ニッキーの観てきた!クチコミ一覧

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不滅

不滅

鵺的(ぬえてき)

「劇」小劇場(東京都)

2010/06/23 (水) ~ 2010/06/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

感染。。。
これは怪作!
前作、「暗黒地帯」に続いての観劇となったが、前作同様、きわめて質の高い舞台であった。
「次から次へと感染する悪意」、「真のサイコパスは誰か?」、「誰の中にもある殺意」など、たいへん深いテーマ性を有していた。

ネタバレBOX

舞台はとある観光地にあるホテルのテラス。

不仲の父親と17歳と思われる娘。
30代半ばのわけありのカップル。
カップルの彼を執拗に追いかける男。
興信所勤務の男。
以上の6人が繰り広げる、悪意の連鎖と、それを断ち切ろうとする善意の攻防。

親子の父親は、自分の不注意で、娘と双子であったもう一人の娘を、パチンコ中に熱中症で失ってしまう。そのことが原因で妻に逃げられ、男手ひとつで娘を育てるが、娘は父親に強い嫌悪感を抱く。また、娘は猫を殺したことをきっかけに、殺人に強い興味を抱く。

カップルの彼は、十数年前に、バスジャックを起こし、乗客6人を次々とかけた次々の惨殺犯。
彼女は、ボランティアをつうじて、彼と知りあい、彼の更正を信じて付き合う。

バスジャック事件で、妻を殺された男はその後の全人生をかけて、彼を執拗に追いかけ、彼のすべてを否定する。

興信所勤務の男は、日々のつまらない生活に満足できず、盗聴を趣味とする。

これら、普通でない人々が出会ったときに起こる惨事を見事に描く。

バスジャック犯の彼は、サイコパス気質で、自らの起こした罪に罪悪感を感じることなく、かつ、何事にも興味を持つことができず、惰性だけで生きる。
そんな彼のことを知った娘は、彼に異様な興味を示し、神格化する。娘は、バスジャック犯の彼と出合ったことで、サイコパス気質を開花させてしまう。

一方、興信所勤務の男は、バスジャック犯の男に、もう一度、世の中を騒然とさせる犯罪を二人で起こそうと持ちかける。自分は人殺しはできないので、プロデューサー役に徹するとの条件で。一見、普通そうに見える、この男にも、サイコパス気質が透けて見える。

しかし、バスジャック犯の男は、この申し出を無碍もなく跳ね除ける。

そんななか、ちょっと絡まれたという理由だけでいとも簡単に、娘はストーカーの男を殺す。

その様子を見た、興信所勤務の男は、バスジャック犯の代わりに、娘を殺人鬼として育てようと決意。
また、娘も、快楽殺人の魅力に取り付かれ、男ととも、行動を共にすることを決意。

バスジャック犯の男は、こうした悪意が次々に感染することを防ぐために、娘を殺そうと試みるが、十数年経過したことで、昔のように無意味に人を殺すことができなくなっていた。


この日をきっかけに、興信所の男と娘、バスジャック犯の男は、姿を消す。。。
そして、1年後、残された父親と、バスジャック犯の恋人は何者かに呼び出される。

そして、現場に現れたのは、興信所の男で、巷で話題の連続殺人は、自分とその協力者がプロデューサーとなり、実行犯は娘である。また、バスジャック犯の男は、その犯罪をやめさせることが目的なのだろうか、協力者を次々に殺し回っている厄介者だと、二人に告げる。

そのことを聞いた二人は、これ以上の連鎖を断ち切るために、興信所の男を殺すことを決意。一見、殺意から最も遠いところにいた二人が殺人を犯すという悪意の連鎖はやはり感染を繰り返し。。。

以上のように、悪意は次から次への疫病のように感染を繰り返す。しかし、悪意には、それぞれ意味があり、善意から発出されるものもあることが提示される。
また、登場人物6人の行動の必然性を作家はうまく表現することで、単なるスプラッター作品に終わらせることなく、人間の罪と罰を我々に問うている。

