ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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わいわい新型レ◯サス試乗会in四条河原町

わいわい新型レ◯サス試乗会in四条河原町

劇団武蔵野ハンバーグ

OFF OFFシアター(東京都)

2022/11/25 (金) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

AVでオナニー中の中学生が洗濯物を干しに来た母親と出くわしてパニック。母親も動揺して一旦退室し、何事もなかったかのようにやり直す。「何も見なかったわ、洗濯物しか見ていないもの。」と母親。「いや、そんな筈ないだろう!」と息子。そんな展開が延々と続くコント風味のスラップスティック。
(多分)主人公の中学生役は栗茂重至氏、アンガールズ田中似。
母親役は古本美優さん、丁寧で好印象。
父親役の松下世界館氏はずば抜けてプロフェッショナル、見事。ある意味主人公。
本筋には要らぬキャラの並木飛暁(たかあき)氏のルックスが物を言う。この死んだ目が今作には必須。
主宰の高橋一八(高橋左右両打席)氏にリスペクト。自信を持って頂きたい。作品は完成している。あとは笑いのガイドラインの確立。

ネタバレBOX

何か面白いことをずっとやっているのだが笑うには至らないもどかしさ。一人、別の世界線のキャラを出した方が笑いやすいかも。笑いは安心であり、共感でもある。
笑いにオリジナリティーが足りない。TVで面白かったネタを集めて被せている感じ。勿論それはそれで悪くないのだが、観客が求めているものとは違ったのだろう。こんな所に集う奴等は、誰も未だ観たことがない“今”眼前で誕生した“何か”に飢えているフリーク。面白いんだか面白くないんだかさっぱり解らない“何か”に。
遥かな町へ

遥かな町へ

文化庁・日本劇団協議会

シアターX(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

思わぬ傑作。原作も読みたいと思った。
小津安二郎『父ありき』や成瀬巳喜男の『晩菊』を想起。驚く程に人の心の深奥部まで到達している。
浦沢直樹の大傑作『プルートゥ PLUTO』をベルギー人のシディ・ラルビ・シェルカウイが演出したものを昔観たが、作品の魅力をこそぎ落としたような舞台化。アートがやりたいのなら、オリジナルでやってくれ。原作の魅力はこんな安っぽいもんじゃない。日本漫画の外人アート化への危惧。今作もそんな偏見で凝り固まった嫌な目線で臨んだ。

床に広げた巨大な白いシーツが人力で吊り上げられていく冒頭。時間の表現をそのシーツの揺蕩いで顕在化。上手にはギターやコントラバスや笛などの楽器、代わる代わる役者によって生演奏。車椅子を手に持った輪っか一つで表現したり、コロスのように一つの役を大人数で表したり、練りに練った工夫が随所に散りばめられている。
主人公役の近童弐吉氏は学生服を着込み、そのまんまで中学生を演じてみせる。ニカッと溢れる笑みが痛快。
主人公の妹と体育教師役の吉越千帆さんが可愛くて目立った。
主人公の悪友役の松崎将司氏も大柄で魅力的。
主人公の父親役、猪俣三四郎氏のミシンをかける佇まい。
学校のマドンナ役の藤井千咲子さんは村上龍の『69』を思い出した。

1998年4月9日、48歳の主人公(近童弐吉氏)は酒に酔って意識を失う。気付くと時は1963年4月7日、自分は14歳の姿に。訳も解らぬまま中学二年の生活を送る羽目に。人生二周目チートで無双、異世界転生モノ乗りの学校生活。そこで大切なことを思い出す。この年の夏休みの終わり、8月31日に父親が謎の失踪を遂げることを。何故、優しかった父は家族全員を捨てて去ったのか?果たしてその過去を変えることは出来るのか?

ネタバレBOX

父親の失踪の謎が物語の構造として効いている。その理由が本当に実存的なもので驚いた。出発のホーム、父親が息子に自らの本音を滔々と語るのだが、嘘偽りがない。取ってつけたような理由ではない為腑に落ちる。全てを語った方が良いのか、別の形で表した方が良かったのかは演出家の好みだろう。ラスト、現在に帰ってきた主人公と杖を突き老いさらばえたかつての父がすれ違う余韻。
ベンガルの虎

ベンガルの虎

流山児★事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/11/28 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

山丸莉菜さんのファンの方は絶対に観た方が良い。素晴らしかった。

『ベンガルの虎』自体は新宿梁山泊の花園神社公演で観た。面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らない、いつもの唐十郎節。今回全く期待なしで観たのだがかなり面白かった。こんなアレンジが案外正解なのかも知れない。おっさんの適当な与太話を聴き流しながら、何か妙にぐっと来るフレーズにハッとする、そんな芝居。訳の判らない因果律、時空の捩れた世界線、言葉と情熱だけが激しい風雨にさらされながらも凛然と屹立す。
大小様々な行李がキーパーツ。大量の車券、大量の朝顔の鉢、大量のはんこ。

永遠のヒロイン、カンナ役は山丸莉奈さん。八木亜希子似。
井村タカオ氏はミシンのセールスマン、競輪場の予想屋、カメラマンと大活躍。幕間のダンスは必見。かなり場をさらってみせた。
産婆のお市役神原弘之氏はお歯黒が強烈。
ハンコ屋俗物博士に村岡伊平治役は伊藤俊彦氏。
水島役は山下直哉氏。
流しの銀次役は祁答院雄貴(けどういんゆうき)氏。
カンナの母、マキノ役は中原和宏氏。これも鮮烈なヴィジュアルを焼き付ける。

各々背負わされたカルマで取っ組み合うようなメルヘン。

名探偵とクリスマス・キャロル

名探偵とクリスマス・キャロル

Dowland & Company

北とぴあ つつじホール(東京都)

2022/11/23 (水) ~ 2022/11/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ロンドンのトリニティ音楽大学修了のメゾソプラノ歌手・波多野睦美さんが企画構成。ヴァイオリンの小玉安奈さん、バンドネオンの北村聡氏、ギターの鈴木大介氏の錚々たる面々。第一部は波多野さんの大好きな探偵物のドラマ音楽から選曲。曲のアレンジが見事で、観衆を魅了するヴァイオリンの美しさ。やっぱりサティの曲は一際強い。
第二部は波多野さんの朗読でチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』。要所要所で辻田暁さんがキャラクターを演じ舞踏で彩りを添える。多分小学生時分に子供用を読んだ以来なので驚きがあった。『グリーンスリーヴス』は強い。自分の死や死後の苦しみを見せられて半ば脅迫的に改心させられるスクルージ。全ての哲学は死との対峙なのか。人間は目前に死を見据えないと心を解き放てないのか。第三の幽霊は巨大なフードを被り、巨大な両手だけが見える大男。インパクトがある。

