りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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野良猫の首輪

野良猫の首輪

sons wo:

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2013/12/04 (水) ~ 2013/12/07 (土)公演終了

満足度★★★★

曖昧さの確かさ
入場して、客席スペースのどこで観るかを迷う。
置かれているものを眺める。
字幕の言葉を読み続ける。

開演すると、最初はその捉えどころのなさに戸惑うのですが・・・、
ルーズに組みあがった世界には、
過去から未来にいたるまでの俯瞰があって、
その中にある今のあいまいさが、確かな質感と共に切り出されてきました。

ネタバレBOX

正直に言って、役者たちの身体からやってきたものが、
すぐには腑に落ちにくかったです。
物語のエッジのなさというか、枠組みの曖昧さにも
当惑した。

でも、物語が歩み、父母の時代の歌や
その時代の記憶が差し込まれると、
やがて「今」も夢との端境の、ふわっとした現実感のなかに
確かな不確かさとともに浮かび上がってくるのです。

そして、そこにはさらなる時代の連鎖の感覚までもが訪れて・・・。

だからこそ、開演前に観たオブジェと、その連鎖までも消滅させてしまう
爆弾の存在が重なった時、
その不確かさのコアのような部分が醸し出す
危さに心を奪われました。

作品として、非常にしたたかな構造を感じる。
また、支える役者たちにも、独特で献身的な
身体の表現があって・・・。

見入ってしまいました。

Romantic Love?【ご来場ありがとうございました】

Romantic Love?【ご来場ありがとうございました】

劇団競泳水着

サンモールスタジオ(東京都)

2013/12/19 (木) ~ 2013/12/26 (木)公演終了

満足度★★★★

歩みの先の「今」の感覚
洒脱なシーンの繋ぎや、舞台の構成のなかに、
女性の歩んだ時間が、とてもナチュラルな質感とともに
浮かび上がってきました。

役者一人ずつに、その構成やスピードに流されない
刹那ごとのしっかりとしたロールの描き出しがあって。

観終わって主人公が歩み出す「今」の質感が
薄っぺらくならず、とても自然なものとして伝わってきました。

ネタバレBOX

冒頭の仕掛けからしたたかで、
そこから舞台に描き出されるものが、
急ぐことなく、でもおざなりになることなく
刹那の解像度を持ちながら重なっていきます。
作り手ならではでの時間の切り取り方や繋ぎ方かたに
引き込まれていく。

登場人物たちのその語り口が、
時にしっかりとデフォルメされ、あるいはとても自然体におかれ、
ともに強さや深さを持ちつつそのバランスが実に良い。
前半はどこかばらけて思えたシーンたちが
良い意味でのあいまいさをもち、
移ろう想いの肌触りを失うことなく
密度をもった淡々さとともに、
絶妙にルーズに観る側に重なっていく。
食事のひとときを一歩分に結び過ごした時間を描き出したり、
タバコケースに詰められたもので
一人の男と二人の女の
関係を観る側に伝えて見せたり・・・。
作り手の創意に紡がれた
いろいろに洒脱な企みや伏線や表現がちりばめられいきます。
それを紡ぐ役者達が担うロールがしっかりと作りこんでいて、
中庸であっても、どこか誇張されていても、
その色をぶれることなく舞台に置く力量も担保されているから、
よしんば、展開が恣意的に散らばっていたりランダムであっても、
全体が次第に縒り合わされる中、
絶妙にデフォルメされたエピソードも、
やがて交わる人間関係の片端も
違和感なく交わり束ねられていくのです。
そうして積もり束ねられた舞台のテイストが、
物語の内外を照らし、厚みを醸し、
シーンに描かれた会話や風景の向こう側に、
描かれなかった時間も垣間見えて
そして、登場人物たちそれぞれの思いの細微な部分までが
そのなかにすっと切り出されて、
気がつけば、観る側が登場人物の時間にしなやかに
閉じ込められてしまっている・・・。

その顛末は、ビビッドな部分も、ビターな部分も、
あるが如くに描かれて・・・。
でも、ラストシーンには、
そこまでの時間が置かれているからこそ感じうる、
主人公のさらなる踏み出しの感触があって心を惹かれる。
映像的などとも言われる作り手の語り口ですが、
役者達の力量をしなやかに引き出し、
舞台だからこそ感じうる想いの俯瞰が観る側にしっかりと織りあがっていて
だからこそ、登場人物達に訪れた「今」の感触に浸り、
ラストシーンに仕込まれたウィットにあざとさを感じることなく、
主人公の歩み出しの可笑しさに嵌る。
終演後も暫くは、そんな主人公の「今」の温度や、とても素敵な戸惑いが、
しなやかに残っていたことでした。

競泳水着の10周年、この先どのような世界を見せてくれるのかが、
とても楽しみになりました。
治天ノ君

治天ノ君

劇団チョコレートケーキ

駅前劇場(東京都)

2013/12/18 (水) ~ 2013/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

天皇の内と外をひとつに描き出す
初日を拝見。

舞台から明治から大正、そして昭和に至る国の歩みと、
その国を担う定めと矜持をもって歩んだ天皇の姿が、
ひとつの空間に重ねられ描かれていて

国を背負い繋ぐことを担った天皇の日々と、
描き出された国の歩や移ろいの交わりに
深く取り込まれてしまいました

ネタバレBOX

語り口がとてもしたたかな舞台、
まずは、冒頭のシーンで、
体の不自由な大正天皇の姿を舞台に置き、
そこから踏み出して貞明皇后や侍従武官を語り部に、
先帝、宮中の側近や時の宰相たち、さらには若き日の昭和天皇の視座や
それぞれの想いを差し入れながら
シーンを重ね、大正天皇の生涯を紡いでいきます。
明治天皇の影響、教育係を務めた有栖川親王、
大隈重信、原敬といった宰相たち、
舞台は大正天皇の評伝の態を崩すことなく、
国や時代の移ろうメカニズムが物語の裏打ちとなり、
時にはその縫い目を舞台の表に晒しながら
その時代の色や流れまでを舞台に配し
そこに置かれた主人公の日々に織り上げていく。

作り手の視座の置き方や時間の切り取り方が実に巧みで、
国家機関としての天皇の姿と
その人としての想いの歩みのそれぞれが混濁することなく、
でも乖離することなく、宮中の一室に重ねられていく。
時代の変遷のこの場所への訪れ方や、
内側に踏み込んだ心風景が透かし入れられていくことにも
その設定だから組みあがるリアリティがあって。
回想の語りとその内側に描かれる時間たちの行き来が
時代への俯瞰に組みあがり、
一方で大正天皇の一生の質量として、観る側を凌駕していくのです。

