KAEの観てきた!クチコミ一覧

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死の舞踏

死の舞踏

演劇集団円

ステージ円(東京都)

2008/07/17 (木) ~ 2008/07/31 (木)公演終了

満足度★★★★★

夫婦の愛憎劇の秀作
すごく昔の他の国のお話なのに、とても、臨場感と、思い当たる台詞が随所にある、興味深い内容で、終始食い入るように目撃したという感覚の芝居でした。
橋爪さんの舞台は久々でしたが、やっぱり巧いなあとただただ感心。
円は遠くて敬遠しがちですが、やっぱりこれからはちょくちょく行こうと思うきっかけになった舞台でした。
一緒に行った哲学専攻の長男と、観劇後の会話が弾みました。

キャンディード

キャンディード

東宝

帝国劇場(東京都)

2010/06/02 (水) ~ 2010/06/27 (日)公演終了

満足度★★★★

亜門版とは全く別物
亜門版「キャンデイート」を4回程、過去に観ましたが、まさかこうまで異質だとは思いませんでした。
亜門版は、ストーリー展開がスピーデイで、曲も、一人一人じっくりと聴かせる演出で、完全に、オペラ的ミュージカルでしたが、ケアード版は、ミュージカルではありながら、全く音楽が掛からないシーンがかなりあり、ある時は、まるでストレートプレイ並みに、じっくり一人語りをさせたり、かなり、両者は演劇表現が対極でした。
どちらも、一長一短で、私は、全く別の作品を観る思いで、楽しめました。

ケアードさんのミュージカルは、いつも、歌も演技も共に水準以上のキャストを選ぶので、役の掘り下げという視点から見ると、断然こちらに軍配が上がる気がします。
特に、井上さんと新妻さんは、東宝以外の舞台で、いろいろ験算を積んできただけあって、この2人のコンビによって、初めて、「キャンデイート」という作品に魂が込められたように感じました。2人の歌唱も文句なし。
そして、驚くことに、あの帝劇を、水を打ったようにシーンとさせて、まるで一人芝居の独壇場を見せて下さった阿知波さん。これは必見ものでした。
惜しむらくは、市村さんの活舌の悪さ。パングロスの時はまだいいのですが、ストーリーテーラーのウ゛ォルテール役の時の台詞の語尾がほとんんど聞こえず、ちょっと舞台への集中の邪魔をしました。

照明がため息が出る程、美しく、何だか動く絵本でも見る様。
冒頭シーンは、マリオネットの人形劇風だったし、ケアード演出のセンスの良さに満ち溢れた、本当に、素敵な舞台芸術でした。

市村さんの台詞には、若干不満があったものの、トータルすると、ケアード版の方が、遥かに好きです。ストーリーを追うより、人間描写に力点が置かれ、とても哲学的で、人物に感情移入しやすくなりました。

オペラのような、歌詞のない歌の部分にも感情を込めて歌える、新妻さんには心からの賞賛を惜しみません。本当に、力のある女優さんになられて、初舞台から観ている私は、その部分にも感涙してしまいました。

ネタバレBOX

亜門版に比べてスピーデイさに欠けるので、ストレートプレイを観るような集中力が必要でした。
亜門版では、男爵のお城でのシーンがもっと長かったのですが、こちらは、あっという間にキャンデートは、追い出され、旅に出てからのエピソードに重点が置かれています。
オペラ式に、各人の独唱シーンがメーンにはならず、あくまでもテーマ性重視、人間に視点が当てられた舞台構成でした。
帝劇で、オーケストラを舞台後方に配置し、円形の張り出し舞台にしたのも、初めて観たように思いました。

一番驚いたのは、阿知波さん扮する老女が、自分の悲惨な身の上話を語る件。一切の物音がない中で、観客全員固唾を呑んで、阿知波さんの台詞に耳をそば立てていて、こんな帝劇の舞台は、初めての経験でした。いつも、どこかで、ビニールの音や、ひそひそ声や鼾なんかが聞こえるのは、帝劇では仕方ないと諦めていたのに、これだけの人間を集中させることが可能なんだと、本当に目から鱗状態でした。
あー、こんな風に、もっと、歌も演技も両方バッチリのミュージカル上演を日常化してほしいと、つくづく思ってしまいました。

でも、やっと、東宝は、四季出身でも宝塚出身でもない、実力派の若手ミュージカル俳優を何人も輩出できるようになったなあと、井上さんと新妻さんの名演を観ながら、感慨深い思いでした。
最後の「メイク・アワー・ガーデン・グロウ」は、もう少し、メロデイアスなアレンジだったら、尚嬉しかったのですが…。

亜門版では、絶世の美少年というキャラクターだった役を坂元さんが演じることに違和感を感じていましたが、ケアード版では、この役は完全に道化役で、坂元さんにはピッタリで、ほっとしました。
タイタニック TITANIC the musical

タイタニック TITANIC the musical

フジテレビジョン

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2009/01/24 (土) ~ 2009/02/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

