KAEの観てきた!クチコミ一覧

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TOPDOG/UNDERDOG

TOPDOG/UNDERDOG

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2012/11/30 (金) ~ 2012/12/28 (金)公演終了

満足度★★★

演出の力量<役者の独走???
心配が当たったようで、どうも、堤さんの演技が腑に落ちなくて仕方ありませんでした。

原作自体は、なかなか良い戯曲だなと思うのです。

小川さんの演出も、他国の異文化の世界を、うまく、日本人にも共感できるように、空気変換される、技術が優れていると思うのです。

だけど、この戯曲、あーいう結末に至るまでの、役者側の伏線的な演技が、もっと表出されてしかるべきではと感じるのです。

もっと、濃密な空気の中で、兄弟の心の交流と、葛藤が描かれるべき作品だと感じるのに、いつもながらの、堤さんの笑いを取り過ぎる演技が、この作品には、やや不適切だと、私の目には映りました。

ネタバレBOX

千葉さんのリンカーンは、カード捌きのプロだった過去を捨て、遊園地で、座っているだけの、蝋人形もどきのリンカーン大統領役の仕事で、業を煮やしている、兄の苦悩を見事に体現されていたと思いました。

ただ、後半、やはりカードをもう一度手にする場面での、台詞が、時々、噛んでしまわれたのは、残念でした。昔取った杵柄で、あーいう言い回しは、体に染みついて流暢な筈ですから。

彼女とうまく行っているとずっと大言壮語だった弟のブースが、実は、女性に振られた腹いせに、殺してしまい、カードで、負かせなかった兄に、嫉妬心や劣等感から、突然ピストルを向けてしまう終幕は、あまりにも突然な成り行きで、そうなることを劇評で知っていた私でも、意表をつかれました。

兄弟のやりとりの中で、もう少し、ブースの心情を観客に提示する瞬間があった方が、自然な気がするし、その方が、二人の悲劇が鮮明に、観客の心に残るのではと思いました。

兄は、父親の情事を目撃し、父の浮気相手とよろしくやり、弟は、母の情事を知り、兄の妻とも関係し、日本社会では、あまり想像できない兄弟の関係ですが、でも、戯曲には、万国共通の兄弟の複雑な関係性が、見事なまでに描かれていたと思うし、小川さんの演出も、それをかみ砕いて、わかりやすく表現されていたと感じます。

それだけに、この作品、他の演者の二人芝居で、もう一度、観てみたい気がしています。
プロミセス・プロミセス

プロミセス・プロミセス

サンライズプロモーション東京

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/12/15 (土) ~ 2012/12/23 (日)公演終了

満足度★★

ひとえに、演出の力不足
どんなに楽曲が優れていようと、原作が名作だろうと、キャストに実力があろうと、演出次第で、凡作にも、駄作にもなってしまうという、見本のような残念な舞台でした。

本当は、中川さんのチャックを観るつもりでしたが、呆けてきたのか、まさかの競泳水着とのダブルブッキングをして、公演数日後まで気づかず、やむなく、チケットを買い直して、藤岡チャックの観劇でした。

昔、初めて、リピートしたいと思った、北大路欣也さん主演の「プロミセスプロミセス」は、本当に素晴らしい作品だったのですが、今回の舞台は、とにかく、舞台運びが、チンタラチンタラして、退屈極まりないのです。

藤岡さんのチャックは、むしろ中川さんより適任ではないかなと思える程、任に合って、好演されていましたし、大和悠河さんのフランも、奇麗で、品があって、好感が持てたし、樹里さんは、コメディエンヌ振りを発揮されて、笑いをふんだんに取っているし、浜畑さんと伊東さんのベテランも、軽妙洒脱な安定の演技で、脇を支え、概ね、キャストは、健闘しているだけに、とても残念。

それと、ミュージカル俳優としても、実力があった筈の岡田さんが、すっかり、映像演技の発声になり、台詞がほとんど聞き取れなかったのも、意外な盲点でした。

建付けが悪かったのか、チャックの部屋のドアが、開閉がうまく行かず、何度も、キャストがアドリブなどを入れて、取り繕っていました。まるで、この舞台の内実を象徴しているかのようでした。

最後に、おまけで付いていた、アフタートークも、アンサンブルの自己紹介だけというのも、芸がなさ過ぎて、疑問でした。

ネタバレBOX

ただ、そうは言っても、バカラックの名曲を堪能できたのは幸せな気分になりました。

「恋はさようなら」は、誰がいつ歌っても、名曲だなあと、再認識。

最後の終わり方が、大好きなので、それまでの不満はどこへやら。

もう少し、工夫のある演出で、このキャストなら、また観たいと思いました。
すべての夜は朝へと向かう

すべての夜は朝へと向かう

劇団競泳水着

サンモールスタジオ(東京都)

2012/12/12 (水) ~ 2012/12/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

前回公演より、断然好み
もう還暦近い年齢ですが、十分共感できました。(笑)

登場人物全員の気持ちに、必ず一度は寄り添わされる瞬間があり、相変わらずの上野さんの作劇構成の巧みさに、してやられた感じ。

鈍感なお客も付いて行ける程度のわかりやすい伏線を引いて、観客の優越感を擽りつつ、しかし、後半で、まさかの謎解きめいたシーンを挿入し、変化をつけて、冗長にならず、随所に、作劇の高度なテクニックを駆使して、飽きさせないのが、凄い!キャストも、それぞれ、好配役並びに、好演でした。

共感できないというコメントもありましたが、私は、恋に臆病だったり、自分自身の気持ちを掴み兼ているような不器用な登場人物の気持ちに同化して、若かりし頃の恋愛時代を懐かしむ感情が芽生え、心地よい作品だと感じました。

ネタバレBOX

いつも思うことながら、競泳水着の女優陣は、ずるい!