本作は紛れもなく、名作と言えよう。




飯縄おろし

飯縄おろし

世の中と演劇するオフィスプロジェクトM

タイニイアリス(東京都)

2009/11/06 (金) ~ 2009/11/11 (水)公演終了

満足度★★★★★

甘酸っぱい、あの頃の記憶
女子高生バージョンを観劇。
1970年代の、長野県の片田舎にある高校での一晩を描写。
高校生特有の、将来に対する不安と期待を地方伝承を絡め、見事に表現。
観劇中、観劇後、心がポッと暖かくなる舞台であった。
今年101本目の観劇作品となったが、年間のトップ10に入る秀作であった。

ネタバレBOX

卒業をまじかに控え、卒業式での出し物の練習をする3年生の女子高生たちであったが、季節はずれの大雪によって、校舎に閉じ込められてしまう。
女子高生の面子は、①東京出身で、成績優秀・スポーツ万能な生徒会長、②バスケで実業団への就職が決まっているヤンキー、③演劇部に属するも、舞台上で緊張のあまり台詞が一切出てこなくなってしまう演劇少女、④日ごろから差別的扱いを受ける部落出身者、器量。スタイルともに自身がなく、将来の幸せのためには、有名大学への進学しか目にないガリベン、⑥ヤンキーの金魚の糞として振舞う両思いの彼氏がいる少女の6人。
高校卒業・進学or就職を控えた多感な時期だけに、それぞれの少女には悩みがある。親のことを気遣いせっかく決まった大学推薦を取り下げる者、同級生に恋心をいだき、自分がレズビアンかも知れないと不安を募らせる者、被差別部落出身であることが重荷になる者等々。
作・演出の丸尾をこれらの者を等身大に描きつつ、あゆみを止めることなく、進めと、エールを送る。

泣き虫なまいき石川啄木

泣き虫なまいき石川啄木

ハイリンド

赤坂RED/THEATER(東京都)

2010/03/27 (土) ~ 2010/03/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

刹那すぎる啄木の晩年
啄木の晩年3年間を描いた井上ひさしの戯曲を原作に沿って上演。
井上戯曲の真髄を見事に表現。

前作「華々しき一族/お婿さんの学校」に引き続いての観劇となったが、質の高さの脱帽。
ハイリンドの底力を感じさせる秀作であった。

ネタバレBOX

啄木のはかない人生を、彼を取り巻くあまりにも人間くさい家族をからめつつし進行。
家族の存在こそが彼の寿命を縮めさせたのであるが、終幕直前、啄木、妻、啄木の母、三者がそれぞれ結核に犯されながらも、お互いをいたわりあうシーンは涙を誘う。

笑いと刹那さの微妙なバランスによって成り立つ井上作品。笑い、刹那さ、どちらかが多少でも多くなるとそのバランスは音を立てて崩れ去る。
本作は、「笑いにつつまれるからこそ、浮かび上がる刹那さ」を余すとこなく表現。

こまつ座以外で、これほどまでに井上作品を見事に演じた舞台はなかなかお目にかかれないのではないだろうか。
窮する鼠

窮する鼠

JACROW

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/10/12 (火) ~ 2010/10/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

だから芝居はやめられない
当劇団初見。
「負け組」をテーマにした30分3本勝負のオムニバス。

ネタバレBOX



1本目は、負け組の恋愛相関図を描いた「きぼうのわだち」

2本目は、負け組の恋愛模様を描いた「Love letter from・・・」。

3本目は、負け組の壮絶なる復讐を描いた「リグラー」。

1、2本目は、負け組といわれる人々の恋愛事情を通して、明日への活力を得ることができる前を向いて歩こう系の演目。
それに対して3本目はまるっきり対照的な演目で、フジテレビ系列で放映されている「世にも奇妙な物語」を彷彿とさせる。

