マリンバの観てきた!クチコミ一覧

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曲がれ!スプーン

曲がれ!スプーン

ヨーロッパ企画

紀伊國屋ホール(東京都)

2009/12/10 (木) ~ 2009/12/22 (火)公演終了

満足度★★★

同日鑑賞
「冬のユリゲラー」の改訂版。この作品とは付き合いが長い。2002年に京都の劇団であるヨーロッパ企画が東京に初登場したときに見ているし、2年前にも回顧上演されている。テレビでも何回かに分けて連続ものとして放送された。そのほか2002年の舞台版のDVDを買って2度見ているし、きょうの観劇のあと、勢いで本広克行監督の映画版も同じ日に見てきたので、いろんなバージョンをひっくるめるとトータルでは7回見たことになる。
歌でいえばスタンダードナンバー、劇団の演目としてはレパートリーといっていいのではないだろうか。これだけ繰り返し見ても飽きないというのはもはや古典落語のネタに近い。
今回の舞台版「曲がれ!スプーン」は、改訂されているとはいえ、これまで舞台で上演されてきた「冬のユリゲラー」に近かった。一方、映画版はそれに比べると改訂の度合いがかなり大きい。長澤まさみという有名タレントが主演しているぶん、そちらの顔を立てるかたちになっている。正直なところ、映画版よりも舞台版のほうが面白かった。
舞台と映画に同じ役で出ているのは諏訪雅と中川晴樹の二人。映画で見る諏訪が異様に太っているのがちょっと不気味だった。それと映画では役者の顔のクローズアップがけっこう多くて、舞台では小さく、いつも同じサイズだったのがスクリーン上では3メートルくらいに膨らんでいるのも気持ち悪かった(笑)。

地獄篇 (神曲3部作)

地獄篇 (神曲3部作)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2009/12/11 (金) ~ 2009/12/13 (日)公演終了

最悪の座席
神曲3部作の1本目。上演時間は約90分。
セット券を購入したので、座席は自分で選べず、4列目ど真中になった。前の客の頭が邪魔になって、まるで目の前に電柱が立っているよう。ひどい観劇環境だった。地獄編は舞台だけにしてもらいたい。

ところどころ、特に序盤では面白い場面もあったが、去年の「Hey Girl!」並のものを期待すると、たぶん裏切られるだろう。

今回は残念な結果に終わったので、個人的には次の煉獄編に期待。

孤天 第二回「ボクダンス」

孤天 第二回「ボクダンス」

コマツ企画

APOCシアター(東京都)

2009/12/03 (木) ~ 2009/12/07 (月)公演終了

満足度★★★★

孤独天国
コマツ企画の役者である川島潤哉による自作自演の一人芝居。その第2回公演だが、見るのはこれが初めて。
劇団の役者として活動してきた人が、ふいに自分でも脚本を書いて一人芝居を始めるというのはかなり珍しいケースではないだろうか。
脚本の書き手としてはまったくの未知数だし、あくまでも役者としての魅力に引かれて見に行ったのだけど、フタをあけてみると芝居の内容が予想外に面白かったのでちょっとビックリした。







ネタバレBOX

寝言で「ドストエフスキー!」と叫ぶ人はいるかもしれないが、くしゃみでそう言ったのはこの芝居のキャラクターがたぶん初めてだろう。
ミニマルダンス計画

ミニマルダンス計画

黒沢美香

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/11/25 (水) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

「耳」を見る
ミニマルダンス計画の一つで、今回は黒沢美香のソロダンス「耳」を見る。
仕事の疲れが抜けず、この日はコンディションが最悪。途中で眠りはしなかったものの、集中力が持続しなかったのは決して作品のせいではありません。念のため。

ネタバレBOX

音楽の使用がかなり少なく、無音で動くことが多かった。あらかじめ振り付けた動きというよりも、インスピレーションを待つかのように動きを止めることもしばしばだった。探りつつ踊っているその感じは、これまでに見た彼女のソロダンスでもなじみがある。しかし照明や音楽の段取りがところどころで決まっているので、まったく行き当たりばったりに即興をやっているわけではないようだ。
顔の向き、あるいは目線といえばいいか、それもダンスの一部になっているのがわかる。しかも目線によって示されたのとは別の方向へ体が動いたりするので、一見地味な動きにもかかわらずちょっと予測不能な面がある。
下着の上に茶と金色の柄シャツを着て、下半身は両脚を露出。一時、病気が心配されたが、きょうの公演を見る限り、かなり調子は良さそうだ。
心配なのはむしろこちらの体調だったりして
ミニマルダンス計画

ミニマルダンス計画

黒沢美香

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/11/25 (水) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

「膝の火」を見る
黒沢美香のダンス作品は5年前からちょくちょく見ている。今回はこまばアゴラ劇場で「ミニマルダンス計画」と銘打って合計4本を上演する。「膝の火」はそのうちの1本。
新旧、巧拙とりまぜて十数名の女性ダンサーと、黒一点、後藤茂というスキンヘッドのオジサンが出演した。上演時間は70分ほど。