ジャガーの眼

ジャガーの眼

東京倶楽部

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/11/19 (土) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

演出は菅田俊氏。宇梶剛士(たかし)氏と菅原文太氏の付き人(用心棒)を務め、仮面ライダーZX(ゼクロス)でもあった名俳優。

蝋人形サラマンダ役の佳村さちかさんが偉く美形だった。
扉役・森了蔵氏はジャンポケ斉藤に似た風貌の気が違ったテンション、舞台中で喚き散らす。

マルセル・デュシャンの墓碑銘、「されど、死ぬのはいつも他人ばかり」は寺山修司の大のお気に入りの言葉。
「死ぬのは皆他人、生きるのも皆他人、愛するのも皆他人」がテーマか。人が皆持つ埋められない心の隙間(存在としての寂しさ)を、他人を使って埋めようとする。ほんのひと時それが埋められたように錯覚するが矢張り寂しい隙間風が吹いていく。

理屈や論理を無視して作中人物が必死になって訴えるある種のロマンチシズム、つかこうへい的な昂揚こそが見所。うえのやまさおりさんの熱演でしんいちの心が絆されるシーンが印象に残る。うえのやまさおりさんは素晴らしい女優だ。

寺山修司の愛用したデニム地のサンダル(今回は違った)を移動探偵社と称して、寺山がかつて覗きで捕まった町内に現れる探偵田口(永倉大輔氏)。転がる林檎を追ってきた。
そこに現れるのは前の探偵事務所の社長である扉(森了蔵氏)と蝋人形のサラマンダ(佳村さちかさん)。かつて田口はサラマンダと愛し合っていた。
事故死した恋人の移植された角膜を追うくるみ(うえのやまさおりさん)は、結婚直前のサラリーマンしんいち(贈人〈ぎふと〉氏)に付きまとう。その角膜には印象的な傷があり、“ジャガーの眼”と称されていた。

ネタバレBOX

唐組では40分✕三幕だったが、今回は120分一幕。何故かそれでもダイジェストのように感じてしまった。唐十郎作品には無駄なエネルギーが必須。どうでもいいことに命懸けになる“こだわり”に客は惹き付けられる。「何でこんなことにここまでこだわるのか?」、幾ら考えても理解不能。それこそが作品を引き摺るパワーの源なのだが、美術や小道具がイマイチ振るわない。
ラストの屋台崩しをどうするのか気になっていたが、セットが横にずれ、奥からスモークが焚かれSF調の半機械化したしんいちが帰ってくるもの。右眼から赤いライトの光を放ちながら。

矢張り唐十郎作品はそんなに好きになれない。寂しくて寂しくて堪らない人々が他人に無い物をねだっていくメルヘン。
赤い月 落ちた犬 聞こえますか 悲鳴

赤い月 落ちた犬 聞こえますか 悲鳴

横浜ボートシアター

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2022/11/18 (金) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

語りと人形の劇「犬」

“病んだ魂”。嫌な予感がして観に行ったが、ズバリの内容。仏教説話調の気の滅入る鬱話。漱石門下の作家、中(なか)勘助の1922年(大正11年)発表の小説が原作。仮面と衣装だけの人形二体を使って演じられる。下手の端の向かいに生演奏で劇伴を奏でる松本利洋氏、生ドラムの迫力。笛やギター、DTMを駆使して飽きさせない。上手に語り手の玉寄長政(たまよせちょうまさ)氏、下手に語り手の岡屋幸子さん。この二人が台詞なども担当。バラモンの苦行僧の操演はかわらじゅん氏。子供を孕んだ若き美しき娘の操演は奥本聡氏。

11世紀、アフガニスタンのスルタン(君主)、マームード(マフムード)はインドに17回侵攻、略奪と虐殺を繰り返した。イスラム教徒である彼等はヒンドゥー教仏教ジャイナ教徒を迫害し寺院を破壊して回る。北インドのクサカという町で森の中、苦行を続ける一人の老いたヒンドゥー教のバラモン僧。ハヌマーンに願を掛けて礼拝に通う若き美しき娘と出会う。娘の願について問い質すと、侵略してきた将校に犯され身籠ったこと、そしてその男のことが忘れられずもう一度逢いたいことを告白する。バラモン僧はその娘に七日間の清めの儀式を強要する。草庵で全裸になり、聖水で身を浄める娘。半生を賭した禁欲の果てに老僧が辿り着いた真理とは。

なかなか観られない邪悪な演劇。性的描写の過激さをもって、発禁処分を喰らった原作。「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」。

ネタバレBOX

二人が犬になるまでが面白かった。犬に化身してからは「語り」ばかりなので、もう少し絵的に見せて欲しかった。(二体の犬の人形も欲しいところ)。
話が佳境に入るとドラムが盛り上がり、岡屋幸子さんの台詞が掻き消されて聴こえないという勿体無さ。

『秘密集会(しゅうえ)タントラ』のような後期密教の思想を連想。全ての欲望、快楽を否定して煩悩を跳ね除け禁欲主義に生きることと、禁じられた全てを肯定して欲望のままに生きることは実は同じ道程なのではないか?という発想。
真言宗の開祖、空海の秘した禁断の『理趣釈経』の内容は性愛と煩悩の全肯定であった。
吾輩は漱石である

吾輩は漱石である

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/11/12 (土) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1910年(明治43年)8月24日、43歳の夏目漱石は胃潰瘍の療養の為、伊豆の修善寺・菊屋旅館に滞在。胃疾患から来る800ccもの大量吐血ののち、危篤に陥る。16本のカンフル注射を打たれ30分後に意識を取り戻すが、その間臨死体験を彷徨っていた。(『修善寺の大患』)。
その6年後に逝去している。

今作は「夏目漱石はその30分間、何を見ていたのか?」の井上ひさし流解釈。宮沢賢治的な育英館開化中学(現在の高校)での不思議な遣り取り。漱石作品の登場人物達が大集結。

