満足度★★★★★
ユニークなスタイル
シェイクスピア作品の有名な台詞や場面を引用しながら、ハイテンションな身体表現を中心に、文字や演奏、衣装、照明などの要素が荒々しさを残しつつ互いに関連を持たせながらセンス良くまとめあげられていて、非常に楽しく感動的なところもある不思議な感触のパフォーマンスでした。ドライで猥雑なテイストがヨーロッパのカンパニーを思わせました。
学校に馴染めない野菜嫌いな女の子が、人の心を知りたい野菜たちとシェイクスピアの作品を演じることによって心が開かれていく様子を描いていて、主人公とその父以外は野菜の格好をしているというバカバカしい設定で、ドタバタなコメディタッチで最後まで突っ走るかと思わせておきながら、時間が経つにつれてシリアスなシーンや感動的なシーンもあり、個性豊かな野菜たちが次第に愛おしくなって来る構成でした。
野菜たちの身体表現が圧巻で、野菜の被り物を被った状態で激しく動き回りながらも決めるところはびしっと決めていて、爽快でした。お父さん役の鈴木拓朗さんのソロダンスはジャズダンスやヒップホップダンスをカットアップコラージュしたような動きで、非常に技巧的でありながらコミカルで素晴らしかったです。もっと観たいと思わせるところでダンスを止めてしまう引き際のタイミングも上手かったです。
台詞の使い方がユニークで、野菜達は最初は謎の言語で話し、次第に外国人の話す日本語風の言い回しとなり、野菜が人間に近づいて来ていることを巧みに表していました。広辞苑の早読みやシェイクスクピアの戯曲の特定の単語だけを全員で読むなど、色々なテクニックが使われていて楽しかったです。
ビジュアルも印象的で、道路から野菜が生えてくるシーンや、仮面を使って回想シーンと現在が瞬時に入れ変わるシーンや、机や椅子を並べ上に野菜たちが凸凹に横一列に並ぶシーンが美しかったです。舞台後方に下げられた大きな紙にキーワードが筆で描かれて行くのもクライマックスに向けてとても効果的に使われていました。『オセロ』のシーンでのジャグリングも見事でした。
娘と父の感動的なシーンの後に軽い冗談で締めて終わったかのように見せかけて、それまでにぐちゃぐちゃに撒き散らかした大量の小物をBGMが終わるまでに片付けるパフォーマンスが用意されていて、舞台から全てのものが消え去ることによって舞台の虚構性をユーモラスに見せる終わり方が『夏の世の夢』の後口上を思わる内容で、洒落ていました。