うのは、同一人物に思えず、ちょっと興ざめな部分もありましたが…。

ルーブル美術館に飾られている、有名な絵画をそっくりそのまま舞台に再現した、戴冠式のシーンは、圧巻でした。

全体的に、セットも凝っていて、素敵でしたが、ただ一つ気になったのは、ナポレオンが、皇帝の権利を失うことに承諾する調印の際のテーブルの移動。
いきなり、舞台後方から、まるで宙乗りのように、テーブルが押出されて来て、出て来る時はそっと流れるように舞台前方に現れるからまだいいのですが、ナポレオンがサインした後は、ギシギシと音を立て、舞台後方に戻って行く様は、ちょっと失笑ものでした。見えなくなってもいつまでも、舞台裏で音を立てていて、せっかくの雰囲気が台無しでした。

それに引替え、宝塚ならではのレビュー形式のカーテンコールで、最後に、全員が、振っていたNの文字が美しく輝き、ため息が出ました。

どうやら、星組は相当、実力者揃いのようだし、柚希さんと夢咲さんのコンビは、見た目にも美しく、声にも魅力があるので、また、興味深い作品があれば、是非観たいと思いました。

やっぱり、宝塚って、夢があるし、ファンの皆さんの様子を拝見しても、あー、永遠に不滅だわと、感じ入るばかりでした。
アルトナの幽閉者

アルトナの幽閉者

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★

有事の家族劇として秀逸
もっと肩の凝る内容なのかと身構えて、観劇しましたが、意外にも、笑う場面もあり、高尚な内容ながら、最近の我が国の状況などもダブって、非常に身近な感覚に囚われる問題作でした。

私の凡庸な頭や知識では、30%ぐらしか、理解できなかったような気もするのですが、でも、この家族の物語は、ある意味大変普遍的な要素を含有していて、誰もが、有事の際のひとつの家族のモデルケースとして、共感できる部分がたくさんあったように思います。

最近、とみに演技力が冴え亘っている岡本さんが、ここでも、苦悩する主人公の常軌を逸したような言動を、、見事に体現されて、ドキュメンタリーを観るような実在感が圧倒的でした。

もちろん、他のキャストも、皆さん、生身の人間を具現化できる役者さんばかりで、全てにおいて、大変クオリティの高い舞台作品でした。

難解ではという先入観に囚われず、インスピレーションで選択して、大正解!

共感すること数多ある、素敵な人間ドラマだったと思います。

ネタバレBOX

戦争に翻弄されて、精神を病むような状況に置かれた長男と、彼に、ある意味、心身を拘束される家族の物語。

13年間、自分で、鍵の掛かる部屋に閉じこもっている兄と唯一、接見できるのは、妹だけでした。その兄と妹の関係は、まるで、ギリシャ神話のよう。

兄が、そんな状況なので、弁護士を辞めて、父親の会社を継いだ弟。元女優の弟の妻は、自分も精神を病んで、それを救ってくれた夫と結婚したのに、夫が、今は、自信を無くして、父親の意のままに、社長になってしまったことを不服に感じています。

そんな美貌の嫁を使って、余命幾ばくもない父親は、ある勝負に出ます。

弟の妻は、最初は、自分達夫婦の将来のために、父親の説得に応じ、義兄に会う内、どんどん、心が兄に囚われてしまいます。

そして、判明する、兄の戦争中の罪。

父親と、兄が選択した、最後の決断。

難解な台詞劇の形態を取りながら、用意された、スリリングなシナリオに固唾を呑んで見守る内に、あっという間に、3時間半の長丁場の舞台を観終えてしまった印象でした。

ただ、全てが、精巧だっただけに、気になった点が一つ。兄が引きこもっている部屋に、ヒットラーの肖像写真が掲げてあるのですが、そこに向けて、兄や弟の妻が、激昂して、物を投げるシーンが何度かありました。その時、たとえば、ワイングラスを投げたとしても、割れもしなければ、落ちた音もやんわりなんです。たぶん、プラスチックか何かなんでしょう。危険はないかもしれませんが、やはり、場面の高揚感に反して、違和感があり、作り物感を露呈して、白けました。緊迫感のある場面では、小道具にもリアリティーがあった方が良かったように感じました。
空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―

空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―

松竹

新橋演舞場(東京都)

2014/03/05 (水) ~ 2014/03/29 (土)公演終了

満足度★★★

福士さんに恐れ入りました
スーパー歌舞伎は、初演以来、ほとんど精勤賞の観客です。

その私が、ずっとファンの佐々木蔵之介さんと、前川さんの参加にも、大変興味を惹かれ、この公演情報を目にしたその日から、楽しみにしていた今日のこの日でした。

昨日が初日の二日目。だから、無理もないのですが、まだ体に入っていない役者さんも数人いらっしゃいました。

そんな中、驚いたのが、福士誠治さん!!

歌舞伎畑でない役者さんの中で、一番、歌舞伎役者の中に溶け込んでいました。福士さんには、ミュージカル出演の時にも驚かされましたが、たくさんの才能を秘めた役者さんなんですね。
すっかり、ファンになってしまいました。

期待した、前川脚本は、1幕では、前川色もないし、かと言って、スーパー歌舞伎としての醍醐味もなく、何だかどっちつかずの感じで、精彩を欠いたのですが、2幕で、笑也さん達一門の役者さんが大挙出演されると、徐々に普段の雰囲気を取り戻し、3幕終盤では、ようやくスーパー歌舞伎らしい、高揚感溢れる大立回りの展開となって、一気に、客席の空気が活気づきました。

横内脚本の、哲学的な台詞の畳みかけに、慣れたせいか、もう少し、しつこいぐらいの決め台詞の繰り返しがあっても良かったような気もします。

でも、いつもの演目と違って、原作や、元になる伝説的なストーリーのない、前川さんのオリジナルだったことを思えば、よくここまで、歌舞伎仕様に作品を創造されたと感心もしました。