こまつ座初登場の賀来千香子さんが大奮闘。漱石の妻から複数の役をこなし、観客を盛り上げる今作の大黒柱。
旅館の女中役、栗田桃子さんも沸かせた。本当にカメレオンのような女優だ。

ネタバレBOX

予想を遥かに超えた失敗作。これ、井上ひさしの名前を隠して小劇場で演ったらボロクソ叩かれただろう。失敗作を観ている時はあれこれと改善案を頭に巡らせるものだが、今作では何一つ浮かばない。

ウディ・アレンに『さよなら、さよならハリウッド』と云う映画がある。かつて名声を勝ち得たが今では仕事もなく落ちぶれた映画監督、大作のオファーに再起を賭ける。しかしクランク・インの前日、心因的ストレスで目が見えなくなってしまう。それを隠し通しズブの素人に協力を頼んで何とか撮影を終わらせる。勿論出来上がった作品は見るに堪えない惨憺たるもの、罵詈雑言の批評を浴びる。『この拷問映画を観るべき人間は世界で唯一人、アドルフ・ヒトラーだけである』。
そんなことを思い出すような舞台。
私の一ヶ月

私の一ヶ月

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2022/11/02 (水) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

妙に気になって観に行った。今年5月に上演された『グリーン・マーダー・ケース』と『ビショップ・マーダー・ケース』が面白過ぎた、その演出・脚本の須貝英氏の新作オリジナル脚本。全く想像がつかない。
三つに分けられた舞台。下手は大学図書館の閉架式書庫の事務室、中央はコンビニのレジ、上手はコンビニに隣接している民家。三つの物語が同時進行で淡々と語られる。図書館では司書(岡田義徳氏)のもとに新しく入ったバイトの女の子(藤野涼子さん)がやって来て自己紹介。レジでは疲れ果てた常連の青年・拓馬(大石将弘氏)が毎日毎日昼飯を買いに来る。民家では泉(村岡希美さん)が季節外れの風鈴を吊るし、赤い日記帳に日々を綴る。その家のじいじ(久保酎吉氏)とばあば(つかもと景子さん)。
登場人物の基本は東北訛り、司書だけが標準語。
三つの時間軸が段々と溶け合わさって、何の話だったかが解けていく。

藤野涼子さんが超可愛い。人懐っこい照れ隠しのような笑みがにやにや零れ落ちて、空間がじわじわ明るくなる。母からの誕生日プレゼント、白いコートを着てみせるシーンは至極。村岡希美さんとの遣り取りがズバリハマった。「ウゥワフー、フゥワフゥワー」と鼻唄のようにスキャットしながら踊る二人。遊ぶ子猫のようにずっと見ていられる。

母からの手紙に16年掛けて娘が返信するような物語。照明が秀逸。

ネタバレBOX

演出がやり過ぎでホンの持ち味を損ねているように感じながら観ていた。この話の伝え方にこのやり方が正解なのか?ひたすらコンビニで買い物する日々の描写が無駄。だったら明結(あゆ)の山手線から見た世界の素顔を描写してくれ、と。(逆に実験的なこの語り口を評価する人も多数いるだろう)。
だが、司書の正体が父母の幼馴染のフジ君だったことが分かると話の全体像が見え、ホンもイマイチ好きになれなくなる。登場人物全員を絡めていくキャラメルボックス・スタイル。幼馴染の死を作品として昇華(舞台化)することを自負して語るフジ君、それに醒めた眼をして白ける泉。置いていったそのチラシを見て東京の小劇場まで舞台を観に行くじいじ。その舞台の「皆が悪かったのよ」の台詞に深く傷ついてしまう・・・。

何か継ぎ接ぎだらけの、付箋で注釈が一杯貼られた脚本。話し合いを重ねすぎて均された民主的な不恰好さ。いろんなテーマが飛び散って取り留めのない様は『猫、獅子になる』にも重なる。

だが然し、何と言っても藤野涼子さん演じる明結(あゆ)が素晴らしい。こういうキャラを生み出すセンス。相米慎二や大森一樹が斉藤由貴で撮ったアイドル映画のような空気感。昔、角川春樹がよくやっていた手法で、集客は人気アイドルに任せ、内容は野望のある若手に好きに撮らせる。(最近は秋元康が似たようなことをやっている)。凄く気の滅入る物語をアイドル映画に仕立て上げるコントラプンクト(対位法)の面白さ。

2005年9月、介護サービスのブラック企業で過労死寸前の日々を送る拓馬。昼食は実家のコンビニで買うことにしている。人手が足りず店先に誰もいないことも多い。そんな時は勝手にレジを打って金を入れていく。レジの金が合わないことが多くなり(拓馬のせいではない)、両親は拓馬に開けられないようにレジを設定。誰もいない店で呼べど叫べど誰も来ない。レジも打てない。実家にさえ拒絶されたような気持ちで絶叫し計算機を叩き付け踏み付け商品を置いて帰る。家でゲームに没頭して会話に応じない拓馬に、妻の泉は痛烈な言葉をかけてしまう。「あんた、本当にいてもいなくてもおんなじね」。次の日、山で首を吊る拓馬。
一ヶ月の空白。11月から泉は日記を書き始める。今の自身の赤裸裸な気持ちをいつか娘の明結(あゆ)に読んで貰う為に。
18の誕生日、父の死が自殺だったことを明かされ、日記を手渡される明結。
2021年11月、東京の大学に通っている明結は両親の幼馴染で親友でもあったフジ君が働く図書館でバイトを始める。

泉にとって季節外れの風鈴が首を吊った拓馬のことを忘れてしまう自分自身への戒めであったこと。

明結が現在の自分の一ヶ月を散文詩にしたためて母親に送るラスト。それを添削したフジ君との合作のよう。
泉は静かに肯き「有難う。」と微笑む。
藤原さんのドライブ

藤原さんのドライブ

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2022/11/04 (金) ~ 2022/11/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1930年岡山県の離島、長島に初の国立療養所「長島愛生園」が誕生。ハンセン病(らい病)患者の隔離施設。患者は子孫を残すことが許されなかった。1943年に治療法が確立されたにも関わらず、島と内地に橋が架かったのは1988年。世界的にも類を見ない日本特有の差別と偏見の日々。

