こんばんは、父さん 公演情報 ニ兎社「こんばんは、父さん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    永井さん復活!
    ここ何作かの永井さんの新作には、幾分がっかりする部分があったのですが、久々に、永井さんが、誰の思惑にも踊らされず、本当に、書きたい題材を書きたいように作品化された芝居だったように感じました。

    3人の配役が素晴らしく、均衡が取れていて、舞台を拝見している間、ずっと気持がワクワクとしてしまいました。

    ただ、ひとつ、腑に落ちなかったのは、長い間、行き来がなかった父がどうして、鉄馬の携帯番号を知っていたのだろうかということ。昔から携帯番号を変えていないというのは、この鉄馬の状況では考え辛く、ちょっと虚構的に感じてしまいました。

    今回の作品、個人的事情から、溝端さん演じる、闇金の取立て屋の青年に一番感情移入してしまって、複雑な気持ちで観劇したのですが、それでも、この配役の妙と、永井さんの綿密仔細な計算の上に成り立った戯曲の魅力には、心躍る思いがしました。

    できれば、また再演してほしい演目でした。

    ネタバレBOX

    平さんと佐々木さんの父子役が、お二人の雰囲気も似ていることから、違和感がなく、絶妙の配役だと感じました。

    お二人とも、舞台上では、落ちぶれた風体ですが、壁の上がった空間で、以前の第一線で活躍していた時代を演じる場面があり、一瞬にして、その勝ち組時代を体現される演技力の巧みさに、感嘆しました。

    そして、先日の観劇でも驚いた、溝端さんの舞台役者としての資質に、嬉しさがこみ上げました。スーパーボーイコンテストの結果が出る前に、才気が認められ、人気が出ただけのことはあるのだなと、改めて納得!

    ソフト闇金の社員である、山田青年が、ブラック企業なのにも関わらず、必死に店長を目指して、ある意味、奮闘努力する様は、今の自分の心的状況を刺激して、胸が痛くなりました。

    終盤、佐藤父子が、亡き母であり、妻である、町工場のおかみさんの一生を語る場面では、彼女の苦悩がやはり胸に沁みます。
    登場人物は、男3人なのに、何故か、この薄倖の女性の健気な生き様を、一番、鮮明に観客に想起させるように感じました。

    軋んだ階段の上に腰かけ、幼い鉄馬が、職人である父の仕事ぶりを注視していたという配置が、物語の途中で、座る位置が逆になり、階段で父が、かつて自分が座っていた椅子に座る息子に語りかけ、それが、終幕では、やはり、過去の配置に戻ります。

    きっと、こういう細部まで、永井さんが計算され尽くして演出されているのでしょう。そういう、意図的な演出が鼻白む場合もありますが、今回の舞台では、名配役が功を奏し、全てが、うまく構成されていたように思えました。

    鉄を扱う工場で、息子に鉄馬と命名した父。自分のような下請工場で、息子の人生を終わらせたくないと、私立のエスカレーター学校に進学させ、経済社会でのし上がって行くように、父に人生を決められた息子も、やはりバブル崩壊の中で、投資詐欺に合い、負け組の人生を歩みます。
    妻とも離婚し、離れて暮らす、鉄馬の一人息子の名は、勝馬。

    でも、これからの日本で、勝馬君も、名前負けする人生を歩むことになるのだろうと思うと、ただただ切なくなるばかりでした。

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    2012/11/07 19:39

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