どうして、こんなに、それぞれ、個性的で魅力的な布陣なのかと、拝見する度、驚きます。

大好きな、クロムモリブデンの武子さん演じる、恋が不得手な修のユルキャラぶりが、最高でした。

他の予備校教師が、ちょっと、そうは見えない人もいたけれど、喧嘩別れした和也とゆりが、路上で言い争いながら、だんだんに元の鞘に納まって行くまでの、工程が、ドキドキするくらい、秀逸極まりない脚本と演出でした。

ザンさん演じる恵美子と、劇団員の天童の成り行きは、最初から、予想がつくように描かれる一方、細野さん演じる真希と桜井の関係は、意外な謎解きが、後半に用意されていて、こういう、作劇の緩急の巧さには、舌を巻きます。
妻の不貞を試すような行為を、教え子に強要する、神田には、一番共感できませんでしたが、各人物の女性心理には、それぞれ思い当たる部分もあり、ちょっとこそばゆい思いもしました。

特に、予備校教師を自分の方で好きになっておきながら、あっさり振ってしまう高校生の千晴が、「自分の気持ちの変化に一番驚いた」とかって言う台詞、思わず、心で「同感!」と叫んでしまいました。

上野さんには、今後も、こういう、トレンディドラマ的な、群像恋愛劇の大家として、更に腕を磨いて頂きたいなと思いました。

私が大好きだった、役者引退した、ある劇団にいた男優3名に、一度でいいから、競泳水着の恋愛模様を演じてほしかったなあと、叶わぬ思いに、涙して、サンモールを後にしました。
RUR

RUR

演劇集団 砂地

上野ストアハウス(東京都)

2012/12/12 (水) ~ 2012/12/18 (火)公演終了

満足度★★★★

選挙目前に、思うところだらけ
カレル・チャペックの原作は全く知らないので、どこまでが船岩流にアレンジされているのか、不明ですが、とにかく、結果がえらく不安になる今回の選挙目前に観たせいか、かなり心に突き刺さる作品でした。

かなり以前から、何度も拝見していた田中壮太郎さんの舞台は、久々でしたが、やはり、群を抜いて、目が離せない演技をされる方で、改めて、いい役者さんだなあという思いを強くしました。
お知り合いの鈴木啓司さんと、壮太郎さんが、同じ舞台に立たれていることに、個人的に、やや興奮気味になってしまいました。

重要な役どころの井上さんが、やや台詞を咬むことがあったのが、緊迫した舞台だけに、ちょっと残念。

ガル役の藤尾さん、好演されていました。所属される劇団を観る機会はないと思うので、またどこかに客演される時、拝見したい役者さんでした。

ネタバレBOX

人間が楽をするために、ロボットがどんどん作成され、人間は退化して、やがて、ロボットが、天下を取る世界。

ロボットの作成法が書かれたメモが燃やされてしまったために、唯一生き残った人間であるアルクビストが、ロボットを誕生させるために、ロボットの一人を解剖しろと迫られて、解剖されかかったのが、何と、啓司さん演じるダモンでした。(一体いつ登場されるのかしら?と首を長くして待っていたら、終盤近くに、まさかの役どころで、ちょっと面喰い、解剖されるロボットの裸体にしては、かなり、親近感のあるお腹のたるみに、笑ったら大変!と、必死に堪えて辛い部分がありました。笑)

ガル博士が、人間そっくりに作ったロボットだから、それでもいいのかもしれないのですが、個人的に、啓司さんを存じ上げている身には、ちょっと拷問のような瞬間でした。

最後に一人残った人間である、田中さん演じるアルクビストが、プラトンの「饗宴」を読む場面が秀逸。いろいろな社会の不合理や、人間の愚かしさに、胸が抉られるような思いがありました。
ガル博士が、好きだったヘレナに似せて作った女性ロボットと、社長のドミンに似せたプリムスという男性ロボットが、共に、相手を庇って、自分が検体になると主張し合い、アルクビストに解放されて、二人手を取り合って、その場を逃げて行くラストは、アダムとイブを連想しました。

どんなに、悲劇的で、絶望しそうなラストでも、こうして、僅かな光明が見える舞台には、救いがあり、ほっとさせられました。
あつ苦しい兄弟

あつ苦しい兄弟

劇団道学先生

座・高円寺1(東京都)

2012/12/07 (金) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★

面白い試みとは思うものの
私は、正直、桑原さん脚本のあつい編の方が断然好みでした。

主役のお二人には、それ程興味はなかったのですが、桑原脚本と、井之上、山本、西山、桑原の出演陣に惹かれて、行ってまいりました。

あつい編は、やや起伏が乏しく、ダラダラと長く感じる部分はあるものの、人物の造形に説得力がありました。前にも青山さんの演出舞台は数回観ていますが、青山さんの演出は、緩急がなく、冗長に感じることが多いので、このあつい編も、桑原さんが演出されていたら、もっとメリハリの効いた舞台になっていたように思います。だいたい、主役の方が、演出まですると、舞台は散漫になるものだと思います。

一方、後半の中島さんの作・演出になる、苦しい編は、私には、思いつきだけの、仏作って魂入れずの脚本に感じられました。あまりにも、人物造形がその場凌ぎで、腹が立つ程でした。
せっかく、あつい編で、桑原さんが丁寧に、登場人物のキャラクターを確立したのに、中島さんの苦しい編が、根底から、滅茶苦茶に解体してしまった感じがしました。

ただ、面白いことに、この苦しい編の方が、各役者の見せ場はふんだんにありました。各人の技量が試されたのは、むしろ、苦しい編の方です。

ですから、ストーリー展開の不備には目を瞑り、役者の度量比べ、役者の品評会的な芝居という観点から見れば、この舞台は、かなり面白い試みだと思えました。

苦しい編の役者、桑原さんの演技力が、あまりにも抜きん出ていて、また、桑原さんへの執着心が増してしまいました。

勘三郎さんの晩年の舞台にお付き合いの多かった井之上さんの名演を拝見し、もし勘三郎さんがこの舞台をご覧になっていたら、腕組みして、目を細めながら、「井之上さんて、いい演技するんだよなあ!」と呟いていらしただろうと思い、涙が零れました。

ネタバレBOX

あつい編は、一般的シチュエーションコメデイ風な流れで、舞台が進行しますが、この編では、役者中島さんの飄々とした演技に、大いに笑いました。
村田さん、井之上さん、西山さん、山本さんを始め、皆さん御上手な演技で、安心して舞台を楽しむことができました。

一人の女性を愛した二人の兄弟が、紆余曲折ありながら、心を通わせるラストシーンにほのぼのとしたのも束の間、その数十年後の苦しい編は、一転、人物それぞれが、重い問題を抱えているように描かれます。

ですが、その人物の描かれ方が、本当に作者の思いつきのみで、造形されているように感じ、一気に、各人物に、何の感慨も湧かなくなってしまいました。あまりにも、突拍子もない、人物相関関係が、作者の思いつきのみで繰り出されていて、ゲンナリしました。

水内さん演じる吉田という、プロデュ―サーが、一番ありそうな人物でしたが、後は、あつい編ではこうだった人間が、幾らなんでも、こんな身勝手な人間にはならないだろうと、思うことだらけ。
塚原さん演じるトルコ人は、どう見てもあつい編とは別人だし、山本さん演じる犬の調教師や、かんのさん演じる弟の元妻は、途端に、子供じみた薄っぺらい人物に描かれて、残念無念。

