カリギュラ
ホリプロ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2019/11/09 (土) ~ 2019/11/24 (日)公演終了
満足度★★★★
とにかく重厚というか、先鋭というか、難しい芝居だった。カミュの戯曲がとてつもなく難しいらしい。カリギュラの難役に菅田将暉が、良くくらいついていたと思う。一幕は白い衣裳で、暴君にしては線の細い、少年っぽさがあったが、二幕になると深紅の分厚いマントをまとって、重々しい、冷酷な暴君を感じさせた。
愛妾役の秋山奈津子がすばらしかった。愛と支配と服従と、どこかすべてを悟ったようなあきらめと。どこがどうすごいのか、表現しにくいのだが、とにかく舞台の上で生きているとは、ああいうのを言うのだろう。それと谷田歩もよかった。
ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2019/11/07 (木) ~ 2019/11/24 (日)公演終了
満足度★★★
多部未華子の可憐さと少しの影と、渡辺いっけいと大倉孝二のコミカルな笑いと、緒川たまきのシュールさがよかった。それらが相まって、カフカ的というより、カフカをネタにしたケラ的世界をうまく立ち上げていた。
冒頭の、列車で旅するシーンは、長塚演出の「イーハトーボの劇列車」を思い起こしたが、もちろん演出はちがいが多い。でも椅子や人間の配置で列車内をつくるというと、似てくるのは当然。
この始まりは、実はカフカの残した第4の長編の冒頭シーンで、この新発見の遺稿をめぐるドタバタを渡辺と大倉が演じていくことになる。多部と緒方は、カフカの物語の中の人。それがいつしか入交、みんなが出会って、カフカ本人も登場するわけだが、ここら辺の複雑な展開を、面白く、わかりやすく、たっぷりと魅せるのはさすがケラである。得意のプロジェクション・マッピングと、群衆のステージングもうまい。
ただ、最後に盛り上がりに欠けるのが残念なところ。つまり、最後の最大落差が、今一つ大きくならなかった。そのせいで、なんとなく物足りなさが残る。芝居は観終わっての感想なので、ラストの出来が3割ぐらいを占めてしまう。
あと、師団長夫人の家の話は必要かどうか。ただでさえ長いので、そこは刈り込んでもよかったのではないか。
休憩込み3時間半。大作である。
ドン・パスクワーレ[新制作]
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/11/09 (土) ~ 2019/11/17 (日)公演終了
満足度★★★★
物語はよく覚えていないが、とにかく歌手の声が華やかで、伸びがあって、良く響いていた。バスもバリトンもソプラノも。こうなるとテノールは少々分が悪い。メインのキャスト4人の中では一番目立たなかった。
二重唱、三重唱、四重唱が多く、いずれも圧巻だった。
新版 オグリ【京都 3月全公演中止】
松竹
博多座(福岡県)
2020/02/04 (火) ~ 2020/02/25 (火)公演終了
満足度★★★★★
難しいことは考えず、派手な衣装、仕掛け、大立ち回有りを楽しくみればよい芝居。実際、楽しかった。
最初、花嫁行列を小栗東一三が襲って、花嫁を奪うわけだが、その中に小栗判官がいるのかと思ってみても、今一つ抜きんでた役者がいなくて、あれかななどと思うと、これは大きな勘違いで、主役は後から、十分じらせたうえで、たっぷりのオーラをしょって出てくる。ここら辺、歌舞伎のけれんみはさすがである。
一幕、暴れ馬を乗りこなす、立ち回り。二幕、地獄で大暴れする大乱闘、特に水をたっぷり使った血の池・噴水の仕掛け、三幕の岩登り、ラストの宙乗りと、どの幕も見せ場でしっかり楽しませてくれた。
ただ三幕は体のとける病になった小栗の試練の旅なので、ここは哲学的に、苦悩と悲哀を見せるところ。1・2幕の歓喜と立ち回りと、三幕の苦悩の対比があって、作品として深みが増す。ただ、その点、あくまで「お話」なものだから、三幕の悲哀と苦しみがもう一つ切実さが感じられなかった。そこは世話物との違いか。
