ミスターの観てきた!クチコミ一覧

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泳ぐ機関車

泳ぐ機関車

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/15 (火)公演終了

満足度★★★★

完成度の高い安定した舞台にちょっと不満も・・・
14日午後、劇団桟敷童子の炭鉱三部作一挙上演最終演目である『泳ぐ機関車』を観に行った。

粗筋は下記の通り。
三好辰介は身重の妻と千鶴・美代の子供姉妹を連れ、寂れた炭鉱町にやってきた。その炭鉱を、自分の手で大きく発展させる夢を持って。自己資金と妻の母親から借りた資金を元手に、その炭鉱町を発展させ町の神様とまで呼ばれるようになった。しかし、私生活では妻は男の子(ハジメ)を産んですぐに亡くなり、男手一つで(実際は住み込みの女中・島森鈴子と関係を持つ)厳しく育てていた。炭鉱の従業員と身分関係なく親しく交わって順調に日々を送っていた辰介だったが、落盤事故で17人の犠牲者を出したことで生活や周りからの一家への態度は一変。家財も失い、辰介も失踪(実際は自殺した)し、子どもたち3人は遠い炭鉱町に住む親戚の元に預けられることになる。
末子ハジメは、落盤事故の原因でもある炭鉱の地下に流れる地下水に蒸気機関車を泳がせ、その蒸気で地下水を暖かくし、人々の心も暖かく和ませたいという夢を描いたのだが、結局その町を離れることで夢は夢で終わってしまうことになる。せっかく結ばれた孤児との交流も断ち切れれて・・・・。

実は、炭鉱三部作の『泥花』は預けられた後の三兄弟の物語、『オバケの太陽』は成人してからのハジメの物語で、今回の炭鉱三部作上演は時系列を遡る形での上演となっている。作品の完成度からも、話の展開や配役という点から観ても、時系列での上演よりも今回の方式によったほうが確実に楽しめるし感動させられたのは確か。
作品の完成度から言えば、今回の『泳ぐ機関車』が秀逸であることは確かなのだが、三作品を連続して観てみると、残念なことに徐々に作品展開のパターンや演出の方法を予測できるようになってしまった。そんなこんなで、完成度が高く期待度も同じく高かった今回の『泳ぐ機関車』で受けた感動は、前回上演の荒削り感のある『泥花』よりも低くなってしまった。と入っても、前2作の盛大な紙吹雪に代わる水の使用や、終演近くの舞台一面のひまわり、それに3作品恒例になった蒸気機関車の登場場面は演出面で圧巻であった。
役者の演技面でも、客席の笑いを誘うセリフや仕草は生きていた。反面、涙を誘われる場面の感動の度合いがちょっよ浅くなってしまったのは、そうした場面の演技面でのあっさり感が根本にあるかもしれない。
役者個人で観ると、三好辰介役の池下重大、ハジメ役の大手忍、野毛綾華(辰介の妻の母親)役の板垣桃子がなかなかの演技を魅せてくれた。客演陣も安定していて、作品として流石に各種賞を受賞しただけのことはある。

今回一連の炭鉱三部作を観て、一番感動したのは宣告書いたように『泥花』、次いで今回の『泳ぐ機関車』という印象を持った。自家には来年の夏に新作上演。期待したい。

宮地真緒主演  「モーツアルトとマリー・アントワネット」

宮地真緒主演 「モーツアルトとマリー・アントワネット」

劇団東京イボンヌ

スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)

2015/12/08 (火) ~ 2015/12/10 (木)公演終了

満足度★★★

笑いに隠れてしまったシリアスさが勿体ない
クラシック音楽と演劇の融合を目指している劇団東京イボンヌの第10回公演初日にでかけてきた。
以前、この団体はクラシックの作曲家や演奏家に焦点を当てた演劇を上演するという方向で「クラシック音楽と演劇の融合」を目指していたが、色々事情が合ったようで『無伴奏』という作品を頂点に活動を休止していたのだが、最近演劇の中に生の演奏を挟みこむという以前とは異なる手法での融合を模索し始め、今回はその一つの到達点といえる公演と位置づけたもののようであった。

役者には主演に宮地真緒(マリー・アントワネット役)と石井康太(モーツァルト役)を迎え、舞台上にひな壇を設営して小規模の室内楽的なオーケストラを配置し、舞台の進行に合わせて器楽演奏や声楽家を迎えての演奏を行うというもので、演劇と音楽の双方に『本格的』という姿勢を打ち出した。

舞台の粗筋は分かりやすく、神の子として生まれた男が音楽で人間を豊かにしてみせると人間界にモーツァルトとなって降りてくる。しかし、思いとは裏腹に人間たちの複雑な感情や行動を知れば知るほど、思ったように音楽で人間を変えることの難しさに悩む。そんな時、モーツァルトが巡りあったのがマリー・アントワネット。彼女に一目惚れしたモーツァルトは、彼女のためにも曲を書き、彼女を王室外の世界にも触れさせる。しかし、結局モーツァルトは目的を果たせず神の世界に戻るのだが、アントワネットもフランス革命により処刑され、天上の世界に。そう、二人は天上の世界で、結ばれることになる。

劇中には流行の「壁ドン」が出てきたり、観客の笑いを誘う演技が多数出てきた。これをクラコメ、つまりクラシック・コメディと言うらしいのだが、そのためかモーツァルトやアントワネットが叫ぶシリアスなセリフが劇中に埋もれてしまった感があったのが残念。
それと、度々登場する声楽家による演奏が、「なぜその場面でその曲を歌うのか」という劇の進行との兼ね合いがわかりにくかったのが心残り。原語歌唱にこだわったのは本格的なクラシック音楽に接するよい機会だとは思うのだが、字幕なりパンフレットに翻訳なりをして観客に提供したほうがベターではなかったろうか。予算的に難しい問題ではあるが、本格的な融合を目指すには必要であろうと思った。

そもほか、細かい点でまだまだ改善の余地を残しており、今の手法における演劇とクラシック音楽の融合の現段階での到達点のお披露目という意味合いでは意義のある好演だったと思うが、ある程度完成された舞台を期待した方々にとっては物足りなさを感じたに違いない。
今後の進展に期待したい。

なお、来年には『無伴奏』が再再演されるとか。過去の上演と異なり、現在模索している手法も取り込んでの上演だと面白い結果が出そうだが、過去の上演と同様の形態でもお薦めの作品には間違いない。

モデル

モデル

西瓜糖

テアトルBONBON(東京都)