役者達が本当によく研がれていて巧いのですよ。
若き大正天皇にしても後年に病と闘う姿にしても
そこには背負うものに対する矜持がしっかりと織り込まれていて。
物語の語り部ともなる皇后には、
その地位にあるからこその語り口の鷹揚さと
言葉から一呼吸遅れて訪れる余韻が観る側を捉えて離さない。
また、皇太子を摂政に立てる企みに対するシーンでのやり取りでの
凛とした振る舞いの奥に垣間見える思慮の奥行きに息を呑む。
なにより二人の高貴さには形骸化しないぬくもりがあって、
舞台を単なる政治の箱庭にすることなく、
観る側に刹那ごとの実存感を与えていく。
昭和天皇の若さや、侍従武官の人柄も、
宰相や大臣たちの人物の造詣も、所作の美しさの中に
実によく作りこまれていて・・・。
だからこそ
歩みを急いだ明治に疲れ、歩みを緩めることで訪れた大正ロマンの世界も、
そこからさらに歩みをはじめ、やがて太平洋戦争への歯車が回り始めることも、その中でのかつてのこの国の貴きところのありようや天皇の生きる刹那との表裏となり重なっていく。
天皇の志や皇后の想いが、明治維新の為政者たちが臣民たちが崇めるために作った新しい神棚の比喩や、大正天皇の病状が伝えられることの意図などと共に、一つの時代として観る側に訪れて。
国全体を描く大きさと、人の在り様を切り出す繊細さがしなやかに
一つの舞台に紡ぎあがる舞台のありように、粛々と圧倒され取りこまれてしまいました。

舞台美術や照明にも、花道的な部分を含め、ロールの距離感を十分に作るだけの広さを確保しつつ散漫にならなず秀逸。

終盤の軍艦マーチと万歳の高揚と光の中に、暗愚と呼ばれた天皇の一生と国のありようがパノラマのように広がって。観終わっても、その余韻からしばらく逃れることができませんでした。
ことし、さいあくだった人(終了しました。良いお年を)

ことし、さいあくだった人(終了しました。良いお年を)

エビス駅前バープロデュース

エビス駅前バー(東京都)

2013/12/13 (金) ~ 2013/12/25 (水)公演終了

満足度★★★★

丁寧に作られた舞台
コメディと括ってしまえばその通りなのですが、
台詞のちょっとした突き抜けや、
さらに一歩も踏み出しが随所にあって、
こう、なにか抜きんでたものがあって
観る側を飽きさせない。

会話の端々や、ロールの貫き、
伏線の張り方、バーカウンターをはさんだ空気の切り分けなど
それぞれがとてもうまく機能していて、ほんと面白かったです。

ネタバレBOX

バーテンの二人、前半の客、後半にさらに訪れる客と
密な関係をもった3つのグループが
とてもルーズに繫がっていく。
それぞれのグループ内でも事情があり、
刹那ごとのたっぷりした面白さもあるのですが
その交わりに更なる利害や事情が加わって
物語がどんどん膨らんでいく楽しさもあって。

バー公演だし、決して広い舞台ではないのですが、
それぞれの関係性や利害がカウンターの内外やドアの近くと奥で
上手切り分けられているので
観る側がロールたちの関係性や状況を迷わずに観ることができるし、
その安定があるから、役者たちも、ここ一番に思いきり感情を作ったり、
ボケたり歌舞いたりできるのだとも思う。
それらが、一つに交わる終盤近くは絶品。
幾重にも重なる可笑しさがあって、笑った。

ものすごく目新しいとか斬新というわけではないけれど、
戯曲にしても、演出にしても、刹那ごとの役者のお芝居にしても、
とても丁寧に作られた上質のコメディのテイストを
たっぷりと楽しませていただきました。



リーディング・フェスタ2013 戯曲に乾杯!

リーディング・フェスタ2013 戯曲に乾杯!

日本劇作家協会

座・高円寺2(東京都)

2013/12/14 (土) ~ 2013/12/15 (日)公演終了

満足度★★★★

『フローズンビーチ』リーディングだから見えるもの

ナイロン100℃での初演と再演を観ていて、
大好きな戯曲でもあるのですが、
それだけではなく、今回は出演される方が漏れなく魅力的で、
そちらも楽しみに観にいきました。

で、観終わって、初演当時の舞台の記憶としてのこっているものが、
戯曲の筋書きよりも、むしろ戯曲を通じてあふれ出した
ロールたちの個性であることに思い当たる。
一方で、リーディングだからこそくっきりと浮かび上がる
戯曲の骨組みの秀逸もあって。
さらには、役者達のライブ感をもった舞台の刹那にも
しっかりと捉われて。

幾重にも面白い、舞台でありました

ネタバレBOX

事前に出演者の方のブログなども読ませていただいて、
全員での稽古の時間などがほとんどなく、
要はぶっつけ本番であることは知っていたのですが、
だからこそ生まれる面白さがあることにまでは
思いが及びませんでした。

舞台初演のときに使用された画像なども使われたり、
場の間には音楽も同じものが使われたりして
懐かしくもありつつ、
役者達からやってくる台詞の、
クリアさと、色の醸し方と、間の秀逸と、
なによりも、読むというより、台詞が編み上げる空気のビビッドさに
ぐいぐいと惹かれていく。
冒頭こそ、ただ言葉の意味を受け取っている感じがありましたが、
やがて、舞台に紡がれる台詞に生まれるビビッドな肌触りに
取り込まれていきます。

でも、それは、私が初演などで感じたものとはことなった、
戯曲の骨組みを削ぎだしてもいて。
その面白さにぐいぐい惹かれつつ、
初演の舞台では、戯曲そのものよりも、
戯曲自体の魅力を凌駕する
たっぷりと時間をかけて役者達が作りこんだ
ロールや場の空気の熟し方にとりこまれていたことにも気づく。
もう10年以上もまえに舞台を観たときには理解できなかった
この戯曲が大きな賞を取った理由が、
実感としてわかったような気がしました。

まあ、常軌を逸するほどにコストパフォーマンスの高い舞台でもありまして
にもかかわらず、場内には空席がけっこう目立っていて、
もったいないことこの上ありませんでした。

PS:終演後の『劇作家DJ部、選曲を考えるひととき』、
企画の意図はわかったし、面白い部分もあったのですが
なにか時間に追われて、意図やそのための仕込みが
うまく展開できなかった部分も見受けられたのが
残念にも思えたことでした。
新説・とりかへばや物語

新説・とりかへばや物語

カムヰヤッセン

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/12/13 (金) ~ 2013/12/23 (月)公演終了

満足度★★★★

新境地
物語を追わせるのではなく、語られる顛末が観る側に歩んできてくれるような感覚が舞台にあって。

作り手が、物語る新しい術を身につけたように感じられました。

ネタバレBOX

昔話というか古典を、
伝統芸能である落語の世界に落とし込んで、風情をそのままに
どこかコミカルに、でも芯をしっかりとつくって描き出していきます。

原典、落語の世界の時代、その歴史と、創作の重なりが、
ひとつのトーンにしたたかにまとめられていて。
観る側も、さして戸惑いを感じることなく
幾つものシーンを渡っていくことができるのです。
そのひとつずつの世界に、役者達それぞれの醸し出す味わいがあって、
観ているうちに、自然に物語がすっと手のひらに乗っかっていく。
下敷きの2冊の物語から落語を紡ぐ態があるから、
その展開がバラけることがない。

