満足度★★★★
登場人物の熱演に引き込まれた
25日夜、新宿梁山泊が新宿花園神社紫テントで開催した唐十郎作『二都物語』を観てきた。この作品は、状況劇場の紅テント公演で43年前初演された話題作で、状況劇場以外では今回の新宿梁山泊が初めて取り上げる上、主演を唐の息子である大鶴義丹が演じるとあって、かなり話題になっていた。個人的にはそうした原作を巡る様々な期待感とは別に、最近気になる女優たちがこぞってこの劇団に属していた経歴を持っていることからどんな舞台を作る劇団なのか興味があったこと、そしてその気になる女優の1人である有栖川ソワレが今回出演するというので観に行くことにしたわけだ。
この作品の粗筋を簡単に説明することは難しい。基軸となるのは、韓国から兄を探して日本に渡り通行人から100円をせびりつつ生きてきたリーランと、働いていた万年筆工場の火事で盲目となってしまった妹・光子を連れた内田一徹の出会い。一徹を別れた兄と思い込み追いかけるリーランと、彼女に惹かれていく一徹。その周りを、韓国から海峡を渡り日本にやってきた国籍のない男たちの集団や、ひなたぼっこの群れ、元万年筆工場で働いていた少女たち、獣殺しなどのが複雑に絡んでいく。
劇としての核となるのはリーランと一徹の複雑な感情表現と理屈を超えた惹かれ合いだろう。今回はリーランを水嶋カンナ、一徹を先述したように大鶴義丹が演じていた。リーランの背負う儚さや悲しみ、一徹の悩む姿は、もう少しスケールの幅を持たせても良かったかもしれないが熱演と言うべきあろう。いや、ふたりに限らず、登場人物たちのエネルギッシュな演技に、新宿梁山泊の原動力を観たような気がする。
演出的なクライマックスは、海峡に見立てた水しぶきの中を赤い木馬に乗って漂うリーランと、それをなすすべもなく見つめる一徹というラストシーン。テント公演の利点を活かし、膨大な水とショベルカーを利用した木馬の動き。それは、冒頭に水の塊とともに登場した国籍のない男たちの登場シーンと共に、迫力のあるもので、客席からは自然と驚嘆の拍手が沸き起こった。
内容的にかなり息の詰まるものではあるが、適度にその毒気を抜いてくれるひなたぼっこの群れの存在は着眼点としてはなかなか面白い。
また、劇中に挿入される歌の内容とタイミングは絶妙。これは、若手演出者は見習うべきであろう。
ちなみに、この公演の獣殺し役の大久保鷹は、初演時に唐とともに不忍池から泳ぎ出てきた国籍のない男たちの集団の1人であり、この日客席に来ていた唐十郎が終演後舞台で紹介された折には熱い握手を交わしていた姿が印象深かった。
観終わって、すっきり感とか消化不良感とかそういうものではなく、凄みが見るものの脳裏に強引に乗り込んできたような気持ちに襲われた、不思議な舞台であった。あお、上演時間は途中休憩を挟んで2時間15分あまり。自分は椅子の指定席での鑑賞だったので苦ではなかったが、平土間の自由席での鑑賞は疲れたのではないだろうか。最前列と2列めには、水しぶき防止の為ビニールシートと雨具が配布された。