メアリ・スチュアート
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2020/01/27 (月) ~ 2020/02/16 (日)公演終了
満足度★★★
「メアリ(ー)・スチュアート」が2か所で上演されている。赤坂RED/THEATERのは二人劇だがこちらは17人が登場する普通の芝居である。
二人の女王の愛情、嫉妬、謀略、逡巡、後悔などが錯綜する重いドラマかと思っていたが単純な愛憎劇だった。分かりやすすぎて拍子抜けした。
長谷川京子さんもシルビア・グラブさんも女王の威厳は無く、ベテランの脇役陣に喰われてしまっていた。もっともその脇役陣もテイストが揃わず別の劇の人物が間違って出てきてしまったようなバラバラ感があった。とくにフランス大使が悪目立ちしていて鬱陶しい。また死刑執行書についてのドタバタお笑い劇は何の意味があるのだろうか。
長谷川さんのセリフは少し小さめだがハッキリ聞き取れる。しかし引き込まれない。とくに終盤で神父に最期の告解をする場面ではロボットのようで会話になっていない。そういう演出なのだろうか、不思議だ。
つか版『忠臣蔵』
パフォーマンスユニットTWT
浅草木馬亭(東京都)
2020/01/22 (水) ~ 2020/01/26 (日)公演終了
満足度★★
つか作品と言えば「熱海殺人事件(売春捜査官)」は私も好きな演目で観るたびに熱量に圧倒される。しかし本作は「忠臣蔵」を誰もが知っていて「つかこうへい」ブランドが輝いていた時代にノリで作った、「忠臣蔵」にちょっとだけ関係した出鱈目な何かなのである。いろいろ演出の工夫で舞台を盛り上げようとする努力は良かった。
歌劇「紅天女」 新作初演
財団法人日本オペラ振興会 藤原歌劇団/日本オペラ協会
Bunkamuraオーチャードホール(東京都)
2020/01/11 (土) ~ 2020/01/15 (水)公演終了
満足度★★★★★
「阿古夜×紅天女=笠松はる、仏師一真=海道弘昭」の回を観劇
美内みすずの未完の大作「ガラスの仮面」の架空の劇中劇「紅天女」の能に続くオペラによる実現である。「紅天女」は独立した物語であって月影もマヤも亜弓も一切出てこない。「ガラスの仮面」なんて知らないよ、という方でも鑑賞に当たって全く問題はない。
オペラと聞くと構えてしまいそうだが、本作はゆったりと穏やかなもので旋律も馴染みやすく“オペラとミュージカルって何が違うの?”と悩んでしまうくらい普通に楽しめる。そして歌の発声の素晴らしさに感嘆することだろう。どの音も完全にコントロールされていて、ミュージカルではしばしば感じる中途半端な音がまったくない。ここは確かに違う。こういう方々による「ウエストサイドストーリー」も観たいものだ。
時代は室町時代の初め、いわゆる南北朝のころである。二つの朝廷の対立から始まって世は乱れ、人々の生活は明日をも知れないものであった。これを鎮めようと帝は仏師一真に仏像の製作を依頼する。一真はお告げにあった千年の梅の木を探すうちに谷に転落して土地の娘の阿古夜に助けられる。二人は恋に落ちるが、実は阿古夜はその梅の木の精霊であり、仏像の製作は彼女の死を意味するのであった…。物語は二つの朝廷、神と仏、陰と陽、男と女など二項対立を基盤のテーマとして進んで行く。
マンガでは月影の一人芝居だったが、本作は数十人のキャストが登場し、20分の休憩2回を挟んで4時間近くの大作である。衣装も舞台装置もしっかりと作られていて美しい。もちろんオーケストラは完璧である。とくに笛の音が場内の空気を制圧するように響き渡るのが印象的であった。
