りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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恋に生きる人

恋に生きる人

月刊「根本宗子」

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2012/05/09 (水) ~ 2012/05/16 (水)公演終了

満足度★★★★★

圧倒的に面白いその上に
中盤に傑出したシーンがあって。
でも、それが作品のメインディッシュで終わるのではなく、
そこからさらに浮かび上がってくるものがあって。

観終わって暫くボーっとするくらい、がっつりと楽しめました。

傑出した舞台だと思います。

ネタバレBOX

キャラクターの作り方がとてもしっかりしていて、
冒頭のバイトリーダーと新人の会話の部分から、
それぞれの性格がくっきりと浮かび上がる。
そして、二人の関係の進展からも、
とてもナチュラルにそれぞれの想いの肌触りが伝わってきて。

そこからさらに現れる登場人物たちにしても、
個性は強いのですが、
奇異な存在とは感じられない不思議な実存感があって。
なんだろ、気持ちの描きこみがとても細かくなされていて、
よしんば現実感からの踏み出しがあったりしても
観る側があざとさを感じることなく、
どこかに居ても可笑しくないラインの内側で
キャラクターたちの雰囲気を受け止めてしまう。

きっと、作り手には、
世の「人」物のありようを
常ならぬ観察力と感性ととも眺めて蓄えて
描きだす力があるのだと思うのですよ。
だから、彼女と元カノと、
その彼女の友人であり元カノから彼を寝とった相手が
一つの空間に置かれても、
キャラクター達の身勝手な線引きによる
愛憎や関係性の生まれ方や変化が
絵空事やカオスにならず
一人ずつの個性に導かれた必然として推移し
科学反応が順序を踏んで進むがごとく
無理なく流れ膨らみ、
観る側に踏み出してくるのです。
筋は通っていても予想のつかない刹那のひとつずつが、
もう、とてつもなく可笑しくて。

しかも、その笑いで
物語が熟し切ってしまうわけではない。
そこから元カノがイマカノのために
さらにダメ男の特訓を始めるという展開も
滑稽で突飛でありながら、
そこには描きだされた女性の
想いの深層にあるであろう感覚が
実存感を伴って織りあげられていて。

ラストシーンの男とモトカノからやってくる
男と女の「相性」の質感がものすごくよくて、
しかも、そこには、突飛に表現されるのではなく
物語を貫いて描かれていたことも思いあたる
また、女友達がよりを戻すあたりにも
女性の感覚として偽りのないものを感じるのです。

作り手の「人」の勘所を描く力に舌を巻きつつ、
さらに、
彼女が人を置いて動かす手腕というか彼女流のやりかたを
手のうちに納めたようにも思えて。

今回の作品から醸し出されたテイストに
愛で浸りつつ
次の公演が本当に待ち遠しくなりました

 ま ○ る

ま ○ る

miel(ミエル)

ザ☆キッチンNAKANO(東京都)

2012/05/09 (水) ~ 2012/05/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

舞台のトーンも物語も◎
冒頭から、舞台上の表現の切っ先と
ニュアンスのふくよかさに惹かれ圧倒されて。

6人の作家たちが紡いだ物語の一つずつに
観る側を釘づけにする創意の豊かさがあり
それを織り上げる役者たちの動きにも
常にしなやかなテンションが裏打ちされていて・・・。

独立したニュアンスをもちつつ
それらをシームレスに繋いでいく
役者たちの身体の醸し出すニュアンスも実に秀逸。

観終わって、とても豊かに満たされておりました。

ネタバレBOX

冒頭、明かりがついた刹那のシーンから
一気に取り込まれる。
ぞくっとくる。

そこから6つの物語が
言葉とは異なる饒舌さをもった
身体による表現を挟んで
ほぼシームレスに綴られていきます。
物語を綴ったのは、
まさに今、脂が乗り切った6人の作家たち。
それぞれのテイストが、
作り手の創意によって、
観る側にアミューズを与えつつ
舞台を満たしていく。

それは、ちょっとビターな雰囲気のなかに
素敵な粘度をもったカップルのビビッドな生活感であったり
観る側が目を見開いてしまうようなリアリティをもった
ホラーの洗練であったり、
意外な視座をもった都会の風景であったり・・・。
さらには音による言葉で組み上がる世界に
動作による言葉のニュアンスが重ねられ、
世界に新たな広がりと解像力が生ま
ちょっと下世話な雰囲気ですら
どこかこじゃれた色に塗り変えられ
世代をつないで伝えられていくものの感覚が
女性たちの生きる今と時代の俯瞰それぞれの質感へと翻って。

作り手の組み上げる世界には、
独自の境地が存在していて
様々な色もタイプも
その中の質感やクオリティの洗練として醸し出されていく。
そこには、
観る側が普段、なにかを感じるプロセスをいくつかすっ飛ばして
直接コアを染め、揺すぶるような力があって。
それは、描き方の卓越したアイデアと
刹那ごとの徹底的な作りこみの賜物なのでしょうけれど、
観る側に裏打ちされているであろう汗と努力のウェットなテイストを
微塵も感じさせることなく
ショーケースの内側にあるものを眺めるような、
乾いた、しかも純度を持った質感で観る側を捉えると
作品の世界のピュアな肌触りを、
観る側に降りてくる世界に縫い込んでいく。

よしんば、初日で、
演じるものに多少のノイズはあったとしても、
秀逸な演者たちによって作り手の世界は
しなやかに編み上げられていて。

終演後も、そのどこか透き通った世界の見え方から
暫く抜け出すことができませんでした。
天使たち

天使たち

リュカ. (Lucas [lyka])

王子小劇場(東京都)

2012/05/02 (水) ~ 2012/05/06 (日)公演終了

満足度★★★★

構成の豊かさ、シーンの密度
芝居の構成がとてもしたたかで、
外枠からすっと内側の世界に取り込まれて。

その世界の違和感のなさが、
物語の顛末をダイレクトに観る側に
流し込んでいく・・・。

人と天使、それぞれの物語に加えて、
「天使」の存在自体も
心に残る作品でした。

ネタバレBOX

開演の少し前から
舞台には役者現れ、外側の世界が形作られて。

やがて、その場所にドアベルが響き
来訪者が現れて舞台が始まります。
どうやら自宅(か仕事場)に訪れた編集者と小説家の
風景らしい。
ちょっとコミカルでわちゃわちゃした感じに
観る側も自然に取り込まれて・・・。
で、そこでやり取りされる原稿に描かれた、
とても自然にコアの物語へと導かれる。

その場所に新しい住人がやってくるという冒頭、
観る側に、しなやかに物語の前提が開示されていきます。
オーナーである「おばさん」が醸す雰囲気の
登場人物と重なりが
小説を読む態をその場の実存感に塗り替えて。
編集者が小説を読む態が外側に置かれているから、
天使の存在、天使たちの世界も
ごく当たり前にその場にあることを許し
観る側を惹きつけていく。

