土反の観てきた!クチコミ一覧

161-180件 / 1019件中
神なき国の騎士―あるいは、何がドン・キホーテにそうさせたのか?

神なき国の騎士―あるいは、何がドン・キホーテにそうさせたのか?

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2014/03/03 (月) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★

輝く闇
ドン・キホーテの目を通して現代の日本を描き、正しいと思っている価値観について問い掛けて来る様な作品でした。

ドン・キホーテとサンチョ・パンサ(そして2人が乗る馬とロバも)が現代の日本に迷い混み、光に覆い尽され闇が無くなってしまった世の中をシニカルに描くコメディータッチの前半と、原発事故による避難地域を思わせる場所にいる動物達を描いたシリアスな後半からなる物語でした。
前半はエピソードの繋がりが弱くてドラマとしての流れが悪く、また沢山盛り込んだ笑いが滑り気味にも感じられて乗れませんでしたが、後半の悲しく美しいファンタジー的世界が魅力的で引き込まれました。

素舞台にジャングルジム状のセットとスクリーンがあるだけの空間の中で、全身白塗りで最小限の布を纏った大駱駝艦の8人の舞踏手が多彩な身体表現を用いて様々な情景を生み出していたのが魅力的でした。

闇=分かり難さにも価値があることを訴える内容の割には演出が分かり易く、もう少し突き放したり考えさせたりする表現があっても良いと思いました。

野村萬斎さんの台詞回しが明瞭かつ深みがあって、良かったです。

野村誠の老人ホーム・REMIX #2 ドキュメンタリー・オペラ 「復興ダンゴ」

野村誠の老人ホーム・REMIX #2 ドキュメンタリー・オペラ 「復興ダンゴ」

世田谷美術館

世田谷美術館(東京都)

2014/03/01 (土) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★★

声と仕草のサンプリングから生まれる情感
老人ホームの入居者への戦争直後の頃についてのインタビューと音楽ワークショップの記録映像を編集し、ピアノ演奏とダンスを絡めた作品で、入居者達のポジティブさが印象に残りました。

エントランスホールの階段を正面にとって上手にピアノ、数段上がった踊り場にスクリーンが設置され、断片が何度も繰り返されるインタビュー映像の話すリズムや抑揚に合わせてピアノで伴奏し、戦後のエピソードが歌の様に綴られ、インタビューで「ダンス」という単語が出たのをきっかけに砂連尾さんが登場し、映像の老人と一緒に踊る様な動きが繰り広げられました。
映像の動きを真似し、そこに福島の原発事故についての台詞を被せていくシーンは強烈な印象がありましたが、原発について語っているのではない映像を原発の文脈として用いるのは、メディアによる恣意的な情報の取捨選択と同様の事をしているようにも思え、引っ掛かりを感じました。
その後、鈴やハンドベルを用いて演奏するワークショップの風景の映像が流れ、観客にも楽器を渡して参加を促していましたが、観客参加型にありがちな押し付けがましさが無くかったのが良かったです。
終盤は写真に撮られた入居者それぞれの姿を砂連尾さんが真似しながらス会場から消え、清らかな雰囲気が印象的でした。

声だけでなく、インタビュー中に発生したドアの開閉音や他人の足音等を音楽的に取り込んでいたのが入居者達の話しにリアリティーを与えていたのが興味深かったです。

アルトナの幽閉者

アルトナの幽閉者

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/03/09 (日)公演終了

満足度★★★★

戦争に翻弄され幽閉された家族
戦争と責任について問う内容ながら家族のドラマとしても描かれていて、人間の愚かさや滑稽さがうっすらとユーモアを感じさせながら表現されていました。

戦争中にあったに出来事によって精神が不安定になり13年間部屋に閉じ籠り、妹としか部屋に入れない男の所へ、血の繋がらない部外者である、弟の妻が訪れることによって家族の関係に変化が生じる様子がじっくりとスリリングに描かれ、次第に戦争で犯した罪を裁くことというテーマになり、色々と考えさせられる物語でした。
主人公だけで家族のそれぞれが何かしらの理由でもって自分を幽閉していて、原題が「Les Séquestrés」と複数形になっているのが納得出来ました。