トルコ人の彼を追いかけていた兄弟の従兄が、いつの間にか、速水さん演じるアシスタントと恋仲になっていたという設定も唐突なら、最後に、兄の妻の告白も、作者のお遊びにしか感じられず、鼻白むものがありました。

アルツハイマー患者と、その周囲の人間のありようも、作為的過ぎて、笑えないし、かといって、深く考えさせられるというわけでもなく、不快感ばかりが残りました。

ただ、この苦しい編での、村田さん、井之上さん、山口さん、速水さん、荘田さんの、役に説得性を持たせようと懸命な演技には、大変胸を震わせられた部分もあり、役者さんの役作りの妙を競うという観点から観ると、大変興味深い苦しい編であったことも事実です。

桑原さん演じる、ラジオ体操のインストラクターの、不思議な魅力には、本当に、心を奪われました。
書いてよし、演出してよし、演じてもよしの稀有な演劇人の鏡のような方ですね。
『ガラクタとペガスス』

『ガラクタとペガスス』

8割世界【19日20日、愛媛公演!!】

ワーサルシアター(東京都)

2012/11/28 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

類稀な劇団の刺のない笑いが心地いい
8割世界を、縁あって長く拝見して思うことは、こういう劇団って、たぶんあまりないよねって感想です。

好きな人は、滅茶苦茶好きだろうし、嫌いな人には、馬鹿らしいと思われるほど、好みが分かれそうな劇団の特質があります。

前回の石原さんの脚本の「タンバリンスナイパー」は、芝居としての完成度は、今回の作品より優れていたと思います。ただ、8割世界ファンにはやや不評だったみたい。今回のガラぺガは、そこへ行くと、え?これ、本当に石原さんの脚本?と感じる程、鈴木雄太さん色の色濃いものでした。

だから、現実性も、社会性も皆無。ただただありえない展開が続き、あまりにも下らない世界の中で、役者が奮闘しています。
でも、これが、妙に心地良い観劇タイムになるのは、紛れもない事実です。

世知辛い世の中だからこそ、現実を忘れて、ひと時、刺のない笑いの世界に身を委ねたくなる人間には、なくてはならない劇団かもと思わせられました。

ネタバレBOX

多くの意見にあるように、始まりから、出演者のハイテンション台詞の連鎖に、しばらく、疲れを感じました。

特に、最初から、兄役の一芯さんの声が大き過ぎて、耳障りとさえ感じます。
兄弟のキャラが違うという設定なら、喋り方から、二人の相違を克明に表現する演出で良かったのにと思います。

たぶん、これは、役者のせいではなく、雄太さんの演出に、右へ習えで、役者が異を唱えることなく、素直に演じているからだと思うのですが、個性ある味わい深い演技をする劇団員が、次々と、櫛の歯が欠けるように抜け落ちて、今や、ご自身の特性を体現できる役者さんが小早島モルさんだけになってしまった、当然の帰結なのかもしれないと感じます。

これこらは、益々、鈴木雄太さんの作劇が性に合う方には、たまらない劇団になるでしょうし、そうでない方には、どんなに気になる役者が出ても敬遠したくなる方向に向かうような気がしました。

嫁から聞いた通り、鳩時計役の原さんの好演が、芝居に元気を与えて下さいました。今日から、21種類さんとなられた小林さんは、今の8割世界には、なくてはならない要の俳優さんだとつくづく感じます。
怒涛のように、うるさい台詞の応酬の中で、小林さんが登場した途端、救い主が現れたような喜びを感じました。
小林さんには、これからも、他劇団の舞台でも、どんどん活躍の場を広げて行って頂きたいと切望します。

前回の公演で、ファンになった、弟役の白川さんは、歌の場面がとにかく面白くて、この舞台で一番笑いました。あの歌は、バックで踊る石田さんと橘さんの白熱演技も含め、絶品場面でした。歌詞がとにかく、笑えて、受けます。

アキラさんの評で、妹役と書かれていた日高さんは、本当は、兄弟の従妹役ですが、彼女のキャラ設定が、前回公演とほぼ似ていた感じなのが、やや残念でした。日高さんにも、たくさんの引き出しがありそうなので、次回は、是非薄倖の女的なキャラ設定をリクエストしたい気がします。(笑)

8割世界参加三度目の亀山さんは、私的には、今回の招き猫役が、一番適役な気がしました。

今回の作品では、兄の嫁役の木原さんただお一人が、まともな現実性のあるキャラ人物でしたが、それもあって、彼女の演技には、ほっとするものがありました。従弟の正人役の中村さん、木原さん、小林さんと、ハイテンションと対抗する役柄の人数がもう少し増えていたら、きっと、もっとそれなりに舞台に深みが増していたのではと思います。
アリス・イン・ワンダーランド

アリス・イン・ワンダーランド

ホリプロ

青山劇場(東京都)

2012/11/17 (土) ~ 2012/12/07 (金)公演終了

満足度★★★★★

さすが鈴木裕美さん
公演情報が隠れていて、検索するのに苦労し、書き込みが遅くなりました。

ちょっと苦手な出演者がいたので、躊躇ったものの、裕美さん演出なので、期待して観に行ったのですが、期待を悠に越えて素晴らしい舞台でした。

何が驚いたって、ジョイさんと、渡辺美里さんという、異色のキャストの煌き!

「宝塚boys」の時にも感じたのですが、裕美さんは、出自の異なる様々な出演者を一つに束ねる才が尋常ではないと感心するばかりです。

目線の異なる、新「不思議の国のアリス」といった感じの、最高に楽しいミュージカルでした。

アンサンブルの面々のレベルの高さもあり、キャスト全員が、それぞれの魅力を最大限に放ち、チームワークも良さそうで、素敵なカンパニー感いっぱい。
幸せな気分で、家路につくことができました。

もっと早くに観ていたら、たくさんの人に勧められたのにと悔やまれます。

ネタバレBOX

ちょっと苦手な役者さんは、今回はウサギの役で、無駄なイケメンオーラを出せる役でなかったため、今回の舞台の彼は、本当に可愛く好演されていて、観て正解だったと心から思えました。

バラエテイ番組でのイメージしかなく、変なタレントだとばかり思っていたジョイさんがこんなにエンタテイナー資質があった方だったと驚いたり、柿澤さんの歌唱力に久々打ちのめされたり、まさかの渡辺美里さんが、色もの出演にならず、しっかり、ハートの女王様の風格があったりと見どころ満載舞台でしたが、中でも圧巻だったのは、濱田めぐみさんの凄味!