小説家、カメラマン、バイクレーサー、
それぞれのキャラクターが次第にくっきりとした
色を発し始める・。
人間を演じる役者たちのお芝居からは、
キャラクターの想いのナチュラルな質感が
精度と密度を持ったお芝居から
よどむことなく伝わってきます。
そして、その姿に呼応するように、
天使たちの様々な想いや揺らぎが
幾重にも場に満ちていく。
やがて、 天使たちそれぞれの姿が、
天使自体の存在への俯瞰となって、
観る側を彼らの世界に浸して・・。
想いがあふれやがて人へと堕ちた天使、
誰に宿ろうがずっと迷い続けている天使、
夢をかなえさせようと一歩を踏み出してしまう天使、
さらには、
人の夢の終息に、やがて消えて行く天使・・・。
役者達の演技が強くしなやかなテンションを舞台に重ねるなか、
人の歩みの奥にある、
ステレオタイプではない天使たちそれぞれの姿に、
そして才能と夢をより合わせていく中での天使の存在感に
次第に心を奪われていくのです。

物語の展開にも工夫があって。
シーンを支える見栄えの美しさ、
小説のコンテンツであることが時に物語を隠し、
あるいは外側の世界からの語りの態で
物語を運ぶ。

役者達もそれぞれのシーンをとても大切に描き出していて。
良質な小説に何度も読み返すシーンがあるがごとく、
印象に強く残るシーンがいくつもあって。

ラストシーンに描かれた、
物語の外側の人間たちの不器用さに心を解かれながら、
単に物語の顛末を追うだけではない
さまざまな印象たちに心満ちたことでした。
東京バンビ『他人の確率』御来場ありがとうございました!次回は10月!お待ちしております!

東京バンビ『他人の確率』御来場ありがとうございました!次回は10月!お待ちしております!

元東京バンビ

OFF OFFシアター(東京都)

2012/05/04 (金) ~ 2012/05/15 (火)公演終了

満足度★★★★

しっかりと想いを描きだす
物語を観る側にすっと受け取らせる力があって、
なおかつ、描かれる想いが
お芝居のテイストをも変えるほどに
しっかりと作りこまれていて・・・。

単なる喜劇ではない、
ふくらみを持った舞台だったように思います。

ネタバレBOX

冒頭からしばらくは、
芝居が
深くかみ合わないような部分も感じたのですが、
舞台の状況や関係性のカードが晒されてから、
ぐいっと面白くなりました

キャラクターの描き方も全編緻密というわけではないのですが、
ここ一番での想いのようなものは
しっかりと作りこまれていて。
しかも平板にワンシーンでそれらが現わされるのではなく、
時間や事象の流れにしたがって、
絶妙に浮かび上がってくる。
シーンたちの重なりに、ただ流されるのではない、
したたかな積み上げがあるのです。
設定のバランス感覚も良くて、
それぞれが背負うシチュエーションの特異さも
浮いたり突出したりすることなく、
物語のメリハリとなっていく。

たとえば父親を同性愛者だと知った男性が終盤に至る
中途半端な想いというか葛藤には
理と実存感が裏打ちされていて
その表現の正直さと確かさに捉えられる。
他のキャラクターたちにしても
ディテールにおぼれるのではなく、
観る側にとって物語をうけとるのに必要なベクトルが
しっかりと一本通されていて
揺らぐ心や、不安、怒り、
さらには生きることのスタンスなど、
シーンごとにここ一番の部分が
とても実直に作りこまれていて・・・。、
それが物語の骨格に組みあがっていく。

物語の現れ方や広がりが
しっかりとデザインされているから
笑いも構造を背負ったりしっかりと尺をとって組み上げた
良質なものをメインに、
表層的な低い組み上げでの
軽量で切っ先を持った笑いを差し込むといった
いくつものテイストのバリエーションを組み合わせることができる。
物語の構造に根差したり、
仕込みをかけた笑いが多いので、
観る側も、同じタイプの一本やりや
窮屈なタイミングでかもし出された笑いのように、
飽きたり疲れたりしないし
いろんなバリエーションでの驚きやおもしろさを
受け取ることができるのです。

しかも、この舞台には、もっと育つ要素があるように思う。
よしんば拝見した回の客席の反応が薄かったところでも
ちょっとタイミングを変えるだけで
大きな笑いにつながる可能性を感じたり
また、公演を重ねるうちに、
作品の奥行きの広がりが新しい笑いを導き、
それらが次に花開く笑いのさらなるトリガーとなって
広がっていくような匂いもあって。
いろんな部分の舞台としてのふくらみの萌芽が
より研がれ、刹那の精度があがるであろう公演の後半には
もうひと化けしそうな予感がありました。

この作品、どのように成長していくのか、
多分見届けられないのが残念な限り・・・。

*** ***

余談ですが、終演まぢかのころ、
外の雷鳴やはげしく屋根をうつ雨音がきこえてびっくり。
でも、これが、奇跡のように
舞台のラストシーンにつながって・・・。
お芝居の神様も粋なことをなさると
ちょっと感心したことでした。




地下鉄

地下鉄

Q

atelier SENTIO(東京都)

2012/05/03 (木) ~ 2012/05/06 (日)公演終了

満足度★★★★

刹那から個を描く力量
表現が均一でなく、いろんな膨らみ方をして、自由でとても豊か。
でも、作品として、投げっぱにならず、
したたかに束ねあげられているので、
印象が拡散せずに、
描かれるものの肌触りもしっかりのこりました。

ネタバレBOX

場内に入ると、既に役者は舞台にあり
緩やかなテンションが形成されていて。
最初はぼっと眺めていたその絵面が、
ミラーボールや装飾のたくさんの電球が時々触れ合う音で
次第に観る側の感度を研ぎ澄ませていく。

観る側にとって起点になる部分は
電車の中での男女の視線の交錯なのですが、
そこから膨らんでいく世界が、
想定から半歩はみ出した展開で
観る側に舞台上のキャラクタに対する視野を組み上げていく。

動き、リズム、印象の重なり・・・、
さらには名前の響きに音で裏地をつけたり、
ロールからロールを演じる側への踏み出しを紡いでみたり・・。

その果実として観る側に降りてくる世界には
奥行きがしたたかに作られた部分と
恣意的にそのままの質感で転がされた部分が同居した、
不思議なテイストが作りこまれていて・・・。
それが、いたずらに歪なものとしてではなく、
観る側の感覚をすっと立ち上がらせるような食感を醸しながら
入り込んでくる。
電車の中での刹那から、
積み上がっていくものが
素の感覚と
したたかにデフォルメされ奥行きを醸しながら描きこまれた部分の
素敵に中途半端な(褒め言葉)混在として
さらにビビットな質感へと育まれていくのです。