こけ脅し的な目を引く様な派手な演出は無く、理屈っぽい対話が延々3時間半近く続くものの、共感出来る台詞や演技に引き込まれて長さを感じませんでした。
男が妄想上の蟹達に話し掛けるシーンが何度もあり、蟹のハサミを上げる姿とナチス式敬礼が重ねって見えたり、地面から離れられない人類を思わせたりと、象徴的で印象に残りました。

岡本健一さんが本当に狂っているのか正気なのに狂っている振りをしているのか分からない人物をコミカルな一面を持たせつつ演じていて、多面的な魅力がありました。

歌と朗読『時計台の夜』

歌と朗読『時計台の夜』

天野天街

富士見丘教会(東京都)

2014/02/25 (火) ~ 2014/02/25 (火)公演終了

叙情的な一夜
住宅街に建つ小規模な教会で、あがた森魚さんの歌と緒川たまきさんの朗読で稲垣足穂の世界を味わう、文学的な雰囲気のコンサートでした。「天野天街presents」と冠が付いていますが、天野さんが構成や演出をしたというわけではない模様でした。

星が登場するテクストが多く使われていて、教会の高い天井の空間と相まって澄んだ空気感が漂っていました。前半は音響バランスも悪く、硬さが感じられましたが、次第に良い雰囲気になって来て、終盤はノリの良い曲が続き、盛り上がりました。緒川たまきさんの少年っぷりが素敵でした。

この公演が登録されていたので、「観てきた!」に書き込みましたが、特に演劇的な表現を用いていない、普通のコンサートの形式だったので、満足度の評価は控えておきます。

サニーサイドアップ

サニーサイドアップ

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2014/02/21 (金) ~ 2014/03/02 (日)公演終了

満足度★★★

駄目で愛おしい男達
荒川良々さん本人を思わせる人物の一生をコミカルに描いた作品で、全員男性の出演者達の濃いキャラクターが魅力的でした。

建物と建物の間の隙間に嵌って抜け出せなくなってしまった男の幼少期から死後までの様々なエピソードが時系列に従わずに行ったり来たりしながら展開し、先輩や付き人等の周囲の人達も含めて冴えない駄目男ながらも全員が愛おしく感じられる物語でした。
分かり易いベタなものから下ネタ、ブラックなものまで笑いが多く盛り込まれていて、その中に人生の掛け替えの無さを感じさせました。
隙間に挟まった男という設定は面白いのですが、それがあまり活かされていなかったのが勿体なかったです(同じくノゾエさんの『マイサンシャイン』も壁の穴から抜け出せなくなった人の話でしたが、上半身と下半身が分断されている状況が内容と密接に繋がっていました)。

両サイドと奥が壁で囲われた空間の中で左右にスライドする3枚の壁を用いてトリッキーに人の出捌けを行って次々に異なるシーンへ繋がるのが良かったです。
飄々とした荒川さん、暑苦しい赤堀さん、小動物的な小野寺さん、芸達者なはえぎわメンバー達と、それぞれの個性が強く出ていて楽しかったです。

平行する交差展:Performative Architecture

平行する交差展:Performative Architecture

日本大学芸術学部インターセクション・プロジェクト

日本大学藝術学部 江古田キャンパス(東京都)

2014/02/22 (土) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★

平行して存在する映像と身体
日本大学芸術学部の様々なジャンルの教員とゲストパフォーマーによる展覧会で、チラシには回遊式インスタレーションとなっていましたが、実際には劇場内の客席に座って映像やパフォーマンスを観る形式となっていました。

このアートプロジェクトのプロセスを流す30台のモニターが置かれている劇場へ続く通路を抜けて劇場に入るとステージと客席の間に設けられた「ランドスケープ・エリア」と名付けられた場所に出て、その場所かあるいは客席に降りて、ステージに設置された3面のスクリーン(さらに客席の上空にも縦長の物が2面ありました)に映し出される映像と音響を鑑賞する形で、時折ダンスや朗読のパフォーマンスが行われました。

