土反の観てきた!クチコミ一覧

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愛情爆心地はボクのココ

愛情爆心地はボクのココ

ぬいぐるみハンター

王子小劇場(東京都)

2011/07/07 (木) ~ 2011/07/18 (月)公演終了

満足度★★

空回り気味
ぬいぐるみハンターのここ数作は続けて観ているのですが、今までの作品に比べて毒が薄くなっていて、ただ楽しく騒いでいるだけの様に見えました。ビジュアルや大音量の音楽、ハイテンションな演技などに目を奪われますが、物語自体は陳腐であまり楽しめませんでした。ストリートチルドレンと自分勝手な大人たちを描いていましたが、物語より笑いを重視するのなら、もっとナンセンスで軽い話の方が良かった気がします。
演出的にも今回は新鮮味を感じるところが無く、特にクライマックスのシーンは若いエンターテインメント系の劇団で良くあるような構成で、この劇団ならではの個性が感じられませんでした。
たくさんギャグやネタを盛り込んでいたのですが前半は空回りしている感じを受けました。後半は神戸アキコさんが引っ張っていて笑えました
。役者達も笑っていたのでアドリブだったのでしょうか?

王子小劇場の空間を存分に利用して奥行き感が出ていたのが良かったです。奥の方から背中にライトを浴びながら役者が現れるシーンが素敵でした。但し、前作の『くちびるぱんつ』と同じ空間の使い方だったので(特にオープニング)、他の可能性も見せて欲しかったです。

役者は女性陣はそれぞれの個性を生かした可愛らしさが出ていてたと思いますが、男性陣はあまり印象に残りませんでした。

ハードコアダンスファクトリー第二回

ハードコアダンスファクトリー第二回

大橋可也&ダンサーズ

UPLINK FACTORY(東京都)

2011/07/10 (日) ~ 2011/07/10 (日)公演終了

満足度★★

(アンチ)ダンスの工程
大橋可也&ダンサーズと、そのメンバーである古舘奈津子×国枝昌人のパフォーマンスと、文芸評論家の安藤礼二さんと前衛音楽家の吉田アミさんを迎えてのトークで構成されたイベントで、一般的な「ダンス」とは少し距離を置いた視線を感じさせました。

古舘奈津子×国枝昌人
物語性やダンス的フォルム、照明、音楽などの要素を削ぎ落としたストイックな作品でした。始まる前からアクティングエリアの隅に立っていた古舘さんがゆっくりと時間をかけて体の各パーツの揺れを増幅させるのに対して、途中から出てくる国枝さんはミュージカルやショーダンスから引用したような「キメ」のあるポーズ・動きを断片的に継ぎ接ぎしたシークエンスを何度も繰り返し、2人の動きが交わることのないままに事前にセットしていたタイマーが鳴って唐突に終わり、ダンスに対しての批評的な眼差しを強く感じました。しっかりしたコンセプトは良いのですが、観る側としては単調過ぎて飽きがくるので、客の集中力を途切れさせない為の構成上の仕掛けが必要だと思いました。

大橋可也&ダンサーズ
2回パフォーマンスがあり、同じ振付をダンサーや音楽を変えることによって現れる差異を見せていました。
1回目は日常的な格好をしたダンサー女5・男1で、音楽は船橋陽さんのサックスとチェロの演奏を大谷能生さんがエレクトロニクスで変形させる形でした。取っ組み合ったりや倒れ込むなど、いわゆるダンス的ではない暴力性とエロティシズムを感じさせる動きがほとんどで、そこに耳がつんざくようなノイジーな演奏が被さり、異様な雰囲気を生み出していました。
2回目は、1回目とは別の女6・男3のダンサー、音楽は2人ともサックスを演奏する形で上演され、1回目に比べて柔かい雰囲気を感じました。ダンサーや音楽の違いで同じ振付が異なる見え方になっていて興味深かったです。
数名が同時に同じ動きをする箇所でも敢えてぴったりとは揃えずダンサーそれぞれの個性を引き出そうとしているようでしたが、ダンサーたちの動きに説得力があまりないため、敢えて揃えてないのか、揃えようとしたけど上手く行かなかったのかが不明瞭に感じられました。

トークは普段あまりダンスを観ない2人のゲストがそれぞれの立場から疑問や意見を述べていて、「文字化することによる単純化」や「モニタリング出来ない踊る身体」など興味深いトピックが出ていたのですが、話題が飛び飛びであまり掘り下げられなかったのが残念でした。

ゲヘナにて

ゲヘナにて

サンプル

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2011/07/01 (金) ~ 2011/07/10 (日)公演終了

満足度★★★★

不思議な世界
太宰の生まれ変わりを自称する男を中心にシュールなエピソードが取りとめなく続き、煙に巻かれたような気分になりましたが、それが不思議と気持良い作品でした。

太宰自身のことを思わせる心中の話などが出てきましたが、全体としてどういう話なのかはさっぱり分かりませんでした。しかし物語がなくても個々のシーンが美しかったり妙だったりで、ジワジワと印象に残りました。脱力的な笑いも魅力的でした。