まるで、女性版「ジキルとハイド」のハイド的な役柄でしたが、彼女の演技や歌の力に圧倒されました。

不思議の国に迷い込むのが、少女ではなく、大人のアリスという設定も面白く、このアリスの娘役の高畑さんも、20歳過ぎには思えない、バリバリ少女っぷりが板に付き、観ていて爽快でした。

ありとあらゆるジャンルの出身メンバーだらけで、普通なら、寄せ集め感が拭えないその場しのぎの舞台になりがちなのに、こういうキャストをひとつのカンパニーにまとめ上げる才は、たぶん、私の知る限り、裕美さんの右に出る人はいないと思えました。

最後のトークで、柿澤さんが今までの公演中、一番胃薬のお世話にならずに済んだという話をされていましたが、彼のこれまでの舞台経歴を思い起こすと、さもありなんという感じ。(笑)
AさんやKさんの演出じゃ、胃も痛くなろうというもの。

カンパニーが、和気あいあいと、舞台を楽しんでいる様子が、観客を幸せな気分にする、本当に素敵な舞台でした。

欲を言えば、相変わらず、指揮者の強要が多いことと、禅さんのメークが、やや若作り過ぎて、不自然だったのが残念。
眠れない羊

眠れない羊

ライズ・プロデュース

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2012/12/05 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★

作劇術師ほさかさん!
我が家ととても御縁の深かった勘三郎さんの訃報を耳にした日に、故人を偲ぶというシチュエーションの芝居を観て、より一層感慨深い観劇となりました。

ほさかさんの作劇の才にはいつも感心するのですが、今回の作品も、その芝居作りの妙に、感嘆しました。

錬金術師ならぬ、作劇術師という感じ。

たいした事件は結局何も起こらないのに、ずっと、観客の興味を繋ぎ止める作劇の上手さには、恐れ入りました。

それにしても、一度観に行って二度と観ないと誓った劇団に、こんな素敵な俳優さんが在籍していらしたとは!進藤役の川村進さんに一目惚れしてしまいました。

この芝居を観たいと思わせて下さった森下さんに感謝です。

ライフの俳優さんかと思うほど、イケメンの向山さん、大好きだった8割世界にいた吉岡さんを彷彿とさせる牧島さん、とてもいい味わいの演技を見せて下さった鍛冶本さんなど、また気になる役者さんが一挙に増えて、困りました。(笑)

亡くなったご主人さまの事故現場が、赤羽橋という場所の選択ひとつ取っても、ほさかさんのセンスを感じて、ニンマリ。
ただ、その場所に、何故ご主人が行ったのかという謎解きは、ちょっと作為的な感じがして、ちょっと残念でした。
最後の場面もやや蛇足に感じて、あそこで、新人さんが登場というのも、やや芝居のクオリテイを下げてしまった気がします。

最後列で、観劇していらした及川さんの美しいお顔も間近で拝見できたし、新井薬師から中野に向かう道の昔懐かしい風情にも、心が和み、勘三郎さんの一人通夜には絶好の観劇だった気がしています。

ネタバレBOX

自動車事故で亡くなったご主人さまの一周忌に、かつて仕えていた執事達が集合して、故人を偲ぶというシチュエーションの、サスペンス仕立ての作劇。

現在の状況が舞台で提示される内に、時々、キャストの一人が、回想場面のご主人さま役を代わる代わる演じて、ご主人の人となりや、死の原因が次第に解き明かされて行くという手法が、実に巧みでした。

深刻になりそうな時に、時々挿入される笑いの種の蒔きどころも、絶妙です。

ただ、ご主人さまが、赤羽橋に赴いた原因が、やや芝居じみていたのは残念に思いました。

事故の解明が成された後、それぞれの執事が私服に着替えて、またの再会を口にしながら、三々五々退場して行くところで、終わってくれた方が、個人的には、好みのラストシーンだったようにも思います。

彼が悪いわけではないのですが、ピザ屋の宅配人役の初舞台の飯田さんが、最後の場面で重要な役割を演じるのも、それまでの出演者の役どころが絶妙な塩梅だっただけに、ちょっと拍子ぬけしてしまいました。

老執事、大蔵のラストシーンは、蛇足ではと思いました。
バカのカベ~フランス風~

バカのカベ~フランス風~

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2012/11/15 (木) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

期待に違わず、最高の舞台
加藤さんと風間さんの共演舞台を拝見するのは、学生時代、紀伊国屋ホールの階段に座って観た「熱海殺人事件」以来だと思います。

実際、お二人の共演は、30年ぶりとか。声でご出演の平田さんと3人揃い踏みなら、尚のこと嬉しかったのですが、お二人だけでも、往年のつか芝居ファンとしては、万感胸に迫る思いがありました。

期待通り、キャストが全員申し分ないし、演出は鵜山さんだし、作品も、人間の本質をちょっと皮肉りながら、決して、卑猥や品のなさに走らない、上質コメデイで、最近の小劇場で時として感じる、こんな場面でよく笑う気になるなと、客席の品性にまで眉を顰めたくなるような箇所が皆無で、本当に、幸せな観劇タイムを過ごすことができました。

ただ、ひとつ残念だったのは、西川さんの出番が少なかったこと。
まだキャラメルを拝見する以前に、カトケンご出演の西川さんを初見の時、何てコメディ演技の上手な役者さんかと感嘆したことがあり、今回も、西川さんのご活躍を楽しみにしていたので、ちょっと肩すかしでした。
出番が被らないので、清水さんが演じたシュバル役と、一人二役でも良かったように思います。

今や、カトケン芝居には、なくてはならない新井さんの存在感、品のある日下さん、ハッチャケタ役も上手になられた加藤忍さん、喜怒哀楽をあざとくならずに好演された清水さん、そして、何と言っても、声からはご自身のお顔を想像し得ない、絶妙な名声優ぶりの平田さん。
適材適所の脇役俳優さん達の加勢もあり、お二人のつか芝居の重鎮は、いつにも増して、演技がこなれて、最高のコンビぶりを見せて下さいました。

これは、映像とかで永久保存したいくらいの舞台でした。

ネタバレBOX

加藤さんと風間さんが、久々の共演舞台を心から楽しんで演じられている様子が伝わり、それだけで、何度も頬が緩みました。

最近のお二人の舞台には、疲れが見えて心配になる時もあったのですが、30年ぶりの共演が、お二人の気持ちも、往時に引き戻して、溌剌とした若さある演技が可能だったのかもと思ったりしました。お二人とも、全く噛まなかったし…。(笑)