閻魔大王他、何役もやった浅野和之がコミカルないい味を出していて、圧巻だった。彼の存在感があったればこその、「小栗判官」物語だとわかる
終わりのない
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/10/29 (火) ~ 2019/11/17 (日)公演終了
満足度★★★★
おもしろかった。冒頭、ひとが宙づりになって、溺れているような場面から始まる。METの「ラインの黄金」で、やはり舞台の空中をラインの精たちが泳ぐかのような、ワイヤーを使った演出があったが、それを思い出した。意表を突く幕開きだ。その意味も後でわかる。
主人公は、夏の家族キャンプから、突然未来の宇宙船の中にとんでしまう。その場面の驚きと、ありそうだと感じさせるリアリティーの醸成はすばらしい。さらに異なる星、異なる時空へと飛びながら、この出来事の謎が次第に分かっていく。そこは説明なのだが、必要なことだし、物理学者の母親が息子に教える形なので、違和感はない。
砂の惑星にとんでしまうシーンはなんか変な感じがしたが、全体としては、とんでもない大ウソを、平然とリアルに演じる前川マジックが結晶した、見事な舞台だった。
また、気候変動への危機感も織り込んでいる。私は、設定の一つと思ったが、一緒に見た友人は、この現代の課題に真正面から取り組む姿勢に「前川氏、おそるべし」と感動していた。
レタスとわたしの秘密の時間
劇団やりたかった
参宮橋TRANCE MISSION(東京都)
2019/11/13 (水) ~ 2019/11/25 (月)公演終了
満足度★★★
初見の劇団。団長の女優さんが、新宿のヨドバシカメラ前で一人で大道芸をしながら劇の宣伝をしているのにほだされて見に行った。
新人店長のバカぶりが少々わざとらしかったり、途中、レタスたちや、お惣菜たちが語り、踊るシーンがあったり、かなりトンダ舞台作り。そこについていけるかどうか。レタスのシーンは、非現実的でくるったバカ話と見せて、「パリっ」としてるかどうかだけの違いで、高級食料店から場末のコンビニまで、無慈悲に選別される悲哀、不平等の理不尽を感じさせて、うまかった。90分
ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」
TBS
IHIステージアラウンド東京(東京都)
2019/08/19 (月) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
最初案内を見たときは馬鹿にしていたが、絶賛口コミを見てチケット入手。かみさんと見た。素晴らしい、の一言に尽きる。さすが歴史に残る名作中の名作。7,8年前前、某有名演劇評家とお近づきになり、「最近のブロードウエイでは何がいいですか?」と聞いたら、「なかなか『ウエスト・サイド・ストーリー』のような画期的な作品がないんだよね」と話していた。その時は、やけに古い作品を持ち出して比較するなと思ったが、実物を見てみると、そう言いたくなる気持ちがよくわかった。
歌も主役の二人はもちろん、アニータがメインの「アメリカ」など、非常にうまい。マリア役のソニア・バルサラの透明な伸びのある高音はさすがである。トニー役のトレヴァー・ジェームス・バーガーもテノール的声質で甘く力強かった。さすがクラシック界のスター、バーンスタインの作曲だけあって、オペラ的な要素があると感じた。
その他の場面も一つ一つ、本当に素晴らしい。特に前半は集団的なダンス場面がつづき、ダイナミックでスマートなシーンの連続で、見せ場に次ぐ見せ場という感じ。後半は「サムホエア」が何もない舞台で幻想的かつ叙情的でよかった。
ダンスもセット美術も、映像を使った演出も、歌詞も、全て素晴らしいが、なによりバーンスタインの音楽があればこそだろう。ジャズやバルトーク的な前衛味も取り入れた、斬新でポピュラーな音楽。バックで生演奏していたが、トランペット中心にした金管の響きとパーカッションのリズムが大変良かった。とにかく、書いても書いてもいいところは尽きない。抜きん出た傑作である。若いキャストもよかった。
終夜