現代のコロナによる隔離施設を長島に設定し、二つをだぶらせて綴るSF。
スカイラインを駆り、療養所仲間を乗せて何処までもドライブする藤原(猪熊恒和〈つねかず〉氏)さん。モデルは立花誠一郎氏。スカイラインの大道具が良い出来。二人の人力で動く巨大な台車。
藤原さんは皆を故郷に連れてってやる。だが、皆実家には帰らない。遠くから懐かしい景色を眺めるだけ。“穢れ”の思想が色濃い日本で、親族に迷惑はかけられない。穢れて棄てられた者達は誰にも見えない場所で隠れて暮らすしかない。

ネタバレBOX

面白いとは感じなかった。ハンセン病に絞った方がいい。コロナネタじゃ弱すぎる。現代の社会不適合者、棄民の物語として引っ括めるべき。植松聖のエピソードも意味が無かった。

未だに決着のつかない日本人のタブー、“心失者”は安楽死させるべきとの植松の提言。
重度の知的障害のある娘を持つ和光大名誉教授の最首(さいしゅ)悟氏は彼への手紙に『そしてわからないからわかりたい、でも一つわかるといくつもわからないことが増えているのに気づく。すると、しまいにはわからないことだらけに成りはしないか。そうです。人にはどんなにしても、決してわからないことがある。そのことが腑に落ちると、人は穏やかなやさしさに包まれるのではないか。』と綴った。学問の目的は“分かる”ことではなく、“分からない”を知ることだ、と。
猫、獅子になる

猫、獅子になる

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2022/11/04 (金) ~ 2022/11/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

清水直子さん見たさに足を運んだ。宮沢賢治の『猫の事務所』がテーマ。
猫の第六事務所は猫の世界の歴史と地理を調べる役場(モデルは郡役所?)。そこの四番書記の窯猫〈かまねこ〉は、夜かまどの中で眠る性質がある為、煤で真っ黒に汚れている。その為他の三人の書記から嫌われ虐められていた。事務長だけは仕事の出来る窯猫を評価。そんなある日、風邪を引いて一日休む窯猫。三人は有る事無い事を事務長に吹き込む。言いくるめられた事務長もぐるになり、翌日窯猫の仕事を取り上げ無視を決め込む。悲しくて悔しくてぼろぼろと泣き続ける窯猫。それを見ていた獅子(モデルは蔵相?)が事務所の閉鎖を命ずる。

1984年、中学校の演劇部で『猫の事務所』の初期形を自ら戯曲化し上演しようとする部長の美夜子(清水直子さん)。当事者を劇に参加させることによって校内での虐めを告発しようと思っていた。

2019年、ずっと自室に引きこもり続け五十歳になった美夜子。劇団員をやっている姪の梓(滝佑里〈ゆうり〉さん)が『猫の事務所』の舞台を小学校で上演する話に興味を示す。

宮沢賢治が発表する前に書いた初期形(草稿)のラスト、登場する誰も彼もが可哀想な存在であることを作者は述べる。この幸福を奪い合い不幸を押し付け合う、不毛な因果律が組み込まれた壊れた世界。優越感と劣等感の果てしないシーソーゲーム。どうにか脱け出す方法はないものか、と。

ネタバレBOX

この脚本は好きじゃない。何かつぎはぎだらけ。いろいろ詰め込みすぎたのか、考えすぎたのか。こんな問題に正解がある訳ではない。死のうと思っている人間を説得して、社会と共存して生きる妥協点を見つけるような途方もなさ。人生に正解はないが、明らかな誤答はあるということか。
務所帰りの知り合いが言ってた話がリアルで、出所まではあれこれと外界に出たらああしようこうしようと何年も思い描くもの。出たら二三日でそんなこと全部吹っ飛んでしまう。現実に出来る事が限られ過ぎていて選択肢などハナからない、と。結局人間は殆ど何も選べない。

ただ、自分に関係のないものや理屈のないふっとした気分で見える世界は変わる。TVのチャンネルを変えるような気楽で適当なふざけた切っ掛けで別の生き方が始まる。大事なのは頭で考えないこと。自分と同様に周りの人間も大した考えで生きている訳ではない。
「絶望という名の地下鉄に乗り込んで、鼻唄まじりで行くぜ、この世界を」

最後まで宮沢賢治に逃避し続けて顔すら出さない座長がいい味。
窯猫だった志村史人(ふみと)氏がラスト、獅子となって吼える。『ぼくは半分獅子に同感です。』とは、凄い文章。
左手と右手

左手と右手

小松台東

駅前劇場(東京都)

2022/10/29 (土) ~ 2022/11/08 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

タイトルから楳図かずおの『神の左手悪魔の右手』を連想するが全く関係ない。
何でだが分からないが中国映画の『ただいま』を想起。何か中国とか韓国とかの80〜90年代の暗い映画はこんな雰囲気だった。日本だと自主映画にこんなテイストが多かったような。
濡れ場のない日活ロマンポルノ、古いAVのドラマ、ピンク四天王のような空気感。嫌な事件が起こる前触れの息遣い。

宮崎県の田舎町、十代から付き合ったり別れたりを繰り返して来たアラフォーの男女(松本哲也氏と吉田久美さん)。今は男の自宅の古い一軒家で同棲している。そこに訪れる来客との会話の中からゆらゆら浮かび上がる二人の実存、たなびく白煙。矢鱈飲み物と食べ物が出てくる。

吉田久美さんは綺麗で絵になる。冷蔵庫から麦茶を注ぐ。
松本哲也氏の諦観とスーパーの駐車場で買ってきたたこ焼き。
嫌な社長役の佐藤達(とおる)氏も強烈。やり過ぎ位の下卑た目線。視線で女を撫で回す。

冒頭から終演まで目に映る光景は変わらないが、二人の姿は驚く程違って見える。醸成した空気に演出をつけているような作品。卓越した舞台美術。

ネタバレBOX

土着系ドメスティックな日本映画は大嫌いな為、前半は辟易した。だが三組目の来客、東京時代のバイト仲間のカップルの登場から爆発的に面白くなる。全ての眠っていた仕掛けが音を立てて回り始め、舞台がうねり出す。
MVPは元ノベライズ作家役の桜まゆみさん。凄すぎるキャラ設定。何て台詞だ。こういうずれた自意識の女をこの空間に放り込む恐ろしさ。一気に客席の空気が変わり、どっと笑い声が上がり始める。かなり難解に込み入った喜劇だ。居酒屋のマスター役の今村裕次郎氏の合いの手のような台詞も絶妙。「ここの住所を教えて下さい!」