2015/11/26 (木) ~ 2015/12/03 (木)公演終了

満足度★★★★

渋い演技で魅せる人間模様
2日、中野のシアターBONBONで上演された、西瓜糖第四回公演『モデル』を観てきた。これは数カ月前に観に行った舞台の会場で配られたフライヤーを観たのが行くきっかけとなった公演。「女性による女性のためのエロスを描こう」という西瓜糖の結成動機と、そのメンバーが松本祐子(演出)と、役者の山像かおり(秋之桜子名義で原作・脚本も担当)・奥山美代子という文学座中堅の三人の女性であったことが、観に行きたくなった大きな要因であった。

この舞台の粗筋をさらりと書くのは難しい。
大正時代の軽井沢にあった卯月家の別荘を舞台に、登場人物たちが繰り広げる、嫉妬と生へのせめぎ合い幾重の話の絡み合い。登場人物は、卯月家当主の弟とで風景画家の文也、卯月家の三兄弟(長女・咲恵、長男・雄高、次女・華子)、掛かり付けの医者と看護婦、書生・二郎、それに人物画家で卯月家当主がパトロンとなる土肥清二郎、、卯月の長女・咲恵の幼なじみ瑠衣。
卯月家当主と弟は画家になるべく競争した結果、弟がプロの画家として成功。当主は人物画家・清二郎に自分の夢を託す。農家出身の清二郎は文也と交流があったが、ブルジョワの文也に嫉妬したいた。それが、当主の計らいでフランス留学という話が出て、今度は文也が清二郎に嫉妬。
その文也は、実は卯月家と血の繋がりのない長女・咲恵に好意を持っていたが、当主が咲恵を後妻に迎えることに抵抗できず、ここに咲恵を巡って当主と文也に女性問題での確執が生じる。異性との確執は、掛かり付けの医師を巡って次女の華子と看護婦・キヨとの間にも生じているが、華子が結核で余生短く、生きている間だけ先生を貸してという華子の言葉に、キヨは我慢せざるを得ない状況。
咲恵の幼なじみの瑠衣は政略結婚に我慢できず、咲恵のいる別荘に夫から逃げるようにやってくる。後日、若者と自殺未遂を企てたりする瑠衣は、咲恵の生き方に憧れ嫉妬する。
卯月家長男雄高は、父親の財産すべてが弟・文也が引き継だことに反発するが、父親から無能呼ばわりされていたことを知り、絶望して自殺をはかり、未遂に終わったものの脳性障害を負う身となる。

などなど、様々な人間模様の入り組む舞台は、谷崎潤一郎や円地文子の描くドロドロとした人間模様を卯月家というブルジョワ感覚のフィルターを通して覗き見したという印象。そう、舞台では意外とあっさり感のある描き方なのだ。
その中心は、卯月家の長女である咲恵だろう。文也との男女関係、瑠衣との同性関係(レズという肉体関係ではなく生き方としての関係)に揺れ動く姿を控え目の渋い演技で熱演。その他、文也役の釈八子、清二郎役の斎藤歩、瑠衣役の悪山美代子の演技は秀逸。と数名個別に名前を上げたが、出演者全員の渋い熱演の舞台は、洗練されて軽そうに思えながら実は暗く重みのある内容なのだった。
また、その重みは大道具・小道具で垣間見せる本物志向の舞台創りからも感じ取れた。

ただ一つ不満だったのは、舞台の締めくくり、終結の処理。どこか意味ありげで味のある終わり方のようで、実は中途半端感を強く感じたのが残念。

それにしても、観終わってからも舞台の幾つかのシーンが頭のなかに蘇る。よい舞台を観せてもらった。

泥花

泥花

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/11/05 (木) ~ 2015/11/12 (木)公演終了

満足度★★★★

泥花に将来を託す悲しさに胸いっぱい
7日午後、錦糸町のすみだパークスタジオで上演された劇団桟敷童子・炭鉱三部作の第二作目『泥花』を観てきた。劇団桟敷童子はこの数年頻繁に観始めた劇団なのだが、上演している炭鉱三部作『オバケの太陽』『泥花』『泳ぐ機関車』の初演は自分が観始める以前の作品で、今回観るのが初めて。作品の事前評価の参考になるのは、フライヤーにあった『オバケの太陽』第15回鶴屋南北戯曲賞最終候補作品、『泳ぐ機関車』第16回鶴屋南北戯曲賞受賞その他の受賞歴と、初演の年度。それによると、各種賞の候補にもなっておらず初演が他の作品よりも早い2006年という『泥花』は、他の2作品より完成度が劣る作品のような印象を持って上演に臨んだ。しかし、この先入観は大きな誤りだった。笑わせる点と泣かせる点の振幅の大きさ、焦点のハッキリしたテーマ提示は前回『オバケの太陽』を上回っており、見応えのある作品であった。

ネタバレBOX

赤堀炭鉱で落盤事故を起こし、その責任のため行方不明になり親無し子として地元にいられなくなったヤマ主の長女・千鶴、次女・美代、長男・ハジメの三人は、母の親戚を頼り一夏だけ炭鉱町鶴山で過ごすことになる。将来を悲観しつつもパートで働く千鶴、洋裁の勉強をしたい美代、そして鶴山の親戚に預けられることになったハジメ。親戚や町の運送会社の社長や従業員、食堂の夫婦を巻き込んで、炭鉱生き残りの難しさと兄弟姉妹3人の今後への不安。ハジメは、死に際に観ることの出来て望みを叶えてくれる泥花に姉たちと自分の将来を託そうと、浮浪少年敏と自殺未遂事件を起こしたりする。そして夏が終わり、結局3人は別れ別れに。ハジメは、泥花を見るために先立った敏に、自分たちの将来の幸福を託すのだった。
炭鉱閉鎖の相次ぐ時代の暗い話を、食堂経営の妻と運送会社社長の浮気を絡めながら特に明るく、特に社会問題点に突っ込む舞台。話の内容は、実はかなり悲しく奥深い。その救いともなる泥花も、死が前提。よく、ここまでの舞台に仕上げたものだと感心した。

今回の舞台は、飛び抜けたヒーロー或いはヒロインはいない。ハジメ役の外山博美の奮闘と、前作でも活躍した池下重大扮する運送会社従業員、それに浮浪少年・敏(鈴木めぐみ)が舞台のカギを握っていたと言えるだろう。

舞台装置では、前作同様最終シーンで大きな蒸気機関車が登場。前回は62という数字がプレートに書かれていたが、今回は51。これは、C62、D51を想定したものだろう。鉄道ファンも泣いて喜ぶこだわり。次回は幻のC63をもじって63かな?