佐々木蔵之介さんは、あれだけ舞台経験も豊富な割には、やはり、衣装も違うし、普段の舞台とは勝手が違われたのでしょう。とにかく、歩き方が、とても変に見えました。
まだ、二日目ですから、毎日、きっと進化されて、歌舞伎らしい演技を体得されるのではと、期待します。

ネタバレBOX

まさかの口上からスタートし、歌舞伎役者でない俳優さんにも、屋号が用意されていたのは、洒落た演出でした。勘三郎さんが、コクーン歌舞伎で、笹野さんに、屋号を与えていらしたことを思い出して、うるっとしてしまいました。

1幕は、主要人物二人の関係と、人となりがざっと紹介されるだけで、ダラダラと進行し、主人公十和の言動にも、あまり共感できないまま、スーパー歌舞伎ファンの人達の落胆ぶりを横目に、幕間の食事を終えたのですが、2幕からは、一門の役者さんが揃われて、話に弾みがつき始めました。

右近さんの、紅白歌合戦の豪華衣装も、負けるような、不動明王の登場には、拍手喝さいが巻き起こりました。

浅野さんの祈祷師のお婆さんも、愛嬌があって、素敵でした。

一門の役者さんは、ここまで、スーパー歌舞伎を作り上げていらした名役者揃いなので、それぞれの役者力で、作品を引き立てる手腕があり、、改めて、演劇は、総合芸術なのだなあという思いを強くしました。

蔵之介さんは、まだ慣れない衣装にも、宙乗りにも、やや緊張が見えました。
完全に舞台に融合された頃、観劇される方には、きっと違った印象になられるのではと思います。
もっと泣いてよフラッパー

もっと泣いてよフラッパー

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/02/08 (土) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★

うーん! 当時は受けたの???
「上海バンスキング」にしても、私は、人気絶頂の時に見逃しているので、当時観たら、印象も違っていたかもしれませんが、今、この時代に観ると、どうも、心身無反応で、久しぶりに、お尻が痛くなる観劇でした。

キャストの皆さんは、とても魅力的なのですが、何せ、テンポが悪い。話の流れが冗長。

主要出演者が多いせいか、誰かが登場しても、次にその人が登場するまでにあまりにも時間が掛かり、エピソードもあまり関連づけがないので、一体あの人はどうなったのか?とか、どうかすると、その人が出演者の一人であることすら忘れるくらい、時が経過してからの再登場で、ストーリー展開の構成が、ひどく雑に感じられました。

でも、フラッパー達、女優陣は、皆それぞれ、個性的で、コケテッシュな魅力があり、特に、松さんの歌唱はさすがでした。

この大勢の役者さんの中では、松尾スズキさんにダントツの存在感があり、彼の人気の秘密をようやく理解できた感がありました。

石丸さんのスタンスはやや残念でした。昔取った杵柄で、演奏の方では、大活躍でしたが…。

ネタバレBOX

昔よくあったブロードウエイミュージカル風な味付けの、場末のキャバレーの恋愛模様的なストーリー展開でしたが、各人の心情描写がお手軽なので、これだけ登場人物がいるにも関わらず、その内の誰か一人にでも、感情移入するまでには到達せず、終始、舞台の世界に気持ちを揺り動かされる瞬間がないまま、客席に座り続けていました。

特に、1幕は、惰性で舞台が進むのをただ黙認していた感じで、羽生の演技なんかを思い出しながら、ボーっと観てしまいました。

誰も、串田さんに、もっとこうした方がいいのでは?と意見を言う人はいなかったのかしら?とか、舞台と関係ない思考がずっと脳裏で浮遊していました。

ショーのシーンは、素敵だから、眠くはならなかったのですが。

もっと、狭い猥雑な舞台で観たら、印象は大分違う気もしますが、何にしろ、もう少し、話を整理して、各人物を浮き立たせる脚本に推敲すべきだったのではないでしょうか?

終盤、ようやく、人物の哀感が感じられるストーリー展開になるのですが、それまでが、あまりにも岐路が長過ぎる!

最後の「もっと泣いてよフラッパー」の歌は、耳馴染みの良い曲で、劇場を出てもしばらく、耳にリフレインしていました。
失望のむこうがわ

失望のむこうがわ

アル☆カンパニー

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/02/14 (金) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

看板に偽りなし
三浦さんが、チラシに書いている「これは、エンターティメントな会話劇です」という科白に嘘はありませんでした。

いやあ、本当に凄い!先日の浅田真央さんのフリーの演技ぐらい、凄かった!

「熱海殺人事件」から、何十年も、平田さんのファンですが、今回、改めて、素敵な俳優さんだなあと、再確認致しました。

平田夫妻の快挙に乾杯!客演の平原さんも、迫真の名演技でした。

二人が会話するリビングに、映し出されるテレビの映像が、これまた刺激的な小道具になっていて、おつな演出。ただ、今日は、スタッフの誤操作があり、DVD映像だと露呈してしまう瞬間があったのは、残念でした。

ずっと、三浦作品を拝見したかったのですが、おばさんには刺激的な場面が多いと聞き、これまで敬遠していたので、今回拝見することができて、嬉しく思いました。

ネタバレBOX

幾ら三浦作品でも、まさか平田ご夫妻が、人前で、裸体にはならないだろうと、安心して観に行きました。

案の定、裸体にはならなかったけれど、心は裸にされる作品でした。(笑い)

いやあ、本当にエキサイティングな会話劇でした。

愚かしくも、愛しむべき、人間の本性が、静かに、的確に炙り出される、洒落たドラマでした。

奥さんに浮気をされたご主人が、しきりに情事の回数を気にしたり、妻と昔行った摩周湖の霧が晴れた瞬間を、二人の思い出の宝物にインプットしていたり、自分や、周囲の人間に、似たようなエピソードをたくさん知っているだけに、何度も、笑ってしまいました。かなりこだわりの強いご主人のようで、そんなところに、妻は日常の不満が蓄積してしまったのかなと想像したりします。

実は、私の知人に、妻が浮気したにも関わらず、平穏に、夫婦関係が継続しているカップルが、かなり存在するのです。
他人の家の事情はわからないので、今まで、どうやって、ご主人が折れたのか、不思議に感じていましたが、この芝居を観て、そうだったか!と謎が解明された気分です。

浮気相手が家に呼び出されてからの終盤の舞台は、息を呑んで見入ってしまいました。スポーツ競技の実況中継を固唾を呑んで、見守ったのと類似した心境でした。
浮気相手の心情吐露の台詞には、誰でも胸を抉られる真実が潜んでいたのではないでしょうか?