役者たちが作りだす、
舞台上のテンションや
揺らぎや熱にもしっかりと掴まれて。

作品としても面白かったし、
多くの表現たちからは異なる洗練が生まれる予感もあって
作り手のさらなる豊かな可能性を感じる作品でもありました。








FIRELIGHT

FIRELIGHT

たすいち

吉祥寺シアター(東京都)

2012/04/27 (金) ~ 2012/04/30 (月)公演終了

満足度★★★★

空間を味方につけて
広い空間をがっつり味方につけて、
作品のコアとなるアイデアを
したたかに観る側に流し込んで・・・。

観る側を醒めさせることなく顛末を追わせる
作り手の力量を実感した作品でした。

また、役者たちの空間を纏う
技量にも目を奪われました

ネタバレBOX

これまで彼らが公演してきた劇場に比べて
吉祥寺シアターは遥かに広いはずなのですが、
手慣れた感じで空間が構築されていて。
ありがちな持てあましたり萎縮したりといった感じはみじんもなく
むしろ、今まで束縛されていたものがら解放された感じがして。

物語のアイデアの原点として
そのマッチ(の態のもの)が描かれ、
原点がしっかりと置かれることで
決して平凡でもなく、
単調な語り口でもなく、
むしろ様々な表現が織り込まれている舞台上での、
物語が拡散せずに
しっかりと観る側に収まっていく。

物語の構図が見えてくるに従って、
役者たちの表現の確かさから
さらに垣間見える奥行きが生まれて。
ロールを持った役者たちには
それぞれの役柄に色を醸しと物語に差し入れる
力量があって、
物語がぶれなくふくらみをもって展開していく。

そして、アンサンブルというロールを与えられた
役者たちの表現には、
刹那のシーンから物語の骨格にまでニュアンスを肉付けしていく
瞬発力と確かさがあって・・・。
舞台美術や照明も、
彼らの表現の切れをしっかりと舞台に刻み込んでいく。

サスペンス的な要素も
人の記憶に対する想いも、
実は大っぴらに描きこまれているのですが、
それを観る側に単純に語るのではなく
エピソードの重なりとともに
フォーカスが生まれていくようなテイストのなかで
観る側に組み立てていく。

作り手がしたたかに観る側を掌に載せているというか(褒め言葉)
物語の語り方や見せ方を知っているのだなぁと思う。

終わってみれば、物語の熱を受け取りつつ、
役者たちそれぞれの魅力がしっかりと印象に残って。

また、12ヶ月連続でやれとは申しませんが、
定期的に作り手の作品を観たくなりました。
往復書簡3~十年後の卒業文集~

往復書簡3~十年後の卒業文集~

BASEプロデュース

BAR BASE(東京都)

2012/05/01 (火) ~ 2012/05/05 (土)公演終了

満足度★★★★

観る側を引き込む手腕
物語自体にも
描き方の圧倒的なしたたかさはあるのですが、
加えてそ登場人物たちの記憶の質感が
しなやかに編みこまれていて、
物語のありようを追いつつ
もう一歩踏み込んだキャラクターたちの
想いにも心を奪われて・・・。

そして、観る側が物語の全貌にたどり着いたそのあとの
ラストシーンに愕然、
悔しいくらいにがっつりとやられました。

ネタバレBOX

手紙のやり取りという枠組のなかで
まずはシチュエーションが観る側に置かれていく。
あとで思えば恣意的にでしょうが
冒頭の1~2シーンのかみ合わせのぎこちなさが、
少しずつベースのトーンが形作られるなかで、
薄れ、やがてはやりとりのリズムがしなやかに作りこまれて・・・。

バックの音(ピアニカ?や縦笛)に
シーンが染められ、
次第に物語の核心が晒されていく。
シーンの刹那にキャラクターたちの内にあるものが
すっと差し込まれるたびに
観る側に新たな視野が生まれる・・・。

役者それぞれが
手紙をつづる態のなかで
綴る側は言葉のうちにあるニュアンスをすっと紡ぎだし、
受け取る側は
そこから別の空気を編みあげていきます。
手紙を同じ色で受け渡しをするのではなく、
質感の違いをかもし出していくことで、
物語に切っ先が差し込まれていく・・・。
さらには、
演じるキャラクターが変わるごとに
役者から描き出される色も鮮やかに変化して、
同じリーディング劇の態に
ひとつ、またひとつと
新たな視座がつくりこまれ、重ねられて。
観る側は描かれた時間の真実を求めて
その世界へと誘い込まれていくのです。

虚構の劇団の二人の女優には
ひとつの色をかもし出すしたたかな集中力と
逆にその色をにじませることなく染め替える
表現の切れと豊かさがあって・・・。
そのことで、観る側も
物語の揺らぎをふくらみとして
キャラクターたちの想いを
身構えることなく自然体でうけとめることができる。

やがて言葉概ね語られ
観る側に全貌が示されたとき、
同じ時間をすごした女性たちの
異なる感覚が鮮やかに観る側に残り、
彼女たちがその後過ごした時間が
すっと観る側に満ちて・・・。
ある種の感慨にやわらかく心を浸されて・・・、暗転。

だから、ラストシーンには愕然としたし、
ちょっと悔しくすらあった。
でも、一呼吸おいて、
物語の更なる広がりを感じ、
ここまでに、物語に観る側を引き込んだ
二人の役者のビビッドで秀逸な演技に
改めて瞠目したことでした
オーシャンズ・カジノ

オーシャンズ・カジノ

北京蝶々

王子小劇場(東京都)

2012/04/18 (水) ~ 2012/04/30 (月)公演終了

満足度★★★★

場を作る力、全体を組み上げる手腕
初日と帯金ゆかり一人芝居おまけつきの日を拝見。
作品の印象が若干違ったりもしたのですが、
エンターティメント性があり
目を奪われるシーンも多く、
両日ともたっぷりと楽しませて頂きました。

ネタバレBOX

導入部から、前半の展開、
さらには中盤以降の物語の圧倒的な膨らみと
きっちり作りこまれていて。

いきなり冒頭の役者の躍動感にぐいっと引き込まれる。
観る側を休ませることなく
物語が重ねられていきます。
ギャンブルにのめりこんでいく感覚の表現がまず秀逸、
チャイナドレスの女性たちに
単なるセクシーさや愛らしさだけではない、
キャラクターとしての存在感があって、
それが観る側をも巻き込むような
ギャンブルの高揚を一人歩きさせず
博打に踊るものと踊らされるものの
表裏をしなやかにあぶりだしていく。
ダンスや動きの秀逸から訪れる
理性の舫がが外されていく感触、
スタッフの嫉妬心や想いも
役者たちの演技にしなやかに織り込まれ
観る側に場の奥行きを垣間見せていく。

伏線も、物語のメリハリの中にしなやかに置かれて・・・。
シーンの重なりの中に骨格が
観る側に組み上げられていきます。
後半の勝負の行方には、
刹那ごとにぞくっとくるようなテンションと緊張感があって
賭け金のエスカレートしていく態に
熱が生まれあざとさが消えうせて・・・。
観る側までがその熱に引き込まれる中
戯曲に描かれた
地方の現実や権力のダークな部分が
鮮やかに引き出されていく。

