トレマ 公演情報 立ツ鳥会議「トレマ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    例えが適切でないかもしれないが、文学で言うところの純文学か大衆小説かといったら、この公演は前者だろう。観て楽しむ という娯楽性よりは、会話を通して思惟を深めるといった味わいがあるもの。しかし 観念的といった印象も強く、作者の中では完結しているであろう物語は、観る者に相応の想像力を求める。

    「幼馴染みと再会するが、どういうわけか彼が『本物の彼』だとは思えない」という謎めいた説明は、観る者の解釈によって異なった結末そして印象を持つのではないか。不動産会社に勤める男の これから生きる時間とこれまで生きてきた時間、現在と過去の人生が交差したとき、忘れ(止まっ)た時間が混乱と動揺をもって動き始める。そして場所…東京と地方都市(過疎化)といった生活空間の違い 距離が、人と人の絆を脆くさせるのであろうか。何となくタイトルに悲哀が…。

    そして不動産屋に絡む存在として、内見を繰り返し行うカップルの志向と諦念といった正反対の思考が面白い。どちらかと言えば理屈めいた会話が、不動産屋の要領を得ない態度や様子を際立たせる。
    いつの間にか忘れてしまった出来事、いや自分の心に閉じ込めてしまった苦い思い出が炙り出される。ほぼ素舞台(ボックス クッションが2つだけ)、特別な出来事は起きず坦々と紡ぐ日々、にも関わらず観入ってしまう不思議な力がある。
    (上演時間1時間40分 途中休憩なし)11.27追記

    ネタバレBOX

    不動産屋の男 佐倉井周(佐々木峻一サン)と妻の遥(中村彩乃サン)が雨宿りし雷鳴が轟いた時、周の幼馴染 円山崇(豊島祐貴サン)が現れたところから物語は始まる。その出会いは偶然なのか必然なのか。中学卒業以来20年ぶりの再会、しかし周は幼馴染の崇のことをすっかり忘れていた。

    周は結婚し 近々子供も生まれる予定で、平凡だが幸せな暮らしを築いている様子。それから何度となく再開するが、そのたびに崇は変わった姿で現れる。周は学生時代に苛められており、崇に庇ってもらっていた。高校は別々になり、ある時 崇の悪口を聞くが関わりたくないため無視した。庇ってもらったことなど忘れていた。今、崇は生まれ故郷の家で引き籠りになっているはずだが…。

    引き籠りの崇と東京で再開する。その姿は妻や不動産を内見しているカップルにも見える。しかし 周が過去の出来事を思い出し、生まれ故郷の崇の家で向き合った印象は霊(魂)のようでもある。崇の存在(生・死)によって、現実か心象劇かという違った捉え方になる。それは 今後の周の生き方に大きく関わってくるのではないだろうか。ラストは、どちらにも捉えることが出来る、いわば観客に委ねたといった印象である。

    物語は、周と崇の関わりと不動産の内見を繰り返すカップル 馳川琥太郎(田宮ヨシノリ サン)樋口アヤメ(ぬまた ぬまこ サン)と物件を案内する周や先輩 兼古尚貴(七井悠サン)、この2つの話に緊密な繋がりはない。
    カップルの会話は、それぞれの性格であり考え方の違い。同時に社会(世間)に対する見方のようでもある。少しでも良い条件 環境を求める固執か 現状維持の妥協といった対立の中に社会との関りをみる。

    最後に都邑といった違い、この距離が過去と現在を分断するような描き方。そしてタイトル「トレマ」、実は過疎化の進んだ街の行き止まり…「止まれ」の看板が修繕されず「ま」の字が「れ」の下にずれ落ちたのだと。全体的に薄暗い照明、忘却も含め 物悲しいような雰囲気に包まれる。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/11/26 07:21

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