じゅんじゅんさんは雲が流れる映像の中を掻き分ける様に進んだり、風景の映像が左右に映し出される中で脚光でシルエットだけが見える状態で激しく踊るパフォーマンスを行い、キムミヤさんはカラフルな映像の前や振付の記号譜の映像の前で踊るパフォーマンスを行いました。
寺内亜矢子さんは建築物を撮った写真の幕が下ろされた中でC.R.マッキントッシュの椅子に座ってアインシュタインの『相対性理論』の序文を初めは一音毎の間隔をかなり空けて読み文章として認識させず、次第に普通の読み方に変化して文章がが分かるものの物理学論文なので意味は良く分からないままというパフォーマンスを行いました。

パフォーマンスそのものは興味深い内容でしたが、この展覧会全体の中での位置付けが見えて来ず、散漫な印象を受けました。当日配布されたパンフレットを読むと、イメージが反射しあうのを眺める装置を目指したとのことで、何らかのドラマツルギーを期待すること自体があまり相応しくなかったみたいですが、「装置」としての機能があまり感じられませんでした。

さいあい~シェイクスピア・レシピ~

さいあい~シェイクスピア・レシピ~

tamagoPLIN

シアタートラム(東京都)

2014/02/21 (金) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★★★

グレードアップ
何度も再演されている作品で、2011年のタイニイアリスと学習院女子大学での公演を観たことがありますが、出演者数が増えて美術や照明も立派なものになり、作品として進化していました。

基本的には過去に観たものと同じでしたが、中央に一段高いステージを設けて床下から人や小道具の出捌けをしていたこと(トラムはステージ下に奈落があるので、床を上げなくても同様のことが出来ると思いましたが)と、最後に『夏の夜の夢』のパックの後口上が引用されていたのが新たな要素の中で印象に残りました。
ストーリーが分かっていて、しかもベタな内容なのですが、終盤の展開にはやはり心を動かされました。

個人的にはハイテンションで騒がしかったり、児童劇みたいにわざと子供っぽく振る舞う演技は苦手で、この作品もその様な要素が非常に多いのですが、それを気にさせずに物語の世界に引き込む手腕が見事だと思いました。

小劇場演劇は公演の度に新作を発表するのが一般的ですが、この作品の様に何度も再演しながら更に良いものへと育てて行く方法を取るのも価値があると思いました。

2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」

2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2014/02/15 (土) ~ 2014/02/27 (木)公演終了

満足度★★

演技力を見せるストレートな演出
蜷川さんの得意技であるケレン味を効かせた表現は控え目で、役者達の演技をストレートに見せる演出となっていましたが、物語としては理解も共感もしにくかったです。

妹を亡くしたのを機に暴君と化していく皇帝カリギュラの孤独な心境を描いた物語で、残虐でありながらどこかしら純粋さを感じさせるカリギュラの姿が印象的でした。
前半は終始シリアスな雰囲気で進行し、休憩後の場面は雰囲気が変わってコミカルになっていましたが、中途半端であまり笑える表現になっていなくて、異化効果としてもあまり機能していない様に感じました。最後のシーンは蜷川さんが他の作品でも良く使っている手法で、その効果よりも既視感を強く感じてしまいました。

若い役者ばかりの劇団ですが、叫ぶ台詞も聞き取り易く、老け役を演じていても違和感が無く、実力を感じました。カリギュラを演じた内田健司さんの繊細な存在感が魅力的でした。

三方囲み舞台で、上空には大きなシャンデリア、奥の壁は鏡張りの黒い空間に、カリギュラは白、他の人は赤で、年齢に応じて皺加工が施された衣装が映えていました。
効果音と音楽の使い方が説明的で、好みではありませんでした。

J・シュトラウスⅡ『こうもり』

J・シュトラウスⅡ『こうもり』

東京芸術劇場

東京芸術劇場 コンサートホール(東京都)