それぞれに、30分のショートショートながら、なかなかの出来栄え。
特に印象深いのはやはり3本目の「リグラー」。
それまでの2本がほのぼのとした作風だけに、その落差を利用した恐怖感は見た者に深い印象を刻み込む。
「リグラー」の完成度が高いことはもちろん、オムニバスという手法を最大限に生かした劇団の勝利ということであろう。

「リグラー」とは、英語では、wriggler(のたうちまわる人)の日本語表記なのであろうが、私なりの解釈では、「regret(後悔する)」をもじって、"後悔する人"という意味で使ってもいいように感じられた。
出演者の誰もが、後悔している様を見れば、その解釈がぴったりくるように思えてならない。
いろいろな解釈が可能。だからこそ、演劇は楽しい!

本劇団の今後に大いに期待したい。

止まらずの国

止まらずの国

ガレキの太鼓

サンモールスタジオ(東京都)

2010/03/25 (木) ~ 2010/03/30 (火)公演終了

満足度★★★★★

極上の臨場感!
中東のとある国の(元)首都にあるユースホステルに集う日本人バックパッカーたちの一夜。
前半、後半とまるで趣の異なる展開となるが、時間の経過とともに、自分が縁者の一人になったかのような錯覚を起こしそうなほど、臨場感あふれる舞台であった。
たいへん出来の良い舞台である。
またひとつ、目が離せない劇団を見つけた!

ネタバレBOX

地球の歩き方に紹介されているがゆえに、日本人のバックパッカーが多く集まるユースホステル。

前半はどこの国での見かけるユースホステルののんびりとした雰囲気が舞台全体をつつむ。
そこで繰り広げられるのは、日本を離れ遠い国で羽を伸ばすことに生きがいを感じる同志たちの他愛のない会話。

ところが、徐々に舞台はきな臭さを帯びてくる。
どうやら、戦争が始まったらしい。
兵士に戦車、発砲音、さらには砲撃音。
砲撃音は次第に大きくなり、バックパッカーたちはついに自分の死を予感するほど追いつめられていく。

誰もが死を覚悟したものの、やがて夜明けとともに訪れる静寂。
どうやら一時、戦火がおさまったようである。

とここで種明かし。
実は昨夜のそれは戦争ではなく、国王の祝賀イベントであった。
砲撃音は花火にすぎなかったという結末である。

しかし、本当にその砲撃音は花火であったのか、祝賀イベントこそが夢なのではないか、とそんなことを感じさせるほど、臨場感あふれる舞台作りとなっていた。




花とアスファルト

花とアスファルト

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2009/08/01 (土) ~ 2009/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

異質者との距離感
或る団地に、本物の「クマ」が引っ越してくることからはじまる物語。
どうやら、世の中には、一定程度、本物の「クマ」が、言葉をしゃべり、人間と一緒に暮らしているようだ。

ネタバレBOX

田舎にあると思われる団地では「クマ」を見るのは初めてという人がほとんどだが、ニューヨークにはたくさんいるらしい。ニューヨーク帰りの娘は、「クマ」とルームシェアをしていたという。

一見寓話の形を取っているが、この物語は、突然、入り込んできた異質者とのどのように接するか、それを観客一人ひとりに問いかけていたように思う。
異質者とは、現在の日本でいえば、「外国人」と置き換えればわかりやすい。
「外国人」を何の違和感もなく受け入れることができる者、外見だけで、危険と決め付け本質を知らずに拒否する者、同じような境遇にあることで親近感を覚える者。あなたはどうですかと聞かれている気がした。
「クマ」が発する、”一見知らんぷりしながら、影でじろじろ見られるより、興味本位でもじろじろ見られるほうがいい”ということは、彼ら異質者の本音ではなかろうか。

舞台は役者の台詞回しも美しく、ところどころ、笑いを誘うようなせりふもあり、全体としてほのぼのとした雰囲気をかもし出していたが、私のは今の日本を風刺するシニカルなストーリーのように感じられた。

たいへん楽しめる舞台であった。
ゴルゴダ・メール

ゴルゴダ・メール

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2010/03/25 (木) ~ 2010/03/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

