タッキーの観てきた!クチコミ一覧

161-180件 / 2115件中
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い!〈R15指定〉 千穐楽観劇
新宿シアター・ミラクルの(ラブ)ホテル・シリーズ、この劇場の最後を飾るのに相応しい公演。
シリーズ過去作と新作の5本立…<面白がってもらえる、観せてナンボ>、つまりサービスに徹した作品を厳選している。描写や状況設定がバラエティに富んでおり、観客の興味を逸らせない構成が巧い。ラブホという謂わば禁断の空間、そこに居るのは男・女もしくは女・女という極めて少数(基本は二人芝居)で、彼ら彼女らの個々の性格をしっかり描き、裸になった人間の本性を曝け出させる。

ホテル・ミラクル…身体を観ず 言葉を交わさなくとも、彼・彼女の裸を思い浮かべという、本来はその甘美な刺激を空想に求めるところ。が、そこは舞台、覗き疼いてしまうという背徳感に酔う。そして物語の肝は、シャレた会話にある。その内容は人物の血肉となり肉体化し、どこにでも居そうな人物像を立ち上げる。普通の人々の秘密めいたコトゆえに 一層覗き観たい欲望=人間の本性、その欲求を上手く発散させる。

男女はもともと互いに魅かれあう存在。しかし人には建前のような取り繕い、個人的・社会的な様々な制約に心が縛られ、自由な<性>を楽しむことが出来ない。その もどかしい気持を解放する、そんなエネルギーを感じさせる好演。各作家による短編だから引き出しが多いのは当たり前だが、どの引き出しも優れており、それを巧く構成した演出(池田智哉 氏)が見事だ。これがラストだと思うと残念!
(上演時間2時間45分 途中休憩5分)【STAY ver】

ネタバレBOX

入口側に磨ガラスのシャワールーム。舞台美術は、壁際にミニテーブルと椅子2脚。中央にベット、サイドテーブル、ソファーが置かれている。テーブル・ソファ下の照明が室内を妖しく(ブルーに)照らす。
客席はL字型。ベットを横から、そしてシャワールームで着替える姿を観るには、奥角の席に座る方が観やすいと思い、【REST ver】の時と同じ場所に座る。
前説「ホンバンの前にThe Final」(池田智哉 氏)は女 女レズビアンがベットで交わす会話…携帯電話電源off、飲食禁止などの諸注意。既に始まっているので、トイレの話はなし。

①「THE WORLD IS YONCHAN’s」(河村慎也)
高校時代から好きだったヨンちゃんと酔った勢いでヤッたチェリ男。二人(下着姿)とも昨晩のことは全然覚えていないが、チェリ男は喜び舞い上がっている。一方 ヨンちゃんは元カレの先輩と経験しており落ち着いている。もしかしたら先輩が薬を仕込み、二人を前後不覚にしたのでは、との疑心暗鬼。チェリ男は絶体 ヨンちゃんを守ると意気込む。まさに純情青春ドラマ。

②「噛痕と飛べ」(加糖熱量)
女性(チーコとユキ)のお笑いコンビ、チーコがラブホでネタを考え書いている。それを見守る男 カナイ、実はチーコから頼まれサボらないか監視している。隠微な雰囲気に思わせぶりな態度、にも関わらず醒めた会話に終始する。女同士のコンビは解消まじか、いつもユキがネタを考えているが、最後にチーコが。ラブホへユキが現れ3人の不毛とも思える会話が…。カナイの思いが滲み出る熱血ドラマ風。

③「愛(がない)と平和」(古川貴義)
W不倫をしている男(平和)と女(愛)がベットの上で交わす甘美で濃密な会話。この世に男女の営み=愛という概念 がなければ、面倒な諍い・・嫉妬や浮気に悶々とした感情が起きない。が、やはり男と女という生理的に分かり合えない不思議な魅力を手放せない。愛が言う、子供ができたの…でも心配しなくてもいいわ 堕すわよ。リアルな会話は夜な夜な何処かで交わされているであろう 大人の会話(下着にバスローブが生々しい)。

④「スーパーアニマル」(ハセガワ アユム)
欲望(制服フェチ)に溺れた妻帯者の中年男 菅原、彼が夢中になっているのが聖花という若い女性。彼女とは援助交際、好きが高じて彼女の写真をエロ雑誌「スーパーアニマル図鑑」に投稿している。彼女は援助交際の他にコンビニでバイトをしており、店に内緒でビニールを破りエロ雑誌を見ていた。菅原の熱き思いを知れば知るほど切なさが、そして 聖花は そろそろ別れようとするが…(制服への生着替えがエロい)。

⑤「最後の奇蹟(最終形)」(フジタ タイセイ)
男と女の 「(眩しく光る)アイツが落ちてきたらいいのに」という投げやりな会話…初めて会ったのに、以前 何処かで逢ったかも知れない。SF地球最後の日のような…明日は来ないという走馬燈のように駆け巡る回想が切ない。周囲に馴染めずブルーハーツばかり聴いていた、その魘されたかのような台詞が迷える青春イメージ。この世(地)は一度清算して…は新宿シアターミラクルの再生を連想させる(終始 地響きのような不穏音が聞こえる)。

多くの良作を上演し続けた新宿シアターミラクル、またどこかで…。
キューちゃんは僕を探さない

キューちゃんは僕を探さない

projecttiyo / 藤井ちより

元映画館(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

未見の団体、元映画館も初めて。
ダークファンタジー系にして心象劇のよう。なかなか手強い観せ方をする。かと言って見巧者向けという訳でもない。

説明にあるピアノを擬人化し、永い旅物語を抒情的に紡ぐ。少しネタバレするが、キューちゃんとは擬人化したピアノの名前というか愛称。そして僕との対話を通して生と死、自然摂理、食物連鎖といった漠然とした心の彷徨が始まる と思うのだが…。そこに第三者もしくはキューちゃん との因縁があるモノが絡み、今いる空間(部屋)と外の世界が歪に捻じれ狂気を孕んだ様相を見せる。

会場は元映画館、その構造を巧く利用した観せ方によって違った感覚(劇中劇)に陥りそう。いや そうかもしれない といった物語の結末がふわふわして つかめない。敢えて そう観せているのか、脚本(内容)が未消化なのか、または自分が解らないのか、その意味で手強い。
(上演時間1時間25分 途中休憩なし)
♪北 みれい さんver♪

ネタバレBOX

舞台美術、冒頭は黒いビニールシートに覆われた堆いもの。上手壁は映画館のスクリーン、下手はカウンターがあり黒電話が置かれている。スタンドライト等、いくつか形状の異なる照明器具が暖色を灯している。天井にはシーリングファン。

物語は3人の男女(ひろ、太郎、あい子)が或る部屋に忍び込んで、黒ビニールシートを叩き 中のモノを壊すところから始まる。壊したのはピアノ、それ以外に取り出したのは、ソファ・ローテーブル・椅子、それらをリビング風に並べる。同時に白い衣裳の少女が現れる。少女は ひろの祖母が大事にしていたピアノの生まれ変わりという。本当かウソか 信じられない話に戸惑う3人、そこへ塚井という人物が現れ不思議な話をし出す。ひろ(田山陽大サン)は 太郎(斎藤大學サン)とあい子(三木沙也香サン)が買い出しに行っている間に、ピアノの脚を1本焼いた。供養の意も込めて焼骨したという。

塚井曰く、ピアノは もとは羊(ヒツジ)で、その昔 雌狼のために一本の足を与え、狼は飢えをしのぎ越冬して子を産んだ。羊は三本脚のピアノに産まれ変わり、今また二本足の人間に生まれ変わった。姿かたちは変われども魂は生き続ける。そして塚井は助けられた狼だという。輪廻転生といった印象、人間の3人はキューちゃんに言葉を教えるが、その中で食事の時に「いただきます」…尊い<命>を頂くのだと…。
*羊(4本足)⇨ピアノ(3本足)⇨人(2本足)

キューちゃん(羊)、塚井(狼)とも異なる行為、そのため自然界から見放され孤独な世界へ…彼女らに関わった人々も異常な世界(狂気)へ。神の仕業か精霊の悪戯か?正常な場所は この部屋だけ、ここから出られない。主体的に選択判断できないボク(ひろ)は、どうするのか?ひろ とキューちゃんがソファに並んで座った時にスクリーンに生命・自然界をイメージさせる映像が映る。映画館で映画を見ている二人 その劇中劇と思ったが、さらに物語は続く。ひろは祖母が嫌い、いや正確にはピアノが嫌いだったよう。まさかピアノに<魂>があろうとは想像だにしなかった。人(キューちゃん)は壊(殺)せないが、動物やモノは簡単に…寓話か。