初演より進化した舞台に涙が出た
母の演劇部の後輩、宝田明さんの舞台なので、初演に続いて観に行きました。
実は、初演の印象はあまり芳しくなく、初演より再演が上回っていたという観劇体験も滅多にないので、あまり期待していませんでしたが、これは群を抜いて、再演舞台が上を行っていました。
初演では、有名どころをキャストに揃えたものの、アンサンブルがその分、キャステイングに気を抜いたのか、1等船室の客が、とてもそんな風情には見えず、皆が、バラバラな演技をしていて、舞台全体のトータル感が皆無でした。
それが、再演舞台は、無名でも実力あるキャストを揃え、それぞれの役作りが、進化していて、涙を誘われる場面が多々ありました。
松岡さんも、ミュージカル俳優として、成長され、宝田さんの威厳はお見事でしたし、昔から注目していた、アンサンブルの役者さんの目覚しい成長振りも嬉しくなりました。
この演出家は、私の経験上、再演舞台の方が、数段進化する数少ない演出家のお一人です。きっと初演の評判に素直に耳を貸されるタイプなんでしょうね。
楽曲も素晴らしいし、是非再々演して頂きたいのですが、宝田さん、階段の上り下りがかなりしんどいとおっしゃっていたから、難しいでしょうか?

ネタバレBOX

戸井さんの制服姿が素敵でした。
つちのこ

つちのこ

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2010/06/04 (金) ~ 2010/06/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

手連れ揃いで、嬉しくなる!!
久しぶりに、新劇の芝居で、パーフェクトな仕上がりの舞台を観劇して、感無量でした。
こんなに、出演者全員の演技に大満足できる公演は、かつて観た記憶がありません。
客演続きで、本公演出演がお久しぶりな、石母田さん目当てで行きましたが、増子さん、石母田さんばかりでなく、青年座の皆さん、ここ数年で、飛躍的に、喜劇タッチのお芝居が上達され、昔からの劇団ファンとして、舞台の間中、嬉しさにニンマリしてしまいました。演出の黒岩さんも、さすが。スタッフ技術まで含め、非の打ち所のない傑作舞台でした。

青年座、名優や名演出家が次々亡くなり、高畑さんや山路さんは、客演ばかりで、将来を心配したりしていましたが、杞憂のようでした。
小劇場の才能溢れる作家に次々書き下ろしを依頼し、それが見事に花開いて来た感じで、今後の劇団公演が益々楽しみになりました。

散歩道楽の太田善也さんの脚本も隙がなく、秀逸なストーリー構成で、散歩道楽の公演も一度観てみたくなりました。

ネタバレBOX

いつも、サラリーマンタイプの役どころの多かった高松さんが、床屋の主人役で、最初、高松さんとは気付かない程、役になり切っていらして、いつの間にこんな名優になられたのかと、感動してしまいました。
青年座の役者さんて、真面目に演じすぎて、今までは、笑いを取るのが苦手な方が多かったのに、この芝居、終始、笑いが絶えず、青年座の底力アップの実感がありました。

1972年の田舎町の空気もよく出ていました。
五作が、何度も口にする、「人は身の丈に合った暮らし方をするのがいい」という台詞、何度もになると、またかと思うところで、信彦に「またその台詞ですか?気に入ってるんですね。」と言わせるところが、太田脚本の秀逸さの一端を表していて、お見事でした。
最後の落としどころもセンス良く、太田さん、気になる劇作家になりました。
シュート・ザ・クロウ (イギリス)

シュート・ザ・クロウ (イギリス)

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2009/04/10 (金) ~ 2009/04/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

秀逸な外国映画のようでした
青年団系の芝居によくある、始まる前から、出演者が舞台上に意味なくいる演出、普段はあまり好きではありませんが、この芝居に関しては、そこから既に秀逸でした。
だって、出演者が、全員、既に、左官職人として、壁を丹念に塗り固めていたから…。特に、平田さんの存在感は見事としか言いようがありませんでした。何十年も、この仕事を黙々とやり続けて来た本物の職人さんにしか見えない。以前から大好きな役者さんを、更に大好きになり、尊敬しました。

アイルランドの芝居って、何故か、行ったこともない国なのに、懐かしさがあり、胸が締め付けられるような息苦しさを追体験するような劇後感をよく感じるのですが、この芝居もそうでした。
同じ職場の微妙な人間関係、生活の不安や厳しさ、どこか、違う場所に逃げ出したくなる閉塞感…、そういった、微細な感情の縺れが、写実に描かれ、見事な作劇でした。
相変わらず、田村さんの、セット使いの巧さには驚嘆もの。

平田さん、板尾さん、阿南さんの演技が互角で、まるで、昔のヨーロッパ映画の秀作を観るようでした。
惜しむらくは、柄本さん。屈折してナイーブな青年役は、任に合っていましたが、如何せん、活舌が、お父様譲り。映像なら何とか拾ってくれるでしょうが、劇場だと、大切な台詞が聞き取れず、致命傷でした。

ネタバレBOX

とにかく出演者の、名人職人振りが、あっぱれで、あの壁、公演の度に、また元の状態にするのか、その都度、新しい壁を塗るのかと、余計なことが気になってしまいました。職人芸を見事に演じきる、役者さんの職人芸に、心酔しきりでした。
恋女房達

恋女房達

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2010/06/03 (木) ~ 2010/06/08 (火)公演終了

満足度★★★★★

極上のアラカルト料理でした
「発想の豊かさ」という、高級調味料で味付けされた、まさに極上のアラカルト料理、堪能させて頂きました。

以前、評判高い劇団の芝居を観に行った時、芝居そのものにはがっかりしたのですが、アフタートークで、初めて、生小夏さんを拝顔し、こんなに可愛い女性が、素敵な作劇もなさるなら、神は、何物お与えになったのかと、実は、半信半疑で、青☆組を初観劇しましたが、噂は本当でした。とっても、素敵な作品ばかりでした。観客の予想を上手に裏切る技量も大したものです。あんなに、若くて、可愛らしい感じの女性なのに…。御見逸れしました。こうして、若い才気に巡り合うチャンスがあるから、観劇はやめられないのですねえ。

