グランプリ発表

審査員が第一次審査を通過した10作品を、日本各地の上演会場へ伺って審査し、最終審査会議においてグランプリの1作品、準グランプリの1作品、制作賞の1作品、演技賞の5名を決定しました。最多クチコミ賞はCoRich運営事務局による調査で決定しました。

審査の様子1

審査の様子2

■審査基準
最終審査対象となった10作品について下記の6項目を[5段階]で評価し、審査員5名の採点を合計して平均値を算出しました。

1脚本 (歌詞・テキスト)
2演出
3出演者
4スタッフワーク(美術・照明・音響・衣装など)
5制作・運営
6家族・恋人・友人同伴のお薦め度

■審査の流れ

まず各審査員がグランプリに推薦したい3作品を挙げ、そのうちいずれをグランプリに推したいかを述べて議論を交わしました。対象作品の上演についての議論はもちろん、地域・形態など団体により背景が異なる「CoRich舞台芸術まつり!」の性質上、企画や運営についても言及されました。票は4団体に集中していましたが、約1時間を経て最終的に、最初の推薦で唯一審査員全員から得票した団体がグランプリとして決定しました。

準グランプリ選定にあたっては、候補作品についてさらに個々を深堀り。さらに、第一次審査の項目に「将来のビジョン」がありますが企画・団体としての今後の可能性も視野に入れながら、拠点における活動の方向性や、観客との関係づくりなど、様々な角度から検討しました。

膠着したためにいったん演技賞と制作賞について審査を進めます。
演技賞は、各審査員から合計20名の名前があがりました。うち、得票数の多かった7名と、より強く推したい8名について、推薦者が各々の視点で推薦理由をのべました。その確認のうえで、得票数と、強い推薦を得た俳優5名を演技賞としました。

制作賞については、各審査員が1団体ずつ推薦し、3団体に票が入りました。こちらも準グランプリ同様に個別の背景をふまえた上演・運営・団体・環境など多視点からの議論となりました。そのため、両賞について触れながら、最終的に投票を経て、制作賞そして準グランプリを決めました。

最後に全賞を振り返り、確定の共有をもって審査を終了しました。
審査時間はトータル3時間40分でした。
※最多クチコミ賞の選出はCoRich運営事務局が担当しました。

いよいよグランプリの発表です



・・・ゴホン、今度こそグランプリの発表です!

グランプリ

グランプリ

丘田ミイ子
 ウンゲツィーファ『湿ったインテリア』のみなさま、受賞おめでとうございます!この場を借りて心よりお祝い申し上げます。

 「新居の一室」というドメスティックな風景の中に浮かび上がってきたのは、決して家庭内には収まらない、多様で複雑な社会の姿でした。特定の世代や時代における結婚、出産、育児といったトピックに終始せず、さらにその上の世代である親と子の関わりに視野を広げ、人々がその生い立ちから受ける影響に眼差しを向けること。それは個人を全体に回収する事なく、個を個として見つめることそのものであったように思います。