キューちゃんは白衣裳、塚井は黒衣裳で前世イメージ、薄暗い室内に暖色の照明が柔らかく灯る。音響は外世界の狂気と乱舞のような騒音。そんな中で塚井(春日紗矢子サン)の美しい歌(声楽)が聴き所。因みに観た回は、楽器(ピアノ)の音量と彼女の声量がアンバランスで、せっかくの歌声が聞きにくかったのが残念。演出は幻想的であり、その雰囲気作りは巧い。演技は手堅くキャラクターをしっかり立ち上げている。特にキューちゃんを演じた 北さんは純真な赤ん坊の演技が愛らしかった。
全体的に好印象なだけに、結末が今一つなのが惜しい。
次回公演も楽しみにしております。
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。〈R15指定〉
「ホテル・ミラクル」シリーズは、このThe Finalを含めて全8回、うち6回観ることが出来た。逆に言えば観れなかった第1回と第3回が悔やまれる。

新宿歌舞伎町という歓楽街にあるホテル・ミラクルの一室で繰り広げられる痴態を覗くような感覚 いや官能公演。室内で起こる男女の濃密な痴話を通して人間の、それも身の下相談を見聞きするような面白さ。勿論 隠微な感じはするが、全編を通じて「男・女」というよりは「人・間」の本音、心情が奇妙な感覚を以って迫ってくる。妖しい官能マジック、それは脳を刺激し胸底にある禁断の欲望、いや人間の本性を曝け出させるような心理プレー。

過去シリーズで上演した作品もあれば、新作もあり この間の社会事情・世相の変化も織り込み、変わらぬ男女の<恋愛・痴話>物語もあれば、移ろいゆく心の変化などが紡がれる。色々な男女 いや人間関係を濃密に描き、本来は人に知られたくない くらくらするような短編。もう観られなくなると思うと コトが終わったような虚しさ寂しさが…。

ちなみに 今回観た作品の1つ、その脚本家と帰りがけ話をしたが、役者によって作品イメージが変わる と。自分も前に観た時と印象が異なり、やはり舞台は<生>ものということを改めて認識。
繰り返すが、あ~ 1回と3回が…。<「ホテル・ミラクルThe Final」見逃がし厳禁>かもね。
(上演時間2時間40分 途中休憩あり)【REST ver】

ネタバレBOX

入口側に磨ガラスのシャワールーム。舞台美術は、壁際にミニテーブルと椅子2脚。中央にベット、サイドテーブル、ソファーが置かれている。テーブル・ソファ下の照明が室内を妖しく(ピンクに)照らす。
客席はL字型。ベットを横から、そしてシャワールームで着替える姿を観るには、奥角の席に座る方が観やすいだろう。どの方向からから観るかは好みであるが。
前説「おし問答」(坂本七秋 氏)は男女がシャワールームで交わす会話…携帯電話電源off、飲食禁止など、喘ぎ声での注意喚起。既に始まっているので、トイレは我慢するようなプレイだが…。

①「シェヘラザード」(窪寺奈々瀬)
何でも話し合う親しい関係の女性2人、新堂沙良は大物議員の娘でお嬢様的な存在。恋人と別れ すぐ職場の先輩張本信也とラブホへ。そんな話を聞かされる大貫亜希子だが、彼女の恋人と言うのが…。恋人 以上と未満は肉体関係の有無だろうか、と意味深さを問うような。

②「よるをこめて」(笠浦静花)
清原凪子と藤原行成は係長と主任という上司部下の関係の恋人。社内には秘密にしている。最近はセックスレスで諍いが絶えない。冷静に話すために第三者を、それを平社員 関泰一をラブホに来させて。社内的な立場が歪になり奇妙な会話が漂流し出し、どこに辿り着くのか興味を惹く巧さ。

③「きゅうじっぷんさんまんえん」(屋代秀樹)
レズビアン風俗の話。ぎこちない女性2人の会話と動き。風俗嬢というには あまりにウブで不器用な仕草、そして卑下し続ける風俗嬢を慰める客。シャワールームに一人ずつ入って気を落ち着かせて…ラストの客の一言が切ないような(世間的に見れば幸せなのだが)。

④「グリーブランド」(河西裕介)
酔い潰れた女とラブホで一夜を過ごすが...。ヤるチャンスがあったのに行為をしない男に向って女は、明日遠くへ行くという。それはグリーブランド...それってどこにある国なの。女の誘惑にも優柔不断な態度の男。親しくなり過ぎて、もはや男と女という異性を乗り越えた友達・同士といった間柄。そのラフさが可笑しくも切ない。

⑤「獣、あるいは、近付くのが早過ぎる」 (服部紘二)
アレは姿を現した。 ゆっくりとその首をもたげる中、新宿歌舞伎町のホテル街で、男 村田ケンジは年上女 早瀬マナミをホテルに誘う。 不可解な足音が鳴り響く中...草食系男子も目覚めるか。この街はおろかこの世の終焉のような雰囲気、それでも男は踏ん切りがつけられない。

部屋に入ってからの、男性、女性の振る舞い、落ち着かなさ、照れと恥じらい...など雰囲気のエロ、妖しさと挙動のコミカルさのアンバランスも有りがちで笑える。そして、実際は密室で濃蜜な場所、そんな淫靡な処を覗いている。普段そんなことが出来ない非日常性と背徳感が高揚させる。その生身の人間...男女を感じさせる脚本・演出はそれぞれ面白い。ラブホテルという部屋のシチュエーションでありながら、やはり脚本家の感性というか描き方の特長が出るようで、一袋に色々な飴が入っており、違う味(甘いだけではない)が楽しめる、そんな公演であった。

どの物語にもクスッと笑えるオチがある。全作品にラブホという少し妖しげな雰囲気の中で、男女の距離感が伸び縮みする。また話を適度にねじり、巧みに流れに渦を作り掻き回す。室内の濃密な関係が、軽快なテンポで繰り広げられる。構成の絶妙さ、脚本の内容を斟酌した上でのアンバランスな演出(池田智哉サン)がたまらない。
これが最後の公演だと思うと残念でならない。
しあわせのかたち

しあわせのかたち

藤原たまえプロデュース

小劇場B1(東京都)

2023/05/10 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
表層的には、早とちり勘違いで面白可笑しく観せるが、その奥には人の優しさ寂しさが 滲み出るような人間劇<または家族劇>を描いている。ホームドラマの中に独居老人の悲哀を落とし込み、笑いと泣き という感情を揺さぶる、これが実に上手い。物語は地方都市、それもシャッター通り商店街を連想させるから、家族の繋がりと同時に地域社会との関りが浮き彫りになる。

キャストは個性豊かなキャラクターを立ち上げ、それぞれの立場と状況をサラッと説明していく。いかにも居そうな設定、それが観客に寄り添い共感を誘っている。この物語で重要な役割を果たしているのが、舞台美術と食事(シーン)であろう。親も子も一人の人間…それぞれの生き方があり、幸せの考え方や求め方も違う。そんなことは当たり前なのだが、しかし 家族ゆえに一層切ない思いが…。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、ダイニングとリビングの続き部屋(空間)。テーブルと椅子、座卓やソファ、小物が置かれ生活感を漂わせる。
冒頭、後継ぎがいなく近所の店が閉店し、といった話で地方の寂れ(シャッター通り商店街)、独居老人の問題をそれとなく描く。そこに都会で暮らす子供(4兄弟妹)たちとの距離感を表す。それは単なる地理的な問題ではなく、心の距離といったことを暗示している。

父が亡くなり、最近 母の様子がおかしく、年下の恋人ができたらしいと…。子供たちは、今さら再婚でもない、財産目当てか など勝手な憶測をし、久しぶりに実家に集まる。偶然、末妹の結婚相手が実家へ挨拶に来ており、あぁ勘違いから起こる家族内騒動。誤解するようなシチュエーション、チグハグな会話が面白可笑しく、その度に場内から笑いがおきる。前半のコミカルさが、後半のシリアスさを強調していくという絶妙な描き方。

夫々の家庭の事情や思惑が錯綜し、幼かった頃のように家族団欒といった楽しい雰囲気にはならない。一見身勝手のように思えるが、子供たちも結婚し どこにでもありそうな事情を丁寧に描くことによって共感を誘う。母はいつでも子供たちの やりたいこと、生き方を応援してくれた。

