ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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桃の夢散る花月夜

桃の夢散る花月夜

法政大学Ⅰ部演劇研究会

法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎B1F多目的室2番(東京都)

2017/12/16 (土) ~ 2017/12/19 (火)公演終了

満足度★★★★★

 舞台は中国崑崙、戦乱の絶えない世の常として難民化した子供たちが、各々の技能を持ちより旅芸人として暮らしていたが、或る公演を観に来ていた女性から、声を掛けられる。

ネタバレBOX

屋敷へ来て、演じてくれないか? との頼みであった。彼らの演じていたのは、胡弓弾きのタオが幼い頃母から聞いた神話やお伽噺をベースにし、脚本化した作品であった。
 神話は、どんな国の神話でも為政者の道具である。つまり、為政者が支配する民衆に対し、支配権を正当化する為に拵えた道具である。ホメーロスが描く英雄たちもギリシャの神々の血を受け継いでいる訳だし、ギリシャ神話を受け継いだローマも無論これに倣った。王権神授説なども、この伝だ。日本でも天皇の先祖は神ということになっている。
 無論、神等存在しない。神を作り出したのは、ほかならぬ人間である。少し話が逸れた。既に決まった公演もあったので直ぐという訳にはゆかぬが、契約は成立、使いの女性が迎えに来ることになり出掛けた屋敷は、大層立派なものであった。貴人の館だったのである。而もこの館の庭には桃の木が植わっており、この木の実を食べると寿命が千年延びるという貴重なもので、神食とされていた。館の主や東ノ宮、西ノ宮、儀式を受ける資格を持つ年齢に達した後継者らも食すことができた。
 西ノ宮継承者、トオヤと仲良くなったのは仲間の一人、そして東ノ宮の姫ユエと仲良くなったタオだったが、西ノ宮家に主を取られてはならぬ、と画策する勢力がトオヤの命を狙っていた。トウヤは暗殺され、実行犯として処刑されてしまう。然し、これは周到に仕組まれた罠であり、真犯人は、もう一人の仲間、からくり人形等を作るのが得意な男であった。而も、彼は東ノ宮側の傍仕えの女官であり、彼女がこの計画を立て実行させた黒幕に通じていたのである。新たに立てられた主は、東ノ宮の姫の実弟、かつてこの地から密かに外の世界へ送り出したトオヤであった。丁度、元服の時期に達していたトオヤは母から件の桃の儀式を授けられ新たな主として祭り上げられることになる。陰謀によって新たな神話が構築された訳だ。
 権力者が、嘘によって作り上げられる様を見事に描いた作品。脚本の良さもさること乍ら、演出、演技も舞台美術・衣装も良く、効果も適切である。
赤と青

赤と青

ラビット番長

演劇制作体V-NETアトリエ【柴崎道場】(東京都)

2017/12/15 (金) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

 尺は約1時間。だが、濃密でスリリング、而もどうにもならない問題に実際対処せねばならない、現実に生きる人という存在のリアルを実に端的に描き切っている。(追記後送)花5つ☆

ネタバレBOX


 井保氏が、アクトゲーム用に書き下ろした作品なので、脚本最初の2ページは、お題として別の人が書いた。では、アクトゲームとは? という質問に答えておこう。先ず、何らかのお題が与えられる。お題とは上記の如く最初の2ページである。ゲームに参加していた作家が、その書き出しを自分流に紡いで物語を完成させるというのがゲームなのである。
最後の最後まで対立軸がぶれないことが、演劇の要諦であることを実に深く理解し実現している脚本である。 
井保氏は学生時代、病院で受付のバイトをやっていたそうで、その体験を踏まえての作品なのだが、現実に起きるどうしようもない出来事・事態を当にその点に於いて現実的に描いている点が凄い。ラストのジョークで終わらせる手際も見事である。
演出も今回は井保氏がやっているが、役者陣の演技の質も大変優れたものであり、充実した時間を過ごさせて貰った。
時代絵巻AsH 其ノ拾壱『朱天〜しゅてん〜』

時代絵巻AsH 其ノ拾壱『朱天〜しゅてん〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/12/14 (木) ~ 2017/12/19 (火)公演終了

満足度★★★★

 AsHの作品は、時代考証や伝説を背景として脚本が書かれて居る為、そのような背景が無い場合には、作劇の常道を犠牲にしなければならない場合が出てくる。(追記後送)

