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天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】

天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】

東宝

日生劇場(東京都)

2020/02/08 (土) ~ 2020/02/29 (土)公演終了

満足度★★★★★

いやあ楽しい!シェークスピアの全作品に触れるというお遊び企画ではあるのだが、しっかりとした物語になっていて、さすがは井上ひさしと感心した。そこに宮川彬良の音楽が重なったところに、高橋一生、浦井健治という人気と実力を兼ね備えた役者さんが登場するのではこれ以上の贅沢はない。

最初は「リア王」と3人の娘のお馴染みの場面。ここでは天保12年(1841年)のヤクザの親分、鰤の十兵衛(辻萬長)の跡目相続である。アホ真面目な三女のお光(唯月ふうか)が弾き出され、長女のお文(樹里咲穂)と次女のお里(土井ケイト)で縄張りを分割して受け継ぐ。そのとたん、長女の夫の紋太と次女の夫の花平が争うようになる。これは「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキャプレット家ではないか…。以下どんどん書きたくなるが自粛。105分+20分休憩+95分と長いが全然飽きない。

ここまでの役者さんも実に良い味を出しているが梅沢昌代さんの明るい魔女風老婆も嬉しくなるような怪演である。そして進行役の木場勝巳さんの変幻自在のうまさにはあきれるばかりだ。

この場面はシェークスピア作品の何かを考えながら観るのは実に楽しい。私は有名どころの「リア王」「ハムレット」「オセロ」「マクベス」「ロミオとジュリエット」「リチャード三世」くらいしか分からなかったが、通の人は一つ一つの動作にも連想が湧いてくるのだろう。もっともそういうことを一々考えなくても、しっかりとした衣装、美しい舞台装置もあって絢爛豪華な世界をたっぷりと楽しむことができるだろう。文句なしのスタンディングオベーション、絶対のおすすめ。

ネタバレBOX

シェークスピア関連の名前の由来の推定

鰤の十兵衛 = リア王:ブリテン王→ ブリ、テン → 鰤、十
三女、お光 = コーディリア:三→みっつ→みつ
お文の夫、紋太:「ロミオとジュリエット」のモンタギュー
お里の夫、花平:同じくキャプレット→カプレ→かぺ→かへい→花平(読みは、はなひら):ものすごく苦しい(笑)
お里の愛人、幕兵衛:マクベス
主人公、佐渡の三世次:リチャード三世(前半は「オセロ」のイアーゴー役)、ちょっと苦しいけれど”リチャード”が”佐渡”になっているのだろう
三世次のライバル、河岸安:「オセロ」のキャシオー
きじるし王次:「ハムレット」のハムレット王子の性格そのもの
紋太の弟、九郎次:同じくクローディアス
紋太の右腕、ぼろ安:同じくボローニアス:「ぼろ安」はあんまりだ(笑)
ぼろ安の娘、お冬:同じくオフィーリア:音的にすごく綺麗な対応だし、運命をも予感させる

宝井琴凌作の講談「天保水滸伝」からの名前はそのままである。

清滝村:「天保水滸伝」の舞台となる村の一つ。最初、シェークスピア関連で探してしまった(笑)
笹川の繁蔵:力士でもあった侠客、講談では悲劇の若親分として描かれる。
飯岡の助五郎:ライバルの侠客、講談では悪知恵の働く悪親分として描かれる。
佐吉:清滝村の侠客、後に獄門。棺桶屋なのは「ハムレット」の墓堀人からの連想か。ロミオでもある。

どこから来た名前かわからなかったのは次のもの。

十兵衛の長女、お文 = 元はゴネリル
十兵衛の次女、お里 = 元はリーガン
代官、茂平太
代官の妻でお光の双子、おさち
浮舟太夫:佐吉の恋人なのでジュリエット相当。
おこま婆:「マクベス」の魔女。

*パンフレット、ウィキペディアなどを参考にした。
*『天保十二年のシェイクスピア』研究 : 井上ひさし・追悼プロジェクト:磯山甚一, 鈴木健司, 藤井仁奈編著、文教大学出版事業部, 2012.3
という研究書もある。自力解決を諦めたときに見てみよう。
どさくさ

どさくさ

劇団あはひ

本多劇場(東京都)

