土反の観てきた!クチコミ一覧

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平成26年6月歌舞伎鑑賞教室「ぢいさんばあさん」

平成26年6月歌舞伎鑑賞教室「ぢいさんばあさん」

国立劇場

国立劇場 大劇場(東京都)

2014/06/02 (月) ~ 2014/06/24 (火)公演終了

満足度★★★

地味ながら味わい深い作品
学生の為の公演を金曜日の夜という社会人が見ることの出来る時間に上演する企画で、解説も演目も分かり易い内容で楽しめました。

『歌舞伎のみかた』
中村虎之介さんの司会で演技のスタイルや舞台の作りを30分程で解説し、コンパクトながら分かり易かったです。
本編の『ぢいさんばあさん』が地味な作品なので、『伽羅先代萩』『髪結新三』『加賀見山旧錦絵』の中の動きのあるシーンを実演して、歌舞伎の華やかな部分も見せていました。黒御簾の手前の壁を取り外して、普段は見えない囃子方の様子を見れたのが良かったです。

『ぢいさんばあさん』
若い夫婦が夫が犯してしまった罪で長年会うことが出来ず、37年振りに再会するという物語で新しい作品で様式的な要素が少なく、歌舞伎というより時代劇みたいな趣きですが、言葉が分かり易く夫婦愛というテーマも普遍的で、予備知識が無くても楽しめる内容でした。
若さと老い、男と女を対称的に描くプロットの運び方に、古典とは異なる近代的なドラマツルギーが感じられました。
中村橋之助さん演じる夫と中村扇雀さん演じる妻のおしどり夫婦ぶりがチャーミングで、若い時代の夫の軽妙さや年老いてからの妻の優しげな貫禄に味わいがあり魅力的でした。
若手が演じた甥っ子夫婦の演技が硬くてぎこちなかったのが残念でした。

ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと----------

ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと----------

マームとジプシー

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2014/06/08 (日) ~ 2014/06/22 (日)公演終了

満足度★★★

ノスタルジックな食卓の風景
岸田戯曲賞を受賞した『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』の3部作の2作を大幅にリニューアルしての公演との触れ込みでしたが、『かえりの合図』の要素はあまりなく(『まってた食卓』は観ていません)『ワタシんち、通過。のち、ダイジェスト。』の要素がかなり多く、この劇団の過去の作品のリミックスといった趣きでした。

従姉妹同士がいがみ合うエピソードや、シーンの区切をでんぐり返りで表す等、最近の作品(全ては観ていませんが)に比べてコミカルな要素が多く用いられていて、新鮮に感じました。
物語の流れから離れた感じでタイトルを台詞として言ったり、各場面のタイトルをわざわざ字幕で出したり、センチメンタルな音楽で盛り上げるといった演出が青臭く感じられ、ところどころで醒めてしまいそうになりましたが、リフレインによるノスタルジックな感情の高ぶりに再び引き込まれたりと、不思議な距離感を感じました。

ステージ中央に六角形の回り舞台がしつらえてあり、この劇団の特徴である向きを変化させつつ短いシーンを繰り返す手法を役者自身は移動せずに行うことを可能にしていて、いままでの役者が動く手法と組み合わせて複合的な表現になっていたのが興味深かったです。

三人吉三

三人吉三

松竹/Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/28 (土)公演終了

満足度★★★★

第二期始動
若い世代が中心とした座組による勢いを感じさせる公演で、コクーン歌舞伎の第二期の始まりを強く印象付けていました。

同じ吉三という名を持つ悪党3人が出会い、次第に百両と名刀「庚申丸」を巡る因果が明らかになる物語で、都合の良い偶然だらけの荒唐無稽さはあるものの、3人に訪れる悲しい運命に引き込まれました。
大詰では何もない真っ白な空間に雪が降る中で、スピード感のあるダイナミックな大立ち回りが繰り広げられ、とてもエキサイティングでした。

回り舞台を場面転換の為に使うのではなく、印象的な場面で役者を色々な角度で見せる為に使われているのが伝統的な歌舞伎の演出とは異なっていて興味深かったです。

三味線を用いず、電子音を主体にした録音に附け打ちとパーカッションのが絡む音楽が、現代に合ったテンポ感を生み出していて良かったです。
大詰めの立ち回りの時は音量やオン/オフを弄り過ぎていて、せせこましく感じられたのが残念でした。