何だか、最初から最後まで、心を前のめりにして、見入ってしまいました。
本公演も、今から、とても楽しみです。

ネタバレBOX

「恋女房」…保険外交員役の斉藤さんの演技が抜群でした。本当に、保険外交員の雰囲気!!驚くべき現実に、目を白黒させる様子が、実にお見事な表現力で、一目でファンになりました。大西さんのコメデイエンヌ振りも相変わらず。3人の妻のシュールさ加減も絶妙な匙加減で、おいしい前菜を頂きました。

「燃えないゴミ」…いるいる、こういうおばさん!年配女性役の羽場さんの演技が最高でした。それぞれの独白シーンは、台詞にもセンスが溢れ、ちょっとゾクっとしましたが、惜しむらくは、唯一男性出演の田村さんの目に、一瞬、物怖じめいた雰囲気を感じてしまったこと!女性陣に気圧されたのかな?登場人物、女性だけにした方が良かった気もしました。

「スープの味」…これは、実にお見事な、変化球劇でした。観客の予想を裏切る技量の小気味よさに唸り、最後は、大西さんの名演に、気付いたら、頬に涙が落ちて来ました。「スゴイよ!小夏さん」と、心で、突っ込みいれました。

「押しかけ女房」…これも、予想できない展開でした。最初、女房は、主人公の分身かと思いました。あんな幕切れになろうとは!
ただ、そうすると、主人公の好みをあそこまで女房が把握していることが、やや不思議な気はしましたが、まあ、いいかと、小夏さんの術中に、素直に嵌ってしまいました。
独り身の複雑な女心を、木下さんが、バッチリ魅せて下さいました。

「赤い糸」…何だか、とってもほっこりする、可愛らしい作品でした。イチゴ味の食休めの冷たいデザートみたい。台詞の随所に、個人的に受けてしまい、終始クスクス笑って観てしまいました。何か、この男性、私の身近にいるタイプなので…。

「末永い夜」…向田邦子さんの戯曲を彷彿としました。この作品が、一番王道かも。ストーリー展開は予想通りでしたが、キャスト陣の自然な演技の好演で、やはり、従来の作品にはない深みを感じました。三男役の芝さんが、中でも光っていました。

星新一や、清水義範や、向田邦子や、サキや、オー・ヘンリーや…、先人作家のエキスを入れつつ、独自の味付けで、よりおいしい手料理を御馳走して下さった、小夏さんに、本当に感謝です。
ここに、登場する、女房って、男性が思い描く女房像な気がしましたが、ひょっとして、小夏さんて、外見と違い、心は、男前なのかなと、想像してしまいました。


-初恋

-初恋

Cucumber

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2010/06/04 (金) ~ 2010/06/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

今井さんの絶妙演技、必見ものです
ずっと観たかった「初恋」やっと拝見できました。
初見なので、過去と比較できませんが、今回のキャストは、適材適所で、ベストメンバーだったのではと思いました。
中でも、今井朋彦さんが絶品演技です。今井さん、眉根に皺を寄せた、一癖も二癖もあるような、ニヒルな役どころが多いように思いますが、こういう役の今井さんは、新鮮で、大変魅力的でした。
三谷さんの「音二郎」の時も、軽妙洒脱な役がお似合いでしたが、今回の作品でも、今井さんが登場された途端、舞台の空気が変わりました。意外と喜劇タッチの役の方が、お上手なのではないかしら。

土田さんの作劇って、物凄く、綿密に計算された構成と台詞で成り立っているので、キャスティングによっては、ともすると、作為的な表層演技でも一応、成立してしまうのですが、今回のキャスト陣は、皆さん、土田さんの生み出したキャラクターに、きちんと人間の血を通わせて、作品に厚みを持たせました。
久野役の、若い川原一馬さんも、とても好感の持てる演技で、一目でファンになりました。
このキャストで、「初恋」を初見にできて、良かった気がしました。

出演者でもある、奥村泰彦さんの舞台美術が、これまた秀逸でした。神はニ物を与えたもうたのですね。

ネタバレBOX

作家としての千葉雅子さんは、あまり好みではありませんが、演者としての千葉さんは、なかなか素敵でした。

土田さんの台詞には、いつもクスッと笑わせられることが多い中、今回一番受けたのは、「緑」談議でした。今井さんの言い方がまた絶妙だったからかもしれませんが…。「張子の寅」も愉快でした。
のばら心中

のばら心中

蜂寅企画

シアター風姿花伝(東京都)

2010/06/03 (木) ~ 2010/06/06 (日)公演終了

岡場所のようでした
スタッフもキャストも、良い舞台を創ろうという、真摯な姿勢を随所に感じ、大変好感が持てました。
これが、大学の余興芝居とかで、尚且つ、私がまだ若く、近世吉原の知識が皆無な人間だったら、間違いなく、大賛辞を送れる舞台だったと思います。