ネタバレBOX

黒沢作品ではときどき、ドラマ的な状況設定を想像するとうまくはまる時があり、今回はそのケースだった。
女性陣は全員が付け髪をして、女学生ふうのお下げ髪になっている。なかには白髪の女性もいるが、それでもお下げ髪だけは強引に黒々としたのを付けている。衣裳はなんとなく体操着ふう。上下とも白っぽいのと、下だけグリーンなのが半々くらい。
こまばアゴラ劇場の舞台は二階部分が手摺のついたキャットウォークになっているので、サイズはかなり小さいけれど、場所は体育館と見なせないこともない。
というわけで、個人的には戦前の女学校の体育館を舞台にして、当時としてはモダンな西洋のダンスを踊る女学生たちの部活の様子、というのを想像しながら眺めた。
黒い半ズボンにワイシャツ姿の男性はさしずめ女学校の用務員だろう。
照明の変化が一日の時間のうつろいを感じさせる。全員によるラストの群舞は文化祭当日の出し物なのかもしれない。夜中に練習する一人を励ますように用務員のオジサンが一緒に踊ったり、女の園らしく妖しい禁断の恋愛模様も感じられたり。

ひところ、黒沢美香のダンス作品には舞踏の影響が感じられたが、それに比べると今回はミニマルダンスとはいいながらも、体はけっこう動いているように思えた。
午后は、すっかり雪

午后は、すっかり雪

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2009/12/03 (木) ~ 2009/12/13 (日)公演終了

昭和の男尊女卑
プログラムに載っている作者のあいさつから察するに、向田邦子へのオマージュということらしい。若い作者は昭和39年ごろの時代の空気なんて知らないと思うけど、本や映像から想像を働かせたのだろうか。


ネタバレBOX

比較的シンプルな舞台装置で、時代や場所を交錯させながら描いている。一人の役者が別の役を演じたり、同じ役者が大人と子供時代の両方を演じたりしているが、こういう演劇的な趣向は、観客を鮮やかにだましてサラッと種明かしするのを理想だとすれば、今作ではどうもいたずらに混乱を招いて話をわかりづらくするだけに終わっているような気がする。
こういう技巧的な作品を書かせたら青年団の工藤千夏が一枚上
『白鳥の湖(全幕)』

『白鳥の湖(全幕)』

牧阿佐美バレヱ団

藤沢市民会館 大ホール(神奈川県)

2009/11/28 (土) ~ 2009/11/28 (土)公演終了

満足度★★★

白鳥を見る
主演の伊藤友季子を目当てに藤沢まで。彼女を見るのはこれが初めて。良いダンサーだった。白鳥の湖の場合、オデット・オディールという正反対の役を演じ分けるのが見所なわけだけど、演じる本人の持ち味によって、淑女向き、悪女向きというのがあるのは芝居の役者の場合と同じだろう。細身の体つき、清楚な雰囲気の彼女はどちらかというとオデット向きかなと思う。いいかえれば、オディール役では悪の魅力、魔性の女っぷりがもうちょっとあればと。ただ、テクニックを見せる回転ワザなどはすごく安定感があり、安心してみていられた。



牧阿佐美バレヱ団の公演を見るのはこれが3度目くらい。これまでに見た日本のいくつかのバレエ団のなかで、踊りのテクニックではなく、芝居の演技力という意味で、マイムがいちばん下手なカンパニーではないかと思う。
白鳥の群舞のように、一糸乱れぬ動きを演じるには全員が音楽にぴったりと合わせることが必要だけど、マイムのときまで同じように音楽にぴったりと合わせるのはおかしいと思う。踊りのきっかけとして、また舞台を進行させるうえで音楽は必要かもしれないけど、マイム自体は音楽がなくてもなりたつはずだし。感情の動き、感情が生じるきっかけを音楽にすべてゆだねてしまうと、自律的に動いている感じがしないし、まるで音楽に操られているようにさえ思えてくる。
ただまあ、踊りの中にマイムが組み込まれて混然一体となっているような場合(特にヒロインの白鳥)もあるので、踊りとマイム、そんなにくっきりとすべてが区別できるわけではないのだけど。
主演の伊藤はマイムの表現力が豊かで、彼女の出ていない第1幕は退屈というか、かなり不機嫌になってしまった。上記の批判はそのまあ鬱憤晴らしです。

地方の市民会館が会場だったので、幕は上から降りてくる緞帳だった。カーテンコールというのは文字通り、横開きのカーテンがあるからそう呼ぶのだと今回あらためて気づいた。
そういえば終幕後、客席の拍手に答えて緞帳が上がったとき、主役の二人が最後に乗っていた大きな白鳥型の乗り物がまだ舞台に残っていて、裏方の人が大慌てで撤去するところだったので、客席がどっと沸いた。

ローザス「ツァイトゥング Zeitung」

ローザス「ツァイトゥング Zeitung」

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2009/11/27 (金) ~ 2009/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

アフタートークは聞かなかった
映像も含めて、これまでに見たローザスの作品の中ではかなり好きなほう。
上演時間は2時間弱。開演前はずいぶん長いと思ったが、始まってからはあまり気にならなかった。



