土反の観てきた!クチコミ一覧

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Heavenly Bento

Heavenly Bento

ジェイ.クリップ

青山円形劇場(東京都)

2012/07/04 (水) ~ 2012/07/08 (日)公演終了

満足度★★★★

弁当に集約されるソニーの歴史
ソニーを創業し世界的企業にまで発展させた井深大と盛田昭夫の物語を、役者と映像をシンクロさせた先鋭的な演出によって描いた作品で、斬新なビジュアル表現に目を奪われますが、実は脚本も凝った作りになっていて、とても楽しめました。

昔のテレビの3:4の縦横比のプロポーションの白いステージが会議テーブルに見立てられ、その周りには20脚弱の椅子があり、そこに座る観客はソニーの作業着を着て鑑賞し、その周りに劇場の通常の席が囲む配置でした。
終戦直前に井深と盛田が出会う所から始まり、初めての商品である炊飯器から、ポケットラジオ、テープレコーダー、カラーテレビ、ウォークマンを失敗を重ねながら開発・販売して発展していく様子がユーモラスな回想劇の形式で描かれていました。

最後のシーンは井深の葬式で、盛田が弔辞を読み上げ、ステージ周囲に座る観客に目の前にある箱を開けるように促し、中にはカラフルに光る日の丸弁当が入っていて、日本発、出発点である炊飯器、ポータブルであること、カラーテレビの大成功といった様々な要素が弁当に集約されていて見事でした。さらにタイトルの"Heavenly Bento"が「がむしゃら」を意味する"Hell-bent"に掛けてあったのも見事でした。

観客が食事をしている中、お互いステージの反対側に座った井深と盛田が手を出し、握手をするのかと思いきや腕相撲(のジェスチャー)を始め出して一瞬混乱させられるのですが、スクリーンに笑顔で腕相撲をする本物の2人の写真が写し出されて意味が分かるラストの演出も素敵でした。

ステージの床面に真上から映像を映し、役者が映像に同期して動くことによって、逆に役者が映像の中の物体を動かしたり、地図の中を歩き回っているように見せる手法が、テクノロジーに関わりがある物語にマッチしていて楽しかったです。
只の成功物語として描かずに、現在のソニーに対しての苦言めいた台詞があったのもスパイスが効いている感じで良かったです。

ウイルス

ウイルス

大駱駝艦

世田谷パブリックシアター(東京都)

2012/07/05 (木) ~ 2012/07/08 (日)公演終了

満足度★★★

エンターテインメント性のある舞踏
老舗舞踏カンパニーの創立40周年記念公演で、精神論的な方向に行き過ぎず、エンターテインメント性を大事にしていて、所々にユーモラスな雰囲気もあり、エログロ的表現もソフトな印象で、単純に楽しめました。

冒頭からかなり長い時間を床にうずくまっている男性3人や、ワンシーンの間を宙に吊されたフレームに座り続ける女性達等、静止したままで舞台美術の一部として存在する身体が美しかったです。
喜び、悲しみ、驚きといった様々な感情を想起させる、いびつで優雅な女性群舞が素晴らしかったです。麿赤兒さんのソロは凄味と滑稽さが両立していて、強い存在感がありました。全員が一列あるいは一固まりになって客席側にジリジリと歩み寄るシーンが印象的でした。

土井啓輔さんとテクノ・ミュージックの大御所、ジェフ・ミルズさんによる音楽がとても格好良く、正直舞踏だけでは少々間延びしているシーンを引き締めていました。
女性舞踏手達が着ていた青いドレスは美しかったのですが、男性が着ていたカビをイメージさせる赤や緑の小さな玉が付いた衣装は安っぽくて、残念に感じました。

朝がある

朝がある

ままごと

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2012/06/29 (金) ~ 2012/07/08 (日)公演終了

満足度★★★★

科学的記述から立ち上がる叙情性
ある日の朝の描写から始まり、音や光を巧みに用いて空間的・時間的に様々なスケールの科学的事象を語り、一人芝居らしからぬ壮大さを感じさせる作品でした。

一般的な物語性でドラマが展開するのではなく、水を中心とした科学的なトピックと音楽と物語を巧みに絡め、様々な数字や科学用語の羅列から叙情性が立ち上がっていて、新鮮な感覚がありました。人の一生や宇宙規模の話に展開して行くのがいかにも柴さんらしかったです。
バラバラな系列が最終的にカチッと嵌ってカタルシスを感じるまでには至らないままにさらっと終わってしまった印象がありました。
モチーフとなった太宰治の『女生徒』が直接的に引用または言及されることはわずかでしたが、共通した若々しさやユーモラスな雰囲気が感じられました。太宰の他の作品をほのめかすシーンもあって楽しかったです。