原典のコアの部分を受け継いで、
組みあがり、さらに語られていくことで
噺の展開から、突飛さや奇想天外な感じが薄れ、
遊び心が顔を出しても
金さんや有名女子大創立者出生の秘密までが差し入れられても、
それが場の肥やしにともなり、やがては繋がって、さらなる物語の広がりと歩みに編みあがっていく。。
物語のなかの、父のロールに、ぶれがなく肌触りがあって、
取り替えられる兄妹それぞれに、
いくつもの引き出しで紡がれるロールの育ちがある。
女師匠には、その風情に芸の確かさを信じさせる空気があって出色の出来。、
お女郎さんにも観る側が引き込まれるに十分な華と汚れと醒めた感じがあって。、
女席亭の貫禄や雰囲気が舞台の密度を織り上げて。
学友にしても、北町奉行にしても、物語の勘所にしっかりと刺さる。

舞台に紡がれた顛末が、
ジェンダーや人が授かった才能などに対しての
既存の価値観や禁忌から解かれ、
新たな表現を歩みだしていく姿に
ボリューム感をもった充足を感じ、心を掴まれる。

舞台美術や音、さらにはそれらの使い方もよく研がれているし、
舞台全体としてみても、初日の硬さもあまりなく、完成度も高い。
観終わってなにかとても満ちた感覚が訪れたことでした。。

ただ、その上で、舞台には更に進化するような余白を感じたりも。
それは、舞台に未完成な部分があるということではなく、
完成の先にさらなるものがありそうな気がするというか、
作り手が、この作品において役者達とともに至った物語る手法のようなものが
公演中、さらに洗練されていく感じがする。
作り手に従前からあった作品の骨格の組み方と
前回公演あたりから生まれてきた、
物語を追わせるのではなく物語が観る側に入り込んでくるような感覚は、
受け取ったことのない感覚としてひとつに束ねられ、初日から訪れていつつ
公演期間中にも、そして次回公演以降にも
さらに研がれていく予感がしたことでした。
「失踪者」「審判」「城」 三部作連続上演

「失踪者」「審判」「城」 三部作連続上演

MODE

座・高円寺1(東京都)

2013/12/01 (日) ~ 2013/12/18 (水)公演終了

満足度★★★★

『審判』澱むことなくくっきりと苛立つ
抜け出しがたいことへの不条理は感じつつ
決して難解ではなかった。

劇場がしっかりと生かされた
クリアで厚みをもった舞台でした。

ネタバレBOX

前半は、ひたすら舞台に展開する世界を追っている感じ。
物語が塗り込められたり、重く感じられたりすることはないし、
語り口にリズムを感じたりもするのが意外で、
でも、一方で、次第に、舞台に描かれていくものの、
主人公から見た捉え切れなさや行き場のなさが次第に募っていく。
なんだろ、音楽や役者達の動き、
さらにはシーンの置き方やミザンスの作り方に
観る側をそこに立ち止まらせず、舞台に観る側を繋いでおく引力があって、
舞台から腑に落ちない感覚が次々に訪れつつ、
物語の先を追いかけ、
積み重なっていくシーンを見続け、
さらには主人公の行き場のなさに捉われてしまう。

それが、後半になり、世界が次第につながりをもち広がっていくと、
次第に主人公を裁こうとする側のみならず、
主人公にたいしても苛立ちを感じていることに思い当たる。
前半には、ただ、物語に語っているだけに思えた思えたシーンの確かさや、
織り込まれたウィットや、役者達の演技のふくよかさや、
切れや、身体で紡ぐニュアンス、
さらには、音楽や、振付の空間の満たし方や冴えが
次第に観る側の視点を主人公から解き放ち、
主人公から照らし出された裁判の世界の不条理が
翻って主人公の立ち向かうものの不条理さと
主人公が抱く頑迷さや不器用さを
ともにひとつのシーンに描き出す鏡として研がれていく。
だからこそ、その結末も、理不尽さを感じつつ、
受け入れうるものにすら思えてしまった。

もう、うん十年もまえに学校の図書室で読んだ原作は、
やっぱり難解で、読み進んでも、読み終わってもなんだかよくわからず、
内容などほとんど忘れ、ただ行き場のない閉塞感を伴った重さだけがのこっていたのですが、この舞台には、観る側を重さに塗りこめることなく、不条理は不条理として削ぎだし、その顛末に必然と感じさせるような力があって。

満たされた疲弊感を感じながら劇場をあとにしたことでした。
性病はなによりの証拠

性病はなによりの証拠

ブラジル

王子小劇場(東京都)

2013/12/04 (水) ~ 2013/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

クリアにがっつりおもしろい
いやぁ、おもしろかった。

なんというか、いろんな深さの可笑しさが
ひとつによく束ねられておりました。

ネタバレBOX

まあ、手練れの役者たちなわけですよ。

それが、自らのロールをがっつりと背負って、
漂うボートで表向きはそれぞれぞれを慮りながら、
でも実際には文字通り呉越同舟している。
その絵面だけでもかなりわくわくものなのですが、
そこに差し込まれ、あるいは解かれるものの
ベクトルというか質が実にバリエーションに富んでいて。
「竹毒」という病名で笑いを取ると、
そこから解けていくロールたちの個性が見事に描き分けられ、
それらが舟のシチュエーションから乖離することなく、
一方で縛られすぎることなく、物語が歩みを進めていく。

よしんばそれが社長の盗み喰いのような即物的な笑いであっても、単純に薄っぺらくしないへたれな葛藤が役者の演技にしっかりと紡がれているし、
男女たちの入り組み方や、隠すものや抱くものも、役者達が織り上げるロールの端々にしなやかに裏打ちされていて。
切り捨てきれない小さな会社での人間関係にしても、
節度を失ったり醒めたり不器用だったりの男と女の関係にしても、それぞれが背負うものや、様々な秘密とともに交わりあった人物達のありようにしても、
不意に晒され、まぜこぜに崩れ、
にもかかわらず舟に居続けることを強いられる姿が、
カオスっぽいのに、不必要に絡まることなく、
とてもクリアでとんでもなく面白い。
さらには、役者達ひとりずつに
漂流と性病や関係から訪れる、
それぞれの担う狂気の見せ場があって、
そのつきぬけが舞台のさらなる奥行きを作りだしていくことにも瞠目。

全てが解けての最後のシーンに
消えていったロールたちの気配や想いが、
場から霧散することなく切なさとともに残って。
この舞台、顛末に観る側を縛る力と、
ルーズに刹那の感触を削ぎだす力のバランスが
抜群によいなぁと感じる。
しつこいようですが、本当におもしろかったです。

できれば四面それぞれのエリアから観たかったなぁ。
観終わって、狂気のありようであっても、よしんば嘔吐シーンであっても、
いろ他のエリアからみると
一味異なるミザンスに込められたものが訪れる予感があって。
それぞれの方向に溢れ出す舞台の印象を
全て観ることができなかったことが残念に思えたことでした。
ホチキス最新作「天才高校〜デスペラード〜」