ですが、残念ながら、この世界になまじやや精通していたため、今回の公演は、心から楽しむことが困難でした。吉原のしきたりとか、衣装とか、考証的に、これはあり得ないと首を捻る部分があまりにも目についてしまいました。
もっと、舞台自体が、デフォルメした表現なら、こんなに違和感を感じなかったと思うのですが、スタッフの、懸命に、当時の吉原の遊郭を再現しようとする工夫が隋所に見えたせいで、逆に、それが裏目に出てしまったように感じました。中尾さんの紡ぎ出す、心の琴線に振れる台詞が幾つかあっただけに、この綻びが残念でなりませんでした。
小劇場レベルで、吉原の遊郭を舞台にするなら、最初からリアルさのある衣装やセットにせず、むしろ裸舞台で、観客の想像に委ねる舞台様式にした方が成功するのではと思います。

のばらと白菊は、どう見ても、高級遊郭の花魁には程遠く、この舞台は、どうしたって、岡場所風情に見えました。

中尾さんの時代劇戯曲の才は素晴らしいと感じ入っているので、次回の更なる成長を楽しみにしています。

ネタバレBOX

現代の材質の紙に描かれる浮世絵や、硯のない絵師の絵道具、遊郭の女将の衣装、花魁の言葉遣い、下駄と言いながらどう見ても草履…
とにかく、間違い探しのように、あれこれ、目に付いてしまいました。

ストーリー展開に独自性があり、既製の時代劇にない魅力を感じる戯曲だけに、とても残念でした。
石丸幹二

石丸幹二

DISK GARAGE

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2010/06/04 (金) ~ 2010/06/04 (金)公演終了

満足度★★★★★

夢のような一夜でした
17年間も、劇団四季に在籍していた石丸さん。
外で、いろいろな役柄に挑戦して頂きたいとずっと待ちわびていましたが、ようやく念願叶い、役者人生初のソロコンサートまで、開催して下さって、長年のファンとしては、感無量でした。
それに、この企画の言いだしっぺの一人でもあるので、コンサートの流れも、お客様の反応も、非常に気になっていました。
結果は、大成功だったのではないかと思います。
もう、中年と言って良い年齢にも関わらず、石丸さんは、ピュアで、まるで、少年のような初々しさで、本当に、コンサートの歌唱はもちろんのこと、MCにも、とても好感が持てました。
音大出で、専門的素養もあるせいか、コンサートの選曲にも、大変センスがあり、滅多にないくらい、質実充実したステージでした。
演出家の白井晃さんに構成・演出をお願いしたのも、成功の一因だったように思います。

今日のコンサートは完売でしたが、19日のオペラシティの方は、まだチケット若干残っているようです。
石丸さんの、デビュー20年目にして、初めてのコンサート、聞き逃したら、損だと思える、充実度でした。

あー、長いこと、待った甲斐がありました。大満足の一夜です。

ネタバレBOX

最初は、緊張されたのか、声に無理を感じ、心配になりましたが、すぐに、喉が開かれて、どんどん、素敵なステージに加速して行きました。
一路さんとのデュエットも、大人の味わいで素敵でした。

【石丸幹二、もう無理だろうミュージカルメドレー】というコーナーがあり、「カフェ・ソング」が歌われ、これは年齢的に無理という意味だったでしょうが、全然まだまだ行けそうでした。石丸さんの演じるマリウス、是非観てみたかったなあと思いました。
アンコールで、歌われた「ディス・イズ・ザ・モーメント」の熱唱は、次期「ジキルとハイド」への期待を高めました。鹿賀さんが卒業されたのですから、是非、次は石丸さんにバトンタッチしてほしいなあと、あれこれ、ファン心理が加速するばかりでした。

選曲は、ミュージカルだけでなく、ポップス、ジャズ、クラシック…と多岐に亘り、どんなジャンルの歌も、御自身の歌にされていたのには感心しました。
「スマイル」とか、「ハナミズキ」とか、とても、胸に染み入る歌唱でした。
石丸さん、とても、清潔感があり、客席に話しかける様子や、コンサートの雰囲気も、まるで、韓流スターのコンサート会場みたいな空気感でした。
石丸さんが、御自身の言葉で、お客様に語るということが、初めてだからかも。とっても、とっても爽やかでした。

こういう、大人のミュージカル・コンサートをできる方って、そうはいないので、これからは、舞台の合間に、歌手活動も積極的にして頂けたらと切望してしまいます。

どの曲もどの曲も、素敵でしたが、中でも、一路さんとの「夜のボート」は、今後の「エリザベート」では、石丸さんでは絶対聴けない歌だけに、感無量の歌唱でした。
ドリームガールズ

ドリームガールズ

Bunkamura

Bunkamuraオーチャードホール(東京都)

2010/05/19 (水) ~ 2010/06/05 (土)公演終了

満足度★★★

コンサートなら、満点舞台ですが…
歌は、とにかく文句なく最高水準でした。
ですが、どうも、人間描写が浅薄で、人間ドラマ的には、映画の出来栄えの方が数段上でした。
人物の心情に寄り添う間もなく、次々、繰り出される大熱唱シーンの洪水に、ミュージカルを観に来たつもりの私は、少々面食らいました。
お客さん達も、はなから、完全にコンサートを堪能に来場した雰囲気で、ショー部分だけでなく、葛藤のドラマ部分のバラードナンバーででも、ワーワーヒューヒュー、歓声と拍手で、大賑わいでした。
ミュージカルを観に来たのではなく、コンサートを聴くつもりの人には大満足の行くステージだとは思うものの、私としては、やや感情が乗り切れない歯痒さを感じてしまいました。

「シカゴ」も「ドリーム・ガールズ」も、私は映画派です。
エフィーの心の軌跡がもっと丹念に描かれていたら、文句なかったのですが…。
あー、でもでも、音楽は、必聴ものです、間違いなく!!