唯一の難点は、進行のテンポが遅いことである。こちらに次の展開を予想する余裕を与えすぎているために退屈するのである(分かる人には分かるといったポイントがてんこ盛りなのかもしれないが)。ゆったりとして安定した歌声も人によっては単調と感じるかもしれない。そういうわけで、せっかちでないミュージカルファン限定で超お勧めである。
後日追記:退屈したのは暗転が多かったせいもある。場面を削って80分+20分休憩+80分くらいにして欲しい。
<日本キャスト版>ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season1
TBS
IHIステージアラウンド東京(東京都)
2019/11/06 (水) ~ 2020/01/13 (月)公演終了
満足度★★★★
配役:蒼井翔太=トニー、笹本玲奈=マリア、三森すずこ=アニータ、上山竜治=リフ、水田航生=ベルナルド
来日キャスト版と全く同じ舞台セット、構成で、単純に英語を日本語にしたものです。少し笑い所を付け加えたような気がしましたが、それは私が英語で冗談を言われても分からなかったからでしょう。
来日キャスト版の方々は何故か男性も女性も皆さん背が低くて、今回の出演者の方がむしろ大柄です。そういうこともあってダンスは見劣りしません。ただ「クール」は緩やかな動きのところでは力と共に気まで抜いてしまったのか生活臭のある動きになっていました。非日常を貫いてほしいものです。
一方の歌は芯がないというか皆さんボヤっとした印象です。マリアはソニア・バルサラさんの破壊的なソプラノのイメージが強烈でしたが、笹本さんはそういう歌声ではないので情感重視ということなのでしょう。男性陣も歌声に艶がありません。その中で三森さんの歌声は力強く輝いていて私の一押しです。
マクベス
DULL-COLORED POP
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2019/12/12 (木) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★
軽快な音楽に乗ったテンポの良い現代の「マクベス」でした。原作の妙にもったいぶったところも大胆にカットしてあってかなり私好みです。およそ90%まで進んで、自分たちの実力は十分に見せつけることができたというところで、お遊びタイムに移って終了です。マクベス夫人の死の知らせがこないと思っていたらそういうことだったんですね。「福島三部作」では抑え気味だったおふざけと政治メッセージを少しだけ発散してみたということでしょう。「たまにはこんなこともさせてよ(テヘペロ)」という調子に感じました。
マクベス夫人の淺場万矢さん、ルックスも色香も演技も痺れました。通常の冷血なマクベス夫人だとちょっと違うかなと言う気がしないでもないですが、このマクベスにはピッタリです。バスタブのシーンは彼女を見て急遽付け加えたのではないでしょうか。あるいはこのシーンをやりたくて女優さんを探しまくったのかも。
私が前から感じていた「妙にもったいぶったところ」はマルコフがマクダフを試すために自分は駄目な奴だとグズグズ言うところと、すぐ次の場面でマクダフの妻子が殺されたことを使者がなかなか言わないところです。
逆に、普通はカットするマクダフ夫人と息子との会話をしっかりやっていました。もっとも息子は手袋人形でしたが。ここだけのために子役を一人使うのは無駄なのでカットするのですが軽妙な作りだとこういう風にできるよというデモンストレーションになっていました。でも双子の赤ん坊を付け加えていたのはどうしてなんでしょう。3人に増やしてもノーコストってことかな?