ホチキス最新作「天才高校〜デスペラード〜」

ホチキス

サンモールスタジオ(東京都)

2013/11/23 (土) ~ 2013/12/04 (水)公演終了

満足度★★★★

おもしろうて、気持ちよく何も残らず
要所にしっかり笑いが作りこまれていて、
きまるところがしっかりときまって、
気軽にガッツリとみることができました。

面白かったです。

ネタバレBOX

ベタなストーリーなのですが、
笑いを差し込むためのプラットフォームとしては
上手く作りこまれていて、
観る側の笑いに迷いを生じさせないシンプルさと
抜けを生みだしていて。

こてこてな部分と、スタイリッシュな部分の切り分けも
とてもうまくいっていたように思います。

役者の一人ずつが単につよさだけでない、
しなやかなキャラクターの色を編み上げていて、
スタイリッシュな部分とベタな部分の
メリハリも実によく効いていて。
映像の使い方や、ジングルのくりかえし、
10箇条のめくり方、
いろんな仕掛けがことごとく観る側を舞台に引き込む。

観終わって、あとに何も残らない潔さがあり、
それを裏打ちする作り手の徹し方や役者たちの貫きの力に
感心したことでした。

HELLO HELL!!!

HELLO HELL!!!

劇団子供鉅人

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2013/11/28 (木) ~ 2013/12/02 (月)公演終了

満足度★★★★

表層を楽しみ、その奥に心捉えられる
シーンそれぞれのがっつ率繰り込まれた薄っぺらさや、生演奏だからこそ生まれる高揚感や切れにも引き込まれつつ、その組みあがりに訪れる、表層とは異なる感覚にこそ心を掴まれました。

役者たちの身体にも、シーンのひとつずつにも、表と奥のニュアンスを一つに込めて伝える手練があって。

終演時には、軽質で深く、ふくよかな充足感に満たされておりました。

ネタバレBOX

番目を惹いたのは役者達の身体。
その動きに表層の印象とその奥にあるロール達が抱く想いを
同時に表現するような洗練があって、
刹那の動作にいくつもニュアンスをからめとって
常ならぬ密度を舞台に醸し出していきます。
満ちていくウィットと華にも引き込まれ、
丹念につくられた薄っぺらさの奥にある、
その質感だけに留まらない世界のありように捉えられる。

下世話だし、物語自体がそんなに複雑に描かれていたりするわけでもない。
でも観終わって作り手が幾重にも織りあげた寓意に
どっぷりと浸されていることに驚愕。
そこには、地獄になぞらえた、抜け出すことができず日々を生き、
でも思いを抱き、なにかを背負い続ける感触や
失い再び繰り返す感触に浸されて、
現の感覚にしなやかに重なっていく。
生演奏の音楽のクオリティは観る側にリズムや高揚感を与えるのに十分だし音に加えて美術や群集のミザンスの作り方の抜群のセンスにも瞠目。

しかも、いろんな秀逸が作り手の感性に束ねられ、
徒に舞台から突出せずそれぞれを際立たせ舞台を織り上げて。
作り手の見せ方の手練が随所に生きていて。
東京の初日ということで、身体が空気に馴染むまでに少し時間があったり
表現たちの微細な精度にはさらに研がれていく予感もあったけれど、
それを凌駕する勢いがあり、
観終わって揮発性のある楽しさの先に訪れる
世界の俯瞰もしっかりと残って。
楽しかったし、時間を忘れてそのベタさや常ならなさを楽しむことが出来たし、でも、それだけに終わらない作品の奥行きに
上質な表現に触れたときの感覚とともに、
さりげなく深く浸潤されたことでした。
ホテル・アムール

ホテル・アムール

ナカゴー

あさくさ劇亭(東京都)

2013/11/21 (木) ~ 2013/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

舞台の濃度に呑み込まれる
これでもかとしっかりと力量を担保されならがら重ねられるシークエンスが、
一方でぶれたり崩れたりすることなく、とても緻密であることにも驚愕。

呆然となるくらいに閉じ込められ、さらに踏み出す二人の関係に凌駕されました。

ネタバレBOX

中盤からの力技に近い部分が印象には強いのですが、
実は冒頭から繊細にしっかりと作りこまれているのだと思う。

女性の嫉妬心のねちっこさにしても、男の歯止めのきかない感情のぽんぽこぽんにしても、観る側の想像の領域など溢れさせてしまうような、めげることも、斟酌することも、躊躇することもなく、しかも勢いに任せてぶれることのない、力感と精緻さの共存する二人の役者の秀逸にささえられてやってくる。

最初は、女性のしつこさと男性の我慢の態の可笑しさで、それでも見応え十分だったのですが、そのうち、男女それぞれのキャラクターの貫きに直接脳にプラグをさされたような苛立ちが訪れて、さらには体を張ったお芝居の先にある想いのあからさまさに、しっかりと閉じ込められてしまいました

しかも二人の役者の狂気が安定していて、物語がカタストロフに投げ出されることなく、そこからさらにロジックを組み上げ、寄り合わされていく終盤にはただただ目をみはる。

客演のふたりの役者に加えて、劇団の役者の演技も、それぞれの個性からしたたるようななにかがあって実によい。
ロールの色を、これだけ濃い空間にもへたることなく編み上げて、
異なるベクトルのエピソードをしっかりと重ね、
物語の視界を広げていくのは凄いと思う。


正直なところ、観終わってかなり消耗していました。でも、そのことに観客を気づかせることなく、ただひたすらに描かれた世界に浸しこむ圧倒的な力をもった舞台でありました。
あの時お母さんが「コウちゃんの事、好きでいていい?」と呟いて、僕をギュウ―って抱きしめたんだ。

あの時お母さんが「コウちゃんの事、好きでいていい?」と呟いて、僕をギュウ―って抱きしめたんだ。

TomTomTom

高円寺HACO(東京都)

2013/11/27 (水) ~ 2013/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

素材もコックも素敵に豪華なB級風芝居
コントでも観にいくような気分で気軽に足を運んだら、
実際コントライブをやるような雰囲気での舞台が、
あれよという間にとんでもないクオリティでのお芝居に至り
驚かされました。



ネタバレBOX

3人の役者がたくさんのロールを演じていくのですが、
その一つずつが、コントなどであるような表層の「態」ではなく
がっつりと丁寧に作りこまれキャラクターの実存感を醸し出していて。
衣装の早変わりなどで作られた雰囲気もあるのですが、
そのなかに、ロールごとのまったくことなる性格や、想いの色が
観る側を捉えるに十分すぎる解像度と彩をもって描かれておりました。


物語の組み方も本当にしたたかで、
コント的なラフさやいい加減さもありつつ、
学祭でのライブ演奏に向かっての物語の流れを作ることで、
エピソードの差し入れも、キャラクターの必然性もしっかりと担保され
脂の乗った役者たちのそれぞれの引き出しの豊かさや魅力が
物語を軸として、したたかにてんこ盛りで導き出されていて。
ウィットも冴えつつ、
バンドの顛末や、周りの人々のありようも絶妙のバランスで置かれ、
ラス前のライブシーンが物語をしっかりと突き抜けさせる。