普段と配置を90度変えた、かなり幅広の急傾斜のステージや、台車を組み合わせて作ったタクシー、天井から吊り下げられた通路、下手の壁一面に並べられた照明などビジュアルにインパクトがありました。ステージ後方に見える、通常なら客席の壁にあたる、デザインの入った壁を黒い布で隠したりせず、そのまま見せていて作り込んだステージとのギャップが舞台の虚構性を強調していました。
突然「ピンポンパンポーン」とお知らせのチャイムが鳴り、舞台も客席も明るくなって数秒間何も起こらない場面が、あたかも暗転による場面転換の逆バージョンみたいで不思議な雰囲気があって面白かったです。

役者達は前に出て目立とうとする演技ではないのですが、それぞれのキャラクターが出ていて良かったです。
特に太宰を演じた古舘寛治さんの演技なのか素なのか分からない飄々とした雰囲気が良かったです。
バレエ『牧神の午後への前奏曲』の格好をしたニジンスキーが踊るシーンが強烈でした。

おもいのまま

おもいのまま

トライアングルCプロジェクト

あうるすぽっと(東京都)

2011/06/30 (木) ~ 2011/07/13 (水)公演終了

満足度★★★★

繰り返しと選択
実験的な作品で新鮮な感動を与えてくれる飴屋法水さんの演出で、ベテランの佐野史郎さんや石田えりさんが演じるという興味深い組み合わせは、ちょっと実験的な要素を含みつつも、普通にストーリーのある分かりやすい作品に仕上がっていました。

ある裕福な中年夫婦の家に、夜遅く記者を名乗る横暴な若い2人組が押し入って来るところから始まる物語で、サスペンスとバイオレンス色の強い、痛々しくシリアスな雰囲気でした。
2幕は1幕冒頭が繰り返されて始まるのですが、1幕のときとは違う選択をすることによって、シリアスな状況なのに一変して笑える所がたくさんあって、雰囲気の変わりっぷりが見事でした。そして最後は仄かな希望を感じさせつつしんみりと終わりました。

1幕で物語が終結してしまったように見せ、休憩後の2幕はどう話が続いていくのか期待させる構成が良かったです。1幕が2幕への大きな前フリになっていて、演劇の虚構性を強調する構成になっていて面白かったです。

佐野史郎さんは肉体的にハードな演技をしながら、まるで一人芝居のように多くの台詞を言って、気弱な中年男性の色々な感情を表していて良かったです。石田えりさんはあまり台詞はありませんでしたが、たたずまいがチャーミングで、2幕での要所要所でのツッコミ的台詞が決まっていました。咳が止まらなくなったり、縛られた状態で転んで立ち上がれなくなったりとおそらく演出ではないハプニングがありましたが、佐野さんのフォローもあって流れを止めなかったのは流石でした。

飴屋さん直々の音響オペが普通の演劇と異なる文法で効果音を入れていて、異物感を持たせつつも他のシーンを暗示させていて、とても良かったです。使われた音楽(クレジットされていませんがテニスコーツが演奏したもの)もいたずらに盛り上げる曲調でなく、独特な雰囲気を醸し出していました。

MD 00-10 ミエ・コカンポ

MD 00-10 ミエ・コカンポ

アンスティチュ・フランセ東京

アンスティチュ・フランセ東京(東京都)

2011/07/08 (金) ~ 2011/07/09 (土)公演終了

満足度

ダンス×音楽
日仏ハーフの女性ダンサーによる、ダンスと音楽の関係を探求する小品3つの上演で、それぞれプリミティヴなアイディアで動きと音を関係させていましたが、関係の持たせ方がストレート過ぎで、ダンスとしても音楽としても単調に感じました。

『SOLO TABLE』
テーブルの上に図形楽譜を置き、それをなぞることによって動きと打撃音・摩擦音が生み出される作品でした。テーブルの下に設置したマイクで音を拾って増幅していましたが、もっと大音量に増幅して微細な物音や爆発的なノイズを聞かせて欲しかったです。

『TRACE/PIANO』
グランドピアノに体の様々な部位で接触して音を出したり、あるいは音が出ないように極めて静かに触れたりする作品。身体のコントロールが精密で良かったです。

『A-MUSE』
腕と胸に取りつけたセンサーとコンピューターを用いて、流れている音楽をリアルタイムにミックスする作品でした。動きが音を出すトリガーとしての意味しかなく、ダンスとして格好悪くて、せっかくのインタラクティヴなシステムが有効に使われていなかったように思いました。
身振りと音の電子的処理については、アメリカの実験音楽グループ、センサーバンドが10年以上前にやっていたパフォーマンスの方が示唆に富んでいたように思います(ダンスとしてのアプローチではありませんが)。

3作目の途中でシステムがクラッシュしてしまったのはリアルタイム処理のプログラムを使っていたので仕方がないところもありますが、復旧するまでの20分の対応がグダグダだったのが残念でした。

サヨナラ【当日券有ります!!】

サヨナラ【当日券有ります!!】

双数姉妹

赤坂RED/THEATER(東京都)

2011/07/07 (木) ~ 2011/07/14 (木)公演終了

満足度★★★

自分を生きる役者たち
特殊な制限を設けた上でのコミュニケーションの様態を音響・照明効果なしの中、アドリブを多用して描いた作品でした。途中までは設定を活かしたコントのように見せかけながら、各エピソードの巧みな構成によって、終盤ではコミュニケーションが断絶していて孤立しているけど陰欝ではなく清々しい不思議な雰囲気が醸し出されていて、ただのお笑いではない演劇作品としての質感を持ったものになっていました。