2020/02/12 (水) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★★

じべ。さんのアドバイスに従いウィキペディアのあらすじを読み、さらにYouTubeで小さんと志ん生を聴いてから出かけた。予備知識のお蔭で話が逸れて行くところが自然に分かった。途中は作者の瞑想(迷走)に付き合うことになるが若者の不思議な世界を楽しむことができた。最近の私のお気に入りのミルクボーイも出て来たし。最後の哲学的SF的疑問をどう表現するのかと思っていたら、少し騙されたようではあるが良い感じの結末に仕上がっていた。とはいえ、きっちりと論理的に解説せよと言われると逃げ出すしかないのだが。

コナンさんのときは1時間15分だったということだが今回はちょうど1時間であった。尺稼ぎのタイムリープもどきを省けば45分くらいで終わりそう。

グッドバイ

グッドバイ

東宝・キューブ

シアタークリエ(東京都)

2020/02/04 (火) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★

太宰治の未完のコメディ「グッド・バイ」は起承転結で言えば「承」の初めで終わっている作品だが、それを ケラリーノ・サンドロヴィッチが大幅に補充して戯曲として完成させ上演したのが2015年。原作部分は1時間もないものを3時間に膨らませている。今回はその生瀬勝久演出による再演である。

原作は沢山の愛人との関係を解消するはずが美容師と画家の2人で途切れている。ケラ版は愛人の数を原作よりも多い20数人と煽るので続けて色々な愛人が登場するのか思いきや、女医を登場させただけで「承」は終わりとし、コメディであることをパワーアップして大技の「転」を続け、最後は予定調和的な「結」としている。しかしストーリーそのものはかなりやっつけ仕事で、個々の俳優さんの演技を楽しむべきものだと感じられた。

生瀬さん、もちろん出演もする。冒頭いきなり、主人公の藤木直人さんに無茶振りをしてさすがと思わせる。原作では葬儀の帰り道での会話なのだが、本作では葬儀会場での読経の最中の会話として故人への失礼さを際立たせている。そのためにわざわざ喪服を着た会葬者を10名くらい用意するという力の入れようだ。生瀬さんはここがやりたかったのだろう。藤木さんは真面目で気が弱くそれゆえにどの女性にも別れが言えない色男というお得意の役どころだ。女性陣は真飛聖さんがしっかりした奥さんにピッタリだったが、歌わないソニンさんは魅力半減で大振りの演技が空回りするばかりである。そしてこれだけの人がいるのだからラウンドガール(?)のバイオリン以外にももっと派手に歌い踊って欲しかった。

ところでマチルダアパルトマンの「ばいびー、23区の恋人」って「グッド・バイ」からインスパイアされたのだろうか。「ばいびー…」は本当に23人のところを回って行くので、原作の本来の姿に近いのかもしれない。

少女仮面

少女仮面

トライストーン・エンタテイメント

シアタートラム(東京都)

2020/01/24 (金) ~ 2020/02/09 (日)公演終了

満足度★★★

春日野八千代も甘粕大尉も50年前の人々にはなじみがあったのだろう。私は甘粕には興味があるものの春日野のことはまったく知らない。そして興味がある方の甘粕はただのアイテム扱いである。そういうわけでストーリーに入って行くことが困難であった。じっくり思い返してみてもあれのどこを楽しめば良いのかまるで分からない。
まあしかし、唐十郎作品なのだから大きなストーリーが分からなくても歌やダンスで楽しむことができるだろうと期待したが少人数の短く地味なものではまるで盛り上がらない。
唯一、木崎ゆりあさんの眩しいばかりの若さは大いに楽しむことができた。それはテーマの一部が私にも伝わったということなのだろう。

メアリ・スチュアート

メアリ・スチュアート

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2020/01/27 (月) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★

「メアリ(ー)・スチュアート」が2か所で上演されている。赤坂RED/THEATERのは二人劇だがこちらは17人が登場する普通の芝居である。

二人の女王の愛情、嫉妬、謀略、逡巡、後悔などが錯綜する重いドラマかと思っていたが単純な愛憎劇だった。分かりやすすぎて拍子抜けした。

長谷川京子さんもシルビア・グラブさんも女王の威厳は無く、ベテランの脇役陣に喰われてしまっていた。もっともその脇役陣もテイストが揃わず別の劇の人物が間違って出てきてしまったようなバラバラ感があった。とくにフランス大使が悪目立ちしていて鬱陶しい。また死刑執行書についてのドタバタお笑い劇は何の意味があるのだろうか。