日曜日のテレビ番組が、苦悩する夫の後ろで、小さな音や無音声でずっと流れています。
「アッコにおまかせ!」に始まり、「笑点」、福澤さんの「番記者」、「ちびまるこちゃん」、ニュース番組、ダウンタウンや、お笑い芸人出演のバラエティー、テレビ通販の深夜番組まで。

佐村河内や、新垣のインタビュー、真央ちゃんのスケートシーンなど、最近の話題の主が、無言で客演し、迫真の夫婦の会話劇に色を添えます。もしかすると、あの映像選択にも、深読みできる要素が隠されているのかもしれません。

ここにまた、小憎らしいほどの演出の意図が見えたような気がしました。

それに、終盤、夫婦が、「あの土下座は、例のテレビ番組の影響だよね」と言って、浮気相手の土下座をネタに笑い合うシーンがありました。
この夫婦は、普段いつも一緒にテレビを観ているらしいことは、それ以前の台詞からも類推できるのですが、この土下座ネタで笑い合うシーンが挿入されることで、今後もこの夫婦が一緒にテレビを観る関係に戻れそうな気配を観客は感じ取れる仕掛けです。

関係の拗れた夫婦は、一緒にテレビなんて観ないと思うので、これは一種のハッピーエンドなんですね。そういう、日常的な人間描写が実に巧みでした。

少し、写実性がないかなと感じたのは、浮気相手のガソリンスタンド店員の人物造形ぐらいで、概ね、非常にリアルな人間模様が描かれた作品だったと思います。

終演後、客出しの音楽は、「三年目の浮気」タイプのオリジナルデュエットソングでした。最後の最後まで、小粋な演出が施されていて、ニンマリ!

2月にして、私の今年のベスト5に入りそうな予感のする、非常に、素敵なお芝居でした。
少年十字軍

少年十字軍

Studio Life(スタジオライフ)

シアターサンモール(東京都)

2014/02/08 (土) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★

宗教の不条理が胸に痛い
高校時代、歴史で十字軍のことを習った時が、自分が、キリスト教に懐疑的な思いを抱いた最初の瞬間だった記憶があります。

それでいながら、息子達は、キリスト教の幼稚園や学校に通わせたのですが…。

どんな宗教にも、表向きな崇高さと、内実の、汚れた権力争いなどが、相反して存在するのだと思います。

そういった、宗教世界の不条理が、少年十字軍の子供達の体験を通して、冒険ファンタジーのような味わいで、舞台化された作品でした。

私は、大好きな山本芳樹さんがガブリエルを演じるFluctusチームの方を観劇しましたが、サルガタナス役を演じた松本慎也さんと、二役交互のダブルキャストの意味が、後半で合点が行き、こういうキャスティングのアイデアも含め、大変よく練られた作品だと感心しました。

ただ、ストーリー展開が、前半、冗長だったことと、一部の役者さんの滑舌が悪く、台詞が不明瞭な部分が見受けられたことは残念でした。

エティエンヌ役の藤森さんに、、少年十字軍を率いるリーダーとしての透明無垢な存在感があり、まるで、羽生選手のような爽やかさだと、観ていて、気持ち良さを感じました。

松本さんのサルガタナスにも、凄味があり、良い役者さんに成長されたなと嬉しくなる思いがありました。

ベテランの役者さんには、曽世さん初め、安定感があり、若い役者さんには、将来性があり、この劇団は、今後も安泰だろうと感じさせられました。

ネタバレBOX

前半なかなかガブリエルが登場せず、お預けを食ったような気持ちになりましたが、藤森さんや田中さん、宇佐見さん等、若手の役者さんの健闘ぶりが、爽やかで、芝居自体に厭きることはありませんでした。

「神はおわさぬ」と悟ったガブリエルは、最初、虚無的ですが、少年達のひたむきさに打たれ、やがて、自分の居場所をみつけるような終盤のストーリー展開が、やや感動的でした。

彼は、きっと作者がハムレットをモチーフにして造形したのだと思うのですが、せっかく、それまでは、戦いに否定的だったのに、最終的には、王国を取り返すためには戦いも厭わないと変心する流れで、これにはちょっと抵抗を感じてしまいました。何だか、積極的平和主義の宣言に似ていて…。

自分はもう歳だからと言うフルクの台詞に、「40代は歳か?」とカドック役の曽世さんが突っ込むのは、葛西選手の活躍を想起させる遊び心の演出でしょうか?そうだったら、さりげない挿入で、センスが良いなと感じたのですが…。

松本さんのガブリエルの方も、拝見してみたくなりました。
ザ・ビューティフル・ゲーム

ザ・ビューティフル・ゲーム

サンライズプロモーション東京

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/01/31 (金) ~ 2014/02/11 (火)公演終了

満足度★★★

もう一息で、感動作間違いなし
この作品は、以前、嵐の桜井さん主演で、観たのですが、その時とは、大分、演出も、台詞も変化している印象がありました。

キャストの皆さんは、何でもござれのメンバーばかりで、歌も、演技も、ダンスも、サッカースタイルも、一応、卒なくこなされると、感心致しましたが、何か足りないという感覚が終始否めませんでした。

これはあくまでも、私の印象なのですが、キャスト全員が、少し、器用貧乏めいて感じられるのです。

役の思いを掘り下げて、ご自身の魂で、演じて下さる役者さんが、あまりいないという印象を受けました。特に、数人のキャストが、役として激昂している場面にも関わらず、歌唱になると、人が変わったように、ご自身の普段仕様の歌い方になるのが、気になりました。

以前観た公演の役者さんは、歌唱力に関しては、今回のメンバーより、確実にレベルは劣っていましたが、それでも、ドラマ性においては、前者の方が遥かに上を行っていたように感じられます。