一番ハッとしたのは最初のキャバクラのシーンです。もしかすると、原作でも魔女というのはメタファーで、実際はマクベスとバンクォーが戦いの帰りに町はずれの飲み屋兼売春宿に寄ってクスリを飲んでの乱交パーティーで見た幻覚のことを言っているのではないかと夢想しました。KAATでなく「スズナリ」なんかだとそういう展開にしたのかも。
正しいオトナたち
テレビ朝日/インプレッション
東京グローブ座(東京都)
2019/12/13 (金) ~ 2019/12/24 (火)公演終了
満足度★★★★
CoRichでもtwitterでもあまり評価が高くなかったのでハードルを下げて行ったせいか、結構楽しめました。8ステージ目で息が合ってきたのかもしれません。
『子どもの喧嘩に大人が出て、初めは礼儀正しいが段々と本性がむき出しになって行く』ということから予想される通りの内容です。政治ネタも人生訓もエロも大きな悲しみも喜びも切れの良い落ちもない、フランス風のちょっと気の利いた喜劇です。あてこすりの言動や無神経な振る舞いとか、豹変ぶり、あるいは4人が話題によってどう2対2に分かれるかなんかが見どころでしょうか。
もしこれを無名の俳優さんが演じたとすると、いかに上手い人でも興味がもてないでしょう。やはり自分のよく知っている有名俳優さんだから楽しめるのです。今回は私は俳優さんに協力して(媚を売って?忖度して?)あまり面白くないところでも笑いましたが、最近の別の芝居では「こんな面白くもないところで笑うなんて俳優にサービスしすぎだ」などと笑っている観客に腹を立てたりもするので勝手なものです(笑)
真矢ミキさん、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」の高飛車で無能な管理官役で私の中では論外の人になったのですが(本当に何であんな変な役で出たのでしょうか、ああでも16年前で時効です)今回は上から目線で嫌味なところも姉さん風で元気一杯のところもあって個性が十分に出ていたと思います。twitterで滑舌が悪いとありましたがそんなことは全くありませんでした。
中嶋朋子さん、可愛く美しい姿は健在でした。かなり悪態もつくし粗相もするのですがそこもまた良いのです。後半でまとめていた髪をほどくと一気にだらしない女になって、女性はこの技があるよねと改めて感心しました。
岡本健一さん、近藤芳正さんももちろん良かったです。←女優陣にくらべて何と雑な記述だ(笑)
東京グローブ座は初めてでした。円形劇場で椅子の配列が美しく、2階3階も舞台を円く囲んでいて外国の劇場を思わせます。
タージマハルの衛兵
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/12/02 (月) ~ 2019/12/23 (月)公演終了
満足度★★★
衛兵の会話がつまらないのでしばしば集中力を失った。権力に従順な衛兵と無頓着な衛兵を対置して権力の力の源泉は実は我々の意識が作り出しているのだと言いたいらしい。私にはテキストで読んだ方が分かりやすいと感じられた。
ロカビリー☆ジャック
東宝
シアタークリエ(東京都)
2019/12/05 (木) ~ 2019/12/30 (月)公演終了
満足度★★★★
1950年代後半から60年代前半あたりのロカビリーを中心としたミュージカル。楽曲も含めて日本オリジナルである。どこかで聞いたようなイントロが懐かしく、初めて聞く曲という感じが全くしない。支える生バンドのキレの良さと迫力が素晴らしく、PAもギリギリのところを攻めている。
実力者たちが手堅く作り上げたもので、やや単調ながらもフィナーレにかけて盛り上がって行く。くどさを感じつつも最後は乗せられ押し切られてしまった。
海宝直人さんはいつものカッコ良さと美声で大活躍。ルーシー役の昆夏美さん、悪魔役の吉野圭吾さんも良い。私の一押しは平野綾さん、純情な乙女心を秘めた悪党の女ボスという繊細で大胆な役柄。濃い目の化粧と力強い歌声が嬉しい。ジャック役の屋良朝幸さんはちょっとオヤジ感が出ていたかな。
獣唄
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2019/12/03 (火) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