最後の大勝負を演じる二人に
息を呑む。
このシーン、凄い・・。

作家が書き上げた骨組と演出家のスタイルに
こんなによい相性があるとは思いもせず・・・。
極上のエンターティメントとして
がっつりと楽しませていただきました。

ちなみに、初日と27日の舞台では
かなり質感の変化があって・・・。
初日はシーンごとの色がはっきりとしていて
戯曲の社会性のようなものがシーンのなかに強く感じられる部分も・・。
対して27日に観た公演では、シーンの間に別の血管がかよったように
シーンが他のシーンと繋がり展開していく実感があり
時代の感覚がさらに豊かな色としてやってきて。

初日からさらに舞台が歩みを進めていることにも驚愕。

もう、大満足の舞台でありました。

*** *** 

27日おまけの帯金ゆかり一人芝居、
こちらも絶品、

設定がきっちり組まれているし、
それを広げる動きの間が抜群に良くて・・・。
所作もしっかり作りこまれていて・・・

演じ手の表現力にがっつり持っていかれ
こちらも大満足でありました。


へちま -糸瓜-【全公演終了!ご来場ありがとうございました!!】

へちま -糸瓜-【全公演終了!ご来場ありがとうございました!!】

文月堂

OFF OFFシアター(東京都)

2012/04/24 (火) ~ 2012/04/30 (月)公演終了

満足度★★★★

丸まりきらないキャラクターのリアリティ
物語が広がっていく中で
表層の尖った感じに
キャラクターたちの素の想いが重なって。
ウェルメイドな家庭劇ではないけれど、
観る側が委ねられる奥行きが生まれていました。

ネタバレBOX

当日パンフレットに描かれた相関図をみて
かなり複雑な人間関係を想像したのですが、
前半の舞台に描かれる世界は
それを当たり前のことのように包み込んで
とてもわかりやすくて・・・。
むしろその背景は
キャラクターたちそれぞれの個性が
浮かび上がってくる中盤以降に
しなやかに効いてきます。
一人ずつの個性を照らしだす
バックライトのように
ひとりずつが抱えるコアに
エッジを創り出していく。
表層が観る側に馴染むに従って
設定が導く立体感のようなものが現れてきて
舞台上で描かれない時間まで
彼女たちが歩み、そして歩んでいくであろう時間の
質感として観る側をとりこんでいく。

三人姉妹にはくっきりとした
トーンの貫きがあって
そこに重なる周辺の人物たちが
エピソードを編み込み、
ひとりずつの色を浮かび上がらせていきます。
その組み上げがとてもしたたか。

キャラクター達の尖った部分が
役者たちの緻密な演技とともに
高い解像度で作りこまれているのですが
物語が進んでいく中での
その丸まり切らなさのようなものが
実に秀逸・・・。
展開の中でそれぞれの個性が
ドラスティックに変わることはおろか
ほとんど崩れることなく、
でもその形状や色がほんの少しだけ
変わったように感じられる部分があって。
そこには
時間に染められたものから伝わってくる
とてもデリケートでリアルな
生きることへの感触があるのです。

いわゆるウェルメイドのドラマとは違って
煮込まれ切らず
ごつごつした食感が最後まで残されていて。
その実存感あるから、
終演の時間からこぼれた
ちょっと解けたようなウィットに
流れる時間の瑞々しさて愛おしさが
とても自然に降りてきて、余韻として残ったことでした。
夢!サイケデリック!!

夢!サイケデリック!!

範宙遊泳

アトリエ春風舎(東京都)

2012/04/25 (水) ~ 2012/04/29 (日)公演終了

満足度★★★★

質感の描写力
一言で説明すれば、
確かにタイトルどおりの内容なのですが・・・。

見ているうちに
作り手の、質感の描写力にとりこまれ、
気がつけば自分が観ているがごとく
その夢に閉じ込められておりました。

終わってみると
長いような、短いような時間・・・、
しっかりと取り込まれておりました。

ネタバレBOX

夢の話であり
描かれるものに
ぞくっとくるほどにリアルな夢の質感があって
たぶん、観る側がいろんな取り込まれ方をする
作品なのだと思う。

きわめて私の例でいうと、
何もないところから
言葉としぐさで世界が素描されていくような冒頭、
それが広がり学校の授業での
夢の話に行くあたりまでは
物語を外側から見ていた。
で、授業の風景を夢との対比の中でそのまま眺める。
その授業の雲行きがかわり
夢がさらに外側に覆いかぶさってきても、
まだ、夢の構造のなかで
舞台を追いかけていたように思う。
ピンポンだまから広がるものや電気製品の変態に
目を奪われても
それはまだ、舞台上の出来事として眺めていた。
ルーズなエピソードの掛かり方やその崩れ方も
理性のフィルターを通じて受け取って
醒めた感じで見ていたような気がする。

それが、目覚めた夢のシーンで
決定的に視座を変えられて・・・。
一旦、夢の感覚から離れたものが
さらに深い夢の世界だと気付いた時、
もはや、それは夢の外側ではなくなっておりました。
作り手の圧倒的な質感の描写力に
観る側としての視座が
したたかに塗り替えられてしまっていた。

夢の中にいる意識、
シーンのつながりの歪みがそのままナチュラルに入り込んでくる感覚、
抜け出したい欲望と
やりようのないままにそのままに委ねてしまう感覚の
端境感・・・。
時にはコミカルに、あるいは極めてリアルなビジョンとともに
描かれるシーンの解像度に目を奪われる。
マクロな広がりと刹那の感触が
夢の世界だと当たり前のように同居する。、
事象や世界の俯瞰と
恋人との刹那の時間の肌触りが混在した
醒めない夢をずっと巡り続けているような感覚・・。

役者たちも上手いのですよ。
感覚の主体が戻る先を背負い続けたり
しっかりとした切れで存在の軽さを描き上げたり
ベースのトーンを塗りつぶしたり
献身的な演技の継続でシーンを絶妙に結びつけたり
あるいは貫いていったり・・・。
それらの重なりから
夢の外面と内面を立体的に編み上げられていて・・
嵌る・・・。

本当に秀逸な絵の前に立ち
時間をなくしてその世界に捉われてしまったような
そんな感じのままでの終演。

初日ということもあり、
本当に微小なバリのようなものはあったのですが
公演を重ねれば
それも含めて
なにか味わいに変わっていくような予感があって・・・。

この作品、なんとかして、再見したいと思ったことでした。
嵐が丘

嵐が丘

ナカゴー

あさくさ劇亭(東京都)