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2019/09/29 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★
予定上演時間4時間半とチラシにあるのを見て、敬遠していたが、クチコミが絶賛しているので観劇。上演時間も3時間50分(休憩2回込み)まで刈り込んだということなので敷居が大分下がった(10月20日の公演は3時間40分と張り紙してあり、実際そのとおりだった)。疎遠な兄(医師=岡村健一)と弟(建築エンジニア=斉藤直樹)の、ふた組の中年夫婦の、緻密な会話劇。かなりエキセントリックな人格攻撃(とくに兄の二度目の妻から=栗田桃子)もあるし、露骨なセックスの要求もあるなど、普段は表に出ない心の闇を描いていた。
俳優は、不倫で自分を取り戻した弟の妻(那須佐代子)ふくめ熱演、好演で、ひきつけられた。とくに岡本健一の安定した存在感が、泣き、怒り、喚く感情の振幅の激しいこの芝居全体をしっかり下支えしている。会話劇だが、俳優の所作がオーバーなくらいに大きく弾ける場面があり、単調にならずにいた。客席も笑ったり、どよめいたり、結構反応があった。
ただ、やはり長い。前半1時間半は夫婦の会話も手探りで、見ている方も手探りで特に疲れた。最近、ベルイマンの「リハーサルの後に」も見て、北欧の戦後演劇は、男女の心理を緻密に解剖するのに長けている気がする。ストリンドベリ以来の伝統だろうか。それはそれでいいのだが、かつてのイプセンに代表される社会批判が失われてしまっている。小林多喜二がデビュー前に「思想的に最も感動した」という、ボーヤーの小説「現代人の悩み」の正義と挫折への深い洞察はどこへ行ってしまったのか。そこが、この長い芝居の最大の不満だった。
『Q:A Night At The Kabuki』inspired by A Night At The Opera
NODA・MAP
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2019/10/08 (火) ~ 2019/10/15 (火)公演終了
満足度★★★★
「ロミオとジュリエット」を源平合戦の中に置き換えた物語。クイーンの曲は「ボヘミアン・ラプソディ」のアルバム全曲使用だそうだが、意外にも解体して部分部分を使っていた。音楽より、物語を優先している。こんなことをして許されるのは野田秀樹へのクイーンの信頼があればこそだろう。そのなかでは「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」が主題曲と言える。
若さがまぶしい二人、広瀬すず(まぶしすぎて見とれてしまう)と志尊淳のロミオとジュリエットを、松たか子と上川隆也の「それから」のロミ・ジュリが支える。「それから」の二人がさすがの貫禄で、芝居を支えている。また二役を4人でやることで、様々なふくらみ、変化、二重化が起きて、それがこの舞台の一番の仕掛けだと思う。野田秀樹得意の、白い大きな布をふんわり、ベッドにかぶせ変えるごとに、若いロミジュリが「それから」の二人に代わり、また元に戻る場面など印象的だった。
前半は「夢の遊民社」流の走り回り騒ぎ回る、とっ散らかった舞台である。まるで幼稚園のお遊戯ではないかと、これがどうなるんだろうかと思っていると、後半、ググっとシリアスなテーマが浮かび上がる。それは「パンドラの鐘」以来の野田秀樹の絶妙な作劇術であった。そろそろ飽きてくるという人もいるかもしれないが、同じ「シリアスなテーマの浮上」でも、毎回違った趣向がある。「逆鱗」はアナグラムであったが、今回の趣向を何と言ったらいいのか。象徴劇というところか。
「Q」は野田芝居の中でも象徴性が高い。「俊寛」などの本歌とり、見立て、二重化が様々にしくまれている。シェークスピアへの批評があり、観客の欲望への批判がある、演劇についての演劇でもある。見終わった直後よりも、あとで思い返しては、人生と運命をあれこれ考える。そんな質の感銘がある。
パパ、I LOVE YOU!