女たらしのプレイボーイの声のみご出演の平田さんの名演技ぶりには、改めて驚愕しました。
生のつか芝居に夢中になっていた頃、私の一番の御ひいきは、加藤さんでも風間さんでもなく、平田満さんその人だったので、心の中で、勝手に嬌声送ってしまいました。

いつか、是非、お三人の共演舞台を実現させてほしいと、切望してやみません。
里見八犬伝

里見八犬伝

日本テレビ

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/11/16 (金) ~ 2012/11/26 (月)公演終了

満足度★★★

明治座時代劇を思い出す
若かりし頃、よく招待券で拝見させて頂いていた明治座の時代劇。映像でも有名な俳優さんが、バッタバッタと人を斬り、その度に客席のそのタレントさんのファンの女性客が、溜息混じりに喝采を叫ぶ、そんな昔日の記憶の高揚感が蘇る舞台でした。

正直言えば、開幕からしばらくは、場違いな客の自覚が強く、まるでテレビゲームの実演ショーを見るようなこそばゆい気持ちでいっぱいでした。

やはり、あの深作監督のご子息の演出だしなあなどと、冷めた目で観ていました。

でも、馬木也さんと香寿さんが登場されてからは、俄然舞台が締まり、活劇としての面白さが出て来ました。

歌舞伎などの往年の八犬伝物に比べたら、確かに、物語性からも、殺陣等の技術面においても、同じ土俵で語れない部分はあるのですが、新国でかつて目にしたこともない若い女性客層が、泣いたり、感動したりしながら、この舞台に前のめりで夢中になっている様子を見て、これはこれで、成立する世界なのではと、寛容な気持ちになれました。

入口がどうであれ、若い観客層が、生の演劇に触れて、ライブの演劇の魅力を知って下さることは、半世紀に及ぶ演劇ファンとしては、この上ない喜びに感じるので。
そういう意味からも、深作さんは、楽しみな舞台演出家でもいらっしゃると思いました。

ネタバレBOX

西島さんは、伊達に大河を経験されてはおらず、この群像劇のお手本のような作品の主役として、立ち姿に、絵になるオーラを感じさせられました。

浜路役の森田さんは、どういう経歴の方か存じ上げませんが、和服の着付けや所作が、とても現代的で、違和感があったのが残念でした。

馬木也さんは、殺陣も、発声も、時代劇キャストとしての資質が溢れていて、伏姫と玉梓という、真逆のキャラクターを見事に演じ分けた香寿さん共々、この舞台を格上げするのに、大貢献されました。

敵対した父子の、馬木也さんと、加藤さんの迫真の決闘場面には、息をのむ思いがありました。

他の八犬士役の役者さんも、皆さん、まだ発展途上ではあるものの、それぞれ、優れた資質をお持ちの方ばかりで、今後の演劇界の活路を見出す気がします。

映画のCG的な演出はあまり賛成出来かねますが、終幕近く、犬士が死ぬ度に、舞台上で、その犬士の玉が破裂する様は、紛らわしい役名や、各自の所有する玉を再確認させる点でも、なかなか効果的な見せ方だと感心しました。

最後に、村の子供達が、新しい種を土に埋める場面は、いつぞやのこゆび侍の近未来舞台作を思い出しました。

もう少し、脚本を練り直し、再演を検討して頂きたい気持ちも湧いたので、観終えてみれば、なかなかに好感度高い舞台だったように思います。
エリザベート スペシャル ガラ・コンサート

エリザベート スペシャル ガラ・コンサート

梅田芸術劇場

東急シアターオーブ(東京都)

2012/11/06 (火) ~ 2012/11/21 (水)公演終了

満足度★★★★★

花總エリザは最高!
本当は、一路トートとの日を観たかったのですが、チケット取れず、紫苑トートとの組み合わせの日に参りました。

「歌を忘れたトート」に一瞬ビックリしましたが、何より、待ち焦がれた花總さんのシシィに再び会うこと叶い、幸せの極みでした。

湖月さんのルキーニも、相変わらず、カッコイイ!高嶺ヨーゼフは、晩年の役作りの方が素晴らしく感じました。少年ルドルフを演じた初嶺麿代さんは、大変爽やかで、これからが楽しみなジェンヌさんだと思いました。

実力あるOJの方が多いので、最近の宝塚で感じる力量不足感がなく、ただ純粋に、「エリザベート」の世界を楽しむことができました。

ネタバレBOX

花總さんの「私だけに」の高音の伸びの心地よいこと、生来持っている美しさと気品において、やはり、この方のエリザベートを超える配役は、あまり想像できないと思いました。

東宝の舞台でも、是非、この役を演じて頂きたいと諦めずに願います。

湖月さんは、退団され、女優さんとしての舞台経験もかなりこなされているのに、相変わらず、宝塚独自の男役の所作がお見事に決まり、ファンでなくても、ドキッとさせられるかっこよさが隋所に見受けられました。
客席のジェンヌさんいじりも、厭味がなく、この方の資質故かなと感じました。

見逃した、一路さんとの組み合わせは、DVDで観ようと、一番乗りで、予約して来ました。ドリームバージョンも付いているようなので、お得なのではと思います。

それにしても、開演前のレストラン街のトイレから始まって、筋金入りの塚ファンの方の中で、アウエイ感いっぱい。
「ニ都物語」のチラシを手にして、お隣の席の方が、井上芳雄さんを終始「この人」呼ばわりで、名前さえ認識していないご様子なのには、ある意味カルチャーショックでした。
客家(HAKKA)~千古光芒の民~

客家(HAKKA)~千古光芒の民~

TSミュージカルファンデーション

天王洲 銀河劇場(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/18 (日)公演終了

満足度★★★

もう少し、ドラマ性がほしかった
なかなかのキャストが揃っていて、期待したのですが、期待が大き過ぎた分、やや薄味な舞台という印象が拭えませんでした。

もう少し、骨太で、うねりのある舞台を期待したのですが…。

とにかく、一幕の終わりまで、人物紹介の域を出ない展開に、やや辟易してしまいました。

音楽座で活躍された、畠中さん、吉野さん、吉田さんは、共に、演技に安定感があり、安心して拝見することができました。特に、吉田さんの光る眼力、口跡の良さは、特筆すべきものを感じました。