村井國夫さん降板による休演明けの回を観劇。村井さんは軽度の心筋梗塞から順調に回復とのことで一安心。配役は主役の繁蔵が村井さんから原口健太郎さんになり、原口さんがやっていた花屋の社員山浦は三村晃弘さんに代わっていた。三村さんがやっていた山の地主の親戚の役割は他の方々に分散して割付けたのだろう。
少なくとも前半は粗暴さが目立つ繁蔵は原口さんの役作りが見事にはまって最初からこの人だったとしか思えない。村井さんのおそらく端正さをベースとした演技とはまるで違っていると想像した。もっとも村井さんなら変幻自由、もっと豪快なものだったのかもしれないが。一方の山浦もキーとなる役だが急ごしらえ感はまったくない。
内容は皆さんが書かれている通り、ストーリーも演技も衣装も舞台装置も照明もすべて作り込まれていて圧倒された。マンガで言えば書き込みすぎてほとんど真っ黒になった原哲夫の画のようだ。役者さんでは花屋の社長役の佐藤誓さんのたたずまいが美しく、舞台の品格を一段上げていた。日中戦争もテーマの一つだが重みは観客の解釈に委ねられている。
twitterによると私が大ファンの宮地真緒さんがこの回に来ていたとのこと。おそらく気配を消しているので隣に座っていてもわからないだろうなあ。
嫌いだ
ちーちゃん短編をやろうよ
下北沢 スターダスト(東京都)
2019/11/26 (火) ~ 2019/12/05 (木)公演終了
満足度★★★★
Cチームを観劇:
30分の短編2本である。一本は仲良しOL4人組の1人がハワイで結婚式を挙げるので他の3人がビデオレターを作るお話、仮に「OL」としよう。もう一本はTVドラマ(?)の脚本がプロデューサーの介入でどんどんおかしくなるお話、仮に「脚本」としよう。これが「OL」の前半、「脚本」、「OL」の後半の順に進行される。二つの話に関連は無いので演出の実験なのだろう。
「山口ちはる+倉本朋幸」で「下北沢 スターダスト」というとちょうど1年前の「空と東京タワーの隣の隣」を思い出す。ストーリー性が希薄だったので私は馴染めなかったが、今回は違った。「OL」は短編の王道を行っているし、「脚本」は分かりやすいドタバタ喜劇である。逆に言うと「空と…」が好きだった方には期待外れになるかもしれない。
後日追記:「脚本」はあまりにも作風が違うと思ったら、ポスターに作:小路紘史【Cチームの1作品】とあって合点した。
初日のせいか注文をつけたいところもあるが短編のネタバレは避けたい。満足度はおまけして星4つ。
後日追記:注文をつけたかったのは「OL」は「起承転結」の構成になっているが「転」は良いとしても「結」がピタッと決まらなかった点。元々メリハリを付けない演出家さんなのでこんなものなのかな。「脚本」では振り切っていたのだが。
会場がウナギの寝床で両端で演技が行われるのだが、前列に座ると一方が見えずらい。後列壁際の席の方がお勧め。
『傷だらけのカバディ』
楽団鹿殺し
あうるすぽっと(東京都)
2019/11/21 (木) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★
インドの国技であるカバディが2020年東京オリンピックの正式種目となった。これは金メダルを目指す田舎の青年たちの奮闘の物語。王道の青春スポコンお笑いもので、面白いかどうかは演出しだい。で十分に面白かった。
前半はインド映画のように突然の歌と踊りが始まり盛り上げてくれる。後半はオリンピックの試合の様子についつい手に汗を握ってしまった。身体能力の優れた方が多く、また楽器演奏もうまくこなしていて感心した。
あの出来事
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/11/13 (水) ~ 2019/11/26 (火)公演終了
満足度★★★
2011年7月にノルウェーで一人の犯人が2か所を移動して77人の連続大量殺人事件を起こした。イギリス人の作者はラジオで聴いたこのニュースが頭に残り後に本戯曲を書くこととなった。ということだが、事件は全く異なる設定に書き換えられていて、ほとんど無関係である。