第一四半期No.1
2010年1月~3月期は二十数本の演劇を鑑賞しているが、その中でも本作は私の中でナンバーワンである。
内容は、劇中劇の形式をとっているものの、とてもわかりやすく、脚本、演出、俳優、どれをとっても完成度の高い芝居であった。

俳小のような老舗劇団がこのような気鋭の作家の作品を上演するのは冒険かもしれないが、その結果、大きな成果を上げた。

それにしても、ハルメリの黒川陽子といい、劇団劇作家の劇作家から目が離せない。

ネタバレBOX

アスペルガー症候群の人たちが集うサークルが、アマチュア劇団と共同でさ演劇の公演を打つこととなる。
劇中劇の内容はずばりアスペルガー症候群の女性がたどる数奇な運命。その脚本は、アスペルガー症候群の人たちの体験をもとに完成されていく。

入れ子構造のその内側、外側で描かれるのはアスペルガー症候群の人たちがいかに生きにくい世界で暮らしているかという実態。

芝居が進行するにつけ、かれらの苦痛が手に取るように分かり、胸が締め付けられるように痛かった。

緻密の取材を重ねたであろう台本は本当に素晴らしかった。

月並みなはなし[2010]

月並みなはなし[2010]

時間堂

座・高円寺2(東京都)

2010/03/11 (木) ~ 2010/03/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

月並みでないはなし
10日のプレビュー公演を観劇。
地球温暖化などの影響により、今よりも若干地球環境が悪化した近未来が舞台。
月への移住計画に応募した6人+部外者3人、計9名が繰り広げる悲喜こもごも。

ネタバレBOX

月への移住計画に応募しながら、落選した6人が「残念会」と称して、当局よりレストランに呼び出される。
そこで当局より知らされる驚愕の事実。「当選者のなかに欠員が生じたため、6人のうち、1人だけが月移住を果たすことができる。60分で全員の総意として1人を選出してほしい」。
そこから始まる、6人+部外者1人により選考会の様子をほぼリアルタイムで演じる。
そこで示されるのは、恥も外聞も投げ捨てた欲望むき出しの人間性のぶつかりあい。
夫婦1組、恋人ありの男性を軸に物語は展開する。果たして選出されるのは誰か?
本音のぶつかり合いの末、最終的に、1名を無事に!?選出する。
しかし、当局から告げられたのはまたしても彼らを出し抜くものであった。
つまり、選出された1名を除く、5名を当選者とするという理不尽な結論だったのだ。

6名の応募者が月を目指す理由はそれぞれ異なる。生まれも育ちも経歴も異なる人々の本音でのバトルに観客はいやおうなく引き込まれる。
物語が進むにしたがって、目指す理由が明らかにされ、個々人への共感が広がる演出は出色。
ありそうな物語でありながらも、丁寧なストーリーテリングで1級のエンターテイメントに仕上がっている。
すべての演者が役を理解し、十分な演技を見せてくれたが、特にユリコを演じた百花亜希が、前作「掘出者」とは違った顔を見せ、素敵だった。

蝉の穴

蝉の穴

13号地

シアターバビロンの流れのほとりにて(東京都)

2010/08/03 (火) ~ 2010/08/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

やはり凄い!
13号地は昨年の「此処より先へ」に引き続き、2回目の観劇。
前作に負けず劣らず、人間の深淵を見事に表現。
今回も引き込まれた。

ネタバレBOX

登場人物は4人。
それぞれ、時代は異なるものの、同じ場所で亡くなり、魂が成仏できずにさまよっている様子。

一人は先の大戦において焼夷弾を被弾し亡くなった50代と思しき男性、次に最近になってから高層マンションのベランダから不慮の事故によって落ちて亡くなった40代と思しきサラリーマンの男性、ベランダから落ちた男性の数年後に、散歩中に息絶えたタバコ屋の60代と思しきおばちゃん、そして、今はまだ命があるものの、そう遠くないうちに、前者3人の仲間入りをすることになりそうな20代と思しき女性(この女性はサラリーマンの成長した娘と思われる)。