ネタバレBOX

出演者は9人。国籍が多彩で、その点では今年亡くなったピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団を連想させる。ただし、ヴッパタール舞踊団のメンバーよりもこちらのほうがずっと踊れる人が揃っている感じ。
出演者の中では古株といっていい池田扶美代が唯一の日本人ダンサー。一人だけハイヒールの赤い靴を履いていて(他のダンサーは素足)、動きの面では若いダンサーとの競合をはなから避けているようだった。ダンサーが群れ集う場面では、素足の中にハイヒールが混じっているのでヒヤヒヤした。踊る凶器というか、彼女はローザスの秘密兵器だった。顔立ちがニブロールの矢内原美邦に似ていると感じるのは私だけだろうか。ついでにいうと、ローザスの韓国人ダンサーであるスーヨン・ヨウンは、ヴッパタール舞踊団の日本人ダンサー、瀬山亜津咲になんとなく似ている気がする。

舞台の下手奥にはピアノが一台。立て看板ふうの舞台装置がいくつか後ろ向きのまま三方の壁際に間隔をあけて並んでいる。座った席が最前列だったので、見上げると高い天井に組まれている照明器具設置用の骨組みが複雑に入り組んでいるのが見える。そして舞台の両端に置かれたいくつかの椅子。全体としてはダンスの稽古場のような雰囲気が感じられた。音楽はアラン・フランコという人がピアノを演奏したほか、録音も使っていた。バッハは何曲か聞いたことがあるが、シェーンベルクは名前だけ、ウェーベルンは名前も知らなかった。聞いていてわかったのは、クラシックと現代音楽がともに使われていて、ダンスといっしょに聞くぶんにはまったく抵抗がないということ。

ダンス作品で使われる音楽は、踊りの伴奏だったり、作品の雰囲気を盛り上げるBGMだったりすることが多いと思うが、一部の振付家は音楽をもっと積極的に聞き込んでいて、ダンスの振付と音楽の関係もより密接なものになっている。いってみれば、聴覚的な刺激である音楽をダンスによって視覚化していると感じられる。ジョージ・バランシンやナチョ・ドゥアトの振付がそうだと思うし、ローザスの振付家であるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの作品にも同じことがいえるのではないだろうか。
ダンスを通して音楽を見ている感じ。それさえあれば、ドラマ的なものを別に想像しなくても最後まで退屈せずに見ていられる。

劇場でもらったプログラムを見ると、即興も行われているらしいが、まったく気づかなかった。ただ、コンタクトがほとんどないなかで、ロシア出身の男女が終盤で猛烈に絡み合っていたところがコンタクト・インプロビゼーションぽいかなと感じたくらい。最前列の座席だとソロダンスの場合はともかく、複数のダンサーが踊るときには見づらくなったりするものだが、各ダンサーのソロも用意されていたので充分に満足だった。

序盤で色付きの紐を使って距離を測るみたいな動きがあったり、大勢が舞台上をわらわらとあちこちへ移動するだけという場面もあったが、そのどちらもちゃんと音楽と連携しているのがわかった。





ジェネラルテープレコーダー

ジェネラルテープレコーダー

あひるなんちゃら

「劇」小劇場(東京都)

2009/11/18 (水) ~ 2009/11/23 (月)公演終了

満足度★★★

B面のみ
「劇」小劇場へは数えるほどしか来たことがないが、ずいぶん奥行きがない舞台だと初めて気づいた。学校の教室の教壇をちょっと広くした感じ。セットも上手に机があって、あとは椅子が三つほど。演劇よりも演芸向きな感じの舞台で、あひるなんちゃらの芝居もトリオによるコントの趣がある。
設定は、人里離れた山小屋かどこかで、3人組が魔法のテープレコーダー作戦だったか計画だったかの犯行準備をしているというもの。具体的に何をやっているかといえば、カセットのテープを引っ張り出して、「テープ伸ばし」と称する意味不明の作業にいそしんでいる。そしてまったく作業に集中せずに勝手なことばかりやっている一人(高橋優子)と、それを咎めるかに見えて実は同調しなおかつ悪乗りしてしまう一人(北村耕治)と、3人の中では比較的まじめで主に注意というかツッコミを担当する一人(異犠田夏葉)が、ナンセンス調のコミカルなやりとりを繰りひろげる。
劇場でもらったプログラムによると、この作品はテアトルプラトーというネットの演劇番組で配信されるそうなので、興味のある方はそちらをどうぞ。

ネタバレBOX

てっきり3人芝居だと思っていたら、終盤でA面の出演者である黒岩三佳が峰不二子ふうの役で登場した。山小屋で外の気配に怯えていた3人のように、私には黒岩の登場がA面からやってきた幽霊ないし妖怪に思えた。たぶんA面を見なかった後ろめたさがそうさせたのだろう、どうしてこちらへ来なかったのだと咎められているような気がしたのだ。素直にA面を見ておけばよかった。
SHE-彼女

SHE-彼女

KARAS

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2009/11/20 (金) ~ 2009/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

見ごろ食べごろ
勅使川原三郎のカンパニー、KARASのメンバーである佐東利穂子のソロダンス。上演時間は1時間弱。ソロダンスの公演では普通の長さだが、これだけの運動量というかダンス量のある公演はちょっと見たことがない。それだけでも見る価値充分。
公演は11月20日から23日までまず4回踊った後、3日間休演して、27日から29日までさらに3回踊る。全7回という公演数もソロダンスとしてはかなり多い。
ダンサーとしての力のピークがどの辺にあるのかはわからないが、ものすごく充実した時期にあることは間違いない彼女のダンスは、今がまさに旬。ダンス好きならこれを見逃す手はない。

