満足度★★★★
渋い演技で魅せる人間模様
2日、中野のシアターBONBONで上演された、西瓜糖第四回公演『モデル』を観てきた。これは数カ月前に観に行った舞台の会場で配られたフライヤーを観たのが行くきっかけとなった公演。「女性による女性のためのエロスを描こう」という西瓜糖の結成動機と、そのメンバーが松本祐子(演出)と、役者の山像かおり(秋之桜子名義で原作・脚本も担当)・奥山美代子という文学座中堅の三人の女性であったことが、観に行きたくなった大きな要因であった。
この舞台の粗筋をさらりと書くのは難しい。
大正時代の軽井沢にあった卯月家の別荘を舞台に、登場人物たちが繰り広げる、嫉妬と生へのせめぎ合い幾重の話の絡み合い。登場人物は、卯月家当主の弟とで風景画家の文也、卯月家の三兄弟(長女・咲恵、長男・雄高、次女・華子)、掛かり付けの医者と看護婦、書生・二郎、それに人物画家で卯月家当主がパトロンとなる土肥清二郎、、卯月の長女・咲恵の幼なじみ瑠衣。
卯月家当主と弟は画家になるべく競争した結果、弟がプロの画家として成功。当主は人物画家・清二郎に自分の夢を託す。農家出身の清二郎は文也と交流があったが、ブルジョワの文也に嫉妬したいた。それが、当主の計らいでフランス留学という話が出て、今度は文也が清二郎に嫉妬。
その文也は、実は卯月家と血の繋がりのない長女・咲恵に好意を持っていたが、当主が咲恵を後妻に迎えることに抵抗できず、ここに咲恵を巡って当主と文也に女性問題での確執が生じる。異性との確執は、掛かり付けの医師を巡って次女の華子と看護婦・キヨとの間にも生じているが、華子が結核で余生短く、生きている間だけ先生を貸してという華子の言葉に、キヨは我慢せざるを得ない状況。
咲恵の幼なじみの瑠衣は政略結婚に我慢できず、咲恵のいる別荘に夫から逃げるようにやってくる。後日、若者と自殺未遂を企てたりする瑠衣は、咲恵の生き方に憧れ嫉妬する。
卯月家長男雄高は、父親の財産すべてが弟・文也が引き継だことに反発するが、父親から無能呼ばわりされていたことを知り、絶望して自殺をはかり、未遂に終わったものの脳性障害を負う身となる。
などなど、様々な人間模様の入り組む舞台は、谷崎潤一郎や円地文子の描くドロドロとした人間模様を卯月家というブルジョワ感覚のフィルターを通して覗き見したという印象。そう、舞台では意外とあっさり感のある描き方なのだ。
その中心は、卯月家の長女である咲恵だろう。文也との男女関係、瑠衣との同性関係(レズという肉体関係ではなく生き方としての関係)に揺れ動く姿を控え目の渋い演技で熱演。その他、文也役の釈八子、清二郎役の斎藤歩、瑠衣役の悪山美代子の演技は秀逸。と数名個別に名前を上げたが、出演者全員の渋い熱演の舞台は、洗練されて軽そうに思えながら実は暗く重みのある内容なのだった。
また、その重みは大道具・小道具で垣間見せる本物志向の舞台創りからも感じ取れた。
ただ一つ不満だったのは、舞台の締めくくり、終結の処理。どこか意味ありげで味のある終わり方のようで、実は中途半端感を強く感じたのが残念。
それにしても、観終わってからも舞台の幾つかのシーンが頭のなかに蘇る。よい舞台を観せてもらった。