2014/02/20 (木) ~ 2014/02/20 (木)公演終了

満足度★★★

現代の日本に置き換えた演出
男女が騙し合う喜劇を、舞台を現代の東京に設定し、遠い国の昔話ではなく今日的な身近な物語として描いた、親しみ易い演出でした。

日本人キャストは日本人の役、欧米のキャストは日本に住んでいる外国人という設定で、ドイツ語と日本語が入り混じる状況をすんなりと受け入れられる趣向になっていたのが良かったです。手紙を携帯電話(しかも着信音が『こうもり序曲』でした)に、仮面をサングラスに置き換えていて、現代の話として違和感がありませんでした。しかし、設定を置き換えたことにそこまでの必然性が感じられなかったのが少々残念でした。
第2幕までは現代的要素の入れ込み方にセンスの良さを感じたのですが、それだけでは演出家としての個性が弱いと感じたのか、第3幕では美術や演出に必要の無い要素が多く、あざとさを感じました。

第2幕ではウィーンで活躍した名歌手メラニー・ホリデイさんが本人役として出演して1曲歌い、チャーミングなパフォーマンスもあって素晴らしかったです。第3幕では西村雅彦さんの時事ネタを扱う一人芝居(偽作曲家事件についても言及があり、この公演で演奏していたオーケストラが大ヒットした交響曲のCDの演奏を担当していたのが皮肉的でした)があり楽しかったのですが、長過ぎると思いました。

コンサートホールでの上演で演出に制限が多いものの、セットも衣装もしっかりしていて、視覚的にも楽しめました。色々な照明効果を使っていたのは逆に効果的ではなくなっていた様に感じました。

ドン・カルロ

ドン・カルロ

東京二期会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2014/02/19 (水) ~ 2014/02/23 (日)公演終了

満足度★★

平板な演出
16世紀スペインの王室を舞台にしたオペラをストレートなコスチュームプレイとして演出していて、このプロダクションならではという特徴が感じられず、音楽的には楽しめたものの、演劇としては物足りなかったです。した。

息子の婚約者を王である父親が奪うことから起こる悲劇で、ビジュアル的に美しく印象的な場面があったものの、物語としてはあまり惹かれる要素がなく、物語を通して訴えたいものも伝わって来ませんでした。

出演者は歌唱は悪くなかったのですが、取って付けた様な動きの演技で、ドラマ的魅力があまり感じられませんでした。特に第5幕は動きがあまり無く、ただ歌っているだけという状態が長く続き、視覚的に退屈感を覚えました。

柱・壁・床が白っぽいタイルで埋め尽された、大掛りな舞台機構を用いたセットでしたが、登場人物の心情とのリンクを感じさせることもなく、あるいは可動部に歌手が乗って歌うといったダイナミックな表現もなく、ただ異なる場所であることを示す為だけに形状を変化させている様に見えて、勿体なく感じました。

オーケストラは充実した演奏で、安心して聴けました。しかし、もう少しあおる様な勢いが欲しかったです。

ピーピング・トム 『A Louer/フォー・レント』

ピーピング・トム 『A Louer/フォー・レント』

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2014/02/17 (月) ~ 2014/02/19 (水)公演終了

満足度★★★★

記憶の迷宮
人間離れした身体表現を用いてホラーでスラップスティックでシュールな世界を描いた作品で、謎めいた魅力がありました。

ステージ手前の赤いカーテンが開くと、奥も同様に高さのある赤いカーテンで囲まれた空間となっていて、オーケストラのチューニングの音が流れる中、ある洋館にいる女主人と執事の所へ現実か妄想か曖昧な人達が現れては消えて行き、かつてその場所に居た人の記憶が呼び戻されている様な不思議な物語でした。
ホラー映画のパロディー的に恐怖感を煽るシーンやオペラ歌手のアリアやナンセンスな会話(芸術監督の野村萬斎さんや隣のシアタートラムで前日まで公演があった片桐はいりさんの名前も出ていました)等、ダンス以外の要素も多く、独特なパフォーマンスとなっていました。日本人のエキストラが多く参加していて、幽霊みたいに存在していたのが印象的でした。