ネタバレBOX

最前列のド真中で見たが、ここは特等席だった。4メートルくらいの距離を隔てて、彼女のダンスを差し向かいで眺める瞬間が何度かあった。体は細身で長身。プログラムにはdance:佐東、direction:勅使川原としか書いていないので、誰の振付なのか、あるいは即興なのかは定かでないが、腕全体をしならせるように動かすところは過去に見た勅使川原ダンスの特徴が感じられる。
冒頭には戸外で踊る彼女の映像が映画館なみのスクリーンサイズで舞台奥に映し出された。風や光、空気や地面といった周囲の自然に同化、同調しながら動く、これも過去に見た勅使川原ダンスの基本方針を提示しているように思える。
映像の終了とほぼ同時に本人が舞台に登場。ビートの効いた騒音とでもいうか、それに合わせて体が激しく動きだす。全身の緊張をほぐすように体を盛んに揺するので、両腕はまるでゴムになったように上下左右前後にぐにゃぐにゃと動く。首の力も抜けているので頭もぐらぐら。それでいて、体はちゃんとビートに反応していて、足もステップを踏んでいるように感じられる。
出だしのこの何分間かのダンスだけでもその運動量に圧倒させられた。そのあともずっと彼女の動きを目で追いながら、ふと照明の効果を感じたり、いつのまにかダンスの特徴について考えたり。目の前の刺激への直接的な反応とそれについての物思いが交錯するダンス鑑賞に特有の時間が流れた。
できればもう一度見たいのだけど、残念ながら時間の都合がつかない。


くるみ割り人形〜マイキャスト〜

くるみ割り人形〜マイキャスト〜

東京バレエ団

東京文化会館 大ホール(東京都)

2009/11/21 (土) ~ 2009/11/21 (土)公演終了

満足度★★★

華やかな踊りと音楽
年末になると上演が増えるバレエの「くるみ割り人形」。まだ11月の下旬だけど、もう年末といえばいえないこともない。物語がクリスマス時分の話なので年末に上演されるようになったらしい。
クラシック音楽の世界で、ベートーベンの第九が年末に盛んに演奏されるのは日本だけのことだが、バレエのくるみ割り人形は海外でも年末によく上演されると、専門家のえらい先生が書いていたのを読んだことがある。
この作品はチャイコフスキーの音楽がなによりも魅力的で、バレエの振付家なら誰でも自分流に振付をしたくなるのではないだろうか。実際、いろんな振付家によるいろんな版が存在する。
私がこれまでに見たのはスターダンサーズ・バレエ団のピーター・ライト版、新国立劇場バレエ団のワイノーネン版、東京バレエ団のモーリス・ベジャール版、そして小林紀子バレエシアターの小林版。ついでにいえば、イデビアン・クルーの井手茂太版もある。
演劇に例えれば、チャイコフスキーの音楽がいわば古典の戯曲で、さまざまな振付が芝居の演出に相当するのではないだろうか。
今回見た東京バレエ団のはワイノーネン版。
話の内容は主人公であるクララがクリスマスイブに見た夢の世界を描いたもの。他の版ではクララは単に物語の案内役で彼女自身はそれほど踊らないのだが、ワイノーネン版では物語だけでなく踊りの面でも彼女がメインになる。
若手を起用するマイキャスト公演で主役を演じるのは佐伯知香。東京バレエ団の公演は何度か見ているから彼女を見るのもこれが初めてではないはずだが、やはりこうやって主役に抜擢されると見る側の注目度もちがってくる。今回は座席が2列目と近かったこともあり、彼女の顔もしっかりと認識した。
体はけっこう小柄。なんとなく新国立劇場バレエ団の小野絢子に似ている気がする。細くて長い腕の使い方がとてもしなやか。前半の少女クララの役にはまさにぴったりだった。
ワイノーネン版の場合、他の版では金平糖の精として後半に登場するお姫様キャラクターも少女クララが担当するわけで、その辺の演じ分けというか、踊り分けがむずかしいのではないかと思った。

前半の1時間でドラマは終了し、後半の1時間はいわばダンス・ショーになる。耳なじみのある音楽が続く後半の楽しさはやはり格別。中国の踊りと前半のコロンビーヌ役の岸本夏未、ロシアの踊りの田中結子、フランスの踊りの村上美香らも印象に残る。

ネタバレBOX

配役だけ書いておきます。


クララ:佐伯知香
くるみ割り王子:松下裕次

【第1幕】

クララの父:柄本武尊
クララの母:井脇幸江
兄フリッツ:井上良太
くるみ割り人形:中村裕司
ドロッセルマイヤー:木村和夫
ピエロ:高橋竜太
コロンビーヌ:岸本夏未
ムーア人:中川リョウ
ねずみの王様:平野玲

【第2幕】

スペイン:奈良春夏-後藤晴雄
アラビア:西村真由美-柄本武尊
中国:岸本夏未-中川リョウ
ロシア:田中結子-小笠原亮
フランス:村上美香-河合眞里-宮本祐宜
花のワルツ(ソリスト):矢島まい、渡辺理恵、川島麻実子、小川ふみ
              長瀬直義、梅澤紘貴、安田峻介、柄本弾
4.48サイコシス(演出:飴屋法水)