中盤で現れた言葉と音高を関連させる音楽的アイデアが興味深かったのですが、一度観ただけでは終盤でどこまで反映されているのかが分かりませんでした。開演前・終演後のアナウンスも作品に取り込んだ構成が面白かったです。
作品全体としても、今までの作品の精密な作り込みに比べて良くも悪くもラフな感じがあったと思います。映像やセットの使い方が柴さんの旧作と異なる印象があり、新しい作風に移行しつつあるように感じました。

名詞と助詞を切り分けて発声し、次第に音楽的な流れに変化する独特な台詞回しとダンスをこなしながら70分間を一人で演じ切った大石将弘さんは素朴な雰囲気が素敵でしたが、歌唱力がちょっと残念なレベルで勿体なかったです。

12人のそりゃ恐ろしい日本人 2012

12人のそりゃ恐ろしい日本人 2012

劇団チャリT企画

座・高円寺1(東京都)

2012/06/28 (木) ~ 2012/07/01 (日)公演終了

満足度★★★

「正しさ」の不確かさ
裁判員制度を中心に、死刑制度やホームレス、生活保護、差別、テロ、マスコミといった様々な社会問題ネタを扱い、それに悪夢的で不条理なエピソードが絡まる、盛り沢山なブラックコメディーでした。

過去に関係を持った女子生徒を間接的に殺してしまったことに負い目を持ち、また、「林ライス事件」の裁判員として選ばれ、有罪の判決に荷担してしまったことに悩む元教師の住むボロアパートに、他の部屋の住人や大家、生徒の両親、一緒に裁判員をした人達、さらにはホームレス等が訪れて精神的に追い詰められて行く様がコミカルに描かれていました。
虚実ないまぜになって破局を迎える終盤の展開が、何が正しいのかが分からず混乱する現代人の姿を描いているようで印象的でした。

多くの人が立ち代わり入れ替わりでやってくる構成や、ギャグ的なしつこいやりとりや、横にスライドして転換する舞台セット等、典型的な長屋を舞台にした人情喜劇をイメージした形式の中に様々な倫理的な問題を盛り込み、はっきりと結論を出さない終わり方は、観客もそれらの問題と無関係ではないというメッセージが感じられました。

色々と盛り込み過ぎて焦点がボヤけた印象になっていたのが残念でした。不謹慎系の笑いはもっと過激でも良いと思いました。

絶交わる子、ポンッ

絶交わる子、ポンッ

康本雅子

シアタートラム(東京都)

2012/06/28 (木) ~ 2012/07/01 (日)公演終了

満足度★★

エロスと笑い
エロティシズムを笑いで包み、シリアスな思いと悪ふざけが入り混じった作品でした。惹かれる部分とそうでない部分の振れ幅が大きく、総合的にはマイナスな印象が残りました。

抱きつく、臭いをかぐ、息を吹き掛ける、咬む等下着姿で踊る等、性的なイメージの振付、演出が多くが多く、しかし生々しくなり過ぎないバランスが独特でした。
台詞を喋ったり、歌ったりする場面が多かったのですが、言葉の内容をダンスで十分に表現していたので、言語表現が過剰で押し付けがましく感じられました。
ギャグ的な要素はあまり上手く行っていなくて、後半は客席から笑いが起こっていたものの、前半は滑っていることが多かったです。
白い床以外は何もない状態で始まり、次第に色々な物が散乱していく構成はあまり必然性が感じられず、ビジュアル的にも美しさ、あるいはインパクトを感じられませんでした。

康本さんは純粋なダンス表現だけでも魅力的な作品を作ることの出来る振付家だと思うので、もっとストイックな作品を観てみたくなりました。

ダンサー達は良く言えば同じ動きでもそれぞれの個性が出ていたのですが、手や足の曲げ方やタイミングの不揃い具合いが気になりましたでした。康本さんのソロはしなやかな動きの中に切実な思いが感じられて、美しく魅力的でした。細い体を精密にコントロールして踊る、鈴木美奈子さんのテクニックが際立っていて、康本さんとのデュオでのクールな質感が印象に残りました。