 複雑に絡み合う人間関係の中でありありと浮かび上がってきたのは、「人をどう育てるのか」ではなく、「人にどう育てられたか」であったように私は感じました。無論「誰かの親である人間」よりも「誰かの子である人間」の方が世の中には多く、結婚や出産を選ばない人もいる。そう考えた時に、本作は「育児」を一つのテーマに据えながらも、その実、人によって育てられざるを得ない、他者とともに生きざるをえない人間の姿を生々しく描いていたのではないかと思います。それらの一つひとつが相対化されず、各々の絶対的な苦しみや葛藤として描かれていた点、俳優陣の繊細な表現力、スタッフ陣の尽力によってそれらが迫り来る劇体験として叶えられていた点も素晴らしかったです。劇の内部に凝らされた工夫もさることながら、世代を横断した俳優をキャストに起用することの豊かさをも同時に痛感する作品でした。作・演出・俳優・スタッフ、関係者の方みなさまに捧げるグランプリです。おめでとうございます!
河野桃子
 手触りは生活のなかにあるのに、まるで宇宙の奥深くに吸い込まれていくような。それは、作風として日常にファンタジーが編まれているからだけでなく、劇場にいたはずがいつしか遠い場所や時間へと続いている感覚に陥っている……つまり、演劇による旅に誘われていたのでしょう。生活と非現実が両立するその説得力と、しかし心地よい違和感は、今なお身体感覚として残っています。
 上演に携わる各々の立場から高いクリエイティビティを集結させ、立体的に劇場にうまれていく作品は、審査においては「選ばざるを得ない」という選択を導くことが多くあると思います。この作品もまたそうでした。審査会冒頭での複数団体への投票で多くの票を獲得し、そのうえであらためて「本当に良いのだろうか」と様々な角度から再考した先に「やはり」と決められたこと。とくに『CoRich舞台芸術まつり!』は上演環境や背景の異なる公演が対象となり単なる作品評価では審査しきれないなか、グランプリとして選ぶ後押しをしてくれる作品の力と信頼感に出会え、嬉しく思っています。
曽根千智
 グランプリ受賞、おめでとうございます。作品内容はもちろんのこと、制作はじめスタッフワークも含めた作品総合力に対して満場一致でのグランプリでした。登場人物たちはみな不器用ながら愛情豊か。それぞれの戸惑いの中を懸命に、少しだけ近くの人に寄りかかりずるく甘えて生きています。余計な力の入らない自然体の俳優の演技が、スピーカーの赤ん坊の存在感を引き立て、その声に耳を澄ます場を丁寧に作り上げていました。鼻をすする音や笑い声も聞かれ、孤独を分け合うような会場のやさしい一体感を感じた鑑賞体験でもありました。身近な人を思い出しおすすめしたくなる上演で 『CoRich舞台芸術まつり!』 にぴったりの作品でした。
深沢祐一
 私は生まれてこなければよかったのか。絶望を味わったことのあるひとならば抱くであろうこの答えのない問いを、本作はこのコミカルな不条理劇で観客に提示した。平易な言葉で登場人物を深く掘りさげた劇作を、出演者の見事なチームワークが立体化した。小道具を巧みに用いたテンポのいい転換としっとりとした照明も、作品に多大な貢献をしていた。さんざん笑ったあとにズッシリしたものが残る作品にグランプリを贈ることができることを嬉しく思っている。
松岡大貴
 母親と実の父親と、血の繋がらない父親と、その母親と、実の父親の母親が繰り広げる「昼メロ的ネオ愛憎劇」と説明すると、いかにも共感できない人物たちが繰り広げるエンターテイメントを想像するわけですが、その見事な作劇と人物描写、世界観を伝えるスタッフワーク、俳優たちの魅力的な演技により、ウンゲツィーファ『湿ったインテリア』は最初の投票で審査員全員の票を獲得されました。
 審査や選考に関わる機会が増えると、舞台芸術において“クオリティ”ということが仮にあるとして、それをどこまで重視するのかは様々な議論があるなと悩むのですが、その“クオリティ”があるところまで行くと、その作品が評価されることを妨げると審査する側がおかしな事になる作品というが稀にあり、ウンゲツィーファは現在そのような事になっていると感じます。そしてそのような作品は、“クオリティ”がどうとかいう話を差し置いても面白かったり意義深かったり素敵なことが多く、『湿ったインテリア』はそのような作品になっていたと思います。
 では、残すは、(審査員としての)自分の価値観や好みという事になりますが、戯曲の構成力や限られた時間の中での登場人物の掘り下げ、華美ではないが場面を推進する照明、赤ちゃん見立てスピーカーを含めて拘りを感じる音響、昨年の評価とリクリエーションによる“クオリティ”担保で見事な動員力を発揮した制作判断、とてもポジティブに受け止めています。
 つまるところ、グランプリに相応しいと思います。おめでとうございます。

ウンゲツィーファには、賞金100万円・次回公演のバナー掲出権(最長3週間)・次回公演の「CoRichチケット!無料利用権」および「チラシ広告+メルマガ掲載20日間」が贈呈されます。

そして準グランプリは

準グランプリ

準グランプリ副賞


バナー掲出期間:2025年末までに初日を迎える次回公演の、初日1週間前から千秋楽まで(最長3週間)。
「CoRichチケット!無料利用権」および「チラシ広告+メルマガ掲載20日間」も同公演にてご利用ください。

※審査員によるグランプリに推薦したい3作品によって得票し、かつ、準グランプリ賞候補として議論の中心となった作品はこちらです。

(上演順)
・コトリ会議『おかえりなさせませんなさい』
・南極『wowの熱』
・優しい劇団『絵本町のオバケ屋敷 〜愛!いつまでも残るの怪!〜』

あまい洋々

あまい洋々(東京都)

作品タイトル「ハッピーケーキ・イン・ザ・スカイ

平均合計点:21.8
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
コトリ会議

コトリ会議(兵庫県)