至近距離のミュージカルで、客席なども多用し、各人の実力は、思う存分堪能させて頂きましたが、もう少し、役に深みを持たせて、演じて下さったら、この舞台、一気に感動作として、成功すると思います。せっかく、心の琴線に触れる珠玉の台詞がたくさんあるのですから、魂を注入した台詞を発してほしいなと思いました。





舞台機構も含め、演出は斬新でしたが、私の席からは、前半の舞台が、かなり死角になって、目では観えなかったのが、残念でした。

大塚千弘さんのメアリーには、何度も心を動かされ、彼女のキャスティングは、大成功だったと思います。

ネタバレBOX

若い役者さんの、顔見世興行的な要素が優先して、芝居を深く見せる工夫を少し、ないがしろにされたのではと感じました。

アイルランドの当時の、悲劇的な世情より、3組のカップルの恋愛事情に比重が掛かり過ぎて、同じ国民でありながら、カトリックとプロテスタントが、何故ここまで反目し合うのかという背景描写が、不足していた印象です。

舞台後方のスクリーンに、当時の映像が映りましたが、そんな実際の映像の助けを借りる以前に、キャストが、当時のアイルランド事情に精通し、役の思いを追体験した上で、カラダに落とす努力の方が必要ではと感じました。

大塚さんを始め、馬場さんも、平方さんも、若い役者さんの歌唱力の素晴らしさは感動をもって聴かせて頂きました。

サッカー競技を表現するダンスも視覚的に、とても素敵でした。

アフタートークで、わかったことですが、ほとんどの出演者に、サッカー経験があるようで、だから、名サッカーチームのメンバーとして、観客を白けさせないだけのリアルな動きが可能だったのだろうと思いました。

客席の2席を舞台として活用し、男女の情交シーンや、嘔吐しそうな場面などを、お客さんのすぐ横で、演じていらっしゃいましたが、きっと、あの席のお客様は、落ち着いて、舞台鑑賞できなかったのではと、ちょっとお気の毒でした。

ただ、新国小劇場の空間で、至近距離で、若い実力ある役者さんの演技や歌を体感できたことは本当に、幸せでした。

是非、役や時代背景の研究を深めて、またこのメンバーで、更なる完成度で、再演していただけたらと希望します。
シャーロック ホームズ ~ アンダーソン家の秘密 ~

シャーロック ホームズ ~ アンダーソン家の秘密 ~

東宝芸能

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2014/01/22 (水) ~ 2014/02/04 (火)公演終了

満足度★★★★★

東京楽日に再度観劇
今回は、ストーリーがわかっていたので、最初から、浦井さんの二役を、じっくりと鑑賞させて頂きました。

アダムとエリックで、歌う声まで変えて、本当にお見事!

それに、先日は、気づきませんでしたが、宇野さんは、刑事役までこなされていたのですね。石井さんが、他の役で舞台上にいらした時の刑事役は、アンサンブルの役者さんだとばかり思っていたので、意外でした。

正真正銘、たった9人の役者さんで、何役もこなされて、各人の役者力に感服しました。

橋本さんが、最後の謎解きをする場面で、歌詞を作って歌われていたと、後で、浦井さんがばらしていましたが、たぶん、観客には気づかれなかったと思います。臨機応変に対処できるのも、また役者力の賜物ですね。

続編の舞台も、心底期待しています。

ネタバレBOX

誰でも知っているシャーロックホームズのお話。このミュージカルでは、ワトソンが、女性という設定で、最初は違和感を感じたのですが、一路さんが、魅力的なキャラで、生き生きと演じていらして、これはこれで、ありだと思いました。

ただ、私は、大の橋本ファンなので、無問題ですが、もし、これまでのホームズファンが、観にいらしたら、ホームズのキャラ設定には、不満が残ったかもしれません。橋本さんが演じるホームズを観たと言うよりは、ホームズを演じる橋本さんを堪能したという言い方の方が適している気がします。

最後のシーンのマジック披露も含め、橋本さんのファンにとっては、とても楽しめる満足度の高いミュージカルでありました。

橋本さん主演だと、カンパニーの雰囲気がとても良好な様子で、それだけでも、嫌な空気が充満する、最近の世の中の憂さ晴らしとして、最高のステージだったと感謝の気持ちで、いっぱいになりました。

カテコで、橋本さんがコメントされたように、せめて、エンタメの世界では、韓国との友好関係を今後も結んで行ってほしいと願わずにはいられません。
真田十勇士

真田十勇士

日本テレビ

青山劇場(東京都)

2014/01/07 (火) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度★★★

会場の熱が、舞台効果になった感あり
東京楽日に拝見しました。

ストーリー運び的には、昨年のTBS版の方が、遥かにクオリティが高いと思うし、作品の重みもありました。

でも、楽日の、客席と、舞台の熱気が、会場に充満して、高揚感が加味したからか、そういう面においては、なかなか感動的ではありました。

幕開きのあたりは、テレビの流行語ネタなどが、さして工夫もなく、安易に盛り込まれ、辟易しそうになりましたが、勘九郎さんと松坂さんのコンビも相性が良く、あまり内容に頓着しなければ、各キャストの活躍に興じて、楽しく観劇できる芝居でした。

何よりも、ナレーションの三津五郎さんのお声がとても力強かったことが、最大の喜びでした。

カテコで、挨拶に立たれた、幸村役の加藤さんが、「ここで、是非皆さんに紹介したい方がいる」と、この舞台の専属トレーナーの男性を舞台に呼び出し、労ったのは、大変素敵な謝辞の表れになったと、感動しました。

もう、55年ぐらい、演劇を観ていますが、私の記憶にある限り、こういう陰の協力者が、舞台上で、紹介されたのは、初めて観ました。

ハードな立ち回りの連続で、キャストの皆さん、彼のバックアップがなければ、到底楽日まで、持ちこたえられなかったと感謝の言葉を述べていらして、こういう、カンパニーの一丸となった温かな空気が、舞台の完成度をアップしたに違いないと感じました。