コクーン歌舞伎第十三弾 『天日坊』

コクーン歌舞伎第十三弾 『天日坊』

松竹/Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2012/06/15 (金) ~ 2012/07/07 (土)公演終了

満足度★★★★

斬新且つ伝統的
大掛りな仕掛けや奇抜な設定に頼らずに、物語や台詞の魅力と役者の演技をしっかりと楽しめる作品で、所々に現代的な意匠を凝らしつつも、伝統を受け継いだ芯の太さを感じました。

孤児の男が重なる偶然から自分のアイデンティティについて悩み、最後には身を滅ぼす物語で、単純に楽しく、あるいは悲しく終わるのではなく、複雑で後味の良くない感情を残す終わり方が作品の豊かさに繋がっていたと思います。

一幕、二幕ともコミカルに始まって次第にシリアスになっていくペース配分が絶妙で引き込まれました。宮藤官九郎さんの脚本に因る部分が多いのだと思いますが、串田さんのいつもの笑いのセンスとは異なる感じがあって、とても楽しかったです。
時々現れる現代的な言葉使いはただ笑いを取るだけではなく、シリアスな場面では古風な言い回しでは伝えにくい感情がストレートに表現されていたと思います。

可動式のセットが場面毎に充てられていて、役者を乗せたまま黒衣が入れ換えて行くので、転換がスムーズで良かったです。そのようなセットの特色を活かして、2つの場面を並行させて進める時もあって新鮮でした。ジャズやロックを中心とした音楽も意外と合っていて、トランペットの生演奏が天日坊の心情を表しているようで効果的でした。ラストの何もない真っ黒な空間で行われるスピード感溢れる大立ち回りは、天日坊の心の闇を描写するような演出で、とても印象に残りました。

無垢な青年から邪念を持ち荒んでいく天日坊を演じた勘九郎さんが素晴らしかったです。七之助さんはあまり砕けたことをしないイメージだったので、コミカルな演技に破壊力がありました。獅童さんと亀蔵さんのヤケクソ的演技も楽しかったです。

いないかもしれない 動ver.

いないかもしれない 動ver.

青年団若手自主企画 大池企画

アトリエ春風舎(東京都)

2012/06/16 (土) ~ 2012/06/24 (日)公演終了

満足度★★★

物語と分離した身体表現
『静ver.』とほぼ同じ台本をうさぎストライプのスタイルで演出していて、同じ物語ながらもかなり異なる雰囲気がありました。

舞台にはランドセルやピアニカ、ノートといった小学生時代を連想させるのアイテムが散乱していて、6人の役者は物語上ではいない設定のシーンでもずっと舞台に居続ける演出で、リアリズムな演出だった『静ver.』を観ていないと状況が分かりにくかったと思います。途中で実際にその場に居る設定になっている役者達の間でボールを回し続けるシーンがありましたが、そのような仕掛けが他のシーンでもあったら良いと思いました。

相対性理論の曲に合わせて運動やゲームやダンスをしながら台詞を話し、曲のサビで照明が全開になるのは、選曲や動きを含めてうさぎストライプのスタイルそのままでしたが、うさぎストライプとは違って物語に関連する動きをするシーンもあり、その時はこの手法がとても効果的に感じられました。しかし、動きと物語が関連していないときはそうする意義が感じられない時が多かったです。

動きをこなすのにエネルギーが持って行かれたのか、『静ver.』ではしっかり描かれていた各キャラクターの性格の表現が弱く感じました。

つぐちゃんの空

つぐちゃんの空

マドモアゼル・シネマ

神楽坂セッションハウス(東京都)

2012/06/23 (土) ~ 2012/06/24 (日)公演終了

満足度★★

生きる女達
役者の大方斐紗子さんをゲストに迎え、家族の大切さを感じさせる作品でした。

着物のような袖の長袖Tシャツにショートパンツの女性ダンサーが『かごめかごめ』、『はないちもんめ』に乗せて踊り、ノスタルジックな雰囲気があり、後半では公募して選ばれた高校生が祖母の事を書いた作文を大方さんが読み上げ、それに続いて大方さん自身の家族のことが語られ、温もりを感じました。
床に寝たダンサー達が脚を垂直に上げ、その上に他のダンサーが乗って移動するシーンと、ウエディングドレスを着て踊ったソロが印象に残りましたが、ユニゾンで踊るシーンでは動きやポーズが揃っていないのが気になりました。
ラストは坂田明さんヴァージョンの『死んだ男が残したものは』が流れる中を踊ったのですが、音楽が強過ぎてダンスが負けているように見えました。