そんな母が重い病に侵され、医師に入院をすすめられている。長男 春彦(ジョニー高山サン)の「親(かあちゃん)は死なないものだと思っていた」とボソッと呟く。それ実感 同感!それまでのシーンで笑わせ、共感を誘っているから、悲しさ寂しさの感情の振幅が半端ない。実家はカレー店を営んでおり、家族の味にもなっている。劇中、家族みんなで実食する。そこに家族の原点光景を見るようだ。
次回公演も楽しみにしております。
『工場』『夜景には写らない』

『工場』『夜景には写らない』

世田谷シルク

座・高円寺1(東京都)

2023/06/14 (水) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「夜景には写らない」観劇。
現実にありそうな出来事、その問題提起のような物語であるが、一方 舞台としてのエンタメ性も観せるという多面的な公演。

同時上演の「工場」の続編で、主人公たち外国人労働者が来た数年後、彼らを取り巻く環境はどう変わったか、という説明から社会派的な公演といった印象を抱いた。確かにどこかで見聞きするような外国人労働者と日本<*日本とは断定していないが、概ね日本>の諸々の習慣、環境の違いが点描されているが、何となく表面的な感じがする。堀川炎さんが別に「場所が変われば、価値も変わる。私たちが普通と思っている物事も、外側から見れば変かもしれない」と。この手のものは 理屈先行で面白みに欠けるきらいがあるが、身近な出来事を分かり易く綴っている。

その違いを面白可笑しく描くことで、今ある(労働)慣行・環境を改めて考える切っ掛けになるかも知れない。出来れば、単に外国人労働者(もしかしたら日本の吃音者も含むか)だから区別・差別という側面だけではなく、日本における労働環境、雇用問題にも触れてほしい。ここ数年のコロナ禍による労働形態も従来の出勤だけではなく、リモートワークという新たな就労も定着しつつある。公演は、5年前の「工場」(当日パンフに時代間隔の記述あり)とその続編という設定で 少し時を経ており 必ずしも現状に合っていない、要は足踏み状態だ。労働環境の多様化、そこに外国人労働者がどう絡むのか、広い意味での今後の働き方改革を観せてほしかった。もしかしたら 新たな課題や問題が横たわっているかも知れないのだから。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、或る工場の分析課 事務室。スチール机が横並び 備品・消耗品が置かれている。その空間を囲むように上手 下手に階段があり、奥の二階部へ続き左右に行き来できる。勿論工場の外であり橋の上をイメージさせる。座・高円寺1の高さを利用し、3階部を設え、いくつかの枠組みを作ることによって 外国人労働者の住居(アパート)の部屋(窓)に見立てる。下手に丸ハイテーブル、そこは別空間のスナック。

冒頭はスナック歌手の歌から始まる。移民(工場の一番初めの外国人労働者)が後輩を迎えに行き、工場へ案内してくる。何かの分析を行っている課であり、外国人籍は専門技術者、エリート社員、そしてハーフの事務員、一方 日本人は、リーダー的存在〈室長〉の丸山(平社員)、廣川(新人社員)といった、キャリアの逆転 もしくは微妙な立ち位置の人間関係にある。そんな職場に言葉(日本語)が喋れない外国人労働者がやってくるが、実は 彼 早く母国へ帰り、もっと労働条件の良い国へ再就職したいと思っている。だから 日本語も含め語学は堪能、仕事も優秀らしいが本性を隠している。日本における就労そのものに魅力(低賃金等)が無くなってきている。

移民は来日して5年近く経ち、もうすぐ帰国しなければならない。外国人(技術)労働者の在留期限が迫っている。彼が、外国人労働者と日本人労働者の間を取り持っている。日本らしいといえば、出勤時間の厳守、祈りの時間が長くなり就労時間にずれ込むことを注意、ごみ(矢じり 動物虐待)の分別なしに憤る といった あるある問題を織り込む。近々、社長が交代し外国人労働者への対応が変化しそうだとの噂が流れる。また社内では社員の協調性という名目で運動会や餅つきを企画している。外国人には馴染みのない運動会、競技=戦争をイメージするようで理解されない。何よりも終業後に練習するなど以ての外。あくまでNO残業・個人重視の外国人と なあなあ の日本人気質の違い、典型的な描き方であるが面白い。

大きな障壁になるであろう言葉の問題、しかし後輩外国人労働者は語学が堪能ということから、「場所」」という文化(若しくは意思疎通)の違いは重要視されていない。その意味で表面的な描き方になっている。
演劇としては、せっかくの運動会(応援合戦)という設定ー外国人VS日本人による綱引きによる決着、その観せる妙。場面転換時の歌手の歌、新社長の方針転換による大団円。その結果、工場内を歩く外国人、何故か直線的な動きをしており無駄がない というか几帳面になり味気なくなった。その滑稽な姿・・日本色に染まってしまったか?
次回公演も楽しみにしております。
雨の世界

雨の世界

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2023/06/14 (水) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。
秋葉舞滝子 女史は演出の魔術師か、そんなことを改めて感じさせる素晴らしさ。
舞台雰囲気の統一感、そこに漂う優しさ、温もりがじわっと広がる。丁寧な演出は いつも通りだが、「雨の世界」という独特の世界観を抒情豊かに紡ぐ。

昨年、ウテン結構第6回公演「雨の世界」(サブテレニアン)を観ているが、やはり劇場・演出・役者等が違うと全く印象の異なる作品が出来る、ということを再認識。比べるのも どうかと思うが、終演後 秋葉さんと話した際、熟女が演じた と。ウテン結構は瑞々しさ、一方 SPIRAL MOONは、大人女性のしっとり感、その違いこそが作風であろう。
コロナ禍で厳しい状況が続く演劇界、それでも<生>の演劇の醍醐味を存分に味あわせ 楽しませる、そんな<気概>を感じさせる公演。
(上演時間1時間20分 途中休憩なし)【月組】

ネタバレBOX

舞台美術は、暗幕で囲い 上演前は中央に木製の椅子1つが置かれているだけ。床は切紙が敷き詰められている。場面に応じてテーブルや椅子を搬入 搬出もしくは配置換えをすることで情景・状況を変化させる。始めに運び入れられた木製の玄関ドア、それ以降に運び込まれるテーブルや椅子も形状こそ違うが 全て木製である。床の切紙が照明によって色づいた枯れ葉のイメージ、また木立の中を思わせる情景 といった全編<木>の温もりを感じさせる。同時に山奥か と思わせる。下手には 紫陽花の鉢植。

物語は サスペンス風に始まるが、いつの間にか女同士の少し痛い友情物語に変転する。俗信の雨女、その悲哀と雨天(嵐)ゆえに知り合った女性の話を交差させ、「雨」をテーマにした物語を抒情的に紡ぐ。更に雨女になった謂われ といった家系的な繋がりを描くことで、更に深刻な悲哀を表出する。
嵐の夜、1人の女・しおり(斎木亨子サン)が助けを求めて館のドアを叩く。館の主は幸子(秋葉舞滝子サン)といい、快くしおりを館の中へ入れる。冒頭、強風と雷鳴の音響、黒のフード付きマントを羽織った幸子の老婆風の佇まいや喋り方で怪しげな雰囲気が漂う。世間話をしているうちに、幸子が若いということが分かる。そして自分は「雨女」と言い出す。

場面は 幸子の学生時代、親しかった友人4人(男2人、女2人)との思い出話だが、必ずしも楽しい思い出だけではない。運動会・野外行事などのイベントが雨で中止になったのは、4人の中の誰かが「雨女」もしくは「雨男」だからだという。さらに友人カミーユ(環ゆらサン)との恋愛を巡って仲違いをする。
一方 しおりは、何でこんな嵐の夜に慣れない運転をしていたのか。幸子がしおりの様子から、状況を推理し始める。父親からの虐待、逃避行動するために嵐の日を選んだ。しおりが学んでいる心理学、その学問(心理)的な場面を「過去<幸子>と現在<しおり>」の物語として挿入する。幸子の回想としおり の現状が直接繋がる訳ではなく、それぞれの話を交差させ「雨」に纏わる物語を紡ぐ。

興味深かったのは、「雨女」は家系でもあるような説明。農村地域、そこで雨乞いを司る家があったという。現象「雨」は、人によって、または時と場合によって捉え方(大切さ)が異なる。が、幸子の姉 福子(最上桂子サン)は小学校の教諭をしているが、学校行事のたびに雨が降り、自分の存在そのものが邪魔者扱いされる。自分ではどうすることも出来ない理不尽な宿命、家系・血の呪いのようなものを感じて、ついには…。