ライブ後のワンシーンから導き出される
ロールの距離感や素顔も実によい。
終わってみれば、コント的な舞台の風情が
さして形を変えることもなく
秀逸なプチ群像劇に至っていて。
B級風の舞台が、
役者たちの演じる手練と作演の物語を組み上げるセンスの洗練が互いの力を照らし出す、極上のお芝居に変身しておりました。

なんというか・・・、作品を堪能しつつ、
場末の居酒屋で三ツ星シェフが素材を吟味してつくったお通しを出されたような驚きが残って。
ホント、観ることができてよかったです。









東海道四谷怪談―通し上演―

東海道四谷怪談―通し上演―

木ノ下歌舞伎

あうるすぽっと(東京都)

2013/11/21 (木) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

双眼鏡を片手に通しを満喫
比較的後方の席だったので、双眼鏡を持参し観劇。

歌舞伎言葉と、江戸前の台詞と、今様の言葉がそれぞれに醸し出すリズムやニュアンスが実にふくよか。さらには双眼鏡越しに覗く役者の所作や表情が、その口調だから訪れる思いをしっかり受け止めて、場を見事に作り上げていく。

会場に向かうまで抱いていた6時間の覚悟などまったくいらぬこと。
時を忘れ、舞台に取り込まれ、がっつりと楽しませていただきました。

ネタバレBOX

客電が落ちる前に、舞台上方に現れた役者の姿にぞくっときて、そこからもう見せ場のてんこ盛り、三幕それぞれに異なる味わいや見応えがあり、歌舞伎の台詞回しや所作だからこそ訪れ来たる登場人物の想いに深く惹きこまれる。
筋立てに役者の芝居が映え、役者に物語の奥行きが生まれる。それは見事なものでした。

その一幕ずつが、べたな言い方だけれど本当に面白い。
物語の筋立てを観る側がしかと受け取れるように、
描かれる場の設定や流れが作られていて、
一方でひとつずつの刹那に様々な表現の手練や色が込められていて
観る側を飽きさせない。

場の重なりに物語を歩ませる演出の上手さがあり
紡がれた因果にも深く捉えられる。
古典の踏襲はもちろん今風に描かれた部分にも冴えがあり
戯曲に仕組まれたものが語り口のメリハリで
導かれ観る側の腑に落ちる。

また、歌舞伎言葉の不自由さの箍が
寧ろ、言葉に留まらない想いの色を
演じ手から溢れさせていくことにも目を瞠りました。
お岩、お袖それぞれに本当によかった。
武家の女の矜持がそのまま言葉にのって、
その言葉遣いや抑揚だからこそ、研がれ、深く、真直ぐに訪れる
心の在り様があって。
双眼鏡大活躍で、言葉と視野いっぱいの刹那の表情の交わりや乖離に
現代口語演劇とは異なる肌触りでロールの心の襞があふれ出し
思わず息を呑む。

一方で町衆たちの気風は、今様の言葉にうまくのせられて、
舞台の空気を緩慢にせず、
物語の勢いを減じさせない力となって、
その重なりが観る側に、その時代の定めのようなものを
うまく浮かび上がらせてもいて。

ここ一番の決め台詞には、
仕込みでもいいから、
「・・・屋!」と大向こうからの声が欲しいほしくなったりも。

もう、6時間があっという間。観終わって場ごとにお岩、お袖、伊右衛門、与茂七、直助と、役者それぞれの良さを褒める気持ちを繰る楽しさがあって。
さらには脇を演じた役者の上手さもしかと蘇る。
古典落語の芝居噺の登場人物達の心持が、ちっとは理解できた気がした。

それは、大歌舞伎の舞台の深さとはまた異なるものなのかもしれませんが、木ノ下歌舞伎に組み上げられた、
今様の尖り方と古典の力を重ねあわせの物語に
幾重にも捉えられたことでした
森の別の場所

森の別の場所

時間堂

シアター風姿花伝(東京都)

2013/11/01 (金) ~ 2013/11/11 (月)公演終了

満足度★★★★

秀逸の先のかすかな違和感
3時間(休憩10分込)というので、
小旅行でもするような気分で座席に腰をおろしたのですが、
見始めて30分くらいから一気に面白くなって、
さらには、中盤や終盤のシーンには圧倒的な見応えがあり、
3時間があっという間でした。

ただ、見終わって、ロールたちの間の質感にほんの少しの異なりと違和感が感じられました。

ネタバレBOX

ほんと、前のめりになって観ました。
おもしろかった。

それなりに複雑な物語の構造も、開演前に読んだとてもわかりやすい人物相関図やツボを抑えた用語説明が役に立って混乱することなく入ってきました。当時の貨幣価値などが今に置き換えて説明されているのも物語を受け取る上でありがたかった。
そしてなによりも役者たちのロールのしっかりとした貫きで、物語が観る側にくっきりと伝わってきました。

その戯曲もよくできていて、登場人物達のありようの面白さに加えて、中盤のパーティのシーンやラストシーンで家族やそれを取り巻く人々の思惑が幾重にも立場を買え解けていく見事な仕掛けがあって、そこから浮かび上がるロールそれぞれの個性や思惑にもがっつりと捉えられてしまう。
特に終盤の父子の対決、南北戦争のころの顛末の解け方やその鍵を握る母のイノセンスさの貫きには観る側に瞬きを忘れさせるほどの力がありました。

ただ、シーンのひとつずつのありようや物語の顛末には圧倒的に捉えられたのですが、終わってみて、作品を貫くトーンには、ほんの少しだけばらつきや違和感のようなものを感じたりもして。
台詞を追いかけていると、この戯曲って、それぞれの登場人物達を導き出す構造とは別に、喜劇的なエンターティメント性がかなり強く織り込まれていて、今回の舞台に紡がれあらわされたものよりも、もっと表層的な滑稽さへの企てがところどころに顔を出すのですが、その演じ方がロール間で同じ質感に束ねきれていなくて、同じ戯曲にのって演じられていても微かにはみ出したり歪んだりして、うまくひとつのベクトルで膨らみ切れていない部分も感じるのです。

ググってみたら、この戯曲は1946年にブロードウェイのど真ん中の900近いキャパを持つ劇場で初演されていて、182ステージとそれなりのヒットもしている(5ヶ月のロングラン)とのこと。そういう場所での上演のための戯曲ですから、想像するに、たとえば休憩後、パーティの顛末の娼婦の啖呵にいたるまでの、長女のドレスアップした姿や、次男の愚かさ、さらには5000ドルの融資を頼みに来た女性の田舎くささや、娼婦の酩酊していく姿などには、それなりにあざとい笑いが企まれていたと思うのです。実際に台詞を聞いていても、その片鱗はあちこちに残っていて。
さすがに、終盤の聖書に書かれた秘密をはさんでのやり取りには当時の場内も今回同様にひとつずつの間や台詞に固唾を呑んでいたのでしょうけれど、一方で今回の上演では現れなかった笑いのメリハリもたくさん仕組まれていたのだと思う。