チラシの絵の通り、見えない(目隠し)、聞こえない(耳栓+ヘッドフォンから音楽)、話せない(マスク+自らの意志)という3つの制限の内の1つが各役者に課され、そのことによって起こるコミュニケーションのすれ違いが面白おかしく描かれていました。
大枠の構成以外の台詞や行動は毎回アドリブとのことで、どんどん話が逸れて行ったり、他愛のないシーンでなかなか進展しなかったりと演じている役者達にも予想できないハチャメチャな展開が楽しかったです。
見えない者同士による「あっち向いてほい」や、話せない者同士での「しりとり」など強引にゲームを続ける様子は笑いの中にうっすらディスコミュニケーションの痛々しさも感じられ印象的でした。
同じエピソードを制限の異なる役者に組み合わせを変えながら繰り返し描き、最後には孤立しているのに気付かない姿が切なかったです。

1つのアイディアを最後まで押し通した潔さや、役者の奮闘ぶりは良かったのですが、個人的には笑いの比重が大きすぎるように感じました。終盤に見られた何とも言えない雰囲気や構成の妙をもっと出して欲しく思いました。
あと、開場時の客の導線が面倒なことをしている割には効果がないような気がしました。

THIS IS WEATHER NEWS

THIS IS WEATHER NEWS

Nibroll

シアタートラム(東京都)

2011/06/24 (金) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★★★

身体の存在感
不確定な現代を生きる人間がおかれている状況が身体表現を中心にして描かれていました。暴力的なまでに動き回るダンサー、大音量の音楽、刺激的な映像、多量の小道具が組み合わさって強烈なインパクトを与える作品になっていました。

冒頭に耳をつんざくような強烈なノイズが響き、一気に世界観に引き込む始まり方が良かったです。
物が落ちて壊れたり、姿を単純化された人が落ちたり、多数投げ飛ばされたりといった、破壊や死のイメージが舞台奥上手に設置されたスクリーンに写し出される中、ダンサーたちが激しく踊り、走り、叫び、人間の身体の存在感を見せつけられました。
スクリーンの後ろで椅子に座ったダンサーのシルエットが逆光で写し出され、それに前面からCGで描かれたシルエットが重ねられ、最初は人間と映像が同一の動きだったのが次第にずれて行き映像のシルエットが崩壊していくシーンが美しさとユーモアと怖さを同時に表現していて素晴らしかったです。
後半では舞台一面に白い布広げられ、中に空気を送り込んで凹凸を作りつつ、上から幾荷学的なパターンの映像が投影されて、浮遊感のあるシーンになっていて格好良かったです。
最後はスモークが大量に焚かれてほとんど舞台の手前側しか見えない状態になり、その中をうごめくダンサーたちの姿が幻想的で美しかったです。

魅力的なシーンが多かったのですが、逆に意図がわからなかったり、冗長すぎるように感じられた部分も結構あり、全体としてはざっくりとした印象を持ちました。色々な要素を盛り込みすぎて、少々散漫になっていたと思います。台詞を言うシーン(特にインタビューのシーン)や服を沢山使った巨大なオブジェはなくても良いような気がしました。
しかし、全体としては、スタイリッシュかつ暴力的な雰囲気が現在の日本の状況にマッチしていて、印象に残る作品でした。
ダンス作品には珍しく衣装替えが何度もあるのも、中心メンバーにファッションデザイナーがいるこのカンパニーならではの演出で、素敵でした。

島式振動器官

島式振動器官

重力/Note

上野ストアハウス(東京都)

2011/06/30 (木) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★

静謐な時間
松田正隆さんの主宰するマレビトの旗揚げ作品を、あまり動きはないもののインパクトのあるビジュアルと不自然な分節や強調を多用した発話法で演出し、緊張感のある舞台となっていました。

マレビトの会による初演を観ていなくて、戯曲も読んだことがないので、今回の上演に当たってどの程度の改変や脚色があったのかは分かりませんが、断片的で全体の物語の流れが掴みにくい作品でした。人の出入りが禁止されているらしい島に密航した男を中心にした物語で、鳥や男の妹の恥丘、子供などのエピソードの積み重ねからうっすらとロマンティックな雰囲気が感じられました。

舞台中央にはモニターが組み込まれた高さ1m程の細長いステージがあり奥には階段と大きな布(紙?)、下手壁面には窓とカーテンというシンプルなセットの中で、役者は1つのシーンではほとんど動かず、台詞も対話はなくモノローグばかりという抽象的な作りでした。各シーンでの役者の配置が絵画の構図の様で美しかったです。

単語と単語の間に微妙な間を入れたり、急に声の高さを変えたりするギクシャクとした特異な台詞回しは安易に情緒的・文学的な雰囲気に流れずに言葉そのものの強度に注目させる意図があったのだと思いますが、それが上手く行っていなくて目的の為の手段というより手段が目的になってしまっているように感じられる箇所があり残念でした。時折挟まれる長崎弁の響きに暖かみがあって良かったです。

台詞の中では何度も出て来るのに舞台上には一度も登場しない鳥たちを鳥除け用の多きな目を模した物体によってイメージを喚起しているのが面白かったです。終盤、役者たちがだんだん加速して何度もステージから飛び降りるシーンが印象に残りました。
ツヤ感がある素材をシワ加工したもので統一した衣装が素敵でした。