プロローグとエピローグ、新興宗教の勧誘に来る妹役・小園茉奈(おぞのまな)さんのエピソードも巧い。ポカリスエットを矢鱈飲み干す。
冒頭では駄目な男に引っ掛かってそこから抜け出せない姉に見える吉田久美さん。早く本当にいるべきところに行けと。だがエピローグでは何一つ変わっていないにも関わらず、こここそが思い描いていた“ここではない何処か”のようにすら感じる。見事な作劇。

Shoot BoxingのTシャツ。
インディヴィジュアル・ライセンス

インディヴィジュアル・ライセンス

24/7lavo

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2022/10/27 (木) ~ 2022/10/31 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

最高の役者陣、大人の演劇、村上春樹にも通ずる文学性。後々今作を観たことが誇れるようになるだろう。

『individual license』とは『個人免許』の意味。いつもちょっと取っつきにくいタイトルが損をしている。
「インディヴィジュアル」と聞いてTHE MAD CAPSULE MARKET'Sの『HI-SIDE (HIGH-INDIVIDUAL-SIDE)』を想起した人も多いのでは。
作品の完成度は高く、脚本のお手本のような出来。これはフェミニズムも含め時代に合致、映画に向いている。本当ケチのつけようがない。敢えて言うならば教官と元夫の漫画家エピソードが安っぽい位。脚本の米内山(よないやま)陽子さんにリスペクト。こんな真剣な作品を真剣に観たかった。

家族旅行、旦那(有馬自由氏)が運転する車で高速を走行中、海老名でふと垣間見えた富士山の美しさ。妻である主人公(新井友香さん)はこの美しさに天啓にも似た何かを感じる。ブラック企業のIT土方で身も心も追い詰められている息子(平井泰成氏)。専門学校生のコンビニバイト、推しに愛を捧げることだけが生き甲斐の娘(環幸乃さん)。旦那は定年退職し、嘱託として気ままに過ごしている。ふと免許を取ろうと思い立つ主人公。

新井友香さんは凄い。梨を剥く演出は何万言の台詞よりも物を言う。
有馬自由氏は奥田瑛二スタイル。巧いねえ。
平井泰成氏はふてくされた今現在の若者の依り代。ネガティヴのカリスマ。山本圭が学生運動家崩れのこじらせ左翼を象徴したように時代を象徴する存在になって欲しい。
環幸乃さんはほぼ素なのでは。童顔に過剰な憎まれ口、キャラ的にゆたぼんを想起。
金田一央紀(きんだいちおうき)氏はパブリック・イメージ通りのクズっぷりを炸裂。見事。
森谷(もりや)ふみさんも凄い。この人物造形はリアル。彼女が本物だから嘘臭いファンタジーにはならない。現実に労働して生活している痛みの中から零れ落ちる煌めき。

凄く人間の核心的な部分に手を伸ばしている作品。餃子のエピソードが秀逸。必見。

ネタバレBOX

環幸乃さんの推しの結婚ネタはタイムリーで櫻井孝宏を連想。
二役やる人は過剰に別人であることをアピールするのだが、平井泰成氏だけはそのまんま。
熟女の同性愛を『枯れ百合』と称することを初めて知った。

『推し』と接している時だけが生きている実感を得られる。これはかなり深い話で、キリストや仏陀、日蓮や天皇も『推し』の一つとして認識するならば普遍的な人間の思考パターン。人間はそうやって生きてきたのだ。
「ママ、推せる!」は名台詞。

途中、家族再生の話ではなく、『テルマ&ルイーズ』のように全て放り出して二人で逃避行に走って欲しいと願った。ラスト、北海道の「天に続く道」での昂揚は思い描いた通り、文句無し。
年齢も性別も肉体関係も超越したラブストーリー。好きになれる人間と今お互い出会えた幸せ。世界は新しい扉を開く。何て素晴らしいのだろう。
南極ゴジラの地底探検

南極ゴジラの地底探検

南極ゴジラ

王子小劇場(東京都)

2022/10/27 (木) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主人公、球李役の瀬安勇志氏が知り合いにそっくり。中村勘九郎っぽい美男子。ヒロイン、星役は端栞里(はたしおり)さん、功夫少女っぷりがイカしてた。愛犬アイロン役、瑠香さんは地下アイドル系山本彩、ルックスが目立つ。望まれる絵の描けない金飛来(キム・ヒーライ)役の古田絵夢さんはネガティヴなAI役が嵌まっていた。

関西弁が痛快で絶頂期の『SFマガジン』を捲っているような爽快感。筒井康隆の『チューリップ・チューリップ』など懐かしくも胸を熱くした古き良きSFの興奮を想起。
『地球空洞説』から始まり、『月世界旅行』まで。ブラウン管の古いテレビ、大小四台がタイトルを映し出し大活躍。
コント集と云うよりも散乱した断片が脈絡なくばら撒かれていく。

謎のメロディー(『未知との遭遇』調)を解読した冒険家達は、それがある座標を示すことに気付く。新宿の廃墟となった公団住宅の地下に巨大な穴を発見。探検隊を組織して降りていくことに。『地球空洞説』を裏付けるかのようにマントルはなく、未知の世界が広がっていた。

ネタバレBOX

地球の内部は同心円状にパラレルワールドが幾層にも重なっている。実は月こそがその世界を繋ぐ穴で、月を突き抜けると外の層の世界へと移行できる。無数の並行世界で共通していることは球李と星が互いを好きになる事だけ。地球の内部からマグマが噴き出し、内側の世界からどんどん滅んでいく。皆は外側の世界へ脱出しながら、この世界を救う方法を探す。

笑いがイマイチ振るわない。劇団系のノリが続くのでぼんやりと観てしまう。突然ガラッと別の話に変わるのだが、何かどれも掴みが弱い。脚を壊したアイススケート選手の転校生・星と毎日マラソンを続けている球李の仄かな触れ合いのエピソードだけが詩情豊かで絵になった。クライマックスの砲弾の中、電気を起こす為にバンドでアイロンが歌う曲も良かった。

上手くいけば『インターステラー』になれたネタ。ふざけた御都合主義的なキャラと展開ばかりで作品世界にのれないのは残念。配分が悪い。何処か純粋なジュブナイル要素が芯としてあった方が感情移入出来た。作家の本音が欲しい。
日本人のへそ