安定した舞台で楽しめたのだが、ただ一つ気に入らなかったのが、舞台中盤で出演者全員によるダンスというかパーフォーマンスというか、そういう類のシーンがあったこと。個人的に、舞台内容に密接性のないそうしたシーンを挿入することは好ましいと思っていない。むしろ嫌いである。そのシーンがなければ満点の舞台と言えただろう。
ホフマン物語

ホフマン物語

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2015/10/30 (金) ~ 2015/11/03 (火)公演終了

米沢、本島の踊りと演技を堪能
11/1の午後、新国立劇場バレエ団公演『ホフマン物語』を観てきた。バレエファンは、自分の好みの踊り手が出演する日のチケットを購入して鑑賞するのであろうが、自分の場合は仕事との兼ね合いで自分の休日スケジュールに合った日の公演を見に行くことになるので、誰がその日の踊りて手なのか、そしてそれが自分のお気に入りの踊り手なのかは行く日を決めて確認することになる。

さて、11/1マチネーの主な配役は下記の通り。
ホフマン   菅野英男
オリンピア  奥田花純
アントニア  米沢唯
ジュリエッタ 本島美和
リンドルフ&スパランザー二 貝川鐵夫
ラ・ステラ   堀口純

指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

個人的に言えば、新国立劇場バレエ団のプリンシパルで一番好きなのは本島美和で、この日はジュリエッタ役で登場ということでまぁまぁ満足。問題は、オリンピアとラ・ステラを踊るのがプリンシパルでもファースト・ソリストでもなくソリストである点。上手く踊ってくれるか少々不安であった。

『ホフマン物語』という作品はもともとはバレエ作品ではなく、オッフェンバックが作曲したオペラをバレエ用にツキ変えたもの。それ故、単に踊りの美しさや優雅さを楽しむだけではなく、踊りや踊っていない時の仕草にセリフに変わる演技を要素要求される。一般に、こういう種はバレエ作品をドラマティックバレエと呼ばれてる。
ダンサーにとって、踊りだけでなく高度な演技も要求されるので役をこなすのがかなり難しいらしく、公演全般でダンサーの転倒がかなりあったことがネット上でかなりの数報告されていたが、幸いにも自分が観に行った日は転倒は皆無であり、音楽も含め総じてかなり完成度の高い充実した舞台であった。
作品の粗筋は、詩人ホフマンが現在の恋人ラ・ステラを待っている間にカフェで酔っぱらい、周囲の人々にけしかけられて過去の失恋を3話するというもの。最後には現在のラ・ステラにも振られるので、実際は4話ということになろうか。一人目の相手は、魔法のメガネをかけると生きた人間に見える人形のオリンピア。浮かれすぎてメガネを外してしまい、オリンピアは人形に戻ってバラバラになってしまう。二人目は病弱で踊りを禁じられていたアントニア。悪徳医師の催眠術にかかり、病気が治ったものと思い込みホフマンの弾くピアノに踊り狂った挙句命を落とす。三人目は悪魔が仕切る快楽の世界に生きるジュリエッタ。その魅力に惹かれたものの、鏡に自分の姿が映らない事に気付き、悪魔の世界から信仰の世界に戻り彼女と決別する。そして、酔いつぶれてし合った彼はラ・ステラとのデートの約束を破り彼女を別人にとられてしまう。

顔立ちがハッキリしていて妖艶さを持ち合わせた本島のジュリエッタはまさに適役。男性ダンサーとのコンビネーションが乱れてヒヤリとした瞬間はあったものの、無難にカヴァーしてプリンシパルの実力をしっかりと魅せつけた。それ以上に良かったのは、予想外と言ったらファンの方々から叱られそうだがアントニオを踊った米沢唯。演技も素晴らしく、この日一番の出来のダンサーだった。こういう役柄は、ダブルキャストの小野絢子より適役だろうと思った。
もう一人、踊りはしなかったが演技と存在感が大きかったのが、ラ・ステラのお付き役を演じたフルフォード佳林。ダンス次第では、彼女も大役に抜擢される日も遠くはないだろう。
ダンスと演技としては第一幕の人形を作ったスパランザー二とその召使二人が秀逸。第三幕で助演者として鏡の番人が二人出ていたはずなのだが、誰がそれに該当するのかはっきりしなかったのがちょっと不満。衣装や大道具も最近の公演としては力が入っていた。将来的に、レパートリーに加え再演されることを望む。

オバケの太陽

オバケの太陽

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/10/23 (金) ~ 2015/10/30 (金)公演終了

満足度★★★★

泣かせるツボを押されてしまった
10/27午後、すみだパークスタジオで上演された劇団桟敷童子公演炭鉱三部作『オバケの太陽』を観てきた。昨夜に続いての舞台鑑賞のハシゴである。しかも、昨夜とは正反対に感動で涙なしでは見終われないというもの。この桟敷童子、というか、実質の作と演出を行っている東憲司はなかなかしたたかである。人がなくツボというものを的確に攻めてくる。舞台から受けるインパクトが強かろうが弱かろうが、何故か泣かされる。まぁ、観劇に感動する正に正攻法というべき舞台作りと言えるだろう。
舞台一面に咲いていたひまわりは実に印象的だし、最後に登場する機関車には、「さすがただでは済まぬ桟敷童子の舞台設営」と感心させられた。

ネタバレBOX

さて、物語は今では炭鉱もほぼ無くなってしまったとある田舎町。舞台では具体的な町名を使っているが、ちょっと失念。その町名を使うことが、舞台にリアル感を持たせている。小さなことかもしれないが、観る側としては物語に入り込みやすくなる点で重要なことなのだ。
その町に住む亀田家で両親を失った梁瀬範一という少年を施設に行くまでの夏の間預かることになり、結果として、町中ではないが亀田家と交流のある呉工務店一家や須崎家などを巻き込んで展開される、範一が口にする「オバケの太陽」の意味探りと、彼が唯一心を許す呉工務店の従業員の1人・松尾元との交流を軸に舞台は展開していく。途中、この松尾元と呉工務店の長男の妻との浮気・疾走・離婚騒動も織り込まれ、範一と元との交流物語だけでは暗くなる舞台進行に躍動感を与えていた。「オバケの太陽」という範一の言葉になぜ多くの登場人物たちが反応し一喜一憂するのか、その衝動の根本原因の提示が若干弱く感じられたのが残念に思えたが、結果としてラストで魅せる範一と元の別れの場面のやり取りは、静かながらも秘めた熱い感情が観客に伝わったようで、客席で涙ぐむ人が多かった。かくいう自分も泣かされましたね。

この舞台で光ったのは、やはり範一役の大手忍、元役の池下重大、そして呉工務店長男の嫁役の椎名りおだろう。客演では、劇団青年座の尾美美詞(亀田家の娘役)の演技がうまかったというか、明るく劇団の雰囲気に馴染んでいた。
知人・もりちえは須崎家夫人役で登場。呉工務店社長や範一を預かる亀田嘉穂の仲間の1人という設定で、やや控えめながら登場シーンでは、なかなかのインパクトを与えていた。
ドラマ・ドクター