作品タイトル「おかえりなさせませんなさい

平均合計点:24.6
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
世界劇団

世界劇団(広島県)

作品タイトル「零れ落ちて、朝

平均合計点:21.4
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
南極

南極(東京都)

作品タイトル「wowの熱

平均合計点:25.0
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
ぺぺぺの会

ぺぺぺの会(兵庫県)

作品タイトル「悲円 -pi-yen-

平均合計点:21.0
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
ムシラセ

ムシラセ(東京都)

作品タイトル「なんかの味

平均合計点:23.4
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
まぼろしのくに

まぼろしのくに(東京都)

作品タイトル「kaguya

平均合計点:19.4
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
優しい劇団
平均合計点:23.6
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
劇団UZ

劇団UZ(愛媛県)

作品タイトル「牧神の星

平均合計点:23.0
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴
ウンゲツィーファ

ウンゲツィーファ(東京都)

作品タイトル「湿ったインテリア

平均合計点:26.2
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴

演技賞を受賞されたのは5名の方々です。おめでとうございます! (あいうえお順・敬称略)

上松知史(劇団UZ「牧神の星」に出演)

審査員より(深沢)
 ある地方劇団の座長であるクボタは、敗戦直後に放送所占拠事件を起こした軍人をどう演じればいいのか悩んでいた。冷静沈着だが内に激情をたぎらせているこの人物に近づくべく、セリフから刀の持ち方に至るまで稽古を続けている。役に近づくための修練の日々と、さまざまな事情を抱えている劇団員たちをまとめあげるクボタの苦悩を表現した上松知史は、まさしく『牧神の星』の要であった。主要役以外にも数役を兼ねた幅の広さと柔軟な身体にも瞠目した。

小林冴季子(世界劇団「零れ落ちて、朝」に出演)

審査員より(丘田)
 グリム童話の『青ひげ』を下敷きに、戦時中の医者の功罪を描いた『零れ落ちて、朝』。
 小林冴季子さんが最初の台詞を発した瞬間、劇場の空気が一変したと感じました。観客に聞かせるようでも、自身に言い聞かせるようでもあったあの語り口は、小林さんの身体と役の身体がぴたりと離れず、一つになっていることを物語っているようでした。「夫の潔白を偽装させられる」という意味では一人の被害者でもあり、同時に「その罪を隠蔽する」という意味では加害者の一人でもある。そんな複雑な役どころを生々しく、切々と体現されたその姿に俳優としての強い信念と覚悟が宿っていたように感じました。その果敢な挑戦に心より喝采をお送りします。

花屋敷鴨(コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」に出演)

審査員より(曽根)
 演技賞受賞、おめでとうございます。狂気を目にたたえた母親の演技が素晴らしかったです。台詞を発する少し前に感情が少しだけ先走り、かつそれを飲み込んで揺らぐ表情は、表向きは穏やかだが振る舞いに違和を生じさせる母親である山生水の人格を的確に捉えた演技だと感じました。戦禍に暮らす拠り所ない身体の落ち着かなさと、母親として目の前の家族の気持ちを汲み取ろうと必死に目の奥を覗こうとする切実さが一人の人間としての実存を確かに獲得しており、SFを扱う本作品世界への説得力を強く感じさせていました。なお、本公演フライヤーのイラストは鴨さんが描かれたとのこと(多才ですごい!)

松田弘子(ウンゲツィーファ「湿ったインテリア」に出演)

審査員より(松岡)
 もし、本作のこの役が松田弘子でなかったら、我々は本当に今のように受け止められていただろうか。当世風に言うなら“毒親”と揶揄されてしまいそうな母親の拘りは観客の嫌悪感を煽り、あるいは息子のいないなかで気まぐれなSFに振り回される母親の風景はあまりに残酷にみえたかもしれない。
 けれど松田弘子が表現するある種の純粋さは、母親の拘りを一つの愛情として、SFに振り回される様を一つの喜劇として提示してくれる。僕は知りたい、あの母親が今後どうなるのか。どうか絶望ではなく希望の未来があって欲しい。チープな結末で良い、彼女が幸せになるのなら。
 グランプリ作である本作の出演者はいずれも高い評価を得ていました。それでも代表としての演技賞ではありません。松田弘子さんは特別でした。特別でない、一人の母親として。

松永玲子(ムシラセ「なんかの味」に出演)