4.48サイコシス(演出:飴屋法水)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

あうるすぽっと(東京都)

2009/11/16 (月) ~ 2009/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

内なる狂気へようこそ
良い意味で、演劇作品に名を借りた美術作品ではないかと思う。サラ・ケインの原作は前にいちど、川村毅の演出で見たことがある。あちらは映像で東京の街並みを映し出したりして、それなりに凝った演出が面白かった。それとの比較でいうと、飴屋作品の場合は字幕のほかには映像を使っていないというのが一つの特徴かもしれない。映像を使うとそれだけでけっこうスタイリッシュな感じがするものだが、この作品では映像を使っていないので、美術面ではなんとなく手作りな感じがするのがいい。遊園地のお化け屋敷を体験するような感覚で、観客は眼前に展開する鬱病患者の狂気を目の当たりにする。

脚本は鬱病の末に自殺した劇作家の遺作。会話劇といえるものではなく、作者の独白に近い内容で、普通に演じたらたぶん退屈なものになるだろう。そのぶん演出家が腕を振るう余地のあるテキストなのかもしれない。
昔、二十歳で自殺した女子大生の日記がベストセラーになったことがある。サラ・ケインの場合もそうだけど、作者が自殺したということが作品の付加価値になっていて、もし作者が健在ならそれほど特別視される内容ではないのではないか、という気がしないでもない。
変な例えで申し訳ないが、この作品の作者がサラ・ケインではなく、もしも三谷幸喜とクレジットされていたら、観客はただもう、なんてひどい作品だろうと思うのではないだろうか?

そういったことはさておいて、美術と演出は一見の価値あり。

花は流れて時は固まる(BATIK)

花は流れて時は固まる(BATIK)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/11/15 (日) ~ 2009/11/20 (金)公演終了

戸惑う
5年前の初演も見てはいるのだが、その内容をほとんど忘れていることに再演を見ながら愕然とした。さらに驚きだったのは、初演ではそこそこ面白いと思えたはずの作品が、再演ではまったく面白いと感じられなかったこと。この5年間で自分の嗜好がすっかり変わってしまったのか。それとも作品そのものが初演時と違っているせいか?
初演と再演でこれほど評価が変わるというのは個人的にはきわめて珍しい。

東京裁判

東京裁判

パラドックス定数

pit北/区域(東京都)

2009/11/13 (金) ~ 2009/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

傍聴席より
東京裁判に関しては最近また新しい事実が出たりしているので、この芝居が史実に忠実かどうかということにこだわり過ぎると面白みは半減するかもしれない。東京裁判の法廷という大きな舞台の中で、登場人物を主任弁護団の5人に絞って描くというアイデアが奏功している。裁判の結果はすでにわかっているわけで、5人がどんなに頑張っても結果がくつがえることはない。大きな敵に対峙して、負け戦さと知りつつも挑んでいく5人の心意気こそが芝居の見所ではないだろうか。

ネタバレBOX

再演ではいくらか脚本が改訂されたようだ。5人の人物像がいくぶん書き加えられたのではないだろうか。個人的には小野ゆたかの演じる末永弁護人の「だってほんとなんだもん」という台詞がなくなっているのがちょっと残念だった。初演ではあそこが笑い所だったので。

劇団のホームページで先行予約しておいたら、特典として入場の際に板チョコをくれた。劇中にも小道具として出てくる同じチョコだが、包装紙の文字はHersheysではなく、Paradoxだった。
ラフカット2009

ラフカット2009

プラチナ・ペーパーズ

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2009/11/04 (水) ~ 2009/11/08 (日)公演終了

満足度★★★

知らない役者ばかり41名
久しぶりに見るラフカット。プラチナ・ペーパーズのホームページで過去公演の記録をちょっと覗いてみた。私が見たのは1995、1996、2000、2003年の4回。出演者の中には当時は全然知らなかったが、今なら知っているという名前がそこそこある。ハイバイの岩井秀人とヨーロッパ企画の土佐和成がG2の作品で共演していたり、ケラの作品に親族代表の竹井亮介が出ていたりする。もっとも竹井の場合は今も親族代表の公演でケラに脚本を書いてもらっている。私が見ていない回でも、あひるなんちゃらの黒岩三佳とかグリングの青木豪が役者で出ていたり。
どういうわけか私の場合、ラフカットの舞台で見た役者のことがほとんど記憶に残っていない。とくにスペースゼロのような大きな会場で座席が後方だったりすると、単純に役者の顔がよく見えないのだ。その意味では、東京芸術劇場の小ホールでやった1995年の第1回目は、舞台が近かったこともあり、印象に残った役者が二人いる。ラッパ屋の鈴木聡作品に出ていた佐藤奈美と堤泰之の一人芝居に出演したかないまりこ。残念ながら二人とも最近は消息を聞かない。

最初のころはケラやじんのひろあきも脚本を提供していて、当然ながら無名の役者よりは脚本家を目当てに出かけていた。
今回もひさしぶりに見る気になったのは、4本立てのうちの1本が青年団演出部の工藤千夏の作演出だったから。