大震災直後で関心が薄かったのだろうかこの事件は私の記憶にはなかった。簡単な予習をして行ったが、そのために演劇的な作為というか作り物感が目立って感じられた。とはいえ無の状態で観れば意味不明の時間が長く続くことになっただろう。こういう実際の事件を基にしながらいろいろ異なった点がある戯曲というものをどうとらえて良いのかがずっと分からないままだ。
小久保寿人さんは嫌味なくらい上手く、犯人や精神科医など多数の人物を演じ分ける。30人の合唱は老若男女混じり合い、外国人の方もいて、多様性を象徴している。冒頭の「グリーン・スリーブズ」はなかなか聞かせてくれる。そういうところは良いのだが。
8人の女たち
T-PROJECT
あうるすぽっと(東京都)
2019/11/13 (水) ~ 2019/11/17 (日)公演終了
満足度★★★★
初演は1961年のパリ、2002年にはミュージカル映画化もされている。日本では2004年と2011年に上演されている。配役を見ると
2002年:カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアール、ファニー・アルダン、ヴィルジニー・ルドワイヤン、ダニエル・ダリュー、リュディヴィーヌ・サニエ、フィルミーヌ・リシャール
2004年:木の実ナナ、佐藤江梨子、ソニン、喜多道枝、安寿ミラ、岡本麗、毬谷友子、山本陽子
2011年:浅野温子、大地真央、加賀まりこ、戸田恵子、荻野目慶子、牧瀬里穂、マイコ、南沢奈央
という錚々たる顔ぶれで溜息が出る。---参考:ウィキペディア---
YouTubeには2002年の予告編、2011年のオープニングおよびカーテンコール+インタビューがある。
今回はそういう有名女優さんは出ていないが、皆さん安定した演技で8人の癖のある人物を的確に表現している。
あらすじ:会社経営者マルセルは妻、長女、次女、妹、妻の母、妻の妹と二人のメイドの8人と人里離れた邸宅に住んでいた。開始早々マルセルは背中にナイフを刺された状態で発見される。雪が降り電話線も切られ車も故障し、孤立した屋敷の中で犯人捜しの腹の探り合いが始まる。…
あっと驚くようなアイディアはないが適度に笑わせながらサスペンスの雰囲気を高めて行く。ただ謎解きの場面はもう少し盛り上げる演出が欲しかった。満足度は星3つ半
マクベス/シェイクスピアシアター・シニア公演
シェイクスピアシアター
ザ・ポケット(東京都)
2019/11/06 (水) ~ 2019/11/10 (日)公演終了
満足度★★★
魔女のセリフの弱さが気になった。「腹から声を出す」のがこの劇団のモットーなのだから、わざとそうしているはずだ。おそらく不気味さを出すためだと思うが、私には全く良さが分からなかった。劇そのものはしっかりしたものだと思うがオープニングでつまづいてずっと気持ちが入らず楽しめなかった。
注意:CoRichの標題には「シニア公演」とありますが、「マクベス」は本公演でシニア公演は時間も演目も変えて行われます。
ダンス オブ ヴァンパイア
東宝
帝国劇場(東京都)
2019/11/05 (火) ~ 2019/11/27 (水)公演終了
満足度★★★★★
ゾンビがふらふらと動き回るようなお気楽な作品かと思って二階B席にしたが、嬉しい誤算でサービス精神に溢れた傑作であった。誰でも知っているキラーチューンがないことが残念だがダンス好きには超お勧めである。満足度は星4つ半。75分+25分休憩+85分
まず第一に挙げるべきは舞台セットである。最初に現れるのは二階建てで屋根裏部屋のある宿屋である。客席からは二階に2部屋+バスルームと屋根裏に2部屋が見えている。この建物全体が左右に動き、更に上下したり、二つに割れたりする。これが引っ込んだかと思うと次が出て来て、都合5~6種類もあっただろうか。同じものでも動いたり、壁が付いたり、ちょっと目を離していると別のものに変わっているという印象だ。この舞台美術と照明は今回全面的に改訂したものだという。
細かいサービスとしてはホールで(模型の)蝙蝠が飛んでいたり、会場の通路をヴァンパイヤが歩き回ったりするなど雰囲気作りがなかなか良い。また入り口でカーテンコール用のサイリュームを配っていた。*サイリュームが配布されるのはヴァンパイア・ダンスナイトという特定の公演だけです:
11/6(水) 18:00、11/7(木) 18:30、11/11(月) 18:30、11/21(木) 18:30、11/25(月) 18:30
*11/19(火) 18:30 の回も追加された。他にもあるかも。
基本的なところでは衣装は多彩で美しく、PAの調整が良くて歌詞が明瞭に聞こえ、生オーケストラは圧巻の迫力であった。
主役の山口祐一郎さんの歌は、最近山口節が鼻について私の中の評価が下がり気味だったが、後半の「神は死んだ」を聞いて私が間違ってましたと土下座したい気分になった。桜井玲香さんは曲によって声の弱さが長所になるものと短所になるものがあって星4つと星2つくらいの違いがある。声質は美しいので声量を増して観客を唸らせて欲しいものだ。
そして、この舞台の私の一番の押しはヴァンパイア・シンガーズ+ヴァンパイア・ダンサーズ+アンサンブルのダンサーさん達である。合唱が力強く決まり、踊りは(揃いきれていないところもあったが)キレッキレの素晴らしいものであった。「スリラー」を思わせるような墓場のダンスもあって、「スリラー」とはまるで違うものだが、大いに楽しむことができた。
カーテンコールでは簡単な振付けで全員でサイリューム(配られたのはルミカライト)を振った。初めてなので使い方を検索したが、折るときに真っ二つにして液漏れしたらどうしようと心配だった(笑)
死に顔ピース
ワンツーワークス
ザ・ポケット(東京都)
2019/10/24 (木) ~ 2019/11/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
本当にうまく出来ているなあと唸ってしまった。構成、演出、演技すべてがピタッとはまっている。ただ、お話は全くよくわかるのだが、私自身は都会のマンションの片隅で一人静かに死にたいという思いを強くした。在宅医療よりネット医療が良いし、ロボット看護・介護も早くお願いしたい。
場面転換ではマイケル・ジャクソンかボブ・フォッシーかというようなstop&go的な切れの良い動きが披露される(かなり盛ってます)。オープニングではいくつかのパターンを連続して行うが、それは立派なダンスパフォーマンスになっている。こういう無機的な動きが人間の生死という真逆なものとうまく調和して全体の雰囲気を作っている。クラウンが帽子を下から投げて上で受け止めるのは "Steam Heat"にあるやつで帽子の回転も飛距離も十分で見事に決まっていた。ボブ・フォッシーと書いたのはこれで思い出したのだった。
以下独り言:30乃至50歳代で癌に冒された方は本当に大変だ。癌になったら儲かるくらいの支援があっても良いと思う。一方で70歳以上の方は自然な成り行きなのだから治療などせずに緩和ケアに徹するべきだ。むしろ癌になったことを感謝するくらいの気概を持とう。そして最期はNHKでやっていたオランダでの安楽死のように「皆さん、さようなら」でクスリを入れた点滴の栓を自分で開けて穏やかに消えて行きたいものだ。
~崩壊シリーズ~「派」
エイベックス・エンタテインメント / シーエイティプロデュース
俳優座劇場(東京都)
2019/10/18 (金) ~ 2019/11/04 (月)公演終了
CoRichの「説明」を読んでシリアスなものを想像していたら、真逆のドタバタ喜劇だった。チラシを見たら大きくそう書いてあるではないか。しっかりしろよ→自分。
気を取り直して、元を取ろうと観始めたが、音響係が音飛びを叩いて直すという昭和のギャグに気を失い、目が覚めたら終わっていた。満足度は判定不能。
会議
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/10/25 (金) ~ 2019/10/30 (水)公演終了
満足度★★★★★
別役実偉い!星5つ!戯曲が素晴らしいので誰が演じても面白いのかもしれないが、研修生の出しゃばらない演技はこの奇妙な味わいをストレートに伝えてくれる。演技を合わせても星5つ以外にありえない。十分楽しませてもらった。