審査員より(河野)
 全員が魅力的で俳優として力強くあるなか、飲み屋の関西弁のママという設定があっても過剰かと思えるほど騒がしく、けれどもそこに説得力・吸引力がありました。なにせ間が刺激的で、気づけば引き寄せられているのです。さらに物語が進みその佇まいの理由がわかってくると、見えている以上の光景が広がります。
 共演者と呼応しあいながら、自身の「役」だけでなく「役と相手のあわいにあるなにか」を浮かび上がらせていく。役と物語に脚本以上の説得力を持たせ、関わる人たちの人生をも想像させる。そこには俳優の技と魅力が詰まっていました。温もりを携えたこのママのいるお店の常連になれるほどの、深みある人生を歩みたいです。

演技賞副賞

制作賞

制作賞副賞

 本公演は、稽古場として利用していた倉庫を自分たちで改修した「アトリエhaco」の柿落としでした。まずは松山という劇団の公演場所が限られた地域に、自分たちで新たな場所を作り観客を迎える取り組みと姿勢が特徴的でした。劇場ではないため、会場の温度やトイレなど環境の整備には苦労や改善点も見られますが、会場外には地元の飲食店による出店のほか、舞台感想会の実施やチラシ展示、チケット割引の設定など「観劇をする」というだけでない場づくりが工夫されていました。スタートをきったばかりのタイミングではありますが、劇団としてこの地でどうありたいか、自分たちの場所をどうしていきたいかが随所に体現されていました。

最多クチコミ賞

最多クチコミ賞副賞

『なんかの味』の「観てきた!」クチコミ数は42件でした(2025年7月18日時点)。
2025/3/13(木) ~ 2025/5/27(火)の公演について、こりっち審査員のクチコミ評も含めた投稿数を計算しました。
最多クチコミ賞は「観てきた!」クチコミの数がもっとも多かった団体に授与されます。

丘田ミイ子

 今年は58の応募作品の内、最終審査対象として観劇した10作品をはじめ、個人的に観劇した9作品を加えて合計19作品を観劇することができました。まずは、本まつりへのご参加と最終審査対象作の全てが無事公演を完走されたことに改めて感謝と喜びを申し上げます。審査においては、「作品そのものの持つ力」と「団体の在り方」をどう考えるかを念頭に据えながら、それぞれの考えや疑問を交わしました。意見が割れることもありましたが、作品と団体の魅力や個性を紐解く上でいくつもの視点があることを改めて痛感した時間でした。4名の審査員の皆様にもこの場を借りてお礼申し上げます。

 グランプリにおいては比較的審査員の意見が一致する形で議論が進み、最初の投票から審査員全員が候補票を投じていたウンゲツィーファ『湿ったインテリア』に決定をするに至りました。一方で、準グランプリと制作賞については、想定していたよりも審査時間を要しました。その内容をお伝えするにあたって、私が審査内で名前を挙げた団体とその理由を予め明記しておきたいと思います。

 最初の段階で、ウンゲツィーファ『湿ったインテリア』、優しい劇団『絵本町のオバケ屋敷 〜愛!いつまでも残るの怪!〜』、南極『wowの熱』の3作品に候補票を投じました。個人的に好感を持った作品は他にもあったのですが、舞台と客席を横断した熱気や、観客とともに濃密な時間を創り上げようとするあらゆる奔走において上記3団体の上演や取り組みが印象深かったことがその投票の理由の一つでした。無論、主題の深度、創作や表現における新しさ、演劇を通じた社会への眼差しなどそれぞれに様々な魅力が挙げられますが、観客参加型の催事であることを鑑みた上で、客席の反応が一つのフィードバックであると感じたことも実感として大きかったです。

 今回の審査において、私がいつも以上に悩ましく感じた点は準グランプリや制作賞を一つに決めなくてはいけなかった点でした。私個人としては、優しい劇団『絵本町のオバケ屋敷 〜愛!いつまでも残るの怪!〜』は何らかの評価に値するユニークかつ斬新な取り組みであったと感じており、そして、現状ある日本内の賞レースや演劇祭を思い浮かべた時に「CoRich舞台芸術まつり!」という催事でこそそうしたことができるのではないかという考えがありました。同時に、南極の『wowの熱』という作品、そして団体の持つエネルギーにも同じくらい感銘を受けていたこともあり、準グランプリの決定に異論は全くなく、こちらも比較的スムーズに決定に至った感触があります。しかし、そうなった時に、残る制作賞や演技賞の議論とその投票において、私個人としては優しい劇団やその出演俳優への票を最後まで動かすことができませんでした。