ネタバレBOX

感想を上演順に。4本とも時間は30分ほど。

「職員会議」は作:G2、演出:堤泰之。
生徒の代表を交えて行う職員会議で、女子生徒が弁護士を連れて現われ、一人の男性教師をセクハラ容疑で追及しはじめる。教師が生徒によって追い詰められる話といえば、デビッド・マメットの「オレアナ」やリリアン・ヘルマンの「子供の時間」があるが、生徒の年齢はちょうど両者の中間あたり。時間が短いなりに話は楽しめた。男子生徒がやたらドモってしゃべるのが、緊張を表現する演技なのか、それとも本当にドモリの役なのかがわかりにくかった。私が子供のころはドモリというのはそれほど珍しくなかったが、最近はドモリというものにまったくお目にかからない。今は学校にドモリの子供がいたら、いじめにあうんじゃないだろうか。催眠術とかで簡単に治療ができるのだろうか。最近のドモリ事情というものがちょっと気になる。
芝居とは関係のない話になってしまった。

「真夜中の太陽」は原案・音楽:谷川浩子、作・演出:工藤千夏。
登場人物は82歳になる老女と、太平洋戦争時、女学校の生徒だった11名と女教師、それに同じく女学校で英語を教えていたアメリカ人の男性教師。この3組は同じ舞台に現われて会話も交わすのだが、実はそれぞれが生きている時間は異なっている。アメリカ人教師は戦争が始まった後、国外へ強制退去させられている。女学校の生徒と女教師は空襲で防空壕に避難した際、爆弾が運悪く防空壕に落ちて全員が死亡している。そして老女は同じ女学校の生徒だったが、一人逃げ遅れたために命拾いをして、戦後も60年あまり生きて平成21年のいま現在82歳になっている。

空襲のあった日、彼女らは歌の稽古をしていた。モンペ姿の若い女性に混じって、老女も同じように席についている。老女のとまどいをよそに、娘たちは彼女を自分達の一員として親しげに話しかけてくる。このあたりから劇中の虚実が揺らぎ始める。そこへアメリカ人教師も顔を出す。空襲の場面では、女学生たちが後方へ下がると、赤い照明がともって防空壕に爆弾が落ちる。必死に止めようとする老女、過去は変えられないと諭す男性教師。そのとき老女とアメリカ人教師のいる場所は、もはや戦時下の学校ではない。アメリカ人教師は国外退去のあと、老女が82歳を迎えた平成21年にはすでに故人になっている。現在も生きている老女が死者達と出会う場所、それは彼女の回想の世界なのだ。

彼女には自分だけが生き残ったことに対する後ろめたさがあった。しかしその回想とも幻想ともつかぬ場所に現われた昔の仲間たちは、彼女が長生きしたことをうらむどころかむしろ喜んでくれる。そして途中で何度か唄いかけて中断した歌がようやく最後まで唄われる。芝居は、いつものお気に入りの椅子に座って眠るように息を引き取った老女を孫が発見するところで終わる。

ファンタジーの名手が送る感動作品。ひねくれた中年のオッサンの心にもぐっと来る。「ビルマの竪琴」や「二十四の瞳」のように、音楽も効果的に使われている。ただ、若手の力試しというラフカットの主旨からすると、女学生たちは一まとめの集団という感じもあって、それぞれが個性豊かに、というところまではいっていなかったのはないか、とも思う。

「アンデスの混乱」は作:鴻上尚史、演出:堤泰之
飛行機の墜落事故現場を舞台にした生存者達のドラマ。「アンデスの奇蹟」と呼ばれた実話がモチーフになっているらしい。この日はちょっと疲れ気味で、そのピークがこの3本目に襲ってきたので、実はあまり内容を覚えていない。墜落事故から3日目、7日目というふうに、時間を飛ばしながら場面を区切って描いていたが、せいぜい30分ほどの芝居なのだからそんなに細かく分けなくてもいいじゃないかと思った。

「父を叩く」は作・演出ともに堤泰之。
これも感動を誘う作品といえるかもしれないが、公演を控えた役者の主人公が重病の父親を見舞うという設定は、ちょっとずるいというか反則ワザに近い気もする。ラフカットではたいがい堤泰之の脚本が一つ上演されるが、ささやかなエロを入れるのも特徴的だ。役者では長身でスタイルのいい安藤彩華が気になった。
H3(グルーポ・ヂ・フーア)

H3(グルーポ・ヂ・フーア)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/11/07 (土) ~ 2009/11/11 (水)公演終了

満足度★★★

疾走ストリート
ブラジルから来たヒップホップ系のダンスグループ。出演は男ばかり8名。ヒップホップ、ストリートダンス、ブレイクダンス、こういう言葉の定義もよくわかっていないうえに、実際にナマで見るのも映像で見るのに比べたらずっと少ない。なので、このグループのダンスがヒップホップの中でどういう位置を占めていて、どういうタイプに分類されるのか、そういったことはよくわからない。身体能力の高さ、迫力のある動きはそれだけで充分に楽しめる。

