満足度★★★★★
秀逸な外国映画のようでした
青年団系の芝居によくある、始まる前から、出演者が舞台上に意味なくいる演出、普段はあまり好きではありませんが、この芝居に関しては、そこから既に秀逸でした。
だって、出演者が、全員、既に、左官職人として、壁を丹念に塗り固めていたから…。特に、平田さんの存在感は見事としか言いようがありませんでした。何十年も、この仕事を黙々とやり続けて来た本物の職人さんにしか見えない。以前から大好きな役者さんを、更に大好きになり、尊敬しました。
アイルランドの芝居って、何故か、行ったこともない国なのに、懐かしさがあり、胸が締め付けられるような息苦しさを追体験するような劇後感をよく感じるのですが、この芝居もそうでした。
同じ職場の微妙な人間関係、生活の不安や厳しさ、どこか、違う場所に逃げ出したくなる閉塞感…、そういった、微細な感情の縺れが、写実に描かれ、見事な作劇でした。
相変わらず、田村さんの、セット使いの巧さには驚嘆もの。
平田さん、板尾さん、阿南さんの演技が互角で、まるで、昔のヨーロッパ映画の秀作を観るようでした。
惜しむらくは、柄本さん。屈折してナイーブな青年役は、任に合っていましたが、如何せん、活舌が、お父様譲り。映像なら何とか拾ってくれるでしょうが、劇場だと、大切な台詞が聞き取れず、致命傷でした。