ネタバレBOX

 最初に、役名と役者さんの簡単なプロフィールが、紹介されるのは、こういう、雑多な出自の俳優さんの出る舞台では、観客に大変親切だったと思います。ナレーションで、それを紹介する声が、三津五郎さんの術後の初仕事だそうで、お元気な声に安堵しました。

意外だったのは、平さんの家康は、映像出演のみだったこと。TBSの里見さんの家康が良かったので重厚な演技を、期待していただけに、残念でした。

由利鎌之助役の加藤和樹さんの立ち回りが、とても鮮やかで、綺麗でした。

勘九郎さんは、出て来た時から、お父様を彷彿とさせる、物腰、台詞回しで、思わず涙を誘われました。

松坂さんは、「ヘンリー5世」の演技で、度胆を抜かれた俳優さんですが、今回も、滑舌も良く、演技に自信が漲っていて、観ているだけで、爽快感がありました。

舞台経験の長い勘九郎さんに、引けを取らない松坂さんの役者資質が、うまく融合し、この二人の絡みが、舞台を弾ませました。

初舞台の比嘉さんも、物怖じせず、大健闘されていました。

ただ、十勇士のメンバーのそれぞれの個性が生かされるシーンがほとんどなく、映像による合戦シーンに時間を割き過ぎな点も含め、舞台作品としての完成度は、かなり低いレベルだったのは、とても残念でした。

アクロバット的な立ち回りに演出の比重が偏り、肝心の人間描写が希薄と言うか、通り一遍な雰囲気を感じました。

嘘ばかりつく佐助の、そうなった経緯などが、もう少し、丁寧に描かれていれば、人物そのものに深く共感できる芝居になったと思うのですが、「天日坊」のような、主人公の心情描写が卓越した作品に比べ、あまりにも浅薄に感じました。

幸村が、噂されるような、天下の名将ではなく、たまたま運が良かっただけという設定それ自体は、面白いけれど、でも、歴史ものの実在人物を描く場合は、やはり、荒唐無稽なストーリー作りにおいてでも、一定の許容範囲があると思うのです。

たとえば、淀が、わざわざ、一人で、夜道を歩いて、幸村に思いの丈を告白に来たり、柳生達を欺くために、佐助や才蔵と結託して、一計を案じ、一芝居打つなんて筋運びには、どう考えても、納得出来かねました。

そこまで、状況的にありえないことを書かれると、芝居への共感が冷めてしまいそうです。

良い役者さんが揃っていただけに、考えの足りない脚本と演出のせいで、その力が思う存分発揮されないのは、実に口惜しい気がしました。
ワイヤーをふんだんに使うのも見せ場としてはいいけれど、サーカスではないのだから、仏作って、魂入れずにならないような、舞台作品としての本質を第一に制作して頂きたいと思いました。

シャーロック ホームズ ~ アンダーソン家の秘密 ~

シャーロック ホームズ ~ アンダーソン家の秘密 ~

東宝芸能

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2014/01/22 (水) ~ 2014/02/04 (火)公演終了

満足度★★★★

浦井ファンは必見です!
初日に観た友人から感想を聞いていたので、あまり期待せずに行きましたが、劇構成には、やや注文したくなる箇所が多いものの、キャストが皆さん素晴らしく、特に、浦井さんの演技力アップには心底感嘆致しました。

浦井さんファンは、これを見逃すと、後悔されることになりそうです。

浦井さんがどこかで語っていたように、観終わると、究極の愛の物語だったことに気付きます。ストーリーの予想がついていたにも関わらず、ちょっと泣いてしまいました。

一幕は、他の事件の紹介が長かったり、楽曲も単調で、わざわざ歌わなくても、台詞で済むのではと思う部分も多かったのですが、2幕は、心理描写も深みが増して、ソロの楽曲にも感動的な要素が多く、見ごたえある展開を楽しめる作品になっていました。

それにしても、浦井さん、初舞台からほとんどの舞台を拝見していますが、歌も演技も、実力をメキメキつけられて、一ファンとしても、本当に嬉しくなりました。

橋本さんも、後半のシャーロック、とても素敵でした。一路さんも、今までになくチャーミングな役柄で、若々しく魅力的でした。

韓国では、第二弾も上演されるようなので、日本でも是非シリーズ化してほしいと思いました。

橋本さんが、「犯人がわかっても、楽しめると思うので、また来て下さい」とおっしゃっていましたが、はい!また観に行きます。今度は、全部わかった上で、役者さんの演じ分けを堪能して来る所存です。

ネタバレBOX

浦井さんの、双子の演じ分けが本当にお見事でした。後年、「ジキルとハイド」をなさったら良いのではと思うくらい。(そして、精神面では、3つの演じ分けも、注目すべきところ)

二幕の、シャーロックのソロナンバー、とても胸に沁みました。犯人の目星がついて、このまま真実を追求してそれで正解なのかと、逡巡する内容の歌で、かつての様々な事件の真相が暴かれた後の悲劇を例示する歌詞が印象深く、心に残りました。「レ・ミゼラブル」のバルジャンが、自分に間違えられ裁きを受ける人のために、自首すべきか悩む歌に似て、人間の苦悩が鮮明に語られる名曲でした。

浦井さんのソロナンバーにも、素敵な歌曲が多かったように思います。
それにしても、彼はいつの間に、あんなに歌唱力がアップされたのでしょうか!高音までしっかりと出て、もはや不安のない歌い方に、心から感動してしまいました。

浦井さんの今後のご活躍が益々楽しみでなりません。
劇読み!Vol.5   ご来場ありがとうございました。

劇読み!Vol.5 ご来場ありがとうございました。

劇団劇作家

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/01/22 (水) ~ 2014/01/28 (火)公演終了

満足度★★★★

五臓六腑はやはり面白い
以前、劇作家協会の月1リーディングで、大変気に入った作品、校倉元さん作「五臓六腑色懺悔」を観てまいりました。

あの時は、それほど演出があったわけではありませんでしたが、それでも十分面白かった作品だけに、今回の上演は、更に進化して、動きがない舞台にも関わらず、耳で聞く情景が目に浮かぶようで、大変刺激的な舞台でした。