演出で面白いのが、降水現象をパネルを使用した科学的な説明をする 一方、フロイトの心理学を、しおりと幸子の会話で説明していく。具体性と抽象性を交錯させたような描き方。
音響は、暴風雨・雷鳴のサウンド・エフェクト、場面転換時はピアノの優しい音色。照明は全編薄暗い色調、そして話す女性の心象を浮き立たせるための、淡いスポットライトが実に効果的だ。
役者は女優4人、男優2人の静かだが力のこもった演技で、不思議な世界へ上手く誘ってくれる。ラストは暗幕を開け 心象風景に光が差すような…。
次回公演も楽しみにしております。
La Vita é Bella ──とある優等生と壊れた世界

La Vita é Bella ──とある優等生と壊れた世界

劇団東京座

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2023/06/01 (木) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「La Vita é Bella」…イタリア語を邦訳すると さしずめ「人生は美しい」だろうか。
しかし、物語はそう美しく簡単なものではなく、今を生きる若者たちの<現在>ある世界(情況や状況)ができる背景や要因について、その親の世代が若者だった頃に起きた<出来事>に遡ってリアルに描く。バブルに浮かれ、その崩壊で人生が狂う。今あるのは失われた20年の世界、これから真面目に生きても夢や希望が持てるのか。いや そもそも「真面目」に生きるとは…その価値基準は誰がどのように決めるのか。今の高校生たちは生き方を模索し始める。

少しネタバレするが、物語は1988年から2008年頃の社会情勢とか世相を背景に、高校生という年代特有の悩みや葛藤を軸に瑞々しく描く。そして今後の人生の選択をどのようにするのか。黒猫 幽霊の予言…お前の世界はもうすぐ壊れる。そして<扉>を見つけるだろう。その扉を開けるか否か。

劇中、アコースティックギターを弾いたり イタリア音楽が流れる。抒情的なシーンが思春期の甘酸っぱさを演出する。
当初 2時間30分の上演時間(予定)が15分程延びているが、敢えて高校卒業後の世界まで観せたかったのだろうか。ラストの描き方は観客の好みによって評価が分かれるかも。
(上演時間2時間45分 途中休憩10分)

ネタバレBOX

舞台美術は、上手に段差ある台、中央奥に透明なフィルム張の壁枠、中央から下手にかけていくつかの白い箱。場面に応じて箱を並べ 積み上げることで情景を変化させる。この劇団らしい手作り感に温かみを感じる。また時代を考慮し、小道具はガラケーを使用するなど細かい。

高校2年までの聡介は、地方の公立進学校に通う成績、素行の優秀な優等生だった。しかし、3年生になってから、アコースティックギターを弾き、酒を飲み、タバコを薫らせる。そんな不良生徒へ変わっていた。親友の綽名 キョーダイは家族全員が京大卒というプレッシャーの中で京大を目指している。もう一人の親友 将太はユキにラブレターを書く。聡介の恋する涼子は、予備校の講師と不倫をしているが、そのことを聡介は知らない。この5人の男女高校生が織りなす青春群像劇。

聡介は、髪を金髪に染めタバコを吸っているところを教師に見つかり停学処分。教師に染めた髪、喫煙は誰にも迷惑をかけていない。校則は自由を縛る拘束のようだと、教師に突っかかる。一方、涼子の不倫相手には、結婚しているのに女子高生と恋愛するのは といった倫理観を口にする。相手からは理屈ではなく感情が…自分の行動と思考の矛盾、その自己本位な姿が高校生らしい。

後半は1988年バブル期、聡介の父は株投資で儲け破綻した典型的な庶民。この時 聡介は10歳で、両親の苦悩する姿を見ている。派手な衣装、ジュリアナ扇子を振り踊る、札をばら撒くといった演出が当時を象徴している。一転 地味な割烹着、質素な暮らしへ。親は聡介に進学高校⇒難関<一流>大学⇒大企業といった希望を託し、聡介もそれに応えようとしていたような。

高校最後の夏、どこからかライオンが逃げたとのニュース。聡介と仲間たちは、ライオンを探すべく、ネット上で目撃情報のあったという山へ出かける。その夜、5人で語り明かす夢や希望が、その年代特有の苦悩や葛藤に苛まれながらも、懸命に生きようとする姿に重なる。そして夜明けにライオン(勿論 比喩)が現れ―。青春時代の印象深い思い出がクライマックスかと思ったが、10年後迄描く。
今28歳になった彼ら彼女らの姿、自己同一性は…ぜひ劇場で。
次回公演も楽しみにしております。
初老の血

初老の血

劇団 枕返し

北池袋 新生館シアター(東京都)

2023/06/09 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

昭和時代に流行った任侠映画、その美学(義理 人情)と妖怪を絡めた物語であろうか。今一つ 何を描き伝えようとしているのか分からない。自分の感性が初老を超えて枯渇したか?

登場人物のキャラクターは濃く楽しめるが、ヤクザの抗争というよりは昔馴染みの諍い。それを何故だか定食屋内には持ち込まない不文律のようなものがある。コメディだから細かいことは気にせず楽しめば良いのだろうが…。
一方 劇団のコンセプト?妖怪(作品には必ず登場)…今回は「ぬりかべ」で、一般的に知られる形とは異なる。その異形の存在と舞台美術という両面で巧く活用している。一種の被り物で、ずっと舞台上にいるという 体力的に厳しい役柄だ。

「ぬりかべ」の役割は 「何か」若しくは「誰か」を守りたい、という<思い>であり、時を遡行し戦時中へ。個人的にはこの場面をもう少し掘り下げ、任侠の世界と絡ませて観(魅)せてほしいところ。先のヤクザと ぬりかべの話がラストに少し絡む程度で…。表層的にドタバタしただけのコメディ、それなりの繋がりで もう少し心に響くものがほしい。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、上手(阿過組)と下手(死路組)は非対称、しかしどちらもビールケース(サッポロVSアサヒ)で居酒屋の雰囲気を漂わす。中央に壁(ぬりかべ)があり仕切っている。中央(客席寄り)は、別のビールケース(キリン)が置かれ 立場の違いを表す。下手に別空間を表すカウンター席。

長年諍いの絶えない2つのヤクザ組織ー阿過組と死路組だが、それぞれ世代交代の時期を迎えている。阿過組では二代目が引退をし、三代目に孫娘を考えている。一方 死路組は末娘が四代目の跡目を継いだばかり。暴対法の影響で組員も減少し、といった昨今の事情が描かれる。諍いの原因は シノギ にあるらしい。第三者(牽制 中立?)的な立場として地元警察を絡ませる。冒頭 先輩刑事が新人刑事に、地元ヤクザの実態を教えるという構図でこの店に来る。それぞれの組の事情を親分と幹部組員の会話で紡いでいく。

物語が動くのは、阿過組の組員が死路組の組員に向かって発砲したこと。双方が負傷しどう修羅場を収めるか。阿過組の跡目を渋っていた孫娘が、「誰一人欠けてもいけない 」といった啖呵を切る。二代目も ヤクザは「誰にも相手にされなくなった者の駆け込み寺のような世界」と言う。一見 昭和の義理人情の世界が観えるが、深みがない。ちなみに二代目が引退したいのは、刑事に惚れという自分都合。そのため孫娘を呼び返す我儘ぶりである。孫娘(35歳)は、若い時(25歳)に流産し子が産めないよう。嫁ぎ先では辛い思いをしていた。

この孫娘の「命」の話…誰一人欠けてもいけない、発砲騒ぎを起こした若い組員を赤ん坊の時から面倒を見ている、そして妖怪「ぬりかべ」の守(護)りたい者(モノ)のため、戦時中へ遡行したい思い。それらの場面を縦横無尽に紡ぎ、もう少し広がりと深みのある物語にしてほしい。
表層的なドタバタコメディ(先輩刑事を投げる等)に止めておくには惜しい。
次回公演も楽しみにしております。
コスモポリタン

コスモポリタン

U-33project

王子小劇場(東京都)

2023/05/24 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

あなたは将来 何になりたいの、夢は…といった子供の頃に聞かれたり、文集等に書いた記憶がある。一人の少女の「宇宙の果てを見てみたい」、そんな思いを誰かに話して夢物語を共有したいが…。
何世代にも亘って 友達の なりたいもの、夢と対照させて紡ぐが、時代感覚は敢えて変化させない。その過程は、夢を持ち どのように実現させるか、そして それは職業なのか具体的な目標なのかを自問自答するような描き。