スローモーションや静止やアクロバティックな動きが効果的に使われていて、特殊効果を用いた映像の様な光景が目の前で繰り広げられていて圧巻でした。特に足首が脱臼したような動きが特徴的で、壊れた人形の様な歩き方が不穏な空気を醸し出していて目を引きました。

1950〜60年代の前衛音楽的な音楽が多用されていて、ちょっとレトロな感じが作品の幻想的な内容にマッチしていました。非現実な光景を具現化するセットや家具のギミックや、パフォーマーの立ち位置の組み合わせが興味深かったです。

作品№8

作品№8

OM-2

日暮里サニーホール(東京都)

2014/02/14 (金) ~ 2014/02/15 (土)公演終了

満足度★★★

資本主義に抗う身体
ダンス・演奏・映像を用いた前衛的なパフォーマンスで、あまり理解出来なかったものの異様な雰囲気に引き込まれました。

前半は4方囲み舞台で、客席に紛れていた普段着のパフォーマーが劇場を出入りする、精神病院の患者を思わせる上下白の衣装に着替えて現れ、歩く立ち止まる、倒れるといったシンプルな動作を繰り返すことから始まり、次第にソフォクレスの『オイディプス王』の要素が混ざって行き、途中では木の椅子をバチで叩く、和太鼓演奏の様なシーンがありました。
その後、パフォーミングエリアに観客を集め、周囲の壁と床に映像を投影するのを見せ、その後パフォーマーがそれぞれの場所で台詞を喋っているバックヤードを通ってロビーに誘導され、再び劇場に入ると通常の客席配置になっていました。
8人のダンス的なシーンの後、男女の芝居的なパフォーマンスが続き、それまでとは異なる、人間の汚い部分をさらけ出す様な暴力的でグロテスクな表現でインパクトがありました。

『オイディプス王』の物語と現代社会における人間の実存の問い掛けが混ざり合って緊張感が生み出されていて、2時間弱に渡る前衛的な内容でしたが、飽きを感じさせませんでした。
椅子を叩いて演奏するシーンは印象的ではありましたが、そのシーンだけが妙にポジティブなテンションになっていて全体の中で浮いて見えました。

メッセージ性の強い台詞が多かったものの、叫ぶ様に言うことが多くて聞き取り難く、特にユニゾンの時は何を言っているのか分からなかったのが残念でした。

カタルシツ 賽の河原

カタルシツ 賽の河原

イキウメ

KAAT神奈川芸術劇場<アトリウム>(神奈川県)

2014/02/14 (金) ~ 2014/02/16 (日)公演終了

満足度★★★

コミカルな地獄絵図
賽の河原の石積みをモチーフにした、コミカルで不条理劇な20分程度のパフォーマンスでした。

ビジネスマンの格好をした、鬼の金棒を持った男と、椅子に座ってメトロノームのゼンマイを巻きホイッスルを鳴らす女が、青い作業着の人達に段ボール箱を積む作業を行わせ、良く分からない基準によって認められた者は作業を免除する様子が描かれ、最後まで作業を拒否していた男がビジネスマン風の男に金棒を渡され、その男の立場を引き継いでまた冒頭と同様のシーンになって終わるという、エンドレスの悪夢的な展開を想像させるシニカルな物語でした。

日本語を使ってはいけない世界という設定で、一瞬だけ日本語を言う場面が何度かあるものの基本的に台詞は「ダー」だけで、 サイレントのコメディー映画の様な雰囲気がありました。
会話が無くても表情や体の使い方が豊かでやりとりが良く分かり、楽しめました。

話し言葉の百科全書/ジョリス・ラコスト『コラール(日本バージョン)』

話し言葉の百科全書/ジョリス・ラコスト『コラール(日本バージョン)』

アンスティチュ・フランセ横浜

神奈川芸術劇場内(神奈川県)