ネタバレBOX

映像の使い方、照明が、共に、お洒落で綺麗でした。
舞台の表と裏の切り替えの素早さにも感心しました。
さすが、本場の舞台は、ハイセンスでした。
甘え

甘え

劇団、本谷有希子

青山円形劇場(東京都)

2010/05/10 (月) ~ 2010/06/06 (日)公演終了

満足度★★

情念的に過ぎる気がしなくもない
本谷有希子さんの書く世界が結構好きで、もう何作か観ていますが、今回の作品は、やや、観念的と言うか、人物よりも、情念に、照射されているような舞台でした。
役者さん、全員とても好演されているし、決して厭きたりはしなかったものの、やはり、このテイストでの2時間芝居は長く感じました。

今までの作品は、もっと登場人物の現実的日常が描かれ、その中で、描かれる情念世界とのコントラストが絶妙でした。
今回も、もう少し、人物の現実的姿が浮かび上がるような作劇だったら尚良かったのにと、やや残念に思いました。今までのように、登場人物に自分を重ね合わせることができず、終始、俯瞰してしか観劇できなかったことに、不満が残りました。

小池栄子さんは、過去に、グローブ座の芝居で拝見した時も、驚きましたが、とても舞台女優さん向きだなあと感心しました。
何より、とても輝いてお美しいなあと感じ入りました。

ネタバレBOX

音響の仕事が、やや低レベルな気がしました。
入浴シーンの擬音とか、いきなり入って来る音楽の挿入が不自然だったり、何だかアマチュア劇団レベルだったように感じました。

それに、いつもの本谷劇のように、現実的な空間が設定されていない舞台で、時間や場所等、観客がそれぞれの夢の中のような世界観で、追体験するようなテイストの芝居にも関わらず、「スーフリ事件」などという、実際にあった事件の単語が突然、出て来ることに、とても違和感を感じました。
露出狂

露出狂

柿喰う客

王子小劇場(東京都)

2010/05/19 (水) ~ 2010/05/31 (月)公演終了

満足度★★★★★

こちらは、噂に違わず、ブラボー!!
初、柿喰う客!!
もう、これは、大賛辞以外に、言葉がありません。
これぞ、ホントの、小劇場オールスターキャストでした。
容姿良し、演技良し、威勢良しの、小劇場女優の精鋭陣の揃い踏み。
歌舞伎の「白波五人男」の花道の勢揃いの場を見るような高揚感で、終始、目を輝かせて舞台に見入る自分の表情を自覚できました。
本当に、あっぱれ!女子だけで、小劇場のトップレベルの力業を見せ付けて頂き、感謝感激。目が釘付け。

全員に見せ場があり、あれだけの人数なのに、終演までには、全員の役名を把握することができました。
これって、中屋敷さんの脚本演出の才だと思います。
アフタートークで、初めて、生中屋敷さんを拝見し、余計、嬉しさがこみ上げました。ろくな作品書かないのに、やたら主宰ずらして威張っている感じの方はよく見かけますが、こんなに才能あるのに、謙虚な感じの方とは思いもしませんでしたから。

今度は、男優さんも出る、柿喰う客を初見したいと思いました。

このクオリティで、2800円のチケット代は、申し訳ない気がします。

ネタバレBOX

アフタートークで、あのセットは猿山なんだとのお話を聞き、納得。
それで、縄張り争い的な描写が、よりリアルに感じられたのだなあと。
ひょっとこ乱舞でしか拝見したことのない、ホームでのコロさんの威勢の良さに、惚れ惚れしました。何て、男前!!
岡田あがささんは、宝塚の男役さんがやるコメディに出てきそうなかっこよさ。
深谷由梨香さんは、とっても可愛くて、甲高い声なのに、発声がきちんとしていて、全然耳にうるさくないので、驚嘆しました。スゴイ女優さんでした。
ゴキ役の熊川さんは、何だか男の子っぽくて、実に魅力的。
マイマイの山脇さんは、可愛くて、コケティッシュな魅力。
あー、もう、枚挙にいとまがないとはこのこと。
もう、全員、文句なく素敵でした。こういう、プロの業を拝見できて、演劇中年としては、至福の時間を過ごさせて頂きました。
PARTYせよ

PARTYせよ

東京おいっす!

「劇」小劇場(東京都)

2010/05/25 (火) ~ 2010/06/01 (火)公演終了

満足度

無茶振りシチュエーションに、全く笑えず
ここでの高評価に、期待度100%で、劇場にまいりましたが、悲しいことに、自分的には、大不発舞台でした。

シチュエーション・コメディって、どこにでもいそうな普通の人間が、次々起こるアクシデントや、誤解の連続に、一喜一憂したり、慌てふためいて、事を打開しようと躍起になって、逆に土壷に嵌って行く様が可笑しいんだと思うのですが、この芝居は、作者の御都合主義で、造型された、普通あり得ない人間達が、これまた、作者の意のままに、人間工学的にも、人間常識的にも、あり得ようもない行動ばかりするので、何だか、見れば観るほど、興が冷めてしまいました。