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2019/10/11 (金) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
昨年の同じ加藤健一事務所公演「Out of Orderいかれてるぜ」が爆笑コメディであったように、今回は、さらに上をいく超爆笑コメディ。同じレイ・クーニー作。笑った。笑った。大満足であった。軽妙な洒落が多いのだが、小田島雄志・恒志の父子の翻訳が、実にこなれていて、翻訳劇だと思えないほど「死語到着」の死んだはずの女性が出て来て、「仕事横着」なんかしてないわよ、と叫んだり。この工夫に脱帽。
しかもクーニーさん、「これって同工異曲では?」というくらい、「Out of Order」とこの作の骨格・シチュエーションが似ている。地位のある男と、その不倫相手、妻。しりぬぐいをさせられる男、看護師、窓を使ったドタバタギャグなどなど。似ていても、これだけ笑えるのだから許そうという気になる。作者が舞台の奥から「わかるでしょ」とファンの客にウインクしているような気がした。それくらいのファンサービス。
俳優はみな、観客を笑わすツボを心得ており、見事見事の一言。車いすの老人患者を投げ飛ばすのは驚いたが、うるさい老人をそうしたくなる気持ちもわかるし、丸くなって転がる老人役(石坂史朗=実は若い)の所作が面白くて、嫌味はない。私は何度も笑ってしまった。
組曲虐殺
こまつ座 / ホリプロ
天王洲 銀河劇場(東京都)
2019/10/06 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
井上ひさしの遺作となった小林多喜二の評伝劇。再再演で私も3度目に見る舞台だが、今まで以上に、小曾根真の音楽に惹きつけられた。歌の伴奏だけでなく、特高に追われるところなど、ピアノだけで緊迫感や悲しみを語るところもあって、今まで気づかなかった「組曲」の意味を再認識した。
戯曲も実は、モチーフの繰り返しが仕込まれていて、音楽的である。「胸の映写機」は2場の大阪での警察の取調室で提示され、8場の多喜二(井上芳雄)の最後の場面で豊かに展開される。「月」は3場の立野信之の家と4場の独房で繰り返され、「靴底の歌」も3場のあと、7場の地下生活で再想起される。二人の特攻警官(山本龍二、土屋佑壱)の貧しい生い立ちも、2場、5場、8場と変奏され、徐々に全体像が分かる。これなどは最後に種明かしする「闇に咲く花」などの作劇術とは違い、音楽的といえるだろう。
1場の小樽の三ツ星パン屋の歌も、伯父のもとで多喜二が働いたこのパン屋が、多喜二に貧しさと苦労を教えて「ホンモノの作家を焼き上げる」から「日本で一番のパン屋さん」と歌っているのも、改めて気づかされた。
7場の地下生活のアジトでは、多喜二に苦界から救われた田口タキ(上白石萌音)が「小林多喜二くん」と呼んで、キイワード「絶望するな」と言う。タキは恋人のはずなのに、普段は「多喜二兄さん」としか呼べず、精一杯「さん」づけにしようとしている。なのに、ここでは「くんづけ」である。「くん」と呼ぶのはここだけなのである。二人の関係性自体がここでは特別であり、だから、「絶望するな」と言えるのである。
噛めば噛むほど味が出る戯曲である。
エウゲニ・オネーギン
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2019/10/01 (火) ~ 2019/10/12 (土)公演終了
満足度★★★★
同じオペラを何度も見ていると、毎回発見がある。音楽的には1幕の序奏冒頭の下降旋律のモチーフが、タチヤーナ「手紙の歌」にしろ、レンスキーのアリアにしろ、旋律の大元になって、全体のトーンを統一している。こうしたメロディーの使い方は、豊かで美しい旋律家のチャイコフスキーの真骨頂。