2014/02/13 (木) ~ 2014/02/14 (金)公演終了

満足度★★★

日本語の響き
日本語の響きをコンサートの様式を用いて再現したユーモラスな20分程度のパフォーマンスでした。

12人が雛段の上に3列で並び、指揮者の合図に従って、「築地の競り」、「スポーツの実況中継」、「日本語学校におけるフランス人生徒」、「宅配便のコールセンターの機械音声」、「都知事選の街頭演説」、「アニメ(『北斗の拳』でした)の1シーン」といった日常的なシチュエーションをそれぞれ数分の短編として描いていました。
基本的にユニゾンで発声して個人の声の色を薄めて程良く抽象化することによって、日本語の音自体の面白さが明確になっていました。響きの豊かさだけでなく、話されている内容も笑えるものをピックアップしていて、音楽としても言葉としても楽しめました。
モノフォニックな場面が多く、もっとポリフォニックな展開があっても良いと思いました。

一定のリズムやはっきりとした音高といった音楽的形式が用いられていないにも関わらず、ぴったりと合ったパフォーマンスになっていて見事でした。

ARCHITANZ 2014 2月公演

ARCHITANZ 2014 2月公演

スタジオアーキタンツ

新国立劇場 中劇場(東京都)

2014/02/11 (火) ~ 2014/02/12 (水)公演終了

満足度★★★

バラエティーに富んだ4作品
実力のあるダンサー達によってタイプの異なる4作品が上演され、ダンスの様々な魅力が感じられる公演でした。

『Opus 131』(振付:アレッシオ・シルヴェストリン)
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に乗せて踊る抽象バレエで、ネイビーのシンプルなチュチュを着たダンサー達が幾何学的に踊る、スタイリッシュな作品でした。基本的にはクラシックな感じの振付ですが、重心の移動の仕方や動きの組み合わせ方によって現代的な雰囲気がありました。照明の変化もあまり無くてメリハリが弱く、少々長さを感じました。

『マノン』より寝室のパ・ド・ドゥ(振付:ケネス・マクミラン)
ロバート・テューズリーさんと酒井はなさんによる愛の喜びに満ちた情感豊かなダンスでした。動きの切れが良く、リフトや相手に飛び込むのがスパッと決まるのが気持ち良かったです。マイムや表情といった演技的な面も魅力的でした。短い演目ながら、ちゃんとしたセットがあったのも良かったです。

『HAGOROMO』(振付:森山開次)
能楽師の津村禮次郎さん、ガムラン音楽のデワ・アリットさんとのコラボレーションによる能の『羽衣』をアレンジした作品で、調和を乱すことなくそれぞれの存在感が現れていて、神秘的な美しさを感じました。白と黒、光と闇の対比が静謐な雰囲気の中で描かれていました。小道具として用いられた薄い布がまるで生きている様に宙を漂う姿が印象的でした。

『火の鳥のパ・ド・ドゥ』(振付:マルコ・ゲッケ)
再びロバート・テューズリーさんと酒井はなさんによるダンスで、男女とも同じ動きをして役柄を感じさせずドラマ性の無い振り付けにも関わらず、とてもドラマティックに感じられる不思議な作品でした。痙攣的な動きが多用されていてポーズも妙なのですが、美しかったです。この振付家の作品は今回初めて観たのですが、他の作品も観てみたくなりました。

「砂女←→砂男」(楽日昼予約完売。昼は当日券はでません。お問い合わせは09072550814まで)

「砂女←→砂男」(楽日昼予約完売。昼は当日券はでません。お問い合わせは09072550814まで)

うずめ劇場

ザ・スズナリ(東京都)

2014/02/07 (金) ~ 2014/02/11 (火)公演終了

満足度★★

笑えて怖い『砂女』
人がある共同体に否応無く取り込まれていく様を描いた安部公房の名作の舞台化で、アングラ的雰囲気を盛り込みつつ、かなり原作に忠実な作品でした。

昆虫採集のに為にやって来た男が、女一人で住む家に案内され、逃げることの出来ない状況が映像を多用しながら描かれて、アンサンブルの役者達が所々で現れて男が居なくなった世界を見せていました。
新聞が出てくるシーンに絡めて、最近のニュースを読みあげて物語の内容が現在にも通じることを示していたのは説明的に過ぎると思いました。