目指している方向性は分かりますし、個人的にも関心のある方向性なのですが、全体を貫く強度を持った芯のようなものがあまり感じられませんでした。

ポストトークは作者の松田正隆さんがゲストで、作風からイメージしていたのと異なるほんわかとした雰囲気の方で興味深い内容の話が聴けました。

不都合な四日間≪終演致しました!沢山のご来場ありがとうございます!≫

不都合な四日間≪終演致しました!沢山のご来場ありがとうございます!≫

クロカミショウネン18 (2012年に解散致しました。応援して下さった方々、本当にありがとうございました。)

テアトルBONBON(東京都)

2011/06/29 (水) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★★

四人四様
古びた喫茶店が閉店する前の4日間を、4人の脚本家がそれぞれ1日ずつリレー形式で書いた物語で、脚本家の作風の違いが良く出ていました。役者たちの演技もそれぞれのキャラクターがしっかり立ち上がっていて、多くの人が楽しめるウェルメイドな作品になっていました。

1日目(上野友之)は笑いを交えた日常的な描写で軽快に始まり、2日目(関村俊介)はその雰囲気を受けつつ、緩くてシュールなネタが盛り込まれていました。3日目(下西哲正)で急激に陰欝なトーンになり、妄想の入り混じる奇妙で痛々しい世界観の異質さが際立っていました。4日目(野坂実)はそれまでに出てきた要素をかなり強引にまとめあげていて、ドタバタな展開が楽しかったです。
全体として綺麗な起承転結の構成になっていて、上手くメリハリがついていたと思います。後に続く作家にネタを振ったり、そのネタを拾ってもらえなくてさらに後の作家がフォローしたりと脚本家同士の間接的なやりとりも面白かったです。

脚本はその作り方の性質上、ラフなところや無茶な展開があったり、ストーリーにあまり深みを感じられなかったりしましたが、演出や演技がしっかりと丁寧に作られているため安心して観ることができました。
喫茶店のマスターを演じた渡辺裕也さんの困った表情がチャーミングでした。藤田未来さんと川本亜貴代さんの嫌味たっぷりな口論も見応えがありました。人数が多すぎるため、あまり活躍しない役があったのが残念でした。
舞台美術がとてもリアルに作られていて良かったです。特に古い型の角張ったデザインのエアコンがいい味を出していました。室外の自然光を表す照明も場面毎の時間帯を的確に表現していました。

チラシのデザインが良くても当日パンフレットは白黒の不鮮明なコピーということが多いのですが、この公演では当日パンフレットも良い紙を使った洒落たデザインのもので素晴らしい出来でした。

-さいあい-

-さいあい-

COoMOoNO

イワト劇場(東京都)

2011/06/29 (水) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度

今後に期待
精神的に病んだ母のいる家族とその家族に関わる弁護士事務所の人たちを静かなトーンで描いた作品でした。
残念ながら、脚本・演出・演技・スタッフワークとも客に見せるレベルには達しておらず、粗削りながらも光る可能性といったものも感じられませんでした。変に大人びたことをしようとせずに等身大の表現をした方が良いと思いました。

物語については、台詞がちゃんと伝わって来なかったため、いまいち良く分からなかったのですが、現代口語的言葉使いと詩的なレトリックを散りばめた文章とのバランスが悪く、比喩を使ってシリアスに語る台詞が滑稽に感じられました。

劇場を中央で2分するアルファベットの「H」型のステージが組まれ、3つの場面の転換をスムーズに行おうとしていましたが、結果的に各場面でのアクティングエリアが狭まり、空間を無駄に使っているように感じました。
心境を象徴的に表すダンスもジェスチャーが具体的すぎるのと、動きに緊張感がないため安っぽく見えました。
終盤の全員が出てきて単調な作業を繰り返すシーンは演劇ならではの表現となっていて良かったです。

演技についても、抑揚やリズム感のない棒読みと、生きた会話になっていない不自然な間の空け方で、台詞の内容が届いてきませんでした。もしポストドラマ系の作品に見られる、ドライなモノローグの積み重ね的な効果を狙ったのであれば、もっと単調さを強調すべきだと思います。
弁護士事務所の所長を演じた方だけは役柄が立ち上がっていて良かったです。

開演前から役者がいる手法を使うのは構わないのですが、役者が暗い雰囲気を引きずったまま注意事項をアナウンスするのは感じが良くないと思います。演出された前説からそのまま本編に繋げる手法は上手く行けば気持ちが良いものですが、こういうタイプの作品では前説を作品の世界観に取り込む必要はないと思います。

音響に関して、中低域が出すぎていて全体的に曇った音像になっていて、さらに音が割れたり、照明機材が共振したりして、とても気になりました。

作品の評価とは別に、制作的な事柄に関しても色々と残念な点がありました。チラシを他の劇場で見掛けたことがなく、またチラシや公式サイトにもどのような内容なのかが書いていなくて、一般の客を拒絶しているように感じました。
また当日パンフレットに役者の名前しか書いてなくて、誰がどの役を演じたのかが分からないのも(おそらく役者名をそのまま役名にしていたのだと思いますが)、「あの役者が良かったから次に出る舞台を観てみよう」という風に次に繋がらないので、もったいなく思いました。
できるだけ先入観を持たずに観てもらいたいという意図は分かりますが、まずは客に観に来てもらうようにアピールする必要があるのではないでしょうか。

酷評になってしまいましたが、作・演出家も役者もまだ若いかたたちなので、今後の発展を期待しています。

標本

標本

乞局

リトルモア地下(東京都)