長谷川さんのセリフは少し小さめだがハッキリ聞き取れる。しかし引き込まれない。とくに終盤で神父に最期の告解をする場面ではロボットのようで会話になっていない。そういう演出なのだろうか、不思議だ。

つか版『忠臣蔵』

つか版『忠臣蔵』

パフォーマンスユニットTWT

浅草木馬亭(東京都)

2020/01/22 (水) ~ 2020/01/26 (日)公演終了

満足度★★

つか作品と言えば「熱海殺人事件(売春捜査官)」は私も好きな演目で観るたびに熱量に圧倒される。しかし本作は「忠臣蔵」を誰もが知っていて「つかこうへい」ブランドが輝いていた時代にノリで作った、「忠臣蔵」にちょっとだけ関係した出鱈目な何かなのである。いろいろ演出の工夫で舞台を盛り上げようとする努力は良かった。

歌劇「紅天女」 新作初演

歌劇「紅天女」 新作初演

財団法人日本オペラ振興会 藤原歌劇団/日本オペラ協会

Bunkamuraオーチャードホール(東京都)

2020/01/11 (土) ~ 2020/01/15 (水)公演終了

満足度★★★★★

「阿古夜×紅天女=笠松はる、仏師一真=海道弘昭」の回を観劇

美内みすずの未完の大作「ガラスの仮面」の架空の劇中劇「紅天女」の能に続くオペラによる実現である。「紅天女」は独立した物語であって月影もマヤも亜弓も一切出てこない。「ガラスの仮面」なんて知らないよ、という方でも鑑賞に当たって全く問題はない。

オペラと聞くと構えてしまいそうだが、本作はゆったりと穏やかなもので旋律も馴染みやすく“オペラとミュージカルって何が違うの?”と悩んでしまうくらい普通に楽しめる。そして歌の発声の素晴らしさに感嘆することだろう。どの音も完全にコントロールされていて、ミュージカルではしばしば感じる中途半端な音がまったくない。ここは確かに違う。こういう方々による「ウエストサイドストーリー」も観たいものだ。

時代は室町時代の初め、いわゆる南北朝のころである。二つの朝廷の対立から始まって世は乱れ、人々の生活は明日をも知れないものであった。これを鎮めようと帝は仏師一真に仏像の製作を依頼する。一真はお告げにあった千年の梅の木を探すうちに谷に転落して土地の娘の阿古夜に助けられる。二人は恋に落ちるが、実は阿古夜はその梅の木の精霊であり、仏像の製作は彼女の死を意味するのであった…。物語は二つの朝廷、神と仏、陰と陽、男と女など二項対立を基盤のテーマとして進んで行く。

マンガでは月影の一人芝居だったが、本作は数十人のキャストが登場し、20分の休憩2回を挟んで4時間近くの大作である。衣装も舞台装置もしっかりと作られていて美しい。もちろんオーケストラは完璧である。とくに笛の音が場内の空気を制圧するように響き渡るのが印象的であった。

唯一の難点は、進行のテンポが遅いことである。こちらに次の展開を予想する余裕を与えすぎているために退屈するのである(分かる人には分かるといったポイントがてんこ盛りなのかもしれないが)。ゆったりとして安定した歌声も人によっては単調と感じるかもしれない。そういうわけで、せっかちでないミュージカルファン限定で超お勧めである。

後日追記:退屈したのは暗転が多かったせいもある。場面を削って80分+20分休憩+80分くらいにして欲しい。

<日本キャスト版>ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season1

<日本キャスト版>ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season1

TBS

IHIステージアラウンド東京(東京都)

2019/11/06 (水) ~ 2020/01/13 (月)公演終了

満足度★★★★

配役:蒼井翔太=トニー、笹本玲奈=マリア、三森すずこ=アニータ、上山竜治=リフ、水田航生=ベルナルド

来日キャスト版と全く同じ舞台セット、構成で、単純に英語を日本語にしたものです。少し笑い所を付け加えたような気がしましたが、それは私が英語で冗談を言われても分からなかったからでしょう。

来日キャスト版の方々は何故か男性も女性も皆さん背が低くて、今回の出演者の方がむしろ大柄です。そういうこともあってダンスは見劣りしません。ただ「クール」は緩やかな動きのところでは力と共に気まで抜いてしまったのか生活臭のある動きになっていました。非日常を貫いてほしいものです。