皆さん、台本を持っての朗読形式の演技ながら、台本をめくった紙面に役名と役の説明が書いてあって、台詞を言う人間が誰なのかが一目瞭然で、観客に親切な演出でした。

役者さんも、皆さん、好配役でした。

黙阿弥の歌舞伎を連想するような、流麗に流れる台詞は聞いていて心地よく、もう少し、台詞の多さを整理した上で、新作歌舞伎脚本賞に応募されたら良いのではと思える佳作でした。

トコヨミ役の清水さん、粋な色気が素敵でした。蛤役のささいけい子さんは、本を片手にしながら、踊る仕草が堂に入っていました。ただ、最後の大事なシーンでの何度かあった台詞の言い間違いはちょっと残念でした。

校倉さんの学校時代のお友達が、終わった途端、「凄い!良かったじゃない!」と歓声を上げていたのが印象的でした。

ネタバレBOX

一人の人間の五臓六腑が、天狗組と河童組に分裂し、敵味方に分かれていがみ合うという、一見突飛な設定が、実は、大変哲学的で、いろいろな社会の矛盾を示唆していて、作者のアイデアに唸ります。

ト書きを読む三原さんの台詞回しが、江戸時代の芝居小屋を連想させ、その語りの巧みさのお蔭で、頭の中にたくさんの情景が広がりました。今作品の登場人物だけでなく、その背景に、沖縄や福島や足尾銅山や、世界のあちこちの紛争地域の情景が重なりました。

武力で、相手を制するのではなく、説得で、争う二組の仲裁に入る蛤の姿に、日本もそうあるべきなのにと思ったりします。蛤は、自分勝手な振る舞いで、息子を捨てて、色恋に迷った過去もあるけれど、今は、息子を探して、何とか彼の再生を助けようと尽力します。わが国も、過去の過ちを悔い、その経験を糧にして、他国の仲裁役として、世界平和に貢献する道はないのでしょうか?

荒唐無稽な歌舞伎仕立ての狂言芝居の態でありながら、今の世界情勢にいろいろ思いを馳せたくなる、深く味わいのある作品でした。

台詞の随所に、各臓器の機能などをうまく語るセンスも洒落ていました。

ただ、笑えはしたのですが、昔風な良い味わいだっただけに「コラーゲン」とか、現代を思わせる台詞は不要だったようにも感じました。

天狗の台詞で「さっき」という箇所も、「先ほど」か、「先刻」にした方が、しっくり来るように思います。
TRIBES トライブス

TRIBES トライブス

世田谷パブリックシアター

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/01/13 (月) ~ 2014/01/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

リアルな家族劇の秀作
翻訳劇は、時として、観客は置いてきぼりにされる場合が多いのですが、この劇は大変普遍的で、誰の胸にも響く、リアルかつ秀逸な家族劇だと思いました。

ビリーとシルビアは、耳が不自由な障害を持っていますが、それがこの劇のシチュエーション上、決して特殊な家族の形態ではない点に、戯曲の深さを感じ、魅了されました。

田中圭さんの手話が、台詞以上に雄弁で、感動的でした。

演出、戯曲、キャスト、スタッフワーク、全てにおいて、一級品の本物の演劇作品に、終始酔いしれる思いを感じました。

ずっと、父親役は、吉田鋼太郎さんが代役をなさったのかとばかり思っていましたが、どうやら、私の錯覚だったようです。(ご指摘下さった方にお礼申し上げます。)でも、だとしたら、大谷さん、少し、台詞を噛まれることが多過ぎたような気もします。代役なら、致し方ないと思ったのですが…。

ネタバレBOX

シルビアの放つ台詞に、何度も胸を突かれました。

生まれつきの障害者と、後年症状が進む障害者間の、目に見えない格差や階級感。彼女の心情の吐露が、他人ごとでなく、耳に、心に、痛切に響いて、気持ちを何度も揺さぶられました。

勝手気ままに見える家族も、皆懸命にお互いを思いやり、愛している様子が手に取るようにわかり、登場人物の誰に対しても、感情移入できる脚本の秀逸さに感服するばかりでした。

鉄パイプのような柱が、部屋を少しだけ、傾斜して囲うセットも、この家庭の有様を、具現化していて見事です。

音を出す楽器、ピアノが、いろいろな用途で使用される大道具として、この作品の本質を象徴しているように見えます。

後半、音が聞こえないビリーが、一番雄弁になり、手話で、感情を発露するシーンは、実にスペクタクルでした。

最初の場面で、家族同士がテンデンバラバラに、台詞を言い合いほとんど聞き取れないのも、言葉を喋れる健常者も、結局は、音のうねりを発しているだけだという、演出だったのだなと悟った時、この芝居の描く、普遍的な世界のリアルさに、瞠目してしまいました。

一人では生きて行けない弱者に見えたビリーより、彼の兄と姉の方が、ずっと生き辛い人生を歩いているのだという衝撃的な結末に、息を呑む思いがありました。

観劇できたことを幸せに思います。
女王の盲景

女王の盲景

空想組曲

シアター風姿花伝(東京都)

2014/01/08 (水) ~ 2014/01/19 (日)公演終了

満足度★★★

嘘と夢想の境界線
先日、早割チケットをあまりの寒さに無駄にして、でもどうしても観たくて、再度チケットを購入し、観に行きました。

いつになく、少人数の、ほさか作品。

主役の和田さんが、玉木宏さんと小池徹平君を混ぜたような好男子で、ビックリ!でも、どこかで見覚えがあると思ったら、以前、別の舞台で、注目した俳優さんでした。

相変わらずの、飛び出す絵本のような世界。

昔は、ほとんど嘘をつくことを知らない少女だった私も、最近は、家族のために、かなり嘘つき女になったので、ストーリー進行の最中に、自分の嘘の必要性を検証したり、嘘と夢想の境界線を考えたりもしていました。