2012/04/20 (金) ~ 2012/04/22 (日)公演終了

満足度★★★★

秀逸なジャズセッションの趣き
物語に貫かれたものも、
しなやかに回収されていましたが、
それよりも、なによりも、
中盤のシーンが圧倒的でした。

これまでの作品とは、
また一味違った進化を感じました。

ネタバレBOX

冒頭のシーンなども
じわっと可笑しいのですが、
そのへたうま感のなかに、
伏線などもしらっと張られていて、
観客に物語の構成がゆるっと焼き付けられて。

で、導かれた誕生パーティのシーンがともかくも圧巻、
冒頭からのシーンの繋がりで
登場人物がしたたかに場に集められてからの
展開がものすごいことになっていく。

娘とその一学年上の来訪者の誕生日会という設定が
大人たちの宴会の態に変わっていく。
その酩酊していく表現の重なりが出色の出来。
父母や来訪者の兄、
さらには娘の担任の先生の酔っ払っていく雰囲気が
ジャズのソロを繋いでいくような感じに作られていて、
場が次第に揺らぎと熱を持ち始め
腰に根が生えた宴席の趣に変わっていく。
適度に互いが絡み合う中、
そのソリストのひとりずつに
すっと目を惹くような踏み出しから
ここ一番の突き抜けに至る場が供されて
本音トークのグルーブ感が醸し出されていく。
上手側でひたすらトランプを続ける同級生が
場のベーストーンとなり、
大人たちの話の相手を強いられる女学生の
場をけなげに守るリズムキープも
場の土台をささえ、全体をさらに膨らませて・・・。

実は父親の説教にしても、
同級生の兄の年相応の突っ張り方にしても
母親の本音トークにしても
先生の本心の露出にしても
ラフさのまったくない実に精緻なお芝居なわけで、
にも関わらず、場のメートルがどんどん上がっていくような
このセッションの作劇はかなり凄い。
しかも、恐ろしいことに
ジャズの高揚同様に、
十分に楽しんでお腹いっぱいなはずなのに、
もっと行けるんじゃないか的な
期待までが芽生え始めたりもして・・。

ここまでに場が熱を持つと
終盤のけれんもまったくへたれない。
それどころか、ここまでやってくれないと
場の収まりがつかないような感じすらなっていて。
鬼役の役者の献身的な演技も報われた感じ。

観終わって、作り手のセンスにぞくっとなる。
また、劇団や作り手の更なる進化を感じたりもして。

本当に面白かったです。
深海のカンパネルラ

深海のカンパネルラ

空想組曲

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/04/15 (日) ~ 2012/04/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

前半の作りこみががっつり効いて・・
前半部分が
粘り強く豊かに描きこまれていて・・・。
戯曲の構造に加えて
その世界を飽きさせずに
観る側に刻み込んでいく役者たちの秀逸なお芝居が
後半解けていく世界にしなやかに結実して・・・。

その世界が束ねられて
向こう側に
生まれた俯瞰に強く浸潤されました

ネタバレBOX

比較的長めの作品なのですが、
その前半が
主人公が組み上げる内心での物語の
執拗なスクラップ&ビルドの表現に
費やされていきます。
少しずつ外側の枠組みを、組み込み、時には刺し入れながら
その心に浮かぶものを具象していく。

「銀河鉄道の夜」を土台にして
時には恣意的に、
あるいは、逃げ込むように浮かび、
時には道を外れ、広がり、ビターに染まり、行き詰まり、フラッシュ音とともに崩されてしまう内心の物語たち。
サザンクロスにまでまっすぐに至ることない
寄り道や逸脱までが生まれる物語に
様々な風景が交錯して・・・。
原作に忠実に描かれる刹那、
時には箍が外れて戯画的に広がる世界、
あるいは耽美に、または暴力的に描き、重なり、
行き詰まり、刹那に崩れていく・・。

役者たちが、
世界を塗りこめてしまうことなく、
しなやかに、
シーンやキャラクターたちの実存感やトーンの濃淡で
空気の質感をコントロールし
心風景のテイストを生みだしていきます。
そこには観る側が受けとる寓意の
平易さと深さのしたたかな組み上がりがあって、
絶妙に変化しながら何度も重ねられていく物語の顛末を
飽くことなく追い続けてしまうのです。

そうして、形作られたボリューム感があるからこそ
執拗な組み上げと崩壊自体が
コンテンツたちにとどまらないニュアンスを持ち始める。
やがては、物語で覆い隠していた彼の内心の枠組みが現れ
観る側にさらに向こう側にある現実を
さらけ出していく。
引きこもる彼の姿と
そこから彼を引き出そうとする姉や周囲の姿と・・・。
痛みと苛立ちが観る側にまで浸み入ってきたその先。
視座が逆転して現れたエピソードの
なんてナチュラルなこと・・・。
天空と深海の寓意がそのチケットに集約されて、
でも、チケットを巡るシンプルな誤解が
それまでのシーンたちから受け取ったものと共振し始めたとき、
思いもかけず涙が溢れた。

冒頭に物語の土台として語られる、
「銀河鉄道の夜」が
再び語られる時、
それは主人公が、さらには人が生きることの
普遍への俯瞰となって・・・。
そのなかで前半のシーンも解け、
役者たちの献身的な演技が
その景色のなかに具象するものを
しなやかに編み込んでいたことにも
改めて思い当たって・・・。

作り手が描きだす世界と
昔々読んだ「銀河鉄道の夜」のあやしい記憶に
凛とした空気と、
そのなかに歩む感覚と
偶然に重ねられていく刹那の
広がりが重なって・・。
ダブルコールの終演後
劇場を離れても、、
さらに広がり心満たされていくものが
いくつも巡り降りてくる・・。

とても深く心を捉えられた舞台でありました
俺以上の無駄はない

俺以上の無駄はない

MCR

駅前劇場(東京都)

2012/04/12 (木) ~ 2012/04/17 (火)公演終了

満足度★★★★

可笑しさの奥に広がるもの
観る側を休ませない舞台の面白さが
様々に醸し出されて、
いろいろに笑って、
そのおかしさの瞬発力や
じわっとくる感じが霧散したあとに、
舞台にいつしか満ちている
この劇団のお芝居の肌触りに捉えられて・・・。

気が付けば、舞台を満たす
行き場のない諦観のようなものに
強く縛られておりました。

ネタバレBOX

姉弟喧嘩は
芸を超えて芸術の域かと・・・。

役者のにらみひとつで
舞台が観る側を凌駕して掌にのせてしまう。
物語の設定も奇抜といえば奇抜なのですが、
でもそれが、単に可笑しさだけではなく
観る側を共振させる、
生きることの原点に近い部分にある
想いを削ぎ出してくれる。

ある意味理想の姉の姿を
病状の悪化と表現する凄さ、
素でぶつかり合う不毛な中にある
不可思議な慰安、
その表現の切れ味に
観る側の不思議な居場所が生まれて
嵌りこんでしまう・・・。

どの役者をとっても
演じるキャラクターに
したたかなはみ出しがあって、
癖になるような笑いが生まれて・・・。
その中に、猥雑な日々のなかの
孤独のようなものが
次第に色を増し、
やがては舞台を浸し尽くすような空気となって
醸し出されて。

主人公たちの編み上げる刹那の想いが
楔のように刺さっていて
その世界から暫く抜け出ることができませんでした。
「約束するぜと笑って言えよ」(千秋楽満員御礼!)