書き割りではないリアルな2階建ての町屋のセットが3方を囲う中に水を張った回り舞台が設らえてあり、水面の光の反射が壁に映るのが美しかったです。

パゴダの王子

パゴダの王子

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2014/06/12 (木) ~ 2014/06/16 (月)公演終了

満足度★★★

アジアンファンタジー
ビントレー芸術監督体制最後の公演はビントレーさんが新国バレエ団の為に作った作品の再演で、いかにもバレエ的なファンタスティックな物語バレエで気楽に楽しめる内容でした。

兄を亡くした王女が継母に政略結婚を勧められるものの拒否し、醜い姿のサラマンダーと旅に出て試練を克服して、実は魔女であった継母から国と父とサラマンダーの姿に変えられていた兄を取り戻すという内容で、物語としてはありきたりな印象を受けました。

書き割り風のセットや装束の衣装で和風(少々中国風?)なビジュアル表現が中心的で、第2幕の後半では音楽がガムラン風になるのに合わせてバリ風の衣装と振付が登場するという、あからさまなオリエンタリズム的表現を用いていましたが、幻想的な物語のせいか特に嫌な感じがありませんでした。

振付はビントレー作品の中でもかなり伝統的な流儀に則ったもので、分かり易く美しかったです。第2幕の群舞ではビントレーさんならではのムーブメントも使われ、良いアクセントになっていました。
音楽も難解な部分は無く、程良く用いられた不協和音や複調によるモダンな響きが緊張感や迫力を生み出していました。

王女を演じた米川唯さんは表現のスケールが少々小さく感じることもありましたが柔らかな雰囲気が魅力的で、皇后を演じた本島美和さんとのキャラクターの対比が際立っていました。

全体的にチャイコフスキー&プティパの3大バレエの流れを汲んだ様な作品で一般受けする内容だと思うのですが、客席にかなり空きがあり、来シーズンからは定番物ばかりになってしまうのも仕方がないのかと残念に思いました。

フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA 『PANORAMA ―パノラマ』

フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA 『PANORAMA ―パノラマ』

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2014/06/13 (金) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★

ユーモアに富む短編集
オリンピックの開・閉会式やシルク・ド・ソレイユから老舗キャバレーのショウやTVCMまで様々な演出・振付を手掛けるフィリップ・ドゥクフレさんの旧作の抜粋をまとめた作品で、ダンスの枠に止まらない色々な手法を用いたユーモラスな表現が魅力的でした。

バトントワリングをしながらロビーから客席を通って舞台に上がる導入部が開演前にあり、両手をパンツのポケットにずっと入れたまま踊るパートから始まり、ソロで踊るダンサーにグラフィカルな映像を投影して抽象的に見せるパート、手で作る影絵とダンサーが一緒に踊っている様なパート、昔流行ったテレビゲームの格闘ゲームのパロディー等、それぞれに趣向を凝らしたパートが続き、楽しかったです。
1本のワイヤーを上部の滑車を通して2人のダンサーを繋げることによって、機械を用いずに浮遊感のあるワイヤーアクションを行い、恋人のやりとりを幻想的に見せるパートが素晴らしかったです。
それぞれのパートは楽しめましたが、レビュー的な継ぎ接ぎの構成だったので、1本の作品としては少々物足りなさを感じました。

ゲストのスズキ拓朗さんは、ダンサーがフランス語で喋っている内容を説明する役割を担いつつ、ユニゾンで踊るシーンでは一緒に踊っていましたが、もう少しパフォーマンスでも絡んで欲しかったです。

カラフルな衣装やチープな電子音の音楽に80年代の雰囲気が強く出ていて、少し古臭い感じが逆に可愛いらしい雰囲気を醸し出していました。

『夏木マリ 印象派NÉO vol.2』 灰かぶりのシンデレラ

『夏木マリ 印象派NÉO vol.2』 灰かぶりのシンデレラ

MNS TOKYO

世田谷パブリックシアター(東京都)