少女の心情は何となく分かるが、<演劇>として どう表現するか、その試み挑戦しているかのような。表層的には楽しめもするが、意図しているところは 手強く難しい(伝えてナンボのもん)。
前作「真っ赤なブルー」同様、物語として紡ぐには、少し難しいような独特の世界観を表現しようとする。そして何となくではあるが肯いてしまう、もしくは共感する、といった妙味を持つ作品。

さて キャストの役名(苗字)は、西武新宿線の駅名になっているが…。
(上演時間1時間25分) 

ネタバレBOX

舞台装置は 中央に階段がある黒壁、その前に3つずつの椅子が2組、上手下手に箱馬が1つずつあるだけのシンプルなもの。上演前は緑色照明で森の奥、木陰といった雰囲気を漂わす。

物語は、夢落ちでも 劇中劇でもない 現実世界を表出している。高校の進路相談、その三者面談を数日後に控えた授業風景から始まる。ボッーとしている主人公・中井ソラ(中村透子サン)は漫然と「宇宙の果てを見てみたい」と思っていたが、その思いは誰にも語っていない。友達は弁護士・ミュージシャン・画家といった職業を目指すグループ、他方、お姫様・インフルエンサー・金持ちといった漠然とだが目標を掲げるグループがいる。どちらにしても具体的な対象(夢)があり、その実現に向けての行動も示せる。

何世代に亘っても夢を実現させる、と実現が困難と判断し気持に折り合いをつけるか。意志と妥協の鬩ぎあい。例えば難関試験への合格=当面の目標と定めた時などが該当しよう。それを2つのグループの夢・目標で対比、叶わない時の言い訳=自分の努力が足りないから、もともと素質がないといった逃げ道を作る。が、それも大切。心情的には分かるが、明確なメッセージとしては伝わらない(感情移入できない)のが憾み。

演出としては、ゴム縄を色々な形に変形させ 心象風景を作り出す。色彩ある回転照明、色花吹雪、アップテンポな音楽で心地好く観せる。夢・目標を語る女優8人が生き活きと、また苦々しく 苦悩する。それを見守るような担任女教師と臨時の男性教師、その少し距離ある存在が妙。
次回公演も楽しみにしております。
引き結び

引き結び

ViStar PRODUCE

テアトルBONBON(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

大雨という悪天候だったが、<ReStart>観に行ってよかった。
テーマは明確…副題にもあるようにー紬ぎ結ぶは「命」の糸ー。
子は親を選べないというが、本当はこの親のもとで生まれ育ちたいと、そんなことを思わせる物語である。この世に生をうけた命もあれば、そうでない といった愛憎の観点で描かれているが、現世にいるか いないか いずれにしても親と子の命の紬ぎ にかわりない。

中盤までは ドタバタと慌ただしいが 緩い観せ方、しかし 終盤は「命」という重い、そして思いテーマがしっかり伝わる感動劇へ。少しきれいに纏めた感があるが、説明あらすじ にある「生まれた時からなぜか一緒にいる”雪江”」の存在がラストに明かされ、涙腺がゆるむ。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 【結チーム】

ネタバレBOX

舞台美術は、左右非対称のカラー(アイボリー、ピンク、ブルー)箱を階段状に積み重ね、二階部へ通じる。手摺があり屋上という設定であり、別場所の道路でもある。舞台は、主人公 高松一輝が通う ホシノ大学構内であり、彼に関わる人々の生活空間。この上り下りがスピード感・躍動感を生みテンポ良く展開していく。

故郷 北海道の地を離れ念願の一人暮らしを始めた一輝。同じ大学(医学部)に通う彼女 後藤香澄ができ幸せキャンパスライフを送るはずが…。大学の友人、不思議な存在(もじゃ神様)原田、そして雪江、個性豊かというかキャラの濃い人々が巻き起こす騒動を面白可笑しく観せる。大声、緩い笑いは日常の光景を表したかったのだろうが、少し冗長に感じられた。

一輝と香澄の間に子が授かり、まだ学生同士で産み育てることが出来るか。それぞれの親の生き・考え方、そして今後の2人の対処を通して<命>の紬を描く。特に香澄の母 香織(産婦人科医)も学生結婚をしたが、早くに夫と死別し 1人で彼女を育ててきた。それだけに経済的・精神的な苦労は身に染みて分かっていた。

物語では、一輝の友人 望といつも一緒にいる雪江の存在が肝。香織の大学先輩の雨宮夫婦も学生結婚。妻は妊娠症状を訴え、夫は気遣っているが…。望の本心が知れてから、物語は大きく動き出す。実は望と雪江は、この世に生まれてくることが出来なかった「命<霊>」である。しかし雪江と望の思いと行動は逆で、そこに愛憎の深さを描きこむ。さて雪江、望の両親は…劇場で。

舞台技術…ラストの照明は、ピース模様で人と人の繋がりを表すようだが、少しばらけている。そこに色々な出会いがあるような。音楽は優しいピアノの音色に癒される。衣裳…雪江はフワッとした白地服、望はピッタリとした黒地服で対照的に表し、同じ霊という存在だが思いの違いを示す。最後は望も白地服、そして2人が赤い糸ならぬ紐を持って人々を紬(繋)ぎ結ぶ。実に清々しい印象、余韻を残す。
次回公演も楽しみにしております。
独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、自分好み。
ファンタジーにしてラビリンスといった感覚であるが、まったくの浮遊感という訳ではなく、何となく地に足がついて といった絶妙感が好い。タイトル「独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった」は「不思議の国のアリス」を意識、そのメルヘン的な雰囲気を 少女ならぬ現代の中年女性の心の彷徨として描いている。

劇団遊◎機械(ゆうきかい)/全自動シアターが1995年(28年前)に初演、確か岸田國士戯曲賞の候補作品にもなったと思うが、今 観ても独特の世界観に浸れ楽しめる。いや 現代風にアレンジしているといったほうが正しいか。

舞台美術は女性の心模様を巧く表しており、アタシ(アリス)の荒廃した気持を的確に表出している。どちらかと言えば都会的なセンス、一見スタイリッシュと思える光景が次々と変化していく。ここは…そこは何処といった自分の居場所が定まらないといった空虚さが堪らなく切ない。

卑小だが、<Team葉>初日ということもあるのだろう、少し演技が硬い。台詞の噛み 言い直し、肩を組んで踊るシーンも少し揃(合)わない。しかし公演回数を経れば改善するだろう。それよりも物語を牽引する不思議な力(チカラ)、アリスの孤独と彼女を取り巻く<奇妙な>人々の陽気さ、そのアンバランスというか雑多さが現実と虚構(虚空)綯交ぜの世界観を立ち上げる。今まで観てきた<ことのはbox>公演とは一味違った面白味がある。
(上演時間2時間 途中休憩なし)【Team葉】

ネタバレBOX

舞台美術、上手に階段(雑多な物で上れない)、壁にはレース生地 白、階段下にテーブルと椅子1脚、床にも衣類やペットボトルが散乱している。奥壁には動かない時計、天井には斜めに吊るされたシャンデリア、下手にカウンターとハイスツール。周りの壁には蔦類が垂れ下がり。アリスの心の荒廃を表すような雑多さと真ん中には何も無い空虚さが同居したような光景(世界)。前に進めず止まっている姿であろう。
その後、場面に応じてテーブルや椅子を搬入搬出させ情景を作り出す。因みにテーブルや椅子の形状が異なり、そこにも個性(奇妙な人々の印象)が散りばめられている。

間違い電話が何度か鳴り、苛立つアリス。今日は誕生日だが、一人で過ごしている。そんな彼女のところに 陽気に騒ぐ奇妙な人々が現れ、アリスの心の内を嘲るような振る舞いをしだす。何時しか10歳の誕生日シーンへ。母はいないが、父をはじめ親戚の人々が誕生日を祝ってくれる。ケーキの蝋燭、その火を吹き消すと大切な人がいなくなる。誕生日毎に1人また1人と ワタシのもとを去っていく。それが怖い。幸せになる前に自分で<幸せ>を壊してしまい、辛い思いをしないように現実逃避する。いつの間にか自分の周りには誰もいなくなり孤独が…。