後半、泣いていた観客が多数いましたが、周囲の感想同様、「なかなか良い」といった程度の印象で、ほさかさんの渾身の一作とまでは、言い難い気がしました。

ほとんど常連の役者さんではなかったので、普段のほさかワールドの熱とは違う空気があったせいかもしれませんが…。(大門さんが、何度か噛むのは仕方ないとしても、重要な台詞を言い間違えた部分は、さすがに気になりました。)

でも、二度もチケットを買った甲斐はあったと思います。

ネタバレBOX

神谷ハイジへの手紙の差出人の名前を、ほのかが、ハイジに呼び掛けるところで、既に、ストーリー展開の大枠を、推測できてしまうのが、ほさかワールドファンとしては、やや物足りなく感じてしまいました。

小玉さんの多彩なキャラは、芝居として、大変痛快な部分ではあるのですが、ただ後半に爆発する草薙の苛立ちの理由が、もうひとつ、共感にまで至らなかったのは、草薙という女性の脚本上の心理描写が、やや浅薄だったせいではないかなと思いました。

夢想のお城の住人3人に比べ、現実社会に生きる、マラソンランナーハイジと医師高遠の苦悩の描き方は、リアルで、二人が、心情を吐露する台詞には、何度も胸を打たれました。

ほさかさんの生み出す世界には、まだまだ興味が尽きません。次回公演も、楽しみに待ちたいと思いました。
曲がるカーブ

曲がるカーブ

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/01/09 (木) ~ 2014/01/23 (木)公演終了

満足度★★★★★

無茶苦茶を装う精密さに感嘆!
何度観ても、その度、驚きを禁じ得ない劇団です。

それこそ、変化球の目白押し!

いつもながら、感心するのは、デフォルメされた社会現象の羅列が、一見すると、かなりハチャメチャに見えるのに、よくよく考えると、実に現実を直視した視点での計算し尽した名脚本に昇華されている点。

そういう緻密な脚本、頭脳的な演出、演技、爆発力、身体能力の3拍子が揃った役者力…と、ここまで全てが兼ね備わった団体は滅多にないと、畏敬の念でいっぱいになります。

劇団員ばかりでなく、客演陣も、すっかりクロム色になるところが、これまたあっぱれです。

観る度、思うのは、青木さんの頭脳明晰さと、抜群の芸術センス。ラジオ番組の構成をしている頃だったら、是非とも、ゲストにお呼びして、お話を聞いてみたかったと思う方です。

クロムの芝居、何が好きかって、絶対、観ていない人を観た気にできないところ。幾ら、説明上手な人が、言葉を駆使したところで、クロムのエキサイティングな舞台を疑似体験させることは不可能です。

だから、劇場に足を運んだ観た者勝ちなのが、ひとえに嬉しくもあり、観てない人に説明できないもどかしさもあり…。とにかく、心をざわつかせる、稀有な劇団!

新年第一弾の、観劇、大満足でした。(でも、欲を言えば、奥田ワレタさんの今回の役は、ちょっと彼女の魅力を存分に出す役柄ではなかったようで、
ファンとしては、やや心残りでしたが)

ネタバレBOX

確かに、「甲子園」という単語は、何かを目指す人にとっての、目標地点、聖地といった印象で、心にインプットされていますね。

その、誰もが目指す「甲子園」の真実を問い直し、暴くような、想像を絶するストーリー進行に、ワクワクしっぱなしでした。(尚、これを観た数日後、NHKの「クローズアップ現代」で、居酒屋甲子園なる気味悪いイベントを知って、絶句しました。青木さんの観察眼、凄すぎる!)

一見、力技に見える、映画撮影シーンの暴力の連打が、実に、人間社会の現実を痛烈に皮肉って、痛快でした。

クロムの芝居では、いつも終盤になって登場する小道具のセンスの良さに、喝采してしまいますが、今回のは、とりわけ、アイデアグッズで、受けまくりました。
渇いた太陽 ~Sweet Bird of Youth~

渇いた太陽 ~Sweet Bird of Youth~

日本テレビ

シアタークリエ(東京都)

2013/12/21 (土) ~ 2013/12/29 (日)公演終了

満足度★★

滑稽に笑うか、哀切に同情するか?
テネシー・ウイリアムズの作品だから、やはり、登場人物は、誰もハッピーではないわけで、人間の無残な宿命が色濃い内容でしたが、結構、笑いを誘発される場面も数多く、こういう人間の滑稽さを笑って観れば、良いのか、はたまた、宿命の悲哀を、嘆息しつつ、観るべきか、受け止め方に迷ってしまいました。

演出意図が、あまりはっきりとしない作りだったような気がします。

原作も、映画も見たことがないので、何とも言えないのですが、チャンスって、だいたい何歳ぐらいなんでしょう?

若さを失ったという台詞から、30代ぐらいかしら?
でも、どうも20代らしい雰囲気もあるので、もう少し、若い俳優さんをキャスティングされた方が、良かったのではないでしょうか?

ヘブンリーの家の事情がわかる場面での、渡辺さんと内田さんの台詞のやりとりが、やや長く退屈で、眠くなってしまいましたが、俊藤さんや、川久保さんの凄味には、かなりハラハラさせられました。

ネタバレBOX

かなり、当時のアメリカの社会事情なども、投影された原作のようですが、この芝居では、そういう部分は、あまり重要視せず、アレクサンドラとチャンスという、二人の人間の精神的崩壊に、主眼が置かれた演出だったように思いました。

ただ、役の理解を、役者さんに任せてしまったのか、役の深い部分の表現形態に、浅丘さんも、上川さんも、戸惑っていらっしゃるような印象を受けました。そのせいで、ベテランのお二人でさえも、まだ演じているという域を出ない演技をされていたように感じてしまいました。

たぶん、二役を演じたと思う、貴城さんは、キュートでしたが、他の役者さんとの演技の質感が異なり、彼女の出番だけが、ややコントじみて観えました。

この物語を、リアルに描いた映画なら、きっと見応えありそうで、是非、ポール・ニューマン主演の映画を観てみたい衝動に駆られます。

浅丘さんのアレクサンドラは、性に依存している女性には到底見えず、上川さんのチャンスも、出世と野望に燃える、自堕落な青年には見えず、お二人とも、この役の任ではない気がしました。性に溺れるシーンが、全然それらしくなくて、ちょっと、しらけてしまいましたし。
 モンテ・クリスト伯

モンテ・クリスト伯

東宝

日生劇場(東京都)

2013/12/07 (土) ~ 2013/12/29 (日)公演終了

満足度★★★★

ダイジェスト版ミュージカルとして成功
かなり復讐劇が簡略化され、女海賊ルイザの過去にも全く言及されず、最後の筋も大幅に違ってはいましたが、ミュージカル作品としては、なかなかの仕上がり作だったと思います。

何より、楽曲が素敵!

