タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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お局ちゃん御用心!!!

お局ちゃん御用心!!!

片岡自動車工業

駅前劇場(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
出演者は全て女優、表層の華やかさの奥に隠された妬みや嫌悪といった陰湿さ、それを大奥という女だけの世界を舞台に面白可笑しく描いている。時は徳川二代将軍 秀忠の頃、となれば秀忠の正室お江と春日局の対立を連想する。タイトルからも そう思うが、それだけではなく奥女中同士の蔑み罵り、新人女中の右往左往、口軽な忍者など、個性豊かなキャラを立ち上げる。

そのキャラだが、華やかなチラシの出演者の横に添え書き(説明)されている。なるほど と唸ってしまうほど的確な表現で笑ってしまう。濃いキャラが舞台狭しと歌い踊る姿は華やかで観とれてしまう。衣裳、立ち振る舞いといった外見だけではなく、群舞のレベルの高さに驚ろかされる。勿論 遊び心あるシーンを挿入し観客を和ませるといったサービスもある。

衣裳は着物のような和洋折衷のような独特で雰囲気のあるもの。頭飾りや扇子など小物も派手で目に付く。一方、舞台美術は和柄文様の衝立2つを自在に動かし情景を描き出す。物語はテンポよく流れるように展開するが、手に捲り台を持って場転換を示し、場面の変化を表す。台本通りなのかアドリブなのか判然とさせない面白さ、かと思えば 捲り台などの工夫で観客を置いてきぼりにしない。演じ手・踊り手・合いの手といった役のキャストが 観(魅)せるを意識したエンターテインメント、大いに楽しめた。ちなみに、演じ手・踊り手・合いの手は、公演ごとにシャッフルするから、都度違った印象になるようだ。
(上演時間2時間 途中休憩なし)

演劇制作体V-NETプロデュース公演 ~信号ズ特別公演『終わりで始まり』/ 演劇制作体V-NET短編集『いつかの己を超えて行け!』~

演劇制作体V-NETプロデュース公演 ~信号ズ特別公演『終わりで始まり』/ 演劇制作体V-NET短編集『いつかの己を超えて行け!』~

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇制作体V-NET短編集「いつかの己を超えて行け!」…演劇2本立て、小金丸大和 氏の短編「ダブル・ブッキング」と「胸に月を抱いて」を観劇(上演順)。

どうしてこの演目・内容を選んだのか、そこには或る意味が込められており、その気概というか決意に感じ入る。当日パンフの前段に「2023年は、V-NETにとって大きな変革の年となりました。20年慣れ親しんだ稽古場を離れた事をきっかけに、多くのメンバーが離脱」とある。その苦境・困難を2本の短編(内容)に見立てているようだ。そして後段では「いつかの己を超えて行く事で、劇団のこれからの10年を模索」とある。

「ダブル・ブッキング」は、全盛期には何社もの同時連載をこなしていた漫画家がスランプに陥り、何とか再起しようと足掻く。取り敢えず2社の仕事を同時に引き受けたが…。
「胸に月を抱いて」は、彼女が事故によって記憶を失い、自分は松井須磨子と言い出す。そして恩師であり愛人である島村抱月に会いたいと…。この2編に共通するのは、劇作家の苦悩、これからの創作へ思いを馳せること。

2編のうち、「胸に月を抱いて」は観たことがあるが、演出を変えて分かり易くしているといった印象だ。「ダブル・ブッキング」は初めてで新鮮。2編を観ると その共通した思いの強さが伝わる。
卑小であるが、演技力に差があるように思えたのが惜しいところ。星(★)は、今後への期待を込めて敢えて4つ、これからも応援している。
(上演時間2時間 各1時間、途中休憩兼転換時間10分) 12.10追記

ネタバレBOX

舞台セットは、基本的に両短編とも同じ。後ろに段差を設え、やや下手にいくつかの箱馬(椅子)がある簡素なもの。

●「ダブル・ブッキング」
編集者2人が、下手で自社へ作品を先に提供するよう漫画家へ依頼するところから始まる。漫画家はアイデアが枯渇し自信を失っている。編集者が協力しアイデア、プロットを出し、その光景を上手で演じ視覚化して観せる。シチュエーション、設定が変わり その都度 演技も変化し面白可笑しく展開していく。
一方、漫画家は 自分自身(自信)を見失い妻に心配をかけていることを気に病んでいる。しかし妻曰く私は二番目のファンであり、あなた(漫画家)自身が一番のファンなのだから自信を持ってと励ます。

●「胸に月を抱いて」
恋人が事故で意識不明、そして目覚めた時には「自分のことを松井須磨子」と言い「島村抱月に会いたい」と言い出す。困った恋人の佐々野は 彼女を連れ街中へ。怪しげな占い師の言葉に従い、お台場へ向かう。大正期に活躍した島村抱月の多才ぶり、そして今の時代にも同様の才能を発揮している人物に出会う。
島村抱月が乗り移ったであろう人物が、自分の才能の限界、世間の悪評に苛まれていたこと吐露する。そして須磨子こそが抱月の器を超えてという嫉妬にも似た感情を抱き始め、当時の流行り病に倒れたことを明かす。

敢えて この2編を上演…漫画という媒体、島村抱月・松井須磨子という人物を通して芸術=演劇に置き換えてみると、GK最強リーグ戦で優勝している作品を更に超えようという意気込みが伝わる。だから 過去作品のレベルに止まらず「いつかの己を超えて行け!」というタイトルなのかと。
先にも記したが、ほぼ素舞台 それだけに役者の演技に注目することになり…。どうしても一人ひとりの演技力を観比べてしまい、それが作品全体の印象に繋がってしまう。そこが総合芸術といわれる演劇の面白さ 怖さではないだろうか。
次回公演も楽しみにしております。
なにがたりない

なにがたりない

演劇企画 どうにもならない毎日に光を。

北池袋 新生館シアター(東京都)

2023/12/01 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

青春のほろ苦い1ページを綴った物語。どこにでもありそうな光景を淡々と そして瑞々しく描いている。それは 同世代には共感をもって、その時期を過ぎてしまった年代には懐古が感じられるのではないか。

時間は流れすぐに消えてしまうが、写真はその瞬間を切り取ってあった事(事実)を残すことが出来る。好きでなくてもいいから、居てよかったと言ってもらえたら嬉しい、そんな切ない心情を繊細に描く。キャストは総じて若く等身大の男女カップルを演じているようだ。

描かれているのは、外見的なコトの善悪といったものではなく、表現し難い内面的(心情)なことー好きだからこそ 信じられなくなったら苦しい思いが加速するーなんとも切ない純情。その理屈では説明できない恋愛物語を上手く表現している。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

舞台セットは暗幕で囲い、ほぼ中央に横長のソファとカラーBOXがあるだけの簡素なもの。主人公 写真家志望の悠作の衣裳は白っぽく、後景と相まって見るとモノトーンといった感じで、それがフィルム写真と重なるようだ。表されているのはバイト先の写真店、それぞれのカップルの部屋といったところ。

悠作は 高校時代に思いを寄せていた女性と付き合いだし、幸せを感じていたが、その彼女が偶然 高校時代の元カレと出会ったことを知り、心穏やかではない。一方、悠作はバイト先の店員で大学の後輩に慕われているが、そのことに気が付かない。さらに同じ大学の男女の恋愛が絡み、それぞれの思いが何となく ずれ恋が実らない。そんな もどかしさが少し甘酸っぱく描かれている。