ドラマ・ドクター

ティーファクトリー

吉祥寺シアター(東京都)

2015/10/23 (金) ~ 2015/11/02 (月)公演終了

満足度★★★★

役者の演技に身を委ねて分かる奥深さ
10/26夜、吉祥寺シアターで上演されたティーファクトリー公演『ドラマ・ドクター』を観てきた。
この舞台を観に行くことにしたきっかけは、出演者の中に女優・岡田あがさがいたから。数年前、東京国際映画祭に参加した映画『死神ターニャ』を観たことがあった。この映画にデビュー以来応援している役者が出演していた関係からだったのだが、映画の中で妙に存在感のある女優がいた。それが岡田あがさだった。彼女の存在を知った自分は、映画ではなく舞台での彼女の演技を観たくなり、今回ようやくその思いが実現したというわけだ。

出かける前にネットでこの舞台の口コミ評を観たのだが、どうも不評のようであったが、実際に観終わった直後にTwitterに投稿した自分の一口感想は、「舞台は、ネットの口コミ批評ではあまり評判がよくなかったけれど、それはこの舞台に感動をもとめたからだろう。そうではなく、ここで観客は感心と関心を求められていたように思う」と書いた。ちょっと難しい感想なのだが、実際に観ていただくとこの意味する所が何となくではあるがわかっていただけると思う。

ネタバレBOX

さて、物語は次のようなもの。
人気劇作家のヘンリーとライバルのトニーは、プロデューサーであるヘルマン・プレミンジャーから「どこにもない物語」の共同執筆を依頼される。二人は書き始めるのだが、書くことの出発点の設定から持ち味の異なることからなかなか上手く書き進められず、結局書き手が書くことに困ったときに手助けしてくれるドラマ・ドクターも元に行くことになる。ドラマ・ドクターは、書き手に書くヒントを与えたり、時には代筆も請け負うことがあるらしく、二人は過去に何度か彼の診察を受けたらしい。実際に行ってみると、そこにはヘンリーの作った劇を観たことがあるというアスラムという男とがおり、更には二人の知人である女性作家サラも診察に来ていた。結局、ヘンリーとトニーはサラも加えた三人で共同執筆することにし、「どこにもない物語」を書くヒントがありそうな洞窟の奥へと姿を消していく……というのが、実はドラマ・ドクター自身の書いていた物語だったのだが、書き終えたつもりのドクターの前に、三人がドクターの意志に反して物語の中で勝手に動き回る事態に遭遇し、混沌と困惑の中で舞台は幕を下ろす。
舞台上で起きていることは、時には現実、時には小説の中の出来事で、人が死んでもすぐに生き返るという具合だ。

観客は、現実と小説の中の世界を行き来知る役者の演技が創りだすゆらぎの中に身を任せて行けば、なかなか楽しめる。ドクター、ヘンリー、トニーの三人では淡白というか平凡に終わってしまいそうな中に、アスラムとサラを登場させることで劇に内容にメリハリがハッキリ付いた。その意味では、特にアスラムの存在は大きい。
岡田あがさ、予想していたよりも陽的な演技で新鮮だった。
ちなみに、やはりドクター役の河原雅彦の演技が、舞台全体を支配していた。
時には笑いの怒る場面はあるが、感動で涙するというシーンは皆無。
観客は、物語を書くという過程がどんなことなのかに関心を持ち、それ的確に表現していく役者の演技と物語の持つ力の大きさに感心する。それが出来れば、大いに楽しめる舞台であろう。
或る日、或る時

或る日、或る時

森組芝居

座・高円寺1(東京都)

2015/10/17 (土) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

西崎と三波の演技を堪能
今日の午後、高円寺にある座・高円寺1という劇場で上演された森組芝居『或る日、或る時』を観てきた。これは、何時だったか忘れたのだが、何かの舞台を観に行った時に貰った何枚かの他公演のフライヤーの中に、西崎緑と三浦豊和が主演するというこの公演のフライヤーが混じっていて、この2人の演技というものを観たくなったので早速チケットを確保して出かけてきたという訳。この時貰ったフライヤーは配布第一弾のもので、その後配られるようになった詳細な出演者や公演日程が刷り込まれたフライヤーを観ると、自分がお気に入りの激嬢ユニットバスという女性だけの演劇ユニットのメンバー南かおりも出演することを知り、さらに興味が湧いた舞台となったのだった。

さて、舞台は昭和8年の円山町(現在の渋谷区円山町)の花柳界。円山町だけでなく都内の花柳界有数の舞の名人と噂されていた芸者・藤香(西崎緑)が主人公。多額の借財を抱え、重病の母親を持つ藤香。本人はもちろん母親の面倒もみるという条件で身請けを迫る常連の橋本屋の旦那の申し出を受けかねていた彼女の前に新しい常連客として現れたのが、礼儀正しく慎ましやかな陸軍大佐の浅見(三波豊和)。しかし、橋本屋とは母親の死で身請け話も消え、浅見は満州へ行くため別れの宴となる席に藤香を呼ぶ。自分の頼るべき人、恋しく思う人が次々と自分から去って行き、人生の儚さに泣き崩れて舞台は幕を閉じる。核となる筋はそうなのだが、途中、見受けしてくれる橋本屋の夫人が藤香を訪ね、自分が同じ芸者出身であることや、橋本屋に嫁ぐために養子に出した子供がいることを語る緊張した場面も有り、しかもその養子に出した子が、藤香の妹芸者の元婚約相手だったりと、世間は狭いと感じさせる人間関係も垣間見せる。

横長の舞台を、上手に料亭の離れ座敷、下手に料亭の女将の部屋に二分割し、左右を交互に、時には同時に使って進んでいく手法は、大道具のセットの立派さも含め小劇場系とは思えないもの(終演後の挨拶の中で、三波豊和も小劇場系ながらセットが素晴らしいと発言していた)。
また、いわゆる小劇場系のテンションが高く大声でセリフを言い合うというものでなく、張り詰めたテンションを静かに抑えつつ語られるセリフと、三波の歌・服部妙子の三味線で踊る西崎の舞(一度ではなく、数度の踊りの場面がある)は、小劇場系というより商業演劇を思わせ、じっくり舞台を鑑賞することが出来た。

舞台の成功のカギは主役二人だが、緊張感溢れる場面を生み出した橋本の妻役・葛城ゆいの演技も立派。
料理屋の小間使い・フミを演じた南かおりの表情豊かな演技も楽しかった。というより、役の幅の広さに関心しましたよ。

こうのように感情を抑えての演技ながら、客席から涙を誘っていた舞台。森組芝居、恐ろしやとも思えた空間だった。この感動を深めたく、次回公演にも行ってみたい。
蛇足ながら、公演中に地震があり場内が一瞬ざわめいたが、演技は途切れることなく観客をすぐに舞台の世界に呼び戻した。