「約束するぜと笑って言えよ」(千秋楽満員御礼!)

エビス駅前バープロデュース

エビス駅前バー(東京都)

2012/04/12 (木) ~ 2012/04/18 (水)公演終了

満足度★★★★★

カジュアルなテイストなのにたっぷりのボリューム感
まさか、
あの空間の、冒頭のテイストで
あんな展開が生まれるとは思いもせず・・・。

やられました(超ほめ言葉)。

舞台にしなやかな安定感があって
しかも展開が緻密で滑らかに繋がっていって
ここちよく、深く、わくわくと
掴まれてしまいました。

ネタバレBOX

最初のシーンから絶妙に可笑しくて、
いきなり引き込まれてしまったのですが、
そこが物語の中心ではなく
外枠に変化していくとは思いもよらず・・・・。

とはいうものの、
比較的早い段階で物語の構造が観る側に与えられるので、
追うというよりも
展開にそのまま引っ張っていかれるような感じ。
多重構造にはなっているのですが、
観ていて迷いや抵抗感がないというか、
そのままに委ねられてしまうような語り口で、
ト書きの如く語られる物語と
舞台に空気をもって描き出されるものが
抜群のバランスで観る側に像を結び
キャラクターたちの歩みを
編み上げていく。

気がつけば
2chのスレッドの立体化という感じの舞台の前提が
次第に枠組を失い
登場人物たちの歩んだ時間の感覚に
色を変えていく。

しかも、それぞれのシーンでのキャラクター達に
刹那の色がしっかりと作りこまれていて。
シーンの繋ぎもとてもしなやか。
役者たちがぶれなく時間経過を
キャラクターに積みあげて質感を生みだしていく。
個々のシーンの狭間の描かれない時間にまで
実存感が生まれて
登場人物たちの歩みがぼやけずに
くっきりと観る側に伝わってくるのです。

尺もそんなに長くはないのですが、
中学生から社会人に至る
時間のボリューム感が観る側に置かれて
歩みの起伏やキャラクターたちの姿が
時間の断片の重なりから
客観的ではなく
登場人物たちの記憶の質感で浮かび上がってくる・・・。

だから、すべてが語られないラストシーンに
本当に心ときめく。
なんて、ビビッドなのだろうと思う・・。

会場の使い方も他の公演と違うパターンが
うまく機能して、
終演時には
紡がれた物語と演出、さらには役者たちの描きだすものが
ひとつとなって観る側をしっかりと取り込んでいて・・・
力技でひたすら圧倒されるという感じでもなく、
カジュアルな質感のお芝居ではあるのですが、
にも関わらず、
驚くほどがっつりと満たされてしまいました。
きら星のごとく【YoutubeにてPV動画公開中!!ご来場誠にありがとうございました!!】

きら星のごとく【YoutubeにてPV動画公開中!!ご来場誠にありがとうございました!!】

蜂寅企画

王子小劇場(東京都)

2012/03/29 (木) ~ 2012/04/02 (月)公演終了

満足度★★★★

メリハリも鮮やかな時代劇
後半のけれんもしっかりと決まって、
上演時間があっという間。

難しいことを考えずに観ることができて、
でも絵面達がしなやかに心に残る、
すぐれものの舞台でありました。

ネタバレBOX

時代劇として、
観る側の目の惹き方を作り手は知っているのだと思うのです。

役者のお芝居の目鼻立ちがくっきりとしていて
ちょっとした見栄のきり方や
殺陣の躍動感、
さらには人情の醸し方、
個々のシーンにハリがあって
その作りこみも作りこみも
本当にしたたかにしっかりと
観る側のツボを心得ている。

一方で単なる勧善懲悪物のような
薄っぺらい色のつけ方で
場を染めたりしないのも心地よくて
気が付けば物語に身を委ねている感じ。
物事の表裏それぞれをくっきりと書きわける力があって、
その先に生まれるものには
わかりやすいことでの甘ったるさが霧散し
観る側が得心し委ね得る
ナチュラルにビターなテイストと
透明感を持った必然があって・・・。

だから、終盤の外連が映える。
それは舞台美術の力でもあるのですが、
物語に編みあげられたものを一気に
開き、俯瞰させ、観る側に空を見上げさせる。

さらなる洗練に至る余白はあると思うのです。
前半のエピソードの組み方や置かれ方などは
もっと観客を捉えるやり方がありそうだし、
絵から抜け出たキャラクターの
水を被ったあとの姿なども
台詞で現わすのではなく
衣裳やさらなる所作の工夫で
もっと奥行きを作れそうに思えて。

とはいっても、
時代劇というジャンルの中にビビットな感覚をしたたかに織り込み
メリハリを古い感覚に置かず
とても今様な力として観る側を取り込んでいく作り手のセンスには
癖になるようなテイストがあって。
客席の年代や雰囲気からも
作品の間口の広さが伝わってくる。

たっぷり楽しめて
なおかつ集団としてのさらなる成長を予感させる
とてもよい舞台だったと思います。
『ことば』vol.2

『ことば』vol.2

BoroBon企画

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2012/03/31 (土) ~ 2012/04/04 (水)公演終了

満足度★★★★★

なんて楽しく豊かな・・・
昨今流行りのリーディング公演かなくらいの気持ちで観に伺ったら、
とんでもない。

文章たちは作り手や役者に取り込まれ
さまざまな表現として舞台を満たしていきます。

実力たっぷりの役者達がつづる「ことば」のふくよかさに、
がっつりと魅せられました。

ネタバレBOX

自由席、開場時間にちょっと遅れて、
他のお客様との位置関係などもあり、
ほとんど意識もせずに着いた席がなんと最前列の中央・・・
しばらくして、これはさすがに、とおもった時には
周りの席もほぼ埋まっていて・・・。

で、開演すると冒頭には、
役者達のポジション争いなどもあって、
その迫力に押されたりもするのですが
でも、やがて、
役者達が目の前で
さまざまに重ねていく表現たちのひとつずつにこそ
心を捉えられていきます。

言葉や文章などが
さまざまな形態をとって観る側を浸していく。
文章も、小説であったり、随筆であったり、
時には歌の歌詞だったり。
フラダンスのしぐさの意味が語られたりも・・・。
その表現のフレームも
ランダムに与えられた文章を読むようなやり方があったり
いくつもの短い文章が重ねられて世界が生まれたり
舞台の幅をいっぱいにつかっての
二人芝居のような小気味のよいやり取りが現出したり
随筆や短編小説の世界が
腰を据えて語られたり・・・。