とりあえず見て感じたことを書いておくと、

もっと音楽に乗って踊るのかと思ったら、意外とそうでもなかった。序盤は舞台前方、最前列の客の目の前を横に移動する感じで1~3人が交互にパフォーマンス。バックには街の騒音がスピーカーからのどかな感じで響いていた。ダンサーたちは自分の体の中にあるリズムで動いていて、ノイズは動きを合わせるときのきっかけ程度という感じ。流動的なエネルギーが体の中をかけめぐっていて、その流れが体の動きになって現れているという、ヒップホップらしいダンス。それに加えて2人が絡み合うときの、互いに体の接触を寸止めしながら動いている感じは武術的でもあった。男たちのすばしっこくて喧嘩慣れした雰囲気は、この間「吾妻橋ダンスクロッシング」で初めて見たcontact Gonzoのようなガラの悪い不良っぽさも感じさせる。序盤のこのパフォーマンスを間近で味わうという意味では、座席は最前列がオススメ。

中盤からは後方の広いスペースが使われる。バスケットボールを投げ込みたくなるくらいのスピードでダンサーたちが走り回るところは、私のヒップホップのイメージにはなかったもの。頭の上下動が少ない摺り足で、ブーメランふうというか、U字を描いてかけだし、かけもどる。また、スクワットふうに腰をかがめた状態で、かなりのスピードで体を回転させながら弧を描くように移動するというのもあった。

上演時間は50分ほど。ヒップホップのダンス映像を見ると、あまり長い時間踊るというものは少ない。この作品では照明や美術や音楽で変化をつけたりして最後まで退屈することはなかったが、それでも序盤に比べると印象度は弱まってくる。途中で、首を前後に動かして鳥の動きを模していたのが唯一、コミカルな息抜きだった。

ときどきダンサーが上体をのけぞらせ、喉仏を空に向ける感じで何度も反り返っていた。あれは単に振りの一つなのか、それともああすることで呼吸が楽になったりするのか、そんなことも見ながら考えた。

あの人の世界

あの人の世界

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2009/11/06 (金) ~ 2009/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★

雨にぬれても
初日に観劇。どんな話が展開するのか予想のつかない抽象系の美術。あの人(松井周)の妄想世界を舞台化した作品、といっていいのではないでしょうか。

ネタバレBOXでは文字通り、かなりネタバレしているのでご注意ください。

ネタバレBOX

サンプルという劇団名が示すように、作者が描きたいと思う場面がばらばらに何個かあって、場面それぞれはそれほど緊密に繋がってなくて、それでも無理にストーリーをこしらえて繋げることはせず、ばらばらな各場面が舞台上で一つのまとまりを感じられるように工夫をこらして提示してある。そんな印象を受ける。
役者が台詞をしゃべっていれば、ドラマや物語世界が自然と浮かんでくるのが通常の芝居だと思うが、この作品では最後まで場所の設定がどうなっているのかが曖昧だった。特に上と下の世界の関係がよくわからない。
出だしの場面では上の世界の夫婦(古館寛治、石橋志保)が死んだペットの墓参りをしている。夫婦が犬の名を呼んだときに袖から登場する青年(田中佑弥)がいる。
最初はてっきりこの世とあの世という関係かと思った。下に広がる白い世界は火葬にふされたペットたちの遺灰ではないのかと。ところが終盤になると上の夫婦が犬になって下に降りてくるし、逆に下の住人の一人が入れ替わりで上に現われる。上下世界を行き来する人物としてはもう一人、出だしに登場した青年が運命の女性をさがして下の世界をさまよう。
場所の設定がよくわからないといっても、それは別に文句をいっているのではなく、場所設定を曖昧にすることで、ばらばらな場面の収まりがよくなっているのではないかと思うのだ。
上の世界では墓参りのあと、ペットを亡くしてからギクシャクしだした夫婦の関係がもっぱらテーブル越しに展開する。
一方、下の世界では、浮浪者とも動物ともつかない登場人物たちが劇団四季の「キャッツ」かなにかだろうか、動物モチーフのミュージカルを作ろうとしている。鬼コーチふうの一人(古屋隆太)と3人のメンバー(奥田洋平、渡辺香奈、善積元)の関係はこれまでの松井作品でもなんとなくなじみがある。鬼コーチ役は従来なら古館の担当だろうが、今回は上の夫婦を演じているので替わって古屋が担当したが、彼も充分に狂っている。ほかにも舞台装置の外周を自転車に乗って登場する若い娘(深谷由梨香)がこの集団に新人として入団する。
また、互いに首輪で繋がった嫁姑(山崎ルキノ、羽場睦子)が夫・息子を捜しながらさまよったりする。嫁は盲目のようで色つきの眼鏡をかけたまま。演じる山崎は結局最後まで目を観客から隠したままだった。この二人の関係にも盲導犬という動物モチーフが感じられる。
冒頭に登場した青年は、ビラ配りの男(芝博文)から顔写真をもらい、女を捜し始める。この不思議世界の案内役になってくれそうな気配もあったが、結局は彼もこの世界の一員にすぎず、混沌は増すばかり。やがてめぐり合った運命の女というのが実は自転車で現われた娘で、彼女が実は上の夫婦の亡くしたペットの犬でもあるらしい。

思いつく範囲で内容を書き出してみたが、ディテールはごっそりと抜け落ちている。とにもかくにも濃厚な、松井周の妄想劇場。誰にでもオススメというものではないが私は面白かった。