交差するはずのない人生が、同じ場所での死亡(死亡予定)、救済されえぬことによって、出会う。

しかし、彼らは出会うことによって、自らの人生を悟り、それぞれ居るべき場所へと戻っていく。

そんなかれら霊魂(蝉の抜け殻)の会する場所を、蝉の穴と評した着想にも脱帽。

13号地の今後の活動にますます期待を持たせる内容の出来であった。

それにしても、これほどの秀作を生み出しながらも、観客動員がついてこないことが残念である。
ぼくの好きな先生

ぼくの好きな先生

enji

小劇場 楽園(東京都)

2010/08/18 (水) ~ 2010/08/24 (火)公演終了

満足度★★★★★

鮮やかによみがえるいじめの記憶
タイトル、フライヤーからは想像のつかない、いじめをテーマにした本作。
コメディタッチであるがゆえに、浮かび上がるいじめの悲惨さ。
見事な作品であった。

ネタバレBOX

主人公は34歳の教師。
教師には中学校時代の同級生のフィアンセがおり、彼女に懐妊を契機に同居、結婚を控える。
そんな彼には、忘れえぬ記憶がある。
それは、中学校時代、一時期親しくしていた同級生をいじめが原因の自殺で亡くしてしまったというもの。主人公はいじめには加わることなかったものの不作為によって彼を追い込んでしまった。
亡くなった同級生は頻繁に彼のもとに、亡くなった中学生当時の姿で現れる。彼は時に主人公をなじり、時に今ってほしいかのようにじゃれてくる。
実はそのような体験は主人公だけではなく、主人公の妻も共有していた。彼女の元にも、彼はときどき姿を現していた。

また、主人公には、空想癖があり、あるとき、彼の部屋で、「世界教育者会議」と題する教育者の集まりが催され、主人公の敬愛する「先生」たちが、次から次えと搭乗する。コルチャック先生、宮沢賢治、「いまを生きる」のジョン・キーティング、坊ちゃん、など。
その会議の題材はいじめ。

そこから、いじめを巡る旅は始まる。
主人公夫妻、亡くなった少年、そして、主人公同級生それぞれの、いじめ、いじめられ体験が再現される。

衝撃的だったのは、それらの再現を見ている最中に、自分自身のいじめ、いじめられ体験が鮮やかによみがえったことである。
演劇を見ていてこれほどの追体験をしたことは始めてある。
見事の一言である。

今後も、このような良質な作品を作り続けていただきたい。

イヌ物語

イヌ物語

劇団サーカス劇場

シアター711(東京都)

2009/06/24 (水) ~ 2009/07/05 (日)公演終了

満足度★★★★★

救世主再生!
いやー、かなり深いです。今回のイヌ物語は。
今年は現在までに50本程度芝居を見ていますが、5本指に入る傑作です。
終わった後、お茶を飲みながら、話を思い返してやっとわかる部分も多々ありました。

この世の救世主たる「おじさん」と、世間から忌み嫌われる存在の「イヌ」。
自分の運命を悟った「おじさん」は、救世主の救世主たるゆえんの「鍵」を「イヌ」に託して、若者を救うために自らの命を託す。
それを受け取った「イヌ」もまた、自らの運命を悟ったかのように、その「鍵」を高々と掲げる。
新たな救世主の誕生を見た気がした。

 『F』

『F』

青年団リンク 二騎の会

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/01/29 (金) ~ 2010/02/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

味わい深き、かなしみ
近未来を舞台に繰り広げられる出会いはずの無い少女とアンドロイドの悲しい物語。


それにしても、青年団リンクのクオリティーの高さに、昨年から驚かされてばかりである。

ネタバレBOX

自然が破壊しつくされ、特殊な温室のなかでしか桜が咲かないような荒廃した近未来。
弱者と勝者の地位が圧倒的に固定化され、弱者は勝者の世界を夢見ることさえ、許されないような世界。
毎日、食べるものにさえ事欠く生活を送っていた少女は自らの命と引き換えに、一瞬の「生」を手に入れる。
少女は、新薬開発の人体実験に自らの体を差し出す。健康体に、不治の病のウィルスを宿し、そのウィルスへの新薬飲むことでつかの間、命を長らえる。
新薬は開発段階のもので、効き目は定かではない。というより、効果は期待できず、死んだ後の検体に製薬会社の目は向かられている。