石丸さんと花總さんの主役コンビも見目麗しく、歌声も美しく、文句ありません。
エドモンに復讐される3人トリオは、熟練の役者さんだし、ルイザの濱田さんの圧倒的歌唱、ファリア神父の村井さんの歌唱も、胸に刺さりました。
ジャコボの岸さんも、脚本では、あまり描かれない行間を、埋めて、役に命を吹き込んでいました。

しかし、昨今の政治に懐疑的な不安が増大している際の観劇だったせいか、エドモンが言う「正義は、それを成す者のためにある」という台詞が、まるで、安倍さんのスローガンのように聞こえ、ちょっとぞっとしてしまいました。

ネタバレBOX

さすが、フランク・ワイルドホーンさんの曲は、耳馴染みが良く、心に残る楽曲だらけで、満足しました。

原作では、確か、モンデゴ、ウ゛ィルフォール、ダングラールの、エドモンに無実の罪を着せた当事者3人のみならず、その家族までも、復讐の餌食にされたと記憶していますが、この作品では、復讐が簡素化され、倍返しの対象になるのは、3人のみでした。

女海賊のルイザの出自や、宿命にも、言及されることはなく、またエドモンとメルセデスのエンディングも、ハッピーエンドを匂わせるんラストで、原作とは大きく違いました。

でも、味もそっけもないダイジェストには終わらず、各人の思いをうまく歌詞に乗せて、人物関係もわかりやすく提示して、まとめ方がお見事だったと思います。

石川さん、坂元さんと、ミュージカル界熟練メンバーの中で、復讐されるトリオの一人、岡本さんも、歌唱に不安がなく、感心してしまいました。演技力があって、歌も歌えるのですから、これを機にもっとミュージカルでもご活躍を期待したくなりました。

メルセデスの花總さんは、若い時より、エドモンがモンテクリスト伯として登場する後半から、俄然、魅力を放ちました。ドレスがあれほど似合う女優さんをちょっと思い浮かべられません。近くの席で、その美しさを堪能させて頂きました。

エドモンが幽閉されていた時、神父が、復讐に生きるなと諭す歌が、心に沁みて、目頭が熱くなりました。神父役を村井さんに配役してくださった方に感謝します。

何度か暗転がありましたが、2幕で、復讐の鬼と化したエドモンの変節を嘆くメルセデスのソロの後、花總さんが、必死で、上手に小走りではけるのは、興を殺ぐし、花總さんもお気の毒でした。もう少し、熟慮した演出を期待します。
グッドバイ

グッドバイ

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2013/11/29 (金) ~ 2013/12/28 (土)公演終了

満足度★★★★★

お見事!妙味が詰まる芝居にじんわり
信じられない程、素敵なお芝居でした。

昭和の空気感と、程よい笑いと、情感とがマッチした、実に上出来の作品。

5年前、劇作家セミナー同期に、大の北村想ファンの青年がいて、当時は、北村作品未見だったため、ただ彼の熱の籠った賛辞に耳を傾けていただけでしたが今回の舞台を観て、彼の気持ちがわかった気がしました。

北村さんも、彼と同じように、熱く太宰を語る方かしら?作品から、太宰ファンの匂いを感じたのですが…。

キャスティングが絶妙で、特に、屋台のおでん屋さんの半海さんは、もし私が今年の演劇賞の審査員なら、必ず、男優賞を差し上げます。(笑い)

セットも、時折、壁に投写される文字も、何もかもとても素敵で、観ていて、笑みがこぼれました。

寺十吾さんの演出も、とても洒落ていたのだと思います。

まだ、今年の演劇、見納めてはいませんが、たぶん、これが私のベスト1作品になるでしょう。久しぶりに、亡き父に見せてあげたくなるような佳作でした。

ネタバレBOX

演劇好きな、昭和世代の大人向きの、洒落たお芝居でした。

随所に、心を擽られる個所だらけ。

蒼井優さんの豹変ぶりにはしてやられました。ただ、後の面接を断るほど、一目で驚愕するほどの美人という設定には、やや疑問も。私、蒼井さんを美人だと思ったことは一度もないので…。この頃、演技の質が、大竹しのぶさんに似てきたような気もして、やや今後に懐疑的な気持ちも湧きました。

主役の段田さんは相変わらず、何をやらせても完璧な好演。黄村先生が、亡き奥様を思い出しながら、理七にパラソルを買うシーンは、まるで、チャップリンの「街の灯」を思い出すようなレトロな雰囲気。

太宰好きな酔っ払い男、高橋さんの味わい深い演技には、ため息が出るし、少し、C調な大学の助手渡山の柄本さんは、何度かトチッタリする部分も、役柄に合っていて、逆に人物に具体性が出たのは儲けもの。

山崎ハコさんは、私がラジオ番組で、曲を掛けていた頃は、ただもう暗い雰囲気の歌い手さんでしたが、年齢を重ねて、こんなに素敵な雰囲気の歌手になられたのかと感嘆してしまいました。彼女が、流しの歌手として歌う劇中歌「兄妹心中」の歌詞が、心に沁みました。

でも、誰より、素敵だったのは、半海さんの、屋台のおでん屋さんの佇まい。
黄村先生や理七の嘘も見抜いているのに、客の事情には、首を突っ込むことなく、そっと気持ちを察して、お酒を差し出す仕草に、何度、心を鷲掴みされたことやら…。惚れました!

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