映像が凹凸のあるセットに対して投影されることを考慮されていなくて、文字が読み難かったのが残念でした。映像の内容はレトロ感を狙ったのだと思いますが中途半端に感じられました。
音の使い方も大袈裟に感じられました。

出演者は多いものの実質は2人芝居に近く、主役の2人は全裸になったり激しい動きがあったりと体を張った熱演でしたが、演技がオーバーに感じられて物語の世界に入り込み難かったです。
女のキャラクター造形が小説を読んでイメージしていたものより、元気な感じで所々で笑いを誘っていましたが、個人的には違和感を覚えました。

『砂男』の主要な役を演じた2人がこの作品でもメインキャラクターを演じていて、別世界に誘い込む女とそれに惑わされる男という関係が重ね合わされていて、時代も国も異なる小説の繋がりが感じられたのが興味深かったです。

「砂女←→砂男」(楽日昼予約完売。昼は当日券はでません。お問い合わせは09072550814まで)

「砂女←→砂男」(楽日昼予約完売。昼は当日券はでません。お問い合わせは09072550814まで)

うずめ劇場

ザ・スズナリ(東京都)

2014/02/07 (金) ~ 2014/02/11 (火)公演終了

満足度★★★

迷宮的な『砂男』
自動人形に恋してしまった男の奇妙な物語が癖の強い演出で描かれ、天野天街さんはらではの不思議な世界観に引き込まれました。

主人公の男が妄想する2人の男、コッペリウスと砂男の名が互いにしりとり的に循環して繋がることが台詞やシーンの構成に反映されていて、大半の台詞が最後の1音あるいは2音が次の台詞の1音あるいは2音と同じ音で重ねて発語されるという凝った脚本が迷宮的な雰囲気を醸し出していました。開演前のアナウンスに物語の世界が侵蝕して来て畳み掛ける様に展開する冒頭部分が印象的でした。
原作には無い科学用語を織り込むことによって、自動人形がアニメキャラに代表される現代におけるヴァーチャルな存在と重ね合わさって見えたのが興味深かったです。

役者の演技に録音の台詞、映像、美術、チェロの生演奏を含む音が複雑に絡み合い、迷宮に入り込んだような感覚がありました。
巧みな明転と暗転のタイミングで高い所からに落下した様に見せたり、人が瞬時に消えたり現れたりするように見せる、イリュージョン的な演出が楽しかったです。

何度も同じ事を繰り返したり、複数人で途切れなく台詞を繋いで行ったりと技術的に大変なことをしている為か、台詞を噛んだり言い回しが怪しくなったりすることが目立ったのが残念でした。

ロミオとジュリエット

ロミオとジュリエット

東京バレエ団

東京文化会館 大ホール(東京都)

2014/02/06 (木) ~ 2014/02/09 (日)公演終了

満足度★★★★

若さ溢れるロミオとジュリエット
ロミオとジュリエットの若さが魅力的に描かれた振付・演出で、基本的にはクラシカルな雰囲気の中に所々でモダンなセンスが感じられる親しみ易い作品でした。

この版オリジナルの要素である旅芸人一座の存在が効果的に用いられていて、物語に深みを与えていたのが良かったです。
ジュリエットが修道僧に会う為に教会へ向かうシーンでは、それまで常に舞台上にあったセットが全て引っ込み、上手から下手、下手から上手へとひたすら走り続けるだけで、そのシンプルな演出が逆にジュリエットの思いを鮮烈に表現していてインパクトがありました。
決闘のシーンもダンス的な表現ではなく本気で剣をぶつけ合っていて迫力がありました。

第1幕の舞踏会のシーンや、第3幕のティボルトの葬列、舞台奥を横切る旅一座の移動式舞台、仮死状態のジュリエットが安置される墓地等、視覚的に暗かったり黒色が多く使われている場面がまるで絵画の様で美しかったです。