奇妙な人々によって、こんな人生もあるのでは、といった楽しいシミュレーション人生が展開していく。現実/空想の世界なのか、その迷宮にして混沌とした世界観が実によく表れている。それは外見の衣裳…アリスは地味な服、奇妙な人々の衣装はトランプ柄など奇抜で明彩色の服で 居る世界が違うような。そして表情の陰(鬱)・陽(気)にも表れている。アリス(花房里枝サン)は勿論、奇妙な人々の演技は熱演、ぜひ千穐楽まで持続させてほしい。

時間は<無限>にあるわけではない。人生は色々なことを考えて選択する、が 考え過ぎて行動が出来ない。子供の頃からの誕生日の悪い思い出、現実逃避し(自己)殻への閉籠りなど、自分自身に向き合えていないアタシ。そのアリスの合わせ鏡のようにして現れる奇妙な人々の個性溢れる魅力。勿論 歌い(ケセラセラ等)踊るという観せる演出が魅力を支えている。
この世界観は、期待を裏切ることなく、カーテンコール後のアリス(姿)でしっかり表(明か)す。
次回公演も楽しみにしております。
糸、あと、音。

糸、あと、音。

時々、かたつむり

小劇場 楽園(東京都)

2015/08/13 (木) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

テーマは良かったが、表現が…
近未来的な話…コンピューター・ロボットが環境などを操作し、安全で快適な生活を保証してくれるが、その代わりに人間にとって大切な自由が無くなるという、管理社会を描いた風刺劇。テーマは良かったが、その演出が映画でいうカット割が細か過ぎる。それは登場人物6名の対話を中心にし全ての組合で観せようとしているためであろう。場面展開が早く、分かり難くくなっていた。もっと観ている観客を意識して、丁寧な描き方をする工夫が必要だろう。逆にテンポは良かったと思うので、その辺りを考慮して展開・構成しては…。
描きたい内容を、どう上手く伝えるか…演出手腕の発揮どころ。

ネタバレBOX

ほぼ素舞台に椅子2脚...この劇場は地下入口から入ると中央に柱があり、左右に分かれて座席がある。その柱には半透明の薄膜が巻きつけられており、その一部が舞台にも敷かれている。物語の内容から雨降りと水溜りのイメージか。実際は滑り止めのようにも思う。

梗概は、高層ビルの住人は安全で快適な生活を享受している。逆に言えば、そこに生活しないと危険または快適でないことが喧伝される。その建物はコンピューター・ロボットでコントロールされている。そして天候を操り、情報を操作し人間の生活や心にも大きな影響を持つようになっている、という近未来の話。天候(洪水)とその情報操作によって高層ビルへ避難させるという目論み。しかし避難しない人間もいた。その情報の収集・分析がいつの間にか人間の行動を束縛している恐怖が伝わる。

比喩的に「籠の中の鳥の話」...大空に飛び立つ自由と引き換えに、安全と生きる力を要求される。一方、籠の中は安全で餌にも心配なさそうである。そして、もう一つ、人間の対応力が描かれているようにも感じた。例えば占い師の登場であるが、占いの依頼者は、話す、他方占い師は傾聴する態度になる。これが逆転したシーンがあるが、そこに自分の確固たる意見と態度の重要性を感じる。ふわふわとした気持ではない、何か芯が必要なのだと訴えるようである。
このいくつかのシーンが細切れのように交差または交錯するように展開するので、話の大筋がわからなくなる。もう少し丁寧な状況説明(1シーンをもう少し長くするなど)をして、観客にわかるよう工夫する必要がある。
さらに台詞を大切にしてほしい。例えば、先に記した「籠の中の鳥の話」であるが、大空に飛び立つのは鳥の”特権”?にしていたが、話の流れであろうが違和感がある。このような台詞回しがいくつかあった。言葉(台詞)の正確・重要性の検証もお願いしたいところ。

さて最後に、この高層ビルは建築中のイメージから「スカイツリ」ーを、ラストでは「バベルの塔」を想像した。この現実・空想の混同が...。
テーマ性というかその訴えたい内容に共感するが、くどいがその描き方に工夫が必要である。

今後の期待込めての★3つ
次回公演を楽しみにしております。
ザッツワンスモールステップ

ザッツワンスモールステップ

完全右脳アルコロジー

上野ストアハウス(東京都)

2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

母が子(息子)を思う気持、子が母を思慕する気持、その親子の情愛をファンタジーとして描いた追想劇。主人公:たーくんの脳内物語…理論というよりは感情優先で、思考ならぬ試行錯誤を繰り返していくようだ。或る日、ウサギのジャンピーが現れ 再び物語の続きを書くように促すが…。少しネタバレするが、25年ぶりに書き出したことから、物語の内容は勿論 登場人物まで忘れている。

物語は、微(幽)かに残る母との思い出を手繰り寄せるように展開し、関心を惹く。主人公の脳内で紡ぐ話は、現在であり 過去にも遡行する。時間と空間が錯綜し不思議な世界観を形成していく。

空間と時間は 離れ変われども、親子の情愛は不変といった分かり易さ。登場する人物によってお伽噺であり空想科学にもなる。人の脳内ほど描く題材は豊富、テーマに事欠くことなく自由自在に展開していく。
表層的には明るく楽しいが、何となく浮遊感がありすぎ、親子の絆・情愛の深さといった物語の芯が暈けたようで勿体なかった。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)【Aチ-ム】

ネタバレBOX

舞台美術は中央に階段、下手に置台のようなものがあるだけ。冒頭は色々な衣裳を着た人物が勢揃いしている。しかし、主人公である たーくん は突っ伏して寝ている。母は寝ている たーくんに優しく遠く月に旅立つことを告げる。

物語の書き手である たーくんは、途中まで書いては頓挫を繰り返していたが、ウサギのジャンピーに導かれ話の続きを書こうと…。別々の話と思っていた登場人物が段々と関係を築くことによって、物語の中(たーくんの脳内)で、母との思いを繋いでいく。母は たーくんが幼い頃に亡くなり、別の場所(月)にいると。そして幼い たーくんを寝かし付けるために母が生み出した物語にウサギのジャンピーが登場する。そう母が生んだ、その意味で たーくんの妹にあたる。

日本で月が登場する物語ー竹取物語で”かぐや姫”は「月の都」の住人で、人は 清らに老いをせずとなる<不老不死>。また人類が月に降り立つまではウサギがおり、といった迷信も云われていた。ラストは、アポロ11号の月面着陸に準えたロケットによる宇宙飛行(士)まで登場し、母が居るであろう月を目指す。荒唐無稽のようにも思えるが、それだけ母に会いたいという思慕の現れ。

演技 特に表情は、初日に観たため 少し硬い感じがした。それをアップテンポな動きでカバーし、全体としては緩急ある観せ方になっていた。
次回公演も楽しみにしております。
ホテル・ミラクル7

ホテル・ミラクル7

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2019/10/04 (金) ~ 2019/10/14 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

新宿歌舞伎町という歓楽街にあるホテル・ミラクルの一室で繰り広げられる痴態を覗くような感覚の公演。その一室で起こる男女の濃密な痴話を通して人間の、それも身の下相談を見聞きするような面白さがあった。
(上演時間2時間40分 途中休憩あり)

ネタバレBOX

セットは、劇場入口近くにシャワールーム、ベットや冷蔵庫、ソファー、丸テーブルと椅子2脚のリビングセットが配置され、ホテル室内の雰囲気を十分漂わす。客席はL字型で2方向から観ることが出来るが、座る位置によって観え方が異なるかもしれない。例えば、ベット近くに座ると出歯亀(でばがめ)状態だ。窃視(のぞき行為)をしているようで少し背徳感がある。他方、後方客席から観ると客観的もしくは俯瞰したような感覚。それゆえか、ベットはL字のコーナー部分に置かれており、その傍に座った観客(自分)は窃視症かも。
物語は4話+αであり、それぞれ趣の異なる内容で飽きることはなく、むしろドキドキして観ることが出来る。全体観としては、同一の部屋における時間差で起きている事なのか、同タイプの部屋で同時進行している事なのか判然としない。イメージ的には前者のような気がするが、自分としては、何人かの登場人物(役者)が他の話に現れ、話と話の連携があると、一室における痴話からホテル全体としての痴態が浮かび上がると思うが…。

上演順に「Pの終活」(ハセガワアユム 氏) 「光に集まった虫たち」(本橋龍 氏) 「48 MASTER KAZUYA」(目崎剛 氏) 「よるをこめて」(笠浦静花 女史)