もちろん、昔の通りお芝居をやれということではまったくなくて、東京芸術劇場プレイハウスより若干大きいサイズの劇場で描かれることを想定されたロールたちが、キャパがその1割の劇場の、思いっきり具象であったろう美術がとてもシンプルな装置に置き換えられた中で編まれるとき、そのサイズや密度に合うように戯曲の物理的な設定の読替えがあるのも、戯曲が解かれる中で演出の調整が行われ、キャラクターの所作や質感にもオリジナルの戯曲から変化が生じるのも至極当然だと思うのです。
事実そうして、この舞台では、個々のロールにおいて、その描き出しが役者達の力量にも支えられとてもうまくいっていたように感じるし、それどころか、多分初演の劇場では生まれえなかったであろう、ロールたちの様々な思惑や想いの肌触りを、観客は受け取っていたのだろうとも感じる。

ただ、ロール感でその場に置かれるための戯曲の解釈のしかたが若干異なっている一方で、戯曲の骨組み自体は劇場のキャパに関わりなくしっかりと生きているので、それぞれの役者が編むものが秀逸であっても、その重なりに、細かい感触の不整合というかロール間の質感の異なりを感じてしまうのも事実。刹那ごとのクオリティがありながら、作品に訪れるロールたちの想いや思惑の重なりが物語のさらなる膨らみに至るとき、なにか注視するロールによって観る側の視座がほんの少しだけぶれるような印象がのこるのです。

端的な例としては、パーティの着飾る長女を見て「農産物品評会のブランド豚」と次男が揶揄するシーンや、5000ドルを借りるために女性が不慣れなパーティに着飾って登場するシーンなどが、まわりが醸し出す空気に埋もれてしまい今一つうまく上手く観る側の印象を染めるように機能していかないように感じたりも。多分そのあたりの折り合いがいちばんうまくついていたのは娼婦のロールなのですが、そこには、恋に盲目の次男と悪意をもって酒を注ぐ長男の演技との重なりが裏打ちされていて。、うまく言えないのですが、それらのセリフや仕掛けも含めて観客を惹きつけるためには舞台を束ねるさらなる共通した空気への認識が必要な気がする。そして、そのことが、終盤舞台に描かれる父母と3人の子供たちのありように更なる奥行きと切っ先を与えてくれる予感もするのです。

まあ、そうはいっても、観ていて全く飽きることのない舞台でありました。
このあと公演のある大阪の観客がうらやましく思えたりも。
なんでも、この作品には続編もあるそうで、そちらも是非に観たくなりました。
吉田光希(映画監督)×河西裕介(演出家)『ハアトフル』

吉田光希(映画監督)×河西裕介(演出家)『ハアトフル』

浮間ベースプロジェクト

浮間ベース(東京都)

2013/11/04 (月) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★

1本にも2本にも3本にも感じる公演
この新しい施設は、様々な可能性を秘めた空間だと感じた。

それぞれのフロアからやってくる作品の色に加えて、公演全体の構成も、施設全体を使ってなされていました

ネタバレBOX

場所的には、浮間舟渡駅からけっこう歩くのですが、
ホームページの地図がわかりやすくて
迷うことなくたどり着けました。
ただ、時間的には余裕をもって行った方がよいかも。

作品は1本の作品にも、2本の作品にも、3本の作品にも感じられた。
1Fでの作品が、そのまま2Fと3Fの作品に繫がっていく構造になっていて、
一つずつの作品の世界観に加えて、観終わってそれを俯瞰する感覚がありました。

・1F
入場すると1Fの客席に招きいれられます。

板張りの広い舞台、素舞台としていろんな表現ができそうな十分な広さを持ったそっけない空間。
長机と3客のパイプ椅子が置かれ、やがてチアリーダーのような衣装を着た3人の女性が現れる。

会話から、場所の設定が彼女たちが何者なのかがなかなか明かされず、一方で彼女たちの生活の断片が次第に場に晒されていきます。
駄弁でもあるのですが、その設定が知りたくて彼女たちの会話をずっと聞き続けてしまう。
気が付けば、次第にその場が彼女たちが都会に暮らす時間の断片となって観る側に積もっていて。
終盤に、彼女たちが、ショッピングセンター的なところの子供むけショーのお姉さんであることがわかって。1曲まるっと歌い踊らせることの負荷が、彼女たちの時間なる質感を与えるのもうまい。
また、2Fの物語のブリッジになるシーンの挿入もしたたかだなぁと、あとになって舌を巻きました。

・2F 河西裕介Ver.

作り手らしい物語への導入。冒頭はシンプルな男女の愛憎劇なのですが、すこし場が解けてくると、1Fで踊っていた女性の一人の日々の暮らしの別の一面がしなやかに浮かび上がってくる。

分かれる男、ハウスシェアをしてる女と男、さらには1Fの世界から繫がってその家に入り込んでくる男・・・
主役の女性には、その無表情に自らの想いの移ろいを観る側に流し込む刹那があってぞくっときたのですが、彼女の力はそこに留まらず役者たちが描き出すロールたちの個性を、自らの色に映えさせ浮かび上がらせ、その力に更に驚く。
他の役者達にもロールを一重の印象に留めない、幾層ものキャラクターの描き出しがあって。女性と別れるハンバーグ好きの男から垣間見えるさりげなく大人になりきれない部分も、ハウスシェアをしている女性の、一見他と距離を置く感じの奥にある温度や強さ、もう一人の同居人のつまらなさの奥には彼の視座での部屋のありようがしっかりと垣間見えるし、そこに入り込んでくる男の
チャラさの先に無意識に抱く悪意にも、しなやかな実存感が裏打ちされていて。

そうして、全くあざとさなく舞台上の手駒の在り様が晒されているから、結末が、滑稽さを持ちつつ、ちゃんと物語として収まる。
河西作劇ならではの人物描写の冴えに心奪われつつ、その顛末にはこれまでとはまた一味違った新たなセンスのふくよかさを感じたことでした。

・3F 吉田光希Ver.