2014/06/12 (木) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★★

独特の美意識
シンデレラをベースにしたダンスを中心としたパフォーマンス作品で、ビザールでありながら品のある独特の美意識が徹底されていて、魅惑的でした。

人工的なパースのかかった白い両袖の壁に沢山の引き出しがあり、その上にハイヒールが並べられていて、下手奥にはDJブースがあり開演前からレコードを回している中、シンデレラ役を演じる西島千博さんが客席を掃除して回るところから始まり、男性ダンサーが演じる2人の姉や夏木マリさんが演じる継母、羊(?)の被り物を被った王子等、奇妙なキャラクターが登場しつつ原作通りに物語が進み(シンデレラが残したのはガラスの靴ではなく、ウイッグという設定でしたが)、終盤に嫉妬をキーワードにしたオリジナルの展開があり、独自性がありました。

濃い化粧、女装、キッチュな衣装といったLGBTカルチャー的なアクの強い表現が多く、その様なテイストは日本人がやると下世話な感じになりがちですが、そうはならずにスタイリッシュにまとまっていて格好良かったです。

振付の井手茂太さんならではムーブメントが多く用いられていて、横一列に並んで前に歩いてくるシーンや、気だるい雰囲気でステップを踏むユニゾンが長く続くシーンが派手な動きではないものの印象的でした。

舞台の音楽にしてはかなりの大音量でしたが、音響システムが良くて威圧感が無く、気持良かったです。
使われる音楽もテクノ、マンボ、現代音楽、ロック、ジャズと多様でセンスの良さを感じました。夏木マリさんのスキャットの歌唱もセクシーで魅力的でした。

六月大歌舞伎

六月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2014/06/01 (日) ~ 2014/06/25 (水)公演終了

満足度★★★

吉右衛門さんが圧巻の夜の部
休憩込みで5時間近くの長丁場でしたが、だれる場面もほとんどなく、子役の初々しさからベテランの妙技まで歌舞伎の様々な面白さを楽しめました。

『蘭平物狂』
尾上松緑さんの長男で今回が襲名披露となる左近さんが、劇中で松緑さんと親子の役を演じていて微笑ましくもしっかりとした演技をしていて、見応えがありました。
あまり展開も無いままに唐突に立ち回りになり物語としての面白みは無いのですが、アクロバティックな技が沢山盛り込まれた立ち回りが賑やかでした。ラスト直前で口上があり、晴れやかな雰囲気がありました。

『素襖落』
使いで伺った先でもてなしを受けたことを隠そうとして、それを知った大名にからかわれるという、狂言を元にした舞踊劇で、松本幸四郎さんの酔っ払いの演技と市川高麗蔵さんの色気のある踊りが魅力的でした。

『名月八幡祭』
田舎から反物を売りに来た真面目な男が芸者に心を奪われて、騙されたのを知って発狂する凄惨な話で、古典的な様式美はあまりないものの近代的なドラマ性の高さに引き込まれました。雨(新しい歌舞伎座になってからの初の本水使用とのことです)の中で女を殺めた男が御輿の様に担がれて退場した後、誰もいなくなった舞台に月が昇り、雨で出来た水溜りに月影が映る終盤の展開が強烈な印象を残しました。
中村吉右衛門さんが人の良い田舎者から狂人への変化を強烈に演じていて素晴らしかったです。
この演目の開演は19:30と平日の仕事帰りでも間に合う時刻なので、幕見でこれだけでも観る価値があると思います。

信じる機械-The Faith Machine-

信じる機械-The Faith Machine-

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/06/11 (水)公演終了

満足度★★★★

白と黒のあわいを描く文学・芸術
戦争、差別、宗教、政治、芸術、老いといった様々なシリアスなトピックを扱いながらも、説教がましくはなく、愛の物語として描かれていて、印象に残る言葉が多く詰まった作品でした。