大きな事件などが起きるわけでもなく、大学とバイト生活が淡々と紡がれ、その中で青春期の それも恋愛という断片を上手く切り取っている。意識しなければ「時間」というかけがえのない、後戻りできない時を無為に過ごす。その瞬間瞬間を大切にして 愛おしい人と過ごしたい、が 一度不信感が芽生えると どうしょうもなく不安になる。一方受け入れられない恋、それでも一緒にいたいという抑えがたい気持が痛いほど伝わる。

ラストは、結ばれなさそうな男女が新しい恋を実らせるような予感。人はどんなに苦しくても立ち止まらない。人に出会い、新しい何かを受け取り与えることで、止まった時間を再び動かすことが出来る。そんな前向きなラストシーンにホッとする。
次回公演も楽しみにしております。
トレマ

トレマ

立ツ鳥会議

中野スタジオあくとれ(東京都)

2023/11/25 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

例えが適切でないかもしれないが、文学で言うところの純文学か大衆小説かといったら、この公演は前者だろう。観て楽しむ という娯楽性よりは、会話を通して思惟を深めるといった味わいがあるもの。しかし 観念的といった印象も強く、作者の中では完結しているであろう物語は、観る者に相応の想像力を求める。

「幼馴染みと再会するが、どういうわけか彼が『本物の彼』だとは思えない」という謎めいた説明は、観る者の解釈によって異なった結末そして印象を持つのではないか。不動産会社に勤める男の これから生きる時間とこれまで生きてきた時間、現在と過去の人生が交差したとき、忘れ(止まっ)た時間が混乱と動揺をもって動き始める。そして場所…東京と地方都市(過疎化)といった生活空間の違い 距離が、人と人の絆を脆くさせるのであろうか。何となくタイトルに悲哀が…。

そして不動産屋に絡む存在として、内見を繰り返し行うカップルの志向と諦念といった正反対の思考が面白い。どちらかと言えば理屈めいた会話が、不動産屋の要領を得ない態度や様子を際立たせる。
いつの間にか忘れてしまった出来事、いや自分の心に閉じ込めてしまった苦い思い出が炙り出される。ほぼ素舞台(ボックス クッションが2つだけ)、特別な出来事は起きず坦々と紡ぐ日々、にも関わらず観入ってしまう不思議な力がある。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)11.27追記

ネタバレBOX

不動産屋の男 佐倉井周(佐々木峻一サン)と妻の遥(中村彩乃サン)が雨宿りし雷鳴が轟いた時、周の幼馴染 円山崇(豊島祐貴サン)が現れたところから物語は始まる。その出会いは偶然なのか必然なのか。中学卒業以来20年ぶりの再会、しかし周は幼馴染の崇のことをすっかり忘れていた。

周は結婚し 近々子供も生まれる予定で、平凡だが幸せな暮らしを築いている様子。それから何度となく再開するが、そのたびに崇は変わった姿で現れる。周は学生時代に苛められており、崇に庇ってもらっていた。高校は別々になり、ある時 崇の悪口を聞くが関わりたくないため無視した。庇ってもらったことなど忘れていた。今、崇は生まれ故郷の家で引き籠りになっているはずだが…。

引き籠りの崇と東京で再開する。その姿は妻や不動産を内見しているカップルにも見える。しかし 周が過去の出来事を思い出し、生まれ故郷の崇の家で向き合った印象は霊(魂)のようでもある。崇の存在(生・死)によって、現実か心象劇かという違った捉え方になる。それは 今後の周の生き方に大きく関わってくるのではないだろうか。ラストは、どちらにも捉えることが出来る、いわば観客に委ねたといった印象である。

物語は、周と崇の関わりと不動産の内見を繰り返すカップル 馳川琥太郎(田宮ヨシノリ サン)樋口アヤメ(ぬまた ぬまこ サン)と物件を案内する周や先輩 兼古尚貴(七井悠サン)、この2つの話に緊密な繋がりはない。
カップルの会話は、それぞれの性格であり考え方の違い。同時に社会(世間)に対する見方のようでもある。少しでも良い条件 環境を求める固執か 現状維持の妥協といった対立の中に社会との関りをみる。

最後に都邑といった違い、この距離が過去と現在を分断するような描き方。そしてタイトル「トレマ」、実は過疎化の進んだ街の行き止まり…「止まれ」の看板が修繕されず「ま」の字が「れ」の下にずれ落ちたのだと。全体的に薄暗い照明、忘却も含め 物悲しいような雰囲気に包まれる。
次回公演も楽しみにしております。
クロノスとカイロス

クロノスとカイロス

FREE(S)

ウッディシアター中目黒(東京都)

2023/11/21 (火) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

時空や次元を超えて人の思いを紡いだヒューマンドラマ。常に寄り添い見守るような 優しいまなざしの母、言葉少なく不愛想 不器用な父、そんな両親の下に生まれた三人姉妹(長女 辛沙奈サン、次女 鈴木沙綾サン、三女 神咲妃奈サン)が、それぞれの性格や立場を表し、抱いている思いと苦悩を吐露するように展開していく。

「人は何のために生きるのか」といった旨の哲学めいた台詞もあるが、物語は タイトル 説明にある「『時』と『時間』同じ刻を表す言葉『時間』は一瞬一瞬を表し、それが積み重ねられて『時』となり・・・」という内容を準え、答えのようなものが浮き彫りになる。時の積み重ね=生きることによって 初めてそれが分かるのかもしれない。

家族にとって自分の存在が重荷になっているのでは、と悩む女子高生(三人姉妹の三女)、どうして彼女が苦しんでいるのかが物語の肝。しかし早い段階で、彼女を見守る人、その様子から何となく想像がついてしまうが…。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、やや上手にパンケーキ店 オカリナ、店先に並んだ樽の上に瓶。下手にハナミズキ、所々に生い茂った葉。シーンによって店内にテーブルや椅子を運び入れる。この劇場の特徴、出入り口近くに別場所(公園か?)を設える。

物語は、三女が高校を卒業してハナミズキに向かって感謝の言葉を言うところから始まる。<感謝>するということは、見えない思いや行為に向かって発する言葉。
店にたびたび来ては、食べないで帰っていく謎の女。立ち退きの嫌がらせか といった憶測をする常連客や三女以外の家族、一方 立ち退き話を知らされていなかった三女の疎外感が絡んで物語が立ち上がる。

母は三女が3歳の時、一緒に出かけた店の火事で、自分を庇い死んだ。自分のせいで と自身を責める。しかし 長女は、自分も一緒に出かけており、母は二人の娘を助けるためにといった事実をいう。この火事現場に生きることを見失った中学生がおり、それが謎の女の正体。娘を助けようとしている女性(母)を助けることも出来ず、死のうとしていた自分が助かってしまう。その理不尽というか嫌悪への贖い(あがない)のためオカリナへ来ていた。<生きること>は一瞬一瞬の時の積み重ねであり、相手を思いやること …あまりにキレイ過ぎるような気もするが。

ちなみにハナミズキの花言葉は「永続性」「私の思いを受けてください」「返礼」らしい。何となく、生きる、自分自身を大切にする、そして相手を思いやる(別エピソードの待ち人や結婚の約束など)に通じるよう。それを 総じて若いキャストが溌剌と演じ、脚本・演出 そして父親役の下出丞一さんが渋く重みをもってまとめている。全体的に重苦しくならずポップな印象の公演、楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。
メタ・バースデイ