昨今は「民主主義ってこの先も機能するの?」というのが世界的な心配事になっている。もっとも、その基本である会議(とか選挙とか)がそもそも機能するのかというのは昔から誰もが持つ疑問であったから当然の成り行きではある。会議劇では会議をマウンティング合戦として描く。最近なら「ナイゲン」が代表的だ。「ナイゲン」は会話のプロレスに徹しているが、70年代に書かれた本作は社会的な(ただし本作は政治的ではない)メッセージを提示せずにはいられない。フフとかムフとかウーンとかウームとかつぶやきながら少し笑って少し考え、最後は無言となる、そういう演劇を観たい人には超お勧めである。
ラヴズ・レイバーズ・ロスト ―恋の骨折り損―
東宝
シアタークリエ(東京都)
2019/10/01 (火) ~ 2019/10/25 (金)公演終了
満足度★★★
会場は若い人が主体だがお年寄りも多い、男性も2~3割はいるようだ。俳優さんはいろいろなジャンル(TV、映画、声優、ミュージカル、元宝塚、アイドル)の若い方が多いのでファンが来ているのだろう。飛び交う会話を聞いていると3回、4回のリピーターが若い人に沢山いるようで驚く。年配の方はシェークスピアだからということなのか。
皆さん歌はまあまあ上手いのだが好き勝手に歌うので調子がバラバラで聴いていて疲れてしまった。それ以外は良く出来たステージだと思うが、特に惹かれる所もなくいつの間にか終わっていた。
何も残らなかったので、観劇後に松岡和子「深読みシェイクスピア」を開いてみた。そこで紹介されている9編は「ハムレット」を初めとするいずれも人気作であるのだが、何故かそこに不人気作と言われる「恋の骨折り損」が紛れ込んでいるのである。この本の内容で私が興味を持った部分をまとめると以下のようになる。
このナヴァール国というのは現在のフランスとスペインの国境付近に当時実在した王国でその王がフランス王になったのがアンリ4世(在位1589-1610)である(彼が出したナントの勅令(1598)はカトリックとプロテスタントの戦いに一応の終止符を打ったことで有名)。アカデミーを作ったのも事実。フランス王女マルグリッドと結婚もしている。その後離婚してからマルグリッドが持参金の精算に王のところを訪問したことが冒頭の話の原型らしい。4人の男が無意味な厳しい誓約をするのは王が宗旨替えを繰り返したことへの含みがあるのかもしれない。当時流行ったクリストファー・マーロウの戯曲「パリの大虐殺」にはナヴァール王とその敵デュメイン公爵が出てくる。他の側近も実在の敵味方の人物の名前を借用している。ちなみに奇妙なスペイン人アーマードとは無敵艦隊(アルマダ)を揶揄するもの(アルマダの海戦でイングランド軍が勝利したのは1588年)。1595年頃に書かれた「恋の骨折り損」もカトリックとプロテスタントの争いの時代の話なのであるがそういう話は一切出てこない。
ヒット演劇に便乗して当時の有名人をからかったのだろうか。何百年も後から観るとなんじゃこりゃになるのは自然なことだと納得することにした。
不機嫌な女神たちプラス1
エイベックス・エンタテインメント
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/10/19 (土) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★
CoRichの常連の方々はこういうのは行かないだろうなあ。私も私が勝手に決めた「死ぬ前に生のお姿を拝見したい女優さん100人」の中の和久井映見さん、羽田美智子さんが出演されているがためにポチってしまったのだ。
アラフィフの女性3人と男性1名の恋愛などを巡るドタバタ喜劇である。男女4人の人間関係劇という点では前日観た「終夜」と同じである。もちろん比べるようなものでは全くないが何かの縁と無理に振り返ってみると、一方はストレスが張りつめたまま終わり、一方は一時的な軽いストレスが予定調和的に解消されて終わる。演技も一方はいつもとは違う大きな負荷がかかるものであるが、一方はいつもの持ち味をそのまま発揮するものである。もちろんどちらもプロのお仕事であった。
和久井さんも羽田さんも私にはアラサーにしか見えなかった。そういう点では満足度大。