聖職者の父を持ち、ジャーナリストとして働く女と、文学を志しながら広告代理店で働く男の出会いと別れを中心にして、ニューヨーク、ロンドン、アテネを舞台に時間軸を行きつ戻りつしながら、価値観の異なる人達の会話から様々な問題が浮かび上がる物語で、冒頭のシーンで描かれる2人の別れのきっかけとなった薬害事件で被害を受けた人物が終盤になって登場し、人類の知と愛の産物である書物がありながらも愚かな判断をしてしまう人間の弱さが印象的に描かれていました。
痴呆が進んだ父が娘にオムツを取り替えてもらっている間、半狂乱に信念を語り続けるシーンの聖性と排泄物の対比が強烈でした。
タイトル(劇中で多くの哲学者や作家の名前が挙げられることからも、思想家ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリの有名な概念「〜機械」をもじって付けたのでしょうか)の意味が明かになった後のあっけない急転落が、信じることの困難さを思わせました。

U字型に配置された客席に囲まれたスペースをバラバラにされた雑誌のページが覆っている美術は非リアルですが物語や演技はリアルで、機械と書物をイメージさせるアルファベットや数字が降る映像が壁と床に数回映し出される他はストレートな演出で、物語の世界観に引き込まれました。

様々な国籍、バックグラウンドを持つ登場人物達が過度にデフォルメされることもなく、自然に演じられていて良かったです。

カクシンハン版 夏の夜の夢

カクシンハン版 夏の夜の夢

Theatre Company カクシンハン/株式会社トゥービー

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/06/04 (水) ~ 2014/06/08 (日)公演終了

満足度★★

狙いが分かり難い演出
戯曲に忠実な展開の中にいくつか特徴的な趣向が盛り込まれた演出でしたが、意図が掴み辛く、空回りしている様に感じました。

対面式の客席の間にファッションショウのランウェイの様な細長いステージが設けられ、両端には金と銀の月が掲げられた中で、白いギリシャ風の衣装を着た役者達が目の前で演じ、臨場感がありました。

緊迫したシーンで3.11を想起させるサイレンと津波の音が鳴り響くという表現が2回あったものの、危機感を煽っているだけに感じられ、そこに現代の日本との繋がりが見い出せませんでした。
最後の妖精達の宴のシーンは月で行われるという設定で、映画『2001年宇宙の旅』を引用していて、劇中劇を見る登場人物を見る観客を地球の外から見る妖精達という入れ子構造になっていましたが、そこからイメージが広がらず、何を言いたいのかが分かりませんでした。
また、尻を出したり、叩いたり蹴ったりを振りではなく実際に行ったりといった、安易な手法で笑いを取ろうとする学生演劇的なノリに付いて行けませんでした。

木製の固いベンチに2時間半以上座るのは辛く、後半はあまり集中出来なかったのが残念でした。

昔の日々

昔の日々

梅田芸術劇場

日生劇場(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★★

密やかな官能性
女2人と男1人の濃密で曖昧な会話劇で、単純に笑えたり泣けたりする場面は皆無でありながら、冒頭からラストまで求心力を保ち続ける充実した作品でした。

昔の思い出を象徴する様なまだらなモノトーンに塗られた家具や調度品が舞台奥に並べられ、物語は客席に浮く様に張り出した正方形に近い赤いカーペットの敷かれたステージで展開しました。
交される会話は3人それぞれの記憶が異なっていて、何が事実なのかが分からないまま進んで行き、終盤でようやく少し明かになったかと思うと、明確な事実が判明することも無いままに終わってしまい、記憶の曖昧さがそのまま舞台上で表されていたかの様でした。

音楽や効果音はほとんど用いられず、誰も喋らない間も多い、静かな作品でしたが、思わせぶりな視線のやりとりや体への接触がミステリアスかつ官能的で、引き込まれました。舞台の形状や昔話を語る形式が能を思わせました。

室内を舞台にした登場人物3人だけの作品に日生劇場の空間は広すぎるのではと懸念していましたが、客席と舞台との間に空気の壁が感じられことによって、リアリズムの演技で台詞も海外戯曲ならではの違和感も無かったにも関わらず、どことなく現実離れした感じが出ていて良かったです。
最初と最後の演出も大空間ならではの表現となっていて効果的で強く印象に残りました。