物語的に今回は、2幕でレンスキーをからかったオネーギンのニヒルさ、冷たさが印象的だった。レンスキーの短気より、しつこく嫌がらせして決闘に追い込んだオネーギンの責任を感じさせた。最後第3幕の、タチヤーナのオネーギンとの別れの歌の切実さも以前よりよくわかった。前は「愛しています」といいながら、道徳に縛られて決断できないでいるだけのようだったが、今回みて、やはり取り戻せない過去があるという人生の不可逆性、辛さを感じた。毅然として人生を歩むタチヤーナの決断に対し、余計者オネーギンの甘えと優柔不断の対比があった。
最貧前線 『宮崎駿の雑想ノート』より
水戸芸術館ACM劇場
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/10/05 (土) ~ 2019/10/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
傑作、素晴らしかった。宮崎駿の原作ということで、どう舞台化するのか多少心配だったが、期待と不安を圧倒的に乗り越える舞台だった。脚本、美術、俳優、振り付け、ステージング、映像、音響と七位一体、八位一体。まさに総合芸術としての演劇が、映画にも負けない生命力のあることを示したと言える。とくに漁船の艦橋、甲板、船室を、舞台上の3階たてのやぐらに組み、船首と船尾の二つの組み合わせで、様々な動きをつけた美術の成功がこの舞台の肝だった。相当重いはずなのだが、スムーズに動かした工夫と黒子に拍手。俳優は皆好演。
ラヴズ・レイバーズ・ロスト ―恋の骨折り損―
東宝
シアタークリエ(東京都)
2019/10/01 (火) ~ 2019/10/25 (金)公演終了
満足度★★★
とびきりの人気俳優はいないが、そこそこの若手アイドルが男女合わせて10人も出る賑やかなミュージカル。シェークスピア作品の中では最も上演される機会の少ない(人気のない)戯曲をどうアレンジするかと楽しみに見た。王たち男4人の女絶ちの誓いと、4人の美女の来訪の始まりからロックな歌で聴かせる。
変人アーマードーの酒場女ジャケネッタへの下卑た恋、道化に託したラブレターの誤配、誓いを破った男たちの滑稽な姿、仮面舞踏会では女たちにからかわれ、最後、1年後の愛を誓うラストまで。脇筋の学者連もからませつつ、ストーリーはそのまま。しかし、セリフは大きく端折って、エッセンスで組み立てている。男たちのラブレターや、ビローンの愛の賛歌などの重要な場面は歌に。これがよかった。王女の悪ふざけをいさめるロザラインの愛の歌は原作にはない創作。これが一番しんみり聞かせた。
冗長なしばいを、若者も楽しめる現代のエンターテインメントに上手く脚色したと思う。それにしても見所は俳優・女優の若さそのもの。客席も大いに笑っていたが、俳優たちのおどけた所作や派手なアクションへの反応で、シェークスピアらしい皮肉や機知への反応は少なかった。「俺のアナコンダをあのアナへ入れたい」など、卑猥な歌もご愛嬌というべきだろう。
ただし、4組(五組)の男女の出会い(恋の始まり)のところが聞きづらかったし、段取り化して早すぎて印象が弱い。男たちが女たちに(あるいはその逆)一目惚れする場面をもう少しじっくり聞かせてくれれば、舞台に深みが増したと思う。シェークスピアの原作は、恋を前提にしているが、現代ではどうやって恋におちるかこそが大事なので。休憩無し1時間50分
三億円事件
ウォーキング・スタッフ
シアター711(東京都)
2019/10/12 (土) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★