水着姿で現れ、水着からパンを取り出したりするようないくつかのウケを狙ったシーンは作品の内容との関連性が感じられず、あざとく感じました。
大方さんの台詞は味わい深い調子と多彩な声色で聴き応えがありました。

席にあまり段差を設けていないのに、手前で寝るシーンが多く、何をしているのか見えず、残念でした。

【★24日マチネ、追加公演決定!!】寝不足にて夜明けの街にかき氷、降る【公演動画追加!】

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木皮成ソロパフォーマンス

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2012/06/22 (金) ~ 2012/06/25 (月)公演終了

満足度★★

今後に期待
演劇作品に出演したり、FUKAIPRODUCE羽衣に振付をしたりと最近頻繁に名前を見掛けるダンサー・振付家の意欲的なソロ公演でした。

下手にあるDJブースに立つ木皮さん自身のアナウンスで始まり、客席は以後にあるバーカウンターに行って飲み物を買って戻ってきて、自分で音楽を再生して踊り、観客に一緒に踊ろうと挑発するシークエンスが3度繰り返され、尻文字を書いたり、会場の外に出て行ってバケツで水を浴びせられたりと失笑的なコミカルな表現が多かったです。

ブレイクダンスをベースにしたムーブメントは若者らしいエネルギーがあって楽しかったのですが、演劇的構成が単調で舞台作品としての面白さはあまり感じられませんでした。

最近22歳になったばかりという若さで、木皮さん自身のキャラクターもチャーミングだったので、今後さらに色々な所に進出しそうな勢いが感じられました。

南部高速道路

南部高速道路

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2012/06/04 (月) ~ 2012/06/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

心温まる不条理劇
高速道路で渋滞に巻き込まれた人達の心が次第に繋がって行く様子を演劇ならではの演出を通じて描いた作品で、具象性と抽象性、日常性と非日常性がスムーズに浸透し合う不思議な雰囲気が心地良かったです。

ラジオや携帯電話も繋がらないため渋滞の原因も分からずイライラする人達が、時間が経つに従って水や食料を分け与えたり、具合の悪い人の看病をしたりとコミュニティーが形成して恋愛や仲違いといった人間関係も発生し、結局渋滞の原因が判明しない内に1年が絶ち、自然と渋滞が解消されてまたそれぞれの生活に戻って行くといくという物語でした。
カタルシスを感じせるような大きな出来事はなく、人が死ぬこともさらっと描かれ、無理に泣かせたり笑わせたりしようとせずに淡々と流れて行くのが印象的でした。クリスマスのプレゼント交換のシーンは人の心の優しさを感じさせて、とても美しかったです。

上部に高速道路であることを示す道路照明がある以外は何もない四方囲み舞台で客席の間から役者達が登場し、傘を車に見立ててシーンごとに自由に役者達を配置し、演技や衣装だけで月日の経過を示した演出が見事でした。
敢えて全ての観客には届かないような声量で話す所も多くあり、何度も異なる席から観てみたくなるように仕組んでいるのも上手いと思いました。
床に仕掛けが施してあり、目に見えない時間の経過が痕跡として累積されて行く表現も素晴らしかったです。

見上げる魚と目が合うか?

見上げる魚と目が合うか?

花とReと飛行の会

Atelier しつらえ(東京都)

2012/06/21 (木) ~ 2012/06/24 (日)公演終了

満足度★★

リレー的3本立て
外苑前のビルの6階にあるアパレル会社のアトリエ兼事務所での公演で、客席が20席程度しかない狭い空間の中で、いくつかのモティーフを共有しながらテイストの異なる3本が続けて上演されました。

原田悠『イル』
面接を受けに来たもののデザイナーがどこかへ行ってしまって取り残された女性2人の物語で、不条理なテイストがありました。自分の世界に入って喋り続けるがちな女と、おっとりした女の少しずれた会話から人生に対する不安感がかもし出されていました。
窓を開けて外部空間を作品に取り込んでいたのが効果的でした。台詞回しが硬く、一本調子な雰囲気になっていたのが残念でした。

ウドウド『ミル』
無気力な感じの男と魔法少女を名乗る黒ずくめの怪しい女が外苑前~原宿を歩いて回る様子を描いた映像作品でした。
別撮りの背景と役者が合成されていて、うさんくさいチープ感がありました。表現したいことが良く分からず、惹かれる要素がありませんでした。