少女は貧困のただなかにある生活に意味なないと考え、人体実験に身をささげることで、お金を得、初めて「人間」らしい生活を手に入れる。
少女は確実に死ぬことを自覚しながら、一瞬の生に感謝し、後悔は一切ないと言い切る。

少女は命と引き換えにつかんだ大金で、アンドロイドを購入する。
その人型をし、感情以外はすべて人間と同じにプログラミングされたアンドロイドは「彼女の利益を守るためにプログラミングされている」という。

今まで、誰からも人間扱いされたことがなかったであろう少女は、アンドロイドの振る舞いにと毎度ながらも次第にアンドロイドにひかれていく。
死を自覚すればするほど、アンドロイドへの思いは募り。。。
当然のことながら、彼女を思うをアンドロイドは受け止めることができない。
彼女とアンドロイドの思いがすれ違うさまは何とも物悲しい。

舞台(彼女の命)の終焉に近づき、彼女はアンドロイドに、アンドロイド自身のために生きるよう諭す。
それはまるで、自分の死を受けう入れながらも、自分の分身として、生きていくことを願うかのように。
この一瞬の彼女の生が凝縮されているかのように。

終幕、アンドロイドは何を彼女に囁いたのであろうか。
また、アンドロイドは彼女を抱え、どこにつれさったのであろうか。

見終わった後も、想像力をかきたてらる秀作であった。



ライク ア ローリングストーンズ

ライク ア ローリングストーンズ

enji

ザ・ポケット(東京都)

2009/12/02 (水) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

和洋折衷の人間賛歌
『ローリングストーンズ命』の19歳のロッカーが死ぬところから物語ははじまる。
当劇団初見だったが、寺とロック、仏教とキリスト教など、対極にあるテーマを見事にひとつにする力量を持つ。
笑いを誘うシーンが不発に終わるなど、空振るシーンもいくつかあったものの、見事な出来栄えであった。

ネタバレBOX

主人公は、現世で伝説を打ち立てることが人生の目標だといい、現世に残された人々に憑依しながら、伝説を打ちたてようと画策する。
主人公が「世界を変える」ことの意味を最後に悟るなど、作者は観客に人間賛歌を明るく語りかける。
仏教で語られえる悟りと、ローリングストーンの歌詞にこめられた意味がシンクロするところなど、聞いていてぞくぞくするほどだった。
Romeo. シンガポール&ジャパンツアー (盛況にて終了!ご来場ありがとうございました)

Romeo. シンガポール&ジャパンツアー (盛況にて終了!ご来場ありがとうございました)

冨士山アネット

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2009/05/22 (金) ~ 2009/05/24 (日)公演終了

満足度★★★★

興味深いスタイルでした
冨士山アネットの舞台は今回初めて見ました。
「独創的」という言葉がぴったりの表現手法がとられていてたいへん興味深く見ました。
せりふはほとんどなく、せりふの代わりに、ダンスで心情を表現するというスタイルがとられています。

事前に配布されたパンフに記載されている内容を先に熟読しておくことをオススメします(逆に、パンフを読まずに舞台を見ると、何を表現しているのか理解が難しいかもしれません)。
パンフに記載されている内容をこう表現するのかと感嘆させられることもありました。

その一方で、せりふ劇に親しむものとしては、せりふがあったほうがより伝わるのではないかなどと考えもしました。

個人的には、興味を惹かれましたが、この劇団は好みの分かれるところではないでしょうか。

BOOKEND

BOOKEND

INUTOKUSHI

早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ(東京都)

2009/11/26 (木) ~ 2009/12/01 (火)公演終了

満足度★★★★

「笑い」は「(感動の)涙」に勝つことができるのだろうか?
当劇団、本公演初見。
人間界をよりよい方向に導くために、「笑いの神」と「感動の神」が覇権を争う神の国。
劣勢に立たせされた「笑いの神」は、人間界に救世主を求め、一人の男に白羽の矢を立てる。
「笑いの神」は、その男を自陣に引き込むことができるのだろうか?