坊's WAR頭2〜神々のオフ会〜

坊's WAR頭2〜神々のオフ会〜

乱痴気STARTER

Geki地下Liberty(東京都)

2015/09/18 (金) ~ 2015/09/23 (水)公演終了

満足度★★★★

個性的な女優陣を楽しむ
いわゆるシルバーウィーク、勤務している会社の休みのシフトが連休ではなく21日のみと正式に決定したのが前週で、さてどうしたものかと頭に浮かんだのが観劇か音楽鑑賞。音楽はチケット手配の都合などで無理そうだったので観劇しようとお思い、候補に上げたのがお気に入りの劇団シネマユニットバス所属の女優3人が出演する音楽劇『人魚姫』か、知人が時々客演をするアフリカ座系列の乱痴気STARTERの『坊s WAR頭2』。音楽劇はどうやら親子連れを主なターゲットにした舞台らしく、大人一人で行くのはどうかと思っていた所、Twitterのメッセージで乱痴気の複数の出演者から観劇のお誘いを受けたので、今回は出演者の坂本ともこさんにチケットを依頼して出かけることにした。前作(かつての同業飲み会仲間の1人、あすかが出演していた関係)に引き続いての乱痴気観劇となった。

話の核は、インド神話に出てくる主神シヴァが、世界の主だった神々を引き連れて夫婦げんかの末人間界に落とした夫人のカーリーを探しだして天上の世界に戻るというものだが、そこに貧乏神にとりつかれた男とそれを除霊しようとするインチキ除霊師、ゲームに熱中する生臭坊主たちと真面目すぎる坊主などが入り乱れてのアクションあり笑いありのドタバタ?劇。
実は劇の核は貧乏神と取り憑かれた男、それにニセ除霊師の交流かとも思える劇でもあり、せっかく進行に起承転結をつけてありながら、起と結との関連性が希薄になった感があったのは残念。それと、笑える部分は多々あったが、対極の泣かせる部分というのが希薄で、その分内容に深みが感じられなかった。加えて、ゲームに熱中する坊主たちの滑舌にもやや難があったように思う。もう少し慌てずゆっくり喋らせたほうが良かったのでは。

とは言え、越智春奈の妖艶というかエロ可愛らしさ、坂本ともこのアクション、Maftyとニセ霊媒師の熱演は見応えがあった。そうそう、主宰の山元彩の演技は、やはり他の女優たちとは違い熟達していましたね。

ちなみに、この会場。ホール入口上部にも普段はシャッターをおろした空間があって、第二の舞台空間として使える構造になっている。この辺りも使って、アクションや進行などをさらに立体化したら面白くなりそう。
2度も観に来た乱痴気。こうなると、また来たくなるし、上部団体のアフリカ座公演や、出演者の越智や坂本の他の舞台も観たくなってきた。

エトランゼ

エトランゼ

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/08/19 (水) ~ 2015/08/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

舞台に作った湖を効果的に使った密度の濃い舞台
昨日、お気に入りの劇団の一つ桟敷童子がすみだパークスタジオで上演中の『エトランゼ』を観に出かけた。この劇団は、知り合いの役者・もりちえが所属しており、今回の公演では重要な役を担っているということと、水を多用するということで、大いに期待して出かけたのだが、なるほど、期待以上の舞台が仕上がっていた。

山間の辺鄙な町で山の恵みを採取する女性たちの山母兵糧師、山岳信仰で様々な祈祷・お祓いをする女性・神業師、そして山主一家。彼らが生活する場に現れた不吉な湖。それを待っていたかのように村い戻ってきた兵糧師の元夫と、村を捨てた山主の長男の遺骨を持って現れたその妻とその仲間。村の人々と舞い戻ってきた者や部外者たちが、過去の思い出したくない出来事に振り回されつつも徐々に心を開いて忘れかけていた故郷というものを意識させていく。総じて話の核心は重く悲しい物なのだが、時折笑いを誘うセリフや演技で重苦しさを和らげる工夫も。その舞台に広々と設営された湖に飛び込んでびしょ濡れになりながら熱演する役者たちには拍手を贈りたい。
個別の役者としては、舞い戻ってきた元夫に翻弄される兵糧師・彦原志乃役の板垣桃子、その娘役の大手忍、山主の長男の妻・奈緒美役のもりちえの演技には引き込まれた。また、山主役の原田健太郎や、兵糧師のマキ役川原洋子の渋い演技も光っていた。
特に話が進むにつれて凄みを増していくもりちえの演技と湖の中での高笑いは、やや荒削りで進行が雑になりかけていた後半の脚本の欠点を吹き飛ばした感があった。

残念だったのは、主要登場人物を含め、人物像というものの輪郭作りと、舞台全体で観客に伝えたいテーマというものがやや曖昧だったこと。

それにしても、桟敷童子は毎回密度の濃い舞台を作り上げて感心させられる。
10月から三ヶ月連続で上演する炭鉱三部作にも期待したい。

ちいさなお姉さん

ちいさなお姉さん

アフリカ座

TACCS1179(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/10 (月)公演終了

満足度★★★

熱演は伝わったが・・・
今日の午後、下落合のTACCS1179劇場で上演されたOFF VIVID COLOR『ちいさなお姉さん』の千秋楽に出かけてきた。これは、知人の若林美保が出演していた関係からである。

VIVID COLORというのは現役&元AV女優で形成された劇団。観に行くのは今回が2回めになるだろうか。
ストーリーは、森に住む小人の女性たちの話。森に落ちていた絵本から、小人たちの住んでいる森に人間が立ち入ったことを知り、2つの小人村の女性たちがパニックに陥りながらも、人間とのささやかな交流有り衝突有りのドタバタ&しんみりを描いた舞台。2つの小人の村の女性のまとめ役を、若林美保(フィルギー)と杉山夕(ノッカー)が熱演。そのほか、目立った女優としては、男装した國崎馨、ジャージ&ブルマスタイルになった越智春奈、ノッカーのまとめる村の目立ちたがり屋フロスティを演じた山元彩、フィルギーの村のまとめ役?トリアードを演じたsayakaあたりか。

ただ、難点が2つほど。総じて各シーンの内容の掘り下げ方が中途半端なことが第一点。これは、脚本に起因する。脚本家の資質なのか、出演者の演技力を考慮に入れて書いた結果そうなったのか。いずれにせよ、結果として表面的なドタバタ感が強く残ってしまったのは残念。
難点の2つめは、役者としての力量にバラツキがあったこと。個性にあった役柄でなんとかカヴァーしてはいたが。それでも、極力演技力のあるメンバーを揃えて臨んでいたことは感じられた。
また、千秋楽は結城リナの出演シーンもあったが、もっと盛り上がると思ったのだがねぇ。出演シーンの構成というか演出にもう一工夫してあげればもっと盛り上がったのに。
と書いていて、ふと思った。この舞台の中心テーマは何だったのかな?タイトルからは意味不明だし・・・
ラスト近く、若林美保の人間たちへの絶叫的な呼びかけが妙に心に引っかかる舞台であった。