ネタバレBOX

作家も悩む所だろうが、今作では、この点が作劇上の弱点となった。
将門の遺児、鬼道丸が足柄山で仲間を守る為に討死した後、その子は、蝦夷の庇護の下、大枝山に逃れた。名を鬼王丸と言う。鬼王丸は、京の都に度々下り、源 満仲の嫡男、頼光と友の契りを交す。
一方、朝廷は藤原北家が勢力を広げ、摂関政治で頂点に立ったのは兼家。将門の乱以降、残党と遺児その血脈、そして彼らを匿う蝦夷を絶とうと機を伺っていた。その目的完遂の為、何の罪咎も無い彼らを、都の腐敗しきった政治の目隠しとして利用し、人間ならざる鬼として敵視、その上自分達の陰謀や欲を実現した際に罪を被せる為、普段から流言飛語を用いて彼らを悪役に仕立て上げ民衆の目をそらし続けていた。
こんな貴族から命令を受け、従わざるを得なかった武士の統領達も、当然のこと乍ら、この事実に気付き心を痛めていたのだが、貴族の政治を覆すだけの力を未だ持ち合わせて居なかった彼らには、取り敢えず、藤原北家に従う他の道は選べなかった。
ところで、命令を下し総ての権力を手に入れ天皇の外戚として実権を恣にする兼家が、権力者の孤独について語ったり、足柄山で鬼道丸と蝦夷の長を討った満仲が、自らの子と同年代の子供を哀れに思い、守り役の蝦夷の民共々落ち延びさせたり、その子頼光が、鬼王丸の友となりながら、また友情と武士の統領としての義に引き裂かれながら鬼王丸・蝦夷討伐軍の統領として出陣、役目を果たすに至る経緯が敵味方の敵愾心に水を差し、ドラマツルギーの対立を弱めてしまう要素を克明に描いたことが芝居を弱くしてしまった。
ジ・アース

ジ・アース

十七戦地

ギャラリーLE DECO(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

 十七戦地の10回目公演ということで、今作は、劇団のメンバー全員が脚本原案を出し、それらを座付き作家の柳井氏が構成して上演台本にするという作り方をしているので、今迄十七戦地を観て来た観客には随分異なったテイストと映る。

ネタバレBOX

然しながら、全体の肝は矢張りしっかりしていて、我々人類の作り出した文明や科学技術と生命の持つ生得的な機能や生理との対比が、今作のコアを為すと判断した。話題となるのは、アマゾン探検、ユーチューブにアップする動画撮影の為のグレートジャーニー顛末記、そしてAIアニマルと野生動物との対比による意味論というラインナップなのだが、この3つの話が緩やかに連関しつつ展開する。グレートジャーニーでは、人間の創った政治というシステムと人間の個人的行動の軋轢なども描かれ、自然の持つシンプルだが、力強く清明な普遍性と人間の編み出した窮屈でひねくれた論理が相克する様が提示されて興味をそそる。
袴垂れはどこだ

袴垂れはどこだ

劇団俳小

シアターX(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

 俳小は歴史も実力もある劇団だが、どうも型が決まっていて、自分にはイマイチしっくりこない部分があったのだが、今回の演出がシライケイタ氏だったことで、役者陣の布陣が先ず変わった。キャスティングされた役に見合った役者が演じ、理論で組み固めた演技より自然な演技になっていたように思う。
内容的には民衆の民衆による革命譚と言っても良いような群像劇であるが、戦略・戦術を心得たプロの厳しく、時に非人道的な戦略・戦術にはついてゆけない限界をも提示して見事に民衆反乱の一揆的性格を描いている。絶対お勧めの舞台だ!(追記後送)
花5つ☆