1Fで踊ったの残りの二人の姿が上手と下手の二つの空間を互い使って描かれていきます。

一つずつの刹那は切っ先をもって良く作りこまれていました。下手の自室の女性がドラックにおぼれていく姿も、上手の女性が風俗の現場で客の理不尽な求めに応じていくなかで次第に溢れていくものにも、観る側を惹きつける力がある。

ただ、それらのパーツが最後に撚りあい風景に至るという作劇の意図は感じることができるのですが、初日ということもあってか、そのふくらみが個々の印象を超えて交わる感じがしない。
なんだろ、交互に流れる時間の片方が動き出すとき、もう片方の時間が場にミザンスとして留まってはいても密度が滅失してしまっていて、同じ時間の他のシーンを支え映えさせるように機能していかないのです。
証明もシーンを切り分けてはいるのですが、昼間の公演で外からの光にその効果が大きく減じられてしまってもいて・・・。夜に観ればまた異なる世界が広がることは想像できましたが、少なくとも私が観た回では実感として二人の女性を重ね合わせて俯瞰に至らしめる別の視座が明確に立ち上ってこない。
役者達がそれぞれの場で編む時間には観る側を引き込む力があって見入りましたが、そうして女性たちが切り出していくものが、彼女たちが陥る日常として昇華するための階段が一段足りず、ふたりを観る側に撚り合わせるダンスもどこか平板で突出したものに思えてしまいました。

*** ***

1観終わって、帰ろうとすると外は激しい雨でした。で、2Fのスペースでドリンクを注文して少し雨宿りをさせていただく。この場所、コミュニケーションスペースとしてもしっかり機能することを実感。

この施設、おもしろいよなぁ。一つずつのスペースに個性があり、作り手がいろんな印象を編むための可能性を感じる。
また、今回のように施設全体を使っての表現だからこそ伝わってくるものあり、それぞれのフロアでの異なる公演のハシゴなんていうのも魅力的。

公演自体からも、施設のお披露目としても、沢山のものをもらうことができました。
モスキート

モスキート

月刊「根本宗子」

BAR 夢(東京都)

2013/11/02 (土) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★

ミステリーの骨格に会話の面白さ
ソワレを観劇。

ミステリーの骨格とともに物語を追いつつ、その仕組みだけに舞台を留め置かないロールたちの会話の秀逸にも心惹かれました。

戯曲の工夫やしたたかさと演出のセンスがよく噛み合った、とてもテイスティな舞台でありました。

ネタバレBOX

中央のテーブルが主舞台なのですが、一見場外のように思えるカウンターの向こう側にも演技があって、会場全体で舞台が構成されていく。
謎を解くということだけではない、バー公演ならではの語り口にうまく乗せられた感じ・・・。

客席から始まる冒頭の入りからよく工夫されていて、
物語がとても自然に観る側に切り出されていく。
ミステリーですから、伏線の張り方が勝負みたいな部分もあるのですが、
そこだけをあまりあからさまに感じさせることなく、
でも明らかに何かが仕掛けられている感じを展開に漂わせつつ、
4人の女性たちの芝居が組みあがっていきます。

この作品、ミステリーとしての醍醐味がちゃんと織り込まれつつ、、
登場人物の個性の交わりを観ているだけでも結構面白いのですよ。
役者たちが背負うロールのそれぞれに
ベクトルの異なる色があって、その重なりと歩み出しを追いかけているだけでも、引き込まれてしまう。
中央のテーブルでの会話にがっつり嵌りつつ、
客席の真ん中での語りにしても役者のかもすトーンが生きているし、
これまでの公演では使われなかったカウンターの内側の役者が、
さりげなく、深く、パラレルに、空気を染めている感じにも捉えられて。

古畑任三郎よろしく解決編もあって。
醸し出されていた場の空気感が翻って納得感にかわる。
でも、そこからの更なる踏み出しがあって、
更なる大外枠で冒頭のシーンとラストを繋ぐ
その鮮やかさにも唸る。

従前の劇団のバー公演とはまた一味違った新機軸、重箱の隅をつつくようにすれば突っ込みどころが全くないわけではないのですが、それが気にならないくらいに良く舞台が作りこまれていて、ミステリーとしても、女性四人の愛憎劇としても楽しませていただきました。


糸井幸之介×『安寿と厨子王』

糸井幸之介×『安寿と厨子王』

Produce lab 89

音楽実験室 新世界(東京都)

2013/11/01 (金) ~ 2013/11/01 (金)公演終了

満足度★★★★

異なるテイストのしなやかな重ね合わせ
22時の回を観劇。

週末の、この時間の六本木での観劇は、常日頃劇場に足を運ぶのとはちょっと異なる感触があって刺激的。

そして、舞台にも、その気分を裏切らない、いくつもの突き抜けがあって。
一見バラけて舞台の様々な表現が重なり合って醸されるテイストを
ふくよかに楽しむことができました。

ネタバレBOX

開演前から晒されている舞台上には、ギターが1台おかれているだけ。

やがて、ゆるい感じで現われた出演者の前説とも挨拶ともつかない時間があって、その雰囲気に油断していると、突然に訪れる精度を持った表現にすっと心奪われてしまう。

アルゼンチンタンゴにのっての冒頭のダンスから醸し出される色香は、本場物の脚の絡みなどがなくても、ニュアンスをすっと空間に放つ力がある。
語られる物語も、ルーズな立ち位置を保ちながら、一方でそこから現われてくるシーンの役者としての二人の表現を映えさせる。単に物語が繫がれていくのではなく、要所が切り取られながら流れていく感じに、観る側はその場ごとの表現をよりインパクトをもって受け取る感覚に導かれて・・・。

物語の顛末にしても、後半の安寿の被虐的なエロスにしても、一見脈絡なく、むしろ行きがかりの思い付きの態で表現されていくのですが、そのことと、実際に表現されるものの深さや強さや精緻さの落差に観る側は捉えられてしまう。

歌にしても、差し込まれるダンスにしても、一見物語のテンションやコンテンツとは乖離しているのだけれど、でもそこにある世界の膨らみ方や身体が紡ぎ出す女性の愛らしさやポップさやキュートさに、熾烈な山椒大夫の責めが重なることで炙り出される、なんというか禁忌の匂いをもったエロスが浮かび上がって。

それは、FUKAI PRODUCEの作品などでも体験した、とんでもない切っ先をもった緩さと同じ構図で、表現の奥行きや精度を持っいた表現のルーズな交わりだからこそ醸し出されるような、観る側が思いもつかないニュアンスを導き出していく。

終演時には、とてもラフな物語の顛末と、緩くて広がりのある歌の印象と、ビビッドで身体の紡ぐものに留まらないダンスの感触と、そして人がその深淵に繫がれ息づく生々しくグロいエロスの温度が、バラバラでありながら一つの感触として残っていて。

作り手の描き出す、観る側が拒むことができないような鈍色の高揚が暫く滅失せずに残ったことでした。
nora(s)

nora(s)

shelf

アトリエ春風舎(東京都)

2013/10/25 (金) ~ 2013/10/31 (木)公演終了

満足度★★★★

原作の印象を崩すことなく
原作を読んだのははるか昔だし、別に予習をしていったわけでもないので、原作の細かいディテールとシーンを結びつけることはできませんでした。

それでも、だいたいの物語の骨格にシーンたちをぶら下げることはできて、それぞれが突飛に感じられることがなく、描かれるものもよく研がれ新鮮に感じられました。

ネタバレBOX

入場して、板付きの役者達を観ていると、それぞれの表すものが微妙に違う。
漫然とながめた舞台が、すでに絵面としてニュアンスを持ち、編み続けていることに気が付く。

下手の女性には、すこし動きがあって、舞台全体の静かさのなかで、その時間を生きる感じ。
中央で座り込んだ女性は時々何かをつぶやき、想いのコアを滲ませる。
さらには眠る女性が目覚めない意識の置かれ方に思え、舞台奥の夫の存在も全体のなかの座標として印象に残る。さらには、上手にはまだ動くことのない、解き放たれていく女性の印象があって。