杉田鮎味『サワル』
オフィスに戻って来たデザイナーと、警報を受けてやって来た警備会社の男のコミカルなやりとりが描かれた作品でした。
1本目に出てきた人物や物とリンクさせた話の展開が巧みで良かったです。役者の演技も間の取り方が良くて楽しめましたが、物語としては内容が薄く感じられました。

リンダリンダ

リンダリンダ

サードステージ

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2012/06/20 (水) ~ 2012/07/22 (日)公演終了

満足度★★

ロックと反抗
ブルーハーツの沢山の名曲を劇中歌として用いた、大人になっても夢を捨てきれず、反抗する人達を描いた作品で、笑い、恋愛、裏切り、アクション等が盛り込まれ、エンターテインメント系の王道を行く作りでした。
8年振りの再演とのことで初演は観ていないのですが、今の社会状況を反映した設定になっていたので、初演版そのままではなくて改訂したのだと思います。

メジャーデビューを目指しながらも上手く行かないバンドが崩壊の危機に陥り、社会的に間違った方向へヒートアップしていく話に、2つの三角関係が絡み、苦々しい終焉を迎える物語でした。
舞台の異なる場所で別のシーンを次々に繋いで行くスピード感のある演出で飽きさせませんでした。物語とブルーハーツの曲の歌詞が巧みにリンクさせてあって興味深かったです。子供っぽいベタな感じの笑いが多用され、古臭さを感じました。話の展開上、仕方がないのですが、頻繁に携帯電話の呼び出し音が鳴るのは不快でした。

原発問題、在日朝鮮人、過激派、警察の隠蔽体質といった社会的なトピックが多く盛り込まれていましたが、表面的に描かれるだけで、物語の展開においてあまり関わりのない要素もあり、ただのエンターテインメント作品ではなく社会のことも考えているとのポーズを取っているだけに見えて興ざめしました。

出演者はオリジナルの甲本ヒロトさんのヴォーカルとは異なる洗練された歌い方で、それはそれで楽しめましたがしたが、原曲の荒々しい魅力が損なわれているように感じました。
丸尾丸一郎さんは他の出演者達に比べて一般的な意味での歌唱力が圧倒的に低かったのですが、それが役柄にも合っていて、演技も含めて一番魅力的に感じました。

細川久恵オルガン・リサイタル Image ―おもかげ―

細川久恵オルガン・リサイタル Image ―おもかげ―

新オルガンプロジェクト 光・風・音

横浜みなとみらいホール 大ホール(神奈川県)

2012/06/20 (水) ~ 2012/06/20 (水)公演終了

満足度★★

ダンスが少なく期待外れ
オルガンとダンスと映像・照明のコラボレーションを謳った公演でしたが、想像していたのと異なり、あまり満足感が得られませんでした。
チラシやネット上では演奏する7曲のどの曲を踊るのか明記されていなくて全曲踊るものかと思っていたのですが、踊ったのは3曲だけで他は演奏と照明のみでした。また出演はトマ・デュシャトレ・カンパニーとなっていたのですが、踊ったのはセヴリンヌ・ルフェーブルさん1人でした。

始めの3曲は演奏のみで、4曲目のブルックナーの『アダージョ(交響曲大7番第2楽章)』でダンスが入り、ワインレッドのワンピースで歩いてはためらうような動きが繰り返されました。
休憩を挟んで後半の部ではフランクの『ファンタジー』で黒のワンピースとハイヒール姿で現れ、体に指を這わせて長さを測るような動き、体の回りに物体が漂っているような描写の動き、女らしさを強調した典型的なポーズの動きという3つの要素を交互に繰り返す振付で、具体的な物語はないもののドラマ性が感じられるダンスでした。
最後のヴィエルヌの『オルガン交響曲だ第3番』では曲調に合わせて、夢遊病のように歩き回ったり、激しい動きがありましたが、メリハリがなくて平板に感じました。

演奏はミスタッチがかなりあり、最後2曲までは音楽的な流れも停滞気味だったのが残念でした。ブルックナーの曲で一番盛り上がる部分をカットして演奏していた意図が分かりませんでした。選曲も地味過ぎる気がしました。
オルガンのパイプ部分にプロジェクターで色を照らしていたのは美しかったのですが、変化に乏しく途中で飽きてしまいました。