宝塚で、長く貴重な名脇役を務められた末沙のえるさんは、客家の歴史の生き証人としての風格が素晴らしく、舞台の要のようでした。

伊礼さんは、相変わらず、芸達者です。出す声からして、きちんと役作りされていて、拝見する度、どれだけ引き出しの豊富な役者さんかと感嘆してしまいます。ただ、今回の役は、脚本の人間描写が希薄だったので、伊礼さんの熱演が空振りするところがあり、残念でした。敵役とは言え、やけにメイクが怖かったのにも、違和感を覚えました。単なる悪役ではない筈なので、もっと本でも、メイクでも、フビライの人間を深く浮き彫りにしてほしかったと思います。

坂元さんは、以前より、演技力が向上され、趣の違う二役を好演されていましたが、歌になると、何をやっても、同じ美声になってしまうのが、今後の課題ではと思ったりします。

水さんは、初めて生の舞台を拝見しました。演技は、なかなか達者でいらっしゃると感じましたが、歌が弱いのと、ダンスが、役の思いを体現するには至らず、まるで、ダンス発表会かのような、稽古の過程が見えてしまった点が残念でした。

若い客家の青年を演じた俳優さん達も、それぞれ、光るものがあり、将来楽しみな人材が揃っていて、嬉しくなりました。

全体的に、見た目は、壮大な歴史ドラマ風なのに、それぞれの役の本の掘り下げ不足で、そこそこ美味しい、出汁の取れていないインスタントみそ汁の味わいでした。

ネタバレBOX

場転換の暗転代わりのような、男性のダンスが、今回は、ややドタドタとうるさくて、逆効果のような気がしました。
TSではよく使われる手法ですが、こういう踊りは、あまり音を立てずに、静かに舞ってほしいと思います。

怪我をして、客家に助けられる蒙古のフビライと、客家の娘、クウショウの心の通い合いをもう少し、丁寧に描写していたら、もっと、奥行きもドラマ性もある作品になっただろうにと惜しまれます。

戦うことを嫌っていたクウが、守るべき者を守るために、やむなく、戦う決心をするまでの、心の軌跡の描き方も、駆け足で、登場人物の誰かに感情移入するまでに至らせない、脚本の荒仕事が目につきました。

もっとブラッシュアップをして、いつか再演してほしい作品です。

文テンショウが監禁された牢屋の格子を、照明だけで、見事に表現した技法は、美しく、感心しました。
こんばんは、父さん

こんばんは、父さん

ニ兎社

世田谷パブリックシアター(東京都)

2012/10/26 (金) ~ 2012/11/07 (水)公演終了

満足度★★★★★

永井さん復活!
ここ何作かの永井さんの新作には、幾分がっかりする部分があったのですが、久々に、永井さんが、誰の思惑にも踊らされず、本当に、書きたい題材を書きたいように作品化された芝居だったように感じました。

3人の配役が素晴らしく、均衡が取れていて、舞台を拝見している間、ずっと気持がワクワクとしてしまいました。

ただ、ひとつ、腑に落ちなかったのは、長い間、行き来がなかった父がどうして、鉄馬の携帯番号を知っていたのだろうかということ。昔から携帯番号を変えていないというのは、この鉄馬の状況では考え辛く、ちょっと虚構的に感じてしまいました。

今回の作品、個人的事情から、溝端さん演じる、闇金の取立て屋の青年に一番感情移入してしまって、複雑な気持ちで観劇したのですが、それでも、この配役の妙と、永井さんの綿密仔細な計算の上に成り立った戯曲の魅力には、心躍る思いがしました。

できれば、また再演してほしい演目でした。

ネタバレBOX

平さんと佐々木さんの父子役が、お二人の雰囲気も似ていることから、違和感がなく、絶妙の配役だと感じました。

お二人とも、舞台上では、落ちぶれた風体ですが、壁の上がった空間で、以前の第一線で活躍していた時代を演じる場面があり、一瞬にして、その勝ち組時代を体現される演技力の巧みさに、感嘆しました。

そして、先日の観劇でも驚いた、溝端さんの舞台役者としての資質に、嬉しさがこみ上げました。スーパーボーイコンテストの結果が出る前に、才気が認められ、人気が出ただけのことはあるのだなと、改めて納得!

ソフト闇金の社員である、山田青年が、ブラック企業なのにも関わらず、必死に店長を目指して、ある意味、奮闘努力する様は、今の自分の心的状況を刺激して、胸が痛くなりました。

終盤、佐藤父子が、亡き母であり、妻である、町工場のおかみさんの一生を語る場面では、彼女の苦悩がやはり胸に沁みます。
登場人物は、男3人なのに、何故か、この薄倖の女性の健気な生き様を、一番、鮮明に観客に想起させるように感じました。

軋んだ階段の上に腰かけ、幼い鉄馬が、職人である父の仕事ぶりを注視していたという配置が、物語の途中で、座る位置が逆になり、階段で父が、かつて自分が座っていた椅子に座る息子に語りかけ、それが、終幕では、やはり、過去の配置に戻ります。

きっと、こういう細部まで、永井さんが計算され尽くして演出されているのでしょう。そういう、意図的な演出が鼻白む場合もありますが、今回の舞台では、名配役が功を奏し、全てが、うまく構成されていたように思えました。

鉄を扱う工場で、息子に鉄馬と命名した父。自分のような下請工場で、息子の人生を終わらせたくないと、私立のエスカレーター学校に進学させ、経済社会でのし上がって行くように、父に人生を決められた息子も、やはりバブル崩壊の中で、投資詐欺に合い、負け組の人生を歩みます。
妻とも離婚し、離れて暮らす、鉄馬の一人息子の名は、勝馬。

でも、これからの日本で、勝馬君も、名前負けする人生を歩むことになるのだろうと思うと、ただただ切なくなるばかりでした。
タカラレ六郎の仇討ち

タカラレ六郎の仇討ち

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

適材適所の配役が楽しい
最初の10分間ぐらいは、まるで面白くなくてどうしようかと思った程でしたが、だんだんと、弾みがついて面白い舞台になりました。

青年座の中でも、安定した実力派揃いの舞台は、適材適所の配役が効を奏して、次第に、客席の反応も温めて行く様子が伝わりました。

ストーリー自体は、如何にも作り話の域を出ないのですが、各役者さんのやや大袈裟な演技に、単純に笑えて、観終わってみれば、なかなかよくできた芝居だという印象が残りました。