開演すると、切り出された様々なシーンが描かれ、それは時に台詞により綴られ、歌により溢れだし、韓国語と日本語の重なりによって醸された表層から内面までの厚みによって形をなしていく。で、観る側にとっては、それらが舞台上の単独のパフォーマンスとしてやってくるのではなく、常に刹那やシーンごとに舞台全体のミザンスや空気とともに物語られるものとなり訪れるのです。また、舞台のどこかに強い印象があっても、その場に座標をあたえる空気の作られ方が舞台全体として途切れることなく行われていることにも感嘆。

観終わって、とても端正で、常にシーンの空気があって、でもそこには、ビビッドさ生々しさが失われることなく残っていて。
なによりも、主人公(達)の想いの遷移がちゃんと終盤の台詞に束ねられ、実存感とともに組みあがっていることに驚く。

韓国語と日本語の重ね合わせは、韓国語が全く理解できないこともあって、内心の無意識の想いと意識下の想いの織り上がりにも感じられて。
そして、その印象を編み上がりのさきにある2人の役者たちのバラケなさから呼吸の整合の技のようなものに思い当たり、改めて演者たちの技量を感じたことでした。
スマイール

スマイール

smokers

ザ・ポケット(東京都)

2013/10/30 (水) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★

伏線の張り方がうまい
役者たちがよくシーンを作りこんでいて
見飽きませんでした。

伏線も、あからさまではなく、いろいろにあって
その交わりや重なりがちゃんと物語の骨になっていく。

気楽に観ることができて、楽しめる舞台でした。

ネタバレBOX

良い意味で揮発性を持った舞台で、
あとに何かが残るかというと、そういうものでもなくて。
でも、その分面白さのあとくちがよい。

初日ということでしょうか、一か所だけ主人公の想いの遷移の裏付けが
すっと消えてしまう部分がありましたが、
そこを除けば、舞台にちょっとした無理があっても、いやその無理がスパイスにもなって、流れが緩慢にも単調にもなることなく、観る側を取り込んでくれる。

地縛霊たちが、死にかけた主人公を助けようとする終盤に、前半の掟がしっかり刺さっていくあたりには笑った。

役者たちもそれぞれにしたたかで、ロールの作りこみの力加減が絶妙で、現世を生きるロールたちのくっきりとしたあからさまさと、地縛霊たちからやってくる個性があって影が少し薄い感じが、ちゃんと組みあがっていて。

笑いの配分なども良く仕込まれ、顛末をちゃんと追わされて。楽しませていただきました
。、
人数の足りない三角関係の結末

人数の足りない三角関係の結末

tea for two

「劇」小劇場(東京都)

2013/10/17 (木) ~ 2013/10/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

作劇の企てに見事にはまる
3人芝居の態で紡がれる3編の物語のそれぞれの表情の変化に見事に翻弄されつつ、さらに全体を貫いて浮かび上がってくる世界に驚嘆。

なんと企みに満ちしなやかな作劇なのだろうと舌を巻きました。

ネタバレBOX

中央に高い舞台が設えられて、その周りに高さの異なる台が置かれて。
そこに役者たちが物語を紡いでいきます。

最初の物語は
かつて一世を風靡した料理対決番組のオープニングではじまる。そして、時間を巻き戻してそこに至るまでの楽屋の風景がつづられていきます。
番組の表層が観る側の記憶から引きだされ、次第にその内幕が解けていくのですが、そこにコミカルさとちょっと恣意的な薄っぺらさがあって。
やがて、料理人が看板にしていたの親からの血筋の嘘や、キャバクラ好きの素顔、さらに裏側の番組の制作者側のご都合主義が切り出され、そこに観る側から取り込まれ、番組の新たな料理人に仕立てられた、市井の食堂の母であり一人の女性のとまどいがしなやかに重ねられる。
また、舞台がそこからさらに踵を返し、そのいい加減さの可笑しさを踏み台にして、テレビに出演するプロの料理人としての矜持をしなやかに切り出すことに瞠目。
冒頭のシーンのリフレインにはもはや全く異なる見え方での世界の広がりと冒頭との感覚の落差によるウィットが作りだされていて、うまいなぁとおもう。

二つ目の物語は、ぼろぼろの服を着た女ふたりと男一人。
唐突にも思えるシチュエーションが少しずつ解けていく感じを、
気がつけば前のめりになって追わされていてる。
解けてくる中に、女性達の先輩後輩の戦いからひとりの男の存在が浮かび、さらに、それぞれの想いの顛末がひとつに束ねられていく感覚が、じわじわと面白い。
冒頭の会話がゲームの一部に色を変えたり、
互いに五十歩百歩だったりの女性たちの想いの行く末が、上質なコメディの下世話さと変化shにt理も。
しかも、そこに見えないさらなる男の姿が垣間見えて、物語のフレームがさらに覆ったりも。
物語の全貌が明らかになっての観る側の解かれ感の先には、さらに指輪の顛末を二人の女性に告げる男の嘘があって観る側の耳をさらに物語へと傍立たせさせる。ちょっとほろ苦くて、でも強かで粋な物語の終わりかただなぁとも思ったり・・。

そして、一見前最後の二話とは脈絡なくはじあ物語は、結婚式の花嫁の控え室の風景。
父親は、そこでもなかなかに虐げられていて、
タイトな花嫁衣裳をちょっと緩める傍にいただけで変態呼ばわり。
ちょっと苛立つ花嫁と、妙に醒めて冷静な母親。
なにかなにげに辛口な家庭劇をみているよう・・・。
でも、その展開からいろんな違和感が生まれ、
観る側をその歪みに引き入れてしまうのです。
一番はじめに感じた違和感は、花嫁の年齢と両親の夫婦生活の期間の不整合だったのですが、さらに、両親が20年前から離婚を決めていたことなども、どうにも勘定が合わず・・・。
で、そこに、従前の二つの物語の影がかさなって、両親が其々の物語に姿を現さなかった二人であること、さらにはこの作品全体の、時間や場所が、2年前のあの出来事ににフォーカスを結び浮かび上がってくるのです。

結婚式のあいさつの態で、花嫁によって語られる、3人が共に暮らすために作られた家庭の10のルール、立ち切れた時間と失ったものたちの中で、立ち切ることのできなかった柵のとともに、仮初の家族がそのルールを元に歩み、生きてきたことが、今、東北の被災地にある現実を切り出し、描きだし、否定することも美化することもなく、ウィットと、そこに隠された息を呑むほどの作意のキレとともに描き出されていく。

よしんばその糸が演劇の嘘によって紡がれていたとしても、舞台上にある花嫁の言葉から導かれる風景には、ミッシングしたものを繕いつつ、歩み続けることの舞台だからこそ表現しうるリアリティがあって。
幾重にも、取り込まれ、覆され、その仕掛けに感嘆するその先に、作品に込められたであろうものにしっかりと捉えられて。

作り手の企みに満ちた「演劇」の力を改めて実感したことでした。

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