改めて、レイ・クーニーや、三谷さんのコメディの完成度に、思いを馳せてしまいました。

この劇団、役者さんは、なかなかなのに、もったいないなと、それが、一番の感想でしょうか。

ネタバレBOX

とにかく、冒頭のシーンから、あり得ない行動をする隣の男の行動描写で、一気に、この舞台を楽しもうという期待度が萎みました。
だって、あり得ないでしょ。いくらなんでも。自分の家の葬式だか通夜だかの最中に、奥さんが呼びに来るまで、長々と、隣の住人と立ち話してるなんて。それだけでも、驚きなのに、その後、法事もほったらかして、隣の家に浴衣に着替えて上がりこむなんて、…。
とにかく、一事が万事!!この隣の男のキャラクター設定が、あまりにもハチャメチャ過ぎて、厭きれてしまいました。
役者さんは、皆さん(座長以外)、なかなか味わいある演技をされる実力があるのに、あまりにも似非シチュエーションの連続で、辟易しました。
隣の男が、家人のいないのを見澄まして、そっと自分が隣の家に逃げ込んだり、愛人を、どこかに隠したりするならまだシチュエーション・コメディになり得ますが、最初から、こんな、傍若無人な振る舞いを許す隣家の人間なんて、いるわけないし…。
どこにでもいそうな人間が、いつの間にか、大変な状況に追い込まれて、あり得ない行動に出てしまうのなら、笑えます。ですが、最初から、常軌を逸した登場人物を生み出して、強引にストーリーを造型しても、本物のコメディにはならないと思いました。
イカれた主婦-ANGRY HOUSEWIVES-

イカれた主婦-ANGRY HOUSEWIVES-

アトリエ・ダンカン

ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)

2010/05/15 (土) ~ 2010/05/23 (日)公演終了

満足度★★★★

楽しかったあ!
いやあ、何かめんどくさいこと一切忘れて、単純に楽しめる、コメディタッチのミュージカルでした。

バンドメンバーの女優陣がとにかく輝いていて素敵!
男優共演メンバーにも恵まれて、安心して客席に身を委ねていることができました。
一番若い彩輝さんは、今回も愛くるしくてとても元男役さんとはお見受けできませんでした。
木の実ナナさんの年齢を感じさせないバイタリテイ、弾けるキムラさんと浦嶋さんの意気の良さ…
バンドライブを一緒に楽しんだら、精神年齢が若返った感じで、久しぶりに演劇で高揚感を感じて、気分爽快! あー、楽しかった!!

落ち込んでる中高年世代に、オススメです。

ネタバレBOX

1幕が、やや冗長に感じました。
冒頭の化粧品販売リハーサルシーンなどを、スピーデイにしたり、同じようなシーンが繰り返される、ウェンデイやジェッタのカップル場面を少し整理したら、もっとハイテンポで、楽しめる舞台になったのではと思いました。

最後の、アングリー・ハウスライブスのライブシーンは「待ってました!」と掛け声を掛けたくなるぐらい、ワクワクして、一気に中高年ライブハウスの様相。
彩輝さんの愛らしさ、浦嶋さんの可愛らしさが、特に印象的でした。

あー、それと、忘れちゃならない…男優陣3人による前座女装バンドが、実に愉快でした。皆、美しく変身していて、ビックリ!!
親の顔が見たい

親の顔が見たい

劇団昴

NHKみんなの広場 ふれあいホール(東京都)

2009/02/07 (土) ~ 2009/02/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

終始、緊張感で、痛くなる
題材が題材だけに、一瞬たりとも、気を抜けるシーンがなく、緊張しっぱなしで、あちこち痛くなる観劇体験でした。
自分も、子供達も、苛められ体験があるので、緊迫したシーンの連続の中で、忘れていた感覚が甦り、度々、心も痛くなりました。
でも、観られて良かった!

昴なのに、青年座の芝居を観ているようだと思ったら、演出が、青年座の黒岩さんで、納得。演出家次第で、劇団のカラーって変わるんだ!と発見もあり。

皆さん、芸達者で、まるで、ドキュメンタリーを見るような臨場感がありましたが、新聞配達店の店長役の方だけが、台詞の間に計算が見え、ちょっと作り物めいてしまったのが残念でした。

ネタバレBOX

どこの学校にもイジメはあるでしょうが、現役教師が書かれたというだけあり、話の展開に無理がなく、内容がとてもリアルで、それだけ胸に突き刺さる舞台でした。

前半、黙している老夫婦役の、西本さんと北村さんの無言の演技が秀逸。
最後、2人だけ、舞台に残る、加害者の親であると同時に、他校教師でもある長谷部夫妻が、「生きていかなくちゃ…」と自らに言い含めるように言う台詞は、「三人姉妹」のようですが、この2人のこれからの人生は、贖罪意識と、娘を守ろうとする親心で、きっと板ばさみになるのだろうと、「三人姉妹」の今後より、ずっと生き辛い人生なのだろうと、暗澹とした気分になりました。

全体的に、誇張のない、リアルなストーリー展開でしたが、70代以上だと思われる、辺見夫妻が、孫の携帯メールを盗み見るという部分には、ちょっと疑問を持ちました。私の母のように、家族誰より電子機器に詳しいハイテク老人もいるにはいますが、あの老婦人は、どうも、そんなタイプには見えませんでしたから。
アンゲーテッドコミュニティ