本作は、作・演出のモラルの自伝的作品とのこと。
つまり、「笑いは涙に勝つことができるのだろうか」ということへの彼の戦いの歴史でもあり、「負けまい」という今後への意気込みを表現した、というところであろう。

感動を廃し、全編笑いでつなごうとする作風は面白く、まさに”ニューウェーブ”というにふさわしい。
一方で、不必要に繰り返される下ネタ表現も多く、どれだけの観客が本作を受容できるのだろうか。
評価が真っ二つに分かれる作品であろう(私は許容派)。

華々しき一族/お婿さんの学校

華々しき一族/お婿さんの学校

ハイリンド

赤坂RED/THEATER(東京都)

2009/11/18 (水) ~ 2009/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

役者、演出の力量
森本薫、モリエールのいわば古典を、見事に、現代でも通じる舞台に昇華させた演出家および、演出家の意図を汲み取り演じた俳優の好演に拍手。
おかしみを全編に湛えたモリエール作品もおもしろいが、一瞬も気の抜けない、せりふの応酬が続く森本作品が秀逸。両作とも、「行き違い」を見事に活かしきった舞台であった。

8割世界番外公演『欲の整理術』×『ガハハで顎を痛めた日』

8割世界番外公演『欲の整理術』×『ガハハで顎を痛めた日』

8割世界【19日20日、愛媛公演!!】

ART THEATER かもめ座(東京都)

2010/07/07 (水) ~ 2010/07/11 (日)公演終了

満足度★★★★

必ずしもコメディーに固執しないことが勝因
当劇団初見。
舘そらみの劇作のファンであることから、観劇。
コメディー劇団と舘そらみというまったく異質な存在が交わるとき、どのような融合が見られるか期待を寄せての観劇であった。

30分のショートショート「欲の整理術」と1時間強の「ガハハで顎を痛めた日」の2本立て。
「ガハハ」は相応に楽しめる作品として仕上がっていた。

ネタバレBOX

まず、「欲の整理術」であるが、映画「猿の惑星」ならぬ、「豚の惑星」よろしく、豚に支配される世界における人間たちの反乱を描いたシニカルな作品。
知能を身に付けた豚が闊歩する世界において、圧政に耐えきれなくなった一部の人間が起こす革命の顛末を描くが、脚本の問題なのか、シリアスなストーリーをむりやり、コメディ仕立てにしようとした演出と脚本のミスマッチのせいなのか、メッセージがまるっきり伝わってこず、残念な作品となってしまった。

「やはりコメディーと舘の作品の融合は難しいのか、、、」という気配が充満し始めたころ、開演となった「ガハハで顎を痛めた日」は、そんな空気を大きく変える良質な作品であった。

舞台は着任を翌日に控えた新米中学教師たちの研修所。かれらは今停滞する教育界に風穴をあけるべく採用された社会人経験のある中途採用者たち。
かれらは、来る教師生活に備えて、教師役と生徒役に分かれて、いくつかのシチュエーションを模擬的に演じてみる。テーマは、「暴力」、「窃盗」、「いじめ」等々。
登場する5人の新米教師たちは、それぞれ、経歴も個性も異なり、教師を志したきっかけも異なる。しかし、ロールプレイングを通じて、一人ひとりが抱える不安が明らかになるとともに、かれらがこれから訪れるであろう困難に真しに立ち向かおうと考えているひたむきさがひしひしと伝わってきた。
また、各ロールプレイングの合間には、かれらが明日から担任するであろう中学生たちの日常が描かれ、ピリリとアクセントを加えている。