日本人のへそ

虚構の劇団

座・高円寺1(東京都)

2022/10/21 (金) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

良い出来、良い劇団。これでラストなのは勿体無い。そう思わせるいい芝居だった。『虚構の劇団』、結構観た気がしていたが実はニ回だけ。『サードステージ』と混同していた。

井上ひさしの戯曲デビュー作。こまつ座で観た朝海ひかるさん出演の作品がエロかった。強烈に印象に残っている。
冷静に観ると、日本人論の塊。『日本のボス』なんて、今まさに暮らしているこの現実の仕組みを大声で糾弾している。一般的な皆さんはニヤニヤ苦笑いで収める話なのだが、山上徹也みたいな自爆テロリストがうようようごめいている時代の変革期。「こんな国は嫌だ!」と叫び出す奴が現れるかも知れない。同性愛ネタも強烈で、「昭和天皇のルックスがイマイチだから日本軍は弱くなった」と言いたい放題。タイトに削ってある為、作品の本質が掴み易い。

かつて一世を風靡したストリッパー、ヘレン天津を演じる小野川晶(あき)さんが魅力的。おかっぱの女学生姿はT-ARAのボラムを想起。葉山レイコに似た美人。
狂言回し的存在の久ヶ沢徹氏は膨大な台詞を炸裂。冒頭の歌の途中で「間違えた!この後何だったっけ?」と他の共演者に聞いてそこから立て直す場面も。観ているこっちがハラハラした。
小沢道成氏のスタイリッシュなヤクザ、渡辺芳博氏のクリーニング屋の親父も強烈なインパクトを残す。
健康的な木村友美(ゆみ)さんの肢体も目立つ。
下着姿で踊りまくる華やかな女優陣が美しい。
梅津瑞樹氏のファンが矢鱈いた。
ストリッパーのストライキの歌が秋元康調で良かった。

上部スクリーンにテンポよく映し出されるイラストが本当によく出来ている。膨大な言葉遊び、聴覚だけの情報が視覚を使ってより深く認識でき、井上ひさしの徹底的に詰め込んだ言語世界を密度濃く味わえる。

ネタバレBOX

岩手の山奥の村から集団就職で上京する女の子。「都会の男に汚される位なら」と、実の父親に強姦される。勤め先のクリーニング屋では主人に愛人になるよう懇願され、奥さんから追い出される。転げ転げて職を転々とし、トルコ嬢からいつしかストリップの舞台に。ストライキのリーダーになり初恋のバッタ屋(ヤクザ)と再会し結婚するもそれも束の間。日本の風習、権力者への贈り物として組長、右翼、遂には代議士の妾に。『嫌われ松子の一生』だ。小野川晶(あき)さんの佇まいが良い。

私立吃音矯正学院の教授の論説。『人間の尊厳を冒す「吃音症(=どもり)」とは“言葉”の病気である。“言葉”(=文字、言語)を操ることこそ、人間が他の動物と一線を画す拠り所である為、真の人間的病気といえる』。井上ひさし自身も吃音症に悩まされた経験があり、それが元になっている。
この人間の尊厳を取り戻す為の治療劇こそが今作。

井上ひさしは「吃音症の人は心の優しい人だ」と書いている。他人の反応を気にする余り、適切な言葉を見付けられず慌ててしまい喋れなくなる。自分の伝えるべき言葉が見付からないまま、羞恥に悶え苦しみ続ける。
結局、今作では誰のどもりも治ることはないのだが、この治療劇をずっと続けていくことそのものが治療であるという結論。井上ひさしは生涯治療を続けたのだろう。
野外劇『嵐が丘』

野外劇『嵐が丘』

東京芸術祭

池袋西口公園野外劇場 グローバルリング シアター(東京都)

2022/10/17 (月) ~ 2022/10/26 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
超面白い。音響が格段に上がっていて、台詞がほぼ全部聴き取れた。もう一回観たい位に良かった。
片桐はいりさんは『七人の侍』に勝手に歌詞を付けて歌っていた。そして『もののけ姫』。
ヒースクリフの見る夢が印象的。教会で罪業を並べ立てられなじられる。しかし、「最大の罪、それはお前だ!」と“死”に向かって掴み掛かる。
ヒースクリフとキャサリンの愛憎物語。地獄の門は天国に続いている。因果律に抗えない人間の無力さ。
マイケル・ジャクソンのゼロ・グラヴィティ(斜めに傾いていくマイム)が効果的。
菅波琴音さんが浅田真央っぽかった。

ネタバレBOX

ラストの演出も噴水孔から上る白煙だけでなく、そこをとぼとぼと横切る片桐はいりさんにアレンジ。
コメント有難うございました。
舞踏 天狗藝術論

舞踏 天狗藝術論

大駱駝艦

シアタートラム(東京都)

2022/10/21 (金) ~ 2022/10/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

江戸時代初期の禅僧・沢庵宗彭(たくあんそうほう)が柳生宗矩に宛てた手紙、『不動智神妙録』には“剣禅一如”が説かれている。人殺しの技術論が思想に至る“武士道”への転換点。殺しの技術と禅の目指す仏の道を同一と論じた。田村一行氏は「水上の箶蘆子(ひさご)のごとく」の一節に衝撃を受ける。
同様に江戸時代中期の戯作者・佚斎樗山(いっさいちょざん)が記した『天狗藝術論』、今作はそれをモチーフに創作。
『不動智神妙録』には「稽古は四季のように巡る」と書かれている。螺旋のようにループしながら少しずつ先へと歩を進めていくのか。

「空っぽになり、外側に目を向ける」
「自分は外側のもので作られていて、外側に実態がある」
「自我ほどつまらないものはない」
「動くんじゃなくて動かされるんだ」
「いかに空っぽになって動かされるか」

例えるならタイムスリップした先が古代日本の山奥の集落。篝火に照らし出されたこの宗教的祝祭を、夜風に吹かれ大木の陰から怯えながら覗き見てガクガク震え上がっているような興奮。
凄くいろんなことについて考えさせられた一時間余り。白塗りの彼等は愛すべき白猫を思わせる。
これを観れる歓び。

松田篤史氏は肩などに入墨があるので判別し易い。谷口舞さんの呆けた笑顔。
夢を見ていた男は小田直哉氏か?痙攣ダンスは観ているだけでどっと疲れる。自分は整体に通っているので鋳態(出演)の方達の身体が心配になった。相当な酷使。