久しぶりに、ホームの劇団で拝見した石母田さん、やはりいい役者さんであなあと再認識。

物語の登場人物達のチームワークの良さと、劇団の役者さんのチームワークの良さが二重写しとなり、舞台の醸し出す雰囲気がグッドでした。

青年座が、喜劇も物した感ありの舞台進行でした。

ネタバレBOX

かたき討ちのために、東洋シネマの人達が、一丸となって打つ芝居が、痛快です。

敵役側の東活映画の面々のスタンスも面白い。「ルパン三世」の敵役みたいな、憎めない感があるんですね。

無声映画の人気女優だった滝川寛子と、秘書の水木の関係は、「サンセット・ブールバード」をモチーフにしたパロデイめいた造型で、特に、二人の車の中のシーンは、愉快でした。ただ、逆に、あの作品を知らない人には、あの場面の度々の登場がどう映ったのか、気になるところではあります。

遠藤が、客席に背中を見せる度に、目に入る、ジャンパーの「東洋シネマ」の文字が、さりげなく、彼女達の映画愛を感じさせて、秀逸でした。
ウィーン版ミュージカル エリザベート20周年記念コンサート ~日本スペシャルヴァージョン~

ウィーン版ミュージカル エリザベート20周年記念コンサート ~日本スペシャルヴァージョン~

梅田芸術劇場

東急シアターオーブ(東京都)

2012/10/26 (金) ~ 2012/10/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

最高のキャストで、堪能しました
5年前に観た、ウイーンキャストの「エリザベート」より、更に磨きが掛って素晴らしい舞台でした。

何しろ、マヤさんのエリザベートの歌唱が文句なし。

ルカスさんのルドルフには、また泣かされました。

シアターオーブは、先日も思いましたが、後方の席の方が見易そうです。

前列は段差がなくて、観難いそうですし、2階席は、手すりが視界を遮るそうです。

どうも、最近の新劇場は、観客視点で建てられていないようですね。

ネタバレBOX

何度も観ているミュージカルなので、ストーリーも展開も全て頭に入っているため、字幕を観ずに、舞台に集中することができて、幸いでした。

歌唱力や、演技力は、皆さん、実力者揃いで、申し分なく、堪能できましたが、ただ振り付けに関してだけは、宝塚バージョンとそれに則った、東宝バージョンの方が、美しい所作が勝っているように思いました。

どなたが、字幕の歌詞を書かれたのかはわかりませんが、人物造型の点においては、小池さんの訳詞より、深みを感じて、各人の立場や思いが鮮明に描かれていたように思いました。

2幕で、エリザベートが、有名な絵の構図さながらに、額縁から立ち現れる場面、ゾフィー達が、フランツの気持ちをエリザベートから逸らせようと画策して、娼婦館に誘う相談をする場面の、馬の小道具が、とても斬新で、目を奪われました。

トート役のマテさんが、ややお疲れ気味に感じれたのは、ちょっと残念でしたが、最高のメンバーの「エリザベート」を拝見できて、ミュージカルファンにとっては、至福のひと時でした。

ルキーニの歌の最中に、突然、字幕の文字が消え、どうしたのかと思わせておいて、その部分、日本語で歌ったりと、サービス精神もある、和やかなステージに、胸が熱くなりました。
ジェーン・エア

ジェーン・エア

松竹

日生劇場(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

さすが楽日!
今回の公演は、3回目の観劇ですが、やはり東京楽日だけあって、今日の舞台は、完成度が高く、魅了されっぱなしでした。

松さんが、全身全霊を打ち込んで演じて下さったお陰だと思います。

キャストがこれだけ、適任者が揃っているステージも、滅多にないし、何度観ても感嘆する、ケアードさんの構成・演出力の巧みさには、舌を巻くばかりです。

大劇場で、これだけ、演劇の醍醐味を味わえる良作は、久々な気がしました。

もっと、たくさんの知り合いに観てもらいたかったなあと、自分の口コミの力量不足が残念でなりません。

歌詞も、台詞も、珠玉の選択ばかりで、一々、胸に響きます。

ネタバレBOX

カーテンコールでも、演奏者や指揮者が出しゃばらないのも、自分にとっては好印象でした。

ただ、ひとつ、気になったのは、松さんに、お父様の演技の癖が少し見えたこと。歌いながら、「うんうん」と頷くように、首を上下される点が、ジェーン・エアが家庭教師になる決意をする場面で、目につきました。
私は、お父様のこの癖が嫌いで、最近、高麗屋さんの舞台は、敬遠しがちなので、できれば、松さんには、常習化してほしくないと思ってしまいました。
ジェーン・エア

ジェーン・エア

松竹

日生劇場(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

ロチェスターの苦悩に涙する
先日の観劇時にも感じましたが、今回は、ジェーン・エアよりも、エドワード・ロチェスターの苦悩が、橋本さんの好演もあり、深みが増して、舞台上に色濃く浮き彫りにされている印象がありました。

初めて、橋本さとしさんの存在を知った同行の友人が、一目惚れしてしまったようです。

観れば、観る程、細部に行き渡った、ジョン・ケア―ドさんの演出構成手腕の巧みさに感嘆するばかりです。

これからも、1年置きぐらいに再演され続けたら嬉しいなと思います。

ネタバレBOX

何度も観ているのに、その度感心するのが、生まれたてのジェーンが、次の瞬間、少女のジェーンの肩掛けに変身するところ。(笑)

こういう細部の演出のセンスが、舞台好きには嬉しいお土産のようなシーンとなります。

最初の場面では、少女のジェーンを大人のジェーンが眺めていて、終幕近くの叔母の臨終場面では、逆に、叔母に許しを乞う大人のジェーンを少女のジェーンが眺めつつ、共に彼女の記憶の中で謝るという巧みな演出。

こうした、ちょっとした、演出のセンスで、自然に観客も涙する。故意に泣かせよう感動させようとすることなく、こうして、自然に、感動に誘われる、高尚な舞台は、演劇ファンには、この上ない至福の観劇時間となります。

それにしても、子役さんと違和感なく、少女のヘレン・バーンズを演じる佐藤さんが、他の場面で、性格の悪い貴婦人役を見事に演じ分ける様に、いつも驚嘆します。同じ女優さんが演じていると気づかないお客さん多いのでは?
星めぐりのうた

星めぐりのうた

ネルケプランニング

天王洲 銀河劇場(東京都)

2012/10/17 (水) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★★

相性ピッタリの歌声が気持ちいい
中川さんと、山崎さん。たぶん、初共演かしらと思うのですが、このお二人のハーモニーが素晴らしく、声質もピッタリで、大変相性ピッタリの共演だったと思います。