メタ・バースデイ

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
表層的には、定年退職を機に考えること…就活ならぬ終活の一環として生前葬を行う男の物語。現代 初老男の人物像とその家族像を鮮明に切り取り、その世代のリアルを描いた秀作。
少しネタバレするが、男は元高校教師で 謹厳実直で家庭でも厳しかった。家庭内のことは すべて妻任せで家事はもちろん子供のことも見(考え)ていなかった。そんな男の哀愁と今後(第二)の人生を見つめ直すといったコメディタッチのヒューマンドラマ。

描き方としては序盤から中盤まで誤解・勘違いといったドタバタ騒動で笑いを誘い、後半からラストにかけて滋味溢れる展開で泣かせる。その感情の揺さぶり方が上手い。ちなみに男は学生時代にミュージカル研究会におり、高校(教師時代)では演劇部顧問をしていた。その関係もあり劇中でミュージカルナンバーを披露して楽しませる。

男の半生は反省でもあり、妻や子供たちと向き合うことで<生きる意味>を見出す。そのためには 何んらかのキッカケが必要であり、それが生前葬。実に上手い設定だ。
(上演時間2時間30分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は和室…座卓や飾り棚等が配置されている。冒頭 洗濯物が室内に干してあり、だらしない暮らしであることが容易に想像できる。上手・下手にそれぞれ出ハケ口があり、上手に階段があり二階へ。

定年退職をして やることがない男が一日中ぶらぶらしている。妻との会話も ほとんどなく生ける屍状態、そこから脱却するため生前葬を思いついた。同時に自分が本当に死んだときの葬儀の煩わしさを省くため、実家に戻ってしまった妻が驚いて戻ってくるかも、そんな淡い期待もあったよう。4人の子供のうち 3人は家を出、ニートの末っ子との二人暮らし。子供が小さいときには6人家族で騒がしかったであろう家、それが今では寂しいかぎり。

さて、子供たちに典型的な人物像を担わせ問題・課題提起をしているようだ。長男は高校時代に父と喧嘩し家を出たまま何年も帰っていない。長女は実家の近くに住んでいるが、夫は失職中で経済的に困っており 遺産目当て。次女は気功(運気)に係る組織と言っているが何となく胡散臭い団体のよう、末っ子(次男)はニート。子供たちの在り様と退職した父の心情、それは どこにでもありそうな家庭(族)に重なるのではないか。だからこそ幅広い観客層の共感と哀愁を誘っている と思う。

生前葬は学生時代のミュージカル研究会の仲間が取り仕切っており、金ぴかのモニュメントとデフォルメした遺影が飾られ、しかも棺桶まで用意する。そして高校時代の教え子(演劇部)の訳ありな仕草や家出した長男が彼女を連れて帰り、なんだかんだ子供たちは勿論 妻まで帰ってくる。そこで巻き起こる騒動、一転 戻った妻との会話が滋味あるもの。妻曰く 葬儀は死んだ人のためではなく、生きている人々のため(励まし)。一方、夫は生前葬を執り行うことで死を見つめ、今後の生き方を考える。生前葬を通して、死と向き合い 生きることの喜びを知る、これが本公演の肝であろう。

物語はドタバタ騒動(笑い)から、帰ってきた妻 実はといった事実(悲しみ)を明かす。舞台奥の壁が開き、暗幕そしてスモークの中 天国に続くような白い階段が現れる。階段に座り 夫婦でしみじみと話す、それこそが定年退職後の本来の姿のようだ。ラスト 妻に促されて…まさに生き返り、新たに生きる意味を見つけた「メタ・バースデイ」だ。
オペラ座の怪人を歌い踊る。ニートが思わぬところで拳法で活躍するといった観(魅)せ楽しませる。謳い文句「珍騒動を描いた愛と感動の スラップスティック・コメディ」堪能した!
次回公演も楽しみにしております。
さすらう

さすらう

劇団BLUESTAXI

ザ・ポケット(東京都)

2023/11/08 (水) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
2つの話が交差し、どのように繋がるのかといった興味を惹く巧さ。「さすらう」は漢字にすると<流離う>となり、なるほど 物語の展開そのものである。
説明にある「母をなくした男、記憶をなくした男、愛をなくした男。失ったものを取り戻すため3人はさすらいの旅に出る」は、人生における過去を見つめることによって未来を切り拓く。その意味では、心の彷徨をも表しているようだ。

3者三様の人生に、現代日本が抱える問題を反映させ、色々考えさせる 深みある公演。しかも、それを前面に出さずに、あくまで3人のさすらいと繋がりとして紡いでいるところに好感がもてる。
(上演時間2時間 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術はBOXを不規則に積み上げたような非対称の段差、その色調は白と黒という反対色(継ぎ接ぎといった印象)。
冒頭、母から父の住所が書かれた紙を渡されバスを待っている知的障碍の男、拉致されやっとの思いで逃げてきた中年男が出会ったところから物語は始まる。また、妻と娘と3人で暮らしている初老の男、この2つの話を交差させ複雑な人生模様を紡ぎだす。この3人の男が説明にある さすらいの旅に出る ことになる。もっとも実際の旅というよりは心の彷徨といった感じだ。

知的障碍の若い男は、母を亡くし親戚の家で育てられている。バス停で話していた母は亡霊といったところ。逃げてきた中年男は、母に捨てられ 児童養護施設で育ったため愛を知らない。そして初老の男は認知症で記憶を失いつつある。この3人が付かず離れず展開していく。演出は、どのような脈略で繋がるのか興味を惹かせつつ、笑いや暴力シーンを挿入し緩急をもたせ飽きさせない。

知的障碍の男の(亡き)母と認知症の男は かつて結婚していたが、男のエゴのため別れた。そして今の妻と再婚して娘が生まれた。最近 認知症状が進み、現在と過去の記憶が混濁し前妻の名前や知的障碍の子の名前を呼ぶようになる。耐(堪)え切れなくなった家族の痛ましさ。一方、知的障碍の男も母が亡くなり、父が他の女性の再婚し孤独。また母に捨てられ児童養護施設育ちの男は、母に会いに行ったが惨い言葉を投げかけらる。

それぞれの男は 救いようのない悲しい思いをしている。障碍者への対応、認知症患者と家族、ネグレスト問題…今の日本が抱える課題を3人の男に負わせ、それでも前向きに生きる、そんな後押しをする応援歌のよう。そして彼らを見守る女性ーー亡き母であり児童養護施設で一緒に育った妹のような女性、そして今の妻と娘ーー女性という別観点で描く慈愛が逆に支え 救いとなるような巧さ。

物語のキーワードは「鳥」。劇中歌は、TVドラマ「池中玄太80キロ」の 挿入歌 「鳥の詩」で雰囲気にピッタリの選曲。そして<好き>とは ずっとそばにいたいこと等、珠玉の言葉(台詞)が心に残る。
一方、卑小ではあるが、2つの話を繋ぐのが認知症の訪問介護士らしいが、どうして障碍者 男の父親と気づいたのだろうか。
またラスト、障碍者と亡き母の しりとりゲームで終わっても余韻があったと思うが…。
次回公演も楽しみにしております。
ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

GROUP THEATRE

浅草九劇(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
第二回浅草九劇賞特別賞受賞作。観劇日は満席。
三浦按針が故郷・家族、そして命をも捨てる覚悟で大航海を経て日本に漂着、その経緯をナレーションで説明するところから物語は始まる。勿論 コロナ禍という閉塞・混沌とした現代においての道しるべとして準えている。内容的には重苦しいものであるが、描き方は逆に多くの笑いを誘いながら元気づけるよう。端的に言えば、今を生きる人々の心を優しく描いた 希望への物語と言えよう。