アンゲーテッドコミュニティ

北京蝶々

テアトルBONBON(東京都)

2010/05/26 (水) ~ 2010/05/30 (日)公演終了

2時間ドラマの代役リハーサル並み
なかなか評判高いと伺い、楽しみに、観劇にまいりましたが、何だか、これで、チケット代取るのはどうかと思うような、まるで、学生劇団の延長レベルの役者陣の演技に、心底がっかりしました。

刑事だとか、幼少時のトラウマを抱えている女性とか、それでなくても、高水準の演技力、表現力を必要とする役がたくさん登場するにも関わらず、その役の人生を、見せて下さる役者さんが皆無でした。
何だか、演技派役者さんが、忙しくて、リハーサルに間に合わず、素人のマネージャーとか、それ専門の、立ち位置決めのための代役さんで、ランスルーしてるドラマシーンかと思うくらい。

脚本で、作者が書こうとしているテーマは、興味深いし、もっと推敲して発表すれば、戯曲賞とかの対象にもなり得るレベルかもとは思いましたが、如何せん、演出力と役者力が、足りませんでした。

この舞台、無料公演なら、脚本と装置に☆二つといったところですが、3千円も払ったので、評価外です。
ピストルとかの小道具が一番リアルで、役者さん達の演技より、遥かに迫真的だったのが、皮肉に思えました。

ネタバレBOX

セットの工夫には、感心したものの、ちょっとあれこれ動きすぎて、観ている方も疲れました。
冒頭シーンの意味がしばらくわかりませんでしたが、どうやら、主要人物達の幼少時の場面だったようです。でも、大人になってからの彼らと、演技表現が全く変わらないので、とてもそんなシーンとは思えませんでした。
きっと、皆さん、演技の勉強とかなさったことのない方ばかりなんでしょう。
特に、刑事3人の演技がお粗末でした。
養成所やワークショップ等で、演技鍛錬をしていない役者さんをキャスティングするなら、その職業が染み付いた演技なんて、そう易々とはできないのですから、作者としても、そういう難役を舞台に登場させてはいけないのではと思いました。
サウンド・オブ・ミュージック

サウンド・オブ・ミュージック

劇団四季

四季劇場 [秋](東京都)

2010/04/11 (日) ~ 2011/03/12 (土)公演終了

満足度★★★★★

子供達は、歴代随一
四季のやる「サウンド・オブ・ミュージック」なんてと二の足を踏んでいたのですが、綜馬さん御出演のお陰で、拝見することができて、素晴らしい舞台を見逃さずに済みました。

初演から、ほとんどの公演を観て来ましたが、とにかく、今回は子供達の名演が、ダントツ光っています。東宝版の子役さん達は、ただ言われたままに、舞台にいて、歌っているといった風情だったのが、この四季の子役さん達は、皆、トラップ家の子供達にきっちり変身して、舞台上に存在していました。一番年下の女の子までが、名演技で、何度、笑わせられたり、涙腺を緩ませられたりしたことか!!これは、驚嘆に値します。

ストーリー展開も、無駄がなく、枝葉末節が削ぎ落とされて、その分、この作品のメッセージが、ダイレクトに心に染み渡りました。
マリア役の井上さんも、とても役に合って、魅力的でした。
四季特性発声装置みたいな台詞回しも、気になったのは冒頭部分だけで、ほっとしました。
綜馬さんも、古巣に帰られると、どうしても、郷に入っては郷に従え的演技になってはいましたが、それでも、近年のトラップ大佐の中では、出色の存在。

本当に、改めて、傑出の名作ミュージカルだと、痛感させて頂きました。
是非、たくさんの方に、ご覧頂きたい出来栄えでした。

ネタバレBOX

今までのバージョンだと、マリアとシュミット夫人の恋の鞘当的な部分が少し冗長に過ぎると感じていましたが、このロイドウエバー版は、展開をスピーデイにして、あくまでも、マリアと子供達のシーンを主軸に持って来たので、最後まで、ストーリーが横道に逸れることがなく、厭きずに観られました。  

「ドレミの歌」を、馴染み深いペギー葉山さんの訳詞の方で、歌ってもらえたのも、嬉しく思いました。

綜馬さんが御出演でなければ、見逃すところでしたが、本当に、先入観で判断すべきではないと悟りました。
ジュリー・アンドリュースの映画の次に、四季版「サウンド・オブ・ミュージック」が好きと、今は声を大にして、叫びたい思いでいます。
沈黙亭のあかり

沈黙亭のあかり

劇団俳優座

紀伊國屋ホール(東京都)

2010/05/21 (金) ~ 2010/05/30 (日)公演終了

無念!かつての才気は何処に?
まだ若かりし頃、山田太一作品に魅了され、放送作家を目指したことのある身としては、もう、無念、残念としか言いようのない舞台でした。
あまり好きでない《静かな演劇》より、更に非現実的な登場人物のオンパレード!!
個人的には、観るに耐えない舞台でした。
でも、私より遥かにお年を召した観客層は、大きな拍手で、中野誠也さんに大賛辞を送られていましたが…。
たぶん、私はもう二度と、山田太一さんの新作を観に行くことはないでしょう。

ネタバレBOX

一番リアルな登場人物は、中村たつさん演じる、近所のお節介焼きおばさん。
確かに、沈黙亭の主、中野誠也さんが、喋りだしてからは、何だか気持ちがほんわかし、舞台を普通に観る気になれましたが、それまでは、心の中で、ずっと、敬愛してやまなかった山田太一さんに、悲痛な決別の声を叫び続けてしまいました。
2010億光年