ランダムに与えられた文章を読み上げるという
役者達の表現の瞬発力を楽しむようなパートも
あるのですが、
基本的には文章が
役者に抱かれ、咀嚼され
表現として舞台を満たしていく形。
観る側も最初は、
ただやってくる言葉を追いかけていたのが、
気がつけば、
キャリアに裏打ちされた実力派ぞろいの役者達が
取り込み、咀嚼し、豊かな創意とともに紡ぎ出していく
質感や肌合いや想いの色に
包まれ、揺らされ、染められている。

まもなく出産を迎える役者に
他の役者達がそれぞれに選んだ文章を
渡していく姿の美しさ。
昔から耳に馴染んだ慣れた曲の歌詞が
役者達の言葉に編み直されて
新しい肌触りへと変わる驚き。
読みざわりを知り尽くした作家の文章の
耳触りから生まれる異なる世界の新鮮さ。
大きな絵本をながめながら
絵の説明のように聞いていた語りが
いつしか主客が逆転して
絵の方が語られるものの風景へと
変わっていく。

ほんの数メートルの距離からやってくる
役者達が語る刹那や、空気や、風景や、物語や、
時には生きること俯瞰、
2時間で観ている側も
抱えきれないほどの印象をもらって、
でも、それらが、混じり合うことなく
観る側の内心に居場所をつくり
すっと置かれていく不思議。

最初はひたすら舞台に圧倒されていた最前列の席も、
終わってみれば申し訳ないほどの特等席。
通常の舞台での表現とは一味違った、
役者達それぞれが持つ
味わいにも触れることができて。

これまでに触れたことのないような
豊かさをもったテイストに観たされて
とても贅沢をさせていただいた心持ちで
家路をたどったことでした
貴方と私の演劇革命

貴方と私の演劇革命

月刊「根本宗子」

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2012/04/02 (月) ~ 2012/04/09 (月)公演終了

満足度★★★★

作品が粒ぞろい!面白い
作品の一つずつが異なる色をもってやってくる。

それぞれがしたたかに作りこまれていて、
一人芝居であることをデメリットとせず
むしろ、一人芝居だからこそ描き得る世界が
見事に紡がれていて・・・。

どの作品にも非凡さと
深さがあり、
それぞれの作品に内包された観る側を前のめりにする引力があって、
お世辞抜きに楽しむことができました。

ネタバレBOX

最後の作品のみ二人芝居。
あとは一人芝居なのですが、
作家たちが本来制約になるであろう
「ひとり」の制約を逆手にとるように、
実にしたたかに物語を描きこんでいきます。

どこかルーズでコミカルな世界を、
描き上げ押し通した政岡泰志、
一人で演じることと作品世界のボーダーを
しなやかに重ね裏返して見せた河西裕介、
観客に相手が見えないことで
キャラクター~見えるものに実存感を創り出した田所仁
一人ぐらしのぞくっとするようなリアリティから
さらなる突き抜けを導き出した鎌田順也。

それぞれの作家の描く世界に内包された
ぞくっとくるような切っ先に息を呑む。

また、演じる側にもお芝居の骨格を演じる以上に
細かい空気や踏み出しを作り上げる
力量と技量があって。
狂気に踏み込むときの間の取り方や
幾通りにも変化する笑顔の表し方、
箸の使い方などでの、
ちょっとした雰囲気の作りこみや
様々な身体の使い方が
しっかりと物語たちにはまって
観る側を個々の世界に閉じ込めてくれる。

最後の演じて自らの作品の、キャラクターのビビッドさにも
ときめくような魅力を感じて・・・。

それぞれに全く色の被らない、
なおかつ、しっかりとクオリティを持った作品が
よく揃ったものだと感心。

上演時間はそれほど長くないのですが、
なにかとても充実感があって。

この作品たち、公演後半にはもっと育つのだろうし、
最後の二人芝居も相手が変わることで
観た回とは別の色の秀逸さが生まれるのだろうし・・・。

ちょっと再見が難しいスケジュールが
とても恨めしく(自分のせいなのだけれど)
思えたことでした。
ジョギリ婦人

ジョギリ婦人

芝居流通センターデス電所

「劇」小劇場(東京都)

2012/03/21 (水) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★

見せる面の変化の面白さ
歌でしか醸しだせないニュアンスというものがあって、
それが観る側を物語の深淵へと
踏み込ませているように感じました。

しっかりとボディを持ったシーンが
色を変え積み重なっていく感覚は
かなりすごい。

語られる物語にごまかしや甘ったるさのない、
大人のミュージカルを観たように思います。

ネタバレBOX

劇団初見。
本当になんの予備知識も持たずに観劇。
(そもそもミュージカルであることも知らなかった。)
実をいうと、個人的な事情で
結構疲労困憊のなかで客席についたりもして・・・。

で、いきなりクオリティをしっかりと担保された
シーンが現出して驚く。

役者たちが個々のシーンでの歌や演技を
ミュージカルの流れに安易にのせず
しっかりと足を踏ん張り
切っ先を作って演じている感じがとてもよい。

若干役者間での歌唱力の優劣はあるのですが、
それでも、歌への入り込み方や重ね方、
さらには場の深度を作り上げていくような
展開には観る側を醒めさせることなく
物語に引き込むだけの技量があって、
また物語を託されたナンバー達にも
しっかりと耳にとどまり
場を一気に包括するするような秀逸さがあって。

短い伏線の張り方というか、
一つのシーンの中に
一歩の何分の一かの次のシーンが重ね合わされているあたりが
音楽の秀逸さに足を留めさせることなく
もたつきのない物語の流れへと観る側を導いてくれる。
で、その物語が冒頭からしっかりと面白いのですよ。
隠されたものが次第に姿を現わしていく前半、
音楽のテイストと戯画化された部分とリアリティが
実にバランスよく観る側を巻き込んでいく。
だから、展開が見せる、
様々な物語の面の一つずつに
しっかりと揺さぶられてしまう。
そして、気が付けば、
単なる復讐劇の顛末を通り越して
人間が根源的にもつ心のありようや闇の世界に足を踏み入れていて。

それなりのバイオレンスシーンや
男性が竦み上がるようなシーンもあるのですが、
それを誤魔化さないことで
組み上げられていくニュアンスにこそ心を奪われてしまう。

まあ、R15的な部分も多々あるのですが、
それもテイストとして生かされていて・・・。
ミュージカルという形式を
表現の武器としてしたたかに使いこなす
作り手や演じてたちの力量にぞくぞくきました。
しかも、初めにミュージカルありきではない
物語に作意を込めるスタンスのようなものがあって、
だからこそ、シーンたちの一つずつが
流されない強さを持ち、
それぞれの局面が見せる舞台の面の変化のようなものにも
抵抗なくがっつりと取り込まれてしまったのだと思う。

観終わって、劇場に入った時に感じていた疲れなどどこへやら、
ダークでクリアな、見晴らしをもった感覚とともに、
豊かな表現に接した時の高揚にしっかりと浸されていて。