2011/06/22 (水) ~ 2011/06/30 (木)公演終了

満足度★★★

奇妙な味わい
虫の名前をタイトルにした4本にエピローグ的な1本を加えた短編集で、状況や設定があまり明らかにされないままに展開する物語の中に人間の陰の部分が浮かびあがってくる作品でした。
中央に設置された畳2枚の周りに服が巻き散らされた空間の中で、煮え切らない人(虫?)たちが揉める様子が湿度を感じさせる演技で描かれていて、最後まですっきりしないのが逆に面白かったです。

『蠅』で男を殺して罪の意識に囚われながら年老いて行く女を演じた高尾祥子さんの方言で話したり謝ったりする薄幸そうな姿が魅力的でした。
『蝶』で冴えないのに男を引き寄せる女を演じた島田桃依さんの不思議な色気とユーモアも味わい深かったです。

特にそのような台詞や物が出てくるわけではないのですが、音楽や映像に昭和っぽいレトロ感があり、得体の知れない奇妙な登場人物、物語にマッチしていたと思います。
良く言えば統一感がある作品でしたが、それぞれの作品でもっとテイストを異ならせて変化があった方が良いと思いました。

芸劇eyes番外編『20年安泰。』(各回当日券発売有り)

芸劇eyes番外編『20年安泰。』(各回当日券発売有り)

東京芸術劇場

水天宮ピット・大スタジオ(東京都)

2011/06/24 (金) ~ 2011/06/27 (月)公演終了

満足度★★★★

バラエティに富む5団体
作・演出家が20代の若手5劇団が25分の作品を上演するオムニバス公演で、それぞれの劇団の特徴が良く出た個性的な作品が揃っていて、若い世代の力を感じました。

ロロ『夏が!』
春から連続して発表している夏シリーズの3作目で、人魚と人間のはかない恋を描いていました。今までの作品に比べてキャラクターの造形が弱く感じましたが、畳み掛けるようなクライマックスの高揚感はいつものロロらしさがあり、良かったです。ビニールシートや懐中電灯など、日常的な物を巧みに使ってファンタジックな世界感を立ち上げる演出が見事でした。

範宙遊泳『うさ子のいえ』
うさぎの家族を描いた作品の公演のアフタートークという設定で、モデルになったうさぎの家族の前でその劇を抜粋して演じるという入り組んだ構成でした。わざと幼稚に演じる劇中劇や、本心とは裏腹に絶賛コメントを言う下りに潜むアイロニーが面白かったです。劇場の外まで取り込んで、本物の車を走らせる豪快な演出が楽しかったです。

ジエン社『私たちの考えた移動のできなさ』
舞台手前・舞台奥・キャットウォークの3つのエリアに分けられたグループが同時に別々に会話する作品で、リアルさと嘘臭さが同時に感じられる不思議な雰囲気がありました。帰宅難民やデモなど、3月11日以降の日本の状況を強く感じさせる内容で、キャッチーな要素はないものの、空間を錯綜する無力感や倦怠感がある台詞のやりとりに引き込まれました。これから何か起きそうな瞬間で断ち切られて終わる、インパクトのある幕切れが良かったです。

バナナ学園純情乙女組『【バナ学eyes★芸劇大大大大大作戦】』
女子高生の格好をした51人(男性も含む)が派手な照明、映像、音楽に合わせて暴れまわる型破りな作品でした。情報が氾濫する現代日本を過激にカリカチュアライズしていましたが、パフォーマンス中はそんなことを考える暇もなく、客席内にも液体や物が飛び交う迫力のある表現に圧倒されました。カオスに見えながらも大勢の動きが見事に統制されていて、演出の手腕に感服しました。

マームとジプシー『帰りの合図、』
夕方の短い時間の出来事を組み合わせや配置を変えながら何度も繰り返す中に爽やかなノスタルジーを感じさせる作品でした。不思議な間が入る独特な台詞回しや、絶えずステップを踏み続けたり、体を揺すり続ける演出が奇をてらった感じにはならず、とてもナチュラルで共感できる表現になっていて、心休まる雰囲気が醸し出されていました。傘や窓枠、ミニチュアのバスなど小物の使い方が可愛らしくて素敵でした。

どの団体もおそらく今までで一番大きい会場での公演だったと思うのですが、バナナ学園に関しては轟音でわざと台詞を聞えなくしている感じだったので置いておくとしても、他の団体に関しては役者の声が届いて来ない感じを受けました(一応マイクで拾って少し被せていたみたいですが)。一般的な演劇的発声法にするともっと通るようにはなりますが、作品の雰囲気が大分違ってくるので、今後さらに人気が出てきてより大きな劇場で公演するときにどう対処するのかがちょっと心配でもあり楽しみでもあります。

アフタートークは少々グダグダ感はあったものの、主宰者たちの演劇についての意識が垣間見られて興味深かったです。生真面目な方から、悪態突きまくりの方までバラエティ豊かな主宰者たちで楽しかったです。

このヴォリューム、クオリティー、豪華なアフタートークのゲストで2000円はとてもコストパフォーマンスが高かったです。一般をもっと高くして、その代わりに大学生も高校生と同じ1000円にして、劇団と同世代の人たちに門戸を開いても良かったのではないでしょうか。
5年後とか10年後、新しい世代が台頭してきたときにまた今回のような公演を行って欲しいです。