説明にもあるが、舞台は大分県臼杵市の港町の海鮮居酒屋「魚屋按針」、そこで働く個性豊かな人々との ぶつかり合いを通して生きる希望を見出す。逆境や絶望の淵で、それぞれが生きるための模索や選択する姿を丁寧に描き、人と人の関わりが生きる希望へ繋がることを示唆する。厳しい現実から目を逸らさず、立ち向かう勇気こそが<生きる>ことと訴えているようだ。

全編 方言(臼杵弁)で紡がれるが、けっして一地方の出来事ではなく、日本の至るところで見聞きすること。東京の大学に通っていた小松翔太はコロナ禍によって就職先の内定を取り消され、アルバイトも解雇、学費も家賃の支払いも ままならず…。行き場のない翔太の苛立ちと鬱屈した気持を変える転機、それが故郷であり父 義一が経営する店での数日間の出来事として描く。良いとか悪いとかではなく、いろいろな意味で説得力に溢れた力作。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、海鮮居酒屋「魚屋按針」店内…下手が入り口、すぐカウンターがあり棚に酒瓶が並んでいる。中央奥に座敷、手前にテーブルと椅子代りのビールケース、上手奥がトイレ。壁には大漁旗、観光ポスター等が張(貼)られている。

物語は説明の通りであり、訳ありの人物と店主 小松義一(梶原涼晴サン)の関わりや背景(過去)は台詞でサラッと説明するだけ。どちらかと言えば、訳ありの人物と帰郷している息子 翔太(甲斐直人サン)との衝突を通して今の窮状、その深刻さを際立たせる。それがコロナ禍における状況で、日本の至る所で見られた光景であろう。しかし閉塞感ある状況下においても、明るく前向き いや開き直りといった店主の姿が逞しい。その諦めない姿にANJINの航行を重ねる。

訳ありな人々(性格等)…元ヤクザ(暴力)、アル中(怠惰)、引き籠り(泣き虫)、デリヘル(妊娠中)が店主に雇われ、その日暮らしの生活をしてきた。しかし、借金返済の目途が立たず 店が差し押さえという現実を突き付けられ、知恵を絞り打開策を考えるが…。今まで流されるようなダメ人生、初めて自分たちで何とかしようと努める、そんな成長譚であり応援謳でもある。この個性豊かな人々を演じた役者陣の熱演が、この公演を支えており、情感溢れる印象を与える。

上演前、揺れるような水色紗幕、波の音が港町の情景を想像させる。中央に物語の象徴でもある輝くコンパス(羅針盤)を置く。暴風雨の中、船を出航させた父の行方は…そんな周りの緊張と飄々とした店主であり父の態度、その対照的な描きの中に どんなことがあっても生き抜くといった力強さを表す、それが公演の肝であろう。
次回公演も楽しみにしております。
結晶

結晶

劇団5454

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/11/10 (金) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
概要は ⽣殖科学に係る物語のようで、「ベイビーラボ」と呼ばれる人工⼦宮施設を介してヒエラルキーを描いているような問題作。説明にある「人工子宮児が『コールドベイビー』と呼ばれ、忌み⼦として扱われていたのも遥か昔のこと」という未来の観点で描いたSF。いわば<出産>そのものの捉え方が違うが、その奥底にあるのは<人>に対する優劣もしくは偏見といった歪な世界観が透けて見える。

上演前、舞台セットの写真撮影が可である旨 案内があった。中央 上部から細長布を円柱状に垂らし、幾つかの透明なチューブ、まさに人工⼦宮施設らしきものを作る。その台座にあたる所は芝(グリーンジュウタン風)であり周りに蔦 葉が巻き付いている。
物語では、現代の「出産児」は珍しく「コールドベイビー」と比較することによって<人間>の在り様を模索する。人の誕生を肉体・精神・経済など多面的な検討を行い、きわめて合理的な考え方をする。それは理論・理屈の世界で曖昧な感情が入る余地がない。にも拘わらず、根幹にあたる台座は芝であり蔦 葉=自然を表している。未来と対比することによって現代の自然分娩、その出産と親(特に母性)の命がけの愛を確認するかのような描き方だ。その発想の柔軟性が、物語に込められた問題・課題の広さ、奥深さに繋がっているよう。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

GIRLS TALK TO THE END vol.4

GIRLS TALK TO THE END vol.4

藤原たまえプロデュース

OFF OFFシアター(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
「GIRLS TALK TO THE END vol.4」ということから、シリーズ最後の作品のようだ。濃密いや<濃蜜>なガールズトークは、女の一生(生涯)をもって暴露し合ってもいいような。40歳代の女優が女子高生に扮して十代から四十代へ、28年の歳月を経ても なお友情と嫉妬という表裏を面白可笑しく、そして哀切をもって描く。しかも、ラスト暗転後 すぐに明転して放った一言に女の執念深さが…いや怖い。

上演前からJK制服を着た女優が舞台上におり、主宰の藤原珠恵さんが写真撮影しInstagramにアップしてほしいと。上演間近には6人の女優が揃ったことから、さらに煽り笑いを誘う。それだけ思い入れのある作品なのだろう。それに応えた女優陣の熱演が、公演の観どころだ。
出来れば38年後、48年後といった五十代、六十代…女の一生を通じて、その友情と嫉妬を描いてほしいところだが、内容的には難しいようだ。その意味ではギリギリのところ(年齢)を攻めているようだ。

舞台は、静岡県にある富士山高校のダンス部の部室。時は1995年9月4日、二学期が始まった時から始まる。出演者から明らかなように、話題となる部活顧問は登場しない。この姿なき顧問を巡って嘘と本音の丁々発止、暴露のし合いが始まる。中心人物が登場しないで物語を牽引する、何となく 話題になった映画「桐島、部活やめるってよ」(2012年)を思い出す。
(上演時間1時間20分) 

ネタバレBOX

舞台セットは女子ダンス部室内、上手に部員の収納BOX、下手にテーブルと椅子。後ろにソファや本棚が並び、全体的に雑多な印象だ。
公演の魅力は、高校時代と40歳代半ばの女性キャラクターを それぞれ個性豊かに立ち上げ、丁々発止のような会話が面白可笑しく進展していくところ。それを6人の女優陣が見事に演じていた。
それぞれの時代を表すため 衣装(制服×私服)やメイク、ヘアースタイル、そして携帯電話機種(ポケベル⇒スマホ)といった小物で違いを示す。

物語は、高校時代と28年後の44~46歳になった女性のお喋り。大方予想出来そうな展開だが、それでも楽しく魅了する会話劇。
高校時代は、6名の女子部員と姿を現さない男性顧問・タナベ先生・・通称タベセンをめぐる恋愛話。ある日、学校にタベセンが生徒と交際しているといった密告電話があり、学校を辞めた。部員の中で付き合っていたのか否か、詮索が始まる。そして密告電話をしたのは誰か。一人ひとりが何らかの秘密めいた行動をしており、互いに疑心暗鬼になる。ミステリーものではないが、高校時代に謎めいた伏線を張り、28年後に再会して回収していくといった展開である。日常の会話劇であるから理屈のような整合は不要(野暮)であろう。