「ガハハ~」はコメディータッチで描かれることはなく、舘の脚本を十分に理解していたことが良質な作品を生み出すことができた勝因であったように思う。

8割世界には、コメディーにこだわらず、いろいろな作品に取り組んでほしいと願う。また、それを可能とする演出家、役者陣がいると感じた。

溺れる家族

溺れる家族

アロッタファジャイナ

タイニイアリス(東京都)

2009/07/23 (木) ~ 2009/07/27 (月)公演終了

満足度★★★★

家族の崩壊と誕生の物語
一言でまとめるなら、投稿タイトルの通り。
何らかの事情により、どこか精神的に追い詰められている複数の家族の物語を、断片的に描写し、それぞれの家族の相関関係を劇の進行とともに明らかにする手法がとられえる。
ある家族は崩壊へとむかう一方、新しく家族となるものたちの誕生も描かれており、題材自体は古いものの、よく2時間強で、あれだけの家族を描き分けたものだと感心した。
登場人物は、だれが主役ということなく、並列で描かれているため、当然、人物の描写に濃淡が発生しているため、見るほうにとっては誰に感情移入していいのかわからず、混乱を来たす懸念はある。
また、登場人物の年齢は10代から50代まで幅広いことから、誰に感情移入するかによっては、芝居の評価は異なるのではないか。

箱を持っている

箱を持っている

劇団あおきりみかん

愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)

2009/06/25 (木) ~ 2009/07/12 (日)公演終了

満足度★★★★

果たして本当の自分とは
それぞれの人格・個性をあらわす「箱」。
誰もが「箱」を持っているらしいが、誰もが「箱」が見えるわけではないらしい。
また、「箱」が見える人間は、自分と同じ「箱」を探して、その箱をつぶすと、「箱」が見えない生活に戻れるという。

『もしあなたは「箱」が見えたときに、その「箱」をどう扱いますか?』
と脚本家は問いかけてくる。

「箱」の存在に気づいた人間はいやでも、自分自身と向かい合わざるを得ない。
自分と同じ「箱」を持ったもう一人の自分は、自分の分身、つまり、鏡なのである。
その鏡を通じて、自分が感じている自分と、他人が感じている自分は、必ずしも一致しないことに気づかされる。
「箱」は決して、故意につぶそうとしてつぶせるものではなく、もう一人の自分と向かい合うことで、自分自身を受け入れ、かつ、もうその「箱」を必要としないことではじめて、「箱」は自然に消滅するのである。

果たして、自分は同じシチュエーションに置かれたときに、どのように、対応するだろうか???
と考えさせられた。

役者が開演から終演までずっと舞台の四方に、箱を積み上げるという演出も新鮮であった。

特異なシチュエーションションを使いながら、「自分の内面をみつめる機会を提供する」というオーソドックスな主題を扱う脚本家の力量に、感嘆させられた。

作風が独特なため、誰もが楽しめるとは言いがたいが、私には楽しめる舞台であった。

ピローマン

ピローマン

劇団ロズノワール

千本桜ホール(東京都)

2010/02/16 (火) ~ 2010/02/18 (木)公演終了

満足度★★★★

あまりに切なく、あまりに暖かい
原作の「ピローマン」は2004年にイギリスで最も権威のあるオリヴィエ賞の最優秀戯曲賞を受賞した衝撃作。

比較的原作に忠実に上演された様子。
2幕ものであるが、第1幕だけで終了してもいいような巧妙なストーリー展開。

子どもの虐待という際めて重いテーマでありながら、いくつかの偶然が重なって、真っ暗闇の先に一筋の光が見えるラストがすばらしい。
見終わった後に、色々なことが次から次へと頭に浮かぶような余韻を残して終了。

若手役者での上演となったが、同じ脚本、演出で、もっと老獪な役者人の舞台を見てみたいと思った。

当劇団の今後に大いに期待の持てるそんな舞台だった。

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