ネタバレBOX

美しい竹林、ポカンと宙空を見上げる人々。侍が刀を振り上げて人々を連れ去る。首を掴まれた子猫のように連れて行かれる面々。一人だけ言いなりにならない男がいて、侍はそいつを気に入って刀を振らせてやる。

修行が始まる。禅で云うところの魔境を表現しているような。魔境とは、禅の修行中に神仏と一体化したような陶酔感を得て、自我の肥大により悟りを錯覚した状態。麻原彰晃なんかのイメージ。煩悩を打ち払い打ち払い魔境に到り更に打ち払い打ち払い。ビートたけしの痙攣ダンス。ゾンビが踊るEXILE。『少林寺』のような光景。宙空からの縄を掴んでブランコのように回転する侍。
兎に角退屈をさせない工夫に満ちている。常に何かをしていなければ。常に何かを表現していなければ。安っぽい世俗との結託が逆に力となる。

盥で水浴びをする女達を竹林から覗き見る男共。
女達が赤子のように抱きかかえる金の玉、胡蘆子(コロシ)=瓢箪。生々しいエロスの表現、悦楽。
情欲の煩悩を乗り越えた男達は自分達の境地に高笑い。もう胡蘆子には何の価値もない。
そこに現れる天狗、皆怯えて逃げ去る。一人逃げなかった侍は天狗の面を剝ぎ取ってみせる。正体は剣術に明け暮れていたあの男だった。
逆に背後から無数の天狗が湧いてきて男は慄く。
クライマックスの曲がTHE MAD CAPSULE MARKETSの『TRIBE』のイントロっぽくてカッコイイ。

ふと気付くと全ては男の見ていた夢であった。金屏風に描かれた竹林。
すると皆がポカンと宙空を見上げる。天狗が現れた。冒頭に繋がるループする世界。
野外劇『嵐が丘』

野外劇『嵐が丘』

東京芸術祭

池袋西口公園野外劇場 グローバルリング シアター(東京都)

2022/10/17 (月) ~ 2022/10/26 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演前の広場の周り、頭のイカれた浮浪者が手押し車をガラガラ押しながら歌い続けている。小雨の中、『Singin' in the Rain』が朗々と歌い上げられ矢鱈上手い。ガラガラの関係者席を弄る。酔っているように観客に絡む彼女はキネカ大森の『もぎりさん』こと、片桐はいりさん。昔、弟さんにお世話になりました。
段々と石畳の円形のステージに人々が集まり始め開幕。マイムと持ち寄った小道具で嵐が丘屋敷が描かれていく。役者を人形のように用いり、台詞は外からマイクで別の者が入れていく。無声映画を観ているような気分にさせる入り組んだ演出。辻田暁さんは流石のたたたと駆けての空中舞踏。青いドレスの崎山莉奈さんはマイムの美しさと森若香織似のルックスで印象に残った。
複雑な話を70分で細かく描く為、粗筋を頭に入れておいた方が楽しめる。軽い嵐の中の野外劇、雨具を着て見守る観衆。ヒースクリフは自分も含めて関わる全ての人間を不幸に突き落としていく。チケットがなくても仕切りがない為、外から普通に観れる。是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

『嵐が丘』とは復讐劇である。
嵐が丘屋敷(ワザリング・ハイツ)と鶫〈つぐみ〉の辻屋敷(スラッシュクロス・グレインジ)の二軒にまつわる因果な物語。
①田舎に引っ越してきて鶫の辻屋敷を借りたロックウェル、大家のヒースクリフ(荒地崖男)に挨拶する為、嵐が丘屋敷を訪問。妖気漂う化物屋敷の様相に逃げ帰る。鶫の辻屋敷の女中ネリーが昔からの因縁話を教えてくれる。
②数十年前、嵐が丘屋敷の主人アーンショウが孤児を拾ってくる。ヒースクリフと名付けられたその少年は家の息子ヒンドリーに散々虐められる。妹のキャサリンは優しく二人は仄かな恋心を抱く。父親が亡くなるとヒンドリーはヒースクリフを召使いに落とす。
③遊びの延長で鶫の辻屋敷に忍び込んだヒースクリフとキャサリン。番犬に噛まれキャサリンは大怪我。屋敷のリントン一家に介抱され、息子のエドガーはキャサリンに恋をする。
④キャサリンとネリーのつねった、つねっていないの口論。その喧嘩がきっかけとなってエドガーの求婚を受け入れるキャサリン。ショックを受けたヒースクリフは屋敷を去る。
⑤三年後、鶫の辻屋敷で暮らすエドガーとキャサリンのもとに大金持になったヒースクリフが訪ねて来る。ヒンドリーには賭博を仕掛け彼の財産を巻き上げ、嵐が丘屋敷を手に入れる。
⑥エドガーの妹イザベラを誑かして駆け落ちするヒースクリフ。彼になじられ精神を病んだキャサリンは死の床で子供を産んで息絶える。ヒースクリフの暴力に耐え兼ねて逃げ出したイザベラは彼との子供リントンを出産。ヒンドリーが亡くなると、その息子ヘアトンをヒースクリフは召使いに落とす。
⑦イザベラが亡くなり、リントンを引き取るエドガー。キャサリンの忘れ形見、キャシーは嵐が丘屋敷でヘアトンと出会う。ヒースクリフは自分の息子であるリントンを屋敷に連れ去る。
⑧鶫の辻屋敷を乗っ取ろうと企むヒースクリフはリントンとキャシーを結婚させようとする。監禁や脅迫を用いて承諾を強要。エドガーは亡くなり、リントンも早逝。ヒースクリフは目的を果たす。
⑨今では嵐が丘屋敷に暮らすヒースクリフ、キャシー、ヘアトン等は失意と憎悪と罵倒と孤独にまみれて暮らす日々。
⑩ヒースクリフは死に、荒野を流離う彼とキャサリンの亡霊を見た者がいるそうだ。
高円寺が踊る

高円寺が踊る

東京高円寺阿波おどり演劇公演

座・高円寺1(東京都)

2022/10/13 (木) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

素晴らしい。これを無料で観れたなんて杉並区は太っ腹。阿波おどりにも高円寺にも何の思い入れもなかったが、ラストは郷愁たっぷりに見入った。池亀三太氏は流石の仕事をした。記憶の断片が降り注ぐ中、優しかった人、あたたかかった人の温もりだけが胸を衝く。