それから28年後、40歳歳代になった彼女たちが、ジュリ(諏訪井モニカ サン)のダンス発表会(地元)を機に集まる。その場所が懐かしい部室。チエ(武藤晃子サン)が母校で勤務していること、そして妊娠している様子。部長のアイ(江間直子サン)はいまだ独身でタベセンを慕っており、ストーカーまがいの行為をしている。ユカは、結婚したが離婚して福岡に住んでいる。問題を起こしダンス部を解散にした張本人 メグミ(神田朱未サン)は、結婚し幸せのよう。マイコ(鈴木麻衣花サン)は、出版社に勤務しておりネット情報にも詳しい。6人の近況報告、そして28年前の密告電話、タベセンとの恋バナに話題が移ると…。実は、と言った暴露話が次々に明かされ、懐かしくもホロ苦い思い出が甦る。そして現在も続いているような。

ダンス部という設定から、全員でのダンスシーンは見事。高校時代の溌溂とした練習風景としてのダンス、40歳代で再開し久し振りに踊って息切れした様子、その違いも上手く表現している。一気にダンス部という雰囲気を伝える、実に上手い掴みだ。本公演では、全員が何とも魅惑的なコメディエンヌぶりを発揮し、実に生き活きと演じていた。
長く続けてほしい「GIRLS TALK 」だが、これ以上高齢だと妊娠とダンスシーンは難しいかなぁ。(;_;)
次回公演も楽しみにしております。
サンタクロースが歌ってくれた

サンタクロースが歌ってくれた

キャラメルボックス・ディスカバリーズ

新宿スターフィールド(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
キャラメルボックスの代表作…クリスマスイヴの物語ということもあり、上演前からクリスマスに係る曲が流れており まずは雰囲気作り。劇中劇ならぬ銀幕から上映中人物が飛び出してくるという突拍子もない設定が妙。現実(2人の女性)と虚構(映画「ハイカラ探偵物語」の人物)、現在と過去(大正5年)、実人物(芥川龍之介と後の江戸川乱歩)と 役 といった 時間と場所と人物を交錯させ、不思議な世界観へ誘う。表層的な面白可笑しさの中に 人間---特に文筆家としての才能、その嫉妬心が浮き彫りになる。ちなみに 江戸川乱歩は大正5年に早稲田大学を卒業するが、別意味で その卒論が「競争論」だったような。

公演の観どころは、脚本の面白さは勿論だが、演じる俳優陣の観(魅)せるといった意気込みが凄い。豊かな表情、躍動感ある動き、そして情感溢れる気持を表(体)現し、物語の世界へグイグイと引き込む。ディスカバリーズ…キャラメルボックスの若い劇団員たちによる公演。そして同俳優教室の生徒やゲストを加えた総勢14名(Yキャスト2名含め)が 夫々の役を生き生きと演じており、フレッシュで活力に満ちた劇になっている。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)【Xチーム】 

ネタバレBOX

舞台セットは額縁のようで 左右の上辺に赤い幕、それは映画スクリーンに見立てているようだ。シンプルな舞台だが、スクリーンを飛び出し 都内を巡るシーンを演じるためのスペースを確保する。

梗概…現代-ゆきみはクリスマス・イブに友人のすずこに電話をかけ、映画『ハイカラ探偵物語』を観に行こうと誘う。以降、彼氏がいない女性2人の妄想のような…。
映画の中-「ハイカラ探偵物語」の舞台は、大正5年のクリスマス・イブ。華族の有川家に怪盗黒蜥蜴から宝石を盗みに来ると予告状が届く。警察(警部)が来るが何となく頼りない。そこで有川家の令嬢サヨが友人フミに、フィアンセである小説家芥川に探偵役を依頼できないか相談する。依頼を受けた芥川は友人の太郎(後の江戸川乱歩)と共に有川家を訪れ、黒蜥蜴と対峙する。そして映画は序盤のクライマックスシーンへ、そして芥川は犯人の名前を言おうとするが…。本来ならその場に居るはずの黒蜥蜴が、忽然と居なくなった。突然、芥川は黒蜥蜴が「銀幕の外」に逃げたと言いだす。そこで芥川・太郎・警部の三人は銀幕から飛び出し、ゆきみと共に黒蜥蜴を追いかける事に。

犯人・黒蜥蜴の名は江戸川乱歩の代表的な探偵小説。その謎解きに芥川龍之介の短編小説「藪の中」を連想させる。証言と告白という手法、しかもそれが曖昧で信憑性に欠ける、いわば途中経過の不完全さが次シーンへの興味に繋がり最後までストーリーに集中させる。犯人は推理小説らしく意外と言えば意外かもしれないが、それでも何となく想像が及ぶ範囲ゆえ少し新鮮味がない。犯人の犯行動機は、芸術家らしい才能への嫉妬心というところに品性を感じる。架空の存在の銀幕の人々、現実世界の女性2人が交流するファンタジー。まさしくクリスマス・イヴらしい物語。
ちなみに先の映画も、結末は予想がつきそうな展開で独創性や目新しさみたいなものはなかった。しかし、この嘘くさい世界観にはまって幸福感を味わうのも事実だった。
次回公演も楽しみにしております。
あなたはわたしに死を与えたートリカブト殺人事件ー

あなたはわたしに死を与えたートリカブト殺人事件ー

ISAWO BOOKSTORE

小劇場B1(東京都)

2023/11/08 (水) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
フィクションとノンフィクション、その虚実綯交ぜの世界観ゆえ 生々しさと物語として観せるといった絶妙な公演。物語は事実として事件の概要を淡々と描き、一方 人物の心情は演劇という虚構の中で生き生きと描いており、本当に事件当事者の心持か というような錯覚に陥る。

公演の見どころは、事件の成り行き、特に被疑者と法医学者との息詰まる対峙、そこには被疑者の化学(知識)に対する自尊心が透けてくる。何といってもトリカブトを使用した毒殺という題材の奇抜さに興味が惹かれた。どのような方法で、といった謎解きと被疑者の心の奥底に蠢くプライドが見事にリンクしてくる。

タイトルはトリカブトの花言葉の一つ、その薄紫色をした花の美しさをラストの照明で表すが…。見た目の美しさ、翻って人の善意も優しさにも<毒>が含まれているかも、そんな怖さを感じさせる秀作。主人公の上谷豊 役の是近敦之さんの渾身の力と生々しい感情表現が舞台を支えている。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 追記予定

ハムレット

ハムレット

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)

2023/11/04 (土) ~ 2023/11/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

学生演劇としては、重厚にして心情豊かな表現力で感心した。愚かしくも切ない人間、その姿を浮き彫りにすることで観ている人の心を揺さぶる。「ハムレット」はシェイクスピアの四大悲劇の一つとして有名で、その演出によって面白さが左右されると言っても過言ではないだろう。

本公演は、心情表現を丁寧に描いており、それによって夫々の境遇や立場が鮮明になっている。有名な台詞「To be or not to be,that is the question」に象徴される選択肢のない苦悩が痛々しい。そして 当日パンフ表紙は「-行こう、僕の運命が呼んでいる」という言葉だ。しかし、殺された父の亡霊に復讐を果たそうと決断するまでの<心の過程>があっさりとしており深みが今一つ。亡霊は本当に父なのか、そして本当に叔父が父を亡き者にしたのか、更に自分が叔父を制裁するほどの正義があるのか、といった苦悩が弱いのが憾み。1階ほぼ中央で観ていたが、ハムレットの猜疑心が本物になる、その心情を表す台詞に 音楽が被さり聞こえ難かったせいか。
(上演時間2時間30分 途中休憩なし)