亜門版『太平洋序曲』

亜門版『太平洋序曲』

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2011/06/17 (金) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★★

日本のNEXTを考えさせられる
江戸時代の末、黒船騒動に巻き込まれて対照的な人生を歩むことに2人の男を中心に描き、現在まで繋がるような社会的な視座を携えた作品でした。わかりやすいメロディーで朗々と歌いあげるタイプの曲は少なく、日本の音楽や楽器を取り入れながらもクールな響きの曲が中心で、一般的にイメージするブロードウェイミュージカルとは異なる質感がありました。

平凡な奉行だったのがひょんなことから昇進して行く与力香山弥左衛門と、鎖国令の出ている中でアメリカでの生活を経験したことがあるジョン万次郎のお互いの海外に対する思想が時を経るに従って逆転してしまうのが切なかったです。

ビジュアル的に趣向を凝らした演出が多く面白かったです。黒船がやってくるシーンの黒船の表し方が意表を突くダイナミックな方法で良かったです。アメリカ以外のイギリスやオランダなどの国が国交を求めてくるシーンが各国をカリカチュアライズしながらも、国旗の色を用いた白・赤・青のビジュアル表現が鮮烈でした。最後のシーンでは全員での歌とダンスに大掛りな美術の仕掛けや映像の効果が合わさり、物語的にも表現的にも圧倒的な力があって引き込まれました。舞台の周りに水を張ってあったのが有効に使われていなかったのがもったいなく思いました。

ミュージカル作品に初出演の八嶋智人さん、山本太郎さんの歌はミュージカル俳優達に混じってどうなるかと少々不安だったのですが、想像以上にしっかりしていて安心して聴くことが出来ました。狂言回しの役割をになった桂米團治さんも舞台をスムーズに進行させていて良かったです。
スタッフワークも良く出来ていると思いましたが、終盤になるまで相乗的に盛り上がって行くことが無かったのが残念に感じました。
このキャスト・スタッフならばもっと凄いものを見せてくれそうな潜在力がありそうなのに、それが発揮されていない印象があって、もどかしかったです。

KAG48 ノ Oedipus Tyrannus [公演終了いたしました、ご来場くださった皆様、どうもありがとうございました!]〈静岡版の動画および舞台写真公開中です〉

KAG48 ノ Oedipus Tyrannus [公演終了いたしました、ご来場くださった皆様、どうもありがとうございました!]〈静岡版の動画および舞台写真公開中です〉

一徳会/鎌ヶ谷アルトギルド

atelier SENTIO(東京都)

2011/06/25 (土) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★★

リングの中のオイディプス
一般的なギリシャ悲劇の静的なイメージとは異なる、激しい身体表現を伴った演出によるエネルギッシュな迫力のある50分弱の作品でした。

劇場に入ると舞台中央に4本のコーナーポストがあり、奥の壁の手前には揃いの青いトレーニングウェアを着た4人が立っていて、開演時刻になるとそれぞれが腕立てや腹筋などのトレーニングを始めるという、『オイディプス王』の物語を演じる気配がない始まり方でしたが、数分して台詞が始まると古典的な抑揚と拍節感を伴った様式的な台詞回しで、視覚と聴覚のギャップが刺激的で面白かったです。
途中からは舞台後方に吊り下げられていた青いゴムチューブをコーナーポストや役者の身体に絡みあわせて、オイディプスとイオカステの呪われた関係や、運命の檻に囚われた状況を視覚的に巧みに表現していました。クライマックスのイオカステの首吊りの場面は表現されていたのに、オイディプスが自身の眼を突き刺す場面が表現されなかったのが残念でした。

オイディプスを演じた前島謙一さんが大きい声でも喋っても耳障りにならないしっかりとした発声とメリハリのある台詞回しで良かったです。変に小難しくせず、テキストはほぼそのまま用い、身体表現にリアリティ―が感じられる等身大的な演出が気持良かったです。照明と音響のタイミングやバランスが甘い所があったのがもったいなかったです。

マゴビキ

マゴビキ

ミミトメ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2011/06/18 (土) ~ 2011/06/25 (土)公演終了

満足度★★★

自己の輪郭
新宿の雑居ビルの1室で6人限定で秘密裏に行われる実験のようなイベントで、いわゆる「演劇」とは全く異なるものでしたが、ではこれは何だったのかと考えてみるとまさに演劇的としか言いようのないものでした。自分自身が作品の当事者という奇妙な緊張感があり、普段使わない感覚が刺激され、50分弱が一瞬に感じられました。

会場に入る前に部屋の前で靴をスリッパに履き替え前説があるのですが、既にこの時点から作品のテーマに関わるキーワードがうっすらと提示されていて、面白い導入でした。会場に入ると前の回に参加している人たちがいて、その様子を観察するように指示され、してはいけないことをしている気分になりました。
前の組が終わると、ボードゲームのような小道具が置かれたテーブルを挟んで、6人が3人ずつ向かい合って着席し、ヘッドホンの指示に従ってちょっとしたアクションを行って、部屋の中では2人の役者がヘッドホンから流れてくる物語にリンクするようなことを演技して話が展開して行きました。途中で向かい合っている人と席を交代して、おそらく同じ内容がヘッドホンから流れて来るのですが、自分が見ていた人が見ていた人(=自分)を客観的に見るような入れ子的・鏡像的構造になっていて、さらに前説、役者の演技、ヘッドホンから流れる物語が多層的に絡み合いデジャブ感が感じられて、自分は自分の意志で自分というものを形作っているのかどうか考えさせられました。