1957年、高円寺を盛り上げる記念行事の企画会議。自転車屋の銀次郎(中島多朗氏)が中心となって、踊りながら通りを練り歩く徳島名物の阿波おどりを開催することに。行きつけの居酒屋の娘、智恵子(松本みゆきさん)への秘めた想い。回を重ねる毎にどんどん盛り上がっていく『高円寺阿波おどり』。遂には海外のイベントにも招聘され、国を代表する民族舞踊として世界的評価を得るまでになる。昭和平成令和、一家三代の高円寺物語。

ネタバレBOX

銀次郎と智恵子は結ばれ、将太(あらおえみりさん)と葉子(小久音さん)が誕生。中三の将太は父親に抗い子供の頃からやっていた阿波おどりを拒否する。

京都の大学に行き、そのまま就職した将太(日下諭氏)は八ツ橋をメインとする和菓子屋の娘、百合(中坂弥樹〈みき〉さん)と結婚することに。久方振りに実家に帰省し、銀次郎(伊藤嘉信氏)、智恵子(やすみきよこさん)に紹介。そこで離れて初めて分かる、阿波おどりへの愛着を自覚。

結婚し高円寺に帰った将太と百合、麻美(小池舞さん)と久美(樋口双葉さん)を授かる。だが百合は思わぬ病で早逝。銀次郎も老衰で世を去る。
銀次郎の葬儀の後、智恵子が麻美に思い出話をするところから舞台は開幕。

ラストは現在、軽い認知症に陥った智恵子(やすみきよこさん)は若い頃の自分(松本みゆきさん)と会話をしている。数々の胸に刻まれたシーン、シーンが再現されていく。記憶の雨に打たれて立ち尽くす智恵子と観客。そこに本物の『高円寺阿波おどり』の一団が踊り始める。「楽しかったなあ。退屈なんてすることはなかった。」と笑顔。
ぴえろ

ぴえろ

タクフェス

サンシャイン劇場(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

前作でも思ったが、客いじりとサービスが尋常じゃない。ガチで観客に感謝して舞台を制作している。本気度に心から感心する。「そこまでしなくても」と客側が恐縮する程に。
駅前で『顕正会』の婆さんが横断歩道に立ち、通る人全員に「有難うございます」と朝から頭を垂れている姿を重ねた。まるで『法華経』の常不軽菩薩を目指しているが如く。
生の舞台の面白さを啓蒙しているような劇団。小学生の子供達が家族で毎年楽しみに来ている物凄さ。

蔵前の寿司屋に盗みに入った二人組、突然バットで殴られて気を失う。目を覚ますと自分の歓迎パーティー。どうやら他の誰かと勘違いされているらしい。何となく話を合わせてずらかる算段を講じるが・・・。

登場人物のキャラが立っていて面白い。大衆演劇の中にかなり捻った工夫が練り込まれている。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

宅間孝行氏(二役)は喋りは宮迫調、役柄は三又又三っぽい。悪党キャラをやる時の右手の震えなんかが効いている。
佐野和真氏はカッコイイが、キャラの立ちがイマイチで勿体無い。
浜谷健司氏(二役)は巧い。お笑いの強み、客席の空気感を鷲掴み。
柴田理恵さんとモト冬樹氏は返しの一言で必ずどっと笑わせる。柴田理恵さんの会場人気は凄かった。
鈴木紗理奈さんはいつも通り、そのまんま。
太田奈緒さん(二役)も彼女だと気付かない程、弾けていた。元NMBの誰かだと思っていた。口上が吉本新喜劇っぽい。
竹内茉音(まりん)さんは健康的で手足が長い。
三戸なつめさんの可愛いオーラが凄かった。

風鈴のオチが分かりにくい。本当に数億円の価値があるのか?YouTubeのスピンオフを観ないと分からないのか。

井上ひさしの『雨』と同じく、間違われた男を演じていく内にそこに生き甲斐を感じていくドラマ。他人の望む誰かを演じる過程で自身の心境にも変化が。人は他人の為にだったら変わることが出来る。(本来の自分を表現出来る?)

もう少し粘れば大傑作になった可能性が残るプロット。ありきたりのネタだが勿体無さが残る。話の畳み方を逡巡して明らかに間違えている。誰を主人公として捉えるか、の話。秋子か春子か沢木かテルか?実はヤス目線が正しい気も。先にヤスが仕掛けに気付いておきながら知らん振りしている方法もあった。

島倉千代子『愛のさざなみ』
クランク・イン!

クランク・イン!

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2022/10/07 (金) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ゴダールの『軽蔑』を思わせる雰囲気。全編秋山菜津子さんの独壇場。彼女の羽田ゆずるという役名は羽生結弦を連想せずにはいられない(何の関係もないが)。秋山菜津子さんの独り芝居でも成立したであろう世界。彼女の静かなる狂気が美しく奏でられ観客はその世界に浸されていく。
『プラトーン』で有名なサミュエル・バーバー作曲の『弦楽のためのアダージョ』に似た曲が流れ、厭世的な空気を醸成。
香り高き素材だけを並べ、観客の想像力を刺激していく作劇。調理は頭の中で個々に為されなければならない。

主演女優の事故死によって撮影が中止された映画。相手役の秋山菜津子さんを主演に脚本を弄り直し、後はクランク・インを待つばかり。監督(眞島秀和氏)はもてもてで家庭を持ちながらも次々に女優に手を出す女にだらしない昭和型。秋山菜津子さんがくどくど脚本にクレームを付ける為、一向に撮影は始まらない。暇を持て余した女優やマネージャー達はペンションのような宿舎で愚痴を零し噂話を立てる。そんな中、大部屋女優の吉高由里子さんがふらりと顔を見せる。

ネタバレBOX

鈴木清順的な話かと思ったら、そうでもない。類型的な撮影所話なのは勿体無い。石橋穂乃香さんに多大に期待していたのだが、あんまり上手くいっていない。始めはスタッフなのか女優なのかよく分からなかった。吉高由里子さんや富山えり子さんを見下したスタンスの方が判り易い。

全て秋山菜津子さんの妄想だった位が丁度いい。
吉高由里子さんが捲し立てると、坂下千里子に似ている。

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