2010億光年

サスペンデッズ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2010/05/22 (土) ~ 2010/05/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

静謐な、情感劇の秀作
本当に、いつも思うのですが、早船さんて、どうしてこんなに女心がおわかりなんでしょう?
淡々としたストーリー展開の中に、はっとするような珠玉の台詞やシーンが散りばめられて、上質な大人の芝居を、充分味わわせて頂きました。
早船さんが、役者さんそれぞれに、思いを込めて、戯曲を書いていらっしゃるのだなあということも、観ていてジワジワ伝わって来ます。
この作品を観て、眠くなってしまうタイプの男性は、きっと彼女の女心は、ちっとも理解できないタイプなんじゃないかなと思いました。
我が家の夫なら、きっと最初から最後まで、眠っていそうです。(笑)

作品にも、役者さんにも、大満足ではありましたが、どうも芸劇は、この劇団には広すぎる空間ではと思いました。こういう、芝居は、もっと狭い濃密な劇場空間で観たい気がします。
冒頭のシーンでは、役者さんの台詞が割れてしまうのか、聞き辛い箇所がずいぶんありました。これも劇場の問題かもしれません。

ネタバレBOX

リルケの詩集からの劇中劇部分の本番シーンの演出が、実に秀逸でした。
シェークスピアの「真夏の世の夢」にも、本編とは関係ない役者の稽古シーンが挿入されますが、これも、そんな味わい。稽古では、こんなダサい芝居観たくないと思わせて、本番はこんなにレベルアップしてしまうのかと、作者早船さんの粋な目論見に、思わず唸りました。

ギャラリーオーナーの弟が、「写真も絵も演劇も、人をシアワセにはしない」という内容の台詞を言いますが、早船さんは、この芝居で、いや少しだけでも、演劇は人をシアワセにしたり、浄化したりするよという、内心のメッセージを、私達観客に届けて下さったのではという気がしています。
粗筋で説明したら、陳腐になりそうですが、この登場人物は、皆リアルでした。私の嫌いなタイプの「静かな演劇」とは全然違います。 

SMクラブの男が、尋ねてきた絵里が料理すると言った時に発する一言「から揚げ作ってね」。この一言だけで、いつも、目の見えない彼女を気遣って、好きなから揚げを我慢している、2人の生活を瞬時に観客に想起させます。
この芝居で描かれていない日常の登場人物の有り様がリアルに伝わる…。 

夫が長い撮影旅行に行こうとする時、出社前の妻が、昔似合ったミニスカート姿を見せながら、「急に似合わなくなる時を一緒に目撃したい」という時の、切ないまでの女心…

あー、何て素敵な心象描写の数々!!!

枚挙に暇がないけれど、本当に、珠玉の作品世界でした。
めぐるめく

めぐるめく

KAKUTA

シアタートラム(東京都)

2010/05/21 (金) ~ 2010/05/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

KAKUTA は私を裏切らない
正直言うと、オープニングの数分間は、あれ、今回のKAKUTA は不発かな?とちょっと不安になったのです。
でも、それは全くの杞憂でした。
KAKUTAはやっぱりKAKUTAでした。
桑原さんって、いつも感心するばかりですが、どうして、作・演出も役者も、あんなに素晴らしい両立ができるのでしょう!!
半世紀以上芝居を観ていますが、こんなパーフェクトな両立をできる演劇人を他に知りません。
いつも、この劇団は、キャスティングが適材適所なんだけれど、それが、また以前の公演とは、似ても似つかないような役どころなんで、また感心してしまいます。
そして、いつもそうなのですが、また今回も、成清さんの台詞に泣かされてしまいました。今回の舞台、成清さんは、メーンの役じゃないのに、それでも、持って行ってしまう、彼の役者力に脱帽です。

KAKUTAバンザイ!!一生追いかけ続けます。

ネタバレBOX

多数の登場人物の関係を、始まって数分で、客に理解させてしまう、桑原さんの技量にまず感服。そして、男娼役の馬場さんが、いつの間にかかなり役者として著しい成長をされていることに感嘆しました。
簡素なセットを、主に3分割し、その空間が、いろんな場所にめくるめく変わる、小気味の良さ!特に、下手側の、突き出た長方形の箱型のような空間は、ある時は、電車だったり、またある時は、お風呂だったり、公園の池だったり、一体何役早替わりしたことでしょう!まるで、歌舞伎の10役早替わりみたいで、観ていて嬉しくなる程でした。この場所が、旅館のお風呂場になった時なんて、音響効果も抜群で、どうしたって、お風呂場にしか見えませんでした。
難をつけようと思えば、たとえば、11年も寝たきりだった人間が、あんなにハイヒールで、動き回ったり、山登りしたりできる筋力がある筈ないとか、何ヶ月も寝ているのに、点滴もつけてないなんてとか、いろいろ突っ込みたくなるシーンもあるんです。でも、観ている内に、そんなことは問題じゃなくなる。
これって、KAKUTAの魔法の掛け方がお上手だからなのでしょう。
舞台が終わる頃には、登場人物全員に愛おしさを感じるのも、いつもながらの、この劇団の芝居の崇高さを物語っています。
時間が許せば、何度でも観たくなる素敵な舞台でした。

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