終演後にルヴォーさんによる公開ワークショップがあり、柔軟な即興能力とコミュニケーション能力を要求する課題を若手の役者4人がこなす様子が興味深かったですのが、役者達がすぐにふざけた笑いの方向に持って行ってしまうのが残念に感じました。

赤鬼

赤鬼

こどもの城 青山円形劇場/ネルケプランニング

青山円形劇場(東京都)

2014/06/04 (水) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★

差別の構造
様々な団体によって上演されている野田秀樹さんの名作戯曲を、中屋敷法仁さん演出、小野寺修二さん振付、阿部海太郎さん音楽、若い役者達と興味深い組み合わせでの上演で、シンプルながらイメージ豊かな表現が美しかったです。

共同体が異物を排除する差別の構造や、生きることについて、野田さんならではの物語と強い関連を持たせた言葉遊びが散りばめられた台詞のやりとりで寓話的に描いた物語で、重いテーマを扱った絶望的な内容ながらも清々しい軽やかさを感じました。狼ーおお、神ーOh,Godー大事(おおごと)と言葉が連なって行くのが印象に残りました。

台詞回しは基本的にストレートで、アンサンブルの3人を含めた身体表現が多用されていて、メインの登場人物以外も暗転を用いずに声のトーンや姿勢で瞬時に演じ分けるシームレスな転換が小気味良く、観客の集中力を削がない演出でした。
視覚的に変化が少ない分、音楽や効果音が多く用いて場面を分かり易く表現していましたが、もう少し役者の声だけが響く場面があっても良いと思いました。

チラシのビジュアルはスタイリッシュなイメージでしたが、実際の衣装はタイダイ染めを用いた土着的な雰囲気で、中屋敷さんが女体シェイクスピアのシリーズで行っている様な設定の置き換えはなく、戯曲の世界観からあまり距離を取っていなかった様に見えたのが少々物足りなく感じました。

4人のメインキャストはそれぞれ個性的で魅力的でした。特に、台詞でも「大きい」と言われている赤鬼を敢えて小柄な小野寺さんが演じていたことによって、フレンドリーな雰囲気が出ていてたのが良かったです。

テンペスト

テンペスト

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2014/05/15 (木) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

人力による魔法の世界
シェイクスピアの最後の戯曲を、大掛りながら機械仕掛けではなく人力による表現を中心に演出し、幸福感と寂しさが美しく描かれていました。

広い空間の中に照明が1つ置かれているだけの状態から、冒頭の嵐のシーンで大量の段ボール箱を載せた沢山の可動式ステージが持ち込まれ、印象的なオープニングでした。その後はそれらの配列を変えて様々なシーンを巧みに表現していました。舞台後方にはコンテナ埠頭のクレーンが数台そびえていて、海辺の物語であることや、妖精達が作業員の姿をしていることを整合させる役割を果たしていましたが、もう少しその存在に強い説得力が欲しかったです。

原作を読んでいたり、他のオーソドックスな演出の公演を観たことがあれば、大量の段ボールの美術の使い方や、空気の精であるエアリアルがプロスペローの魔法で支配されていることを表現するために車椅子に座って登場することが腑に落ちますが、初めてこの作品に接する人は戸惑いを覚える演出だったと思います。

3人のミュージシャンによるアコーディオン、コントラバス、足踏みオルガン、鍵盤打楽器等の演奏が幻想的な雰囲気を高めていて、柔かい響きが耳に心地良かったです。効果音の多くも楽器や声で表現していて、全てがプロスペローの魔法によるものという感じが出ていました。

台詞回しは意図的にあまり朗唱的にならない様にしていたと思われ、堅苦しさが無くて親しみ易さを感じました。

fffffffffffffffffffffff - 生まれて初めて出すフォルテ

fffffffffffffffffffffff - 生まれて初めて出すフォルテ

時々自動

調布市せんがわ劇場(東京都)

2014/05/29 (木) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★

独創的な表現で描かれた地獄
自身の演奏活動をしつつ、コクーン歌舞伎や新国立劇場の舞台音楽を手掛けているミュージシャンの国広和毅さんが時々自動としては初の外部からの作・演出を勤めた作品で、ざらっとしたアナーキーな雰囲気で仏教的世界が描かれ、独特の質感が印象的でした。