振付は演技性と運動性のバランス良く、物語を味わいつつ視覚的な快楽も楽しめました。ロミオとジュリエットのパ・ド・ドゥではリフトが多用されていたのが印象的でした。『ロミオとジュリエット』を基にした『ウエストサイド・ストーリー』を思わせる振付があったのが興味深かったです。

布を多く使った衣装が多く、群舞で一斉に脚を上げたり回転すると光景が鮮やかに切り替わるのが印象的でした。

ジュリエットの母を踊った奈良春夏さんの硬質な美しさが際立っていました。

たちゆかぬ

たちゆかぬ

雲の劇団雨蛙

明石スタジオ(東京都)

2014/01/31 (金) ~ 2014/02/02 (日)公演終了

満足度

立ち行かない作品
短いエピソードを変奏しながら繰り返す作品でしたが、様々な面で力不足な為、説得力の無い自己満足的な表現に見え、70分と長くない上演時間にも関わらず体感的にはとても長く感じられました。

役者をしている男性が7年前に中途半端な形で別れた女性と再会し、はっきりと別れを告げるという、ストレートに演じると10分も掛らないプロットを、役者を次々に入れ替えたり、複数人が同時に同じ台詞を言ったり、異なる場面の台詞を断片的に交互に言ったりしながら何度も繰り返す凝った構成で、異なる選択肢の間で悩み、立ち行かなく心境を表現していました。
境界線が曖昧な劇中劇構造が活かされていなかったが勿体なく感じました。

使われている手法が要求する精度に役者の技術が達していなくて、格好付けた風な演技ばかりが悪目立ちしている様に感じました。
客入れ時から舞台上を走っていた女性が前口上を述べるのですが、もっと大袈裟で様式感のある台詞回しにしないと物語の枠の外にいる狂言回し的な存在感が出ないと思いました。

BGMの選曲にセンスが感じられず、特に日本語歌詞の曲が多用されていて台詞とぶつかっているのが気持悪かったです。衣装も必要以上に多色使いでゴテゴテしていて、視覚的にうるさく感じました。
作品に直接は関係しませんが、チラシにも当日パンフレットにもスタッフの名前が記されていないのが気になりました。

クロスグリップ

クロスグリップ

Hot Head Works Project

studio ARCHITANZ(東京都)

2014/01/26 (日) ~ 2014/01/26 (日)公演終了

満足度★★★★

ミニマルな要素から生まれる豊かさ
「交差」をキーワードにしてミニマルな要素で組み立てられた音楽に対してミニマルな振付を当てていながら、豊かな質感が浮かび上がる作品でした。

前半は『エレクトリック・カウンターポイント』(スティーヴ・ライヒ作曲)を用い、立ち位置の交差による構成でした。序盤は歩き続けて時折小走りするだけだったのが、次第に体の前で腕をクロスしたり、髪を掻き上げたりと動きが増えて行くテンポが心地良かったです。中盤からは複雑なポジションの入れ替わりがありスリリングでした。
後半は『鏡の中の鏡』(アルヴォ・ペルト作曲)を用い、動き出すタイミングの交差による構成でした。短いシークエンスをループするだけなのですが、繰り返す度に4人それぞれの動き出したり止まったりするタイミングがずれて行き、全体としては複雑な動きになって行くのが美しかったです。

さりげないムーヴメントを用いた振付で派手に踊るシーンはなく、また4人の動きもあまり揃っていなかったにも関わらず、ミニマルな要素の中に立ち現れる豊かさに引き込まれ、試演的な位置付けで照明の演出や衣装も無い、わずか30分程度の公演でしたが、充実した内容で満足しました。
今回は録音物での参加でしたが、加藤訓子さんの生演奏を加えて、照明等の演出も施したヴァージョンもぜひ近い内に発表して欲しいです。

ワンドリンク付きとなっていましたが、実際には軽食も用意されていて、
チケット代が1500円では申し訳ない気分になりました。

このページのQRコードです。

拡大