「彼女が最期に憂えたこと〜detective of the Victorian era〜」

「彼女が最期に憂えたこと〜detective of the Victorian era〜」

Project S.H

ワーサルシアター(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

 シャーロック・ホームズ物であるから、当然推理物だ。

ネタバレBOX

ワトソンとホームズの掛け合い、そしてホームズの推理の冴えが見所なのは無論だが、今作で感心させられたのは、単に推理の面白さ、見事さだけに終わらず、深く登場人物たちの人間性が描かれていたことである。ワトソン相手に披瀝されるホームズの推理は当に見事そのものだが、当該事件についての、犯人探しは存外容易い。
 然しながら、先にも挙げたように今作では人間性の掘り下げが深い。その点で特筆すべきものがあるのだ。
 舞台は19世紀ビクトリア女王の時代である。彼女の治世は60年以上に及んだが。その間、有名な切り裂きジャック事件が起こっており、ロンドンは魔窟と化していた。而も管轄の異なるシティーとヤードは、互いに覇権を競い容易に協力し合うことが無かった。為に一度事件を起こした犯人は、管轄の違うエリアに逃げ込めば現行犯逮捕を免れるというような制度的な問題も多発していた。今回、ホームズが引き受けたのは、当にこのような条件下で、この制度を悪用して起こされた事件であった。依頼人は若いお針子さんだ。余談になるが、ココシャネルも元お針子さんであった。まあ、美人であったから、亡命貴族の助けを借りたり、様々な紳士に助けられたりもあり、彼女のデザインセンスと主張の強さもあって、シャネルブランドを立ち上げてのし上がっていった訳だが。一方でフランスを占領したドイツ軍将校とつきあったり、スパイをしたりしたという側面も持つ。
 閑話休題、話を元に戻そう。個々のキャラクターに人間的深みを持たせている点についてだが、ホームズが推理の天才でありながら、その論理的思考故に、他人のメンタリティーを顧慮し得ない一種の片輪として描かれていることに始まり、医者でもあるワトソンは一方で可也の銃の使い手であることは、他の作品で描かれているから明らかなのだが、そのワトソンに道化をやらせてみたり、悲劇のヒロイン、イヴのキャラ設定がレミゼラブルのコレットに何処か被ってきたり、とドラマチックな要素がふんだんに含まれているのも良い。何が良いかって、新鮮なのである。こういう演出をしている演出家に拍手を送ると共に、舞台美術も如何にもビクトリア朝の佇まいを感じさせると共に、数々の場転に柔軟に対応し得る数多くの出捌けの作り方も合理的でその上センスが良い。シナリオの展開も安定しつつ自然に、さりとて緩むことなく話を盛り上げてくれる。ある人物の潔癖症は、その人物の傾向を巧みに示唆しているし、腐敗貴族の下司根性と狡猾も上手に織り込んでいる。そして貴族に利用されざるを得ぬ社会福祉活動家の苦悩も。
 翻って、トリクルダウンを恰も当然の如くノタマウ現代の資本屋及び彼らに諂う政治屋、官僚、メディア、マッポー、シカゴ派経済学者のうちグローバリゼーションを推進した者たち等下司の赤裸々な姿を重ねてみることも可能である。
 ところで、タイトルに入っている彼女とは誰のことか? 観劇後に考えてみるのも、推理物の愉しみの一つだろう。答えは、最後まで観れば分かる仕組みになっている。

サンタクロースイントーキョー

サンタクロースイントーキョー

羽生一家玉組

劇場MOMO(東京都)

2017/12/06 (水) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

実に洒落た作り!(追記後送)

ネタバレBOX

  若手アーティストが住むことで知られるIBハウス。ここにサンタクロースが現れ、とんでもないプレゼントを置いていった。とはいえ1年間の約束で預けていっただけなのだが。そのプレゼントとは、生後間もない赤ん坊、付録に育児書迄ついている。条件は、このIBハウスが彼らの所有になり、空いている部屋などには下宿人を入れて家賃をとっても良いこと。但し赤ん坊は4人が責任を持って育てることであった。決して悪い条件ではない。内心子供好きな彼らは引き受けることになった。
高速を降りて、国道を2キロ走った、モミの木に囲まれたカフェレストラン

高速を降りて、国道を2キロ走った、モミの木に囲まれたカフェレストラン

初級教室

OFF OFFシアター(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★

 ファーストシーンが異様な始まり方をし、開演前に見ていた舞台美術が結構しっかりしていただけに、その後の展開での演出の手際に不満を持った。

ネタバレBOX

リアルを装っているだけで、リアリティーを感じられなかったからだ。TV番組程度であれば、この程度の演出でもOKだろうが舞台でこれはないだろう。というのも、ヒロインの聖美が本当に知恵遅れであるなら、意地の悪いというか、サディストの気のあるシンノスケが命じる結構複雑な言いつけを一度も間違わずに遂行できる訳が無いし、大体、自分の不安定な立場が良く分かっているリアリストのシンノスケが、待遇に不満を持って店を潰そうとしていない限り、厚労省に注意でもされれば、一発で店が潰されるような、不衛生なことを平気でする訳が無い。(聖美の捨てたナプキンがゴミ箱に入っているのを恰も再利用しようとするかのように態々取り出したり、客が捌けた後片づける際にゾンザイに扱ったナプキンスタンドから床に落ちたナプキンをキチンとゴミ箱に捨てなかったり。そもそも、ちょっと気の利くウェイターならナプキンスタンドの外側に指紋のつくような持ち方もしない。)
 また、養護施設で育った聖美が、このカフェレストランのオーナーを父として慕っているという設定にも無理がある。というのも、知恵遅れではあっても、聖美の感受性は鋭い。そのデリケートな子が、こんなに身勝手でエゴイスティックなオーナーを慕うハズが無いのである。もうちょっと作家も演出家も人間観察を必要としよう。マスターの余りにも身勝手なキャラクター設定が露わになってしまうことで、観客をして観察眼ばかりを鋭敏化させてしまう。作品が背理をその目的として作られているならいざ知らず(説明文を読んでいる限りではそれはありそうにない)順当な路線を狙っているのなら、これは失敗作と言えよう。
まるてん

まるてん

劇団龍門

明石スタジオ(東京都)