この劇団が次にどのような作品を作り上げるのか
とても楽しみ
次回公演も是非に観たいと思いました。




Kon-Kon、昔話

Kon-Kon、昔話

世田谷シルク

pit北/区域(東京都)

2012/03/23 (金) ~ 2012/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

表現の豊かさ、リズムの秀逸
冒頭の落語に始まって、作り手ならではの一つに縛られない様々な表現に舞台が満たされて・・・。

ベースの物語の枠組が物語をとっ散らからせず豊かなボリューム感とともに広げていく。

首都圏では見られないのかなぁと残念に思っていた作品、
一つずつのシーンをわくわくと見てしまいました。

ネタバレBOX

冒頭の落語がボディーブローのように効いて、
舞台の土台部分が作られ、
そこにシーンが重ねられて
物語の流れが舞台に生まれる。

観る側には物語を追うという意識はあまりなく、
個々のシーンのニュアンスの楽しさや秀逸さに
心を奪われて・・・。
それほど広い空間ではないのですが、
役者たちの動きが洗練されていて、
刹那ごとに全体のミザンスをしっかりともって
観る側にシーンの印象をすっと刷り込んでいく。

しかも、全体を形成する役者たちでありながら
ひとりずつの個性もクリアに引き出され、
生かされていて。
物語が役者たちの個性で切り分けられていて、
混濁せずに膨らんでいく。
ツケも本当に効果的で・・・・。
シーンにエッジを作りながら
個々の役者の動きを縛るのではなく、
そのリズムからさらなる表現の自由さが
生まれている感じもして・・・。
なんだろ、一人ずつの役者の醸し出すものに
一歩さらに歩んで獲得したような伸びやかさがあって
それぞれの色が引き出され
舞台を編み上げていて。

前回のシアタートラムの公演を観て、
広い空間を与えられた時の
作り手の才に圧倒されたのですが、、
一方で今回のようなタイトな空間だからこそ
描きだすことのができる引き出しがあることも実感。

難しいことをなにも考えず
舞台上のパフォーマンスを観ているだけで
次々と楽しいし、
でも、気が付けば、様々に重ねられる
シーンのトーンやリズムから
作品全体としての世界に
導かれていて。

豊かな高揚感と充足感に満たされて
たっぷりと、いくつもの切り口から
作品を楽しむことができました。
しかも、舞台に作り手としてのぎりぎり感がなく
さらに伸びる力を感じるのもすごくよくて・・。

今後の作り手の作品も
すごく楽しみになりました。
岡田あがさ リーディング公演「INTIMACY」【閉幕しました】

岡田あがさ リーディング公演「INTIMACY」【閉幕しました】

オーストラ・マコンドー

CCAAアートプラザ ランプ坂ギャラリー ランプ3(四ツ谷)(東京都)

2012/03/24 (土) ~ 2012/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

役者の力をもろに受けとめる
両作品とも、
リーディングという態などいつか踏み越えて、
其々の役者の表現のビジョンが
強くしなやかなパワーに込められやってきました。

5回公演の初回、
見応え充分の2作品でした。

ネタバレBOX

・岡田あがさ「INTIMACY」

物語の概要が見えるまでの時間があって、
でも、役者が醸し出す雰囲気に目を奪われ、
それを時間と感じることがない。
語られ始める物語に引き込まれ、
場の空気と、役者の切っ先をもった視線と、
いくつかの見えない部分の存在のカオスに
閉じ込められる。

コートが具象するジェンダーの切り替えで
物語は複層の視座を持ち広がっていきます。
女優が演じる♂には、演技が秀逸であればあるほど
削ぎ落されていく生臭さがあって、
だからこそ、男には混沌として観ることができない
ある種の感覚がクリアに浮かび上がってくる。
一方、ジェンダーが変わると
描かれる女性の肌触りや想いや息遣いが
観客にも、そして多分役者にも
使いなれた感覚の色で奥行きを組み上げ、
劣情と愛情の混濁をそのままの感触に流し込み
場の空気を染め上げ
観る側を浸潤していく・・・。

終演時には
熱さが冷たい感覚の中に焼きつくような、
クールで、シニカルで、どこかあさはかで、
にもかかわらず心を芯を揺さぶるような風景が
残像のように残り、
役者が部屋を出ていく残像とともに
とてもゆっくりと霧散していきました。

初回だったこともあるのでしょうが、
前半の男性を演じる部分は、
役者としてのテンションをいっぱいに作られた印象。
そこには多分功罪があって、
観る側を物語に閉じ込める力としては、
これ以上のものはないはずなのですが、
一方で、役者のたくさんの引き出しには
さらに、別のニュアンスを創り出す力が
納められているようにも感じました。
もちろん、今回の表現のテイストも
作品としてのひとつの完成形であるのだと思う。
でも、一方でこの役者と作品が持つ可能性のなかに
べつの豊かさが潜んでいるようにも思い
なにかどきどきしてしまいました。

・佐藤みゆき「くちづけ、プレリーディング」

4月にオーストラマコンドーが上演する舞台の
プレリーディング用に作られた作品とのこと。

これがねぇ、本当に楽しいのですよ。
役者の雰囲気に
童話たちの箍がゆっくりと外れて、
やがてドミノが倒れ広がっていくように、
物語が膨らんでいく。

語り口にどこか落語のようなテイストがあって、
不思議に舞台上で上下がきられ、
物語がしなやかに連鎖していく。
マッチやリアルなケーキやお茶を使った
物語のビジュアル化からは
幼稚園の先生が子供に語り聞かせる物語のようなテイストと
幼女の中で一人遊びをする物語の感触が混在するなか、
作品に込められた作り手や演じてのウィットが
溢れだしてくる。
マッチ売りの少女とシンデレラと白雪姫の関係性が
妙に納得できてしまう上に、
そこにグリム兄弟か・・!と突っ込みたくなるような可笑しさまでが
とてもしなやかにやってくる。
でも、これは公演のプレリーディング、
その想像力に歯止めが利かなくなった
クリアなカオスの先にある、
ビターなテイストとともに口を開けた
本編への入口までしたたかに導かれて・・・。

これまでも、表現力のバリエーションには
何度も驚かされた役者さんなのですが、
これまでとは、また別の作品に対する踏み込みがあって、
しかもそれが、しっかりと果実を実らせていて、驚愕。

この役者だからこそ醸しだしえたであろう、
作品の色合いに心を捉われてしまいました。

まあ、作品の肌触りからすると
岡田あがさがシェフとしてメインディッシュを作り
佐藤みゆきがパティシエとしてドルチェを供する・・・
というような感じでしょうか。
メインディッシュにはボリューム感がしっかりとあり
なおかつドルチェをそのテイストに惹かれ別腹でたっぷり楽しめて。

会場も、この公演にはとても似合っていて
とても素敵な試みを楽しませていただけたと思います。

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