晴耕雨読

晴耕雨読

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2023/11/08 (水) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

緻密で繊細な珠玉作、お薦め。
言葉通りの<晴耕雨読>の さらに奥を描いており、ラストシーンは何とも切ない。
雨の日に 男が書いた小説を女が読む、その内容を三篇のオムニバスとして描き、公演全体の世界観を立ち上げる。その舞台美術はスタイリッシュ、そして 木のぬもり を感じさせるような優しさ。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台美術は、上手と下手を二分割したような作り。上手は白を基調にした室内で、テーブルとイス、二分割と思わせる壁にキャットウォークまたは階段のような。その壁外に1本の木。下手は素舞台だが、客席寄りの 別スペースを高くし欄干らしきものを設える。室内のテーブルやイス、下手に搬入されるベンチ等 全てが木製である。

雨の日の朝、男と女のとりとめのない会話、そのうち男が書いた小説を読むという形で、短編が紡がれる。上手 室内にいる二人は常に舞台上におり、下手で演じられている光景は小説の中のこと。
●第一話「雨のピクニック」
女が欄干から身を乗り出すような格好に、男は自殺か と勘違いする。それを切っ掛けに付き合いだすといったありふれた内容だ。同時に室内にいる男女の物語の始まりのよう。
●第二話「本と斧」
夜、女の後ろを男がずっとついてくる。女が男に向かってストーカーを止めるように言うが、男は帰る方向が同じだと言い訳する。女は突然 斧を取り出し振り下ろす狂気。
●第三話「プロポーズ大作戦」(これだけは本ではなく原稿段階)
BARカウンター、男が女に向かって結婚してほしいと指輪を差し出すが、自分は相応しくないと断わられる。そこへ彼女の元カレが現れ、三角関係のコミカルな騒動が始まる。

それぞれ違うテイストの短編であるが、底には人の温かさと危うさ、そして狂気のようなものが透けて見える。室内にいる男と女が、自身を含め 何となく人の多面性を覗き見るよう描き方だ。その意味ではシェイクスピアの「万人の心を持つ」(ミリアド・マインデッド)の世界観を彷彿とさせる。

室内の男と雨の日にだけ現れる女…そういえば、冒頭 女が もう起きたのと尋ねたあたりが伏線で、この男(作家)の夢幻の世界観の始まりだ。2人の会話に「かぐや姫」はいずれ何処か(月)へ帰るといった比喩もあり、女の正体は知れる。勿論、足元を見れば男と女は違い、その次元の相違(舞台美術 階段⇒天上)を表している。

木の ぬくもり、照明による葉の影、ピアノの単音など、舞台技術が物語を優しく包み込むようで心地良い。その演出はSPIRAL MOON(秋葉舞滝子サン)らしい余韻を残す。見事!
次回公演も楽しみにしております。
エゴ・サーチ【Mura.画】

エゴ・サーチ【Mura.画】

Mura.画

劇場MOMO(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

バラバラに展開する物語は、ジグソーパズルのピースを組み立てていくような楽しみ、そしてラストに向かって怒涛のように収斂していく。ミステリー サスペンスの謎解きをするような面白さ。それがエゴ・サーチすることによって、自分であって自分ではないという影のような存在を知り 向き合う。そして 主人公 一色健治は、切なくも衝撃的な事実へ辿り着く。現世と来世、現在と過去、そして場所を自在に変化させるため、考えながら観ていると思考が追い付かないかもしれない。

知っているつもりの自分自身、それを ひとたび意識(検索)してみると思いも寄らなかった影の自分が現れる。謎めいた展開へグイグイ惹き込まれる。が、付かず離れずの存在ーー骨なしチキンが今一つ物語(主人公)に絡んでいないような…。今では社会生活に欠かせなくなったインターネット、その功罪として関連付けているのであろうか。何となく コミックリリーフとして表層的な可笑しさを担っただけの印象が強く 勿体ない。
(上演時間2時間 途中休憩なし) 【βチーム】

ネタバレBOX

舞台美術は、上手が階段状、下手に別スペースを設えたシンプルなもの。物語が展開していくと、それが時間と場所を表していることが分かる。冒頭、小田切美保(池内菜々美サン)が沖縄 離島の小学校で体育の授業(野球)に加わっているところから始まる。なぜ彼女が沖縄にいるのかが物語を動かす切っ掛けになっている。が、同時にその地でキジムナー(村上悠太サン)に出会ったことで彼女の人生は動かなくなる。

エゴ・サーチ…説明では「自分の名前でインターネットで検索すること」とあるが、真の自分が誰なのか知らなければ意味がない。物語は、主人公の新人小説家 一色健治(関根翔太サン)が新たな小説が書けなく苦悩し、彼を励ます編集者といった普通の光景。
一方、IT会社(田中実と桐谷舞)へ、<骨なしチキン>という流しの歌い手が 自分を売り出してほしいと依頼に来る。そしてIT戦略を…といった繋がりを見せる。
健治が自分をエゴ・サーチしたことから、同姓同名の人物が自分に成り代わって といった事を見つける。
この2つの話が交錯し、健治の前職と美保との関係、そして健治に近づく謎の男 広瀬隆生(藤代海サン)の正体が明らかになる。

物語の肝は、インターネットという功罪を描くと同時に人と人の繋がりと想いを綴る。健治・美保、そして隆生はIT会社の同僚で、それぞれに好意というか愛を育んでいた。そして或る時、事故が…。健治は記憶喪失、美保はギジムナーに会って ということから容易に想像がつく。現世と来世、現在と過去というバラバラのピースが合わさった時の衝撃、そして感動が生まれる。
また、インターネット(エゴ・サーチ)を利用して、自分を取り戻し、一方 IT会社の舞はリベンジポルノに苦しめられ といった功罪を浮き彫りにする。

階段の上り下り、客席通路を使用した演出は躍動感が生まれ、テンポ良く観せる。歌やダンスといった飽きさせない演出にも好感がもてる。
次回公演も楽しみにしております。
江古田駅をミナミへ

江古田駅をミナミへ

劇団二畳

FOYER ekoda(ホワイエ江古田)(東京都)

2023/10/27 (金) ~ 2023/11/03 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「B.深夜のラジオ」「D.事の顛末」を観劇。
「劇団二畳」の通り、タタミ二畳以上の空間、最小限の音響・照明効果のみで味わい深い内容(短編)を観せる。昨年も観劇し、その面白さにハマってしまい 今年も楽しみにしていた。その期待は裏切られることなく、あっという間の65分。

先に 少しネタバレしてしまうが、二作品はまったく違うテイストだが 繋がりがある。
「深夜のラジオ」はタイトル通り、深夜 午前3時に父と娘2人が語る たわいない話。秋の夜長ならぬ夜更けに1人 こそこそディスクジョッキーのまねごとをする娘(妹 高校1年)、それを覗いて揶揄う姉、そして仕事から帰った父を交えて…。昼公演、至近距離でビール(ノンアルコールだと思うが)を飲む父、カップラーメンを食べる娘たち。そのニオイが空腹感を刺激する。
「事の顛末」は、一転サスペンス ミステリー風で、どんな結末を迎えるのか興味を惹く。登場人物は 5人と少し多いが、緊張と迫真といった雰囲気を醸し出すが、階段(怪談?)あたりから ちょいちょい合いの手が入り笑いが…。
(上演時間1時間5分) 