客席もガラガラで、興味深い企画なのに内容も制作も上手く行っていないように思いました。

[ Le Nez ] ~ ル・ネ

[ Le Nez ] ~ ル・ネ

MUIBO

SPACE EDGE(東京都)

2012/06/15 (金) ~ 2012/06/17 (日)公演終了

満足度★★

香水奇譚
18世紀のフランス、並外れた嗅覚を持つ男、ジャン=バティスト・グルヌイユの特異な生涯を、語りと芝居を交えて伝記的に描いた作品でした。

親に捨てられて育ったグルヌイユが嗅覚を活かして成功する物語だったのが、後半は理想の香水を作るために殺人を繰り返す猟奇的な雰囲気になり、捕まって処刑される時にその香水を振り撒くと群衆がその香りに誘惑されて大乱行に陥り、グルヌイユは食われて死んでしまうという奇妙な物語でした。

最低限の人数の役者と道具だけながら、主役以外は1人何役も演じたり、見立てを用いたりして、豊かさが感じられました。
子供っぽい演技や効果音、くどい反復で笑いを取ろうとするシーンが多かったのですが、個人的にはあざとく感じられて全然乗れませんでした。笑い以外の要素は惹かれる所も多かっただけに残念でした。
せっかく狭い会場で香りにまつわる物語を上演するのなら、実際に香水を噴いて香りの演出もしたら良いのにと思いました。

役者は様々な役を巧みに演じていましたが、劇場の広さに対して声が大き過ぎて耳が疲れました。
音楽は期待していた程には演奏する時間がなくて残念でした。かなり歌唱スタイルが異なる2人ですが、不思議と調和していて良かったです。

サロメ

サロメ

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/05/31 (木) ~ 2012/06/17 (日)公演終了

満足度★★

イノセントなサロメ
真っ白な現代的なセットの中で、従来の妖艶なサロメ像とは異なる、少女性を強調したサロメが描かれた演出でした。

舞台上空には鏡が吊され、舞台が俯瞰で見えるようになっていて、舞台と客席の間には堀状の空間があり、舞台の地下部分が見える構造になっていて、幽閉されているヨカナーンの存在が常に感じられるようになっていました。
リヒャルト・シュトラウスのオペラだと宗教論争のシーン等の冗長な台詞も音楽として楽しめるのですが、ストレートプレイだと少々退屈さを感じました。最後に床が血の海になるのはインパクトがありましたが、全体的にはドラマとしての盛り上がりに欠けているように感じられました。

サロメを演じた多部未華子さんは、たまに台詞回しが硬かったりオーバーに感じられる箇所もありましたが、表情と声色の多彩さが印象に残りました。特に、欲しいものを尋ねられて「ヨカナーンの首」と最初に答える時の屈託のないイノセントな言い方が可愛らしくかつ恐ろしくて素晴らしかったです。
ヨカナーンを演じた成河さんは預言者らしいミステリアス雰囲気を出していて、台詞回しも若さと威厳が両立していてとても魅力的でした。
ヘロデを演じた奥田瑛二さんは酔っぱらっている設定でそのような演技だったのかもしれませんが、ちょっと台詞が怪しく、演技も一本調子に見えて残念でした。着ていた衣装(ヨウジヤマモト2011年秋冬の、女性のヌードがプリントされた赤いコート)も違和感がありました。

音楽を担当した内橋和久さんが舞台の下手でギターとダクソフォンを演奏して幻想的な音色で雰囲気を盛り上げていましたが、録音で流れる音楽にはあまり魅力を感じませんでした。

わたしたちは生きて、塵

わたしたちは生きて、塵

酒井幸菜

横浜にぎわい座・のげシャーレ(神奈川県)