冒頭は演出家やパフォーマー達が役柄ではなく本人として登場して話し、ドキュメンタリー演劇的な展開になるかと思いきや、特殊な発声・奏法による演奏や3ピースバンドKisamaAlternativeの演奏シーンと、白い衣装を着た仏と蜘蛛を象徴する2人が登場する『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)の物語とが断片的に交差し、物語と演奏が独特のバランスで組み合わさった構成となっていました。

世代論もテーマの1つとなっていて、前半では芸術/音楽論と絡ませながら語られていたのですが、後半ではあまり展開しない印象を受け、物足りなく感じました。

金管楽器に木管楽器のマウスピースを付けて吹いたり、風船の空気で管楽器を鳴らしたり、楽器の中に水を入れて吹いたり、サックスを上下逆に構えて演奏したりと普通ではない奏法を多用し、奇妙な音響が繰り広げられていて、かつ身体の存在感としてもドラマチックな効果があり、興味深かったです。

クラップ~最後のテープ~

クラップ~最後のテープ~

株式会社K Productions

あうるすぽっと(東京都)

2014/05/30 (金) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★

折り重なる時間
ベケットの戯曲を一言も改編せずに(とのことです)オペラ化した作品で、現在と過去が折り重なる独特の雰囲気が印象的でしたが、音楽的に物足りなさを感じました。

毎年誕生日にオープンリールテープレコーダーに自身へのメッセージを吹き込むことを習慣にしている年老いた男が、過去の録音を聞き返して若かりし頃の自分に思いを巡らす物語で、諦めと希望の葛藤が淡々と表されていました。

聴覚的には録音によって過去が表されているのに対応して、視覚的には映像で過去を表現していましたが、何が映っているのか分かり難くてあまり効果を感じられませんでした。フェイクの影を映像で映し出し、本体から離れていく演出が印象的でした。

音楽は基本的に無調ながら旋律やハーモニーが感じられる部分もあり、当時の現代音楽作品の中では聞き易い作風でしたが、曲調が単調で物足りなさを感じました。過去の録音を聞き返すシーンでは事前に録音した歌声に楽器の生演奏が重なり、いわば「逆カラオケ」状態になっているのが興味深かったです。

1人しか登場人物が出て来ず、上演時間も1時間強と小規模な作品ですが、奥の壁面全体と天井の一部を作り込んだセットや肌の特殊メイク等、細かい部分にまで配慮が感じられて良かったです。

休暇 Holidays

休暇 Holidays

地人会新社

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/05/10 (土) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★

女の決断
癌に冒された女性の田舎村での1週間の療養の期間を回想シーンを交えながら描いた作品で、地味な話ながらも人間関係や生き方について考えさせる深みのある内容でした。

癌が再発しカウンセラーの勧めで今後をどうするか考える為に1週間コテージに1人で暮らし、テープレコーダーに自分の思いを赤裸々に吹き込んでいると生活をしているところに修理工の男が訪れることから考え方が変わって行く物語で、闘病ものにありがちな安易なお涙頂戴的展開が無く、じっくりと人の感情を描いていて押し付けがましさが無いのが良かったです。
性的な話題も多いのですが、所々で引用される詩の効果もあって、お高くとまることのない快い品の良さが感じられました。1幕の終盤でイプセンの『人形の家』を彷彿とさせる台詞のやりとりがあり、最後の展開を予感させていたのが戯曲の構造として興味深かったです。

とても優しいけど、その優しさが相手への配慮ではなく自身の為に感じられる夫と、相手への思いやりがあるにも関わらず、表現がストレート過ぎな修理工の2人の対比が印象的で、終盤でその2人が鉢合わせする修羅場のシーンでは当人達は真面目なのに端から見るととても滑稽で、人間の感情の面白さがユーモラスに描かれていました。
前半は対話シーンがあまり無くてテープレコーダーに話し掛ける体での一人芝居状態が長く続くのですが、保坂知寿さんの演技が魅力的で引き込まれました。

音楽や照明や美術も主張し過ぎることなく的確に役割を果たしていて良かったです。劇中でラジオから聞こえて来る設定で流れる曲の歌詞が、登場人物の心情と重ね合わされていたのが、常套的な手法ながらも効果的でした。