振り向けば優しい心の贈り物

振り向けば優しい心の贈り物

劇団 浪漫狂

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2015/08/04 (火) ~ 2015/08/10 (月)公演終了

満足度★★★★

三話からなるオムニバス作品は涙なくして見れない!
いやぁ、泣かされたなぁ・・・

ネタバレBOX

知人の山下明起が劇団長補佐を務める劇団浪漫狂が、若手の役者による外伝『振り向けば優しい心の贈り物』という舞台を上演したので(明後日まで公演中)、参宮橋のトランスミッションまで出かけてきた。

プログラムによると、一話はオリジナル、二話はダウンタウンの生い立ち、三話はドキュメンタリー番組をベースに作ったという、全体で100分ほどのオムニバス作品。
より詳しく書くと、一話は父子(娘)の結婚にまつわる父の秘められた気持ちと、父への感謝の話、二話は母子(息子)の野球を中心とした貧しさ克服の話、三話は年老いた両親と、その看護を巡る子どもたち、そして老夫婦の暖かな夫婦愛の話。どれも客を泣かせるツボというものを熟知した作りで、笑いが起こる場面もあるが必ず涙が出てくる結末。いやぁ、良い作品ですよ、三話とも。その中核には、親への思いと「ありがとう」という言葉が存在している。
泣かせるツボをいかに演じていくか、若手役者に突きつけた演出・作の劇団長・中村隆天の思いは、満点とは行かないものの及第点はクリアしたのではないだろうか。
特に、一話と三話の伴優香(特に目の表情)、二話の宮島歩の演技は秀逸。男優陣では、J田平、工藤謙太朗、久住翠希が頑張っていた。(工藤は以前別の劇団の公演で観たような役者だったが、気のせいかな・・)。

オナラのナラ子

オナラのナラ子

ハレボンド

明石スタジオ(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

満足度★★★★

ナラ子の各世代を演じた女優に拍手
7/31、高円寺の明石スタジオで上演されたハレボンド第2回公演『オナラのナラ子』公演を、知人のアローズプロダクション代表であり俳優である麻生敬太郎氏と鑑賞。これは共通の知人である高坂汐里が出演していた関係からである。プロダクションで即戦力になる役者が欲しいという麻生氏の言葉に、自分が先日見て即戦力になると思った高坂汐里を推薦したというのが事の経過といえるだろう。

さて、舞台は一言で言うと、緊張するとオナラをしてしまうというナラ子が経営していたアパートの火災で亡くなってしまった(2015年)のをきっかけにして始まる、ナラ子の子供時代(1972年頃)から亡くなるまでの回想劇という趣向。懐かしい天地真理や小柳ルミ子といった歌手の歌をバックに生き生きと生活する子供から学生時代のナラ子、そしてたこ焼きチェーンのオーナー夫人として充実した生活を満喫していた中年時代を経て、夫と死別してつつましいいアパート経営で生計を立てていた晩年。
人数の限られた役者が、それぞれの年代のナラ子と彼女を取り巻く人々を交代で演じていく。

舞台の核は、それぞれの年代のナラ子を演じた役者の演技力。個人的には1972年の頃を演じた元西彩子と1980年の頃を演じた高坂汐里の元気よく明るい演技が気に入った。また、生涯の友人であるサッチンを演じた亀山綾香の熱演も光っていた。2015年のナラ子は劇団初出演の男優・森田武博が演じていたが、これば晩年の渋い雰囲気を上手く醸し出していたのには恐れいった。

それに対して、男優陣に対する印象が若干弱い。なんというか、ナラ子の人生を左右させる存在の役柄にはもう少し強い個性が必要だったような気がする。

もう一つ、総じて役者がセリフを噛む場面がやや目立ったのが残念な点であった。

それにしても、上手い題材を見つけたなぁというのが観劇後に最初に感じた事。
手作り感も含め、この劇団の方向性はなかなか面白いと思った。次回作品も可能なら観てみたい。

紫陽花の下に死体は眠る

紫陽花の下に死体は眠る

惑星☆クリプトン

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/07/22 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★

役者の力量がものを言った熱演
26日午後、池袋のシアターグリーンで上演された惑星クリプトンVOL.1『紫陽花の下に死体は眠る』を観てきた。これは、知人の若林美保が出演していた関係からである。

ある日、睡眠薬を飲まされてある場所に集められた、賢司と、彼と関わり合いを持つ(母親、隣人、恋人、幼なじみ、同僚など)者合計10人。人間関係を壊す事がウリのとある会社のゲームに何者かが申し込んで集められたらしいのだが、集められた場所の周りには死体の埋まった場所に咲くという美しい紫陽花が。そう、集められた10人に課せられたのは、勝者が1人になるまで続けられる金魚すくいによって勝敗を決める殺人ゲームだった。
ゲーム進行に合わせるように個々の抱える賢司に対する本心告白や、誰が10人をこのゲームに引き込んだのかの黒幕探しが。1人、また1人と集められた人間が死んでいく中、賢司の恋人である京子が賢司の幼なじみである和也を好きになり、賢司と別れたくてこのゲームに応募したことを暴露。そうか、このゲームを主催した黒幕は彼女だったのか・・・・、と思いきや、実はそんな彼女の浮気を察した賢司本人が最初にこのゲームに応募した本当の黒幕で、結果勝者となって1人生き延びたのであった。

集められた10人の基準が、名前にKが付くことと、過去に賢司を傷つけたことのあることというのも、なかなか凝っている。が、この舞台の見せ場は死ぬ間際に見せる本心の告白シーンだろう。ここに個々の役者の力量が問われた。そんな中で出色のシーンを演じたのは、幼なじみ和也を演じた大対源(賢司の彼女の浮気相手でもある)、母親(過去に同じような殺人ゲームに夫婦で参加し勝者となった経験を持つ)・恵子を演じた若林美保、そして賢司の恋人京子を演じた徳永梓の3人であった。
とは言え、総じて粒の揃った役者がよく集まったなぁと感心させられるぶたいであったことは確か。KARAふるというユニットが担当した主題歌もなかなか印象的だった。

この惑星クリプトンという団体、公演ごとにメンバーを集めるシステムをとっているらしい。人選さえ間違わなければ、高い水準の舞台公演を続けていくことが出来るだろう。今後の活動に期待したい。

二都物語

二都物語

新宿梁山泊

花園神社(東京都)