2017/12/07 (木) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

 Aを拝見。

ネタバレBOX

物語は若くして白血病を発症した娘と母が専門病院を訪れ20代前半で骨髄性白血病と診断され余命半年を告げられる所から始まる。
おかしなもので、人間、死を突き付けられるまで案外そのことを自分の問題として意識しないものだ。娘は、何故自分が、この年で? と不合理に思い、理不尽だとの感覚を抱く。放っておけば余命は半年、化学療法を受ければ延びる可能性はあるという。母は1日でも長く娘に生きていて欲しい。その為には何でもする覚悟であった。一方、癌や血液の癌と呼ばれる白血病の治療は、かなり副作用も出、厳しいものであることは周知の事実。毎日の検査や点滴、延々と続く化学治療の耐え難さと、何の為に辛い思いを堪えて生き延びているのかが分からなくなれば、その生は単に生きているだけということになってしまう。悩んだ母子は、ホスピス、ひまわりに転院することになった。
 院長はやはり元癌治療の専門医として病院に勤務していたが、病院の技術的なケア中心の医療に限界を感じてこのホスピス・ひまわりを立ち上げた人であった。そのモットーは、患者が命を終えるその日まで、その人らしく納得づくの人生を全うする為の応援団長であること。その為に真っ直ぐに患者に向き合い、患者がヴィヴィッドに生きられるようホスピス内でかなりの自由を与えていた。治療法も薬物療法や放射線治療よりも、傷みが出た時の緩和等が主であり、生きている間、患者自身が納得できる生活を送れるよう応援するというスタイルである。つまり死を前にした患者たちの心理サポート、患者同士の人間関係構築などに重点が置かれていた。
 入所患者の中には、世界中を笑いで一杯にしたいと夢見る芸人、ゲイ、大きなヤクザ組織の組長、オミズらしき女、自閉気味の女などが居り、ホスピスサイドには、院長以下、看護師、ボランティアスタッフ等が居る。
 ゲイの患者は、2人居たが白眼視され続けて来た者同士当然仲が良い。その片割れが先に逝ってしまった。残された方のダメージは深刻である。この辺りの脚本の書き方、演者の表現も実に深い。更に、お笑い芸人だった患者は、看護師や医師の制止も聞かず院外に出ては酒を飲んでいたのだが、新しく入った件の娘と恋仲になる。この二人の恋の場面も素晴らしい。互いに体を壊している身だから、恋はプラトニックなものだが、それだけに純粋で、互いを思う気持ちの強さが嫌も応も無く観客に迫り涙を誘う。今作のタイトルもこの恋人たちの科白から採られている。
 上演台本を拝見した訳ではないが、かなりゆったりと書かれた台本のように思える。が、伏線の敷き方、肝心な所での演出の見事さ、何よりも根底に流れる人間としての温かさが素晴らしい。脚本、演出の良さのみならず、無論、役者さんたちの演技も素晴らしい。和興さん、村手さんは無論のこと、恋人役の二人末岡さんと中村さんらも胸に沁みる演技をしてくれた。他の役者さんたちも皆、自然体でレベルの高い演技である。
お寺でポン!REBORN

お寺でポン!REBORN

劇団娯楽天国

TACCS1179(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

 お寺でポンというし喜劇だと思っていたから狸が出てくるのかと思いきや、笑わせてはくれるが存外シリアスで、中々に人生の深みを描いた作品であった。

ネタバレBOX

寺の名が”ほうかいざんきょうらくいんてんぷくじ”というのだが、どんな漢字を書くか分かるだろうか? 正解はネタバレに記すが“ほうかいざん”だけは舞台美術で描かれているので舞台を観た人は間違うまい。が、崩壊山とも聞こえる。従って他も推して知るべし、で想像してみてからネタバレに行って欲しい。
 非常にしっかり舞台も作り込まれていて寺の雰囲気が良く出ており、坊さん役は皆坊主頭にしている気合の入れ様も評価されるべきだろう。驚くのはこればかりではない。「おにゃんこ」というグループが歌ったという「セーラー服を脱がさないで」という歌に合わせて坊さん役と女子出演者が踊るのである。これは実際見ものであった! このような結構派手はパフォーマンスが何か所か取り入れられて楽しませてくれる他、生きる意味も分からないような仕事をあくせくやっているサラリーマンの深い脱力感や絶望が描かれたりと内容も深浅取り混ぜて幅広い。
 一方、普段極めて高貴と見られている人物が、実は結構なクワセモノで、そう見えていたのは単にエクスキューズが上手いのと、それが法理に恰も適った行いであるかのように見せかけていただけだったとの顛末も描かれていたりと、神も仏もあるものか!? と嘆きを入れたくなるような展開の中で、一種の人間哲学の如き落としどころを檀家総代であるシメ婆さんに語らせる件りなど恰も観音の慈悲の如き冥見。
 未完成な人間だからこそ、他人も己も等しく笑って暮らせる世が良い、とこれは立派な悟りの境地と言えよう。掛かるが故にシメは己の勤めを果たして旅立ったのであり、真面目だが、それ故に己にも他人にも厳しかった法名オモチン。出家修行応募の縁で法開山竟楽院天福寺に来、この法名を得たオモダカが還俗することにも繋がった訳である。
お茶の間戦争 ~平成二十九年度版~