「銀河鉄道の夜」は、原作は未読で、いつも、これをモチーフにした芝居ばかり観ているので、今回も、どこまでが原作をなぞらえているのか不明ですが、物語芝居というより、ダンスと歌を主軸にしたショー的要素が強い作品で、視覚的、聴覚的に楽しめる場面が満載でした。

映像も、全体的に、とても綺麗で、映像のレベルが、舞台の完成度を高めた気がします。

いつもながら、杉崎さんの名バイプレーヤーぶりには、感嘆しました。
他に、気になった役者さんの岡田亮輔さん、岡田可愛さんのご子息なのですか?将来性のある俳優さんだと感じました。

幕間に、友人が、パンフレットを購入して来たら、何と、内容は希薄なポストカードのみで、払い戻ししたいと友人が怒っていました。これで、1500円だなんて、ちょっと詐欺的な気がします。

ネタバレBOX

KAKUTAの桑原さんの脚本ということも楽しみの一つでしたが、今回の作品には、それ程、彼女らしさは見えなかったように感じ、ちょっと物足りない想いがありました。

同窓会に遅れると言いに、山崎さんが舞台に登場するまでの、流れがやや冗長に感じました。(中川さんの一人舞台の場面をもう少しスピードアップしないと、観客の興味を逸らすように感じました。)

銀河鉄道に二人が乗って、旅立つ場面、キップの検札で、「Wモーツアルト」のチケットしか持っていないと中川さんが言うのは、お二人が、以前同じモーツアルト役を演じたという、観客周知の事実をお遊びで出しているわけですが、心情的には、許せる範囲の座興と感じました。ただ、原作では、「天上でもどこへでも行ける特別の切符」が意味を持つシーンなので、この座興を軌道修正しないまま、「特別な切符」に台詞を繋げてしまったのは、ちょっと再考の余地がある気もしました。また、途中、土居さん演じる母親のソロで、中川さんの実物の幼少写真などが、映像で出たのですが、この舞台の空気感にはそぐわないと感じました。

天文学の先生や、穴掘りのおじさんで笑わせた後、一転して、シリアスな父親役を好演される杉崎さんの演技の引き出しの多さに感嘆します。(お笑い時代、イキウメに今や欠かせない役者さん、安井順平さんの相方でいらしたのですね。初めて知って、ビックリ。お二方共、素晴らしい役者さんなんだもの)

たくさんのシーンを映像の変化で、劇的に見せ、それはとても刺激的で美しく、技術の確かさに魅了されたのですが、ただ、天国の場面の花の色がどぎつ過ぎたのは、ちょっと残念に思いました。

中川さんと山崎さんの声質がとても合うと知り、また何かでお二人が共演されることがあればと期待感を抱きました。
人情噺『端敵★天下茶屋』(はがたきてんがちゃや)

人情噺『端敵★天下茶屋』(はがたきてんがちゃや)

劇団扉座

座・高円寺1(東京都)

2012/10/17 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

趣里さん、可愛い!
素人っぽいと言えば、そうなんだけど、趣里さん、生まれが良い雰囲気が出ていて、憎めず、可愛い!!

「六角さんと父が共演している」という、当パンのヒントで、お写真を見たら、お母様にそっくりで、すぐにどなたのお子さんか察しがつきました。(面差しも似てるのですが、彼女の演技が、今は、ベテラン女優さんのお母様が、昔、ドリフの「全員集合」や「カックラキン大放送」にゲスト出演していた頃の演技を彷彿とさせるものがありました。)

ハチャメチャな内容ではありますが、昔から、芸能界や演劇界の裏話を知っている身としては、個人的にかなり受けました。

あー、こういう、演劇プロデューサー、いたなあとか思って…。

これは、どこの事務所をモデルにしてるかとか、かなり予想がつくだけに、とても興味深い内容でした。

扉座は、もう重鎮の役者さんがたくさんいらっしゃるので、ある程度、クオリティの高い芝居が打てて、お幸せだと思いました。

六角さん、有馬さん、岡森さんのお三方がいらして、横内さんの脚本、演出となれば、少なくても駄作になる心配はありませんから。

ネタバレBOX

即効性のない毒薬を少しづつ飲ませるとか、自殺に見せかけて殺すとか、芸能プロのバックにはやくざがいるとか、案外、実際の社会で、相当ありそうな事象が、さらりと描かれていて、でもやたら怖くなくて、提示の塩梅が絶妙な横内さんの筆捌きに感心しました。

こういう怖い現実を、笑いにできてしまう匙加減がプロの仕事ぶりだと思います。

同じ悪事を芝居にするにしても、小劇場の芝居だと、あまりにもリアル過ぎて、悪寒や戦慄が走ることが多いのですが、こういうプロの職人芸で、笑いにまぶして頂くと、結構笑って観られるのだと認識させて頂きました。
ジェーン・エア

ジェーン・エア

松竹

日生劇場(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

テンポアップしたせいで
初演時に比べると、曲のテンポも、舞台展開も、かなりスピーディになったように感じました。

そのため、中だるみせずに、観られる反面、やや、ジェーン・エアの心の葛藤部分が薄まってしまったような気もしました。

橋本さんのロチェスターの役作りが深まったのに反して、逆に、松さんのジェーンは、以前より、段取り芝居に感じた部分がありました。(とても巧い女優さんだけに、難なくこなしてるという印象になる部分があるのです。)

とは言え、やはり何度観ても、傑作舞台であることに変わりはありません。

今回初見の同行者は、いたく感激していたし、私も後半また泣いてしまいました。

ネタバレBOX

ジョン・ケアードさん、やはり、こういう長い原作をうまく構成する手腕に長けていらっしゃると、いつも感心するばかりです。

初演と主要メンバーが変わらないので、今回は、舞台運びが大変スムーズでした。良くも悪くも安定感がある舞台で、安心して観ることができました。

初演時は、舞台上のプレミアシートで裏から観劇する機会が多かったのですが、やはりこの舞台は、普通の客席から観る方が、世界感に浸れる気がしました。

さとうさんの歌う「許ーして…」の歌詞が、心に、みるみる浸透して行きます。

叔母の臨終場面で、子役のジェーンが再び登場して、大人のジェーンと交錯する瞬間は、何度観ても、涙を禁じえません。



今回の舞台、小西さん演じる執事の存在感が増していて、愉快でした。
全く台詞のない阿部さんの執事も、表情が豊かになって、格段の進歩でした。
寿さんの存在は、この作品の要でした。

だけど、私が一番好きなのは、占い女の歌のシーンだったりします。(笑い)
さとしさんファンには、ご馳走的なワクワクする瞬間です。

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