一方の歌は芯がないというか皆さんボヤっとした印象です。マリアはソニア・バルサラさんの破壊的なソプラノのイメージが強烈でしたが、笹本さんはそういう歌声ではないので情感重視ということなのでしょう。男性陣も歌声に艶がありません。その中で三森さんの歌声は力強く輝いていて私の一押しです。

マクベス

マクベス

DULL-COLORED POP

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/12/12 (木) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★

軽快な音楽に乗ったテンポの良い現代の「マクベス」でした。原作の妙にもったいぶったところも大胆にカットしてあってかなり私好みです。およそ90%まで進んで、自分たちの実力は十分に見せつけることができたというところで、お遊びタイムに移って終了です。マクベス夫人の死の知らせがこないと思っていたらそういうことだったんですね。「福島三部作」では抑え気味だったおふざけと政治メッセージを少しだけ発散してみたということでしょう。「たまにはこんなこともさせてよ(テヘペロ)」という調子に感じました。

マクベス夫人の淺場万矢さん、ルックスも色香も演技も痺れました。通常の冷血なマクベス夫人だとちょっと違うかなと言う気がしないでもないですが、このマクベスにはピッタリです。バスタブのシーンは彼女を見て急遽付け加えたのではないでしょうか。あるいはこのシーンをやりたくて女優さんを探しまくったのかも。

私が前から感じていた「妙にもったいぶったところ」はマルコフがマクダフを試すために自分は駄目な奴だとグズグズ言うところと、すぐ次の場面でマクダフの妻子が殺されたことを使者がなかなか言わないところです。

逆に、普通はカットするマクダフ夫人と息子との会話をしっかりやっていました。もっとも息子は手袋人形でしたが。ここだけのために子役を一人使うのは無駄なのでカットするのですが軽妙な作りだとこういう風にできるよというデモンストレーションになっていました。でも双子の赤ん坊を付け加えていたのはどうしてなんでしょう。3人に増やしてもノーコストってことかな?

一番ハッとしたのは最初のキャバクラのシーンです。もしかすると、原作でも魔女というのはメタファーで、実際はマクベスとバンクォーが戦いの帰りに町はずれの飲み屋兼売春宿に寄ってクスリを飲んでの乱交パーティーで見た幻覚のことを言っているのではないかと夢想しました。KAATでなく「スズナリ」なんかだとそういう展開にしたのかも。

正しいオトナたち

正しいオトナたち

テレビ朝日/インプレッション

東京グローブ座(東京都)

2019/12/13 (金) ~ 2019/12/24 (火)公演終了

満足度★★★★

CoRichでもtwitterでもあまり評価が高くなかったのでハードルを下げて行ったせいか、結構楽しめました。8ステージ目で息が合ってきたのかもしれません。

『子どもの喧嘩に大人が出て、初めは礼儀正しいが段々と本性がむき出しになって行く』ということから予想される通りの内容です。政治ネタも人生訓もエロも大きな悲しみも喜びも切れの良い落ちもない、フランス風のちょっと気の利いた喜劇です。あてこすりの言動や無神経な振る舞いとか、豹変ぶり、あるいは4人が話題によってどう2対2に分かれるかなんかが見どころでしょうか。

もしこれを無名の俳優さんが演じたとすると、いかに上手い人でも興味がもてないでしょう。やはり自分のよく知っている有名俳優さんだから楽しめるのです。今回は私は俳優さんに協力して(媚を売って?忖度して?)あまり面白くないところでも笑いましたが、最近の別の芝居では「こんな面白くもないところで笑うなんて俳優にサービスしすぎだ」などと笑っている観客に腹を立てたりもするので勝手なものです(笑)

真矢ミキさん、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」の高飛車で無能な管理官役で私の中では論外の人になったのですが(本当に何であんな変な役で出たのでしょうか、ああでも16年前で時効です)今回は上から目線で嫌味なところも姉さん風で元気一杯のところもあって個性が十分に出ていたと思います。twitterで滑舌が悪いとありましたがそんなことは全くありませんでした。
中嶋朋子さん、可愛く美しい姿は健在でした。かなり悪態もつくし粗相もするのですがそこもまた良いのです。後半でまとめていた髪をほどくと一気にだらしない女になって、女性はこの技があるよねと改めて感心しました。