お茶の間戦争 ~平成二十九年度版~

かーんず企画

「劇」小劇場(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

 今作はコメディーだ。そして良質のコメディーは、その作劇の意識が頗る理性的だ。今作の可笑しさに秘められた寓意と辛辣極まる批評を何処まで見通すか。これが観客としての最大の楽しみ。(深読みなどは別稿にて)

ネタバレBOX


 下手客席側のコーナーには何らかの通信機器 上手壁際に電話 手前客席側には、椅子などでバリケードが組んであり、奥にはみずやがある。尚、兵士は中央に国境を示す棒が置かれ、この国境線を挟んで対峙する形、常に相手に銃を向けて観客には訳の分からない言葉を用いて喚き散らしているが、彼ら同士でも互いに理解できているのか否かは定かでない。但し、同一言語のようにも聞こえる。同一言語であるにも拘らず彼ら同士で意思疎通ができないのだとすると原因は、思想の違い、或いは解釈の違いなど思考の違いから来ていると思われる。
 何れにせよ今作には、二つの戦争シーンがあり、その各々は繋がっている訳ではない。メインストリームはあくまでお茶の間で展開する。このお茶の間戦争は、実際に武器を取って戦う実戦であり、TVの視聴率争いではないことを断っておく。で、この戦争の発端が何であったか? という当然の質問には、劇中の科白から答えておこう。川を挟んで東部と西部では経済格差が大きかった。西側は貧しく東側に不満を募らせていたのだが、遂に業を煮やして新たな政権を発足、東側に対抗した。格差是正を求める戦いは、終に戦端を開くに至り現在迄7年の間戦争が続いているという訳だ。舞台となるのは、東側の最前線に位置する一家の茶の間である。この家には夫婦の他に長男と二人の娘(17歳と10歳)が居て家族全員が戦闘員でもある。つまり長男は13歳から長女は10歳からそして末っ子は3歳から銃火器の中で暮らし、遊びも総て軍事的色彩を帯びたものであった為、現在では普通の生活がどのようなものであったか、良く覚えていない。殊に戦争開始時小学生だった長女や幼女だった末っ子に至っては、戦争体験以外の記憶は殆ど無いのである。つまり戦争状態が彼女らの自然状態だということだ。
 このことの意味することを良く考えて欲しい。今作は作・演出が同じ人である。そしてこの作演が為したことは、批評である。演劇作品によって他の演劇作品を批評したのである。丁度、セルバンテスがドンキホーテを書いてそれ以前の騎士道作品を批評したように。このように最高の褒め言葉を用いたのは、今作の批評がそれだけ鋭いからだ。
 今その鋭さの内実は明かさないが、是非、劇場で確かめて欲しい。
第22回公演『素人』

第22回公演『素人』

劇団天然ポリエステル

シアター711(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★★

 寂し部ファイナル、ということもあって敢えて明るい作り。スラップスティックな手法が利いている。(追記2017.12.8 1:33)

ネタバレBOX

 かぐや姫、人魚姫、眠れる森の美女、シンデレラなど5人の姫が、王子を追う、という設定で展開することになる。寂し部恒例の、遅筆・柳にまたしても難題が降りかかった! 次回演目のヒロインがドタキャン、公演が危うくなったのである。代役を立てるにしろ、柳の仕事ぶりを知っている劇団員は、気が気ではない。早速、代役手配に掛かるが唯一OKをくれた女優の所属事務所からは条件が付いた。1週間以内に脚本を先方に渡すという条件である。当然、柳は缶詰に。だが、いつもの伝で柳は自由が無いと書けない。それで缶詰の見張りの目を盗んでまんまと脱走に成功、飲みにゆくが。
 王子らしき登場人物が独りしか居ない作品に登場させられた姫たちの競争は熾烈である。王子と結ばれなければ自分達の生きている意味は無いとの固定観念に縛られた姫たちはあの手この手を用いで王子を探し、アタックを掛ける。その争奪戦の凄まじいこと! 
而も物語の登場人物の中に王子的人物が独りしかおらず、作家を拉致って王子の数を増やせば良い、ということにメタ視点で気付いてしまった姫たちは、柳を拉致、締切迄唯でさえ時間が無い作中では現実世界の寂し部スタッフを大慌ての大騒動に走らせる。この辺りの事情も当然スラップスティックに描かれて、矛盾も深く追求されぬようスピーディーな動きとスラップスティックな手法で乗り切り、寂し部ファイナル公演の淋しさをまぎれさせてくれる。最後の最後には、姫たちも、自分の存在の求める者を連れ合いにするば良いことに気付き、メデタシ、メデタシということになるのだが、この過程を楽しみたい。
暮れゆく箱庭の中で