 普段は別々の土地で生活をしている俳優がエリアや世代を横断して集まり、1日限りの演劇を作りあげる。そのパッケージによって、普段は叶えられないこと、見られない風景を実現していると感じたこと。そして、その機会によってこそ出演できる俳優がいるということを想像した時に、俳優の「場」として、演劇の「形」としてこれまでになかった一つのモデルとしても評価に値すると考えたからです。社会人として働いていたり、子どもを育てていたり、介護をしていたり、様々な生活の背景を背負いながら生きている俳優が「1日だったら出られる」ということもあるかもしれない。その上でも優しい劇団の取り組みは、「演劇」という営みの価値と可能性を見つめ直し、外へとひらいていくための一つの発明であり、俳優を続けていくことが厳しい日本においてその機会の必要性を痛感する作品でもありました。一方で、「1日で作り上げた演劇」と「一定期間の稽古を経て上演された演劇」は当然ながら同じ尺度で図ることができない、という難しさを感じたのも正直なところでした。

 同じく東京以外の地域で演劇活動を行い、地域性の持つあらゆる特質と向き合いながら、プラットフォームとなる場づくりに真摯に取り組まれている劇団UZの在り方もまた広く知られる必要のある、非常に素晴らしいものであると感じました。その取り組みと優しい劇団の取り組みを比べること、比較して「どちらが賞にふさわしいか」の一択に進まなければならないこと。催事としてあるべき姿であることは理解しつつ、今回はとりわけその点を心苦しく感じました。
 舞台芸術活動の持続を巡る様々な困難がある中で、カンパニーを旗揚げし、運営していくことはどの団体にとっても計り知れない苦労があることと感じます。一つの催事に参加することにおいても相当な労力と時間が必要です。そんな中で本催事に応募し、個性あふれる作品を発表された団体の皆さまに改めて敬意を示したい思いです。観客の方のクチコミ参加にもあわせてお礼を申し上げます。そして、舞台芸術の今を見つめるこの催しが、今後も当てられるべき光が当てられる、語られるべき言葉が語られる機会であることを切に願います。

河野桃子

 同じ作品でも、ある場所で上演されれば戦争のプロパガンダになり、ある場所で上演されれば反戦の訴えになることがあります。

 2月からの一次審査~最終審査会を終えて、あらためて『CoRich舞台芸術まつり!』の特徴のひとつである「応募団体の選んだ時間・場所で観劇すること」の喜びと、審査における難しさを感じました。
 一次選考では、魅力的な作品があっても移動距離の問題で同時期に多くの団体を選ぶことが物理的にできず、後ろ髪をひかれたこともありました。
 最終選考では、実際に会場に足を運びます。団体によってこだわられた案内に導かれ、公演を待ち望む観客とともに客席に座ることは、そのカンパニーのあり方そのものを感じられるような体験です。

 ひとつの劇場に作品を持ち寄って上演するフェスティバルではないからこそ、各団体がその場所でなにをなぜ上演し、そこにどのような人が集まり、その人たちとどのような関係を築いているのか、それら上演背景について団体がどういう発信をしているのか……そういったことを考えずに審査をすることができません(すくなくとも私は)。
 審査会では、各審査員がそれぞれのまなざしの違いを丁寧な言葉の積み重ねによって共有し、新たな視点を拓かせてくれました。

 今年はとくに選考が困難な年でした。公演に対するあり方が団体ごとにあまりに違う。どれもが固有の、どれもが特別な体験でした。あらためて、作品を観ることだけが観劇ではないのだと実感する3か月を過ごすことができ感謝します。思いと力をかけた上演の場に呼んでくださった応募58団体のみなさま、実際に迎え入れてくださった10団体のみなさま、ありがとうございました。