岡本健一さん、近藤芳正さんももちろん良かったです。←女優陣にくらべて何と雑な記述だ(笑)

東京グローブ座は初めてでした。円形劇場で椅子の配列が美しく、2階3階も舞台を円く囲んでいて外国の劇場を思わせます。

タージマハルの衛兵

タージマハルの衛兵

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/12/02 (月) ~ 2019/12/23 (月)公演終了

満足度★★★

衛兵の会話がつまらないのでしばしば集中力を失った。権力に従順な衛兵と無頓着な衛兵を対置して権力の力の源泉は実は我々の意識が作り出しているのだと言いたいらしい。私にはテキストで読んだ方が分かりやすいと感じられた。

ネタバレBOX

後日記入のメモ:
前半は2万人の職人の手を切り落とす話だが、「2万人を2人で」はどう考えてもあり得ないとしても、多くの人はもっと小規模なものはあったと思うのではないだろうか。しかしウィキペディアの「タージ・マハル」の項は以下のようである。英語版も否定的である。控え目に言っても、事実と考えて歴史の教訓とするのは間違いである。そして観客の誤解を利用して自分の主張を補強する演劇は最低であると私は考える。

*** 引用始め ***
伝説
両手を切り落とされた工匠
タージ・マハル造営を命じられた工匠は、美しいムムターズ・マハルを秘かに慕っている男だったという。彼はその想いを建設に注ぎ、シャー・ジャハーンを満足させる美しい墓廟を完成させた。シャー・ジャハーンが工匠に褒美を取らせようと王宮に呼んだところ、工匠は、墓廟を完成できたことで満足だと答えた。シャー・ジャハーンは男が内に秘めたものに気づき、男に両手を前に出すよう命ずると「これが褒美だ」と剣でその両手を切り落としたという。
*** 引用終わり ***

英語版では Myths のところに
*** 引用始め ***
No evidence exists for claims that describe, often in horrific detail, the deaths, dismemberments and mutilations which Shah Jahan supposedly inflicted on various architects and craftsmen associated with the tomb. Some stories claim that those involved in construction signed contracts committing themselves to have no part in any similar design. Similar claims are made for many famous buildings.
google翻訳:シャー・ジャハンが墓に関連する様々な建築家や職人に与えたと思われる死、切断、切断について、恐ろしいほど詳細に記述している主張の証拠は存在しません。いくつかの話は、建設に携わる人々が、同様の設計に関与しないことを約束する契約に署名したと主張しています。多くの有名な建物についても同様の主張がなされています。
*** 引用終わり ***
ロカビリー☆ジャック

ロカビリー☆ジャック

東宝

シアタークリエ(東京都)

2019/12/05 (木) ~ 2019/12/30 (月)公演終了

満足度★★★★

1950年代後半から60年代前半あたりのロカビリーを中心としたミュージカル。楽曲も含めて日本オリジナルである。どこかで聞いたようなイントロが懐かしく、初めて聞く曲という感じが全くしない。支える生バンドのキレの良さと迫力が素晴らしく、PAもギリギリのところを攻めている。

実力者たちが手堅く作り上げたもので、やや単調ながらもフィナーレにかけて盛り上がって行く。くどさを感じつつも最後は乗せられ押し切られてしまった。

海宝直人さんはいつものカッコ良さと美声で大活躍。ルーシー役の昆夏美さん、悪魔役の吉野圭吾さんも良い。私の一押しは平野綾さん、純情な乙女心を秘めた悪党の女ボスという繊細で大胆な役柄。濃い目の化粧と力強い歌声が嬉しい。ジャック役の屋良朝幸さんはちょっとオヤジ感が出ていたかな。

獣唄

獣唄

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

村井國夫さん降板による休演明けの回を観劇。村井さんは軽度の心筋梗塞から順調に回復とのことで一安心。配役は主役の繁蔵が村井さんから原口健太郎さんになり、原口さんがやっていた花屋の社員山浦は三村晃弘さんに代わっていた。三村さんがやっていた山の地主の親戚の役割は他の方々に分散して割付けたのだろう。

少なくとも前半は粗暴さが目立つ繁蔵は原口さんの役作りが見事にはまって最初からこの人だったとしか思えない。村井さんのおそらく端正さをベースとした演技とはまるで違っていると想像した。もっとも村井さんなら変幻自由、もっと豪快なものだったのかもしれないが。一方の山浦もキーとなる役だが急ごしらえ感はまったくない。