2015/06/20 (土) ~ 2015/06/28 (日)公演終了

満足度★★★★

登場人物の熱演に引き込まれた
25日夜、新宿梁山泊が新宿花園神社紫テントで開催した唐十郎作『二都物語』を観てきた。この作品は、状況劇場の紅テント公演で43年前初演された話題作で、状況劇場以外では今回の新宿梁山泊が初めて取り上げる上、主演を唐の息子である大鶴義丹が演じるとあって、かなり話題になっていた。個人的にはそうした原作を巡る様々な期待感とは別に、最近気になる女優たちがこぞってこの劇団に属していた経歴を持っていることからどんな舞台を作る劇団なのか興味があったこと、そしてその気になる女優の1人である有栖川ソワレが今回出演するというので観に行くことにしたわけだ。

この作品の粗筋を簡単に説明することは難しい。基軸となるのは、韓国から兄を探して日本に渡り通行人から100円をせびりつつ生きてきたリーランと、働いていた万年筆工場の火事で盲目となってしまった妹・光子を連れた内田一徹の出会い。一徹を別れた兄と思い込み追いかけるリーランと、彼女に惹かれていく一徹。その周りを、韓国から海峡を渡り日本にやってきた国籍のない男たちの集団や、ひなたぼっこの群れ、元万年筆工場で働いていた少女たち、獣殺しなどのが複雑に絡んでいく。
劇としての核となるのはリーランと一徹の複雑な感情表現と理屈を超えた惹かれ合いだろう。今回はリーランを水嶋カンナ、一徹を先述したように大鶴義丹が演じていた。リーランの背負う儚さや悲しみ、一徹の悩む姿は、もう少しスケールの幅を持たせても良かったかもしれないが熱演と言うべきあろう。いや、ふたりに限らず、登場人物たちのエネルギッシュな演技に、新宿梁山泊の原動力を観たような気がする。

演出的なクライマックスは、海峡に見立てた水しぶきの中を赤い木馬に乗って漂うリーランと、それをなすすべもなく見つめる一徹というラストシーン。テント公演の利点を活かし、膨大な水とショベルカーを利用した木馬の動き。それは、冒頭に水の塊とともに登場した国籍のない男たちの登場シーンと共に、迫力のあるもので、客席からは自然と驚嘆の拍手が沸き起こった。
内容的にかなり息の詰まるものではあるが、適度にその毒気を抜いてくれるひなたぼっこの群れの存在は着眼点としてはなかなか面白い。
また、劇中に挿入される歌の内容とタイミングは絶妙。これは、若手演出者は見習うべきであろう。

ちなみに、この公演の獣殺し役の大久保鷹は、初演時に唐とともに不忍池から泳ぎ出てきた国籍のない男たちの集団の1人であり、この日客席に来ていた唐十郎が終演後舞台で紹介された折には熱い握手を交わしていた姿が印象深かった。

観終わって、すっきり感とか消化不良感とかそういうものではなく、凄みが見るものの脳裏に強引に乗り込んできたような気持ちに襲われた、不思議な舞台であった。あお、上演時間は途中休憩を挟んで2時間15分あまり。自分は椅子の指定席での鑑賞だったので苦ではなかったが、平土間の自由席での鑑賞は疲れたのではないだろうか。最前列と2列めには、水しぶき防止の為ビニールシートと雨具が配布された。

白鳥の湖

白鳥の湖

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2015/06/10 (水) ~ 2015/06/14 (日)公演終了

満足度★★★

長田の白鳥にちょっとガッカリ
14日午後、新国立劇場バレエ公演『白鳥の湖』千秋楽の舞台を鑑賞。今回の公演期間中唯一行ける日程が14日だったのだが、結果としてよく見る小野絢子や米沢唯ではなく、あまり見る機会の少なかった長田佳世の白鳥を観ることが出来たのは、ある意味貴重だったかもしれない。

お気に入りの本島美和は堀口純と第三幕のスペインの踊りに登場。颯爽な動きと美貌はやはり個人的にはバレエ団一のお気に入り。
長田のオデット/オディール、踊りはガシッという言葉が似合うようなしっかりしたものだったが、筋肉質の体型とオディールはまだしもオデットの際の表情の生気のなさ(演出的な要求か?)にちょっとガッカリ。正直、白鳥の役には向いていないような印象だった。
対して、コールドの美しさや、先述したスペインの踊りのほか、ルースカヤなど第三幕の各踊り手の熱演が目立った。また、主役級というより凖主役級でもある道化の踊りも印象に残った。最近観た白鳥の中では抜きん出た道化だったよに思う。

もともと新国立の牧版白鳥は、無駄な曲と踊りをカットして分かりやすくするという方向性の演出であったが、それが逆にラストシーンの蛋白化を招いて全体的に平板な舞台となっていたが、今回は少し演出に手が加えられたようで各幕の出演者の表情や踊りに活気が感じられ、ラストシーンも今までよりはやや劇的な展開になっていた。まぁ、これは悪魔役の踊りと演技の力量がをきちんと生かし切ったということで、新監督である大原の意向の反映なのかもしれない。

朝劇 下北沢「下北LOVER」

朝劇 下北沢「下北LOVER」

朝劇

VIZZ (ヴィズ) (東京都世田谷区北沢2-23-12 Mビル1F)(東京都)

2015/01/18 (日) ~ 2015/09/27 (日)公演終了

満足度★★★★

朝から充実

数ヶ月前、週末の朝9時から下北沢のカフェを会場に朝劇(朝食付き)という舞台が行われていることを知り、土曜日ヴァージョン『リブ・リブ・リブ』を観に行ったのだが、これが面白かったので日曜ヴァージョン(土曜日ヴァージョンの続編的内容らしい)を観たくなり、ようやく14日に観に行くことが出来た。

舞台は、下北沢にあるとあるカフェ。地方から出てきて下北沢に暮らす兄(宮原将護)と歌手志望の妹(関森絵美)。歌手になる夢と現実の厳しい壁に挟まれ苦悩する妹に説教する兄と、色々慰めるというかアドヴァイスするカフェのマスター(山岡竜弘)と常連客(渡辺コウジ)、そしてそれに巻き込まれるカフェに面接に来た女性(寺田有希・この役は毎回ゲストが担当。14日は土曜ヴァージョンで妹役を演じる寺田がゲストだった)というドタバタ&しんみりの上手くミックスされた内容で、土曜に劣らぬ面白さ。狭いカフェの空間を有効に使う演出もなかなかなもの。
出演していた5人全員芸達者ではあったが、宮原、渡辺、寺田の3人は特に印象かった。特に寺田の土曜ヴァージョンで魅せた妹キャラとは正反対のアダルトキャラにはドッキリ。妹役の関森も熱演していたが、喜怒哀楽の変化の付け方にもう一工夫すれば言うことなし。