曽根千智

 今回初めて臨んだ上演審査でした。10団体10公演の上演はどれも個性が強く、小劇場の観客との関係性の多様さ、また観客同士の間の緊張感や連帯に由来する手触りをそれぞれ改めて発見していく過程は刺激的な時間でした。ですので、グランプリを決めるのは難儀でした。舞台芸術の評価指標のひとつとして「成立しているか」「機能しているか」という言葉で作品の質を見極めようとすることがありますが、そもそも芸術が成立・機能するとは具体的に何を指すのかまでは共有しづらいです。実作者側が作品意図を理解してもらえないのではないか、誤解されるのではないか、十分に伝わらないのではないかと懸念するのと同じように、審査側にも、意図を受け取れていないのではないか、受け取るための時間軸が違うのではないか、前提を拾い損ねているのではないかという恐れが常にあります。審査会ではこの恐れを正直に共有し、作品を再発見・再評価し、さらに次なる価値軸をどのように拾い上げていくかを考える場でした。私は最終審査で、ウンゲツィーファ、南極、コトリ会議の3団体に票を入れましたが、この3団体は観客を巻き込むための「上演の勢い」を逃さず捉えていたと感じています。成立不成立や機能の有無ではない価値軸を新たに自分たちで作り、それを信じて客席に提示していると思いました。「日本全国の面白い舞台芸術に出会いたい!」を掲げて行われるCoRich舞台芸術まつり!が、今後もまだ見ぬおもしろさに開かれ続けるイベントでありますように。一緒に作り上げてくださった参加団体のみなさまに感謝いたします。

深沢祐一

 例年同様につつがなく催事を終えることができたことに安堵している。

 昨年ほどではないが今回のグランプリ会議も難航した。グランプリは早くに決定したものの、それ以外の団体への票がバラけたために細かな議論を続けたためである。

 グランプリには上演順に1)ムシラセ『なんかの味』、2)劇団UZ『牧神の星』、3)ウンゲツィーファ『湿ったインテリア』を推薦した。1)はよく練られた脚本と俳優4名のチームワークを、2)は地方の現実から国家を問う姿勢を、3)は脚本、演出、スタッフワークそして俳優の総合力を評価した。

 そのあとの準グランプリは各審査員で票がバラけた。私は当初南極『WOWの熱』を推薦していなかったが、他に類を見ない手の込んだ劇作を立体化した手腕は評価しているため最終的に票を投じた。できたてのアトリエでの上演を実現し、当日はカフェや感想交流会の開催など、観客へのきめ細やかな配慮が光った劇団UZ『牧神の星』に制作賞を贈ることができることは喜ばしいと思っている。演技賞の結果も至極納得できるものである。

 末尾になったが参加団体と関係各位に深くお礼申し上げる。

松岡大貴

 すべての作品が無事に上演され、10団体すべての舞台を見届けられたことに、まずは静かに胸を撫でおろしています。改めて、参加いただいたすべての方々へ感謝の気持ちを伝えたいと思います。  本年もまた、形式も手触りも異なる多種多様な作品と出会いました。あるものは鋭く現代社会に、あるものは沈黙の中に微細な感情を、あるいは一瞬の時間を用いて新たな風景を立ち上げていく。それぞれの作品が、それぞれの論理と倫理で世界と接続していました。
 そうした中で、毎年のように自問するのは、「選ぶ」ことの意味です。グランプリ評もふまえると、そもそも舞台芸術に“クオリティ”と呼ばれるものがあるとすれば、それは技術的完成度か、それとも何かを突き破る衝動か。作品がもはや“評価される側”としてではなく、審査そのものを問い直すようにこちらに向かってくる瞬間があります。それはこの「CoRich舞台芸術まつり!」を逆照射し、選ぶとは何かを突きつけてきます。
 それでも審査という営みが、創作環境を守り育むための一つの技術であるならば、その不確かさを抱えたままでも、確かに意味があるのだと信じています。

 今もなお、遠くない場所で無差別な暴力が日々の暮らしを奪い続けています。ある地では爆撃が降り注ぎ、声を上げることさえ叶わぬ命が失われ、また別の地では終わりなき侵略と報復の連鎖が続いています。そのような現実に思いを馳せるとき、創作の場に身を置くこと、表現と向き合うことの困難さを痛感せざるを得ません。
 またその現実を前にして、自身の悩みや葛藤を見つめる事さえ憚られる瞬間もあるかもしれません。そうした無力感や葛藤を抱えながらも、表現を紡ぎ続けることは、簡単なことではありません。  けれど、創作の道がいつも明るく照らされているわけではないことを知りつつも、それでもなお続けられるその歩みは、静かに、しかし確かに新たな表現を積み重ねて行き、多様な価値観を抱きつつ共に歩む世界の基盤となると信じています。そして、その表現とは皆さんの作品のことに他なりません。

 CoRich舞台芸術まつり!が、創作や表現を続けようとする人々にとって、小さくても確かな足場となることを願っています。

「CoRich舞台芸術まつり!2025春」開催決定!

たくさんのご応募をお待ちしております!

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