作品の狙いや構成はとても面白かったのですが、装置や演技など全体的にもう少し精度が高くなれば、もっと緊張感のある希有な体験が出来るかと思いました。

夢、ハムレットの~陽炎編~

夢、ハムレットの~陽炎編~

Pカンパニー

吉祥寺シアター(東京都)

2011/06/17 (金) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★

現代に蘇るハムレット
戦後の日本を舞台とした物語と劇中劇としての『ハムレット』とシンクロして展開する、意欲的な構成の作品でした。

叔父が座長の劇団でハムレットを演じる主人公がハムレットと似たような境遇に陥り、夢と現実の境が曖昧になっていく話で、どんどん進んでいく世の中に対してどう対応すればいいのか分からない主人公の葛藤が描かれていました。観ている方もどこからが劇中劇の『ハムレット』か分からなくなってくる展開(『ハムレット』の中にある劇中劇も演じられます)で、とりとめのない浮遊感が面白かったです。原作を知らずに観ると、話について行くのが大変だと思います。

戦中から戦後の繁栄の記録映像を舞台後方に大きく写し出し、ハムレットの「このままでいいのか、いけないのか」という有名な台詞を現代の社会に対して問いかける意図は分かりますが、映像が直接過ぎる内容だったため、逆に原作の普遍性を薄れさせて広がりがなくなっているように感じました。

歌、ダンス、能、殺陣など様々なタイプのパフォーマンスが盛り込まれていて、シリアスな内容にエンターテインメント性を付加しようとしていましたが、統一的な質感が生み出されていなくてチグハグな印象を受けました。主に女性3人で歌われる流行歌は美しいハーモニーで素晴らしかったのですが、能を模したシーンは表層的な動きで残念でした。パロディーとして笑いを狙ったのであれば、そう見えるように演じて欲しかったです。

レアティーズを演じた平田広明さんのしっかりとした台詞回しと、ハムレットの妹(ということに設定を変更した)ホレーショを演じた染谷麻衣さんの芯の強さが大変印象に残りました。

さいあい~シェイクスピア・レシピ~★ご来場、誠にありがとうございました。

さいあい~シェイクスピア・レシピ~★ご来場、誠にありがとうございました。

tamagoPLIN

タイニイアリス(東京都)

2011/06/09 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

ユニークなスタイル
シェイクスピア作品の有名な台詞や場面を引用しながら、ハイテンションな身体表現を中心に、文字や演奏、衣装、照明などの要素が荒々しさを残しつつ互いに関連を持たせながらセンス良くまとめあげられていて、非常に楽しく感動的なところもある不思議な感触のパフォーマンスでした。ドライで猥雑なテイストがヨーロッパのカンパニーを思わせました。

学校に馴染めない野菜嫌いな女の子が、人の心を知りたい野菜たちとシェイクスピアの作品を演じることによって心が開かれていく様子を描いていて、主人公とその父以外は野菜の格好をしているというバカバカしい設定で、ドタバタなコメディタッチで最後まで突っ走るかと思わせておきながら、時間が経つにつれてシリアスなシーンや感動的なシーンもあり、個性豊かな野菜たちが次第に愛おしくなって来る構成でした。

野菜たちの身体表現が圧巻で、野菜の被り物を被った状態で激しく動き回りながらも決めるところはびしっと決めていて、爽快でした。お父さん役の鈴木拓朗さんのソロダンスはジャズダンスやヒップホップダンスをカットアップコラージュしたような動きで、非常に技巧的でありながらコミカルで素晴らしかったです。もっと観たいと思わせるところでダンスを止めてしまう引き際のタイミングも上手かったです。
台詞の使い方がユニークで、野菜達は最初は謎の言語で話し、次第に外国人の話す日本語風の言い回しとなり、野菜が人間に近づいて来ていることを巧みに表していました。広辞苑の早読みやシェイクスクピアの戯曲の特定の単語だけを全員で読むなど、色々なテクニックが使われていて楽しかったです。
ビジュアルも印象的で、道路から野菜が生えてくるシーンや、仮面を使って回想シーンと現在が瞬時に入れ変わるシーンや、机や椅子を並べ上に野菜たちが凸凹に横一列に並ぶシーンが美しかったです。舞台後方に下げられた大きな紙にキーワードが筆で描かれて行くのもクライマックスに向けてとても効果的に使われていました。『オセロ』のシーンでのジャグリングも見事でした。

娘と父の感動的なシーンの後に軽い冗談で締めて終わったかのように見せかけて、それまでにぐちゃぐちゃに撒き散らかした大量の小物をBGMが終わるまでに片付けるパフォーマンスが用意されていて、舞台から全てのものが消え去ることによって舞台の虚構性をユーモラスに見せる終わり方が『夏の世の夢』の後口上を思わる内容で、洒落ていました。

人涙(じんるい) ★ご来場、誠にありがとうございました。

人涙(じんるい) ★ご来場、誠にありがとうございました。

劇団印象-indian elephant-

タイニイアリス(東京都)