朝から充実した舞台を観ると、一日が楽しく過ごせそうになる。そんあ朝劇であった。

夢みるあの子はまだおうちでロンリーガール。

夢みるあの子はまだおうちでロンリーガール。

なかないで、毒きのこちゃん

高円寺FIZZ(東京都)

2015/05/29 (金) ~ 2015/05/31 (日)公演終了

満足度

演劇サークルの延長線上の公演
31日21時に高円寺の古着屋を開場に上演された「泣かないで、毒きのこちゃん」を観てきた。これは、個人的に気になっている役者・小山まりあが出演するからである。

出演は、小山のほか、廣塚金魚、伊與田成美、小鹿めめこ(劇団森)の総勢4人。
話は、母親が亡くなり経営していた古着屋を受け継いだ引きこもり女子高生に、店での対応を教えようとする隣家の定食屋の娘と女子高生の同級生によるドタバタレッスンと、母親の店を受け継いだ引きこもり女子の心の叫びで幕を下ろす45分ほどの舞台。配られたキャスト表には出演者の名前しかなくて、どの役が誰なのか小山以外わからないという不親切さにまずは閉口。お金をとって見せるからには、最低限のチラシは用意したいもの。どうやら大学の演劇サークルの延長線上にあるような団体とみた。

既にtwitterで昨日この舞台に対する不満を二点挙げた。一つはセリフを喋っていない役者の動きが雑であること。もう一つは、せっかく引きこもり女子が絶叫系のセリフ回しで心の内を語り涙ものの素晴らしい結末が迎えられると思ったら、ラップでその緊張感を壊した詰めの甘さというか乱暴さ。これらは演出・脚本の問題だろうね。

せっかく期待して出かけた夜遅くの公演であったが、結果として後味がすっきりしない物となった。
出演者だけでなく、その団体や演目をよく吟味して行く必要があると反省した。

夜を急ぐ者よ

夜を急ぐ者よ

PLAN P

俳優座劇場(東京都)

2015/05/12 (火) ~ 2015/05/17 (日)公演終了

満足度★★★★

勝野親子の熱演に心酔

14日の午後、東京六本木の俳優座劇場で上演された、佐々木譲原作、演劇集団PLAN P による舞台『夜を急ぐ者よ』を観に行った。これは、知人の若林美保が出演していた関係からである。
この舞台のウリというのは、4月に同じ俳優座劇場での他作品公演でも好評を博していた勝野洋と娘である勝野雅奈恵の共演、それに昨年宝塚星組を退団した蓮実ゆうやの登場であろう。
物語は、アメリカ留学後地元沖縄でホテルを経営する上原順子(勝野雅奈恵)と、留学前に一目惚れした学生運動活動家でありその後やくざとなった原田泰三(寿大聡)との関係を核に、学生運動の同士で後には原田の所属するやくざと敵対する団体のメンバーとなった田中久敬(西村真)、上原や田中を検挙を仕事とする刑事の木崎鷹矢(勝野洋)、原田の弁護を担当し、後に上原の経営するホテル買収を目論む企業の顧問弁護士になる(刑事の木崎に好意を持っていた)永野須美子(蓮実ゆうや)たちが、恋愛、ヤクザの抗争、沖縄、逃亡生活などを背景とした複雑な人間関係によって苦悩する姿を描いている。
内容がかなり濃いものだけに、原作の佐々木がネットで「第1幕は歌あり踊りありでニュージカルのよう」と評していたが、適度な歌とダンスが観客の緊張した心のガス抜きの役割を果たしていたように思った。普段、どちらかと言うと劇中にダンスを入れることをあまり好まない自分ではあったが、元宝塚の蓮実を活かす舞台演出という面からも、この第1幕の作り方は、進行の間延び一歩手前で上手く作用してように感じた。
舞台全体の中心的存在は、やはりヒロインを演じた勝野雅奈恵。彼女の華あり影のある演技が、舞台全体を引き締めていたが、同時に舞台経験豊富な芸達者な共演たち(勝野の父親も含め)の濃い演技も楽しめたし、それが勝野親子の存在感をさらに高めていたように思われた。
原田役の寿大はフッと緊張感の緩む瞬間はあったがなかなかの熱演。
「未来と約束するな。約束したら未来を失う」というこの舞台全体を支配する言葉を吐いたおばぁ(笠松真智子)のセリフ・歌・踊りは、なかなか味のある存在感を醸し出していた。こういう役者は貴重だなぁ。
わが若林美保は、上原順子の友人吉岡礼子役で第1幕で活躍。


そういえば、観終わった後、先に書いた恋愛・ヤクザの抗争・沖縄・逃亡という要素を併せ持った小説と映画に出会った事があったような気がした。あれは・・・佐木隆三の『海燕ジョーの奇跡』。時代背景が、今回の舞台とダブっているように記憶している。

シュレディンガーの猫たち

シュレディンガーの猫たち

激嬢ユニットバス

サンモールスタジオ(東京都)

2015/04/30 (木) ~ 2015/05/05 (火)公演終了

満足度★★★★★

個々の役者の個性が生きた秀作
今日3日の午後、サンモールスタジオで上演中の激嬢ユニットバス第2回公演『シュレディンガーの猫たち』を観に行った。

窓も鏡もない館に自覚無しに集められた葦原樹という漫画家・探検家・保育士・編集者・風俗嬢・大工・CA・主婦の8人の女性たち。8人相互では姿形は違うのだが、彼女たちは実は同じ葦原樹。人生で遭遇する選択肢によって派生した、それぞれの世界に生きてきた同一人物なのだった。
望むものは手に入るが決して出られない館がハコと称されるもので、実は集められた8人は現実の世界では今意識のない瀕死の状態であり、8人に内1人だけが最後に残り生き返るという事を知り、8人はそれぞれ自分が最後の1人になろうとする。お互いがお互いの人生の隠された過去や悲しみ・喜び・悩みを暴きあう。そして、最後に残って生き返ることになるのは・・・・・

まだ公演が残っているのでネタバレはやめておこう。
この個々の人生が暴かれる過程で、それぞれの役に扮した役者たちの個性がうまい具合に発揮され、観客から笑いや涙を起こさせるこの劇団の素晴らしさは、第1回公演以上の出来栄えではなかろうか。今回特に演技的に関心したのは、有栖川ソワレの演技に対する凄みと、ラストシーンで本物の涙を流しての演技が光っていた関根麻帆。
そのほか、うえのやまさおりも、1回公演同様に上手さが感じられた。
脚本や演出も良いのだろうが、この劇団、役者同士の演技のバランス感覚も素晴らしいなぁ。
この先も見続けていきたい劇団である。


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