「Pの終活」
 3Pの話。中年男・黒田は既婚ではあるが孤独を抱え風俗嬢ユキを指名している。そして黒田は奨学金返済の為この世界にいる理樹を呼び3P行為。しかし黒田の真の狙いは…。1人の中年男がぼんやりとした不安、言葉にし難い心の激情をユキ、理樹を相手にぶつけようと膨らんだ感情話。

「光に集まった虫たち」
 既婚の中年女と年下の彼氏。虫嫌いの彼女の前に虫が現れ、そのうち正体不明の老女も闖入してくる。男女の会話は上滑りし好きという気持もおぼろげで、老女もいるのか居ないのか記憶とも妄想ともつかぬ奇妙な夢を見ているような錯覚に陥る。光という幻影に集まった孤独と情感という心象を描いた話。

「48 MASTER KAZUYA」
 戦隊ヒーローものイメージでコミカルな作風。若者は四十八手の奥義を極めた性豪。性技バトル...その男がある女性を満足させることが出来ない。落胆している彼の下へ師匠が現れ、”好き”とはという初心を思い出させる。人を引き付ける、上手く掴めないもどかしさゆえの魅力の考察を性技に絡めた話。

「よるをこめて」
職場の上司部下で男女関係にある2人。性欲の女(係長)と醒めた男(主任)、ホテルの一室にいるが行為もなく2人の会話はちぐはぐで成り立たない。そこで平社員の男をジャッジとして呼ぶが…。会社組織における関係は逆転し、女は哀願し男は諦念、さらに平社員は2人からアドバイス料として金を受け取るという皮肉。

わけありな男と女、腐り縁の男女、現実と夢の境界線が曖昧な関係、泡沫のような光のゆらめき関係、など色々な男女の関係を官能と寂寥感をもって描き出したオムニバス作品、まさに千夜一夜物語である。公演は、感度が非常に良く(欲)、肌理というか触知性に優れたもの。
次回公演も楽しみにしております。
山兄妹の夢

山兄妹の夢

桃尻犬

シアター711(東京都)

2019/06/26 (水) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

虚実綯い交ぜの世界観の中で、これまた曖昧模糊とした会話が交わされる。物語は何んらかの整合を図るわけではなく、あえて漠然・不確かなままで芝居全体の雰囲気というか”力”で観せる。キャストは皆、怪演でキャラクターがしっかり立ち上がり、息もバランスもピッタリ。特に会話が成り立っているのか否かはっきりしない台詞、それでも表現し難いモヤモヤした気持(芯)がしっかり伝わるという不可思議さ。自分好みな公演。
(上演時間1時間35分) 

ネタバレBOX

セットは、上手側に2段ほど段差を設けたスペースがあるのみ。シーンによって客席寄りの下手側にテーブル・椅子が持ち込まれるが、基本的に素舞台に近い。

冒頭は、タイトルにある山兄妹の兄たかのり がその恋人から別れ話をされているという回想シーンから始まる。別れる理由は、兄の無目的なような生き方が気に入らないというが、それが本当なのか判然としない。別れるための常套句”性格の不一致”と同じような曖昧な理由付けのようにも聞こえる。その回想話をしている妹ナナ、この兄妹の従兄、兄の工業高校の先輩の3人に回想シーンの兄が突然入ってくるという突飛な展開。その時空間の違いや現世・来世などの生死に関係なく、登場人物が縦横無尽に出現する。交わされる会話も自己中心的な勝手話であるが、それが何故か心に響くという奇妙な感じ。
だから君はここにいるのか【舞台編】【客席編】

だから君はここにいるのか【舞台編】【客席編】

調布市せんがわ劇場(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

第12回せんがわ演劇コンクールグランプリ受賞公演。
昨年はコンクール参加ということで、【舞台編】だけを40分の時間(コンクールの規定)で上演したが、本公演では55分と少し長くなっている。その時間だけ やはり物語における状況が分かり易くなっている。そして【客席編】と併せて約2時間の公演、どちらも観応えのある二人芝居、これぞ<小演劇-真骨頂>と言えるもの。

どちらの作品も劇場が主体となり、そこに現れる舞台の関係者が紡ぐ話である。その劇場で上演されるであろう架空の公演チラシを配付するという手の込んだ演出、笑えた。また共通しているのが照明…どちらもモノトーンで舞台上の役者(心情)に焦点をあてている。
(上演時間各55分 休憩兼転換10分)

ネタバレBOX

【舞台編】
昨年のコンクールを観た時の感想は次の通り。
「冒頭は、観念的といった印象。舞台は、劇場の公演準備前の舞台。仕込みが遅れている舞台上で、一人の俳優が、スタッフのために缶コーヒーを両腕に抱え待っている。と、台本の台詞を正確に喋る見知らぬ男が現れる。その台詞は、舞台上にいる俳優が喋るはずだったもの。すでに削除され無になった台詞と台詞がなくなって出番が無くなった俳優が いつの間にか同化してくる不思議感覚。劇に登場しなかった登場人物(台詞)とその役を演じるはずだった俳優の物語はシュール。他方、台詞とは誰のためのものか?観客に向けてであれば、観客不在の前説は何なのか。スタッフが声のみ出演という劇中内の前説アナウンスが笑える。」と記した。

今回の【観客編】と併せて観ると、その面白さは倍加する。やはり両作品あって、その相互作用が演劇としての深みを増す。

今回観て補足する。
1人の男が 上演前に口笛を吹き 鼻歌を歌いながら舞台装置を調整している。「満月だったんですね、今夜。だからこんなに明るいんですね」(満月伝)という台詞がなくなって、出番がない<缶コーヒーを持つ男>がスタッフ業務をしている。そこへビニール傘を持った<ヒーローに見えない男>が客席通路から現れる。台詞がないヒーローとは、その存在価値を巡る問答を通して人の悲哀が浮き上がる。<缶コーヒーを持つ男>が話す 暗闇での自分犠牲の他者救い の例え話に納得する<ヒーローに見えない男>。
登場しない主人公は、映画「桐島、部活やめるってよ」を連想し、最後まで存在が気になった話題作だったが…。

【客席編】
舞台は、幕が閉じたままで、客席前方の2列を舞台に見立て紡いでいく。舞台関係者という男と観劇2度目という女性観客(客席通路から登場)との二人芝居。男は、「沈黙の森」(再演)を観に来た彼女に向って、再演と言っても まったく同じ作品が上演されるわけではないと。暫し演劇論、やがて例え話のように 森の中の木が倒れた音を聞いた、いや聞こえないと言った比喩問答へ変転する。舞台上から見える光景と、客席から見える光景は違う、その相容れない位置関係を同一視するため、彼女を舞台にのせ客席側に椅子を向ける。

<三日月を背にする男>と<A-6の女改めA-5の女>の奇妙な会話は、女の恋愛話へ。前に観た時同様、自分の隣席に別れた彼?が座るかも、そんな願望を<再演>へ込めたかのよう。まるでヨリを戻せるかのような。
さて前説のアナウンスに、携帯電話の電源はオフに…など聞き慣れた説明のほか、「お客様の姿は、劇の登場人物には見えておりません。上演中は、劇の登場人物に話し掛けたりせず、驚かせないよう静かに見守ってください」と。当日パンフにも記してあるが、この言葉が肝。そう言えば、舞台転換時に幕の奥から騒めきが聞こえたが、【観客編】とあるから観客がいると思わせるためかと思っていたが、幕が開いてアッと驚いた。そういう理由(ワケ)だったのか。

一貫して唯一無二、存在するか否かといった舞台(虚構)の世界…同じものはない「たったひとつの かけがえのない世界が 劇の数だけあるのが 劇場なんです」…来た時とは反対側の客席通路を通って帰る女性、見事な劇中劇だ!
次回公演も楽しみにしております。
最後にご招待ありがとうございました。
下山 ~親鸞の覚悟~

下山 ~親鸞の覚悟~

文化芸術教育支援センター

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
親鸞の半生を力強く描いた物語。親鸞の生い立ち、修行や煩悩はもちろん、当時の時代(社会)状況を描くことで「人間・親鸞」が見事に立ち上がってくる。脚本の深みと広がりは十分堪能できるが、音響・音楽や照明効果といった舞台技術によって一層 印象に残る作品に仕上がっている。特に和琴演奏の高谷秀司氏、音楽 竜馬四重奏の竜馬 氏(ヴァイオリン)/仁 氏(鼓)の生演奏は、舞台に臨場感をもたらす”力”があった。