暮れゆく箱庭の中で

PAPADOG

下北沢Geki地下Liberty(東京都)

2017/11/30 (木) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★★

 序破急の内、破までは帰ろうか? と自問する程、陳腐な展開。尤も下らないギャグや女子の子供っぽい振りをしたじゃれ合いの中に若い女性が笑えるよういなネタは仕込んである。いずれにせよ急に入った途端、総ての意味が明らかになってくるので途中までの冗漫は一種のカモフラージュ及び状況の深刻さを際立たせる為の対比と解釈しよう。(追記2017.12.8 01:40)

ネタバレBOX


 何れにせよ、多くの観客が理解不能な作品ではないだろうか? 問題は主人公の朱音が多重人格者であることに気付くか否かなのである。これに気付けば問題は氷解する。舞台は、学内の余り誰も寄りつかない場所か、彼女のクラスで展開する。そのクラスで消える人々がある謎や風紀委員が矢鱈登場する謎、そして茜の親友であり、優等生、スポーツ万能の真白が担任教師と不倫関係にあり而も彼に貢ぐ為にウリをしているという不可解にも解が得られるのである。
 クラスで消える人々の謎は簡単であろう。総てが、朱音の別人格だからだ。だから、彼女を守る男子は、彼女と性的関係も無いのに、彼女が常に隠していたリストカットの傷を知っている訳だし、彼女を守る盾として女性より膂力の強い男性なのである。また真白がウリをしているのは、彼女の女性の武器である肉体を売って男に貢ぐという汚れ役を代替わりすることによって朱音を守って居る存在なのであり、更に深読みすれば、大人と権威の象徴として描かれている教師自体がもう独りの朱音の分身である。そうであることによって朱音の内部に社会が完成し、分裂体としての自己の安定性を得るからだ。
 これらの代償行為(自己欺瞞)を指弾するのが風紀委員たちである。これも簡単に理解できよう。従って彼らも実際に存在してはいない。
 さて、基本的な種明しはした。ラストをどう解釈するか? それは各々で考えて頂きたい。
『座敷わらし ―眠るは我が愛し子―』

『座敷わらし ―眠るは我が愛し子―』

鬼の居ぬ間に

古民家 asagoro(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

 衣擦れの音一つに、こちらの神経がピリリと反応する。そんな舞台だ。約55分と尺は短い。然し、実に濃密な時空を体験した。(花5つ☆)

ネタバレBOX

役者の演技は無論のこと、緊張感を持続させる演出、上演場所である古民家の風情、しっかり練られた脚本等、何れも素晴らしい。
 時は昭和初期、東北の寒村を思わせる小作農の家。妻・栄が人形を持って部屋に入ってくるが、子守唄のようなものを口ずさんでいる。と鋏を取り出し居もしない子の名を呼びながら、人形の首を切り落とす。その後、腹を裂き、中から内臓を取り出すという異様な導入部である。
 良く観ると暗がりの中たった1つの裸電球に照らされて、障子には何かの札が貼ってある。やがて野良仕事を終えた入り婿の夫・耕六が帰宅するが、食べる物も碌にないこと、妻の父・善次郎が病で臥せっていることなどが、徐々に明らかになる。
 居もしない子供の名を呼び、幻影と遊ぶ妻は、子を失くしたショックでおかしくなっている。而もその有様が並大抵のことではない。妻の幼馴染・礼子が、立ち寄っては何かと助けてくれるのだが、村の掟に縛られ地主には逆らえないという弱点も持つ。即ち貧乏籤は常に小作が引くという不条理が成立しており、余所から婿入りしてきた耕六には不合理極まりのない掟に映る。耕六の持ち出す逃散には、栄も善次郎も応じない。貧乏が嵩じてニッチもサッチも行かなくなっているのに、この地に留まり亡くなった子・三千夫のことは忘れて、新たに子を設けろと善次郎は言うのである。
 こんな状況下、耕六は栄を道連れに無理心中を図るが果たせずに終わる。
 閑話休題。初日が終わったばかりなので、これ以上のネタバレは控えておく。代わりと言っては何だが、ヒントを書いておこう。こけしという人形は誰でも知っていよう。ところで、この人形の名は何故ひらかな表記なのか? 漢字で表すとヤバイ事実が明らかになってしまうからではないのか? 因みに漢字では子消しと書くのではないか? 即ち間引きという歴史的現実を背景に親が自ら殺めた子の魂を弔い、自らの罪を忘れることの無いよう刻んだのが子消しの発祥ではなかったか? ということである。
 今作の抱えている歴史的闇は更に深いのだが、このヒントから、読者は何かを想像して欲しい。
『ゴールデンバット』『セブンスター』