ネタバレBOX

「B.深夜のラジオ」
ティシュボックスを使って、マイクやオーディオミキサーを作り、深夜DJの真似事をする相馬繭子(田中千絢サン)とその様子を覗いている姉 早苗(折河夏季サン)の たわいない会話。そこへ深夜勤務(鉄道保線員)の父孝三郎(鈴木恂也サン)が帰ってきて親子の とりとめのない会話へ。DJをして楽しんでいる様子から、将来 (職業)何になりたいかといった展開へ。父は鉄道運転手を夢見ていたようだが、今は鉄道に関わる仕事をしている。そして突然、学生時代に演劇部の手伝いをさせられた話を始めた。そして唐突に台詞の一部を諳んじるが、それがチェーホフの「かもめ」である。何とも まっつたりとした時間が流れる。

「D.事の顛末」
「深夜のラジオ」から約30年後の姉妹の話。ある別荘地に繭子(五十嵐ミナ サン)と夫 五十嵐裕史(和田彰サン)がやってきて、管理人に色々訊ねている。そこへ怪しげな男がやってきて…。その様子を階段下で見ている姉 早苗(たきざわちえ象 サン)、繭子曰くこの別荘で姉が殺され、といった衝撃的な言葉。と いうことは階段下にいるのは幽霊か。虚実が入り乱れ混沌とした様相へ、しかし映画で言えば「カッート」といった どんでん返しの結末へ。繭子の演劇公演の稽古という劇中劇、それを階段下で見ている姉。しかも姉 早苗が男に騙されたという実生活を舞台化するという強かさ。

「深夜のラジオ」と「事の顛末」は、高校時代から約30年後の姉妹という繋がりがある。しかも[「深夜のラジオ」で父が話していたチェーホフの「かもめ」、それを いずれ上演しようか といった台詞が…。実に巧い組み合わせの短編だろうか。
次回公演も楽しみにしております。
吉良屋敷

吉良屋敷

遊戯空間

シアターX(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
日本三大仇討の一つである忠臣蔵を 敵役である吉良家の視点でとらえた野心作、と思っていたが現代に警鐘を鳴らすような秀作。当日パンフに美術・上演台本・演出の篠本賢一氏が「江戸幕府百年、当時は、物価の高騰、生類憐みの令によるしめつけで庶民の鬱憤はたまっていた」と、そして劇中で 自分(吉良上野介)が討たれることが鬱憤晴らしになると いった旨の台詞がある。失政を別の関心へ逸らし、町民はそれに乗っていたずらに風評を流してしまう。それは 現代においても同様で、視点を変えれば価値観が180度変わるかもしれない。例えば、インターネットで真偽があやふやな情報が拡散され、それによって選択や判断が大きく変(影響)わる。江戸 元禄時代と違って情報過多の中で真を見極めることの難しさ。

篠本氏は故観世榮夫の下で能を学んでおり、本公演は随所にその様式美(ある意味 時代物のような)ものが観てとれ 時代劇にはマッチしていた。また 物語(展開)としては拍子木を鳴らし場面転換、時の経過といった分かり易さ。伝統演劇と現代演劇を融合したような斬新であり新鮮さを覚えた。そして舞台美術は簡素にして機能的といった優れもの。勿論 討ち入りの場面も観せるが、視点が吉良屋敷にあることから一律に<赤穂浪士>というだけで個々の名は記さず、感情移入もさせない。そして<語り>と独特の<殺陣>は、舞台に釘付けするほどの魅力がある。役者陣の卓越した演技によって、骨太でありながら繊細な公演になっている。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 追記予定

明日葉の庭

明日葉の庭

ことのはbox

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

中高年女性向けのシェアハウスで共同生活をすることになった女性の過去と今後、これからの生き方を見つめた人間ドラマ。入居にあたって過去は詮索しないといったルールはいつの間にか無くなり、それぞれの人生を語り出す。

公演は、説明にある「高齢化社会を生き抜くため、新しいコミュニティのあり方を模索する人々を描いたヒューマンコメディ」であるが、同時に今でも蔓延っているであろう男女の意識の違い 桎梏も描く。勿論 小さな島における地元住民とのトラブルもあるが、そこは あまり掘り下げない。あくまで明日葉に<明日を生きる>といった意を込めた思いを中心に描いている。人の温かさ優しさ、そして地元(島)の人たちの素朴さ、そんな人間愛に溢れた作品である。
ただ、少し気になったことが…。
(上演時間1時間30分 途中休憩なし)【team箱】10.23追記

ネタバレBOX

舞台美術は、明日葉ハウスの共同スペース(ダイニング)、中央にテーブルとイス、上手は玄関・中央に暖簾 奥はキッチン・下手は階段 へ通じる出ハケ口がある。柱や梁があり簡素な造りだが、物語を紡ぐには十分。

卑小…先に 気になったことを記すが、それは時の経過が はっきりしないこと。たしかに 暗転させシェアハウスに集まってきた女性達が暮らしに馴染んでいく様子、会話の変化、さらに島の人々とのトラブル等、ドラマは展開していく。しかし「明日葉ハウス」の経営者(管理人)である清野日菜子の衣裳がほとんど同じ・・いつも黄色薄手の上着とパンツルック。主役であるため多くの場面に登場するが、見かけの変化がない。またハウスで暮らす女性達の衣裳も同じようで、時季の移ろいが感じられないのが惜しい。伊豆諸島、都心に比べ過ごしやすいといった(気候)台詞はあるが…。

物語は、明日葉ハウスに入居した個性豊かで色々な事情を抱えた中高年女性とハウス経営者(管理人)や島の人々との触れ合いや摩擦を通して、新たなコミュニティを形成していく過程を面白可笑しく描く。
観どころは、入居した女性たちの性格・生き様を語り合うところ。沢木京子(阿部由美恵サン)は、独身で下訳をしていたがペットロスで孤独を感じ、大曽根真紀(荒井ぶんサン)は、有名なインド俳優との叶わぬ恋に破れ、西久保 綾(瀧山貴美子サン)は、酒好きで 離婚3回という男依存症のよう、古谷良美(浅見恵子サン)は、ずっと専業主婦で、夫が亡くなり 息子と同居したが嫁姑の問題、出口久江(秋元和子サン)は、島内巡り・写真撮影・ブログとマイペースな行動、そして樫山智恵子(上村正子サン)も専業主婦だったが…。どこかで見聞きしたような性格や事情を点描し、多様な人生を連想させる。

最初は距離を置いた関係が少しずつ自己表現する。縁もゆかりもない土地で新たな生活を築くのは、相当な勇気がいるだろう。一人では寂しい、しかし他人との煩わしい関係は避けたいといった心持が透けて見える。敢えて小さな島での共同生活、時にぶつかり合うが、穏やかに過ごしたい。そして台風によって半壊になったハウスを<家>と実感する迄が本筋。

別に、樫山智恵子は偽名で、夫へ離婚届を置き家出するように行方を晦ませた。その夫がやってきて、口論が始まる。「誰のおかげで食えるんだ」と怒る夫に対し、仕事一辺倒で愛情のかけらも感じられない夫に嫌気がさして…。女らしさ男らしさといったジェンダー問題(ギャップ)もあるが、自分らしさ といった<存在>と向き合うことの大切さが滲み出る。キャリアを目指す女性もいれば、専業主婦として生き甲斐を見出している人もいる。そんな多様な生き方(他の登場人物も含め)を思わせる。例えば、主婦として生きてきた古谷良美を肯としている。本作ではラスト、夫の豹変ぶりに驚かされるが、それでもハッピーエンドとして 上手くまとめている。
次回公演も楽しみにしております。
No Robot

