聖なる炎 公演情報 俳優座劇場「聖なる炎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    大井川皐月さんの舞台を観るのは多分7作目。男勝りの強気キャラが多かったが、今回は美貌のヒロイン、ステラ役。まさにこういうのが観たかった。まだ幾通りにも方法論はあるであろうこのキャラ。この役は月船さららさんなんかにも演って貰いたい。新婚一年後に旦那が墜落事故に遭ってしまった新妻、ドラマの要。
    事故で下半身不随になった屋敷の長男、モーリス役は三浦春馬っぽい田中孝宗氏。寝たきりだが明るい好青年。
    主治医のハーヴェスター医師役は加藤義宗さん、コミカルで吉村崇っぽい。
    住み込みの看護婦、ウェイランド役はあんどうさくらさん。凄く独特な存在感を発し続けている。
    モーリスの母で屋敷の主、タブレット夫人役は小野洋子さん、岡田茉莉子のような気品。
    一家がインドに赴任中、現地で検察官に就いていたリコンダ少佐役は吉見一豊氏。加藤武演ずる等々力警部を思わせるムードメイカー。タブレット夫人との古く長い付き合いを感じさせる。
    モーリスの弟、コリン役鹿野宗健氏はハンサムでスマートな中西学。グアテマラでコーヒー農場を経営。

    アガサ・クリスティのミス・マープルものっぽいミステリー。サマセット・モームの1928年に発表された古典なので、実に解り易く面白い。人間の表面と内面の乖離。明るい笑顔に包まれた屋敷、裏に回れば誰もが嘘をつき、疑心暗鬼を抱え、自分を卑下し絶望する。誰もが誰かをじっと疑っているような人間ドラマ。凄く上品な空間が心地良い。
    是非観て頂きたい。

    ネタバレBOX

    第一幕のMVPはあんどうさくらさん。荒井晃恵さんにも似た存在感。長男の心不全による急死の真相が、彼女の烈火の如き怒りで正体を露わにしていく展開。

    第二幕は小野洋子さんの滔々たる語りが全てを持って行く。

    殆ど登場しないメイドのアリス役増田あかねさんが何か関係してくるな、と睨んだが何もなかった。

    音楽の入れ方や選曲がダサい。(この伝統的な方法論に意味があるのかも知れないが)。

    今朝長男が亡くなっている状況にも関わらず、妻は義弟との不貞で妊娠をカミングアウト、弟は一緒にグアテマラに行こう、看護婦は彼をプラトニックに愛していた、母親は全部知っていました・・・、もう少し彼の死を悼んでくれ。何か喜劇っぽくもあるシチュエーション。オチで「実は死んでいませんでした」とモーリスが出て来るのではないかとさえ危ぶんだ。

    タイトルの『聖なる炎』の意味は性欲のことではないか。肉欲は醜くプラトニックな精神的な愛こそ崇高とされているが、それに異を唱えたのでは。同性愛者だったサマセット・モームにとって、1895年に投獄されたオスカー・ワイルド事件の衝撃は大きかった。英国の性犯罪法では1967年まで同性愛は犯罪行為。モームは英国を離れ世界各国を旅する生活にうつる。1965年に亡くなったモームは極めて慎重に同性愛者であることを隠し続けた。
    タブレット夫人の独白はモームの本音だったのでは。決して世間的には許されない同性愛、けれど自分にはどうしようもない熱情。例え間違っているとされても、確実に自分の胸に灯っている炎。

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    2023/03/01 16:21

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