内容は皆さんが書かれている通り、ストーリーも演技も衣装も舞台装置も照明もすべて作り込まれていて圧倒された。マンガで言えば書き込みすぎてほとんど真っ黒になった原哲夫の画のようだ。役者さんでは花屋の社長役の佐藤誓さんのたたずまいが美しく、舞台の品格を一段上げていた。日中戦争もテーマの一つだが重みは観客の解釈に委ねられている。

twitterによると私が大ファンの宮地真緒さんがこの回に来ていたとのこと。おそらく気配を消しているので隣に座っていてもわからないだろうなあ。

ネタバレBOX

yozさんご指摘の件は確かにそうなんですよね。誰かそこはそうじゃなくてこうなんだよという解説をしてくださるとありがたい。
嫌いだ

嫌いだ

ちーちゃん短編をやろうよ

下北沢 スターダスト(東京都)

2019/11/26 (火) ~ 2019/12/05 (木)公演終了

満足度★★★★

Cチームを観劇:
30分の短編2本である。一本は仲良しOL4人組の1人がハワイで結婚式を挙げるので他の3人がビデオレターを作るお話、仮に「OL」としよう。もう一本はTVドラマ(?)の脚本がプロデューサーの介入でどんどんおかしくなるお話、仮に「脚本」としよう。これが「OL」の前半、「脚本」、「OL」の後半の順に進行される。二つの話に関連は無いので演出の実験なのだろう。

「山口ちはる+倉本朋幸」で「下北沢 スターダスト」というとちょうど1年前の「空と東京タワーの隣の隣」を思い出す。ストーリー性が希薄だったので私は馴染めなかったが、今回は違った。「OL」は短編の王道を行っているし、「脚本」は分かりやすいドタバタ喜劇である。逆に言うと「空と…」が好きだった方には期待外れになるかもしれない。
後日追記:「脚本」はあまりにも作風が違うと思ったら、ポスターに作:小路紘史【Cチームの1作品】とあって合点した。

初日のせいか注文をつけたいところもあるが短編のネタバレは避けたい。満足度はおまけして星4つ。
後日追記:注文をつけたかったのは「OL」は「起承転結」の構成になっているが「転」は良いとしても「結」がピタッと決まらなかった点。元々メリハリを付けない演出家さんなのでこんなものなのかな。「脚本」では振り切っていたのだが。

会場がウナギの寝床で両端で演技が行われるのだが、前列に座ると一方が見えずらい。後列壁際の席の方がお勧め。

ネタバレBOX

佐藤千夏さん:ストイックな演技が身上の女優さん。今回も成り切り過ぎて怖いところもあった。
原田樹里さん:ボーイッシュな風貌と柔らかな笑顔が素敵。演技もグー。
三宅里沙さん:こういう枠組みのレギュラー女優さん。安定のクオリティ。最後の詩(茨木のり子「自分の感受性くらい」)の朗読にしびれた。三又又三ギャグは滑り気味(笑)
小山梨奈さん:「脚本」での不倫する人妻がメインだが「OL」でも三股女として最後に登場。明るい色香に乾杯!
『傷だらけのカバディ』

『傷だらけのカバディ』

楽団鹿殺し

あうるすぽっと(東京都)

2019/11/21 (木) ~ 2019/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★

インドの国技であるカバディが2020年東京オリンピックの正式種目となった。これは金メダルを目指す田舎の青年たちの奮闘の物語。王道の青春スポコンお笑いもので、面白いかどうかは演出しだい。で十分に面白かった。

前半はインド映画のように突然の歌と踊りが始まり盛り上げてくれる。後半はオリンピックの試合の様子についつい手に汗を握ってしまった。身体能力の優れた方が多く、また楽器演奏もうまくこなしていて感心した。

ネタバレBOX

当然最後は歌って踊って派手なフィナーレを予想したが力尽きたか、稽古の時間がなかったか、ぱらぱらと俳優さんが集まってきて何となくの終了。ここが決まっていれば満足度は5つ星だったのだが。

ネタバレということでなく事実としては
『カバディは今のところアジアの一部でしか行われていないのでオリンピック競技にはなれない。もちろん東京オリンピックの種目にはなっていない。』
あの出来事