2012/06/14 (木) ~ 2012/06/17 (日)公演終了

満足度★★★★

孤独と再生
女性6人によるタンツテアター的作品で、笑いのない真面目な作風ですが、重苦しいわけではなく、清らかな雰囲気があって魅力的でした。

会場の中央に吊り下げられた裸電球が1つずつ過剰な電圧が掛けられ眩しく輝いた後に切れるのが繰り返され、6つとも切れて真っ暗になり、明るくなると6人のダンサーが立っているオープニングが圧巻でした。
ポリビートの音楽と多彩な照明の中でクールに踊りまくった後は静かなシーンが続き、口に指を入れて引っ張って顔を変形させたり、バケツに注いだ水を床にぶち撒けて、それをモップで拭き取ったり、顔を衣装で覆っておぼつかなく歩いたりとネガティブな雰囲気の後に、宗教儀式を思わせる手の動きが反復され一時の平静を得た感じでした。
その後にあった、1人が他の5人に「来て」と優しく呼び掛けるものの無視されてじたばたしながら絶叫するシークエンスは表現が生々し過ぎて、他の部分から浮いて見えました。
ベートーヴェンの『運命』第4楽章が大音量で流れ、金銀の紙吹雪が送風機で巻き上げられる中、バドミントンをするペアがいたり、フラッシュを焚きながら写真を撮ったり、それまでに出てきたムーブメントが回想されたりと混沌とした祝祭的な高揚感が印象的でした。
終盤は冒頭の立ち位置に戻り、再び宗教的な手のダンスが踊られ1人が取り残され、紙吹雪を掻き集める中、外の部屋から送風機を持ったダンサーが近付いて来て、隣り合った瞬間に暗転して終了という終わり方が不思議な余韻を残していました。

しなやかなムーブメントが美しく、群舞の時には目まぐるしくダンサーが入れ替わり、見応えがありました。水にまつわる小道具がいくつか使われていましたが、あまり効果的に見えなかったのが勿体なく思いました。

映像を照明的に用いたり、様々な色彩や照射エリアがあったりと、照明が効果的で素晴らしかったです。

4×5×ホナガヨウコのパフォーマンス

4×5×ホナガヨウコのパフォーマンス

ホナガヨウコ企画

OPTRICO(東京都)

2012/06/15 (金) ~ 2012/06/15 (金)公演終了

満足度★★

ダンサー兼モデルならではのパフォーマンス
服のセレクトショップの一角で行われている写真展のオープニングパーティーでのパフォーマンスで、短い作品でしたがハッピーな雰囲気が楽しかったです。

アフリカの民族衣装のテイストがある可愛らしい衣装で、大きなトランクと縫いぐるみを持ってマイム的な動きから始まり、音楽が変わって激しく踊り、雨音が聞こえて来て、雨宿りの光景、そしてまた激しく踊るという構成の15分程度の作品でした。
ダンスパフォーマンスとファッション写真のフォトセッションが融合した感じで、カメラを意識したポーズや視線が強調されていたのがダンサーであり、ファッションモデルでもあるホナガさんならではでした。
写真家達はパフォーミングエリアには入らず、観客の最前列で撮っているだけで、ダンサーとの絡みがなかったのが残念でした。

1回目とは別の内容の2回目のパフォーマンスも観たかったのですが、10分以上経っても始まらず、次の予定もあったので観ることが出来なくて残念です。

ローエングリン

ローエングリン

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2012/06/01 (金) ~ 2012/06/16 (土)公演終了

満足度★★★

意外とオーソドックスな演出
ビジュアル的にはモダンながらも、設定の置き換えや突飛な解釈を施さないオーソドックスな演出で、演劇的観点からは興味を掻き立てる要素はあまりありませんでしたが、音楽的にはとても充実していてワーグナーの壮大な世界観を堪能しました。

テカテカの黒い床に幕ごとに異なる巨大なオブジェが置かれた美術と、白と黒の衣装でモノトーンが支配的な中で敵役や重要なアイテムに赤を使うという色彩デザインがされていて分かり易かったです。第2幕のラストは色と歌手の動きが、幸せの中にその後に訪れる悲劇を予感させていて良かったです。

セリや吊物機構を用いた縦方向の人や物の出捌けが多用されていたのが印象的でした。何百枚ものパネルが格子状に並べられた奥の壁には絶えず映像が映されてされていましたが、ぼやけた感じで何が映っているのか分かりにくかったです。目出度いシーンで花火が映し出されるのはストレート過ぎて滑稽に見えました。

タイトルロールを演じたクラウス・フロリアン・フォークトさんは軽めの声なのに浮わついた感じがなく、ピアニッシモからフォルティッシモまで美しく響き渡っていて素晴らしかったです。終盤の「グラール語り」は圧巻でした。ヒロインのエルザを演じたリカルダ・メルベートさんは歌は良かったのですが演技が硬かったのがもったいなく思いました。
合唱は変に小芝居をせずに棒立ちだったのは潔くて良かったのですが、やたらとフォーメーションを変えるのが目に煩く感じられ、そうする意図が分かりませんでした。

休憩込みで5時間以上あるので、2回ある40分間の休憩のどちらかは半分の時間でも良いと思いました。

15 Minutes Made Volume11(ご来場ありがとうございました!!)

15 Minutes Made Volume11(ご来場ありがとうございました!!)

Mrs.fictions

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2012/06/07 (木) ~ 2012/06/11 (月)公演終了