『ゴールデンバット』『セブンスター』

うさぎストライプ

アトリエ春風舎(東京都)

2017/11/29 (水) ~ 2017/12/09 (土)公演終了

 ゴールデンバットを拝見。
 昭和の頃、地方から上京して歌手を目指した女性の人生を、地下アイドルが追想するという作品だが、描き方が変わっている。実際に“憂井おびる”と名乗る地下アイドルが歌ったり踊ったりして再構築もしてゆくのである。破綻あり落胆あり、たった1度だけだが事務所に所属して大盛りカレーライスをぱくつくCMに出たこともある。そんな人生だから察しはつこう。イタイ人には痛い作品かも知れぬ。が、自分はもう入ってゆけない世界になった。故に評価は控えさせて頂く。

月はゆっくり歩く

月はゆっくり歩く

シアターノーチラス

新宿眼科画廊(東京都)

2017/11/23 (木) ~ 2017/11/28 (火)公演終了

満足度★★★★

 月が2つ見える人集まれ! ネット上にこんな内容のフレーズが踊った。半信半疑で決められた日時・場所に三々五々集まった面々。それぞれがそれぞれの事情を抱えつつ、定かならぬが、見えない糸で繋がれたかのようにぽつり、ぽつり、と各々を騙ってゆく。何か裏がある、と疑う者が現れる。新興宗教の教祖狙いの者が現れる等々幻視者に対する「真っ当」や作為が対置されつつ物語は展開してゆくのだが、問題は所謂現実家なる者達の主張することもまた我々の暮らす現実の不確かさの一環を為しているのではないか? ということなのである。その有様が、丁度炙り出しの映し出すいくらかぼんやりした不確かさの怖さとして寓意の形をとって表されている。(若干追記2017.11.28 )

ネタバレBOX

 とどのつまり、アイデンティファイできない人々の孤独が偽のアイデンティティーを作り出す為の工夫。それが、今作の描いた怖さだろう。
火山島

火山島

劇団演奏舞台

九段下GEKIBA(東京都)

2017/11/25 (土) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★

 しっかりした脚本に、演奏舞台らしい真面目で謙虚な取り組み。作品にマッチした演奏と美術、初参加の役者さんが、未だちょっと内面の深みからのレベルには、という点を除き、演技、演出も良い。殊にラストは衝撃である。(追記後送)

サランドラ

サランドラ

ミュージカルグループMono-Musica

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2017/11/23 (木) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

 舞台手前の部分がフラット。但し中央に向かって凸型にせり出しており、奥に向かってゆくに従って階段で高くなった部分、踊り場になった部分などがある。全体としては、中央にあるゴシック様式の門を中心に完全なシンメトリーだ。窓のような部分、建築物上部などには、豪奢を添える草花が這う。
 女性キャストだけで演じているミュージカル劇団だが、ナルシシズムや脚本の甘えを排除して、物語の必然性をキチンと追及しようとしているシナリオの、突っ込みを入れられない訳ではないが、念も良く分かる点が良い。即ち許せる範囲内での非徹底性からは、女性らしさも滲むのだ。歌、踊りの技術の高さ、恋に身を焦がす宿命を作品に託す姿勢にも好感を持った。無論、舞台美術のセンスも良いものであるし、衣装も豪華で見栄えがする。演出も絶えず緊張感のある舞台を作り出してグー。(追記後送)

蒲田行進曲

蒲田行進曲

“STRAYDOG”

明石スタジオ(東京都)

2017/11/22 (水) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

 つか作品の上演で観客を満足させることは難しい。

ネタバレBOX

スピード、テンションの高さ、そして作品の本質である差別を掴み、被差別性に屈折しながらも人としての矜りの為に、人生の難題にぶつかってゆく痛みや苦闘を、はにかみを持って過不足なく演じるのが並大抵のことではないからである。
 今作、この難題に見事に応えた。銀四朗役が、大体、上記のキャラである。が、今作、この構造が2段階になっている所が、傑作の傑作たる所以だろう。小夏をも含めるジエンダー思考で行けば、一部3段階とも取れるのだ。
 何れにしろ、安次の銀四朗に対する態度、そして位置が、差別される者から差別的扱いを受けつつ、掛かるが故に崇拝するというマゾヒスティックな逆転にまで達していることが、今作の構造上の強さである。無論、ズべ公扱いされる小夏が、人間の女性というより時に物として扱われている点からも、このことを指摘することは可能である。
 と同時に女性に対するこのような男の態度が、一種の甘えであることも見逃せない。原作者のつかは、無論この辺りのことも分かった上で書いている訳だし、彼の心の底にある温かさやはにかみ、その柔らかな人間性を充分に作品から受け取るから、誰も文句は付けないのだ。その辺りの事情もStraydogが理解して今作を創っていることが、良く伝わる舞台であった。銀四朗役、小夏役、安次役の演技の良さは無論のことだが、監督役が階段落ち本番の号令を掛けるシーンでは、顔が締まって男の顔をしているのがとても良い。また、ポスト安次を狙った大部屋役者の演技も良かったほか、殺陣のスピード感や技術、体のキレなども良い点が印象に残った。演出的には、殺陣に始まり殺陣に終わる構成で、ファーストシーンとラストの殺陣で配役が若干変わっている点などがニクイ。音響・照明の効果などもグー。
RUIKON