PDA Performance Collection vol.4 Zero

PDA Performance Collection vol.4 Zero

Professional Dancer's Association

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/05/29 (木)公演終了

満足度★★

男性バレエダンサーのみによる公演
クラシックバレエでは女性ダンサーのサポートに回ることが多く、活躍のする場面が少ない男性バレエダンサー達による公演で、ダイナミックな男性群舞が魅力的でした。ダンサーは良かったのですが、作品としてはあまり満足出来ませんでした。

『Thread』(振付:篠原聖一)
茶色の衣装と顔を赤と白にメイク猿の社会をコミカルに描く作品で、異なる種族(?)の猿がやって来て、ボスの座を奪い合ったり、温泉でメス猿の取り合いをする様子がユーモラスな振付で踊られました。1曲目だけアフロビートのポップスで、他はクラシックの曲が続くのがアンバランスに感じました。

『KIZASHI』
数分と短く、あまり印象に残るところもなく終わってしまいました。白シャツのボタンを留めず踊る。布のはためきを見せたかった為かシャツがブカブカで、身体のシルエットが隠れていたのが残念でした。

『Patch Work』(振付:島崎徹)
タンクトップとスカート状の生地のついた黒の衣装でロマ系の音楽を中心にした選曲の乗せて踊る作品で、あまりクラシックバレエ的な動きは用いられず、ダイナミックな振付が印象的でした。少々ナルシシズムを感じさせるのが苦手でした。

『ラ・バヤデール第2幕より ソロルのヴァリエーション』
短いソロですが回転や跳躍が多く盛り込まれていて、軽やかな身のこなしに引き込まれました。

『ZERO』(振付:矢上恵子)
零戦に乗る男達を描いた作品で、蝉の鳴き声に始まり、途中からはパイロットゴーグルを身に付け、戦いに赴く強さと悲しみが表現されていました。大袈裟な曲調の選曲と悲劇のヒーロー的な人物造形が安っぽく、センスを感じませんでした。近頃の社会状況を考えるとセンシティヴな題材な割に表現が単純過ぎる様に感じました。

殺風景

殺風景

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/05/03 (土) ~ 2014/05/25 (日)公演終了

満足度★★★

人の生臭さ
かつて炭鉱で栄えた大牟田で平成16年に実際に起きた4人殺害事件をベースに、ヤクザや売春婦、高利貸しといった社会の底辺で生きる駄目な人間達の様子を描いた、こけ脅し的な演出のないストレートで骨太な物語でした。

ヤクザの一家の父親の若い頃と現代の2つの時代を時系列を行き来しながら描き、特に現代の場面は時間が細かく前後していましたが、混乱することもなく観ることが出来ました。現代と過去で同じ役を異なる役者が演じることによって因縁や因果応報を感じさせるのが興味深かったです。
物語やBGMの大半で使われていた三味線の音色が歌舞伎を彷彿させながらも、歌舞伎に見られる様なカタルシスが無く、モヤモヤとした後味が残るのが印象的でした。
冒頭で歌われた歌が終盤で再び歌われ、描き方次第では感動的なシーンに出来るところをそうせずに、その劇的場面に突っ込みを入れて笑いを取っていたのが良かったです。
物語の展開にあまり関係の無いやりとりが多く、流れに停滞感を覚えることもありましたが、その様なシーンに役柄あるいは役者の性格が強く出ていました。

アイドルが主演的なポジションのキャスティングで少々不安を感じていたのですが、変に見せ場を作って引き立てる様なこともなく、ベテラン達の芝居のアンサンブルに溶け込んでいて良かったです。

300ぷんぶっとおし新作公演『ニューーーューーューー』

300ぷんぶっとおし新作公演『ニューーーューーューー』

crewimburnny

シアタートラム(東京都)

2014/05/17 (土) ~ 2014/05/18 (日)公演終了

満足度★★★

回転
女性ダンサー達と、オープンリールデッキを楽器として演奏するOpen Reel Ensembleの男性達による、気だるく、時には激しい雰囲気が魅力的なパフォーマンスでした。