物語は約800年前。当時の疲弊と混乱した時代背景は、現在のコロナ禍の閉塞と混沌とした世相に重なると。敢えて そう描いているようだが、親鸞の人間らしく生きる、人々に寄り添った生き方は、現代人にも通じるのでは…。
(上演時間2時間 途中休憩なし)

いきてるみ

いきてるみ

安住の地

調布市せんがわ劇場(東京都)

2023/05/26 (金) ~ 2023/05/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第29回OMS戯曲賞佳作受賞作にして 第12回せんがわ劇場演劇コンクール オーディエンス賞受賞の記念公演…見巧者向けのようだ。

物語は四章で構成されており、何となく関連していることは分かるが、意図しているところを読み解くの(自分に)は難しい。チラシに「あなたの痛みも苦しみも、他人だからわかりっこない」、そう 脚本家の脳内を覗いているわけではないので、何を描き伝えようとしているのか本当のところは解らない。それは どの公演についても言えること。しかし 本作は、独特な身体表現・台詞回し、曖昧な背景など、具体的な説明を削ぎ落し緊密・抽象的に描いており、その表現手法に手強さをおぼえる。

言えるのは、2021年に京都で初演した時、「身体感覚による身体感覚のための演劇」と銘打ったとあり、身体を巡る物語であることだけは分かる。当日パンフには、四章のサブタイトルもなく、一~四章という構成と登場するモノ(者)が記されているだけ。内容<世界観>の面白さは、観客の感性に委ねているため 評価が割れるだろう。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

初演時に「小説から戯曲化された濃厚な言葉たちと身体表現の融合」とあり、演劇の<骨格>だけを提供<観せ>、そこから派生する 若しくは想像することを観客に楽しんでもらう といった公演、ではなかろうか。
舞台美術は、章によって異なるが、基本は ほぼ素舞台。

【第一章】
上手 下手に衝立、下手に箱2つ。登場するのは「生」と「声」のみ。
ニオイから始まると前置き、照明で暗闇がだんだんと明るくなり、ムーヴメント<動作>が見えてくる。片足がなく という身体性が語られ、またフェードアウトするように暗闇へ。ラストは母親の胎内にいる赤ん坊のよう…仰向けになり 両腕・両足を天に向かって伸ばす姿。

【第二章】
上手 下手に衝立、椅子が2脚ある診察室内。登場するのは、医師・看護師・患者・子ども。
医師と患者、患者と看護師、患者と子ども、子どもと医師といった、何となく連環するように二人芝居が続く。夫々の心情は直接 台詞と舞台上にいるプロンプターのような存在によって情況・状況が語られる。内面を読み取る<読心術>の攻防、手術によって切断した片足をどうするか。生=身体は生<ナマ>もの、切断した足は焼骨し骨壺へ。生きている人間が 自分自身<足>を供養するような奇妙さ。

【第三章】
雑多な段ボール箱、その中にある薄布に包まれた楕円物体。登場するのは、7・24・205という3数字で呼ばれる人?
新たに205が配属され、先任に作業手順を聞くことで物語が進む。ここが何処で、ナイフで薄布を取り除き 剥いているモノは何なのか、そして居るのは 人かロボット(定型的な動作)なのか といった得体の知れない不気味さが漂う。そして時々リーダー<7>が別場所へ呼び出され、24が突然居なくなる。何となく臓器の保存・保管業務のような…。

【第四章】
素舞台。登場するのは発表者・胎児。
第一章へ、といった展開。そこには生命の誕生が連想できる。

作・演出の私道かぴ さんが当日パンフに「他者はもちろん、自分のことだって何もわかりません」と。人の内心は勿論、身体的な痛みー身体欠損をしたこともない未経験者が、身体表現を通して人間<生>を描いている。四章を通して、見えない<心>を見える<身体>で表現する。その奇妙というか奇抜な発想がこの芝居の特徴であろうか。
次回公演も楽しみにしております。
最後に、公演へのご招待ありがとうございました。
海の木馬

海の木馬

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/05/30 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
物語は、海の特攻隊「第128震洋隊の悲劇」を 昭和20(1945)年初夏から同年8月16日迄を中心に描いている。”人の噂も75日”というが、今年で戦後78年になるが けっして戦争という<不条理>を忘れてはならないことを訴える。今まで観た桟敷童子公演に比べると舞台装置はシンプル。しかし それゆえ人物が焦点になり、心情が鮮明に浮かび上がってくる。

舞台は高知県の秘密軍事基地と周辺漁村。特攻隊員が出撃するまで民家に投宿したことで芽生えた心情、民間人との交流を通して自分の家族への思いを馳せる。電波状況が悪く玉音放送が聞き取れず、情報が混乱したことで悲劇が…。演劇という虚構と実際の出来事、その虚実を実に巧く紡いでいく。軍人・民間人それぞれの立場や情況等の違いによって抱く思いは異なる。その心情を情感豊かに演じる役者陣の演技が凄い!

「海の木馬」は、震洋一型と名付けられた機体が海上を進めない<木馬>のようだ と。名は、太平洋を震わす を意味するが、実態はお粗末な機体に人を乗せて特攻させる。そこには期待もなく、<死>だけが横たわる という皮肉が込められている。天井から一筋の滝のように流れ積もる砂、その高さの分だけ悲しみが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、葉に覆われている または氷柱が重なった様な妖しげな光景。まるで海中のシダ洞窟にいるような感じ。青白い照明があたると実に幻想的だ。この世とは思えない、そう、登場するのは18~19歳の震洋一型に乗る特攻兵4人、うち1人青柳周平(小野武彦サン)は生き残った。当時と今を生きる青柳を通して時代間隔を表している。物語では<戦時中>を遠くに追いやることなく、地続きの現代の事として描く。この4人と部隊長・艇隊長・整備隊員2人が軍人、投宿先は村上旅館、訳あって今は営業していない。そして勤労奉仕隊の女性たち。その軍人・民間人の温かく仄々とした交流を無情に引き裂くのが戦争(特攻)。

飛行機での特攻を志願したのにと …しかし震洋一型は薄いベニヤに車のエンジンを搭載という粗末な機体で、既に戦闘能力ある武器が製造できないことを物語っている。そして終戦の翌日、混乱した情報に翻弄された隊員達が出撃しようとするが、燃料引火による爆発で111名が死亡。自分はこの事実を知らず、この公演で知った。当日パンフでサジキドウジ氏が「あまり報道がなく、責任も追及されず、歴史の闇に埋もれた」と記している。この公演では「記憶の蒼が引き裂かれ、繋ぎ合わせてあの日辿る…」が謳い文句、同感である。

国家機密も軍事機密も軍民一体となった暮らしでは隠しようもない。同時に 人としての情愛が生まれるのもあたりまえ。焼酎をふるまい、少ない食材でカレーを提供する、軍人さんは 生き神様と崇める。逆に、特攻隊員は民間人を守るため 自分の命を…。ラスト、村上家の次女 珠子(大手忍サン)が青柳のあんちゃんに向かって「卑怯者、生きるのが怖いのか」と叫ぶ。青柳は、自分だけが生き残った無念、声にならない心の慟哭が痛ましい。そんな姿を見せる演技に心根が震える。

舞台技術、特に照明は 壁面に人影を映すことで多くの人の存在を表す。そこには地元民だけではなく、日本のいたるところにある光景を観せている。そして椅子を振り上げた人影こそ、無言の怒り。椅子に座る青柳、天井の至る所から砂が流れ落ちるが、それは人骨、その高さだけ悲しみがある。胸がしめつけられる思いだ。
次回公演も楽しみにしております。
原色★歌謡曲図鑑

原色★歌謡曲図鑑

株式会社ビーウィズミュージック

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2023/05/11 (木) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ザ・エンターテイメントといった公演。
タイムスリップものであるが、時代を遡行するのではなく、昭和から令和の時代へ というのが肝。公演の魅力はアップテンポで展開し、心地良く観せているところ。勿論 音楽業界の流行変遷、時代感覚や広報(情報)戦略の違いなど、<時>を意識した描きになっている。そしてロビーには劇中で歌った曲の架空?の売り出しポスターを貼るなど、至る所に楽しませる工夫が…。

懐かしき昭和歌謡番組「ザ・ベストテン」を意識した設定の「原色歌謡曲図鑑」、時代を越えての音楽愛に溢れたドラマ。シンプルな舞台美術だが、何となく華やかに見える不思議な光景、ひと時の夢を観(魅)せてもらったような感覚である。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

このページのQRコードです。

拡大