No Robot

One Bill Bandit

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2023/02/04 (土) ~ 2023/02/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

理屈抜きに、楽しんでもらうに徹した 典型的な娯楽劇。そのまま素直に愉しみたい。
説明にある、ジャパンロボットウィークに出展する製品の企画…資料の空いたスペースを埋めるため冗談で書いた企画案が通り、発案者という事でそのプロジェクトに参加することを余儀なくされ…荒唐無稽な内容〈ビジネスドラマ〉だが、それを面白可笑しく観せる。
そしてタイトル「No Robot」とは 実に上手いネーミングで、物語の肝そのもの。感情無きロボットの開発だが、それを担う人間は熱き思いを迸らせる。

歌・ダンスなどは、まさしくエンターテイメント作品だが、それ以上にイカれた、いや イカの手や巨大(肥大)化した人物の印象が強烈。観客に楽しんでもらう、そんなサービス精神に溢れた演出である。

冗談の企画、しかし それに関わった人々の〈正直な〉心を育んでいく成長譚でもある。そこに表層的な面白さだけではない 〈ヒューマンドラマ〉としての奥深さも垣間見えてくる。
そして、出来れば“No Robot”を登場させてほしかったが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩60秒)

ネタバレBOX

舞台美術は、下手正面にスクリ-ンと少し高い段差、舞台袖下はテーブルと椅子があり会議(執務)室を思わせる。上手はある程度広いスペースを確保しているが、それは後々“No Robot”を登場させるため。

“No Robot”=ロボット開発であるが、その動作に「能」の動きを取り入れる。そのため家元の協力を取り付け、さらに人間科学的な要素を取り入れるため、と色々な開発技術を模索し始める。もともと思い付きのアイデア、あまり やる気がなかったが、いつの間にか熱心に仕事に取り組んでいる。一方、一緒に開発に関わっているメンバーの恋愛も絡み、右往左往する可笑しみ。
演出は、カラオケと歌、能舞、スクリーン映像など、バラエティー豊かな観せ方で楽しませる。また巨大化したロボット、イカの手といったインパクトある<被り物>で愉しませる。意識したエンタメ性、そこには観客を喜ばせるといったサービス精神が溢れている。出来れば、能の動きをする完成ロボットを見たかった気もするが…。

普通<または惰性?>のビジネスマンが、或る切っ掛けによって生き活きと仕事に取り組む姿、愛<思い>を伝えることが苦手 または臆病な人の姿、その日常にある人間模様をコミカルに描きつつ、ラストはヒューマンドラマへ変転させる巧さ。勿論、無責任と思われる上司も 観方を変えれば、やる気のない社員の教育<育成>のようだ。ラスト、ジャパンロボットウィーク後にワールドロボットウィークの仕事に就ける、その配慮<嘱望>から窺い知ることが出来よう。だからこそ全体を通して、清々しい可笑しみといった印象が残る。
次回公演も楽しみにしております。
DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

KUROGOKU

王子小劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
観たいと思っていた未見の演目「DOLL」、今後 本公演が基準になるがレベルは高い。高校1年生の5人の少女の不安・孤独・善悪・嫉妬等といった捉えどころのない心の揺れを瑞々しく、そして繊細に描いた珠玉作。上演前から波の音が響き、海辺の街にある高校が舞台であることを連想させる。勿論、説明にもある「何故、少女たちは水になったのか」に繋がるわけだが、それに至る少女たちの心の変化と友情が公演の観どころ。

それぞれ性格や情況が違う女子高生を表(体)現した女優陣の好演が、物語を味わい深いものにしている。1年間の高校 それも寄宿舎での共同生活はいつも仲良しというわけではなく、時に 性格や考え方の違いで ぶつかり合うこともある。むしろ その衝突が彼女たちの友情を深めていく<力>になっている。四季折々に、彼女たち一人ひとりの心に寄り添った出来事(事件)を描くことによって、友情という側面を通して 性格や情況を鮮明にさせる。5人という仲間が居ても、心の中は掴みどころのない不安と孤独が支配している。その何となくが…。

5人の女子高生以外に右眼・右耳・左眼といった語り部が登場するが、少女たちを俯瞰するような立ち位置で時代状況や世相風潮を表す激声、そして鼓舞するような。その容姿・衣裳は女子高生たちとは違う、その意味では社会なり常識といった確固たる<大人>を表している。それは 同時に少女たちの不安な足場という恐怖の対置として登場させているかのよう。
また女子高生の兄や思いを寄せる男子高校生が登場するが、彼女たちの純真さに たじろぐ様子、そこにも言葉では言い表せない<女子高生ならではの心>が垣間見えてくる。語彙力がない悲しさ、ぜひ劇場で…。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 【team Ⅼ】10.21追記

ネタバレBOX

舞台美術は、中央に壁 その左側は出ハケ口、右側に箱馬。上手 下手は非対称に階段が設えてある。二階部(地下劇場であるから地上部)があり、所々に薄布が巻き付いている。その浮遊感は彼女たちの心中であり海といった漠然とした光景を表しているよう。

物語は、5人の性格や家庭環境を学校行事や季節を背景に丁寧に紡いでいく。まず、佐藤いづみ(元山日菜子サン)は、生徒会の役員になるなど面倒見がよいが、何でも引き受けてしまう八方美人的タイプ。周りから独善的と非難され落ち込む。岡本麻里(藤山ももこサン)は成績優秀で、家族の期待を担っている。夏休みも仲間の誘いを断り夏期講習へ。そして兄と<生きること>について問答をする真面目タイプ。吉川京子(柊みさ都サン)は 両親が離婚し孤独を背負っており、虚勢を張るように煙草を吸い、無断外泊もする不良タイプ。停学処分になる際、教師との校則議論は圧巻。高田みどり(石田梨乃サン)は、入学式に枕を抱え ママに度々電話をかけて助けを求める幼児性タイプ。自分からあまり主張できない。最後に星野恵子(松井愛民サン)は、ラブレターをもらいデートをするが、正直 自分の気持が分かっていない。無意識に、本心ではなく 偽りの自己 あるいは役割としての自己を演じてしまう虚飾タイプ。女優陣はその性格等を情緒豊かに表現している。

初演は約40年前だが、今でも色褪せず観応えがあるのは、観客の多くが経験したであろう高校時代の思い、そして5人(性格)の誰かに共感してしまうからではないか。色々な出来事を一人ひとりの性格に準えて描き、それを他の4人(仲間)の観点で客観化させることで、一層 <普通の女子高生>の姿が浮き彫りになる。その年代の あやふやで、時に鋭く突き刺さる感性が見事に描かれている。

公演の観どころは、少女達の(純粋)感性と友情の育み、同時に大人 いや社会との対峙が根底、その繊細かつ骨太なところ。例えば、京子が停学になる際 教師と校則について激論を交わす。今では無意味な校則は削除するなど、やっと時代が追い付いてきたといった感じだ。語り部は大人であり社会を象徴しているのだろう。黒ずくめの洋服でスキのない格好だ。社会という枠と常識に囚われ、俯瞰した立ち位置で見下ろすといった演出は巧み。それに抗い 純粋でありたいとの思いがラストシーン(写真で思い出を語り 上を見上げる姿1983.3.26未明 入水)であろう。
つかみどころのない少女たちの気持を描きつつ、それを社会(大人たち)と絡め、力強い普遍性を表した見事な作品。
次回公演も楽しみにしております。

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