満足度★★★

バラエティー豊かな6団体
一人芝居からダンスや実験的作品まで、色々なタイプの6団体が出演していて、ショーケースとして充実した公演でした。

月刊「根本宗子」『工藤、笑って!』
高校を舞台にしたラブコメ物で、それぞれのキャラクターが立った演技が楽しかったのですが、物語としてはあまり魅力を感じませんでした。15分間と限られた時間の中で、暗転して字幕で日時の経過を示すのを多用していたのが、安易で残念に感じられました。

宗教劇団ピャー!!『lovvvvvvvv∞vvvvvvvve』
本当の親子や多くのカップルが出演して、愛や生命の繋がりをトラウマと共に描いた実験的な作品でした。ドキュメンタリー的な作風に新たな可能性が感じられましたが、やりたいことに対して見せ方の技術が付いて行ってない印象があり、もったいなく思いました。

Mrs.fictions『お父さんは若年性健忘症』
病気の話ですが殊更に悲劇性を強調せずに温かなユーモアがありました。ポジティブに夫の病気に対応する妻の振る舞いがとても素敵で、終盤の台詞が良かったです。この企画の主催者だけあって、15分(+カーテンコール)の時間の使い方が素晴らしかったです。

MCR『散々無理して女だった、女だったのに』
ゾンビに咬まれてゾンビ化しつつある女性と、困惑する男性2人のシニカルでコミカルなやりとりを描いた作品でした。小椋あずきさんの怪演が楽しかったです。台詞の面白さに比べてオチが弱く感じました。

あやめ十八番『八坂七月 諏訪さん九月』
義兄の弔辞を読むという体裁の一人芝居で、しっとりとした文学的雰囲気が漂い、「芸」と呼んで良いような演技に引き込まれる作品でした。
手拭いと照明だけで色々な物やシーンを表現していたのが見事でした。

梅棒『キック・オフ!!』
高校サッカー部の青春をJ-POPに乗せたジャズダンスで描いた作品で、物語もダンスのスタイルも個人的には好みではないものでしたが、構成力もダンスのテクニックもレベルが高く、楽しめました。女子マネージャー役を演じた野田裕貴さんがとてもチャーミングでした。

「おわりの会」と称したアフタートークでは佃典彦さん、坂手洋二さん、流山児祥さんと豪華なゲストが登場したのですが、「劇王」の宣伝に終始して作品についての感想を聞けなかったのが残念でした。

笑い要素が多いエンターテインメント的な団体をセレクトする傾向にあるみたいですが、アート寄りのパフォーマンスやダンスも毎回セレクトした方が幅が出て良いと思いました。

べスティエール

べスティエール

オールピスト東京

原美術館(東京都)

2012/06/09 (土) ~ 2012/06/09 (土)公演終了

満足度★★

動物と乙女とマッチョ
映像作品、サックスの生演奏、ダンスによるパフォーマンスで、当初は雨が降った場合は屋内で上演することになっていたのですが、最終的に雨でも屋外で上演することに決まり、雨が降る中をレインコートを着てパフォーマンスを観るという珍しい機会になりました。

クリス・マルケルさんが撮った歩き回る象、フクロウの顔のアップ、牛同士の闘牛、鍵盤の上で寝る猫の映像が壁に投影され、モチーフやイメージを引き継いだ、ダンスや演奏のパフォーマンスが続き、マルケルさんの映像が再度写し出された横に手持ちカメラによるパフォーマンスのライブ映像が併置され、重層的な空間が作り出されていました。

闘牛の映像の後に続いて行われた、コンタクト・ゴンゾの格闘パフォーマンスが雨や泥、ライブ映像とあいまって殺伐とした雰囲気があって格好良かったです。猫の映像の後にはクリウィムバアニーがいつもの露出度の高い衣装でコケティッシュに踊り、可愛らしかったです。
『クリスマスのための組曲』と題された最後のパートは映像はなく、戯れるクリウィムバアニーのメンバーをコンタクト・ゴンゾのメンバーが抱きか抱えたり台車に載せて連れ去っていくパフォーマンスで、動物の世界を通じて社会を風刺しているように感じられました。

コンセプトは面白かったのですが、全体的にバタバタ感があり、狙っていたであろう水準に達していない印象を受けました。

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