ご飯粒の様な平面形状の白いステージが中央にあり、そのまわりに客席として用いられるガラクタの山があり、さらにその外側にOpen Reel Ensembleの演奏ブースが配置された空間配置で、薄いピンクのネグリジェの様な衣裳を着た女性ダンサー達が頭に付けたプラコップにご飯をよそうシークエンスから始まり、無表情で少々脱力的な振付で踊り、男性に媚びない女性しかいない空間だからこそ現れる隙のあるエロティシズムが感じられました。
終盤ではステージの周りに沿ってダンサーが乗った台車が回転寿司の様に流れ、オープンリールデッキと回転という要素で繋がり、更に冒頭で出てきた頭に乗せたご飯やステージ形状、途中で出てきた女性の生理を連想させるイクラの寿司といった要素が一気に繋がり、更にイクラ寿司を乗せたミニ四駆が走り回り、はっきりとした意味は感じられないものの豊かなイメージの広がりが感じられました。

Open Reel Ensembleの大音量のライブ演奏が気持ち良く、ロックコンサートやクラブの様なムービングライトやLED照明をたくさん用いた派手な照明効果もあって、お酒を飲みながら観たい気分になりました。

300分間通しの作品で、観客は75分毎に出入りする形式のパフォーマンスでしたが、長時間であることにはあまり必然性が感じられなかったのが残念でした。

青年Kの矜持

青年Kの矜持

LAUSU

俳優座劇場(東京都)

2014/05/14 (水) ~ 2014/05/18 (日)公演終了

満足度★★

プライド
ハッピーな内容ではないものの重くなり過ぎず、爽やかな後味が感じられる作品でしたが、流れの悪さがもどかしく思いました。

職を失いホームレスになり死んでしまった男の最後の5日間に起こった出会いを描き、不幸に見える人生でもプライドを持つ大切さを訴える物語でした。
必要以上に間を取る沈黙のシーンが多くてドラマとしての流れが生まれず、クライマックス感もあまりなくて、全体的に平坦な印象を受けました。
物語や演出に中高生向けの様なテイストがあり、ネットゲーム内の世界を演じるアクションシーンもあって、描かれる世界観への入り難さを感じました。

場所の写真やキーとなるアイテムが映像で映し出されるのは説明的過ぎで、またその表現方法にも安っぽさを感じました。映像に頼らずに演劇ならではの想像力を喚起する手法で見せて欲しかったです。
ドアや窓が仕込まれた大きな壁だけのセットが興味深かったのですが、もっと色々と効果的に用いることが出来そうに思いました。

個性的な役者達が出ているのにあまり活かされていなくて(特に男性陣)、勿体なく思いました。

[新制作] カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師

[新制作] カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2014/05/14 (水) ~ 2014/05/30 (金)公演終了

満足度★★★

イタリアオペラの王道
南イタリアを舞台に痴情のもつれで人を殺めてしまう短編のダブルビルで、恣意的な設定や解釈の無いオーソドックスな演出による、素直に歌声に酔える王道的な公演でした。

『カヴァレリア・ルスティカーナ』
復活祭の日の1日に起きる、恋の諍いによる悲劇を描いた物語で、キリストを象徴する物が多く登場し、人間の愛欲に溺れる愚かな姿と対比されていました。
歌っている間は正面を向いてほとんど動かない静的な演技スタイルで、歌唱的には良かったものの演劇的な面白味には欠けていました。

『道化師』
道化芝居一座の座長の妻の不倫が一座が上演する芝居の内容と重なり、上演中に妻と愛人を殺してしまうという物語構造が興味深い作品でした。
『カヴァレリア』と同じセットと同じ衣装の群衆を登場させることによって関連性を持たせて普遍的な人間の業を表現していました。演技に関しては動きが多く対比を打ち出していましたが、合唱の人達の演技がわざとらしく感じられました。

両作品ともメインキャストの歌は素晴らしかったものの、オーケストラと合唱のズレが気になりました。
ギリシャの野外円形劇場を模したリアルなセットと緩やかに色や明るさが変化する照明が屋外の空気感を表現していて美しかったです。

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