あの出来事

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/11/13 (水) ~ 2019/11/26 (火)公演終了

満足度★★★

2011年7月にノルウェーで一人の犯人が2か所を移動して77人の連続大量殺人事件を起こした。イギリス人の作者はラジオで聴いたこのニュースが頭に残り後に本戯曲を書くこととなった。ということだが、事件は全く異なる設定に書き換えられていて、ほとんど無関係である。

大震災直後で関心が薄かったのだろうかこの事件は私の記憶にはなかった。簡単な予習をして行ったが、そのために演劇的な作為というか作り物感が目立って感じられた。とはいえ無の状態で観れば意味不明の時間が長く続くことになっただろう。こういう実際の事件を基にしながらいろいろ異なった点がある戯曲というものをどうとらえて良いのかがずっと分からないままだ。

小久保寿人さんは嫌味なくらい上手く、犯人や精神科医など多数の人物を演じ分ける。30人の合唱は老若男女混じり合い、外国人の方もいて、多様性を象徴している。冒頭の「グリーン・スリーブズ」はなかなか聞かせてくれる。そういうところは良いのだが。

ネタバレBOX

事件を題材としたものなら普通は事件そのものを描き犯人の動機に迫るということになるだろう。しかし本作はそうではなく(ノルウェーの事件とは全く異なる)事件はその前後の状況が小出しにされ、事件そのものはなかなか出てこない。そして「犯人の動機を知りたいという気持ちが強すぎる一人の被害者」の狂気が主題なのである。長い時間一緒にいたわけではないが一瞬の生死を分ける凝縮された時間を共有したことによる一種のストックホルム症候群なのだろうか。そうであるような、ないような。
8人の女たち

8人の女たち

T-PROJECT

あうるすぽっと(東京都)

2019/11/13 (水) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

初演は1961年のパリ、2002年にはミュージカル映画化もされている。日本では2004年と2011年に上演されている。配役を見ると
2002年:カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアール、ファニー・アルダン、ヴィルジニー・ルドワイヤン、ダニエル・ダリュー、リュディヴィーヌ・サニエ、フィルミーヌ・リシャール
2004年:木の実ナナ、佐藤江梨子、ソニン、喜多道枝、安寿ミラ、岡本麗、毬谷友子、山本陽子
2011年:浅野温子、大地真央、加賀まりこ、戸田恵子、荻野目慶子、牧瀬里穂、マイコ、南沢奈央
という錚々たる顔ぶれで溜息が出る。---参考:ウィキペディア---

YouTubeには2002年の予告編、2011年のオープニングおよびカーテンコール+インタビューがある。

今回はそういう有名女優さんは出ていないが、皆さん安定した演技で8人の癖のある人物を的確に表現している。

あらすじ:会社経営者マルセルは妻、長女、次女、妹、妻の母、妻の妹と二人のメイドの8人と人里離れた邸宅に住んでいた。開始早々マルセルは背中にナイフを刺された状態で発見される。雪が降り電話線も切られ車も故障し、孤立した屋敷の中で犯人捜しの腹の探り合いが始まる。…

あっと驚くようなアイディアはないが適度に笑わせながらサスペンスの雰囲気を高めて行く。ただ謎解きの場面はもう少し盛り上げる演出が欲しかった。満足度は星3つ半

ネタバレBOX

2011年の公演の「観てきた!」を読んでみるとやはり最後の謎解きのところがあっさりしているという感想が多い。語り手を一番若い次女としているから元々そういうものなのかもしれない。オールスターキャストで顔を観るだけで客は満足という作品なのだろう。そういう点ではこの舞台は弱い。

オープニングで妻の母が登場して何かを投げつけて去って行くのだがあれは結局なんだったのだろうか。
マクベス/シェイクスピアシアター・シニア公演

マクベス/シェイクスピアシアター・シニア公演

シェイクスピアシアター

ザ・ポケット(東京都)

2019/11/06 (水) ~ 2019/11/10 (日)公演終了

満足度★★★

魔女のセリフの弱さが気になった。「腹から声を出す」のがこの劇団のモットーなのだから、わざとそうしているはずだ。おそらく不気味さを出すためだと思うが、私には全く良さが分からなかった。劇そのものはしっかりしたものだと思うがオープニングでつまづいてずっと気持ちが入らず楽しめなかった。

