満足度★★★★
白と黒のあわいを描く文学・芸術
戦争、差別、宗教、政治、芸術、老いといった様々なシリアスなトピックを扱いながらも、説教がましくはなく、愛の物語として描かれていて、印象に残る言葉が多く詰まった作品でした。
聖職者の父を持ち、ジャーナリストとして働く女と、文学を志しながら広告代理店で働く男の出会いと別れを中心にして、ニューヨーク、ロンドン、アテネを舞台に時間軸を行きつ戻りつしながら、価値観の異なる人達の会話から様々な問題が浮かび上がる物語で、冒頭のシーンで描かれる2人の別れのきっかけとなった薬害事件で被害を受けた人物が終盤になって登場し、人類の知と愛の産物である書物がありながらも愚かな判断をしてしまう人間の弱さが印象的に描かれていました。
痴呆が進んだ父が娘にオムツを取り替えてもらっている間、半狂乱に信念を語り続けるシーンの聖性と排泄物の対比が強烈でした。
タイトル(劇中で多くの哲学者や作家の名前が挙げられることからも、思想家ジル・ドゥルーズ+フェリックス・ガタリの有名な概念「〜機械」をもじって付けたのでしょうか)の意味が明かになった後のあっけない急転落が、信じることの困難さを思わせました。
U字型に配置された客席に囲まれたスペースをバラバラにされた雑誌のページが覆っている美術は非リアルですが物語や演技はリアルで、機械と書物をイメージさせるアルファベットや数字が降る映像が壁と床に数回映し出される他はストレートな演出で、物語の世界観に引き込まれました。
様々な国籍、バックグラウンドを持つ登場人物達が過度にデフォルメされることもなく、自然に演じられていて良かったです。