RUIKON

アロック・DD・C

アロック新宿アトリエ(東京都)

2017/11/20 (月) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

 基本的に科白は無い。擬音や擬態を表現するオノマトペは、無論用いられているが。それも頗る効果的に。(必見。花5つ星)第一回追記2017.11.22 02:10

ネタバレBOX

身振り手振りのみならず、表情や仕草、ダンサブルな身体表現と必要最低限のインフォメーション、効果音や雰囲気作りの為の音響、楽曲などと我々の想像力で作品は紡がれてゆく。
観客がイマジネーションを最大限に、而も適確に羽ばたかせるには、大変緻密で的を射た舞台表現が為されねばならないが、Alokは、見事にそれを成し遂げてみせる。日頃の鍛錬と努力、そして感性を磨き知性を磨きありとあらゆるもの・ことを観察するのみならず、他人の仕草や物事に対する対応の仕方などから、所作やそこで生きて働く情動を学び取る姿勢がなければ、こういった表現はできない。
 だが、こういった訓練をキチンとこなし、それに形が与えられると、舞台上の表現と観客の想像力が紡ぎ出す物語は科白劇を凌ぐこともあるのである。

 今作で描かれているストーリーは、普通の鼠とオートマタと呼ばれる自動機械人形とが共存する世界の話だ。錬金術師の持つ能力によって魂を吹き込まれたオートマタは、愛し合ったり、子供を持つことさえ可能だ。だが、そんなオートマタと普通の鼠が共存する世界にも貧富の差があり、豊かな者はオートマタを差別した。そんな豊かな鼠の中にカギヌワが居た。彼女の財力は大したものであったが、子が無いのが彼女の最大の悩みでありコンプレックスの根源でもあった。彼女は召使たちに命じて町中から男を連れてこさせ、子作りに励んだが成功しなかった。そんな彼女が目を付けたのが、貧しいが幸せなオートマタの家族であった。彼女は召使たちに命じて、この家族の父を襲わせ拉致する。抗う父を従わせる為、戒めを解かぬまま、その眼前に彼の妻子迄拉致し・殺すと脅迫。結果、家族を守る為に抵抗することを諦めた父を自分の寝所へ連れ込み行為に及んだ。彼女は妊娠し、子を産んだ。だが、カギヌワは父をその後も監禁し続けた。生まれた子は、彼女がどんなに尽くしてもなつかなかった。食べ物でさえ、拒否されることが多かった。だが、偶々嫌々ながらも手にした林檎を持ったまま彷徨い歩く子は、あろうことか父の監禁されている場所を見付けてしまい、父とは分からぬまま、弱り切った男に何となく惹きつけられて持っていた林檎を与えた。
その後、懐かぬ子にどうしても相手になって欲しいカギヌワは食べ物を与えても食べようとしないどころか手に取ることすらしなかった子が林檎に手を伸ばして取ったことに感銘を受けた。然し我が子が手に取った林檎を食べもしないで歩いてゆくのを不審に思って後をつけてゆく。すると子は、その父が閉じ込められている場所へ出掛けて行って林檎を与えた。父は、その林檎を2つに割り、半分を子供に与え、一緒に食べる。カギヌワは子の現場を見て、修羅を燃やした。自分には決して見せたことの無い子供のそのような様子を見て、強く父を妬んだのである。父を拉致した時同様、カギヌワはまたしても錬金術師に金を与え、遂に父の魂を抜いてしまった。魂を抜かれた父はロボトミー手術を受けた者のようにすっかりインセンティブを失くし廃人と化してしまう。その抜け殻を彼の家に遺棄させたカギヌワだったが、抗議する子供と争っているうちに子に首を絞められ絶命してしまう。子は人を殺したショックから林檎を一緒に食べた男が返された家へ、男が自ら子の首に掛けてくれた形見のような意味を持つペンダントを付けたまま訪ねるが。ペンダントを見た、妻と腹違いの姉が驚きながらも家族であることを示すそのペンダントを返そうとする子を、自分達の家族と認めた。一度は妻に渡された件のペンダントは、母自らの手で再度子の首に掛けられた。それでもまた返すのを今度は姉が子の首に掛けてやる。この直後、魂を抜かれた父が立ちあがり、手を広げて歩いてゆく。

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