辻美奈子は映像のみの出演。作品の意図によるものか、それとも個人的なスケジュールや体調によるものなのか、その辺がちょっと気になる。

リフラブレイン

リフラブレイン

MCR

駅前劇場(東京都)

2009/10/29 (木) ~ 2009/11/03 (火)公演終了

満足度★★★

あねおとうと
ここでの評判がよさそうなので、ふらっと観劇。MCRの作品は前に一度だけ、新宿村という空き地のそばの会場で見たことがある。あのときはたしか小椋あずきと劇団あひるなんちゃらの黒岩三佳が出ていた。今回も印象としてはあのときとそれほど変わらない。
作・演出・出演をこなす主宰の櫻井智也の才気が突出している。その意味では、劇団FICTIONの山下澄人に似ている。どちらも主宰が役者としても目立っていて、ワンマン色の濃い劇団だと思う。

ネタバレBOX

客席を二手に分けて、その中間が舞台になっていたが、こういう形を駅前劇場で見たのはたぶん初めてだ。
ただ、演技スペースはかなり細長くなっているので、役者は横向きで演じることが多く、客席を向くことは比較的少なかったように思う。
場内の壁に貼ってある座席の列の表示がA、C、D、Eとなっていて、B列が抜けていたのが謎だった。

話の内容は両親に見捨てられた姉と弟の貧乏物語。ちょっと前に話題になった田村裕の「ホームレス中学生」を彷彿とさせる設定だった。あちらの主人公には姉と兄がいたが、こちらにはたくましい姉が登場する。演じる石澤美和は弟役の櫻井に引けを取らない堂々たる演技だった。

人情劇というドラマの部分に対して、笑いの部分はかなりコントっぽかった。中川智明の演じる借金取りがやたらと人生哲学めいた台詞を吐くところでは、作者のナマの声が聞こえてくるようで、キャラクター的にはあまりリアリティが感じられなかった。

この間、あひるなんちゃらの芝居に出ていた江見昭嘉は、ヨーロッパ企画の土佐和成に似た飄々とした雰囲気がある。


ジゼル

ジゼル

ティアラこうとう

ティアラこうとう 大ホール(東京都)

2009/10/31 (土) ~ 2009/10/31 (土)公演終了

ジゼル again
飽きもせず、今月二度目の「ジゼル」。演じるのはロシアのバレエ団、国立サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ。
ロシアにバレエ団がいくつあるのか知らないが、有名どころはボリショイとマリインスキーとレニングラード国立の3つだろう。ほかにもキエフやグルジアという名前を聞いたことがあるが、これは今ではロシアとは別の国だ。
日本にもたくさんのバレエ団があることを考えると、ロシアにだって同じくらいの数のバレエ団があっても不思議ではないのかもしれない。
今回のバレエ団は1966年創立という比較的新しいカンパニー。チケット代も他のバレエ団の半分か三分の一くらい。それでも2000年を皮切りにこれが5回目の来日公演になる。「ジゼル」と「くるみ割り人形」という二つの演目で約1ヶ月間、全国20箇所ほどを回る。

ストーリーはだいたい同じだし、満足度という点ではこの間の谷桃子バレエ団のほうが上だった。会場の舞台が狭いこともあるのだろうが、後半に登場する白い霊の数は17名で、谷桃子バレエ団の21名よりもさらに少なかった。

農民の女性たちの衣裳がレース地を重ねた赤や黄や橙色で、まったく農民らしくなかったとか、ジゼルはあんなに赤い口紅をしていただろうかとか、細かいところで感じる違和感を一種のツッコミどころとして楽しみつつ、予定調和な物語世界に浸るバレエはやはり保守的な娯楽だといわざるをえない。

そういいつつも、来年3月にはまた3回ほどジゼルを見る予定。

闇の光

闇の光

学習院女子大学 舞台芸術部

学習院女子大学 やわらぎホール(東京都)

2009/10/31 (土) ~ 2009/11/01 (日)公演終了

不本意な観劇
学習院女子大学が学園祭の時期に、「感劇市場」と銘打って行っている演劇祭。知ったのは一昨年で、その後2、3度来たことがある。今年はあまり食指の動く演目がないので、見るのはこの日の公演だけ。
ブレヒトの作品を劇団柿喰う客の中屋敷法仁が演出するというのに興味を持って出かけたのだが、ブレヒト作品の異化効果よりも、薄暗い照明による催眠効果にやられてしまうという体たらくだった。

黒装束の若い女性が7名、くノ一忍者軍団と呼びたくなるいでたちで登場。演じるのは大学の舞台芸術部の学生たち。明かりの消えた暗い舞台に、変化するスポット照明が当たる中で、出ずっぱりの7人がダンスめいた動きとコーラスめいた台詞回しで、ブレヒトの初期短編戯曲「闇の光」を演じ語るというもの。

上演時間は40分ほど。売春と性病を当時の社会問題として取り上げたような内容だったと思うが、なにしろ途中で意識が遠のいてしまったのでその辺は責任がもてない。
ブレヒトの作品については「異化効果」ということがよくいわれるが、この言葉の意味が未だによくわからず、できればこの芝居でそのヒントでも得られればと思っていたのだが、残念ながらそれもかなわなかった。








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