二年前の読売大賞優秀作。期待してみたが、今ひとつ不完全燃焼だった。前回を見ていないのだが、再演は難しいというジンクスにはまっているかもしれない。たった8人の尻拭い捜査本部での、所轄派と本庁派の確執、互いの好き嫌い、捜査方針の食い違い、手柄を巡って虚々実々の駆け引きなど、非常に緻密な舞台。ただ、細かい話が多すぎて、描かれる事件の大きな構図が、霧の向こうから十分にはリアルに感じられなかった。
しかし、題材は泣く子も黙る三億円事件。このネタを形にしただけで、2時間の体験としてなかなか面白かった。
ひとり立ち
サンライズプロモーション東京
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/09/23 (月) ~ 2019/09/26 (木)公演終了
満足度★★★★★
おもしろかった。構成は①安倍政権、小泉進次郎、現代の時事ネタから始まって、②憲法に男女同権を書き込んだベアテ・シロタ・ゴードンの奮闘、③パントマイムから始まった松元自身の芸歴(8月に亡くなった恩人へのオマージュにもなっている)④映画ネタ。今回は「えんとこの歌」寝たきり歌人の感動的な人生⑤最後のアンコール。
ギャグ満載、要所要所に山をつくって、ぎゅっと感動させる。
終焉後にロビーに出たら、埼玉の共産党の参議院議員伊藤岳さんが、10数人連れで来ていた。それで思いついたが、後援会やサポーター企画としてもピッタリではないか。笑って泣いて、反安倍の怒りと活力がわく。おすすめします。
FACTORY GIRLS ~私が描く物語~
アミューズ
赤坂ACTシアター(東京都)
2019/09/25 (水) ~ 2019/10/09 (水)公演終了
満足度★★★★
よかった。労働問題と女性の自立・自由を訴える社会派にして、歌と華のある女優たちが織り成すエンターテインメント。一緒に見た友人は、最近見た中で一番の舞台にあげていた。アメリカ版「ああ野麦峠」である。
アメリカの大学プロジェクトがきっかけの若いクリエイターの習作を、日本チームで修正完成させて世界初演したというから、非常に珍しい出自で、歴史的意義のある公演でもある。
女性活動家リーダーの柚希礼音と、悩める知性派のソニン、若さとかわいらしさで際立つ石田にニコルと、有名どころが並ぶ。いまが旬の女優を眺めているだけでもうっとり。初めて見たが、太めの谷口ゆうなの歌がすごくうまかった。
社会派と言っても、現代に訴えるのは、単なる労働者の権利向上運動でなく、「女性」の問題に絞っているからだろう。低賃金、下積み労働、社会的地位の低さ、男性の下働き扱い、発言権の弱さ、家事育児の負担、性と愛等々、男性社会の中で女性が持つ問題は変わらないものが多すぎる。
男性として胸が痛い。
もう一人のヒト
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/09/14 (土) ~ 2019/09/22 (日)公演終了
満足度★★★★
戦争末期、特製防空壕の中でシャンパンを飲みながら敗戦後の保身を考える皇族と、下町の靴職人一家。対照的ともいえる二つの場が、靴職人が南朝の血をひく「正統な皇位継承者」ではないかということから、結び付き、笑いと悲喜劇をまきおこす。中心は皇族将校(葛西和雄)と人騒がせな南朝信奉将校(吉村直)、靴職人(島本真治)と妻(藤木久美子)で、ユーモアと生活感のある演技でよかった。
劇の骨格は以上の通りだが、飯沢匡の面白いところは、この周囲の脇役が彩り豊かで、劇にリアリティーを与えているところ。宮様を頼ってくる、元芸者、世間知らずの皇族の子供たち。あるいは、下町の隣組会長、小学校の教頭。「戦争は負ける」と公言する靴職人を最初は非国民呼ばわりし、ふんぞり返っていたが、「南朝の子孫?」という噂が聞こえてきて、当惑しつつ卑屈にふるまう面白さはたまらない。