注意:CoRichの標題には「シニア公演」とありますが、「マクベス」は本公演でシニア公演は時間も演目も変えて行われます。

ダンス オブ ヴァンパイア

ダンス オブ ヴァンパイア

東宝

帝国劇場(東京都)

2019/11/05 (火) ~ 2019/11/27 (水)公演終了

満足度★★★★★

ゾンビがふらふらと動き回るようなお気楽な作品かと思って二階B席にしたが、嬉しい誤算でサービス精神に溢れた傑作であった。誰でも知っているキラーチューンがないことが残念だがダンス好きには超お勧めである。満足度は星4つ半。75分+25分休憩+85分

まず第一に挙げるべきは舞台セットである。最初に現れるのは二階建てで屋根裏部屋のある宿屋である。客席からは二階に2部屋+バスルームと屋根裏に2部屋が見えている。この建物全体が左右に動き、更に上下したり、二つに割れたりする。これが引っ込んだかと思うと次が出て来て、都合5~6種類もあっただろうか。同じものでも動いたり、壁が付いたり、ちょっと目を離していると別のものに変わっているという印象だ。この舞台美術と照明は今回全面的に改訂したものだという。

細かいサービスとしてはホールで(模型の)蝙蝠が飛んでいたり、会場の通路をヴァンパイヤが歩き回ったりするなど雰囲気作りがなかなか良い。また入り口でカーテンコール用のサイリュームを配っていた。*サイリュームが配布されるのはヴァンパイア・ダンスナイトという特定の公演だけです:
11/6(水) 18:00、11/7(木) 18:30、11/11(月) 18:30、11/21(木) 18:30、11/25(月) 18:30
*11/19(火) 18:30 の回も追加された。他にもあるかも。

基本的なところでは衣装は多彩で美しく、PAの調整が良くて歌詞が明瞭に聞こえ、生オーケストラは圧巻の迫力であった。

主役の山口祐一郎さんの歌は、最近山口節が鼻について私の中の評価が下がり気味だったが、後半の「神は死んだ」を聞いて私が間違ってましたと土下座したい気分になった。桜井玲香さんは曲によって声の弱さが長所になるものと短所になるものがあって星4つと星2つくらいの違いがある。声質は美しいので声量を増して観客を唸らせて欲しいものだ。

そして、この舞台の私の一番の押しはヴァンパイア・シンガーズ+ヴァンパイア・ダンサーズ+アンサンブルのダンサーさん達である。合唱が力強く決まり、踊りは(揃いきれていないところもあったが)キレッキレの素晴らしいものであった。「スリラー」を思わせるような墓場のダンスもあって、「スリラー」とはまるで違うものだが、大いに楽しむことができた。

カーテンコールでは簡単な振付けで全員でサイリューム(配られたのはルミカライト)を振った。初めてなので使い方を検索したが、折るときに真っ二つにして液漏れしたらどうしようと心配だった(笑)

死に顔ピース

死に顔ピース

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2019/10/24 (木) ~ 2019/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

本当にうまく出来ているなあと唸ってしまった。構成、演出、演技すべてがピタッとはまっている。ただ、お話は全くよくわかるのだが、私自身は都会のマンションの片隅で一人静かに死にたいという思いを強くした。在宅医療よりネット医療が良いし、ロボット看護・介護も早くお願いしたい。

場面転換ではマイケル・ジャクソンかボブ・フォッシーかというようなstop&go的な切れの良い動きが披露される(かなり盛ってます)。オープニングではいくつかのパターンを連続して行うが、それは立派なダンスパフォーマンスになっている。こういう無機的な動きが人間の生死という真逆なものとうまく調和して全体の雰囲気を作っている。クラウンが帽子を下から投げて上で受け止めるのは "Steam Heat"にあるやつで帽子の回転も飛距離も十分で見事に決まっていた。ボブ・フォッシーと書いたのはこれで思い出したのだった。

以下独り言:30乃至50歳代で癌に冒された方は本当に大変だ。癌になったら儲かるくらいの支援があっても良いと思う。一方で70歳以上の方は自然な成り行きなのだから治療などせずに緩和ケアに徹するべきだ。むしろ癌になったことを感謝するくらいの気概を持とう。そして最期はNHKでやっていたオランダでの安楽死のように「皆さん、さようなら」でクスリを入れた点滴の栓を自分で開けて穏やかに消えて行きたいものだ。

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