2011/06/09 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★★

普通の女性の悩み
目・涙・雨をキーワードに、普通の女性の悩みをファンタジックに描いた、優しい雰囲気の作品でした。

母娘の関係、歳の離れた恋愛、結婚、子供、不妊などの女性の悩みが日常的な会話で綴られ、共感しやすい話になっていたと思います。
主人公にしか見ることのできない3人の妖精が出てくるのですが、このファンタスティックな設定をあまり有効に使えていない気がしました。家族の話と妖精の話がもっと絡み合う展開があると物語が豊かに膨らみそうだと思いました。

開いた傘を目に見立てたレーシック手術のシーンが面白かったです。流した涙を飴玉で表現するのも洒落た感じで良かったです。このような美術的な趣向を凝らした演出が後半にはなく、会話中心になっていたのがもったいなく思いました。
効果音が安っぽくて、作品の雰囲気を壊しているように感じました。

普通の女性を自然体で演じた龍田知美さんの豊かな表情が素敵でした。お母さん役の石橋美智子さんもいかにもいそうなおばさんっぷりが出ていて可愛らしくて良かったです。

気分屋

気分屋

劇団あおきりみかん

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2011/06/17 (金) ~ 2011/06/19 (日)公演終了

満足度★★

賑やかなメタ演劇
「母を探す旅」という、ありがちな物語をファンタジックな要素と笑いを絡めて描いていました。登場人物が自身の役や物語に言及する、メタな構造が用いられていて、一捻りある作品になっていました。

バラバラに見える要素が次第に繋がって来る脚本は巧みに出来ていて良かったのですが、演出・演技は本のクオリティーに見合ってないように感じました。前半では単純な物語構造に回収されない人物が表現されていて、敢えてベタだったり、素に見える演技をしている感じが出ていたのですが、途中からは物語の要素が強く出てきてメタな要素が薄れ、普通の演技になっていたと思います。
笑いに関しては学生演劇みたいなノリの一発ギャグ的なものや、テンション芸みたいなものがたくさん盛り込まれていて、周りはとても受けていましたが、個人的には全然笑えませんでした。せっかく脚本が凝っているのだから、そこから生まれるパラドックスを用いた論理的なギャグを盛り込んで欲しかったです。
終盤にドタバタアクションシーンを長く引っ張っていたのも冗長に感じられて残念でした。

以前に観た『オンナの平和』では、サイズ違いのたくさんの木枠だけで瞬時に小道具からセットまでを表現したり、開演前~冒頭のシーンの間、主役以外がずっと舞台上を歩き続けるなどのスタイリッシュな演出に惹かれたのですが、今回はそのような要素もなく(美術的には迫力のある大仕掛けがありました)、平板な演出に感じました。

今回は個人的にはあまり楽しめなかったのですが、劇団の皆さんの客を楽しませようとする意欲やホスピタリティーは素晴らしいものでした。

中村恩恵×加藤訓子

中村恩恵×加藤訓子

公益財団法人 武蔵野文化事業団

吉祥寺シアター(東京都)

2011/06/14 (火) ~ 2011/06/14 (火)公演終了

満足度★★★

瞑想的な60 分
ダンサーの中村恩恵さんとパーカッショニストの加藤訓子さんという世界的に活躍する2人の女性アーティストによるコラボレーションで、ダンスとパーカッションという躍動感を期待させる組み合わせですが、意外にも瞑想的な雰囲気を湛えた静かな作品でした。
高揚感は感じられないけれども退屈さはなく、引き込まれる不思議な感覚でした。

1曲目の『ルボンa』(I.クセナキス)、始めは演奏する加藤さんにのみ照明が当てられ、舞台中央に仰向けに寝た中村さんが次第に動いていく構成で、曲の雰囲気と相まって原始的な感じがありました。
間にちょこっと即興演奏を挟んでの2曲目『オマー2』(F.ドナトーニ)は様々に変化する曲に合わせてダンスも多様なムーブメントが組み合わされていて見応えがありました。
加藤さん自身の作曲による3曲目は環境音的な音色の楽器が多用される即興的要素の多い曲でした。譜面台に置かれた楽譜あるいは本(照明が強すぎて良く見えませんでした)を客席に向けて見せたり、加藤さんが鈴を持って劇場内を歩き回ったり、2人が英語のテキストを読みあげたりと、「芸術やってます」感がちょっと鼻につき、また冗長な感じがしました。
4曲目はマリンバによる『プール・グラウンド』(H.デイヴィス)で、曖昧な調性感のある内省的な雰囲気の中、中村さんが黙々と踊っている姿がとても美しかったです。

中村さんのダンスは派手なテクニックや特異な動きは使わないながらも、体の隅々まで丁寧にコントロールされたムーブメントに引き込まれました。ターンの切れの良さや、ダイナミックな動きの中にクラシックバレエ的なふわっと柔かい動きが気持良かったです。
加藤さんも全身を使った演奏で、ダンスの様でした。太鼓の皮をゴム球でこすったり、ティンパニの上に小さな金属製楽器を置いて余韻を変化させたり、中にゴム球を入れたスチールドラムを振り回してランダムに鳴らしたりと、不思議な音色が面白かったです。

曲毎に変化する照明はシンプルで、それぞれ異なる空間を演出していましたが、黒い空間で黒い衣装だったので照明が当たってない所で踊ったり、前屈みの姿勢を取るとき姿が見えにくかったのが残念です。

この内容でチケット1000円は破格の値段だと思います。1回限りの公演なのがもったいない作品でした。

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