劇団だからこそできる総勢23人の出演者による総力戦だった。休憩15分を挟む3時間5分。始まったのが19時なので、終わると22時過ぎと、かなりハードだが、見ている間は笑えてドキドキして退屈しない。それだけの時間をかける値打ちのある舞台だった。
渦が森団地の眠れない子たち
ホリプロ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2019/10/04 (金) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
親子や夫婦のヒリヒリした感情を描いてピカイチの蓬莱竜太が、今回は団地の餓鬼大将を描いた。これがなかなか良くできていて、「ヒリヒリの子供版」というほど切ない舞台になった。仲間に「キング」とよばせる乱暴者の鉄志(藤原竜也)が、実は家では母に従順で泣いて詫びる。鉄志といとこの圭一郎(鈴木亮平)は、善人に見られようとしているが、実は心に闇を抱えてそれを隠している。その二人を第三者的につねに見ている圭一郎の妹(青山美郷)が明るくおてんばで気持ちいい。
木場勝己は脇役ながら、引っ張りだこで、他に俳優がいないのかというくらい。今回も渋く決めていた。奥貫薫も暗い陰をもった双子の姉妹(圭一郎と鉄志の母)を一人二役で、自然に演じていて舞台を引き締めていた。
開幕後、2場の圭一郎兄妹と鉄志の出会う場面は、笑い転げてしまった。自転車で街に買い物に行く場面は「ビューティフル・ワールド」でも舞台上で自転車をこぐ演出があたが、今回もうまい。鉄志の自転車「いなずまサンダー」号は、彼のええカッコしいの強情っぱりを視覚化していて、ぴったりだった。
ラスト近くの妹のセリフ、そして、最後に鉄志の、ここぞという心の重みがかかったセリフが最高だった。背景に3.11を思わせる地震があって、物語を動かす大きな影を落としているのも、観客を考えさせる。時々余震も起きる。戯曲の本で読みたい作品である。
治天ノ君
劇団チョコレートケーキ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/10/03 (木) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★
「維新の名君」明治大帝と、15年戦争に突っ込んで敗戦を迎えた昭和天皇。その間に挟まれて目立たない大正天皇の評伝劇。脳病で何もできずに死んだと思われていた大正天皇が、実は平和な時代の舵取りを目指した開明派だったのではないかという、ユニークな視点で描いている。ぎゃくに、明治天皇と昭和天皇は権威主義的な強権統治を目指したと、昭和天皇への批判になっている。
舞台は、真っ赤な玉座ひとつに、客席から玉座まで通じるレッドカーペットだけ。あとは黒一色の空間で、天皇家の人々、有栖川宮(若い大正天皇の後見役)、牧野伸顕内大臣、原敬、大隈重信、侍従武官が、大正天皇の整然と、死後の回想を頻繁に往復しながら、「天皇の宿命(さだめ)」の前に敗れた大正天皇の悲劇を描く。
どこからフィクションかはわからないが、大正天皇が明治帝や昭和天皇とは違う、気さくで格式張らない「天皇らしくない天皇」というのは、案外史実ではないかと思う。
祖父の意げなる天皇像に憧れて、「栄光の明治」を取り戻そうとする昭和天皇裕仁を見ながら、祖父・岸信介を尊敬する安倍晋三とダブった。一緒に見た友人も同じことを感じたと言っていた。安倍晋太郎は改憲など考えそうもない保守穏健派で早死したので、安倍三代は奇しくも三代の天皇にぴったりあてはまる。
大正天皇の妻の節子(さだこ)に松本紀保。2月に流山児事務所の「雨の夏、三十人のジュリエットが帰ってきた」で元スター役で出ていたが、同じ人とは思えなかった。「ジュリエット」では過去に閉じこもって生きる孤独な元スターのうらぶれ感が漂っていたが、今回は、凛として気品と気迫のある演技。エメラルド色のサテン(?)のドレスも格調高く着こなして、素晴らしかった。